1話の4パート目です。
全部合わせると2万文字弱らしいので、まあまあ、長いみたいですね。
お付き合いいただき、感謝感激です。
はい、ライダー戦います。
「さあ、楽しませてやるよ!」
姿を大きく変えた男が──いやミシュラが、相変わらず言葉の節々に余裕を感じさせる快活さで吠えた。
ミシュラが手を開くと、
”ナマスブレイザー”
分厚い刀身を持つ鉈型の武器だ。ご丁寧に自己紹介した得物をしっかり握りしめ、ミシュラは目にも止まらない速度で駆ける。
赤い風を引き連れて、ガイラーシュの脚を掬い上げると、上昇気流のように自身も飛び上がり上空を取る。
「お返し!」
飛び上がる際に右に捻った上半身を解放して、薙ぎ払うように二連打。伸びきった腕が戻る反動で一太刀、二太刀と。身動きがしづらい空中で、振り子のように何度も力を反復させ、再利用する連続攻撃。
先の意趣返しと言って憚らないミシュラの急襲を、怪人も無理な姿勢で対応する。ひなたが見下ろす中、鉈と腕ヒレが宙で交錯し、火花を散らした。
そのどれもが、ガイラーシュの腕ヒレを包むコンクリ装甲に喰いつくことはない。即、ミシュラが蹴りを入れたことで両者の距離は離れ、互いに幾度か、宙返りをしながら着地した。
段取りが為された寸劇かと見間違えるほど、二人は綺麗に打ち合った。それは二人の力量や技量が、やっと同じラインに立ったのではと思わせてしまう。
男はどう思っているのだろう。
彼の仮面の下──何かを装着していると仮定するなら──は窺い知れない。口元から吹き出た呼気が、夕涼みの空気と絡まって白く凝結する。
ミシュラの切り替えは早かった。
逡巡の間もなく、両手を前に突き出して双剣の刃を交差させると、両の刃を擦りつけ合うように振るった。瞬間、ナマスブレイザーの刀身が燃え上がり、蜥蜴のように飛びかかるガイラーシュを迎え撃つ。
かの怪人が身に纏う無機物の装甲は、口で摂取した素材から形成されるものだ。ひなたはそのプロセスを目撃している。胴体を覆う軽鎧が、腕を覆うものよりも作りが綺麗だと見えるのは、その摂取量、準備の違いからか。
ひなたはミシュラの狙いを察する。
即興で
突き刺した剣の柄を捩じ込むように力を込めてやれば、剣先を中心として
「グギャッ!?」
腕部装甲が内部からの爆発で盛大に弾けた。怯むガイラーシュにミシュラは追い縋って、ダメ押しにと振り上げた左剣が、護るものを失った腕ヒレを潰した。
苦悶の雄叫びを上げる怪人に慈悲は見せず、残った腕部装甲も炎を纏う双剣で破壊した。
彼の戦い方は力押しではない。まず、魚の首を落とす前に鱗を剥ぎ取るように、道具を扱い、手法を変え、致命的な一撃を見舞う隙を組み立てていく。
「おらぁ!」
空気を焼き焦がす勢いで、今度は白と灰の軽鎧へ炎の双剣を振るう。
ガイラーシュは、鎧の剥げた腕を上げて防御の択を取った。ミシュラは鼻で笑い飛ばす。その防御に意味はあるのかと。
魚特有の虚ろな眼が渦巻く火焰を反射した時、その表情が笑ったように見えた。
「ウッ!」
ガツン! と、ナマスブレイザーの描く、炎の軌道が受け止め、叩き落とされる。
その理由は明白だった。
双剣の横っ面を叩いて見せたガイラーシュの腕は、白と灰の装甲で包まれていたからだ。
腕と剣が交錯する一瞬の間、軽鎧の一部が溶けて、腕へと流れこみ再凝固した。
つまり、彼の得物はガイラーシュの鎧に全くの無力であると証明された。
「そいつを攻略してみろ、か」
しかし、ミシュラの声に翳りは見えない。
炎を払った双剣を両方逆手に持ち替え、その柄頭を叩き合わせた。
──リィーン。
それは閑散とした堤防に響き渡る、澄み渡った音色。思い起こされるのは、ホテルの受付で聞いた呼び鈴の音だ。
鳴った音に呼応して、ぷあー、と間の抜けた返事が帰ってくる。ひなたの耳の横を抜けたのは、回転寿司チェーンでは広く普及した新幹線の模型。それをさらに模した、運搬機だ。
連結された皿の車輌に、ちょこんと載せられた、魚のオブジェを埋め込んだブロック。ミシュラは自身の元に来たそれを、ベルト上面のスロットに埋め込んだ。
”
中央の液晶モニターの中で、光で表現された魚が踊り、
”
レバーの操作でモニター内の魚が炎に巻かれ、ミシュラの手には、双剣の時と同様に逆再生で生成された釣り竿が握られた。釣り上げられてきた長身の魚が、竿に背筋を沿わすように張り付き、ひとつになる。
”サントクダチ!”
「受けて立つ」
策が一つ効かなくとも、その度、手を変え、品を変える。
恐らく、その軽鎧に対抗するための手札。魚が刀身を担う太刀をミシュラが構えた。
ふっくらと身をつける青白い腹が、沈みゆく太陽の淡い色彩を受けて鋭く輝く。今度は果敢に攻めるのではないと、ゆったりとした体捌きで近寄りながら、太刀の切っ先を向け牽制した。
ひなたはごくり、とつば飲み込んだ。
果たして、短い嘶きと共に動き出したのはガイラーシュ。腕を左半身の手前で十字に組むように構え、小指を巻き込むように拳を握りこむと、白と灰の腕甲から中指を挟むようにして真一文字の爪が二本伸びる。握りこぶし2つ分はリーチを補える長さで、ミシュラの太刀とも十分打ち合えると思わせる得物だ。
両手の殺気を光らせ、大股で近寄るガイラーシュ。敵との距離は一足一刀へ集束し。
剣閃と爪撃が弾けた。
ガイラーシュが突き込んだ左手の一撃を、ミシュラは刀身の腹を盾に点で受け、手首を返して弾き飛ばし、左肩に迫っていた右爪を防ぎに行く。
ただ受けに行くだけかと思わせ、左半身を守るように緩慢に添えられた太刀は、爪と触れ合う手前で途端にスピードを増して迫る爪をはたき落とす。
返す刀が、ガイラーシュの左腰を捉えた。軽鎧と太刀がぶつかり合い、火花が散る。
少し身体が揺れるだけで、ガイラーシュは表情をピクリとも変えない。軽いジャブのようなものなのだろう。
ミシュラは止まらず、振り切った太刀の切っ先を敵に向け、動き出したガイラーシュの左胸を突いた。
ザリ、と表面を舐めた音と、火花。また敵の身体がグラつく。構わず、左手に太刀を持ち替え、右から左へ、素早く同じ軌道を返して左から右へ。
2回、また火花が咲いて、散った。
ガイラーシュはご自慢の軽鎧ですべてを受け切って見せたが、「見栄張ったつもりだろうが、バレてんのよ」ミシュラが仮面の下でニヤリと笑う気配を見せたことで、ピタリと、動きを止めた。
「自慢の鎧剝いでまで、俺と打ち合うのを選んでなきゃ、少しは耐えたかな?」
バキ、とガイラーシュの軽鎧が限界を迎える音が響く。それぞれ、ミシュラのサントクダチが斬り込んだ箇所が、数秒遅れて傷となって浮かび上がった。それは瞬く間に全身へ、崩壊のひび割れとして波及して行く。
大きく刻み込まれた溝の奥、海溝から吹き出るマグマのように幻想的な光の飛沫が舞ったことで、ついにガイラーシュが大きくよろめいた。
「グ、オォゥ……」
失意に満ちた唸り声を上げながら回頭したガイラーシュは、なりふり構わずに背を向けた。ここまで痛手を負わされると思っても見なかったのだろう。
餌を求めるために人を惑わせ、甲斐甲斐しく世話した者さえも食らう生き汚さは、敵前逃亡を選択する図々しさまで備えているようだ。
「逃げるなんて、歯ごたえがないな」
勿論、ミシュラは見逃す素振りを見せない。サントクダチを地面に突き刺し、腰に帯刀したナマズブレイザーを片方、抜き放った。
何をするのか、検討もつかない。
「武器を自在に変化させる、こいつの力があれば……!」
ぶん、と振るわれた鉈がサントクダチの刀身を何度も撫でる。
そして、
「そこで、大人しくしてもらおうか!」
ミシュラが握りしめたサントクダチは揺らめくように動いた。
青白い魚の刀身が、輪切りされた断面を見せて解ける。バラけた身の間を骨のパーツが繋ぎ止めながら、獲物を見つけた蛇が首をもたげるように、まるで意思を持って踊り狂う。
太刀から蛇腹剣へ。
武器を改造せしめたミシュラは、その蛇腹剣を長年連れ添った相棒のように容易く扱ってみせ、ガイラーシュを拘束した。
絡まった鎖状の剣がギシギシと唸りを上げる。その手を引けば、中心に捉えた獲物を引きちぎってしまう両刃の檻。当然ミシュラはその手を、引いてやるのだ。
圧縮された破砕音が連鎖的に響き、ガイラーシュの軽鎧は粉々に砕け散った。
生まれたままの姿で倒れこむ敵を前に、ミシュラはベルトのハンドルに手を掛け、3回回す。
”
ベルトが激しく鳴き出したことで、ひなたでも察することができた。
敵が致命的な隙を晒したことを。ミシュラが絶対必殺の一撃を繰り出すことを。
ミシュラがレバーを押し下げる。
”
すると、ベルトの鬨の声に呼応して、怒りに燃えていたミシュラの6つの複眼が、今度は金色に置き換わっていく。
ドハツテン。その意味するところといえば、怒髪天──怒り狂った形相。この一撃に、慈悲はないのだろう。
肩を包んでいた三本一対の腕が花開き、背中に収まっていたオレンジ色の球体は、両手首を中心に集まり旋回。
諸手になり、腹の中から湧き上がってくるだろう力の渦が、全身に漲っていくのがありありと見える。
その姿は、阿修羅とさえ思わせるに至った。
「賜り致す」
古めかしい宣言で、ミシュラが動く。
振るった右腕が、ガイラーシュのすぐ横で巨大な右腕となって投影される。その一撃で大きく薙ぎ払われたガイラーシュは、下から山がつき上がったことで天高くへ弾き飛んだ。
それは巨大な左掌底。
ミシュラの腕の動作は、敵の近くで炸裂していた。
「はぁぁ……」
右に振り絞ったストレートが敵の後方で唸って、吹き飛ぶ軌道は真っ直ぐミシュラへと向かう。
「はあぁ!」
堕ち行く流星に、ミシュラは乾坤一擲の気迫と共に、ストレートで振り切った身体を再始動させ、時計回りの後ろ回し蹴りで迎える。
怒髪天にて滾った力が金色の光の奔流となって右足に集束し、天へと上る
ぶつかり合う
爆炎を背に受け、ミシュラは居住まいを正し、合掌した。
「ごちそうさま」
戦いは終わった。
爆発の残り火が止む頃には、ガイラーシュの姿も消え失せ、やっとひなたは安堵のため息をついたのだった。
「終わっ……た?」
まだ実感がない。きちんと口に出してみて、やっと終わったのだと、身体からジワジワと力が抜けていく感触がした。
ひなたがミシュラを見やると、彼は広げた手に何かを集めている最中だった。
爆炎の中、ひなたも気づかずに霧散していった光の粒を集めて、掌中で形を作り出していく。それは水色の水晶玉のようで、中では生物が丸まった状態で収められている。まるで琥珀だ。
ミシュラはそれを腹のコンロに近づけ、ねじ込んでやる。すると、ベルトの奥に位置するであろう炉の中に球体が入り込み、メラメラと呆気なく焼却されていった。
そこまでして、ようやくミシュラは男の姿へと戻る。
堤防を上がり、未だ興奮覚めやらないひなたを見下ろした。
やはり、慈愛を感じられる眼差しで。
ふと、男は背を向けてその場を去っていく。
ひなたはボーッと、その背中を眺めていることしかできなかった。
男の背が小さく背景に溶け込んでからやっと、ひなたは現実に引き戻された。
「みつき……見に行かなきゃ」
まだ震える足に力を込めた。
『暁、
ミシュラ
男が腰のベルト「クック de チャッカー」で変身した姿。
描写の端々にありますが、阿修羅や、鬼などがモチーフ。
基本武装「ナマスブレイザー」で、武器すらも調理するのが特徴。
必殺技を放つ際は「怒髪天タイム」に突入する必要がある。
残り3話、4話分(投稿される話数で言えば10~12話ほど)ミシュラは続きます。