悪天の激闘! ソニックブラスト VS C.A.SOL   作:神父三号

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ゲーム本編のAI挙動やステージ構成に完全に忠実なお話ではありません。
ご留意ください。


前編

 フォーミュラフロント。

 

 それはAI制御の非搭乗型アーマード・コア"u-AC"がぶつかり合う、新世代の興行。

 緻密なカスタマイズとAIチューニングによって成り立つメカバトルは、全世界を熱狂させた。

 

 そして今日もまた、AIのスペシャリスト"アーキテクト"達が己の知力を振り絞り、己の誇りをu-ACに託し、静かなる戦場へと赴く! 

 知性の女神に選ばれ、勝利の栄光を手にするために! 

 

 AIロジック最適化! ジェネレータ全開! 敵AC、ロックオン! 

 レギュレーション《規格(フォーミュラ)戦場(フロント)》! 

 

 レディー……ゴー!! 

 

 

 

悪天の激闘! ソニックブラスト VS C.A.SOL

 

 

 


 

FBC NEWS

《C.A.SOL 3連勝達成でGP優勝確信》

 

「ヒルサイドは貰ったわ」

 

 満を持して始まった、フォーミュラF・Xリーグ22ndシーズン。

 その緒戦であるヒルサイドGP第2ブロックにおいて早々と3連勝を達成した「C.A.SOL」のメインアーキテクトが、試合会場を後にする際に言い放った。

 ご存知の通り、フォーミュラFの歴史の中で唯一GP優勝を果たしている女性アーキテクト、シルヴァーナだ。

 「C.A.SOL」は初戦で殿堂入りアーキテクト虎岳が引退した古豪「大華」を粉砕、さらに「ミラージュ・ワークス」と最近成績の落ち始めた「AF KISARAGI」を立て続けに破り、破竹の勢いを見せている。

 

「一番怖かったのも実際に苦戦したのもキサラギですが……クサギ氏はスランプみたいですね。まあ、長くアーキテクトをやっているとそういう時期はどうしてもあります」

 

 3連勝を飾った場で名高き"楽団"の指揮者は、AI研究の第一人者と言われるキサラギのアーキテクトを慮る。

 

「ミラージュ……はノーコメント。大華はとても勿体無いわ。飛鳳君は若すぎて、あの由緒あるチームの中で虎岳様の後任を務めるのは荷が重いでしょう。ここ数シーズン見てきたけれど、色々と空回りしてしまっている。虎岳様は、もう少しお弟子の面倒を見てあげるべきだと思いますね」

 

 このヒルサイドGP第2ブロック、「C.A.SOL」にとって残る敵はあと「ソニックブラスト」と「DSBM」だ。

 彼らについても、かつての弱小チームをFFAランキング上位に育て上げた女傑は語った。

 

「どちらも敵ではありません。手早く片付けて、それで終わりです。このシーズン、今までに無く確かな手応えを感じているもの。私達はもっと上を目指せる。だからブロック予選は必ず全勝して、その勢いで優勝決定戦に行きます。……ヒルサイドは貰ったわ」

 

 シルヴァーナはそう言い放ち、颯爽と次なる戦場へ向かった。

 「C.A.SOL」のFFAランキングは、現在6位。

 

 "楽団"はついに2度目のGP優勝を、そして女性アーキテクト初のシーズン制覇を果たすのか。

 

 その快進撃に、目が離せない。

 

 (FBC:G・オシプ)

 


 

 

「な、何ですかこれ!? わたし達は『敵じゃない』って……!」

 

 昼休み中にガレージ隅の据え置き端末で報道記事を読んでいた少女、ライカ・スフォルツァートが声をあげてわなわなと震えた。

 この22ndシーズンから加入した、「ソニックブラスト」の新人サブアーキテクトだ。

 

「……気にするな。ゴングの前にジャブを打つなんて、フォーミュラFでは当たり前のことだ」

「でもトラバサさん!」

「君の贔屓だったチームはさっさと駆け上がって、今やFFAランキングトップ3。だが、私達ソニックブラストはそうじゃない。波に乗っている時は、格下相手には先制攻撃しておくのも手の1つだ」

「そ、そうなんですか……?」

 

 ドリップコーヒーを啜りながら落ち着いているベテランのサブアーキテクトに、ライカが首をかしげる。

 2人のやり取りを眺めていた「ソニックブラスト」のメインアーキテクトを務めるアグレストは、静かに口を開いた。

 

「……シルヴァーナさんは俺達を見下して、『敵じゃない』なんて言ったわけじゃない。自分の退路を断つために言ったんだろうよ。『必ず勝つ』……そう公然と口に出しておけば、勝たないとダサいだけだからな」

 

 アグレストは自身の携帯端末で、ライカが読んでいたものと同じ記事を読む。

 確かに、これまでの「C.A.SOL」の会見やインタビューからすれば、ひどく挑発的な物言いだ。

 シルヴァーナは大口を叩くことがあまり無い、実績で示すタイプの人物だった。

 だが、こういう発言をしたことの理解は出来る。

 自分だって、しょっちゅうこの手の発言を公の場でかましてきたからだ。

 

 シルヴァーナが女性アーキテクト初のGP優勝を成し遂げたのは、15thシーズン。

 今はもう、22ndシーズンである。

 さらに、歴代最年少アーキテクトとして「オウレットアイ」にはベアトリスという少女が加わり、下位まで落ちていたチームを急速に立て直し始めている。

 彼女への対抗心もあるだろうが、何よりもその姿を見て弱小を率いていた頃の情熱が再び燃え上がったのではないか。

 

 もうXリーグが三強の膠着状態で云々と言われていた時代ではない。

 「ソニックブラスト」の同期でライカの応援していたチームが、記念すべき20thシーズンにおいて三強全てを下して、シーズン制覇を成し遂げた。

 古豪「大華」の最古参アーキテクトが引退した。

 「オウレットアイ」には最年少アーキテクトが加わった。

 かつて"最強"を謳われたチームを前身とする「FCオルドー」が、"天才"と称されるアーキテクトを獲得した。

 そして、昨シーズンにはリーグの空席に「オッセルヴァトーレ」という何やら怪しげな新進気鋭のチームが入ってきた。

 もう片方の上位リーグであるRリーグにおいても、長らく無敗だった"帝王"がついに陥落したと聞く。

 

 フォーミュラFは今や、大きく時代のうねりを上げているのだ。

 

 

「俺達ソニックブラストだって何だかんだFFAランキング9位……中堅まで上がってきたんだ。チームは間違いなく強くなってきている。だから、そろそろGP優勝は取る。シルヴァーナさんのジャブには、きっちりお返しする。口でも結果でも、だ。……いいな? トラバサ、ライカ」

 

 

 アグレストの気迫にトラバサは微笑み、ライカは息を呑んだ。

 携帯端末を操作して、画面を切り替える。

 

 Xリーグ22ndシーズン最初の、ヒルサイドGP第2ブロック。

 アグレスト率いる「ソニックブラスト」は、現時点で2勝1敗。撃破差は4。

 「DSBM」に5-2、「ミラージュ・ワークス」に5-3でそれぞれ勝ち、「AF KISARAGI」に4-5で競り負けた。

 

 「C.A.SOL」は3勝して撃破差は6。

 相変わらず上層部の無茶振りにかき回されてばかりの「DSBM」には、今のシルヴァーナならば危なげなく勝つだろう。

 代替わりして明らかにアセンブリもAIの動きも質が大幅に落ちた「大華」は、おそらく自分達だって勝てるはずだ。

 

 そして、自分達と同じ2勝1敗の「AF KISARAGI」の撃破差は1。

 辛勝と惜敗を交互にしたせいで、上手くスコアを稼げていない。

 それにシルヴァーナが言及していた、キサラギのアーキテクトであるクサギ・ハリのスランプはアグレストの目から見ても明白だ。

 

 だからこのヒルサイドGP第2ブロックはもう実質、自分達「ソニックブラスト」とシルヴァーナの「C.A.SOL」の一騎打ちなのである。

 

 次の試合は3日後。

 相手はまさしく今話題にしている、「C.A.SOL」だ。

 グリッド1が「C.A.SOL」、グリッド2が「ソニックブラスト」。

 この直接対決、何としても勝ちたい。

 

 ただ、アグレストには1つ、大きな懸念があった。

 

 

「……リーダー。やはり当日は午後から雨の予報だ。試合開始の14時時点で降水確率90%。それも、かなりの大雨になるらしい。……朝は30%なんだが」

 

 

 トラバサが手元の携帯端末を見て呟き、コーヒーを一気に飲み干した。

 アグレストも息を吐いて立ち上がる。

 

 もうじきフォーミュラF専門の報道団体であるFBCが、シルヴァーナの先制攻撃への"反撃"を要求しにやってくる時間だ。

 

 『必ず勝つ』──そう公然と口に出しておけば、勝たないとダサいだけ。

 そうしてきた自分は今までずっと、ダサいままだった。

 

 だがそろそろ、そんなダサい自分とはお別れをする時だ。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 


 

FBC NEWS

《ソニックブラスト 大胆不敵な下剋上予告》

 

 ヒルサイドGP第2ブロックにおいて今、猛烈な火花が散っている。

 先日の「C.A.SOL」のシルヴァーナのGP優勝宣言に対して、次の対戦相手である「ソニックブラスト」のアグレストが"反撃"を放ったのだ。

 

「統制の取れた"楽団"を指揮する彼女の手腕は、後輩アーキテクトとして尊敬している。だけどずっと上ばかり見上げていると、どうなっても知らないぞ。"演奏"の最中に指揮者が足元をすくわれて転んだら、コンサートの観客は驚き呆れるだろうよ。……はっきり宣言する。勝つのは俺達ソニックブラストだ。そしてそのまま、GP優勝だっていただきさ」

 

 3連勝中の「C.A.SOL」に対して、「ソニックブラスト」と「AF KISARAGI」は2勝1敗で続く。

 だが「AF KISARAGI」は撃破差のスコアが伸び悩んでおり、さらにここ数シーズンは成績を落としてきている。

 第2ブロックにおいて"楽団"の行進を食い止める大役は、少しずつFFAランキングをよじ登ってきた「ソニックブラスト」に託されたと言ってもいいだろう。

 

 両チームの試合前の応酬について、元アーキテクトでフォーミュラF解説者のフェルノ・ルカーチは、こう語った。

 

「フォーミュラFにおいてXリーグというものは、最高峰の知性が集う場だ。だから本来、軽率で野蛮な物言いは慎むべきなのだが……私には分かる。2人は互いを罵倒し合っているようでいてその実、自分自身やチーム全体に強く発破をかけているのだよ」

 

 かつて輝かしいFFAレコードの数々を記録した伝説のアーキテクト、フェルノ・ルカーチ。

 そんな歴戦の勇士の目が、鋭く光る。

 

「アグレストは初めの頃、威勢の良さに中身が全く伴っていなかったが、しっかりと成長と経験を積み重ねてきたように思う。一方でシルヴァーナは15thシーズンのGP優勝以来どこか覇気が落ちたように私は感じていたが、今シーズンの彼女のタクトの冴えはあの頃を凌いでいるな。この戦いは間違いなく、ヒルサイドGP注目の一戦となるだろう。何より悪天候は、チームの底力を測る試金石になるからな」

 

 アーキテクト達の知性と情熱が激しくぶつかり合う、フォーミュラF・Xリーグ。

 共にヒルサイドGP優勝を狙う「C.A.SOL」と「ソニックブラスト」の決戦まで、あと2日。

 試合は14時開始だが、当日の天気は午後から大荒れとなる見込みだ

 

 両チームのファンにとって、深く記憶に刻み込まれる試合となることを期待しよう。

 

 (FBC:J・A)

 


 

 

 人類が地上に回帰して、それなり以上の時が流れた。

 しかしそれでも人類は未だ、自分達が新たな生活圏とした地上の全てを知り尽くしたわけではなかった。

 

 気象も、その1つである。

 

 地下世界において明確なスケジュールの下で発生が管理されていた気象と、地上の自然発生する気象とではまるで性質が違ったのだ。

 いくつもの観測衛星を飛ばして常時データを取り続けてもなお、人類の情報蓄積と経験値は甚だ乏しく、気象を完全に予測しきることは困難だった。

 

「……ああ、クソっ。14時時点の降水確率が80%に落ちてやがる。それに13時は60%。一番判断に困る数字だ。明日にはもっと下げてこないだろうな?」

 

 夕食後でも大量のチームスタッフが忙しなく往来する、「ソニックブラスト」に貸与されたFFA所有のGP専用ガレージ。

 そのAIチューニングルームの中でサブアーキテクトのトラバサが携帯端末を睨みつけながら、珍しく苛立った口調で呟いた。

 

「トラバサ、15時時点は?」

「変わらず90%だな。こっちはまあ、シュメッターリングも自信があるんだろうよ」

 

 メインアーキテクトのアグレストの問いかけに応えつつ、トラバサは携帯端末で素早く各気象データをチェックしていく。

 気象予報については多くの企業・団体が独自のデータをネット上に公開しているが、一番信用出来るとされているのは「シュメッターリング研究所」のものだった。

 フォーミュラFのXリーグに参戦しているチーム、「ハルスRS」のスポンサーの片割れである。

 

「トラバサさん、u-ACって風の影響は大丈夫なんですか? それにバトルエリアはクラッグビーチですし、海風の影響とか」

「問題無い。激烈な竜巻の中で戦うとかでもない限りな。今回ならば考慮しなくてもいいレベルだ。だが……」

「試合は明後日だ。今日、シュメッターリングが明後日14時時点の降水確率を下げたってことは……試合の前半は雨が降らない可能性が高くなってきている」

 

 アグレストは頭をかき、備え付け端末のAIチューニング画面を睨みつけた。

 「ソニックブラスト」が雨の中での試合を経験するのはXリーグ参戦以来、これで3度目だ。

 

 1度目は、Xリーグへの昇格直後だった17thシーズン。

 チームスタッフの誰も実戦的なノウハウを持っていなかったためにu-ACのカスタマイズとチューニングの勝手がほぼ分からず、「オーガ」相手に惨敗を喫して死体撃ちまでくらった。

 

 2度目は、所属チームの解散によってアーキテクトを引退していたトラバサが復帰し、サブアーキテクトとして加入してきた19thシーズン。

 アグレスト自身はリベンジをするつもりだったが、トラバサの進言によりデータ収集を優先してAIをあえて極端な設定にして挑み、案の定「シュバルツヴォルフ」に蹴散らされた。

 

 両方とも、当時のFBC NEWSで散々にあげつらわれたものだ。

 雨のデータについては2度の敗戦に加え、他チームの試合を分析したりもして集めてきた。

 だから3度目は、絶対に勝ちたい。

 

「うーん……じゃあ試合開始から雨が降っている場合と、途中から雨が降る場合、あと一切雨が降らない場合。全部に対応できる調整を考えるべきでしょうか? シミュレータの設定で一応、雨天のシチュエーションは選べましたよね?」

「AIはそうだな。だが、u-ACを構成するパーツの調整は決め打ちしないといけない」

「えっ、どうしてですか? パーツ調整も3パターン考えるべきじゃ……」

 

 今シーズンからキャリアを積み始める、まっさらな新人アーキテクトのライカがトラバサの回答に対して、疑問符を浮かべた。

 ライカについてアグレストは最初、現場の空気に馴れさせるためにほぼ見学状態にしていた。

 2試合目からはしっかりミーティングに混ぜて意見を聞くようにしたり、AI調整を一部やらせたが、それでもかなり緊張して上手くやれていなかった。

 3試合目の「AF KISARAGI」戦は例によって相手のアセンが奇抜過ぎて、全然駄目だった。

 少女のアーキテクトとしてのまともな初陣は、実質今回だ。

 しかし持ち前のやる気と明るさで、もうしっかりとチームには打ち解けている。

 

 ベテランが試すように向けてきた目配りに応じ、アグレストが代わりに答える。

 

「単純に時間の問題だ、ライカ。フォーミュラFのレギュレーション上、試合開始の1時間前まではu-ACの調整や出撃順の変更が認められている。だからAIに関してはお前がさっき言った通り予め3パターンのプリセットを作成しておいて、当日の空模様を見てギリギリで対応すればいい。その考えは合ってる」

「……はい」

「だけど、u-ACのカスタマイズは違う。まず、今からアセンを大幅に組み替えてそれに対応するAIを構築するなんてのは不可能だ。やれるのはu-AC本体を構成するパーツのチューンナップと格納武装・インサイドの軽微な変更程度だが……それでも端末で数値を弄れば終わりじゃない、メカニック達の精密作業になる。今のチーム体制だと、丸1日かかる。朝一の天気を見てからじゃ、14時の試合開始には到底間に合わない。それにAIのプリセットを3パターン用意するにしても、AIが動かす肝心のu-ACの性能を固めておかないとマズいからな。だから今日中には、u-ACのカスタマイズプランを決めないといけないんだ」

 

 ライカは真剣な表情でアグレストの言葉を何度も繰り返し、咀嚼する。

 トラバサは満足そうな顔で、メインアーキテクトの回答に拍手した。

 からかうなよ、と年長のサブアーキテクトを嗜めた後で、アグレストは各部門のメカニックチーフ達を呼ぶようにライカへ指示を出した。

 新人の少女がパタパタと駆け足でチューニングルームを出ていった。

 放送設備を使えばいいものを、わざわざ大声を張りにガレージへと向かったらしい。

 

「やる気は3人前だな、あのお嬢さんは」

「ありがたいことだ。とにかく活気が売りのチームだからな、うちは。メカニック達からの評判も良い。このヒルサイドGPが終われば、メディアの前にも出すつもりだ」

「ははは、『活気が売り』は確かにそうだな。だが、その割に最近のリーダーは案外落ち着いているじゃないか。外向きにはあんなにビッグマウスなのに」

「言うなって。もう6シーズン目だぞ、俺も。いつまでも口先だけじゃ駄目だろ。……熱心なファンのためにも、な」

 

 アグレストは立ち上がり、ドリップマシンでコーヒーを淹れた。

 日々送られてくる大量の応援メッセージと、これまでの自分を思い返す。

 

 

 

 

 「ソニックブラスト」がXリーグに昇格した17thシーズン開幕直前。

 俺は父のアクロアから突然、金で買ったA級アーキテクトライセンスを渡された。

 チーム代表であり、同時にソニックブラスト社の代表取締役でもある父の手から直接に、だ。

 

『これで俺にどうしろと?』

『世の中を知ってこい』

 

 父はそれ以上何も言わずにさっさと会見を開き、それで俺は本当に「ソニックブラスト」のメインアーキテクトになった。

 下位リーグであるBリーグ時代から既に、一部では"金持ち企業の道楽"扱いされていたチームである。

 正直なところ、身内である自分ですらそう思っていた。

 

 ソニックブラスト社は、軍事兵器全般のブースタの基幹部分を製造する工業メーカーだ。

 安定した技術と大規模な製造施設によってブースタ開発の分野では大きなシェアを占めている上、系列企業も多い。

 そして今の軍事兵器のメインストリームが機動兵器のACとMTである以上、当然ながら三大企業全てと大きな繋がりを持っている。

 従来のブースタと全く違う革新的な推進機関でも誕生しない限り、落ちぶれることは無い立ち位置の企業だ。

 企業としては、巨額の投資をしてまでフォーミュラFに参入する必要など無いのである。

 関わるにしても、協賛企業にでもなっておけばいいだけの話だ。

 

 何故なら、u-ACにブースタが積まれないなど、ありえないのだから。

 どのチームが勝とうが負けようが、ソニックブラスト社にとってはブースタ技術の宣伝とデータの蓄積に役立つのだから。

 その上、代表取締役の長男が何の実績も無しにXリーグ昇格直後からメインアーキテクトだ。

 まさしく、"金持ち企業の道楽"と呼ぶにふさわしい有り様だった。

 

 だがそれでも熱心なファンはついてくれているし、父の思惑が一切理解出来ないほど、俺も子供ではない。

 ソニックブラスト社は系列企業まで含めて、創業者一族が主要ポストを占める同族経営の典型である。

 これは組織のリーダーになるための教育であり、課題であり、試練なのだ。

 

 だから俺はそれを踏まえて、自身に義務と目標を課した。

 義務は、メディアやファンの前では常に威勢良く振る舞い、ビッグマウスでいること。

 目標は、ビッグマウスに相応しいだけの実力をしっかり身に着けること。

 そして最終的には、シーズン制覇だ。

 

 そのためにも、このヒルサイドGPをまずは全力で取る。

 

 

 

 

 アグレストが熱いコーヒーを勢い任せに一気飲みし、舌と喉が焼けて悶絶している間に、「ソニックブラスト」のメカニックチーフ達がAIチューニングルームへ集まってきた。

 

「あちち……ごほん。皆、天気予報は見ているな? 明後日のC.A.SOL戦は、雨になる可能性が非常に高い」

 

 アグレストの話を聞くチーフ達は、老若男女入り混じっている。

 これは「ソニックブラスト」のチーム創設時、ソニックブラスト社及び系列企業からフォーミュラFの現場に携わりたい者を募集してチームスタッフとしたからだ。

 今までACという兵器に一切関わったことの無い部署から来た者だっていた。

 それでも自ら志願して集まったメンバーであり、メカニックチーフはその中でも高い吸収力、統率力、技術力あるいは熱意を持つ者達が、スタッフ間の推薦で就任している。

 士気は、非常に高い。

 

 アグレストはチューニングルームの大型モニターに、「ソニックブラスト」が今シーズン使用しているu-ACを5機映した。

 

 

 両腕のスナイパーライフルを主兵装として肩に小型ミサイル、そしてハンドガンと低出力ブレードを格納している中量二脚AC「ストーム・ウィンド」。

 両腕のマシンガンと実弾イクシードオービットで攻め立て、爆雷ミサイルで重量級ACにも対応出来る逆関節AC「ウィンド・シア」。

 高収束レーザーブレードを主軸にして、アサルトライフルと軽量スラッグガンと実弾EOで補強した四脚AC「ツイスター」。

 グレネードライフルとショットガン、肩の軽量リニアガンで攻めかかるホバータンクAC「タービュランス」。

 連装小型グレネードの武器腕を採用し、肩のデュアルミサイルをエクステンションの4連動ミサイルとインサイドのナパームロケットで援護するフロートAC「エア・ポケット」。

 

 

「今さら言うまでもないことだが、当日の天候を見てからのu-ACカスタマイズは時間的に不可能だ。だから、u-ACのアセンについては現時点での気象予測を前提にして、パーツのチューンナップ及びハンガー・インサイドの軽微な変更だけをおこなって明日中に対応する。各部門のチーフは、意見を頼む」

 

 

 チーフ達は持ち寄った資料を基にして、各自意見を述べていった。

 自分達「ソニックブラスト」のAC5機のみを見た意見もあれば、相手の「C.A.SOL」のアセンを考えての意見もある。

 今までの2勝1敗の結果を踏まえた意見や、今回のバトルエリアである「クラッグビーチ02」に絡めての意見だって挙がった。

 ライカがそれらを適宜、モニター横のホワイトボードに書いていく。

 チーフ達には互いに横槍を入れさせることはせず、とりあえず思いつく意見を出せるだけ出してもらった。

 その中には、部下のスタッフが呟いただけという意見すらある。

 

 こういうブレインストーミングは、19thシーズンのトラバサ加入からやり始めた。

 最終的に機体のカスタマイズやチューニングを決めるのは当然、メインアーキテクトであるアグレストだ。

 それでも、チームが一丸となって様々な視点から意見を出し合うことで一体感が生まれるし、画期的な意見が出ることもある。

 

 たくさんの意見が出た中で、とりわけ重要だと思われるものについて、「ソニックブラスト」のアーキテクト達は話し出す。

 

「やはり、雨がu-ACにもたらす影響への懸念が多いな。まずACの敵機認識への影響についてだが……挙がった意見に私も賛成だ。私の古巣での経験上、大雨や強風は現代のACに搭載されている頭部COMやFCS、レーダーにはほぼ影響が出ず、それらによって行われるAI認識にも支障は無い。ソニックブラストが以前経験した雨の中の2戦分のデータを見ても、それは正しい。昔々の地下世界時代では雨天での戦闘がほぼ想定されていなかったが、今は違うからな」

「えっと……わたしが気になるのは、機体の足回りについてですね。ただでさえ路面コンディションの良くない砂浜が大雨を浴びて、ACがその上を動き回れば、姿勢制御に問題が出ると思います。でも、頭部も脚部もレギュ上安定性能は弄れませんよね……じゃあここは、AIチューニングで補うようにしないと」

「俺からは遠距離兵器や誘導兵器への雨の影響について。19thシーズンで試した結果、これも今回のクラッグビーチ程度の狭いエリアなら無視できる程度だと思う。距離特性を遠距離極降りにしたストーム・ウィンドがもっと広いポリーネレンジの雨の中でも、スナイパーライフルもミサイルも問題無くシュバルツヴォルフの二脚に命中させていたからな。まあ、だいぶ躱されもしていたわけだが……あれはこっちの武器に雨の悪影響があったからじゃなくて、あっちが上手だっただけだ」

「ああ。だが、今回のクラッグビーチ02はとにかく障害物の岩が乱立するエリアだ。私としてはミサイルは中々有効に働かないと思うから、AIで調整しておきたいな。……とはいえ、完全に外したり変更したくはない。格納武装やインサイド以外を下手に弄ると、マスターデータを見直す必要性が出てくる」

 

 ホワイトボードを埋め尽くすほどに挙がった意見について、アグレストとトラバサとライカがこれまでの蓄積データや知識、経験を基にして回答を述べていく。

 

 

「ただ、雨でどうしても大きく影響を受けるものが、2つある」

 

 

 トラバサはそう言うと席を立ち、赤いマーカーで2つの意見を丸く囲んだ。

 

「EN兵器と火炎兵器。やはり何といってもこの2つだ。武装担当チーフ達の言う通り、予報通りの降水量で雨が激しく降ると、EN兵器は短時間のみ高収束させるレーザーブレードならばまだ使用可能だが、それ以外のEN兵器は不規則な散乱や屈折が生じてほぼ機能不全になるはずだ。高出力レーザーキャノンであっても威力・命中率共に大きく低下する」

「ということは……ストーム・ウィンドの格納にある低出力ブレードはダメですか?」

「そうだな。外すべきだが……ストーム・ウィンドは装弾数の少ないスナイパーライフルを使う機体だ。このエリアでは肩の小型ミサイルはいまいち信用出来ないし、連戦用にハンドガンを持たせたい」

「なら、左の格納も右と同じ70発ハンドにしよう。遠距離から近距離火器への切り替えだ。出来るだけ性能を統一しておいた方が、AIも迷いづらくなるだろうしな」

「私もリーダーの意見に賛成だ。……それと火炎兵器。具体的にはエア・ポケットのインサイドにあるナパームロケットだな。小雨ならまだいけるが、大雨では効果は大きく薄まる。少なくとも、重量に対しての戦闘貢献率は割に合わないだろう」

「元の20発ロケットに戻すか? それとも……」

「外すのも選択肢の1つだが……インサイドはメイン武装と併用できるから火力の底上げとして積むべきだと私は思う。瞬間火力を上げるに越したことはない」

 

 武装変更に関する意見はまとまった。

 中量二脚AC「ストーム・ウィンド」の左格納武装をレーザーブレードから右格納と同じハンドガンへ変更。

 フロートAC「エア・ポケット」のインサイドをナパームロケットから通常のロケットへ変更。

 元々EN兵器をほぼ使わない構成になっていたことが幸いし、軽微な変更で済んだ。

 この程度ならば、AIのマスターデータを改修する必要もない。

 

「あの、すいません。ついでにわたしからも質問が。当日は高確率で大雨なんですよね? 雷対策とかは大丈夫なんですか? ACに雷が落ちてくる……みたいな」

「雷対策か。言われてみるとそこまで考えてなかったな。だけど雨が降るより確率は圧倒的に低いだろうし、そもそもACは防御スクリーンに加えて、きちんと耐雷設計になってるからAPが若干減るくらいじゃないか? ……トラバサはどう思う?」

「私も実際にu-ACに雷が落ちた事例を見聞きしたことがないから何とも言えないが……確かにリーダーの言う通り、運悪く直撃してもAPが少し減少する程度に思う。ただ、u-AC本体はともかくAIには影響が出るかもな」

「強力な電磁波で、ECMを貰ったみたいになるってことですか?」

「いや、違う。u-ACのAIは特殊なイベント用のもの以外は1対1の戦闘を前提として設計されているんだが……雷が直撃するかバトルエリアに落ちると、AIが『別の敵がエリア内に出現した』あるいは『未知の新兵器を敵が使ってきた』と思考して、大きく混乱する可能性がある」

 

 ライカが目をしばたたかせ、メカニック達がざわめく。

 

「……本当なのか、それは?」

「分からん。あくまで私の推測だ。とりあえず、今までそういう事例があったかを探しておいてもいいかもな。……ただし、雷対策を意識してAIを変に弄るのはやめた方が良いだろう。ごく低確率でACやバトルエリアの障害物に落ちる雷なんかまで考慮していたら、やってられん。ある程度の割りきりは必要だ」

 

 トラバサの意見はもっともだと思い、アグレストはそれ以上雷について考えるのはやめて、ミーティングを進めた。

 

「えっと、あとは各パーツのチューンナップ見直しですか。トラバサさんの言う通りですと、EN防御に関するチューンは全部他に回して良さそうですね!」

「……いや。そんな単純な考えじゃ駄目だ」

「え? でもリーダー、雨の中での戦闘になるんでしょ?」

「それはだな、新人のお嬢さん。C.A.SOLの機体構成が理由だ」

「……? あのすごくシンプルな構成がどうかしたんですか?」

「シンプルだからこそだ、ライカ。さっきオプション担当チーフから少し話が出ていたけど、もう何度か対戦したから皆知ってるよな。シルヴァーナさんの指揮する"楽団"は各機体の武装を単一種類で統一している」

 

 アグレストは大型モニターを操作し、今度は対戦相手「C.A.SOL」の直近のu-ACの機体構成を5機全て映した。

 

 

 パルス武装統一のタンクAC「segue(セグエ)」。

 グレネード武装統一のホバータンクAC「con forza(コン・フォルツァ)」。

 オービット武装統一のフロートAC「beffardo(ベッファルド)」。

 リニア武装統一の四脚AC「tempestoso(テンペストーソ)」。

 実弾連射武装統一のホバータンクAC「al fine(アル・フィーネ)」。

 

 

「対戦は明後日だ。流石のシルヴァーナさんも今からこいつらのアセンを大きく変えるなんてことはしてこないはずだ。AIのマスターデータにタッチする大作業になるからな。……ライカ。新人アーキテクトのお前の目から見て、こいつらをどう思う?」

「ええと、ええと……武装を単一種類で統一しているのは確か、AIの攻撃判断を単純化させるため……ですよね? 敵の防御バランスや迎撃兵装の有無なんかをAIに思考させる必要がなくて、その結果他の要素に多くリソースを割けるから、挙動を安定させることが出来る……」

「ちゃんと勉強しているな、お嬢さん。まあ、アーキテクトライセンスを取るための参考書に、お手本の1つとしてよく紹介されるくらいに有名な構築理論だものな。単純だからこそ安定して強い。各機体が、自分のなすべきことを遂行しやすくなる。"楽団"なんて称されるほどの統制力は、まずこの武装統一アセンから生まれているわけだ」

「うーん……ライカの答えは正解だからそれはそれでいいんだが。じゃあ、雨の中でこいつらが戦うとどうなると思う?」

 

 ライカが若干前のめりになり、モニターを食い入るように見つめた。

 十数秒経って、あっと声を上げた。

 

「これ雨の中だと、パルスとオービットの2機体がほぼ死にますよね!? 実質5対3になって、実弾主体のわたし達が圧倒的に有利です!!」

「そうだな。試合開始時点で既に大雨なら、な」

 

 アグレストの言葉にライカの明るい笑顔がフリーズして、固まった。

 

「……すいません。どういうことですか?」

「お前自分で言ってただろ? 試合開始から雨が降っている場合と、途中から雨が降る場合、あと一切雨が降らない場合があるって」

「気象予報に関して、私の一番信用しているシュメッターリング研究所が明後日の試合開始時刻……14時時点の降水確率を90%から80%に下げてきた。13時も60%に下がった。一方で、15時は90%のまま。おそらく、雨雲の動きが変わってきているんだろう。明日これがさらに下がれば……雨は試合途中から降る可能性がかなり高くなる」

「つまり……?」

「レギュ上のu-AC最終調整期限である当日13時時点で判断に困る空模様になっているなら、だ。パルスとオービットの2機体は雨で使い物にならなくなるリスクを避けるために、ほぼ確実に出撃順の1stと2ndに入るし、もう現段階でそれ前提のカスタマイズをあっちは始めているってことさ」

 

 トラバサが深く頷き、アグレストの総括に賛同する。

 

 Xリーグの1戦あたりの試合時間は、3分だ。

 しかしその3分を戦うごとに、補給と整備のために10分のインターバルが設けられる。

 仮にどちらかの1stACが敵の5機を全て瞬殺したとしても、決着は15時前。

 今の「ソニックブラスト」と「C.A.SOL」では、それほどの瞬殺劇は起きないとアグレストは考えていた。

 だからどこかのタイミングで、高確率で雨の中の戦いになるし、同様に試合の序盤では雨が降っていない確率もそれなり以上にある。

 

「Xリーグの5対5勝負は初戦でイニシアチブを取るのが重要だから、俺の予想だと1stはパルスタンクなんだが……トラバサ、あんたの予想は?」

「私がシルヴァーナの立場ならば……当日13時の最終判断まで待ちに待つ。その時点で雨が降っているか降っていないか、降っているならばどれだけ強く降っているかで出撃順もAIパターンも変わってくる」

「あぅ……わたし、なんだか話についていけなくなってきました」

 

 ライカが顔を真っ赤にして椅子に座り、チーフの1人が寄越してくれた栄養ドリンクをごくごくと飲んだ。

 トラバサはその様子に苦笑するも、すぐアグレストに向き直り、言葉を続ける。

 

「小雨ならば、パルスタンクが1st。理由はオービット武装のラインレーザーは1発1発がかなり低出力で、小雨でも致命的な影響を受けるからだ。オービットフロートは雨が降り始めた時点で、ただの動く的になる。だから小雨ならば、雨足が強まるまではまだ最低限削り役として機能する可能性があるパルスタンクが1stだ」

「…………」

「逆に13時で既に大雨ならば、パルスタンクもオービットフロートもほぼ死ぬだろう。そうなればオービットフロートが1stだ。そしてAIの戦略特性を防御極振りに、分析能力や防御戦術能力を最大に設定し、オペレーションチップで両肩のオービットキャノンを即パージさせるプリセットに入れ替える。そうしてやればu-ACはオービットが雨の中では無力だと判断して、身軽になったフロートの機動力を活かしてひたすら回避に専念し、相手の弾薬を最大限に消耗させられる。2ndのタンクも同様に全武装をパージして、障害物の陰に隠れるようオペレーションチップで指示を出して回避に専念だ。フォーミュラFの勝敗は残りAPの割合ではなく実数値で決まるから、完全に死んだACを使って勝ちを狙いに行くと必然的にそうせざるをえない」

「こっちが戦闘開始時点でパルスタンクのAPを自機の最大APより削りきれない程度の弾薬量になっていれば、そのまま死んだパルスタンクでも時間切れのAP勝ちが1回は狙える……ってことか?」

「そういうことだ、リーダー。また、最終判断の13時時点で雨が降っていなくても、私ならばオービットフロートが1stだ。この場合は回避行動を投げ捨ててEN制御にだけ気を配らせ、あとは攻撃に最大限集中させる。雨がいつ降り出すか分からない以上、さっさと削りに使い潰して後続のパルスタンクへ繋げた方が良いからな」

「……なるほど。流石はベテランって感じの考えだ」

 

 アグレスト達の会話を聞いていたライカが、おそるおそる手を挙げた。

 

「あの……そもそも当日の天候次第で機体が5機のうち2機も死んじゃうのが分かってるなら、今日明日の時間的余裕があるうちにAIを最適化しきれなくても、とりあえず武装を実弾兵器に変えてくる可能性もあるんじゃ?」

「確かに、君の説もありえなくはない。……が、彼女のプライドがそれを許すかだな」

「プライド、ですか?」

「そうとも。弱小チームを1人でまとめて育て上げ、長く"楽団"を指揮してきた、一流アーキテクトのプライドだ」

「だけどそれを言ったら、あんたの言う死んだACを使っての逃げ勝ち戦法だって、プライドが許さないんじゃないか?」

「かもな。シルヴァーナはあまりメディアの前で持論をべらべらと語る人物ではないし、何よりも今シーズンはいつになく本気に思える。だから、定石から大きく外してくるかもしれない。それこそ、使えないEN武装機体は出撃順の後ろに下げて、実弾武装機体を前に固めてそれで押しきってくる……なんてこともやりかねない」

「そんな無茶な……でも、トラバサさんに言われるとそんな気もしてきました。……ちなみに、実弾武装機体の出撃順は予想つきますか?」

「リーダー、どうだ?」

「俺は一切予想出来ないと思ってる。昨シーズンまでシルヴァーナさんはアル・フィーネを5thACから動かしたことは一切無かった。機体名がフィーネ(終わり)なんだから、彼女なりに最もこだわりと自信があるフィニッシャーだったんだろう。月刊バトルエイジでも、構成が変わる度に特集を組まれるレベルのSOLの看板機体だしな。……だけど直近のキサラギ戦でアル・フィーネは2ndとして出されて、大きく意表を突いた。だから、実弾連中は予想するだけ無駄だ」

「私も同意見。こうして色々と考えても、何だかんだ当日蓋を開けてみないと分からないところは多くある。とはいえ、u-ACのパーツカスタマイズについてはある程度割りきった予想を立てて動くべきだろう」

 

 結局はそこに帰ってくるよな、とアグレストはトラバサのまとめを聞きながら思った。

 

 天気予報はあくまで予報である。絶対ではない。

 相手チームの機体構成だってそうだ。

 その上でチームスタッフの作業速度を念頭に置いて、判断をこのギリギリまで待った。

 だからu-ACのパーツカスタマイズについては、現時点での情報と予測を踏まえて決め打ちするしかないのだ。

 決め打ちしよう。メインアーキテクトである、自分が。

 

 

「敵はパルスタンクとオービットフロートをそのまま1st、2ndに投入してきて、開幕から激しく攻めたててくる。そう仮定して、俺達ソニックブラストは動く。前半に出す機体のチューンナップはEN防御と冷却性能に大きく寄せるぞ。後半の機体は実弾防御と冷却性能だ」

 

 

 アグレストは断言した。

 

 皆で意見を出し合い、考えるだけ考える。

 考えて決めたら、自分や仲間を信じてそう簡単には変えない。

 フォーミュラFでアグレストが学んだことの1つだ。

 

「じゃあ次は、わたし達のu-ACの出撃順見直しですか? SOLが開幕から猛攻撃で来るなら、1stACがスナイパーライフル装備のストーム・ウィンドじゃ厳しいですよね?」

「その通りだ、お嬢さん。相手の1stがパルスタンクでもオービットフロートでも、EN兵器の高密度連射を叩き込んでくる。だが、今回のクラッグビーチ02は同系統のバトルエリアの中でも特に障害物の岩が多い。私達は機動力と削り力を両立した機体を1stACにすべきだな」

「なら、ウィンド・シアだ。マシンガンのダブルトリガーに実弾EO装備の逆関節だから撃ち合いには強いし、タンクが相手の場合は爆雷ミサイルで障害物越しにも効率的な攻撃が出来る」

 

 アグレストの提案に、トラバサも賛成した。

 大型モニターの表示を自チームに切り替えて、ライカが出撃順を操作していく。

 

「次は2nd……ウィンド・シアが作った流れを引き継げて、かつウィンド・シアが負けても疲弊した相手を手早く処理できる機体が望ましい」

「それだと、火力と防御力があるホバータンクなタービュランスですか?」

「そうなるな。残る3枠だが……クラッグビーチ02の障害物の多さでは、スナイパーライフルのダブルトリガーを主体とするストーム・ウィンドはAIを調整してのダメージレースが少々難しい。ジャンプを多用しないと射線が取れないからな。高収束ブレード主体のツイスターは……まだ最適化しきれていない問題児。だから、武器腕グレネードとインサイドロケットで勝負できるエア・ポケットが3rdだ」

「リーダーの判断は正しい。理想はこの3rdACまでで敵の5機を全て片づけきることだが……勢いに乗っている今のC.A.SOL相手では厳しいだろう」

「4thはストーム・ウィンドですかね。今のツイスターを出す前に終わらせたいし……」

 

 3人のアーキテクトの意見が統一され、「ソニックブラスト」の出撃順が決定した。

 

 

 1stが逆関節AC「ウィンド・シア」。

 2ndがホバータンクAC「タービュランス」。

 3rdがフロートAC「エア・ポケット」。

 4thが中量二脚AC「ストーム・ウィンド」。

 5thが四脚AC「ツイスター」。

 

 

 オーダーに対して、各部門のメカニックチーフから機体調整に関する細かい質問が入る。

 全てが片付いた時にはもう、23時を回っていた。

 

「よし、ミーティングは完了だ! メカニックは明日中には機体調整を完了すること! どうしても間に合わない部分があるなら、早めに報告してくれ! ……解散!!」

 

 アグレストの号令で、各自が動き始める。

 解散といっても、アーキテクトもメカニックもすぐにベッドで寝息を立てるわけではない。

 夜の内にやれることは、やっておかなければならないのだ。

 

「……ライカ。お前がこのシーズンからサブアーキテクトとしてチームに加入してきて、これで4試合目だ。だいぶ早いかもだが、u-ACのAI調整を1機任せたい」

「っ!」

 

 新人の少女が、表情を強張らせる。

 

「タービュランスを頼む。こいつのAIパターンは天候を考慮せずに1種類だけでいい。ホバータンクは通常のタンクより機動力があるから、障害物に引っかからず動き回りながら攻撃するように、既存のAIをクラッグビーチ02用に調整してみろ。上手くいかない部分は長々と悩まず、俺かトラバサに質問すること。あとで俺達がしっかりと見直すから、失敗は恐れなくていい。とにかくチャレンジだ。……やれるか?」

「……はい! やりますっ!!」

 

 声を張り上げ、すぐに備え付け端末の1つにかじりつくライカ。

 微笑ましげなトラバサには、ストーム・ウィンドとエア・ポケットの調整を任せた。

 4機のu-ACそれぞれに3パターンもAIプリセットを組む以上、ある程度は分担するしかない。

 

「新人に随分厳しいな。大華との試合で初挑戦の方が良かったんじゃないか?」

「大華はアセンが変則寄りだ。武装が統一されてシンプルなSOL相手の方が、色々と考えやすい」

「それはそうだ。どうせ後で見直すしな」

「ああ、いつも通りだ。AI調整がひと段落した順に、全員でシミュレーションを繰り返してチェック。気張れよ、トラバサ」

「了解だ、リーダー。しかし、ツイスター……そろそろモノに出来そうか?」

「モノにするさ」

 

 チームの問題児、「ツイスター」。

 19thシーズンでトラバサがサブアーキテクトになった時に、大揉めに揉めた機体である。

 

 接地して撃つ必要のある肩武装を乗せた、四脚AC。

 しかも、レーザーブレードが主兵装。

 

 シルヴァーナが「アル・フィーネ」を5thACに据え続けることにこだわってきたように、アグレストにとってはこの「ツイスター」こそがこだわりの機体だった。

 しかし、アグレストは「ツイスター」のブレード攻撃を、まだ数度しか成功させられていない。

 

 今も昔もフォーミュラFの主流は、左腕にも射撃武器を載せてのダブルトリガー戦法だ。

 ブレードでの近接戦闘はu-ACの各種調整が極めて難しく、上位チームで上手く扱えているのは「ネオニア」と、「ソニックブラスト」の同期チームだけ。

 「AF KISARAGI」も自社の射突型ブレードを使っているが、アーキテクトのスランプもあってか最近動きが悪く、当たったところを長らく見ていない。

 

 また、実際のAC戦闘においてもブレード運用は、ダブルトリガー戦法の普及と共に廃れていったと聞き及んでいる。

 いつしかAC乗りの間でのノウハウの継承や改善もされなくなり、今やブレードを主体的かつ効果的に扱える者は、先天的な近接戦闘適性を持つ一握りの天才だけになってしまったらしい。

 

 だが、だからこそ。

 アグレストはそれに挑戦したかった。

 

 命のやりとりの場ならば、自分だって絶対に御免だ。

 しかし、フォーミュラFはそうではない。

 実際の機動兵器を用いていても、所詮は興行。

 言ってしまえば、遊びだ。

 

 そうだ。遊びだからこそ、果敢に挑戦出来る。

 失敗したって、何度でも挑戦出来る。

 

 今まで数えきれないほど失敗してきたし、今でも失敗はある。

 乗り越えられていない壁がある。

 アグレストにとって四脚AC「ツイスター」は、その壁の1つなのだ。

 とはいえ、いつまでも1つの壁の前で立ちすくんでいるわけにはいかない。

 

 

「シルヴァーナさんは本気だ。天候がこちらに有利でも、5thのツイスターが出ざるをえない可能性は十二分にある。だから、あいつはここで必ずモノにする」

 

 

 アグレストは仲間に向かって、19thシーズンで揉めた時と同じく、そう宣言した。

 

 口に出しておけば、出来ないとダサいだけ。

 自分は今までずっと、ダサいままだった。

 

 だがそろそろ、そんなダサい自分とはお別れをする時だ。

 




バトルエリア「クラッグビーチ02」は独自設定です。
ゲーム本編の「クラッグビーチ」からエリア中央の大岩を消して、代わりに大小の岩を大量に増やした感じを想像していただければ幸いです。
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