裁判は、真の意味で始まった。
━━━━【審問開始】━━━━
キレイが、語り始める。
「では、陳述を始めるとしよう。まず、人類の罪から。これはこの島の現状を見ても明らかだ。魔女は、人間とは異なる種族ではあるが、住んでいた者たちとその文化は、確かに存在した。
ならば、彼女らには生きる権利が与えられて然るべきであり、それを奪った人類には、罪がある。そして、魔女唯一の生き残りである彼女には、刑を求める正当性がある」
それは紛れもない事実であり、そして陳述であるからこそ、反論するべきでもない。そこで一旦、話をキレイは切った。
「では原告、月代ユキ。そのような人類に対して、どのような刑を求めるのか」
ユキは、語る。
「そうですね、先ほど語られた通りです。魔女と人間は同じ権利を有しています。生きる権利を奪われ、魔女たちが滅んだのであれば、人類にも同じく、生きる権利を奪い、滅んでもらう。
━━【人類の絶滅】を、求刑します」
>どうやって絶滅させる?
「【人類の絶滅】......それはどうやって行うつもりなのかな。方法はいろいろ考えられるが、まさか1人ずつ殺すわけではないだろう」
ユキは頷き、答えた。
「ええ。それではさすがに時間がかかりすぎてしまいますから......すでにその手筈は、世界に蔓延させて終わらせています。【魔女因子】を」
ユキは語る。
人間たちには、すでに疫病のように魔女因子が浸透しきっている。ユキから人へ、人から人、親から子へと。すでに全人類、ほぼ全ての人に必要な量が行き渡っている。
今なら、世界中の人間に潜む魔女因子を暴走させ、魔女化させ、自分たちが妄想の中に作り上げた、不老不死の化け物、【魔女】へとなれはて絶望する。
そのような終末が起こるのだと、まるで明日の天気を言うように、しれっと言ってのけた。そのように殺し、絶滅させると。しかし、それにも違和感があった。
>魔女は死なない
「......待った、それはおかしい。【魔女】とは死なないものだ。不老不死なのに死ぬというのは、どういうことなのかな」
それには、まずキレイが答える。
「【魔女を殺す魔法】。既に知っているはずだが?」
即座に返された。思わず歯噛みする。自身の魔法の名前が出て、エマも反応した。その後にユキが説明を行う。
「端的な説明ありがとうございます、キレイ。魔女の不死性は、大魔女である私の因子を埋め込んだことによる副作用なんです。それは魔女化が進んで初めて発現するもの」
だからこそ脆弱性があると、ユキは言った。
「【魔女を殺す魔法】の説明をしましょう。それは、魔女因子によってもたらされる不死性を逆転させ、肉体を自死に誘導する魔法です。なる・ならないに関わらず、全ての人類は魔女因子を暴走させられ、【魔女を殺す魔法】で殺処分されるのです」
エマの持つその魔法。エマはユキによって、人類滅亡の片棒を担がされたことを改めて理解した。
「......この国の政府は【魔女】を殺すために同じ作用を持つ薬を開発して、とある宗教は」
そうしてキレイを見た。
「【なれはて】を主の元へと送り届けるべく、【なれはて】の肉体と魔女因子を粒子にまで分散させる【魔法】を開発した」
ユキは頷き、続ける。
「しかし彼らはまだ、魔女因子の対策までには至っていません。しかし、私の関与しない【魔法】すら作られた。放っておいて対策をされないとも限りませんからね。やはり人間は、そろそろ滅ぼさないといけないんです。だからどうか......理解してくださいね」
キレイの発言は、正しい。代理人の名の通り、ユキの正当性を主張している。魔女たちは生きる権利を踏み躙られた存在であり、だからこそ残った大魔女であるユキの正当性が、絶対的なもので存在する。
いくら反論したところで、その意思を曲げることはできないだろう。ユキは語り始める。少女たちは各々反論するが、全て散らされた。
それは、魔女化から解かれた私たちも例外ではなく、微小にだが魔女因子は残っているため、魔女化させることは可能。そして全員が揃って死ぬことになるのだと。
不安そうに、少女たちが話し始めた。
「......メルルくん!キミは彼女と付き合いが長いんだろう!何か妙案はないかな!」
レイアがメルルに対して、案を聞いた。
「そ、そんなこと言われても......ではみなさん、ここは1つ大人しく諦めて大魔女様に殺されるというにはいかがでしょう......!」
まるで当然だと言うかのようにメルルが言った。
「こいつの意見を聞く方が間違っているな」
アンアンは呆れるが、続けてノアが言う。
「でも......どうにかしないとのあたちも死んじゃうんだよね?」
ナノカが顎に手を当てて、思案する。
「......戦うためには、武器が必要ね。悪しき妖魔を撃ち抜く━━“銀の弾丸”が」
>【魔女を殺す魔法】
私たちの魔法の中で一番、大魔女に対して有効的な手段になりえる魔法。武器となり得るものは、これしかなかった。私は彼女に語りかける。
「━━エマ」
彼女に呼びかけた。彼女はそれに躊躇していたが、君が武器で、犯人が私になると、ユキを殺さなければ、何も残らないと説得し続けた。死に戻りの魔法を私が一番死んでもいい。彼女たちを救うと決意したのだから、ユキに立ち向かうのは、私でなければならない。
そこに声を上げる者がいた。
レイアに、ノア。ふたりが声をあげて、共に大魔女と戦ってくれると言ってくれた。そして最後にエマも、自分が大魔女を止めると、決意してくれた。話し合い、ユキに対峙する。余裕の表情は崩れない。
「死を受け入れる覚悟はできましたか?」
私は首を横に振る。
「......いいや。私は最後まで抵抗する。君の好きには、させない」
そうして私たちと、ユキの戦いが始まる。
━━ことはなかった。
「【ストップ】。そこまでです」
【洗脳】の魔法。体が動かない。
「抵抗は無駄です。【諦めてください】」
魔女因子は少女と適合し、与えた因子が【魔法】となった。今彼女に還元されたその魔女因子は、魔法として内部に存在している。
私は歯噛みする。勝てない、そう理解したからだ。
「さあ、私の言う事を聞いてください。すでに十分議論は尽くしましたし、もういいですよね?みんな等しく......死に絶えましょう」
それに、待ったをかける者がいた。
「━━ユキちゃん、待って!」
「......エマ」
ユキはエマの方を向き直る。エマは語る。
「......どうして。どうしてユキちゃんは、ボクたちと一緒にいてくれたの?ボクは特別なものも持っていない、普通の人間なのに......キミはずっと仲良くしてくれた」
エマは、自身の思いの丈を叫んだ。
「キミにとっては短い間だったかもしれないけど......ボクは嬉しかった!楽しかった!だから......知りたいんだ。どうしてボクと友だちになってくれたのかを」
ユキは沈黙し、言った。
「......どうしてだと思いますか?」
エマは首を横に首を振る。
「わかんないよ。だから......ユキちゃんに聞いてるんだ」
ユキは、答えた。残酷に
「......簡単なことですよ。あなたを、人を殺す道具にするためです」
ユキは語り始める。
エマも、魔女因子を浸透させてきた人々の1人。他の人間たちもエマも同じで、魔女因子を蒔くためだけの媒体。自身の復讐の被害者になってもらい、魔女因子という悪意を広める【共犯者】となってもらうべく、利用したに過ぎないと。
ユキは、言った。
「よくできましたね、エマ。他の人と仲良く一緒に死ねますよ」
エマは酷くショックを受けながらも、叫んだ。
「ユキちゃん......!ボクは、キミを......!」
ユキは、エマに語りかける。
「私を殺すつもりですか?【魔女を殺す魔法】で」
そこに、キレイが語る。
「私が死んだ時の事を、思い出してみるといい。あの時は、【魔女を殺す魔法】が発動した後だったね。あの時は私に対して魔法が使われていなかったにも関わらず、私は死んだ。つまりは、だ。魔女を殺す魔法は無差別であり、波紋のように、広がっていく。君の魔法は、人類絶滅の、最後の引き金だ」
ユキは頷いた。
「その通り。私の存在は、この計画にもう必要なくなっているんです。あとは【魔女を殺す魔法】を発動するだけ。その鍵が、エマ。あなたなんです。起動してしまえば最後、最後の1人に宿った魔女因子を暴走させるまで魔法は発動し続ける。残るのは、人間だったものの死体のみ」
「そん......な......」
エマの発言から、少女たちはそれぞれ騒然とした。
キレイはそれに追記する。
「そうなれば人類の絶滅は決定する。
私は既に【魔女】ではなく、あのような【奇跡】は起こすことができない。
━━それにしても、随分と親切なのだね、大魔女。黙っておけば、勝手に引き金は引かれただろうに。自身の選択により絶望する様は、中々に良いものだと思ったのだが」
ユキは少し黙って、笑って答える。
「......エマには、自分の意思で選んで貰いたいですからね。同じ人間の意思によって滅ぼされる。それこそが最も、人類に対する罰となるのですから。私は、エマの手による人間の虐殺が見たいんです」
「......なるほど。そう言うことにしておこう」
その後に、ユキはエマに対して言った。
「......もしエマが、どうしても私に殺して欲しいというのであれば、代わりに私が発動しましょうか?」
エマは息を呑むが、ユキは続けた。
「エマの手による人間たちの虐殺が見られなくなるのは少し残念ですが、せめて選ぶ自由くらいは与えてあげましょう」
ユキは、選択肢を投げかけた。
「......さあ、どうしますか?このまま何もせず、私に殺されるか。エマが私ごと、人類を滅ぼすか。私はどちらでもいいですよ?」
エマは、頭を抱える。
「そんなの......選べるわけ......」
悩むエマをよそに、もう一つ選択肢を追加した。
「ああ......そうそう、もう1つ。【エマを殺す】という選択肢も用意してあげましょう」
私は、思わず息を呑んだ。ユキは言った。
エマを殺せば次の、魔女を殺す魔法を持つ魔女が出てくるまで人類は滅びない。エマを自分たちの手で殺すなら、魔法を使わないと約束すると。ほんの少しは、人類の延命になるかもしれないと言った。
「(ダメだ、そんなこと......)」
エマを殺すなんてできない。だが、人類の未来のためには、それしかないのかとも、思ってしまった。みんなを救うと言った。その約束を守るには、エマを犠牲にするしかない。
私は、選択するしかない━━。
・殺す。
・殺せない。
私は、私の、選択は━━。
「(......だから、私は......)」
その選択を、言葉にしようとした時。
「......ちょっと待った!!」
エマが、異議を唱えた。
「......エマ......?」
エマは、語り始める。
「ちょっと待って、ユキちゃん。キミの言う事は......
何か、【おかしい】気がする」
ユキは眉を顰める。
「............おかしい?」
エマは頷いて、言った。
「......上手く言えないけど。違和感があるんだ、ユキちゃんの言葉には」
ユキは、それを一蹴した。
「......気のせいですよ、エマ。お話がここまでです。そして、裁判ごっこもこれでおしまい。だから━━」
『━━それでも、【お話を続けましょう】』
ユキの声が、横からした。
それは、マーゴだった。
「『お互いに納得いくまで、話し合いを続けませんか?』......だってあなたにとって、人類の抹殺は長年の悲願の達成なんでしょう?なら、もう少し楽しみましょう?せっかくの1度きりのパーティ。盛大に盛り上げないと損じゃないかしら?
それとも......私たちが、怖い?」
他の少女たち、ナノカも続いた。
「どうせ変わらないというのなら......少しくらい、私たちに付き合ってくれてもいいんじゃないかしら?10分、1時間でも、あなたの準備した長さに比べたら、ほんのわずかなものでしょう?」
2人は、ユキを挑発している。最後に、アンアンがこう叫んだ。
「わがはいたちの言葉に反論がないのであれば......【続けるのだ】!この審理を......!」
ユキは、肩をすくめて、言った。
「......本当に、愚かな人たちです。とっても素敵ですね。そのありもしない希望に縋る、滑稽な姿は。
......いいですよ。少しだけ、お付き合いしますね。あなたたちが絶望に祈る時間が、増えるだけですが......」
━━━━━
【幕間】
その流れを見ていた私の横に、いつの間にかキレイが立っていた。
「良かったよ。桜羽エマを殺すことにならずに。いや、残念と言うべきか。これまた悩ましいところだ」
キレイを睨む。
「......なんだ、キレイ。急に話しかけて」
キレイはなんでもない顔で、私に言った。
「ああ。あの問いについてだが。桜羽エマを殺す選択をした時点で、大魔女は【魔女を殺す魔法】を使っただろうと言う事だ」
「......なっ!?」
思わぬ発言を聞き、目を見開いた。
「大魔女は試したのだよ。自分たちのためであれば、同じ人間すら冷酷に切り捨てる存在かどうかを。それを見れば、彼女の中で正当性も、そして【躊躇う理由】も無くなるからね」
「(躊躇う理由......?)」
私が疑問に思う中、キレイは言った。
「桜羽エマに救われたね。後で感謝しておくといい。まあ、感謝する後があればの話だが」
キレイは自分の席に、戻って行った。
こうして、裁判は続いていく。私は彼女に論で勝てずに、次にエマが、挑んだ。私は今は、見守ろう。