「のう積怒、本当に残るのか?猫娘も言っておったが、あの吸血鬼が約束を守るとはわしも思えんのだが……」
応接室を後にした積怒と半天狗。二人は廊下を先導する咲夜の背中を追っていたが、胸中は苛立ちと不安にまみれていた。
積怒の着物の襟首に掴まりながら、半天狗が小刻みに震える声で囁く。
「良い加減腹を括れ。ここの連中が何かを仕掛けて来るなら、いつものようにわしらに任せて、お前は隠れていれば良い」
「そ、それはそうじゃが、しかしィ!」
「……当館でご滞在するにあたって、幾つか説明しておきたいことがございます」
前を歩く咲夜がこちらを振り返ることなく静かに言葉を紡ぐ。その声は平坦で、背後の卑屈な会話など初めから届いていなかったかのように淡々としていた。
「ここで一週間過ごされる間は一部の場所を除き、基本的に行動の制限は設けません」
「一部の場所?」
「お嬢様の私室や厨房等、立ち入りをご遠慮頂く場所がございます。それ以外であれば、館内のどこを歩き回ろうが結構です」
咲夜は片眉をひそめている積怒の疑問に対し、淀みのない態度で応じる。
「食事は朝食、昼食、夕食の3回。いずれも食堂の方でお嬢様とご一緒して頂くか、希望があれば客室の方に直接お届けすることも可能です。召し上がられる物が常人と著しく乖離しているようでしたら、そちらに関しても極力対応させて頂きますので、事前に仰ってください」
「わしらは普通の食物など口にせん。必要なのは人間の血肉だけじゃ」
積怒がそう告げると、咲夜の足が止まった。
振り返った彼女は考え込むように片手を顎に当て、積怒をじっと見つめる。その表情は決して恐怖や嫌悪に歪んだものではなく、実務的な戸惑いだった。
「人間の血肉……血であれば御用意出来ますが、後者に関しては少し難しいかもしれませんね。参考までに、地底ではどのように食事を摂っていたのかお伺いしても?」
「地底では猫娘が死体を用意していた。だからそれを食っていた、ただそれだけだ」
「なるほど、火車の方の融通でしたか」
無愛想な返答に咲夜は納得したように小さく頷く。お燐が死体を扱う火車であることは彼女も知っていたのだろう。そこに特段驚きの色はない。
「ですが、この地上において人間の死体を定期的、かつ合法的に調達するのは少々骨が折れます。博麗の巫女に目を付けられるようなことをすれば、最悪こちらが幻想郷から追放されかねませんので」
咲夜は再び前を向いて歩みを再開する。どうやら、あの吸血鬼ですら博麗の巫女の目を気にしながらここで生活しているらしい。
「お嬢様が嗜む程度の量ではありますが、ここには人間の血液が貯蔵されております。あなた方の口に合うかは分かりませんが、血に関してはそこから提供させて頂くことが可能です。肉に関しては、調整のために少しお時間を頂くことになるかと」
「用意出来るならなんでも良い、勝手にしろ」
自身の主人が吸血鬼ということもあってなのか、人間を捕食するという事実を突きつけられても咲夜は顔色一つ変えることはない。ただの偏食家の相手でもしているかのような事務的な対応は、どこまでも積怒の怒りを空回りさせた。
そうして歩いている内に、やがて紅魔館の地下、通路の突き当たりにある重扉の前に辿り着く。咲夜がそっと手を触れると、巨大な木製の扉は軋む音を立てて内側へと開かれた。
その瞬間に溢れ出してきたのは古びた紙と乾燥した羊皮紙の匂い。一歩足を踏み入れれば、天井が遠く上へと伸びる本棚の列が、積怒と半天狗を出迎える。
「な、なんじゃここは……本当に地下か?見渡すばかり本、本ばかりではないか……」
半天狗がその異様な光景に圧倒されて呟く。積怒も言葉にこそしなかったが、目の見開き様から半天狗と同様の心境であることは明白だった。
「ここでは特にお静かにお願いします。パチュリー様は騒々しい方を嫌いますから……と言っても、騒がしい先客はもうおられるようですが」
咲夜が小さくため息をつきながら歩みを進めると、本棚の群れのさらに奥、大図書館の中央だと思われる位置に置かれた円卓に、彼女らはいた。
ティーセットが並ぶテーブルの上座には、ナイトキャップを被り、淡い紫色の衣装を纏った少女が腰掛けている。パチュリー・ノーレッジだ。
彼女は半天狗の来訪に視線すら向けず、手元の魔導書のページを捲っている。
そして咲夜の言葉通り、そこには場に不釣り合いな「騒がしい先客」と、それを戒めているもう一人の姿があった。
「なあパチュリー。この記述はどういう意味だ? 魔力の集束率を上げるには、こっちの術式を組み込んだ方が早いんじゃないか?」
「魔理沙、少しは静かにしなさい。本を読む場所で大声を出すものじゃないわ。それに、あなたのその大雑把な解釈じゃ魔法の本質が台無しよ」
三角帽子を乱暴に卓上へ置き、身を乗り出しているのは霧雨魔理沙。その隣で、人形を膝に抱えた金髪の魔法使い――アリス・マーガトロイドが、呆れたように紅茶のカップを傾けている。
「パチュリー様、お茶会の最中に失礼致します」
「……ん」
咲夜の呼び掛けに視線を持ち上げたパチュリーは、彼女が両手に持っている箱を見て用件を察したのか、手元の魔導書をパタンと閉じてはゆっくりと腰を浮かせた。
「ああ、ようやく届いたのね。待っていたわ」
それまで議論を交わしていた魔理沙とアリスも、咲夜と、その後ろに続く積怒と半天狗へ視線を転じる。
「お、誰かと思えば例の爺さんじゃないか。文のカメラをぶっ壊した時以来だな!元気だったか?」
「え、誰?魔理沙の知り合いなの?」
まるで積怒たちと旧知の仲であるかのように気安く手を振った魔理沙に対し、アリスが怪訝そうな表情を浮かべる。
その疑問に答えるように魔理沙はニッと笑い、人差し指を立て言葉を紡いだ。
「ほら、前に話しただろ?霊夢が地上で拾った外の世界の鬼だよ。私も会話らしい会話はしたことないから、知り合いと言って良いのかは微妙なところなんだが……ま、お互い顔は認知してるんだし、知り合いで良いだろ。多分」
「お前のことなど知らん!馴れ馴れしくわしに話しかけるな!」
積怒は魔理沙の能天気な挨拶を一蹴し、不快感を剥き出しにして錫杖を打ち鳴らす。
とても知り合いへの態度とは思えない拒絶に、アリスは肩をすくめ、呆れた表情を魔理沙の横顔に向けた。
「て、言ってるけど?」
「おいおいマジか。幾ら爺さんの分身だからって物忘れするには若すぎだぜ?それとも、若いのは側だけで、やっぱ中身はボケた爺さんってオチなのか?」
「やかましいッ!勝手にわしのことを地上の連中にペラペラ喋りおって、口が軽ければ頭も軽くなるようだな!」
「なんだよ、ちゃんと覚えてるんじゃないか。今言った言葉は訂正してやるぜ。悪かったな、爺さん」
「このッ……!」
魔理沙の飄々とした態度を積怒がねじ伏せようとした、まさにその時。やり取りを傍観していたパチュリーが、重いため息と共に口を開いた。
「魔理沙うるさい。そっちのあなたも、怒鳴り声を上げるのはやめて。ここは静穏であるべき場所なの。私の大図書館で騒音を撒き散らす真似は許さないわ。用が済んだのなら早く帰って」
「パチュリー様、そのことなのですが……お嬢様の急な思い付きでして、彼らには一週間当館の客人として滞在して頂くことになりました」
咲夜が困ったような、しかし仕方のないことだと割り切った様子で説明すると、円卓の魔法使い二人も同時に反応した。
「レミリアの奴、まーた妙なことを始めやがったな。こんな面倒ごとが服を着て歩いてるようなのを居座らせてどうするんだよ」
魔理沙が椅子の背もたれに体重を預け、面白がるように積怒を見る。アリスもまた、膝の人形を抱え直しながら探るような視線を彼へと向けた。
「どうせ魔理沙からの話を聞いて、また退屈凌ぎの玩具にでもしたくなったのよ。あの子の好奇心に付き合わされる方の身にもなって欲しいわね」
そう口にしながら、咲夜から受け取った箱の中身を確認すると、パチュリーはすぐに円卓の上へそれを置く。
「レミィの決めたことだし、紅魔館に留まることには口を挟まないけど。でも、この大図書館の蔵書はあなたのような野蛮な存在が力任せに触れて良い物ではないの。もし一冊でも傷つけたりするようなら、一週間と待たず私が紅魔館から叩き出すから、そのつもりでいて」
「また脅しか!そこの銀髪といい、吸血鬼といい、ここの連中はどいつもこいつも!」
「これはただの警告、そしてこの場所のルールよ」
パチュリーは至極淡々と、しかし有無を言わせぬ冷徹さで積怒の激昂を切り捨てた。
「ッ……」
ギリっと、積怒の牙を噛み合わせる音が虚しく響く。
これ以上この女たちと不毛な言葉を交わしたところで、何の益もない。積怒は苛立ちを露わにして顔を背けた。
「あー取り敢えずあれだな。改めて自己紹介でもしておくか!」
魔理沙が帽子を浅く被り直し、勢い良く立ち上がる。
「私は霧雨魔理沙、見ての通り普通の魔法使いだ。で、隣のツンツンしてるのがアリス・マーガトロイド。そっちの湿っぽいのがパチュリー・ノーレッジだ。まあ、顔くらいは覚えておいて損はないぜ」
魔理沙はニシシと笑いながら、手際よく二人を紹介してみせる。アリスは小首を傾げ、値踏みするように積怒を見上げた。
「聞いてもいない戯言を並べるな!お前たちの素性など興味はない!」
積怒の突っぱねるような一言に、魔理沙は「つれないな」と苦笑いを浮かべ、アリスもアリスで興味を失ったかのように積怒から視線を外す。
「私と魔理沙は魔法の森に住んでいるんだし、普段地底にいるなら顔を合わせる機会も殆どないでしょ。というか、この短いやり取りの間で、私は既に彼のこと嫌いなんだけど」
心底うんざりしたといった様子で息をつき、アリスはカップに残っていた紅茶を飲み干した。
「不愉快な……おい銀髪、もうここは良い!さっさとわしを客室に案内しろ、この鼻を刺す紙臭い空間には一刻も留まりたくはない!」
「かしこまりました。パチュリー様、私たちはこれで失礼致します」
咲夜がパチュリー達へ一礼し、再び静かな歩調で先導を始める。積怒は激しい苛立ちで肩を怒らせながら、地を蹴るようにしてその後を追った。
「相変わらず血圧の高そうな奴だぜ。レミリアの退屈凌ぎも、今回は相当骨が折れそうだな」
「退屈凌ぎで済めば良いけどね。あんなの、妖精メイドも怖がるんじゃないの?」
魔理沙とアリスの呟きを背に受けながら大図書館の扉を抜け、一行は再び紅魔館の廊下へと戻っていった。
そうして大図書館を後にした積怒たちは、咲夜の案内の下に館内の主要な区画――食堂や厨房、中庭に使用人たちの管理エリアなど、要所要所の道順や立ち入り禁止の区域についての説明を一つ一つされながら回っていった。
「ご案内はこれで以上になります。何かご不明な点などはございましたか?」
紅魔館の一角にある客室、その扉の前でぴたりと足を止めた咲夜が、振り返って問いかける。
「ない、さっさとその部屋に通せ」
積怒が苛立ちを隠さない声音で吐き捨てると、咲夜は静かに頷き、鍵を差し込んで重厚な扉を押し開けた。
室内に広がっていたのは、豪奢な調度品と深紅の絨毯で整えられた空間だった。
テラスへと続く窓には厚手の遮光カーテンが隙間なく引かれている。吸血鬼であるレミリアに対する配慮は、彼女が訪れる事が殆どないであろう客室でも徹底しているらしい。
「日中の日光が差し込まぬよう遮光の施されたカーテンを閉めております。出歩きに関しては基本的に自由ですが、先ほど申し上げました禁諾区域への侵入はお控えください」
咲夜は室内のテーブルに近づくと、その卓上に小さなベルを一つ置く。
「ご用命の際はこちらのベルをお鳴らしいただければ、メイドの誰かが伺います。食事の件も含め、必要な手配は順次進めて参りますので、どうぞごゆっくりお過ごしください」
深々と頭を下げた彼女はそのまま退室し、扉がカチリと音を立てて閉ざされた。
廊下に咲夜の気配が遠ざかるのを確認すると同時に、半天狗がずるりと積怒の着物の襟首から這い出し、床へと転がり落ちる。
「ひぃぃぃ……逃げられん、逃げられんぞォ!閉じ込められたァ……!」
床を這いながら、半天狗は恐怖に歪んだ顔で頭を掻きむしる。
客人扱いという響きは聞こえが良いものの、実態は怪物のような住人たちの監視の目に置かれたも同然の状況。その重圧は、常に臆病風に吹かれきっている半天狗の心を完全にへし折っていた。
「この屋敷はどこもかしこも赤、赤、赤……目が痛くなるわ」
そんな本体の嘆きを聞き流しつつ、積怒は錫杖の石突きで床や壁を突き、室内に何かしらの罠のような物が仕掛けられていないか確認する。
しかし特異な気配や罠を目的としたそれらしい反応はどこにもない。あるのはただ、隅々まで手入れの行き届いた調度品だけだった。
「あの吸血鬼め。わしを見下し、あろうことか見せ物の珍獣扱いしおって……あの女どももそうだ!」
レミリアの不敵な笑みだけでなく、大図書館で顔を合わせたパチュリーや魔理沙たちの顔が脳裏に過るだけで、積怒の額にぶわりと青筋が浮き上がる。
まるで恐れという感情を備えていないと思わせる彼女らのマイペースさは、半天狗の怒りそのものである積怒の神経を、激しく逆撫でした。
「一体どうするんじゃあ……こんな化物どもがうろつく巣窟で、本当に一週間も生き延びられるのか……?」
「ッハ、好都合じゃ!一週間という猶予を寄越したのは奴らの慢心……『日光を克服する術』の糸口を必ずや奴らの眼の届かぬところで掴み取り、あの傲慢な鼻っ柱をへし折ってくれるッ!」
半天狗が恐怖に震えているのを一瞥した積怒は、錫杖の柄を強く握り締め、遮光カーテンの隙間から差し込むわずかな月明かりを見据える。
幻想郷という底の知れない世界。そこに君臨する強者たちの足元で、上弦の肆の牙は、静かに、そして確実に研ぎ澄まされていくのだった。
「お嬢様、失礼致します」
積怒たちが客室に案内されてから数刻後、1日のメイドの業務を終えた咲夜が、レミリアの寝室の扉をノックし、静かに入室する。
「お疲れ様、咲夜。彼らの様子はどう?」
深い赤色の天蓋つきベッドに腰掛け、優雅に足を組んだレミリアが窓の外の夜空から視線を戻して微笑む。その瞳には好奇心を隠しきれない光が宿っていた。
「特に動きはないですね。時折嘆くような声などは中から漏れていましたが、客室から出入りしている様子はありませんでした」
咲夜はレミリアのベッドの前まで進むと、背筋を真っ直ぐに伸ばして報告を続けた。
「大図書館へ立ち寄った際もパチュリー様と一悶着ありましたが、実害が出るような騒ぎには発展していません。食事の件も含めて、一通りの館内のルールと案内は済ませてあります」
「あら、それはまた面白そうな顔をしたでしょうね。パチェ、怒らせると結構怖いんだから」
レミリアは楽しげにクスクスと笑い、血が入ったグラスを軽く揺らす。
「食事の件はどうなったの? 彼ら、人間を食べるのでしょう?」
「はい。地底では火車である黒猫から死体の一部を受け取って口にしていたそうですが、地上であるここでそれを調達するのは難しい旨は伝えました。血に関しては当館の貯蔵分から提供することで納得して頂きましたが、肉のほうは明日、地霊殿に連絡を入れて何らかの調整を図る予定です」
「そう。ま、身の回りのことはあなたに一任するわ。……それでその、フランのことなのだけど」
レミリアの表情からふと、先ほどの無邪気な好奇心が薄れ、代わりに複雑な陰りを帯びた視線が咲夜を捉える。
「あの子がいる地下室のことは話した?」
「妹様がいらっしゃる地下に関しましては立ち入りを禁止する場所の中に含めて説明はしましたが、具体的に何があるかまでの詳しい話しはしておりません。そこだけ強く念押ししても、かえって彼らの興味を引く原因になりかねませんので」
咲夜は微動だにせず、主人の問いに淡々と答える。
「そう……ね」
レミリアはグラスをテーブルに置き、細い指先で自身の顎を軽く押さえた。僅かな警戒が彼女の内で揺らめく。
「普段はあの場所に隔離しているとは言え、もし嗅ぎつけてあの子と接触するようなことがあれば……ねえ咲夜? あなたから見て、彼らはどれほどの手練れなのかしら」
「紛うことなき強者かと。以前魔理沙から聞いた話の通りなら、鬼の四天王と鴉天狗両者と渡り合い、後者に至っては勝利の一歩寸前まで追い詰めています。お嬢様やパチュリー様に及ばないにしても、錫杖を持っていた彼だけを見てもそれなりのものでした。同レベルの個体が後3体増えると考えると、頭が痛い話にはなりますね」
「となると、あの子とぶつかったら、やっぱりタダでは済まないでしょうね。……どちらにとっても」
「仰る通りですね」
咲夜は静かに頷き、主人の懸念を肯定する。
無邪気な好奇心から招き入れた客人が、一歩間違えば紅魔館そのものを揺るがす牙を剥き出しにしかねない。その危険性は、彼女も十分に把握していた。
「妹様と彼らが鉢合わせる事態になれば、妹様自身も暴走しかねませんし、かといって彼らが一方的に返り討ちに遭うとも考えにくいです。最悪の場合、館の地下がどうなることやら」
「ふふ、自分で招いておいてこんなことを言うのもおかしな話だけど、せっかくの退屈凌ぎが紅魔館の壊滅じゃ笑えないわね」
咲夜の紡いだ懸念の言葉を、レミリアは憂いながらもどこか楽しげに、それでいて鋭い光を宿した瞳で受け止める。
「一週間の間、私とパチェも常に気は張っておくわ。美鈴に関しては……まあ期待はできないけど。咲夜も、監視をお願いね?」
「承知致しました。紅魔館の秩序と安全を守るため、私の時間の中でしっかりと彼らを監視させて頂きます」
咲夜が深く一礼し、寝室を退出していく。扉が音もなく閉ざされると、レミリアはベッドから軽やかに身を起こす。
「さて……一週間、どう転ぶかしらね」
窓辺へと歩み寄り、カーテンを少しだけ指先で押し広げた。その眼下の向こうには、彼らの過ごしている客室の灯りが、ひっそりと、しかしぼんやりと不気味な気配を孕み、闇の中で浮かんでいた。