悪天の激闘! ソニックブラスト VS C.A.SOL 作:神父三号
《雨も風も雷も、フォーミュラFは決して止められない!! それではぁっ! 第5ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》
「ソニックブラスト」の3rdACであるフロート「エア・ポケット」が武器腕グレネードを構え、スタートポジションから僅かに動いて射線を確保した直後に砲撃した。
「C.A.SOL」の3rdACである実弾連射武装ホバータンク「アル・フィーネ」の動き出しに、先制攻撃が直撃。
追撃のインサイドロケットは外れた。
相手は構わず、濡れた障害物の岩に隠れようと動いている。
先ほどの落雷の影響は、互いに無さそうだった。
初めの3秒が、ようやく経過。
「来たぞ、ECMだ!!」
テントの中でトラバサが、タブレット端末に向けて叫んだ。
1個目のECMメーカーが撃ち出され、バトルエリアのECMレベルが跳ね上がる。
クラッグビーチの初期ECM設定は微弱だ。
対策済みの「エア・ポケット」に対して、あの種類のメーカー1個ではほぼ影響など無い。
「エア・ポケット」は構わず、障害物の間を隠れながら徐々に近づいてくる「アル・フィーネ」をグレネードとロケットで狙い続ける。
だが、「アル・フィーネ」はブーストスキップである程度こちらの攻撃を上手く躱していた。
そして、まだ撃ってこない。既に主兵装である武器腕マシンガンの射程距離のはずだ。
トラバサの予想は当たった。
明らかに、AIの戦略特性を防御特化にしている。
「アル・フィーネ」のECMメーカーのリロードが、もうすぐ終わる。
あと1秒。
《のあぁーっ! アル・フィーネがECMメーカー2個目を射出!! このECM濃度はほぼ対策不可能だ!! エア・ポケットは大丈夫かぁ!?》
大丈夫なわけないだろ。
実況のマイケルに、アグレストは心の中で言い返した。
レーダー表示が乱れ、「エア・ポケット」のグレネードが障害物の岩めがけて無駄撃ちされた。
岩陰から現れた「アル・フィーネ」が、ようやく武器腕マシンガンを撃ち始める。
APがガリガリと削られ出した。
「約45秒……!」
ライカが搾り出すように呟く。
インターバル終了から彼女が予め携帯端末で計算していた、相手がECMメーカーをリロード終了直後に射出し続けた場合の、ECM有効時間である。
それでも「エア・ポケット」だって、激しいジャミングと大雨の中を何とか反撃している。
インサイドロケットを連射し、グレネードもほぼノーロックで、しかし高いAIパフォーマンスと近距離の撃ち合い故に何発かは当てていた。
砲撃音に負けじと、漆黒の空から雷鳴が轟く。
《エア・ポケット、凄まじいECMの中を必死に粘る! あぁーっと! しかしアル・フィーネは実弾EOも展開! さらに攻撃が苛烈になるぞぉぉ!!》
アグレストはタブレット端末の時間表示に目をやった。
30秒経過。
やはり「アル・フィーネ」はリロードが終われば即座に追加のECMメーカーを射出して、ジャミングを決して緩めない。
だが、「エア・ポケット」のAP3100。
「アル・フィーネ」は5300。
武器腕マシンガンと実弾連射EOという超攻撃型装備にしては、今日の「アル・フィーネ」は削りがかなり遅い。
EOは自動攻撃だから展開後は常時連射しているが、武器腕マシンガンの連射が時折止まっているせいだ。
ECMを最大限活用するため、戦略特性を防御特化にしたリスクが響いているのである。
「エア・ポケット」が短時間に大ダメージを叩き込まれ、怯えて距離を置く動きを見せ始めたのも大きいだろう。
そしてこちらが敵のAPを案外削れているのは、重ねがけのECMが攻撃を完全封殺するほどの強度を常時維持出来ていないからだ。
3個が同時に存在している一瞬以外は、AIパフォーマンスの優れた「エア・ポケット」に苦し紛れの反撃を許してしまっている。
武器腕に実弾連射EOコアとホバータンクというパーツ構成である「アル・フィーネ」のAPは、平均的な中量二脚以下なのだ。
いくらタンク脚部でも、効率の悪い撃ち合いをすれば案外脆い。
《これは一体どうしたことだ!? SOLの名高き演奏者アル・フィーネ! ECMの大嵐という圧倒的アドバンテージを得てもなお、攻めきれないぃっ!!》
「アル・フィーネ」がAIの気まぐれで、武器腕マシンガンをチェインガンに切り替えた。
しかしやはり、撃ちっぱなすような激しい連射を続けられない。
上手く決まれば一方的な虐殺になったはずのプランだったが──
「シルヴァーナ、流石に無理があったな……あるいはこれも運か……」
複雑な感情の入り混じった言葉が、トラバサの口からこぼれる。
ECMメーカー弾切れ。ジャミングの影響消失。
「エア・ポケット」が猛反撃に出ようとするも、既にAP800。
10秒ともたずに、その場に停止した。
「アル・フィーネ」の残りAPは、3200だ。
《第5ラウンド決着ーっ!! しかし、まさかまさかの展開!! 安定した動きが売りの"楽団"C.A.SOL! 看板機体がECM連発という奇策に出るも、これは本当に効果があったのか!? APこそしっかり残したが、インターバルで肝心のECMが補充しきれないぞぉっ!!》
実況の言う通りだ。
このインターバルで、「アル・フィーネ」はECMメーカーを2個しか補充出来ない。
あとは攻撃に消極的なAIが残るだけである。
10分のインターバル開始。
メカニック達が、アーキテクト用のテントの中に集まってくる。
雨風の勢いは強まる一方だ。雷鳴も雲が光るのも、やまない。
雨避けの透明な横幕が、吹きつける風で揺れている。
「敵のAPは回復して4800。だけど、ECMの補充は2個だけだ。効果は試合の序盤にしか出ない。俺達の4thAC、中量二脚のストーム・ウィンドはWスナイパーライフルによる長距離狙撃型。……トラバサ、再確認だ!」
「担当の私から改めて、AIロジックを説明する。1発1発が重要なスナイパーライフルにとって、射線を遮ってくる障害物の岩は天敵だ。よってAIの移動特性のうちジャンプを若干高めに設定して、回避で被弾を抑えるように防御戦術を最大にした。連戦でスナイパーライフルを早々と撃ち尽くした時のリスクを考えて、オペレーションチップはハードディフェンスを1枚だけ。……整備時は頭部、レーダー、FCS、スナイパーライフルの4つを最重点。とにかくこの4つだ。ECMの影響が残っていないかもチェックしてくれ。被弾が少なければ、足回りはノータッチで構わない。ミーティングの度に何度も言うが、狙撃機体はとにかく射撃精度が命だ」
「相手はこっちと真逆の近距離特化……詰めてきますよね? トラバサさん、マシンガンを受ける前に相手を倒せるでしょうか?」
「AP4800ではどうあがいても、1回は捉えられるな。だが、敵の攻撃はECM前提の防御特化AIにしたせいでかなりぬるい。機動力の差もあって、引き剥がすのは容易。……また、ECMを切らした後のアル・フィーネはおそらく障害物に隠れるような動きが増えるだろうが、地形分析も最大にしてある。ストーム・ウィンドは無駄弾を垂れ流すような戦いは極力しないし、ミサイルの使用だって控えるはずだ。しかし、問題はスナイパーライフルの装弾数だな。右は24発、左は27発。アル・フィーネは処理しきれるが……次のAP9000のホバータンクはどうしても格納武装のハンドガンを使うことになる」
ベテランのサブアーキテクトの的確な説明に、「ソニックブラスト」一同は頷いた。
話すべき事項は話し終えたが、まだ時間が4分残っている。
「狙撃機体の整備は特に念入りだ。次のインターバルは高確率で忙しくなる。だから今のうちに、SOLの4thACコン・フォルツァについても少し話しておこう」
「この子もECMメーカーを積んでますね……やっぱりさっきみたいな戦法を?」
「それは無いな。私が断言する。こいつのはアル・フィーネのECMのほぼ劣化版だ。ECMレベルと有効時間の関係で、重ねがけを主軸に据えた戦法は出来ない。……普通にオペレーションチップのライトバックパッカーを使って、弾速の速い両肩グレネードを乱射だ」
「だろうよ。だけど、バックパッカーは機能している間、右腕武器の使用を停止させる。だから1枚差しで、最初の30秒だけを担保してくると思う。後の動きは……ホバータンクだから最低限動き回るくらいかな。ストーム・ウィンドとは遠距離での撃ち合いだ。弾切れすればハンドガンでインファイトしかないが……もうそこのやり取りは残業みたいなもんだ」
アグレストはそう言いながら、頭の中でこの先の戦闘を見通した。
4thACの「ストーム・ウィンド」が弾数の少ないスナイパーライフルで、AP4800を残す「アル・フィーネ」を仕留めきる。
その後に消耗した状態で、同じ4thACでAP9000の「コン・フォルツァ」を相手取る。
無駄弾をどれだけ減らしても、格納武装のハンドガンで戦うタイミングが出てくるだろう。
高威力・高弾速のグレネードを持つホバータンクACを相手に、だ。
4th同士の対決を制するのは、かなり難しい。
トラバサと、目が合った。
おそらく今の自分も、このサブアーキテクトと同じ表情をしている。
ECMメーカーをひたすらばら撒くという奇策に出た敵の3rdAC「アル・フィーネ」。
ジャミング中の速攻こそ上手くいかなかったが、時間をかけつつも自身のAPはきっちり残し、「ソニックブラスト」の狙撃機体相手に、貴重な弾薬を消費させるという役割をまだこなせる状態でいる。
あの賭けは、ここまで読みきっていたのか。
ならばやはり、今日のシルヴァーナは神がかっていると言わざるをえない。
インターバル終了。
ピットガレージの4thゲートが開き、中量二脚AC「ストーム・ウィンド」が威勢良くブーストダッシュで駆けていく。
《さあ、試合中盤最大の山場だ! アル・フィーネが果敢に削るか、C.A.SOL!! またも試合を振り出しに戻すか、ソニックブラスト!! ここからはもう立て直しも難しいぞっ!! それではぁっ、第6ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》
今度の「アル・フィーネ」は開幕からECMメーカーを射出した。
当然、対策が施された「ストーム・ウィンド」には影響しない。
2個目が出されるまで、跳び上がった二脚ACが両腕のスナイパーライフルを撃ち鳴らす。
大雨も強風も、ACが放つ超高速の徹甲弾には障害とならない。
岩陰に隠れる間もなく、2発命中。続けてもう1発が刺さった。
右腕のスナイパーライフルは、素早く2連射出来るマガジン仕様なのだ。
《来たぞ、ジャミングの大嵐っ!!》
「っ……!」
「落ち着け、お嬢さん。リロードから2秒遅れた。……ほらな。1個目が潰れて、ECMの影響はもう無い」
「ひ、ひやひやしました……」
「アーキテクトがどれだけ頑張って手を尽くしても、AIは最適解を100%の確率で選べはしない。運はまだ、俺達に向いている」
そう思いたい。
思うしかなかった。
ECMの影響は一瞬だけだった。
あとは仕留めきるだけだ。
《ECMが消えて、雷雨の中での激しい撃ち合いが始まるぞ! ……んんっ!? おっと、アル・フィーネは距離を詰めきらない! そんな位置からマシンガンを撃って大丈夫かっ!?》
岩からのそのそと顔を出した「アル・フィーネ」が、エリア端で跳びはねる「ストーム・ウィンド」へ武器腕マシンガンを小出しに放つ。
近づかずに射程距離ギリギリでとりあえずロックしてばら撒くだけの、やる気の無い攻撃だ。
オペレーションチップ「ハードディフェンス」で回避行動が強化されて動き回る「ストーム・ウィンド」には、まったく有効打にならない。
戦略特性を防御特化にした弊害だ。
「アル・フィーネ」はスナイパーライフルの手痛い連続攻撃を受けてAIが危険を感じたのか、距離を取ろうともがく。
岩の後ろに隠れるも、分析能力を高められた「ストーム・ウィンド」に無駄弾を撃たせることは出来ない。
そうしてマシンガンを撃つためにまた出てきて、自身の射程距離まで接近し、しかし適当な連射中に撃たれて下がる。
ハマった。
接近戦型u-ACのAIロジック全てに共通する、致命的な落とし穴のパターンにハマった。
「……あと23秒」
トラバサが時間を確認する。
先ほどの戦闘から見て、シルヴァーナはオペレーションチップでインサイド射出の行動確率をがっつり補強していたはずだ。
完全に特化させていた以上、ECMメーカーがおよそ1分以内に使いきられることも当然分かっているだろう。
だから戦闘開始から1分経過後は、オペレーションチップ「フルスケールアタック」か「ドラムアヘッドプラス」で無理やり接近してくる可能性が極めて高い。
そのために岩に隠れさせてはこそこそ時間を稼いでいるのだ。
敵の残りAP800。
もう隠れるな。
早く仕留めろ。
隠れるな。仕留めろ。
1分が経過。
「アル・フィーネ」がブースタを吹かして、一直線に突っ込んできた。
だが。
《仕留めたぁぁ!! アル・フィーネが最後の意地を見せようとしたところへ、無慈悲な狙撃が突き刺さるっ!! ストーム・ウィンドは見事な回避と攻撃を両立し、インターバルでAP全回復確定! まさに一進一退、抜きつ抜かれつ! 両チーム互角の激しい競り合いがどこまでも続くっ!!》
互角、か。
ポータブルテレビから流れるマイケルの実況に、アグレストは歯を食いしばる。
確かに4th対4thをAP全快状態で始めるのだから、形の上ではそうだ。
だが、こちらはただでさえ少ないスナイパーライフルの装弾数を、3rdの「アル・フィーネ」相手に消耗してしまった。
レギュレーションによって、弾薬の補充はAPと同じく最大値の20%しか許されておらず、端数は切り捨て。
右は4発、左は5発しか補充出来ない。
無傷な4thAC同士の戦いでも、数少ない弾薬を消耗している分、こちらが大きく不利である。
とはいえ、この実況者は無知や浅慮によって適当なことを言っているわけではない。
解説者が同席しないこのチャンネルは、視聴者に試合の趨勢を自分で考察してもらうためのものなのだ。
途中加入してきたトラバサに、フォーミュラFはこういう楽しみ方もあるのだとアグレストは教えられた。
当然、豊富な知識を持つ解説者が事細かに状況を逐一説明するチャンネルだってある。
しかしそれを視聴することは、試合中のチームには認められていない。
「よし急げぇっ! 頭部、レーダー、FCS、スナイパーライフル!! とにかく射撃精度を見ろ!!」
「終わったらすぐに足回りだ! 冷却最優先!!」
ピットガレージでメカニック達が慌ただしく動き回っている。
そのどよめきは、至って正常だ。
かなりの大雨の中でも、u-ACは防御スクリーンできっちり保護されているのだ。
それに先ほどの雑なマシンガンの当たり方でどこかに異常が出るほど、この興行用の機動兵器はやわではない。
「トラバサ、どう見る?」
「……無理だな。全弾命中させても、相手のAPは4000から5000は残るんじゃないか? あとは格納ハンドガンで接近戦だ」
「AIは距離特性を中間、防御戦術を最大にしてます。ストーム・ウィンドが頑張って避け続けてくれれば、ハンドガンでも何とかなる……って考えは甘すぎでしょうか?」
新人アーキテクトの問いかけに2人のアーキテクトは重たく沈黙し、これが答えだと言うように雷鳴が轟く。
耳をつんざくような音だ。
また岩を模した障害物へ、雷が落ちたらしい。
「俺達アーキテクトの仕事はもう、インターバルでメカニック達とミーティングするだけだ。それしかない。u-ACとメカニック……仲間達を信じよう」
「ああ。……ついでに"人類の親鳥"にでも祈っておくか。雷が敵ACに落ちますように」
「雷が敵ACに落ちますようにっ……!!」
トラバサの冗談を真に受け、ライカが両手を組んで真剣に祈り始める。
アグレストもトラバサも、少女に野暮なことは言わなかった。
インターバル終了のサイレン。
《両チーム、ここまではまさにデッドヒート! また奇策を繰り出すのか、C.A.SOL!! このまま流れを掴むのか、ソニックブラスト!! 勝負はついに後半戦第7ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》
戦闘開始。
射線を素早く確保した敵の「コン・フォルツァ」が両肩と左腕のグレネードを放つも「ストーム・ウィンド」は跳んで躱し、スナイパーライフルの連射を浴びせる。
「クラッグビーチ02」は、比較的狭いバトルエリアだ。開始時点でお互い既に射程圏内である。
それにもかかわらず、相手は若干ながら間合いを詰めてきた。
距離特性を近距離に寄せている証拠だ。
グレネードの命中率を少しでも上げるためだろう。
「肩武器にすぐ切り替えましたね、リーダー……」
「そうだな。間違いなくオペレーションチップのバックパッカー。両肩に2連発グレネード装備だから、当然の判断だ。だが、こっちだって最初の30秒は回避行動強化のハードディフェンス。遠距離戦の間はかなり避けられる」
ライカはまだ両手を組んだままだ。
トラバサは目を細めて黙りこくっている。
《これは驚きだ! 開幕から激しい撃ち合いが続くも、ストーム・ウィンドは空中で華麗に舞い、グレネードをあらかた回避! かたやコン・フォルツァは1発も避けられない! 滅多打ち状態だ!!》
「よしっ、AIが怖がって距離を取り始めました! いけます!!」
「……あと5発」
「ハードディフェンスがもうじき切れるぞ。ビビって距離を取られたのが逆に響く」
興奮するライカの横で、トラバサとアグレストが呻く。
やはりAPは4500前後残る。
スナイパーライフル主体の「ストーム・ウィンド」にオペレーションチップを大量投入すると、こういう連戦でのアドリブが効かなくなるため、最初の30秒しか使っていない。
あとはハンドガンと素の挙動で、どこまでやれるのか。
ここまで上手く回避し続けて、「ストーム・ウィンド」のAPはまだ6800もある。
だが、薄氷の上の優位だ。
《ストーム・ウィンド、ここに来て攻撃の手が緩むっ! 右の弾切れっ! 左も残り3発!!》
弾切れしても、「ストーム・ウィンド」は即座にパージしない。
AIの気まぐれだ。
だが、それでいい。左を撃ちきるまではその方がいい。
撃ちきった。同時にパージして、ハンドガンに持ち替える。
「行けっ」
トラバサが珍しく、自機に発破をかけた。
エリア端に陣取っていた「ストーム・ウィンド」が動きを完全に変え、大きく詰め寄っていく。
「コン・フォルツァ」は肩の2連発グレネードを、下ろさない。
左のグレネードライフル共々、ハンドガンを両手に構えて接近する「ストーム・ウィンド」へ撃ち放つ。
流石に躱せない。直撃。
一瞬でAP差が詰まった。
「ダメっ! 下がらないで!!」
ライカの叫び虚しく、「ストーム・ウィンド」が怯えて下がる。
それでも大雨と強風の中、グレネードの絶え間無い追撃を防御戦術最大の狙撃手は、どうにかこうにか障害物と機動力を活かして、ある程度は回避していった。
そして何とか敵を射程に捉えて、撃ち始める。
「え、え、これって……!?」
「ずっと肩グレのまま!? バックパッカー2枚差しか!?」
「無茶苦茶だ! 連戦を考えてないのかシルヴァーナっ!!」
机を叩き、トラバサが吼える。
「コン・フォルツァ」は最初の30秒が過ぎても、両肩の2連発グレネードを執拗に使い続ける。
「バックパッカー」系のオペレーションチップは、右腕武器の使用を停止する効果もあるのだ。
弾切れすれば、左のグレネードライフルしか使えない。
初戦はそれで良くても、弾薬の補充が限られる次の連戦では極めて大きく響く。
これもまた、定石から外れた戦法だ。
《コン・フォルツァ、ひたすら両肩グレネード連発ぅ!! オペレーションチップの効果がまだ効いているのか!? ストーム・ウィンドは必死に躱して反撃するも、削り取られていく!! 流石にハンドガンでは、グレネード相手のダメージレースは厳しすぎるっ!!》
怯えて下がり、躱せるものだけ何とか躱して、再び近寄って反撃する「ストーム・ウィンド」。
回り込むようにして、ハンドガンを連射し始めた。
「良いぞ! 行けぇ!!」
アグレストは拳を握って、仲間達と戦闘に見入る。
圧倒的不利の中、AIは最善の選択をした。
敵のロックオンは障害物に隠れても切れないが、旋回性能はこちらが僅かに上回っているのだ。
回り込み続けてパターンにハメられれば、勝てる。
「ストーム・ウィンド」は残りAP1700。
もう既に即死圏内だ。
最後の2連発グレネードが放たれ──だが幸いにも両方外れた。
トラバサが、よしっと声をあげる。
防御戦術を高めきった結果だ。
瀬戸際で致命傷を回避して、左腕のグレネードライフルだけに出来た。
あれは単独では命中率が非常に悪い。
「ストーム・ウィンド」が猛反撃を開始する。
2枚目の「バックパッカー」終了まで、残り7秒。
チップの影響で両肩グレネードをパージしても、「コン・フォルツァ」は右腕グレネードを使わない。
ハンドガンのダブルトリガーが重装甲を無理やりぶっ叩く。
AP4500。
AP4000。
AP3500。
「コン・フォルツァ」が下がり始めるも、障害物のせいで素早く距離を取れない。
《ああーっと右のグレネード直撃!! ストーム・ウィンド捕まったぁ!! もう虫の息だぞぉっ!!》
「構わん! 削れっ、削れっ!!」
席を立つトラバサ。
アーキテクトの想いに応えるように、「ストーム・ウィンド」は必死に粘る。
敵AP2000。
再び右グレネード回避。
AP1700。
まだ粘る。
AP1300。
左が直撃。AIは怯えていない。まだやれる。
AP1100。
奇跡だ。右をずっと巧く回避しきっている。
奇跡の回避連発。
やれる。勝てる。
AP800。700。600。
貰った。2枚抜きだ。
カッ。
閃光。
全てが止まった。
雷鳴が、遅れて轟く。
「え」
ライカの声と同時に、再び動き出したu-AC。
グレネードの速射が、「ストーム・ウィンド」にトドメを刺した。
《っ……っ、っ!! は、え……な、なんと2機のu-AC近くの岩に、落雷……戦闘が一瞬止まり、再開直後にコン・フォルツァの一撃がストーム・ウィンドを仕留めました。こ、これは何というか……よく分からんがとにかく第7ラウンド決着ぅぅっっ!!!》
ベテランのサブアーキテクトが頭を抱えて、椅子に力無く腰を下ろした。
雷が直撃するかバトルエリアに落ちると、AIは大きく混乱する可能性がある。
トラバサが一昨日のミーティングで予想した通りになった。
よりにもよって、この土壇場で。
「っ……切り替えろ2人とも! 初戦はこっちが運で勝った! 今回はあっちが運で勝った! それだけだっ!!」
アグレストは呆然とするサブアーキテクト達に声をかける。
10分のインターバルが開始。
「気合入れろォォッ!!!」
今日一番の、アグレストの大号令。
テントの中でまたもチーム全員が頬をひっぱたき合う。
トラバサもライカも、強張った表情ながら何とか立ち直っている。
メカニック達もだ。
「いいか皆、よく聞け。コン・フォルツァは回復を挟んでもAP2300。障害物を積極的に活かすAIでもなく、両肩の2連発グレネードは4発しか回復しない。しかもさっきの動きからして、オペレーションチップはバックパッカー2枚差し。さっさと撃ちきれば1分間は命中率の劣悪な左グレネードしかない。次のラウンドは、ほぼ確実に勝てる」
「でもリーダー……ツイスターのオペレーションチップは……」
ライカが心配そうに、小さく言った。
だがアグレストはメインアーキテクトとして、毅然とした表情を崩さなかった。
正念場なのだ。チームの中心である自分は、誰よりも自信と覚悟を見せなければならない。
「担当の俺が、AIロジックを再確認する。重ねてきたミーティングの通りだ。色々試行錯誤してきたが……ツイスターのオペレーションチップは今回刷新して1枚目フルスケールアタック、3枚目と5枚目にドラムアヘッドプラス、残りは全てスラッシュ。高収束ブレードがメインの機体だからな。大雨でもこのブレードならきちんと機能することは、シミュレータで降水量を最大設定にしてチェック済みだ。フルスケールアタックはメイン武装と実弾EOを撃ちながら素早く接近するためのもの。ドラムアヘッドプラスは怯えて下がった時用だ。そして移動特性を調整して、常にブーストスキップで回り込みながらブレードで突きを狙うようにしてある。……怖いのはチャージングとこのエリア状況だから、パフォーマンスは足回りと分析系に集中させて、攻撃のための接近維持はオペレーションチップでカバーだ」
サブアーキテクト達もメカニック達も、不安の色を隠せていない。
一応シミュレータ上で上手く動いたところは、事前に共有してある。
それでも5thAC「ツイスター」はチームが抱える、改善箇所をまだまだ洗い出していく過程にある問題児なのだ。
四脚に接地時しか撃てないスラッグガンを載せ、その上でメイン兵装はレーザーブレード。
アグレストはブレードにこだわっているが、加入してきたばかりのトラバサに「外せ」と言われて、大喧嘩した。
口に出さないだけで同じことを思っているスタッフは、何人もいるだろう。
それでもアグレストは、この問題児を育てることにこだわった。
そして今はもう、この「ツイスター」に賭けるしかない。
トラバサにもライカにも、全てのアイデアを搾り出させた。
決して完成形ではない。100%最適化されたAIではない。
そもそも、u-ACに"絶対"なんてものは存在しないのだ。
そしてバトルエリア上の大量の岩に加えて、この雷雨。
どう頑張っても、AIに安定したブレード攻撃を狙わせ続けることは困難だ。
それでも。それでも。
「整備は当然ブレード、足回り、冷却最優先。射撃武器は既定量の弾薬補充だけして、チェックは時間が余ればでいい。……皆、俺を信じろ。ツイスターを信じろ。そして自分達を信じろ。ソニックブラストを信じろっ!!」
机の周りで、「ソニックブラスト」が肩を組む。
「絶対に勝つっ!!」
雄叫び。
やがて、インターバル終了のサイレンが鳴った。
《悪天候に翻弄され続けるこの戦い! ソニックブラストは5thAC、ツイスターが出撃! もう後がないっ!! 王手をかけたC.A.SOL、4thのコン・フォルツァがどれだけの爪痕を残せるのか!》
ピットガレージの5thゲートが開き、「ツイスター」が大雨の中をブースタ全開で出撃した。
「……成長したな、リーダー」
「何だよ、急に」
「いや。初めて会った頃の、虚勢だけのお坊ちゃんを思い出してな」
「うるせえ。そういうのは、せめてGP優勝してからにしてくれ」
メインアーキテクトとサブアーキテクトが、5thACの背中を見送りながら傘をぶつけ合う。
もうやれることは、何も無い。
仲間達を信じるだけだ。
《さあ始まるぞ! 第8ラウンド! レディー……ゴーッッ!!!》
僅かに跳んだ「ツイスター」へ向けて、「コン・フォルツァ」が即座に3つの砲声を轟かせた。
全弾直撃。両肩残り2発。
ライカが息を呑む。
射程距離に迫った「ツイスター」が、アサルトライフルと実弾EOでの「フルスケールアタック」を開始する。
再び敵の砲撃。
しかし、回り込む動きが功を奏して今度は完全回避。
オペレーションチップによって、「コン・フォルツァ」は右腕のグレネードを使わない。
「ツイスター」は射撃だけで、上手く相手を潰しきった。
《ツイスター圧勝っ! AP回復を挟めば、ほぼ万全になる!! 勝負は5th同士の真っ向勝負にもつれ込んだぞぉ!!》
最後のインターバルのために、メカニック達が雷鳴にも負けない怒鳴り声と共に駆け出す。
彼らならばきっと、最高の整備をしてくれる。
だから「ソニックブラスト」のアーキテクト達は、テントの中でどっしりと腰を据えた。
「……あの、こんな時にすいません。どうしてシルヴァーナさんはリスクの高いバックパッカーのチップ2枚差しなんてしたんでしょうか? 装弾数とリロード時間を計算すれば、両肩グレネードが1分もたないことは分かりきってるのに。1枚だけで充分押し勝てましたよね?」
「俺なりの考えだけど……あの人はこっちの1stから3rdまでを正確に読みきって、俺達にも出撃順を読まれることやこの試合展開もある程度想定して、その上で4thがツイスターだと予想してたんじゃないかな。ツイスターは今までのデータ上、明らかに最適化出来ていないブレード機体だ。だから5thで眠らせるか、4thでAPと弾薬削りに使うかの二択。けど一応、過去のシーズンでブレードを当てたことは数度ある。高めのAPに実弾EOとアサルトライフルやスラッグの連射で撃ち合いでも最低限仕事が出来るし、ブレードのまぐれ当たりが決まれば痛いから、4thで削りに使ってくる可能性が高いと読んだ」
「…………」
「そして、俺達がツイスターのブレードを無理やり射撃武器に変更してくるか、きっちり最適化してくる可能性すらも考えた……のかもな。もしそれでECMメーカーを出しきって攻撃も消極的なアル・フィーネが一蹴されてツイスターにAPをがっつり残されたら、4thのグレネードタンクも大きな消耗は避けられないし動きが鈍い分、回り込まれれば最悪ブレードの連撃で即やられる。だからとにかく、最大火力の両肩グレネードを使っての圧殺を考えた。バックパッカー2枚は、最初の30秒で片づけきれなくても出来るだけ早く仕留められるようにしたかったんだろう。旋回性能が高い四脚に回り込み戦法をされたら、泥沼にハマる恐れもあるからな」
「ああ。そしてそうやって4thのツイスターを最大火力でさっさと潰してしまえば、最後のストーム・ウィンドとはちまちまとした削り合いだ。APを大きく残したタンク相手にスナイパーライフルを消費させれば、あとは5thのリニア四脚で余裕を持って押し勝てる」
「じゃあ、やっぱりあれもシルヴァーナさんの大きな賭けだったんですか?」
「確かに危険な賭けだと私も最初は思った。だがこうして冷静になって振り返ると、仮に私達の4thがストーム・ウィンドでも、両肩グレネードと左腕グレネードの火力なら両肩の弾切れ前に仕留めきれた可能性の方が高かった。そうなればあとは5thのツイスターを相手に残った両肩グレネードをぶち込んで耐えて、上手く1分以上耐えられたならばその後少しでもダメージを与えて5thに繋げばいい。だからあれは本来どっちに転んでも上手く成立した賭け……いや、戦略なんだよ。ライカ」
「なるほど……」
「トラバサの言う通りだ。そしてその戦略が上手くハマらなかったのはストーム・ウィンドのAIが最高の回避行動を見せ続けたからっていう、まさに結果論でしかない。まあ、俺達の方も最後は落雷でやられたけどな」
「……やっぱり面白いですね、フォーミュラFは」
アグレストはライカの言葉に深く頷いた。
父の無茶振りで嫌々アーキテクトを始めて、自分はようやくその面白さに気づいた。
フォーミュラFは大衆も名だたる企業も、まさしく世界中が熱狂する一大興行だ。
企業ならば当然、そこに何らかの思惑や打算はあるだろう。
現場のアーキテクトには、そういったしがらみに振り回されている者が何人もいる。
自分だって、しがらみによってこの現場に送り込まれた。
そして興行と言えば聞こえは良いが、結局は道楽に過ぎず、要は単なる遊びだ。
にもかかわらず、人々は皆してフォーミュラFにのめり込む。
それは暇潰しか。共通の話題が欲しいだけか。あるいは現実逃避か。
おそらくそういう部分もあるのかもしれない。
だけど。
『これで俺にどうしろと?』
『世の中を知ってこい』
共に知恵を振り搾る仲間。応援してくれるファン。
個性豊かな競争相手。好き勝手に報道するメディア。
個人の理想と集団の目標のすり合わせ。
大衆に要求されるイメージ。
成長を促す叱咤も真摯な激励も、痛烈な罵声も理不尽な中傷も、無数に飛び交う。
全世界から常に期待され、批評され、あるいは敵視され、称賛される現場。
知識、戦略、連携、試行錯誤、運。
知性の女神に選ばれ、勝利の栄光を手にするために、チームの全てを注ぎ込む世界。
「そうだ。フォーミュラFは、最高だ」
アグレストは断言する。
それでも自分はまだ、この最高の世界の中では未熟者だ。
気象予報から相手の出撃順の内、1stと2ndは予想した。
しかしその先については「予想するだけ無駄だ」と思考を放棄して、自分達の機体の出撃順と悪天候への対応しかほぼ考えなかった。
シルヴァーナが今シーズンにかける気迫が一味違うのは、直近の「AF KISARAGI」戦で「アル・フィーネ」を2ndに出したことからも窺えていたのだ。
だから事前のミーティングでもっと意見を出し合えば、3rd以降の出撃順や戦法も予想出来て、もっと良いプランが練れたかもしれない。
今こうして5th同士の決戦にまでもつれ込んでいるのは天候とAIの気まぐれ、つまり運が味方してくれたからでしかない。
途中で妥協した。限界の限界まで、頭を回さなかった。
自分はチームを背負うアーキテクトとして試合開始前の最終判断時点で既に、シルヴァーナに完敗していたのだ。
さっさと完敗しておいて最後の最後にやれたことは、仲間に発破をかけるだけの精神論。
やはり自分は未熟だ。足りないものが、あまりにも多過ぎる。
「……古巣のチームが解散した、あの時」
「ん?」
「私はどこかに移籍してでも、フォーミュラFにしがみつくべきだったな。シルヴァーナがアーキテクトとして世に出てきた頃のSOLは、底辺を這いずるだけの何の取り柄も無いチームだった。それが気づけば"楽団"なんて呼ばれる強豪になり、ブランクのある私は当時下に見ていた彼女の……覚悟の重さと果敢な戦略に驚かされるばかり。時間を浪費した自分を、今さら情けなく思う」
「……何俯いてんだ、おっさん。俺達は勝つ。ツイスターがきっちり決めてくれるさ」
アグレストは胸を張り、トラバサの背中を叩いた。
1人のアーキテクトとして自分は確かに、シルヴァーナに完敗した。
だが、「ソニックブラスト」はきっと勝つ。
自分達が育て上げた「ツイスター」の底力を、信じよう。
ただの精神論だ。根性論だ。願望だ。
今この瞬間は、それでいいではないか。
インターバル終了。
「ソニックブラスト」の5thAC「ツイスター」が未だ勢い衰えぬ大雨の中、決戦の場へと赴く。
いつものAIの気まぐれか、ブースタを吹かさない。
ゆっくりと、厳かに、スタートポジションについた。
相手は同じ5th「テンペストーソ」。リニアガン統一の四脚。
奇しくも両者、この悪天の激闘のラストに相応しい機体名だ。
《さあ、泣いても笑ってもこれが今日最後の戦いだ! ファイナルラウンドォッ!! レディー……ゴーーッッッ!!!!》
「ツイスター」が敵の武器腕リニアガンを食らいながらもブースタを吹かして距離を詰め、アサルトライフルと実弾EOを連射しながらさらに突進していく。
開幕から激しい撃ち合い。
厳しいマッチアップだ。
開幕5秒で、アグレストは悟った。
「腕リニアは熱量重視モード……熱暴走しますよ!」
「教科書通りの動き。最後の最後で"楽団"の王道か、シルヴァーナ」
回り込む動きを、回り込む動きが迎え撃つ。
熱暴走すれば、ラジエータが大きくジェネレータのENを食う。
ENが食われれば、レーザーブレードは使えない。
「くそっ、動きは完璧なのに!!」
トラバサが呻く。
相手も被弾故か、リニアの射程を活かそうとしているのか、下がる動きを見せ始めている。
熱暴走する。した。EN減少開始。
《テンペストーソ、ツイスターを近づけなぁい!!》
「ああっ、もうダメ!」
「まだだ!!」
アグレストはタブレット端末に向かって吼えた。
このバトルエリアは狭い上に岩が多数。
「テンペストーソ」は持ち前の機動力で、あっという間に下がりきった。
それでもなお距離を離そうと逆方向へ逃げ始める。
即ち前進。交錯する。
ザグンッ。
《おあぁぁっ!! ツイスターまさかの空中突きぃ!! APが一瞬で逆転っ!! 勝負はまだ分からないぃぃっ!!!》
「行け、行けっ!!」
旋回しながら必死で離れていく相手を、同じく旋回しながら「ツイスター」が追う。
旋回勝負。制したのは「テンペストーソ」。
武器腕リニアにまた被弾。だが熱量が低い。
威力重視にモードチェンジしたのだ。
APが一気に削られる。
だがこちらも旋回し終わり、アサルトライフルと実弾EOの連射できっちり削り始めた。
もう一発。
奇跡でも気まぐれでも何でもいい。
もう一発ブレードを。
行け。
行けっ。
「行っけぇぇっ!! ツイスタアァァッッ!!!」
………
……
…
FBC NEWS
《悪天の激闘! 勝負を制したのは……》
フォーミュラF・Xリーグ22ndシーズン。
その緒戦となるヒルサイドGP第2ブロックにおいて、凄まじい熱戦が繰り広げられた。
3連勝の「C.A.SOL」と2勝1敗の「ソニックブラスト」が激突したのだ。
統制された安定感が売りだった"楽団"の指揮者シルヴァーナは、まるで過去と決別するかのように大胆な戦法を連発。
対するソニックブラストも、ここ一番の勝負強さと積み上げてきた地力を存分に見せつけた。
試合は前半から雨が降り、瞬く間に雷雨と強風という最悪のエリアコンディションへと変貌。
雷鳴によるAI混乱なども相まって、ひたすら一進一退の攻防が続いた。
そして終盤、ほぼ無傷の5thAC同士がチームの誇りをかけて決戦。
勝負を制したのは、「C.A.SOL」だ。
豪雨すら切り裂く高収束ブレードで突きかかった「ソニックブラスト」の「ツイスター」を間一髪、「テンペストーソ」のリニアガンが仕留めきった。
「私にとって、生涯忘れられない一戦となりました」
シルヴァーナが雨の中、傘も差さずに満身創痍の笑顔で、試合後のインタビューに答える。
「u-AC達……特にアル・フィーネとコン・フォルツァの動きにファンの方々も驚いたかもしれません。『予選の中でも一番大事なマッチアップでこんな冒険をすべきではなかった』と言われれば、論理的な反論はできないわ。……それでも、冒険したかったんです。15thシーズンでグレイシャGPのトロフィーを獲った時以上の情熱が、今の私にはあるのよ」
フォーミュラF史上最強の女性アーキテクトと称される女傑が濡れて張りつく前髪をかき分け、報道陣の前で熱弁を振るった。
「今日の試合でやはり確信しました。ソニックブラストは、これからもどんどん強くなる。それに彼らの同期にはもう追い越されてしまったし、長く燻っていたオウレットアイもFCオルドーも一気に若返って上がってきています。"三強時代"なんてのは完全に過去の話よ。私もセオリー通りにタクトを振って、それで満足しているだけではいられない。だって私は、アーキテクトなんですもの。常に進化を続けるべき、最高峰の知性の舞台にいるんです。……今日の一戦でそれを、強く再認識したわ」
彼女はそう語り、改めてヒルサイドGPの優勝宣言をして、大量のマイクに背を向けた。
ここから先は結果で語ると言わんばかりの、頼もしい背中だった。
一方のソニックブラストは、あと半歩及ばず負けてガレージに戻された5thAC「ツイスター」の前で、メインアーキテクトのアグレストがインタビューも待たずにチームスタッフに向けて演説していたという。
「だから俺達は『惜しかったな』だけで終わっちゃ駄目だ! 今日の試合から得たものは山ほどある! ツイスターはもっともっと強くなれるし、他のu-ACだってそうだ! そして何よりも、俺達自身が進化していく!! 顔を上げろ! 前を向け! 突き進むぞ、ソニックブラスト全員で! 目標は当然っ!!」
GP優勝だ! シーズン制覇だ!
リーダーに応えて、スタッフ全員が声を張り上げる。
大雨の中、突き上げられた無数の拳。
勝者は輝かしい栄光を得る。
しかし敗者だって、価値あるものを多く得るのだ。
だからフォーミュラFは面白い。
だからフォーミュラFはやめられない。
進化し続けるこの熱意と希望の世界を、我々は絶対に失ってはならない。
知性の女神と"人類の親鳥"に、改めて感謝だ。
(FBC:G・オシプ)