悪天の激闘! ソニックブラスト VS C.A.SOL   作:神父三号

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各ACの情報は、コンプリートガイドを元にして書いています。
また、本来はPSP版専用のオペレーションチップも登場します。
ご留意ください。



中編

 試合当日。12時45分。

 

 ヒルサイドGPバトルエリア「クラッグビーチ02」の天気は、湿り気を帯びた曇りだった。

 エリア傍に併設されたピットガレージの中からアグレストが改めて空の様子を窺うと、灰色の雲の少し遠くに、どす黒い雨雲が見えた。

 

「……風も強まる予報になっていたが、まだ弱い。試合開始時点からの降雨は無いな。ただ、15時の降水確率は100%。降水量も完全に大雨レベル。雷も鳴りそうだ」

「天はシルヴァーナさんに味方しましたね……」

「前半戦は湿気た曇りの中での、いつも通りの試合になるってだけだ。……最終判断を下すぞ。出撃順の変更は無し。1stのウィンド・シアはAIプリセット1、3rdのエア・ポケットはプリセット2、4thのストーム・ウィンドと5thのツイスターはプリセット3で対応する。いいな、トラバサ?」

「問題無い、リーダー」

「タービュランス、頑張って……」

 

 アグレストとトラバサが各機のAIパターンを決定し、ライカが自身の初陣となるホバータンクAC「タービュランス」の健闘を祈る。

 

 ライカが調整した「タービュランス」以外のu-ACはいずれも、AIパターンを3種作ってあった。

 プリセット1、通常戦闘パターン。

 プリセット2、戦闘中の天候変化に対応できるように、地形分析を最重視したパターン。

 プリセット3、大雨の中での戦闘を想定し、地形分析のみならず機体制御や移動制御も最大限に高めたパターン。

 プリセット2とプリセット3に関しては、動作テスト用のシミュレータで「クラッグビーチ02」を降水量最大に設定して動きをチェックしているが、所詮はシミュレーションだ。

 バトルエリアでの実機テストは、オフシーズンにしか許可されていない。

 

 また、u-ACやバトルエリアへの落雷については、調べても過去に事例が無かった。

 大雨の中での試合すら稀なことなのだ。

 雷が落ちたらどうなるかは、実際に落ちてみないと分からない。

 つまり対策のしようが無くて、考えても無駄だ。

 

 アグレストは設定を終えた5機のu-ACのデータをFFA(フォーミュラF運営局)へ送信して、待機している運営スタッフへ声をかけた。

 そして「ソニックブラスト」のチームスタッフが全員外に出て、ピットガレージが厳重に封鎖される。

 これで試合終了まで、ガレージの中に入れるのは各戦闘終了後の10分間のインターバル、それも勝利した機体を補給・整備する時だけだ。

 その慌ただしい作業現場は、メカニック達の戦場である。

 

 13時のサイレンが鳴った。

 ピットガレージの前に、チーム全員が整列する。

 バトルエリアの反対側では、同じように敵チームが整列していることだろう。

 

《さあ、全世界のフォーミュラFファンの諸君! 今日このクラッグビーチ02において、ヒルサイドGP最注目の一戦が始まろうとしている!》

 

 実況兼司会のマイケルがいつものように、ハイテンションで舌を回し始める。

 屋外バトルエリアの会場にはファンイベントやエキシビションマッチの時を除いて、観客は入場出来ない。

 この曇天の砂浜の下にいるのは、自分達「ソニックブラスト」と敵チーム「C.A.SOL」のスタッフ及びFFAスタッフ、報道関係者だけだ。

 

 マイケルの声だって現場にいる自分達には本来聞こえず、機械音声がその役割をこなす。

 トラバサが持ち込んだポータブルテレビで、生放送を流しているのだ。

 ベテランの彼曰く、機械音声よりもこういう実況を聞く方が試合中のモチベーション維持に役立つのだという。

 ただし、FFAの規定により試合中のチームが視聴出来る生放送は、解説者が実況に同席しない一部チャンネルのみとされている。

 フェルノ・ルカーチを初めとする有識者達の解説をリアルタイムで視聴するのは、何らかのアドバンテージになってしまいかねないからだ。

 

《対戦カードは、コンドゥトーレ・アルティスティコ・SOL対ソニックブラスト・リミテッド! 目下3連勝でGP優勝宣言をかました絶好調のC.A.SOLに対して、2勝1敗のソニックブラストがいつもの威勢の良さで果敢に立ち向かう! 両チームのオーダーが、もうじき発表されるぞぉっ!!》

 

 ピットガレージ前の超大型モニターに、お互いの出撃順が表示された。

 

 

 グリッド1。FFAランキング6位、「C.A.SOL」。

 1st、オービットフロート「beffardo(ベッファルド)」。

 2nd、パルスタンク「segue(セグエ)」。

 3rd、実弾連射ホバータンク「al fine(アル・フィーネ)」。

 4th、グレネードホバータンク「con forza(コン・フォルツァ)」。

 5th、リニア四脚「tempestoso(テンペストーソ)」。

 

 

 グリッド2。FFAランキング9位、「ソニックブラスト」。

 1st、Wマシンガン逆関節「ウィンド・シア」。

 2nd、高火力ホバータンク「タービュランス」。

 3rd、武器腕グレネードフロート「エア・ポケット」。

 4th、Wスナイパーライフル中量二脚「ストーム・ウィンド」。

 5th、高収束ブレード主体の四脚「ツイスター」。

 

 

「……トラバサ。あんたの読み通り、オービットフロートが1stだ。ガン攻めで来るぞ」

「ああ。だがそれよりも、3rdのアル・フィーネだ。やはり仕掛けてきたな、シルヴァーナ」

 

 ベテランの言葉に、アグレストは黙って頷いた。

 「アル・フィーネ」は昨シーズンまでずっと、5thACで固定だった。

 それが崩されたのは、今シーズンの「AF KISARAGI」戦が初めてだ。

 そして、今回も3rdACにしてきた。

 「C.A.SOL」のアーキテクトであるシルヴァーナの気迫が、砂浜の向こう側から伝わってくるようだ。

 

 とはいえ、もう賽は投げられた。

 ここからアーキテクトに出来ることは、u-ACが撃破された後のインターバルでメカニック達と次の機体の整備プランを確認することだけだ。

 

 超大型モニターに両チームの広報用PVやスポンサー企業及び協賛企業のCMが流され、それが終わると、整列していたアグレスト以下「ソニックブラスト」のチームスタッフは一斉にバトルエリアとピットガレージへ一礼した。

 そして実況のマイケルが恒例の各機体解説をしている間に、「ソニックブラスト」は雨避け用の仮設テントを2つ、ガレージ横に建てた。

 アーキテクト用と、メカニック用である。

 

 また、現地に観客がいなくとも、試合開始前のパフォーマンスは実施される。

 今回のパフォーマンスは、u-ACをダウンサイジングしたシミュレートキット"Cu-AC"の砂浜でのダンスだった。

 そのAI構築はやはり、エンターテインメント特化チーム「ジュブナイル」のアーキテクトであるケージ・ロイヤーによるものらしい。

 

「おぉ……相変わらず戦闘以外のことをさせたら天才だな、ロイヤーは……」

「やっぱり欲しいなぁ……Cu-AC……」

 

 サブアーキテクトのトラバサとライカが両方とも、弾んだ声をあげてモニターに映されたCu-ACのダンスに見入っている。

 トラバサはCu-ACの第1回世界大会優勝を機に、アーキテクトへ復帰したのだ。

 ライカもライセンスを取る前に欲しかったそうだが、値段が高くて購入を諦めたという。

 

「アグレスト氏。オープニングセレモニーの参加は今回もあなたがチーム代表のアクロア氏の代わりでよろしいですか?」

「……ああ。俺がやる」

 

 FFAスタッフがオープンカーを運転し、アグレストをバトルエリアの端まで連れていく。

 そして、1丁のライフルが差し出された。

 三大企業であるミラージュ・クレスト・キサラギがフォーミュラFのために共同開発した、特注品の空砲である。

 エリアの反対側では、対戦相手のシルヴァーナも同じ物を持っている。

 アグレストは息を大きく吸い込んだ。

 

 

「知性の女神と"人類の親鳥"に対して今ここに、最高の戦いを誓う! ……勝利の栄光を、勝ち取るために!!」

 

 

 発砲。

 それを合図にしてバトルエリアの中央に、1つのエンブレムがくっきりと投影された。

 かつて地下世界で人類という"雛"を育て上げて地上に回帰させた、"親鳥"のエンブレムだ。

 アグレストが生まれるよりも、ずっとずっと昔の時代のものである。

 だが今でもこの古いエンブレムは、あらゆる人類の行事や式典で使用されている。

 フォーミュラFにおいても、それは例外ではない。

 

《試合開始まで残り5分! 両チームの一番槍がいよいよ、曇天の戦場へと姿を現すぞぉ!!》

 

 アグレストが戻り、トラバサとライカを連れてテントに入った直後、ピットガレージの1stゲートが開かれた。

 逆関節AC「ウィンド・シア」が軽快に飛び出していき、スタートポジションに着く。

 相手のオービットフロート「ベッファルド」もだ。

 雨はまだ、降る気配が無い。

 

 

 

《それではぁっ! レギュレーション「規格(フォーミュラ)戦場(フロント)」! レディー……ゴーッッ!!!》

 

 

 

 試合開始。

 

 「ウィンド・シア」がブースタ全開で距離を詰めていく。

 バトルエリアである「クラッグビーチ02」は障害物こそ多いが、エリア自体は狭い。

 一瞬で敵を射程距離に捉えた「ウィンド・シア」が両腕のマシンガンと実弾EOを起動して、猛攻撃を開始した。

 これは接近しての全武装一斉射撃を促すオペレーションチップ「フルスケールアタック」を2枚、重火器使用を促す「ドラムアヘッドプラス」を1枚積んでいるためだ。

 1枚あたり効果時間は30秒。リスクを考えない全力の攻めは1分半しかもたないが、相手は脆いフロートだ。

 充分溶かしきれると、アグレストは考えていた。

 レギュレーションでは3枚の使用が許される「フルスケールアタック」を2枚にした理由は、1分の猛攻で溶かしきれないのはパルスタンクの場合だけだと考えたからである。

 その場合は、爆雷ミサイルに切り替えた方がいい。

 残る1枚の「フルスケールアタック」は、5thAC用だ。

 

 しかし。

 

《ああっと、どうしたことだぁっ!? SOLのベッファルドがいきなり近くの岩に引っかかったぞ!! AIの調整ミスか!?》

「違うっ! あえて隠れさせている! オペレーションチップのスクリーンアウトだ!!」

 

 実況のマイケルに言い返すように、テントの中でトラバサがタブレット端末を見て喚く。

 オービットフロート「ベッファルド」はスタートポジションの傍にあった細長い岩に隠れて、武器腕オービットと両肩オービットキャノンを最大展開した。

 「ウィンド・シア」が激しくばら撒く弾丸のいくらかが岩の盾によって阻まれ、逆にオービットはこちらに纏わりついてラインレーザーの高密度連射を叩き込んでくる。

 シルヴァーナは、こちらの1stACとそのオペレーションを読んでいたのだ。

 

《こ、これは上手い!! ベッファルドは岩を巧みにシールド代わりにして、ウィンド・シアの猛攻を防いでいるっ! "楽団"の見事なプレリュードだぁぁ!!》

 

 実況が声を張り上げ、女傑の振るう指揮棒の冴えを絶賛する。

 

「まずいぞ、リーダー。ウィンド・シアはフルスケールアタックの効果でひたすらインファイトする動きになっている。逆関節の機動力のおかげで何とか岩を回り込みながら仕掛けられているが、ダメージレースで若干負けている。このまままじゃ、熱暴走もするぞ」

「ええと……スクリーンアウトの使用可能枚数は3枚。全部積んであったら、こっちのフルスケールアタックと相殺し合いますね。3枚目のドラムアヘッドプラスになれば、爆雷ミサイルで有利ですけど」

「……オービットの連射は激しすぎてAIじゃ元々綺麗に回避しきれるものじゃない。こういう泥沼の撃ち合いになるのは、仕方無いことだった。それでもウィンド・シアは、ブーストスキップを活用するように移動特性を設定している。両肩オービットも跳びはねる高機動AC相手じゃ命中率はかなり悪い。躱せる攻撃は最低限、躱せているはずだ」

 

 アグレストは自分に言い聞かせるようにして、現状を分析した。

 どの道「ウィンド・シア」の瞬間火力を活かしきるには、敵の攻撃に怯まず可能な限り突っ込み続ける「フルスケールアタック」が最善だ。

 相手が上手く凌いできても、この1stACはこの戦法を貫くべきなのだ。

 それでもマシンガンの弾幕を岩が上手く防ぎ、オービットが間断無く発射されてくる。

 流石に堪えきれずに、「ウィンド・シア」が熱暴走し始める。

 

《第1ラウンド開幕から熾烈な攻防が続いているぞ! 岩を盾にしてオービットを出し続けるベッファルド! そこにウィンド・シアが全武装を連射しながら、執拗に食らいついている!! だが、だがしかしっ! 流石にAP差が大きく開き始めたっ!! ベッファルドのAP4500に対して、ウィンド・シアは3700! 3600! 3500!!》

 

 岩が邪魔だ。邪魔過ぎる。

 アグレストは歯を食いしばって、自分がAI調整した1stACの奮闘を見守った。

 

 フォーミュラFにおいて、障害物の破壊は不可能だ。

 そもそもバトルエリアは自然環境をそのまま使っているわけではなく、オーガ・コンストラクション・ファームを初めとする建設企業群が試合用に自然を再現して作った戦場だからである。

 各障害物や地形などは一見自然物でも実際は強固な建造物であり、さらに内部のENシールドを二枚の重装甲で挟み込んで作られている。

 金属物でないのは、草原や砂浜、雪原といった地面のみなのだ。

 バトルエリア「クラッグビーチ」は現在3種類あり、その中でもこの「クラッグビーチ02」は障害物となる大小の岩が非常に多い。

 

 相手は思い出したように、インサイドからECMメーカーを出した。

 低性能のECMだから、しっかりと対策してあるこちらには効かない。

 それでも「ウィンド・シア」のAPが2000を切った。EN容量レッドゾーン。

 相手の「ベッファルド」は、まだ3100。

 

 1秒1秒が、本当に長い。

 フォーミュラFは、いつだってそうだ。

 

《おあぁっ!? 今度は正真正銘のアクシデントだ! ベッファルドの武器腕オービットが半分不発っ! これは痛いっ!!》

 

 ライカが息を呑み、思わず席を立った。

 「ベッファルド」の右武器腕から新たに射出されたオービットが岩に衝突し、そのまま爆散したのだ。

 岩に張り付きすぎたが故の不運である。

 両肩のオービットキャノンも、力尽きて爆散する。

 だが、後続が出されない。

 武器腕で消費したENが大きすぎて、AIが使用を躊躇しているからだ。

 おそらく熱暴走によってEN容量が限界ギリギリなのだろう。

 いける。アグレストは拳を握りしめた。

 

 ラインレーザーの弾幕がはっきり薄まった中を、「ウィンド・シア」が一気に攻めかかる。

 AP逆転。加速する熱暴走で、相手のAPが勝手に減少までし始めた。

 ラジエータが冷却にENを食って、武器腕オービットは追加出来ていない。

 命中精度の悪い両肩オービットを、苦し紛れに出すだけだ。

 

 AP1000。500。0。

 

《決まったぁっ!! 第1ラウンドの凄まじい競り合いを制したのはウィンド・シア! 運も実力のうち! 知性の女神は、時に気まぐれなもの! ソニックブラスト、まずは1勝目だぁぁっ!!》

「やったぁ! 逆転ですよ!!」

 

 ライカが諸手を挙げ、跳びはねて喜んだ。

 外で大型モニターを見ていたメカニック達も歓声を上げる。

 だがそれも、すぐに静まった。

 チーフ達が、大声で指示を出し始める。

 

 勝利した「ウィンド・シア」が、どこか誇らしげにピットガレージへと戻ってきた。

 待機していたFFAの補給車が防御スクリーンの耐久値であるAPの回復を始めるために、ケーブルを繋いだ。

 それを合図に、10分のインターバルが開始する。

 

「行くよ! 足回りと頭部最優先! 10分で仕上げきる!!」

「弾薬は補給後にトリプルチェックだ! 装弾数ミスるんじゃねえぞ!」

 

 メカニック達が全力疾走して機能停止したu-ACに駆け寄り、整備作業を開始する。

 レギュレーション上、戦闘後のu-ACは最大APの20%分、FFAから直々にAP回復を受ける。

 各武器の弾薬も装弾数の20%分の補充が認められているが、こちらはチームスタッフで行わなければならない。

 そしてインターバル終了後にFFAの審査を受け、規定以上の弾薬を補充していれば即失格だ。

 機体各部のメンテナンスも許されているが、時間はたった10分しかない。

 各部門のチーフ達は直前の戦闘内容やアーキテクトの指示からチェックすべき項目を即座に判断して、部下に指示を出すのである。

 

「まだ熱が篭ってる! 冷却キット追加!!」

「あと5分だ! 頭部とレーダーのメンテ急げよ!」

「チーフ! 弾薬の最終チェックお願いします!!」

 

 ピットガレージが極めて慌ただしい空気に包まれる。

 両チームのインターバルの様子は当然、戦闘と同じく生放送されている。

 これもまた、フォーミュラFの醍醐味だからだ。

 

《ソニックブラスト、相変わらず活気に溢れたインターバルだ! メカニック全員が一丸となり、声を張り上げながら忙しなく作業を進めている! 一方、C.A.SOLは女傑シルヴァーナの独壇場! これまた恒例の光景だぞ! スタッフ一同真剣な表情で、彼女の演説に聞き入っているっ!!》

 

 トラバサが持ち込んだポータブルテレビには、「C.A.SOL」のインターバルも映っている。

 u-ACを撃破されたチームが、インターバル中に後続の機体に触れることは出来ない。

 かといって、10分間を無為に過ごすわけではない。

 

 レギュレーションでは試合中のアーキテクトとメカニックの会話は、インターバル中しか許されていないからである。

 だからアーキテクトは戦闘内容から敵機の分析やエリアコンディションの確認を行い、メカニック達と今後の整備プランを予め練るのだ。

 "楽団"の指揮者シルヴァーナがガレージの前にスタッフを集めて、タブレット端末を片手に何やら話している。

 流石に、その内容が分かるような放送の仕方はされないが。

 

「……風が急に強くなってきたな」

 

 テントの外に出た、「ソニックブラスト」のアーキテクト3人。

 トラバサが、空を見上げて呟く。

 視線の先には、いつの間にか近くまで迫ってきている黒い雨雲。

 

「第2ラウンド開始と同時に降ってくれたり……はしないですよね」

「だいぶ湿度が上がってきてはいるがな。けど、期待は出来ないな」

 

 アグレストはそう返しながら、掌を小さく前に出した。

 雨粒は、まだ落ちてこない。

 ライカの気持ちは分かるが、天気はそれに応えてくれそうになかった。

 

「撤収ぅー! 撤収ぅぅーーっ!!」

 

 最初の"戦い"を終えたメカニック達が、急いでピットガレージから飛び出してくる。

 残り30秒まで、整備作業をこなしていたのだ。

 インターバル終了のサイレンが鳴り響き、FFAスタッフがレギュレーション違反の有無を細かくチェックする。

 問題無く審査を通り、戦闘続行許可のサインが出された。

 

《さあ、両チームのu-ACが再びスタートポジションについたぞ! ソニックブラストは1stACのウィンド・シアがそのまま連戦だ! しかし先ほどの激闘が響き、APはインターバルを挟んでもたった2500!! 対するC.A.SOLは、万全の2ndACセグエ! AP9600超の超重量級パルスタンクだ!! ソニックブラスト、これは厳しいかっ!?》

 

 厳しい。

 アグレストは目を細め、自身の端末を睨みつける。

 「ウィンド・シア」は初戦で予想された敵の猛攻撃に競り勝つために、オペレーションチップ「フルスケールアタック」を2枚使用しているのだ。

 これはダブルトリガーに加えてEOもフル活用する超攻撃型オペレーションだが、その分回避行動が疎かになる。

 先ほど勝てたのは逆関節ACの高機動でオービットの連射をある程度凌げたのと、後半の「ベッファルド」の不運故だ。

 

 

 

《それではぁっ! 第2ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》

 

 

 

 満身創痍の「ウィンド・シア」が、果敢に敵へと挑む。

 しかし、やはり敵の2ndAC「セグエ」からの先制攻撃が始まった。

 肩武装、3連バースト射撃を行うパルスキャノンだ。

 両腕のマシンガンもEOも、この距離ではまだ有効に機能しない。

 3発のうち2発のパルスを被弾した。

 

「雨降って……! お願い……!」

 

 ライカが両目を閉じて願う。

 だが、願いは天に届かない。

 何とか敵を有効射程に捉えた「ウィンド・シア」がマシンガンを撃ち始めるも、既にAPは2000を切っている。

 「セグエ」はさらに左腕のパルスライフルを攻撃に加えてきた。

 

「……流石に駄目か」

 

 トラバサが苦々しそうにぼやいた十秒後、「ウィンド・シア」はその場に崩れ落ちた。

 

《あぁーっと瞬殺! 第2ラウンドを制したのは、SOLのセグエ! 逆関節の機動力をもってしても、バーストパルスの猛攻撃からは逃れられなかった! これで勝負は振り出しに戻ったぞぉっ!!》

 

 よく粘った方だと、アグレストは自機の奮闘を心の中で称えた。

 FFAスタッフが、迅速に「ウィンド・シア」の回収へと向かう。

 敵のu-ACがピットガレージに戻っていき、再び10分のインターバルが始まった。

 テント前のアグレストの周りに、チームスタッフ達がすぐさま集まってくる。

 

「SOLの2ndACセグエのAPは9600。ウィンド・シアが何とか削った1200も、このインターバルで全回復される。2ndACのタービュランスがどれだけやれるかだが……もし勝った場合の整備はいつも通り足回りと頭部最優先、終わればレーダーだ。ライカ、確認のために改めてAIチューニングとオペレーションの説明を」

「は、はいっ! タービュランスのAIは距離特性を近距離にかなり寄せ、索敵制御や地形分析を最大値へ! 近距離で常に回り込みながら攻撃するような仕様に構築しています! それと、えっと……戦術はオペレーションチップのライトバックパッカーを2枚使い、試合前半に軽量リニアガンと左腕のショットガンの連射攻撃を可能限り叩き込むスタイルです! だから多分勝負は1stAC同士のような……激しい削り合いになります!!」

「……私から補足を。先ほどのパルスタンクは右腕のパルスライフルが撃てる状況になっても、ずっと肩のバーストパルスキャノンを使い続けていた。確証は無いが、オペレーションチップのデュアルバックパッカーで肩武装を使い続ける仕様にしている可能性が高い。……セグエは両肩とも同じバーストパルスで、エクステンションに予備バッテリー。おそらく、ひたすら垂れ流して弾切れギリギリになるまでを計算してオペレーションチップを積み込んでいるだろう」

「えぇっ、じゃあかなりマズいんじゃ……!? タービュランスのホバーは、かなり発熱量があるんですよ!?」

「いや、構わない。お前のAI調整方針は正しいし、俺達だってきちんと確認して、承知の上で通した。ホバータンクでパルスキャノンを連射してくる超重量級タンク相手に足を止めて真っ正面から撃ち合えば、それこそ勝ち目は無い。相手がオービットフロートだった場合もそうだ。……それに、クラッグビーチ02は障害物の岩だらけだからな。武装特性上、AIは互いに近づくだろうから、熱暴走しようがバーストパルスを少しでも岩で防御できるように動き回るのがベストだ」

「そ、そうですか……良かったぁ……」

「あとはお空のご機嫌次第だな。15時で降水確率100%なんだ。そろそろ何とか……」

 

 ライカが安堵のため息を吐き、トラバサがまた空を見上げた。

 このインターバルの間にもう、分厚い暗雲は頭上までやって来ている。

 

 いつ降り出してもおかしくない。

 残り4分。

 出来ればさっさと降ってほしい。

 残り3分。

 ポータブルテレビから流れる騒々しい実況を聞きながら、アグレストは幸運の雨を待った。

 

 しかし無情にも雨は降らずに、インターバル終了のサイレン。

 

 ピットガレージの2ndゲートが開き、ホバータンクAC「タービュランス」が出陣する。

 その背中に向け、「頑張って!」とライカが叫んだ。

 

 

 

《無傷の2ndAC、それもタンク同士が激突する! アツい戦いで熱暴走しないでくれよ? それではぁっ! 第3ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》

 

 

 

 開幕から、リニアガンとパルスキャノンの激しい応酬が始まった。

「タービュランス」はホバーブースタを吹かしながら、砂浜と浅瀬に突き出る多数の岩の間を上手にすり抜けて、ショットガンも撃ちつつ敵に接近していく。

 

「……まずいか、これは」

 

 今度はテントの外で観戦する、「ソニックブラスト」のアーキテクト達。

 トラバサが序盤のやりとりを見て、感想を漏らした。

 ライカの組んだAIは、「タービュランス」をしっかりと動かしていた。

 岩にはひっかかっていないし、きちんと意図した通り回り込むような挙動も出来ている。

 とはいえ。

 

《タンク勝負はSOLのセグエが優勢だ! どっしりと構え、絶えず動き回るソニックブラストのタービュランスを狙い撃っているぞぉ!!》

「えっ……上手く動いてるのに、押し負けてる……!?」

 

 ライカが自身のタブレット端末を覗き込みながら、口元を抑えた。

 

 相手の「セグエ」は極めて遅いタンクで、AIも雨を考慮してか短期決戦を狙う攻撃特化仕様。

 互いに距離を詰めた後はもうサイティング目的以外の動きはほぼ見せていないから、「タービュランス」の攻撃はほぼ全弾命中している。

 

 それでも「セグエ」はAP9600を確保した、実弾防御に秀でたパーツ構成のACだ。

 おそらくチューンナップだって、こちらの構成を見て実弾防御に特化させている。

 実弾しかない上に比較的防御の薄いホバータンクの「タービュランス」では、どれだけ上手く動き回らせても劣勢になる。

 アグレストもトラバサもそれをしっかりと理解して、それでもライカのAI調整にゴーサインを出したのだ。

 一応、回り込む動きや怯えて下がる動きの中で障害物を利用してお互いの射線を都度切り、叩きつけられるパルス相手にかなり粘ってはいる。

 

「……よくやっているんだがな。こればかりはアセンの相性が悪いな、リーダー」

「ああ。だけど、削れるところまでは何とか削ってほしい」

 

 ライカの「タービュランス」は、充分によくやっている。

 リニアガンとショットガンが与えている熱量だって、相当なはずだ。

 APが減り始めていないだけで、敵は既に熱暴走している可能性もある。

 それでもパルス連射が止まらないのは、予備バッテリーがあるからだ。

 さっき1回使ったのは確認した。

 あのタイプのバッテリーは、もう1回使える。

 

 「タービュランス」のAPは、4300。

 だが、「セグエ」はまだ5800だ。

 

《ダメだぁ~! タービュランス、逆転出来ない! じりじりと差が開き始めた!! いつまで動き続けられる!? 熱量と残りENは大丈夫かっ!?》

「熱暴走が止まらないっ……!」

 

 ライカが引きつった表情で呻く。

 蓄積した熱量がラジエータの冷却限界を超え、ENだけでなくAPも減少し始めた。

 相手は予備バッテリーまで積んで、パルスをひたすら撃ってくる。

 ACがチャージングを恐れて、移動を躊躇い始めた。

 動きが止まれば、そこで終わりだ。

 

 こちらのAP2200。

 相手は4500。

 

 やがて、AP1500を切った。

 健闘したが、もう趨勢は決まりだ。

 2枚抜きを食らう。

 あとは3rdACの「エア・ポケット」で仕留められる範囲まで、何とか削ってくれれば──

 

 ポツ。ポツポツポツ。

 

「!?」

 

 タブレット端末に落ちた水滴。

 3人のアーキテクトは、弾かれたように顔を上げた。

 

《おおっ、こ、これは!? 雨だ! ここに来てついに雨が降り始めたぞぉっ!!》

「やったーっ! 神さま"親鳥"さまぁ!!」

 

 ライカが両手を突き上げた勢いで、端末が宙を舞う。

 後ろのメカニックが何とかそれをキャッチした。

 

 まだ大雨と呼べるほどではないが、降り始めから中々の勢いだ。

 

 アグレストとトラバサはテントにも入らずその場ですぐに、パルスキャノンのダメージをチェックした。

 1発あたりの威力が大幅に落ちている。弾速もだ。

 低速ホバーで辛うじて動く「タービュランス」相手にすら、過半数が当たっていない。

 左腕のパルスライフルに至っては光弾の形すら保てておらず、完全に機能不全。

 

 初戦と同じだ。

 運がこちらに味方してくれた。

 地形分析を高く設定してあったAIが雨天でのパルス攻撃の無力を理解し始めたのか、「セグエ」の左腕が完全に沈黙した。

 熱暴走から立ち直った「タービュランス」が、これ幸いと攻める。

 「セグエ」のAPがゴリゴリと削れていく。

 勝てる。勝った。逆転勝ちだ。

 

《来たぁぁっ! 大チャンス到来!! パルスが半ば死んだSOLのセグエに、ソニックブラストのタービュランスが猛攻を仕掛けるっ!! これはもはや一方的だっ!! 第3ラウンド、2ndAC同士の戦いはこのままタービュランスの逆転勝ちで……あぁっと!? セグエが、セグエが急にぃっ!!》

「ドラムアヘッドプラスか!?」

 

 真っ先に状況を理解したトラバサが、声を裏返した。

 敵に大きく接近しての重火器使用を促すオペレーションチップ「ドラムアヘッドプラス」。

 その効果によって今までほぼ動かなかった「セグエ」が突如ブースタを噴射して、「タービュランス」に接近し始めたのだ。

 距離が縮まったことで、パーストパルスキャノンの威力が僅かに息を吹き返す。

 

 至近距離での極限の撃ち合いに競り勝ったのは、「C.A.SOL」の「セグエ」だった。

 

《すっっばらしいぃぃぃっっ!!! 降りしきる雨の中! 絶体絶命のパルスタンクが、オペレーションチップによってまさかの大逆転勝利っ!! これぞアーキテクトの知性! これぞ"楽団"の指揮者! シルヴァーナのタクトの一振りが、知性の女神すら魅了したぁっ!!》

 

 雨の中でライカが唖然として、硬直している。

 トラバサも大口を開けたまま、濡れた手で拍手した。

 

 オペレーションチップの、完全な決め打ち。

 天候の推移まで想定しての、まさしくアーキテクトの知性の勝利だ。

 今日のシルヴァーナは、神がかっている。

 

 インターバルが始まるまでずっと、「ソニックブラスト」のアーキテクト達は雨に濡れていた。

 

「気合入れろォッ!!」

 

 インターバル開始直後。

 アグレストの号令で、メカニック達が互いの頬をひっぱたき合う。

 アグレスト自身も、トラバサとしばき合った。

 ライカは自分で自分の頬を叩いた。

 

 そしてアーキテクト用テントに入り、雨避けの透明な横幕を下ろして、ミーティングを始める。

 雨足も風も、急速に強まっていく。

 雷のゴロゴロとした音まで聞こえ始めた。

 

「もう大雨状態だ。さっきまでギリギリ生きてたセグエのパルスは、これで完全に死ぬ。APも300しか残ってなかったから、このインターバルで回復しても2200。3rdACのエア・ポケットは最低限の弾薬消費だけで奴を倒せる。……だからミーティングは、3rd同士についてだ。まあ、大雨とはいえエアポケットも今まで通り、ブースタと頭部最優先の整備方針でいいと思う。次にレーダーだな。冷却は脚部から始めてくれ」

「担当の私からは、整備の参考に改めてエア・ポケットのAI説明をする。エア・ポケットは皆知っての通り、AIキャパシティが極めて高い頭部を積んでいる。それで戦闘に必要な動作の精度を充分に引き上げることが可能だから、オペレーションチップはインサイド使用を促すものだけだ。あとはまあ、空中行動の抑制だな。基本に忠実に安定行動させるのが、武器腕フロートは一番強い」

「シルヴァーナさんの3rdACは連射武装統一の近接ホバータンクACアル・フィーネですね……今まではフィニッシャーだった機体ですけど……」

「トラバサ、あんたはどう読む? 今日のシルヴァーナさんは尋常じゃないぞ」

「……アル・フィーネは定番のバランス型ECMメーカーを積んでいる。これをオペレーションチップとAI調整で大量にばら撒き散らしてくると予想している」

 

 テントの中にどよめきが起こった。

 ライカが素早く試合開始直前に公開された「アル・フィーネ」のアセンブリをタブレット端末に表示させて、机上に置く。

 

「キサラギのSYAMANAだろ? ACが使用する広域ジャミングのECMメーカーが雨の影響をほぼ受けないのは、一昨日のミーティングで確認した。だけど、あんたがチームへ加入してきた時に、SYAMANAのECMなら食らっても大丈夫なように全機対策したはずだ」

「1個だけなら、な。しかし常に複数個ばら撒かれれば、現代のACでは対策不可能だ。そして強力なECMの影響を受ければu-ACのAIは、ノーロック武装以外の攻撃精度と頻度が大きく低下する」

「そんな……でも、オペレーションチップでインサイドの使用を促しても、ECMメーカーを常に複数個ばら撒き続けるなんて出来るんですか?」

「確実ではないが……その行動を取る確率を大きく上げる手段がある。オペレーションに加えて、戦略特性を防御特化にすることだ」

 

 再びどよめき。

 

 フォーミュラFの1ラウンドは3分間であり、勝敗はAPの実数値で決まる。

 現代のAI技術ではACが放つ攻撃を片っ端から回避しきるなど到底不可能であり、故にAI構築理論はいかに攻撃を高精度で効率的に仕掛けるかが重要視されてきた。

 防御を重視するならばAIの戦略特性を弄るよりも、エクステンションの迎撃装置や追加装甲で保険をかけるか、そもそもAPや防御力が高くなるように本体のパーツ構成を弄るのが基本だ。

 バトルエリアだって3分の交戦時間に合わせて広さが決められているのだから、u-ACは防御や回避に専念するより積極的に攻撃した方が勝率は格段に上がる、とされているのである。

 

 だからAIの戦略特性は、距離を離したい遠距離特化機体か、大雨で死んだEN武装機体を使って無理やり相手の弾薬を消耗させるといった特異な戦法を取らない限りは、攻撃に寄せるのが定石なのだ。

 武器腕マシンガンとチェインガン、そして実弾連射EOという超攻撃型ホバータンクACである「アル・フィーネ」の戦略特性をあえて防御特化にするなどと、フォーミュラFの常識で考えればありえない。

 

 ポータブルテレビから、実況のマイケルが「C.A.SOL」の整備作業の手際を絶賛する声が聞こえてくる。

 トラバサはその音量をゼロにした。

 

「戦略特性を防御特化にするのは攻撃行動全般に悪影響を及ぼしかねない、ほぼ賭けのような戦法。特に、こういう障害物の多いエリアではな。だが、事前のシミュレーションではまさにこの状況を想定してテストしているはずだ。実戦で上手く通ればECMメーカーを全て使いきるまで、圧倒的なイニシアチブが取れる。そして勝てば、インターバルでSYAMANAは2個補充出来る。それで次も、数秒間のECM効果中に相手を少しでも一方的に削れる可能性がある。上手くアル・フィーネで2枚抜きかこちらの4thを大きく消耗させられれば、SOLの勝利はもう目前だ」

「だけどアル・フィーネはこれまで常に5thACに置かれてきた、シルヴァーナの切り札だ。名前からしても、『こいつで終わりにする』っていう絶対的な自信が窺える。"楽団"なんて言われる安定した統制力が売りのアーキテクトが3連勝中の今、悪天候とはいえ俺達相手にそんな奇策に走ってくるか?」

「わたしもリーダーと同じように思います。あっちからすればわたし達は格下……この大雨でも実弾装備AC達ならいつもの戦術で勝てるとして、無茶な冒険はしないんじゃないですか? さっきの2機がすごかったのは、雨の中で無理やり戦力として使いきるためじゃないかなって。だってこれ、ブロック予選通過に王手がかかっている大事な試合ですよ?」

「私も開始前まではそう思っていた。だが1stのスクリーンアウト、2ndのドラムアヘッドプラス……私が知るシルヴァーナならば絶対にやらなかった。彼女は良く言えば自分の書いた楽譜を大切にする、悪く言えばかなり保守的で型にはまったアーキテクトだった。……しかし今シーズンの彼女は鬼気迫っている。寵愛するアル・フィーネを要の3rdに置いている……それが私は怖い」

 

 アグレストは額の水滴を拭った。

 それが雨なのか汗なのかは分からない。

 

 インターバル終了まで、あと1分30秒。

 

「……じゃあ、それはもう考えても仕方無いですね!」

「ああ。もし決まれば拍手喝采ってだけさ」

「ふっ、だな。知性の女神って奴の気まぐれに任せよう」

 

 アーキテクト達は、すっぱりと割りきって笑った。

 どれだけ相手を分析したって、もうu-AC本体もAIも構成は弄れないのだ。

 この場ではu-ACとメカニック達に、精一杯頑張ってもらうしかない。

 

 あと1分。

 

「よーし、もっかい気合入れろォッ!!」

 

 アグレストの号令で、また皆でひっぱたき合う。

 そして全員がテントから飛び出した瞬間に、インターバル終了のサイレン。

 

 第4ラウンド。

 ピットガレージの3rdゲートから「エア・ポケット」が飛び出していき、大雨でパルスが全て死んでほぼ棒立ちの敵2ndAC「セグエ」を無傷で一蹴した。

 

 これでまた、10分のインターバルだ。

 今度はミーティング無しでメカニック達が、ガレージに帰ってきた「エア・ポケット」を念入りにチェックして、弾薬を規定数補給する。

 トラバサがポータブルテレビの音量を戻した。

 

《運と知性のせめぎ合いによって、ここまで勝負は完全に五分と五分! 次は3rdAC同士の戦いだぞ! ソニックブラストのエア・ポケットを迎え撃つのは、なんと誰もが知るC.A.SOL定番の最終演奏者、アル・フィーネっ!! 前回のキサラギ戦に引き続き、今回も定位置の5thから外れて出撃だぁぁ!!!》

 

「ソニックブラスト」の3rdAC「エア・ポケット」。

「C.A.SOL」の3rdAC「アル・フィーネ」。

 

 チームの中堅を担う2機のu-ACが、強風と雷雨の砂浜で対峙する。

 雨雲から伸びた一筋の光が、岩を模した障害物に突き刺さった。

 遅れて雷鳴。

 

 バトルエリアへの落雷だ。本当に発生してしまった。

 レーダーには影響無し。

 しかしAIが今の現象をどう認識したかは、試合終了後にデータを細かく解析してみないと分からない。

 それに、戦闘開始までまだ10秒もある。

 

 アグレストはテントの中でタブレット端末を見つめながら、ふと思った。

 

 未だに崇敬されている"人類の親鳥"とやらは、地下世界から巣立った人類が皆してこんな遊びに熱中しているのをどう思っているのだろうか、と。

 

 呆れているだろうか。

 怒っているだろうか。

 それとも、喜んでいるだろうか。

 

 

《雨も風も雷も、フォーミュラFは決して止められない!! それではぁっ! 第5ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》

 

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