賭博堕天録カイジ 24億日常編   作:筆先文十郎

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24億を奪ったカイジたちの逃亡劇が“長期休載”によって凍結された世界。
逃げる側も追う側も、物語が動かないせいで日常に閉じ込められ、終わらない恐怖と停滞に苦しんでいた。

しかしこの“長期休載”の中でその爪を研ぐ者がいた。


賭博堕天録カイジ 24億一条編

 地下帝国。

 薄暗い蛍光灯の下、汗と鉄の匂いが混じる労働場。

 その片隅で、一条聖也は静かにスコップを握っていた。

 かつての豪奢なカジノの支配人は、今やただの労働者。

 しかし──その瞳だけは死んでいなかった。

(ここは……地獄じゃない……。“再起の舞台”だ……!)

 一条の脳裏に一人の男の願いにも似た声が蘇る。

 

『雑魚を蹴散らし追い払い、這い上がって来い! 倒してみろ、俺を!』

 

 伊藤カイジ。

 自身が心血を注いだ魔のパチンコ台『沼』を攻略し、自身を地獄に叩き落とした張本人。

 その言葉に一条は涙した。そして震える身体で答えた。

 

『当然だ! 待ってろ! 叩き潰す……、次は!』

 

(あいつは……憎い……だが……認めざるを得ない……だからこそ……倒す価値がある……!)

 カイジとのリベンジマッチを果たす。

 その誓いを胸に、一条は地下に堕ちた。

 地下に堕ちた一条は1050年の懲役を終えて地下を脱出するには班長となって権力と富を得る事だと気づいた。

 帝愛の価値観を熟知し、わずか七年で違法ギャンブル場のオーナーに上り詰めた一条は班長になる方法を逆算した。

 スコップやつるはしを握りながら、周囲の人間や環境を観察した。

 一条はバカにしたい態度を隠し、他の債務者と交流を図った。他の債務者の愚痴や不満を聞いてはストレスの発散と希望に変え、体調不良の債務者がいれば率先して看病に努めた。

 黒服や班長には報連相を徹底し、失敗すれば即謝罪。指示は絶対に守り、疲れた体に鞭を打って黒服や班長の雑務を手伝った。

 債務者だけでなく黒服や班長からも信頼を積み重ねた一条は様々な仕事を任されるようになった。

 労働者の労働態度の記録。トラブルの原因分析。不満の吸い上げ。労働効率の改善案。班員の適材適所配置。

 それらをする頃には一条は肉体労働から解放された。

 無駄に逆らわず余計なことを言わない。失敗があっても隠さず報告。成果は解決にまとめる。帝愛の機嫌を損ねないような改善案を定期的に提出してはそれを自分の手柄とせず黒服や班長に譲る。

 こうして少しずつ、そして確実に上へと昇る階段を一つ一つ積み上げていった。

 そしてその時が訪れる。

 数多くの債務者が地下帝国へ。そのため新たな班が作られることになったのだ。

 黒服や班長、債務者からの推薦で一条が新たな班長の呼び声があった。

 最初は一条は断ったものの――内心では”計画通り”と笑っていた。

 しかし「一条以外の者が班長になれば不満が続出する」、「班長ではない一条に周囲が頼ってしまい、地下での空気が悪くなる」などの理由から一条は渋々引き受けた。

「うまくいった」という心の声を隠して。

 こうして班長になった一条は債務者となった班員をうまくまとめ上げていった。

 物販に手を伸ばそうとした時に他の班長達が規則違反していたことが発覚したのも追い風となった。

 人心掌握に秀でた一条はその事件がある男(・・・)の仕業であるといち早く気づき、裏で互いに関わらない不可侵条約を結んだ。そのおかげで一条はその男の標的になることなく物販や映画などで次々に収益を得ることが出来た。

「ククク……。この金を元手に地上に出て一攫千金……と言いたいところだが……」

 今すぐにでも地下から脱出したい気持ちを一条は抑えた。

 莫大に集まるペリカを一条は脱出には使わず班員の疲労軽減のための栄養ドリンクや、軽食やお菓子などの差し入れ、夏場の冷却タオルや冬場の防寒具、支給される安く作業効率が悪い軍手や靴下などの小物を高品質なものに交換した。

 

「班長は優しい……」、「救世主……!」、「俺、この班でよかった……!」

 

 班員達の不満を抑えて労働成果を上げつつ、債務者の不満を解消する実行可能な案を自分の手柄とせず黒服の手柄にすることで黒服の評価も上げた。と同時に他班で発生し内々で処理した失敗を密かに流し、相対的に自分の手足になる班の評価が上げる小細工も行った。

 黒服や他の班長への付け届けも行った。

 日ごろの会話から黒服や班長の誕生日や好みを記憶し、サプライズプレゼントを行った。

 その甲斐あって黒服や他の班長から警戒されることなく信頼を得ることが出来た。

「……順調だ。だが、ここで浮かれるほど俺は愚かじゃない!」

 その信頼が警戒を緩ませ、物販の拡大や映画などの娯楽施設など、さらに一条の懐にペリカが入るようになった。

 黒服から外部の情報を得るようになり「どうすれば一気に多くの金を得られるか」を実行するだけまで来た。

頭の中で練り上げた計画書を何度も確認しながら、班長室で一条は薄く笑った。

それは勝利を確信した笑みではない。

むしろ、かつて慢心を突かれて敗れた自分を戒めるように、静かに噛みしめる笑みだった。

だがその奥底には

「カイジ……次こそはお前を倒す……!」

という燃えるような執念が確かに宿っていた。

 

 

 

 

「作者よ……俺はもうすぐ地下(ここ)から脱出する。だから描く準備をしておいてくれよ。俺がカイジとリベンジマッチを果たし、そして……俺がカイジを地べたに這いつくばせるシーンを……!」

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