逃げる側も追う側も、物語が動かないせいで日常に閉じ込められ、終わらない恐怖と停滞に苦しんでいた。
そして、この男達もそんな世界に苦しんでいた。
とある大通り。
「はぁ……」
通り過ぎる車を一台一台確認しながら、黒服の
「……」
隣で同じ作業をしていた後輩黒服の
帝愛ではカイジがキャンピングカーで逃走しているという予想のもと、街中でキャンピングカーを探し続けている。
だが。『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』は、2023年6月12日を最後に長期休載。
物語は止まり、世界は凍りついたまま。つまりどれだけ探してもカイジは現れない。24億が戻ることもない。
黒服たちの努力は、永遠に“物語の外側”で空回りし続ける。
それでも彼らは捜索を続けていた。連載がいつ再開してもいいように。
もし物語が動いた瞬間に“黒服が配置されていない”などという事態が起これば、世界そのものが破綻するからだ。
「……岡谷」
田辺の声が震えた。
次の瞬間、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「……俺、いつまでこんなことをすればいいんだ?」
「え? そりゃあ……ッ!」
岡谷は喉まで出かかった言葉──
“カイジを捕まえるまでですよ”
を必死に飲み込んだ。
そんなことを言えば、先輩の心が完全に折れてしまうのが容易に想像できたからだ。
そんな後輩の想いに気づいてか、田辺は岡谷を追及せず心の内を吐露する。
「……俺さぁ、二年前に子どもが生まれたんだよ。女の子でな……可愛かったなぁ……」
田辺は遠くを見るように呟いた。
「でも休載して二年……いや、もうすぐ三年だ。カイジが絶対に現れないと分かっていながら“捜索を続けろ”って……」
拳を握りしめる。
「岡谷……わかるか? 赤ちゃんの一番大事な時期に……“絶対に見つからない犯人”を探し続ける父親の気持ちが……!」
岡谷は黙って聞くしかなかった。
「俺だって……娘のために飯作ったり……オムツ替えたり……風呂入れたり……寝かしつけたりしたいんだよ……! でも妻には『あなた、この子が可愛くないの!?』って責められて……
『そんな無意味な捜索するくらいなら子育て手伝ってよ!』って泣かれて……」
田辺の声は震え、涙が止まらない。
「娘には赤の他人と認識されているのかギャン泣きされて……妻には『あなたが子育てに協力しないからよ!』って責められて……俺は……俺は……!」
田辺は空を仰ぎ、叫んだ。
「作者……頼む……! 連載してくれ……! 俺に……父親をやらせてくれ……!! この無意味な時間を……終わらせてくれ……!!」
「……田辺さん」
岡谷はそっと田辺の肩に手を置いた。
「俺達は……物語が動くその瞬間を信じるしかないんですよ。それが黒服の……存在理由ですから」
田辺は涙を拭い、かすかに笑った。
「……そうだな……俺達は……“物語の歯車”だからな……」
二人は再び大通りに視線を戻した。
止まった世界の中で、それでも物語が再び動き出す瞬間を信じて。
黒服たちは今日も”絶対に見つからない”カイジ捜索を続ける。