愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

94 / 96
人類断罪法廷【弁論/判決】

「(ユキちゃんも、ボクたちと同じ。なら、今まで通り矛盾を突いて、そこから切り崩すんだ!)」

ユキちゃんが語り始める話をボクは、しっかりと聞いていた。ユキちゃんの嘘を、本音を、聞き逃さないために。

 

━━━━【審問開始】━━━━

 

「......たとえ、島のみんなが望んでいなかったとしても。私は私のために復讐を行います。私から全てを奪った人間は、滅ぼされなくてはいけないんです」

ユキちゃんのその言葉には、嘘はない。きっと今でも、それについては怒ってる。

 

ユキちゃんは、続ける。

「人間は愚かです。よって、だれ1人として、救うべきものなどおりません」

「......本当に、そうかね?」

キレイちゃんは、ユキちゃんに語りかける。

 

「だれ1人として......その言葉に、偽りは?」

ユキちゃんは、黙ってから答えた。

「ええ。私は、古い魔女たちとは違います。“昔からわかって”いました。人間は愚かだと......信じる価値などないのだと」

>人間を信じていた。

 

「(見つけた......!ユキちゃんの嘘......!)」

ボクは、ユキちゃんに向いて叫ぶ。

「それは嘘だよ、ユキちゃん!ボクたち人間は愚かじゃない......とは言い切れないかもしれないけど。けれどキミだって......」

>【家族】

 

「......メルルちゃんを、信じていたはずだよ」

メルルちゃんは目を開いて、こちらに向く。

「......私、ですか?」

 

ボクは頷いた。

「メルルちゃんは、元々は魔法の使えない普通の人間だった......それをユキちゃんが拾って育てたって、メルルちゃんは言ってたよね?」

メルルちゃんは、恐る恐る頷いた。

「そ、そうです......でも━━」

 

そこでヒロちゃんが口を挟む。

「メルルは実験体にされていた。ユキに魔女因子を埋め込まれ、人間を滅ぼすために利用された━━【可能性】がある」

そこに、キレイちゃんが続けた。

 

「私としては、情はあったのだと思う。なければ実験体に【家族】とは言わない。少なくとも、氷上メルルはそこに【愛】を感じていただろう。だからこそ彼女は、繋がりを失うことに、深く悲しんだ」

ボクは改めてまとめる。

 

「ユキちゃんの言ってたことと、事実は食い違ってる。家族と呼んで、愛していたはずだよ。人間である、メルルちゃんを!!」

 

そこに賛成したのは、メルルちゃんだった。

「......そ、そうです......大魔女様は......言ってくださいました。私のことを、【家族】だと!あれは、嘘だったんですか......?」

メルルちゃんは、必死に涙を堪えながらも、ユキちゃんに対して、自身の想いを告げた。

 

「それなら......そうと、おっしゃってください。あなたがお消えになってから......ずっと、ずっとあなたのことをお探ししていました。でもそれが、私の勝手な勘違いであったなら......私は、そのときこそ安らかに終われると思うんです」

 

ぽろぽろと、メルルちゃんの目からは涙が零れ落ちていく。その流している涙は、色々な感情がごちゃ混ぜになっているようにも見えた。

「だから......お願いします、大魔女様。私は、幸せな思い出を抱えたまま......終わります。ですから、他の誰でもない、あなたの手で......私に終止符を打ってください」

 

......薄らとだけど、ボクにもあった記憶。きっとメルルちゃんは、全部ある。だからこそ、涙を流しながらでも......笑ってる。

ユキちゃんは、長く、長く黙った。メルルちゃんから目を離さずに、そしてユキちゃんは、小さく歯噛みしたように、それで......確かに言った。

 

「......嫌です」

「......!」

メルルちゃんの目が、大きく見開かれた。そしてヒロちゃんはユキちゃんに対して聞いた。

 

「それは......どうしてかな。君の計画は全ての人間を殺すものだ。メルルもその対象だったはず......なのに━━彼女の気持ちを踏み躙れない。そんなことを言うのかい」

ユキちゃんは、長い沈黙の後、苦しげに答えた。

 

「............そう、そうです。メルル......は......例外です。人間じゃ......ない、【魔女】なんですから......」

ユキちゃんの心に、小さな亀裂が入った......それはまだ小さなものなのかも知れない。でも今なら、ユキちゃんに、言葉が届くかも知れない。横で、キレイちゃんが語りかけて来た。

 

「言った通りだろう。私がいなくとも君は、そして君たちは答えに辿り着いた。そのまま進むがいい。君の進んでいる道は、正しい」

背中を押されて、ユキちゃんに向かい合った。

 

「......ユキちゃん。あらためて聞かせてもらうよ......!━━キミの意思を!!」

 

━━━━━

(キレイ視点)

 

キレイは、ただ静観していた。少女たちのそれぞれの説得を、そしてそれが大魔女の心に届く様を見届けていた。

「(それにしても、厄介な相手だった)」

キレイはそう思った。あくまで勝てたのは氷上メルルと、そして友人である2人......二階堂ヒロと桜羽エマがいたことだ。それがなければ【洗脳】は効かずに、既に死んでいた。

 

「(戦闘面でいえば、この場の誰よりも彼女は強い。私の身が魔女であった所で、勝てなかっただろう)」

あらゆる魔法を使いこなす大魔女。キレイがあの時、エマに勝てたのは【魔女を殺す魔法】以外の攻撃手段を得ていなかったから。

 

この場にいる少女たちの魔法どころか、他の魔法すら使うことができるその気になれば大魔女は、全員を一蹴できる。だからこそ、今の状況が【奇跡】とも呼べる。

少女たちは力ではなく、想いと言葉で渡り合い、こうして大魔女の心を溶かしていった。戦いですらない、ただの言葉として。

 

そして今、少女たち。そしてエマとヒロの言葉が......灰となっていた復讐心に、新しい形を生み出した。目の前の大魔女.......いや、1人の少女は、心から笑っていた。嫌っていた人間を、周りの少女を見て、【強い】とも称した。そして、エマに感謝を述べたのだ。

 

キレイは考える。少女たちの言う、新しいやり直すと言う形を。一緒に帰ろうと言う、エマの言葉を。それは不可能だった。それを政府が許すはずがない。許せるはずがない。危険分子として、全力を以て消滅させるだろう。彼女は、いや......【魔女】は、この世に望まれぬ存在だ。

 

復讐心と言う薪は全て焚べられ、残ったものは空虚な灰。そこに水をやり、種を植えた2人は、孤独な少女に、友情という花を咲かした。しかし目の前の少女は、気がついていた。自身やエマたちの存在を、世界が見逃すはずがないのだと。

 

ユキは言った。全ての魔女因子を無害な形に変えて、持っていくと。目の前の少女......エマは、差し伸べた手を下さなかった。ようやく会えた友を、彼女は今度は見捨てたくなかったのだろう。それをヒロは、腕を掴んでも懸命に止める。エマは叫んで、抵抗していた。一緒に帰ると言う、わがままを。

 

止めていたヒロも、泣いていた。彼女もまた、大切な友を失うことになるのだから。それでも彼女は、目の前の少女の決意を汲んで、耐えていた。だからこそ、エマは抵抗を、やめた。

 

キレイは、考える。自らのこの、常に死者の無念を晴らすべく戦うという誓いを。そして、その死者は、目の前の少女の幸せを何よりも願っていた。しかし、彼女は忌避される存在。どこにいても、生きられる場所はないだろう。

 

「(であれば、私だけはそれを祝福しよう。......何、少女たちは業を積み重ねた。そのぶん、現世利益は必要だ)」

それは、本当にただの気まぐれ......だったのかも知れないが、キレイはユキの元へと歩み寄った。

 

━━━━━

(エマ視点)

 

ヒロちゃんの叫びの後に、儀礼の剣が浮かび上がる。けれども、それ以上に......静観してたキレイちゃんが、歩み寄ってきた。

「キレイ......ちゃん?」

「何を......!」

 

キレイちゃんはただ、ユキちゃんの前に立った。

「......なんでしょうか」

怪訝そうな瞳で、キレイちゃんを見る。その瞳にもまったく意に返さず、キレイちゃんは語りかけた。

 

「死にゆく者がいる。それがたとえ、どのような者であろうとも......導くのが、聖職者としての私の役目だ」

そう言ってキレイちゃんは、ユキちゃんに対して囁いた。その言葉は、ボクたちには聞こえない小さな声で、でもユキちゃんはそれに、目を見開いた。

 

しばらく沈黙して、ユキちゃんはキレイちゃんを見上げた。そしてその、少し光の灯った瞳を見て......ふっと笑った。

「......良いでしょう。それに乗ってあげますよ。あなたのその企みに......【━━━】」

聞き取れなかった。けれどどちらもまるで悪巧みを考えるような笑みで。その後キレイちゃんは、去っていった。

 

ユキちゃんの側には、浮かび上がる儀礼剣。

「......私が、魔女因子を全て引き取ります。大魔女も、魔女因子の呪いも......この世から消え去る。あなたたちに手を出す理由がなくなる」

 

刃が鈍い光を放ちながら宙を舞い、柄の部分が見えない手に操られるよう、ゆっくりと回転した。その剣がユキちゃんに向けられた瞬間━━剣の形が、紅い槍に変わって、ユキちゃんが、儚く笑った。

 

「処刑されるべきは人間ではなく......長い年月を復讐心に囚われ、化け物と化した━━悪い【魔女】の方だったのかも、しれません。だから......さようなら」

「━━ユキちゃん!!」

 

鋭い音と共に、槍がユキちゃんへと一直線に飛んでいく。貫かれたのは、2人。ユキちゃんと......メルルちゃん。

「......ああ」

ユキちゃんがごぽりと、口から血を漏らす。槍の間に、メルルちゃんが飛び込んできて、2人は抱き合うように、串刺しになっている。

 

「......メルル、どうして......」

メルルちゃんは既に、不死の力を失っていた。けれどもその少女は、幸せそうに笑う。

「......私は、大魔女様のいる場所であれば......地獄の果てまで、お付き合いします......最後も、一緒がいいんです」

 

ユキちゃんはその言葉に、ゆっくりと笑った。

「......メルル」

力ないその小さな手で、ゆっくりと頭を撫でた。

 

「......ええ......あなたも、一緒に。......メルル......ずっと言う機会を.......逃していたことがあります......」

苦しげに、これだけは伝えなきゃと必死に......ユキちゃんは言葉を紡いでいく。

「こんなことに付き合わせて......ごめんなさい」

 

不意に、2人の体が淡い輝きに包まれていく。それは悠久の時を生きてきた彼女たちを昇華していくような柔らかな光で。光は徐々に広がって、彼女たちを包み込んでいく。

メルルちゃんは、感極まった声で言った。

 

「......嬉しい。そのひと言で......十分です......」

「メルル......こんなに苦労......させてしまったのに......よく......できましたね」

最後のひと粒が━━ふわりと消えた。ユキちゃんは最後に、何かを呟いていた。......聞こえなかったけれど、確かに伝わった。

 

【また、会いましょう】

確かに、ユキちゃんはそう言っていた。

......こうして、最後の魔女裁判......人類の存続を決めた裁判の判決は......魔女の処刑ということで、幕を下ろした。ボクたちの心に、深い爪痕を残しながら。





判決は下され、少女は1人罪を背負い......【家族】と共に、永い永い、一生を終えた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。