これはとある少女の記録と、その少女が牢屋敷をでた後の記録である。
【魔女因子緊急調査対象報告書】
『調査対象:言峰キレイ』
・Q:教会での様子はどうでしたか。
・A:回答者【同じ教会のシスター】
「聖職者として何より模範的な人です。周りの気配りもできて、それでいて知識もあって。あの人に相談しに来る人もいて、皆に慕われていて......私もあの人のようなシスターを目指したいと思っています」
・Q:普段の様子はどうでしたか
・A:回答者【中華料理店の店主】
「月に一度やってきて、ワタシの料理を食べに来るアル。ワタシの料理の真髄を理解している“分かっている”側の存在アル。ああも美味しそうに食べてくれると作り甲斐があるアルネ」
・Q:結婚式で彼女が執り行ったそうですね
・A:回答者【教会で式を挙げた夫婦】
「はい、最初は大丈夫かなって思ったんですけど、その不安が消し飛ぶくらい素晴らしい式でした。改めて、妻のことを大切だと、一生そばにいようと誓いました」
「あの結婚式は一生の思い出です。もうすぐで結婚してから1年になるので、夫と一緒にあの教会に行こうと思います。今もこうして幸せですって」
・Q:一番近くでいて変わった様子━━
・A:回答者【父】
「前に文書で送った通りだ。戻ってこれだけ伝えてほしい。輸送の準備をお願いする。既に確認は済んだと。それだけでいい」
※その後、口一つ開かなかった。
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【だんだん不穏になる魔法少女:言峰キレイ】
Q1.好きなこと・ものは?
「辛味だね。様々な嗜好品を試してきたが、あれほど心が踊るものはなかった。特にあの店の麻婆豆腐と出会えたことは、運命と呼べるものだ。後は、神の血を良く嗜んでいるよ」
Q2.趣味は?
「趣味と言えるかは不明ではあるが、毎日の鍛錬は欠かさずに行なっている。他には......強いて言えば、人の話を聞くことになるかね。人の悩みを解決するのは、シスターとしての勤めでもあるが」
Q3.長所や特技は?
「特にないね。人より突出した部分が、私には存在しない。人の数倍努力して、才のある存在に追いつけるくらいだ。.....かろうじて挙げるならば、人の傷を探ることだろうか」
Q4.生まれ変わったら何になる?
「......私にそれを聞くのかね。私は生まれ変わらないよ、死後は神の元で裁かれる。...ただ、もし生まれ変われるのならば。
━━━今度こそ、人として生まれたいものだ」
Q5.最近感動したことは?
「そうだね。以前とある男女の結婚を祝福したことがあるのだが、互いに幸せそうにしていたことが、私には印象深い。......私には、与えることができなかったことだからね」
Q6.将来の夢は?
「そうだね、父のような厳粛な聖職者となりたい。それは元より変わらないものだ。そうでなくてはならない、そうでなくては、私は私を認められない。
......質問はこれで十分かね?では、そのように」
※質問を打ち切られたため終了。
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これは、牢屋敷から出た後の話。戻ってからの職務は忙しくもなく、以前出会った夫婦と再会し、たわいもない雑談をしたり、麻婆豆腐を食べに店に通い、いつものように外に出たり、悩みを聞いたり、病院で検査して健康だと判断されたり、以前とあまり変わらない生活を送っていた。
ある日のこと、キレイの元にある人物が訪ねてきた。
「すみません、言峰キレイさんという方がいると伺ったのですが......どちらにいらっしゃいますか?」
「それは私だ。ひとまず、奥の方へ。茶でも淹れよう」
訪ねてきた相手は、白い髪をした30代後半の女性だった。どこか疲れ切ったような、思い詰めたような顔をしている。茶を淹れた綺礼は、対面に座り、話を切り出した。
「それで、わざわざ私を訪ねた理由は何かね」
目の前の女性は、お茶を飲んで、語り出した。
「......私には、妹がいるんです。とってもいい子で、旦那さんを得て幸せそうにしていたんです。━━━あの時までは」
疲れ切った目に、憎しみの色が浮かんでいた。
「その二人の間に、子供が産まれて......話せるようになってから様子が変になったんです。最初は気のせいかなって、放置して......でも気がついたら、家は物だらけになって、私の言葉も届かないようになって、妹の旦那さんまで同じように......!」
「一度、落ち着くように。結局、私にどうして欲しい。その憎悪の炎に向き合って欲しいというのであればそのようにするが、違うのだろう?」
話を切った。憎しみに囚われたままでは、相手との話に支障が出る。だからこそ、目的は別だろうと問いかけた。すると、ハッとした様子で、今度は真剣な目を向けた。
「......お願いは、一つです。妹とその旦那さんのことを、元に戻して欲しいんです」
キレイは、続けて聞いた。
「私はシスターだ。そういった話はカウンセラーにするべきだと思われるが、その様子だと、既に試してダメだったね?」
女性はこくりと、頷いた。
「......はい、色んなカウンセラーの人に頼んだんです。でもどの人も『手の施しようがない』『どの症例にも当てはまらない』って、諦めてしまって......藁にも縋る思いで、こうしてあなたに頼んでいるんです」
声を震わせながらも、女性は言葉を続けた。
「どうしても、元に戻って欲しくて......噂で『どんな悩みや不安も自分の心内を見透かされて、綺麗に解決してくれるシスターさん』がいるって......お願いです、どうか......どうか、妹を......!」
目の前の女性は涙を流して、そう懇願した。既に限界に近い、介護疲れのようなものだろう。よく見れば、やつれて見えた。
「......もう一度言う。私はシスター、人に寄り添うことはしても、カウンセラーの真似事は専門外だ。ただし、できることは、やらせてもらおう。シスターとしてではなく、個人として。━━━人として、当然のことをするまでだ」
こうしてキレイは、その女性と共に、その夫婦の住む家に向かって行った。
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そうして電車に乗り、たどり着いた先にあったのはある一軒家。他と違い、一階も二階も窓はカーテンが締め切られており、中は見えない。庭の草が生い茂っており、手が行き届いていない。日常的に手入れする者がいない印象を見せる。
「......ここです、今扉を開けますね。今帰ったよー......!開けるねー.....!」
女性がそう言って、鍵を開ける間も、キレイは、その家の表札に目を奪われていた。偶然にしては、関わり深い名前がそこにはあったから。
「(......これもまた、神か、【魔女】の思し召しか)」
中に入ると、これまた酷い有様だった。締め切られていて空気が澱んでいる家の中には、玄関から廊下にかけて、足の踏み場もない。ゴミだらけと言うよりも、買ってから置ける場所においたと言うような無造作っぷりだった。
その物はどれもが小さな女の子が欲しいと言うようなものばかりで、酷いものでクマの巨大なぬいぐるみなんてものもあった。どれもこれもが埃を被っていて、掃除された様子が見当たらない。
「......こっちです。二人は、いつもここに」
そうして入ったリビングは、これまた酷いものだった。
そこは子供の誕生日を祝う、子煩悩な両親としての飾り付けが、太陽に翳せば輝く飾りが、テーブルクロスが、どれもこれもが、色褪せていた。年月からみて、5年は経っているだろうか。
「......お姉ちゃんが来たよ。ねえ、今日くらいは、話してよ。お客さんも今日は来たんだよ?」
反応はない。いや、違う、そもそもこちらを意識していない。どちらもただ、ある人物のことを呟き続けている。
━━━アンちゃんの為に、アンアンの為に、10歳の誕生日を祝う、忘れられない誕生日を、と。
「......またあの子の話。あの子はもう━━━!!」
怒りのあまり叫ぼうとした女性のことを手で制した。そのまま、キレイは言った。
「......そうだね。後は自分に任せてもらおう。その間、この店にでも行って落ち着くといい。帰ってくる頃には、良い知らせを知らせられると良いが」
自身のお気に入りの店のレシートを手渡して、女性を外に出した。ここにいるのは、キレイと━━━夏目アンアンの両親だけだ。
「......【魔女の残滓】。魔女因子が失われていくとはいえ、魔法自体の影響はその場に留まり続ける、か」
そう呟いて、ひとりごとを言った。
「子の不始末は親の責任、未だ産まれていないとはいえ。私が親なのだから。その全ての責任は私が背負っている」
キレイは、そういうと、手を広げ、笑みを浮かべてこう宣言した。
「では━━━その閉ざされた心を切開しよう」
【洗脳】により作り出された内海に閉じ込められた心を探るという、難題を、キレイは明かそうとしていた。
魔女因子が消えたとしても、その影響まで消えることはない。
【魔女の残滓】は、大魔女亡き今も残り続ける。