各アイドルの話し方などは全て作者の独自解釈です。
拙い作品ですが、優しい目で読んでいただけましたら幸いです。
「美琴さんっ!!」
そう私が呼びかけた時には、美琴さんの姿はそこになかった。
予兆はあった。
普段の美琴さんなら難なく踊りきっていたであろう曲だったのに、今日は珍しく肩で息をしていた。
会場がざわつき、アナウンスが響く……『安全確認のため、パフォーマンスを一時中断する』、と。
そのアナウンスとともに、それまで上がっていた奈落が下がってくる。
スタッフの皆さんが今も必死に呼びかけているが、まだ応答はない。
「美琴っ!?」
プロデューサーさんの酷く動揺した声が、私の耳に届く。その瞬間、これが現実に起こってしまったんだと……私は思い知らされた。
「んっ……プロ、デューサー……?」
プロデューサーさんの呼びかけで、ようやく美琴さんは気がついたようだ。
でも、まだどこかご体調が優れない様子で息も荒い。
「美琴さん…!良かった……」
「美琴……ケガはしてないか!?」
「うん、特には……っ!ステージは?」
目を覚ますと同時に、何が起きてしまったのかを理解された美琴さんは、真っ先にステージの心配をする。
そこは、さすが美琴さんだな……と思う。
でもそんな美琴さんにプロデューサーさんは辛い現実を突きつける。
「一時中断という形をとってもらってる。でも、たとえケガがなかったとしても……このまま美琴を出させるわけにはいかない。」
「それは……っ!お願いプロデューサー、私なら大丈夫だから。」
「ダメだ。気持ちは分かるが、俺は美琴の体調の方が心配だ。」
プロデューサーさんの判断は正しい。私も美琴さんがまた倒れたらと思うと……多分、今日はもう二度と完璧なパフォーマンスを届けることはできないだろう。
(でも、シーズのステージに穴を開けるわけには……どうしよう、私はどうすれば……)
こんな時に即断して動けない自分が憎い。
何が「美琴さんの相方」だ、本当の相方なら……
「残念だけど、シーズのパフォーマンスは……」
「あのっ!!プロデューサーさん!!」
その時、私の口は思考に従わず、勝手に動いていた。
「わ、私……一人でやります!だから……だからシーズのパフォーマンス、続けさせてください!お願いします!」
何を言っているんだろう、私。冷静な私はそう思った、思ってしまった。
「にちかちゃん……」
「にちか、それは……」
私の発言に、二人は驚いた様子だ。
当然だろう、美琴さんがいてこそ成り立つシーズのステージ。
それを、ようやく並び立つことができた程度の私一人で成り立たせると言っているようなもの。
自分で自分を嗤ってしまう。「出来るわけがない」と、「私一人ではシーズに成れるわけがない」と。
それでも……
「今、シーズとして舞台に立てるのは……私しかいないので!」
「……!」
「……にちか」
そうだ。『じゃない方』だと笑われても、美琴さんが選んだアイドルは他の誰でもない私だ。
そう心で決意を固め、私はプロデューサーさんに対しての言葉を紡いでいく。
「ここでシーズのパフォーマンスが終わったら、せっかく見に来ていただいた方々に失礼です。」
「でも、一人でパフォーマンスをするにはにちかにそれだけの負担が……」
「分かってます、それでも続けたいんです。だって、私は……美琴さんに選んでいただいたアイドルなので!!」
「にちか……」
そこで一旦プロデューサーさんから目線を外し、今度は美琴さんと話す。
「美琴さん……私、美琴さんにずっと伝えたいことがあって」
「それは……どうしても、今じゃなきゃダメ?」
「はい!むしろ今だからこそ、必要だと思ったんです!」
私がそういうと、美琴さんは少し間を開けてからいつものように「いいよ」と言ってくれた。
そこから私は、少し前の記憶を掘り起こしながら話し始める。
「私、ずっと感謝してて……なみちゃんのギグに参加した時、練習相手に私を選んでいただいたこと。それに、『ただの緋田美琴』じゃなくて、『シーズの緋田美琴』としてステージに立っていただいたこともプロデューサーさんから聞きました……」
紡ぐ、必死に。何を言いたいか伝わらなくても、この思いを伝えて……任せてもらわなきゃと、私はもがく。
「あの時、私の手を取っていただいて……ありがとうございました」
「私は……当然の選択をしただけ。」
「それでも!それでも、私にとっては感謝してもし足りないことだったので……!」
言う、ただ一言。私は……大事なことを、声に出して言う。
「だから今日は、少しだけですけど恩返しをさせてください!私が、美琴さんのステージ……守ってきます!」
「にちかちゃん……」
「大丈夫です!私がそこにいるなら、シーズもそこにある……はずなので!!」
「……フフッ、そこは言い切ってくれないんだね。『そこにある』って」
「そ、それは……はい。流石に言い切るには実力不足かなぁと思ったので」
正直にそう答えると、美琴さんは笑顔になってくれた。
もしかしたら、そんなことないって思ってくださったのかもしれない。
少しの静寂の後、美琴さんが口を開いた。
「分かった。悔しいけど、にちかちゃんがそこまで言うなら……任せてもいいかな?」
「っ!はいっ!任せてください、美琴さん!」
認めてもらえた。許してもらえた。
私は……今ようやく、美琴さんの『相方』になれた。そんな気がした。
改めて感謝の言葉を述べて、私は視線をプロデューサーさんへと向ける。
「そういうわけなので。私、やりますから。一人でも……!」
「……今更止めるつもりはないよ、二人が決めたことだから。でも……!」
「『絶対に無理はしないでくれ』、ですよね?分かってます。私、シーズを守るために行くので!」
「……ハハッ。分かってるなら、俺からはもう何も言わないよ。ステージのこと、頼んだぞにちか。」
プロデューサーさんは私にそう言って、離れていった。
おそらく美琴さんの検査を受けてもらうために連絡しに行ったのだろう。
「七草さん、我々は準備OKです!大丈夫ですか?」
プロデューサーさんが離れると同時に、スタッフさんの一人が声をかけてきた。
その声に私は……
「はい!お願いします!!」
……そう、 答えるのだった。
奈落。
ステージの下。客席のざわめきを一番感じる場所。
ここを上がったら、独りになる。
……でも、今は
「行ってきます。見ていてください、美琴さん……!!」
美琴さんが、見てくれている。見守ってくれている。
だから……ここを上がったら私は、
odd;2 見上げる場所、始まる場所