転生してイージーモード!   作:ハニラビ

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今回はちょっとしたホラー回です。ただ作者はビビりなので一般の方からしたら特に怖くは無いかもしれません。世界観を紹介する上で日本と明確に違う部分を説明するついでに書いたものです。(因みにホラー回は今回だけです。)


祠破壊RTAする前に他人を村に送り込もう!

 

【心霊】ガチでやばいホラースポットある?【釣り禁止】

 

名無しの怖い話:

星見市の近場の山にある廃村に興味あるんだけど誰かおせーて

 

 

 

名無しの怖い話:

かなりヤバいって噂されてるとこだよな、そこ

 

 

 

名無しの怖い話:

人魂とか老人の幽霊が出るとかだっけ?

 

 

 

名無しの怖い話:

行ったことあるけどいい場所だったよ、なんか実家に帰った感じ

ちな夜ね

 

 

 

名無しの怖い話:

嘘乙

ずっと見られてる感じがしたし、友達は黒い人影を見たって言ってた

男三人で行って逃げ帰ったゾ

 

 

 

名無しの怖い話:

昔テレビで霊媒師がそこ行ったよな、とよ村って名前だったか

途中で中断したやつ

 

 

 

名無しの怖い話:

廃村の名前までは知らんかった、サンガツ

 

 

 

名無しの怖い話:

ええんやで、ちなニガツな

 

 

 

名無しの怖い話:

割とマジっぽい感じだし行ってみたいんだよね

 

 

 

名無しの怖い話:

場所が山の中だから強制山登りなのがキチー

 

 

 

名無しの怖い話:

土砂崩れで道塞がって正規ルート使えなくて引き返したわ

駅近のラーメン屋がおぬぬめ

 

 

 

名無しの怖い話:

体験談見てる感じ他のとことそんな変わらなくないか?

ラーメン食ってんじゃねえよwww

 

 

 

名無しの怖い話:

いや行方不明になった人がいるっての無かったっけ?

山の中の廃村だから幽霊とか関係ないかもだけど

 

 

 

名無しの怖い話:

物理的に怖いのはやめちくりー

 

 

 

名無しの怖い話:

無事に帰りたいなら女の子に会え

いなかったら日を改めろ

 

 

 

名無しの怖い話:

は?何こいつ

 

 

 

名無しの怖い話:

あー、なんかこのホラースポットの話が出ると女の子に会えって言う奴がいるんよ

 

 

 

名無しの怖い話:

これはあたおか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 山道を少し外れ、朽ちかけた鳥居を抜けた先、木々に埋もれるようにしてその建物はあった。

 荒れ放題の草花に、今にも崩れそうな社。明らかに長い間、人の手が入っていないようだった。

 

 

 

(何回来ても慣れないなあ。)

 

 

 

 九条琴音は心の中でそう思った。言葉に出さないのは、適応中で身体をオートに任せているからだ。

 

 

 まだ太陽も昇っていて明るいというのに、ここだけ切り離された別世界に感じられるくらいだ。

 胸の奥がざわつき、冷たいものが背筋をなぞるような感覚。何かに見られているような、そんな気がする。

 

 

 

 そんな心の内とは裏腹に、身体はすでに動き出していた。

 背筋はピシッと伸びており、その足取りはどこか気品がある。社の前へと立つと、右手を静かに持ち上げた。指先が空気をなぞるように動き、見えない何かを捉えるように口を開いた。

 

 

 

「――穢れ、滞りし気よ。此処は人の世の理の内。留まるべき場所にあらず。」

 

 

 

 透き通った声だ。言葉の抑揚は小さく、淡々と流れるように綴る。

 普段の琴音の内心を知っている者からしたら想像もできないほど落ち着いた姿を見せている。足が地面を踏みしめた瞬間、ざわりと周囲の木々が揺れた気がした。

 

 

 両手が胸の前で組まれ、指が複雑な形を結ぶ。見たこともない印。だがそれが正しいことを身体は知っている。

 

 

 

「――祓え、清めよ、帰るべき理へ還れ。」

 

 

 

 言葉に呼応するように、空気が震えた。一つ一つの言葉にまるで重さがあるようだった。

 

 

 

 

「我が声を以て命ず、急急如律令。」

 

 

 

 同時に、琴音の周囲に風が吹き抜けた。社を清めているのか、ざああっと音を立てて見えない何かが祓われていくかのようだった。

 やがて、最初の静けさを取り戻した。目の前の社は、ただの古びた建物だ。

 

 

 

(効果があるか分からないけど、凄いそれっぽいし気休めくらいにはなるな。)

 

 

 

 何故こんな事をしているのかと言うと、それはもう深い訳があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 大変残念なことに琴音の休日の過ごし方の中に友人と遊ぶという選択肢は存在しない。

 

 

 

 西園寺玲奈と友達になれたのだから遊べばいいじゃないかと思った人がいるかもしれないが、素の琴音ではあれで本当に友達になれたとは微塵も考えてはいない。

 

 

 

 問題なのは友達がいないことではなく、休日の暇な時間の過ごし方だ。

 友達が一人もいなかったとしても、それで両親を不安にさせたくはない。だから友達がいるフリをする必要があり、その為には外出して時間を潰すしかない。余談だが、家に友達を呼ばないの?と言われた時は、家に呼ぶのは恥ずかしいからとプリティフェイス全解放で誤魔化している。カスの嘘である。

 

 

 それで白羽の矢がたったのがこの山だった。どうしても暇つぶしが思いつかなかった時の避難先の一つだ。自宅からは数キロ先に位置しており、自転車で行く分には問題ない距離である。

 山とあって人が来る事は滅多に無い。適応を試すのに便利な場所だ。

 

 

 

 因みにだが、忍者に適応すれば忍法は出来なくとも木の枝を千本に見立てて、落ちる木の葉に当てるくらいは難なく出来たりする。

 適応した状態なら木登りもなんのそので、もし鬼ごっこをしたなら絶対に捕まらないことだろう。そもそも遊ぶ相手がいない事は黙っていてやってほしい、琴音が泣いてしまう。

 

 

 野生動物とか、不審者とかが怖くないのかと思うかもしれないが、武術の達人なんかに適応してしまえば負ける姿が想像出来ないし、適応内容によってはどんな危険が迫って来ていても逃げ出すくらいは可能だろう。なのでその点について、琴音はそれほど心配していない。

 

 

 

 ここへとやって来た経緯はそんな感じだ。時間潰しで困った時にやって来る場所以上の理由は無い。

 

 

 

 初めて琴音がこの山へとやって来た時に、この小さく廃れた社を見つけた。少し山に入った先にぽつんと建っていた。

 明るい時間帯だったとはいえ、人のいないこの空間の雰囲気は中々だった。端的に言ってめちゃくちゃ怖かった。昼間でもこんなに怖いのに夜だったらどうなるのか、想像もしたくない。

 

 

 

 山、何かを奉っていそうな場所、めっちゃ怖そうとくれば思い浮かぶのはどんな事だろうか。

 

 

 

(幽霊っているのかな。)

 

 

 

 そうしてふと思ったのは幽霊が存在するのかどうかだ。

 これが前世であればいる訳ないじゃんと気楽に答えていただろうが、今世は絶対的に違う点がある。転生する際に出会ったあの存在だ。明らかに神のような上位存在がいた。前世の記憶や、この何にでも適応出来る身体が無ければただの妄想だと思えてしまう存在。

 

 

 

 あのような存在がいるのなら、幽霊だっているかもと思ってしまっても仕方がないだろう。

 

 

 

 

 それで初めてこの場所に来た時に琴音は最強の霊媒師に適応してみたのだ。

 困った時の神頼みならぬ、身体頼みである。字面だけみるとちょっとえっちじゃないか?

 

 

 オートで身体が動いていたし適応自体は出来ていた筈だ。先程やっていたことと同じようにそれっぽい事をしていたのだが、琴音からは別に幽霊が見えている訳でもないので何が起きているのかさっぱり理解出来ていない。

 

 

 

 もし、この世界に存在する霊媒師の中に本物がいないのなら、これはただのパフォーマンスでしかないのでは?と琴音は最終的にそう思い至った。

 

 

 

 

 つまり幽霊なんていない。

 

 

 

 

 とはいえ、元々幽霊が見えるかどうかに関係なく怖い事に変わりはないので、怖さを紛れさせる為にこの場所へ来た時はこうして浄化パフォーマンスをしているのだ。

 少し調べてみたところ割と有名なホラースポットらしく、曰く付きの場所みたいなのだ。一度、心霊スポット巡りをしている人をホラースポットとなっている山中の廃村まで道案内したこともある。道案内したのはこの適応した身体であって、その時の琴音はずんずん山を登っていくオート中の身体にビクビクしていたのは内緒だ。

 

 

 

 満足したので、そろそろ適応を止めてもいいかと思った所で落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

【ホラースポット巡り系動画投稿者】

【天城悠視点】

 

 

 しがない動画投稿者である天城悠はとあるホラースポットへと向かっていた。

 山の中にある廃村で、とよ村と呼ばれている場所だ。まだ村だった頃、ここでは大雨の影響で土砂崩れが発生し亡くなられた方がいたそうだ。それがきっかけとなったのか、とよ村は廃村となっていた。

 

 

 

 それから幾つもの噂が流れるようになる。

 

 

 

 今回はその廃村を目指していた。これまで投稿してきたホラースポットの動画は思いのほか需要があったのか動画投稿サイト『Connect』では広告収入が得られるまでになって、今では趣味兼、仕事のようなものだ。

 因みにホラースポットに行くようになったのは過去の経験からだ。男なのに見た目が厳つく無いせいで、なよなよしてるだとか難癖をつけられる事があった。それから男らしい事を証明する為に地元にあったホラースポットに行ったんだ。

 

 売り言葉に買い言葉というやつだ。言い訳するなら当時はまだ中学生で子供だった。

 今みたいにビデオカメラなんて持って無いからなけなしの貯めたお小遣いでインスタントカメラを買って持っていって写真を撮ってやった。

 

 それを見せつけてやったら、結果的になんかやべー奴を見る目で見られるようになった。

 とはいえ何か言われても、「お前は一人でホラースポットに行けるのか?」とカウンターを構えられるようになったので結果オーライではある。

 

 

 ホラースポットに行くのは怖く無い訳じゃない。でも、一歩を踏み出すことすら躊躇してしまうような、あのドキドキ感が好きになったのだ。

 初めてホラースポットに行った時の感覚が今でも忘れられない。こういう奴をジャンキーと言うのだろうか。

 

 

 まあ、その事がきっかけで大学生になってからはバイトで資金を貯めながらホラースポットに遠征しに行くようになった。

 

 

 

「この山で合ってると思うけど。」

 

 

 

 そうして辿り着いた山。とよ村と呼ばれている廃村がこの山の何処かにある。

 

 

 

(ネットの噂はどれも他のホラースポットと大差は無いように感じたけど、そこは行ってからのお楽しみって奴かな。)

 

 

 

 ホラースポットにまつわる噂でよくあるのは、誰かの声が聞こえてくるとか、何かの影を見たとか、誰もいない筈なのに人の気配があったとかだ。

 例に漏れず、とよ村と呼ばれていた廃村もそういった噂がある。

 

 ただ、有名な霊媒師が撮影を撮り止めたという実話や、廃村になったのは土砂崩れの影響で住むのが難しくなったという事実といわくは確かにある。実際に起きた事という事実は恐怖にちょっとしたスパイスを振りかけてくれる。

 勘違いしてほしくないのは、この場所や亡くなった人たちを冒涜する気は一切無い。殆ど趣味で行っているのにと思われるかもしれないが、別にホラースポットを荒らすことも、ふざけた行動を取ることもこれまでしたことは無い。少しだけお邪魔して、そっと立ち去るのだ。

 

 

 

(自転車、……真新しそうだし誰かいそうだ。)

 

 

 

 最初に目についたのは自転車だった。そこには自転車が止められており、ぱっと見は捨てられて放置されているという訳ではなさそうだ。大きさ的に子供のものだろうけど、地元の子どもでも来ているのだろうか。

 

 麓から山を見上げる。元は人の出入りも当然あったのだろう、山への入り口と思われる道があった。ただ、整備はされている様子は無い。

 片手にはビデオカメラ、大きなリュックを背負っていざ登山だ。

 

 

 

「気合い入れて、山登りといこうかな。」

 

 

 

 山の中にある廃村と聞いたので、朝早くに家を出て日が出ている内に山を登れるように調整して来た。天気もいいし、雨が降るとは聞いていないので安心だ。

 山に入って直ぐの位置に色褪せた鳥居があった。山の出入り口、つまり此処が境界となっているのだろう。何を奉っていたのかまでは知らないけど、山そのもか、そこに宿っている神さまだったり色々なのかな。

 

 

 ビデオカメラを回して辺りを撮っておく。後で編集して動画に使う予定だ。

 動画の構成は合成音声による後入れの解説なので、撮影しながら何か話すといった事をする必要はない。カメラで撮りながら進んでいくと、木造の廃れた小さな社が目に入ってきた。

 

 

 

(ん……?こんな場所に女の子?)

 

 

 

 人がいることに気づいて直ぐに録画を止めた。無用なトラブルは避けるのも、円満なホラースポット巡りに必要なことだ。

 

 見た感じ中学生か、高校生くらいの女の子だ。向こうも気づいたのか視線をこちらへと向けた。止めてあった自転車はこの子のものだったのだろう。

 ジロジロ見て変質者に思われたりはしたくないので、あまり顔を見ないようにする。あくまで通りすぎるだけですよと、威圧感を与えたりしない。ただ、無言で通り過ぎる方が不審者に見えるので挨拶だけはしておく。

 

 

 

「こんにちはー。」

 

 

 

 出来るだけ明るく挨拶をしながら通り過ぎる。大きなリュックからハイカーぐらいに見えたらいいなといった感じだ。

 

 

 

「こんにちは。」

「……っ!?」

 

 

 

 そのまま通り過ぎようとした所で思わず足を止めてしまった。

 止まるつもりは無かった。でも、彼女の発した声があまりにも透き通っていて、身体の芯を貫いていくような感覚を覚えた。たった一言聞いただけなのに、あまりに人間離れしていて驚きのあまり立ち止まってしまった。

 

 

 自分でも不思議なくらいだ。全然働かない頭で考えようとするが、まとまらない。自然と視線は目の前の女の子へと向けられる。

 彼女の顔は恐ろしいほど綺麗で人形のように整った容姿をしていた。どこか現実感がない現状にそのまま突っ立ってしまった。まるで夢でも見ているみたいだったのだ。

 

 

 ただ相手からしたら、急に立ち止まった男がじっと見てくるという変質者丸出しのムーブだったことだろう。

 

 

 

「どうか、されましたか?」

「……あっ。いや、……えっと。」

 

 

 

 まさか見惚れていたなんて言う訳にもいかず言葉を詰まらせてしまう。

 動揺しているこちらとは正反対に、少女は随分と落ち着いている。よく見れば佇まいもきっちりしていて清廉さが感じとれる。どこか神秘的であった。

 

 見れば見るほど綺麗だ。こんなに不審な行動をしているのに困惑している様子は無く、静かにこちらへと視線を向けている。その瞳からは何もかもを見透かしているように感じられ、それこそ同じ人間なのかと疑ってしまうほどだ。服装は普通であるのに、存在感はまるで違うと脳に直接訴えかけてくる。

 

 

 

「ここにはちょっとした用事があって来たんだ!」

 

 

 

 焦ってそんな事を口走ってしまった。変な行動をとってしまったことを誤魔化す為とはいえ、我ながら変なことをしてしまった。

 彼女はこちらの身につけているものを確認すると、そのどこか無機質な瞳をこちらへと向けた。

 

 

 

「用があるのは廃村ですか。」

「えっ……、ああ、その通りだよ。よく分かったね。」

「山へと入る目的は限られていますから。」

 

 

 

 一発で目的を当てられて驚きはしたものの、言われてみればそうだ。登山が目的ならわざわざこの山には来ないだろうし、持ち物から山菜目当てには見えない、生態調査なんて感じでもないから目的は絞りやすいのだろう。

 この山に特別なことがあるとすれば心霊スポットの廃村くらいだ。

 

 

 

「それに、以前にも廃村が目当ての方に出会いました。貴方も、そうなのかと。」

 

 

 

 淡々と言葉を紡ぐ彼女の姿は、俗世に興味が無い仙人のように普通の人よりもどこか違って見えた。人に対する評価として正しいのか分からないけど、透明感があった。

 もし今ここで唐突にこの少女に抱きついたとしても、先程と同じトーンでどうかされましたかと言われる気させする。それくらい人間離れしているみたいに見えた。

 

 

 

「それで、案内は必要ですか。」

「……?それは廃村がある場所まで連れて行ってくれるって事で、合ってる?」

「はい。」

 

 

 

 言われたことが直ぐには飲み込めず思わず聞き返してしまった。

 後から振り返ってみれば怪しさしかない提案だと思えたのだけど、この時点ではどうしようもなく魅力的な提案に感じてしまっていた。それに悪意があるようにも見えなかったし、そもそも人と接しているというより精霊とか妖精を相手にしているみたいだった。

 

 

 

「……じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「はい、ではこちらへ。」

 

 

 

 彼女はそういって前を歩き始めた。足取りに迷いはなく、まるで自宅の庭を歩いているみたいで、明らかに歩き慣れている。遅れて彼女についていく。

 

 

 

「その、……とよ村に詳しかったりする?」

「いいえ、廃村となったことしか知りません。」

 

 

 

 道中でずっと無言でいるのも気まずいので話しかけてみたけど、直ぐに話は打ち切られてしまった。

 結局、しつこく話しかける訳にもいかず会話らしい会話は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 歩き始めは話しかけたり、あれこれ考えたりしていたけど、それが出来たのは最初だけだった。

 山登りが想像以上にキツい。荷物の有無があるとはいえ、段々と彼女に着いていくだけで精一杯になっていた。

 

 かなりの距離を移動しただろうか。向かう先が廃村とあって人が往来していた名残か、多少なりとも道があった。ただ全てが繋がった一本道という訳ではなかった。土砂崩れの影響なのか道が寸断された場所もあって、獣道や比較的登りやすい場所を経由して進んでいった。

 道案内が無ければ廃村に辿り着く頃には日が暮れていたかもしれない。

 

 

 

(この調子だと帰りも苦労しそうだ。)

 

 

 

 バイトやホラースポット巡りで体力はそれなりにある自信があったが、整備されていない道での山登りは別ベクトルだった。既に息切れしている。

 ただ目の前の少女は疲れ知らずといった感じで、汗すらかいていないようだ。

 

 

 そんな彼女が唐突に足を止めた。

 

 

 

「あとは道なりにお進み下さい。」

「ふぅ……、道案内ありがとう。」

「いえ、大したことでは。」

 

 

 

 人通りがあっただろう道に出た。村があった場所まで近いのかもしれない。

 

 

 

「それでは、失礼します。」

「あっ、ちょっと待って。……確かここに、あった。これどうぞ、道案内してくれたお礼に。」

「ありがとう、ございます。」

 

 

 

 そのまま来た道を引き返そうとする彼女に、慌ててリュックから袋を取り出して中身の一つを渡した。

 山に来る前のコンビニで買ったおやつの苺大福だ。

 

 それを手に取って珍しそうに見つめる姿に、初めて人間味のある姿を見たような気がしてドキッとした。

 彼女は苺大福をから視線を外すと、こちらを見つめて口を開いた。

 

 

 

「貴方はここへ何をしに来ましたか。」

「?それは、えっと趣味のような、仕事のような。」

「では、仕事にしてください。」

 

 

 

 余りにも強引な物言いだったけど、何故か頭にすっと言葉が入って来た。

 

 

 

「『ここには仕事で来ました、無関係です。』、この言葉を忘れないでください。」

「あ、うん。……え、今のはどういう……行っちゃった。」

 

 

 

 そう言うと、今度こそ山を下りていった。現実感の無い時間だった。ただ山登りの疲労だけがこれが現実だと訴えかけていた。

 イベントをこなした感覚だけど、本番はここからなのだ。一人ぼっちになった分、気を引き締めていかないといけない。彼女が言った通り道なりに進んでいくと、本当に廃村が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 目に入った村の様子は当然というべきか荒れ果てていた。大体は家の形を保っているとはいえ、廃墟となっているのが一目で分かる。

 人の出入りが減った影響か、踏み固められた地面からも雑草が生え出している。

 

 

 

「日が出てる内に着いてよかった。」

 

 

 

 あの少女の案内もあって太陽が登っている内に辿り着けたのはかなりラッキーだった。

 おかげで安全にテントを立てやすい立地を見つけられたし、夜間に見て回る予定の場所の目星をたてられる。

 

 

 

「テントよし。さてと、明るい内に見て回ろうか。」

 

 

 

 簡易テントの準備をし終えたので軽く探索を始める。

 昼間の廃墟探索は夜中のものと違って怖さではなく、もの寂しさを感じる事が多い。人の生活があった場所が今ではこんなに廃れてしまっているからだろうか。

 

 

 

「ここにも昔は人が住んでたんだよね。」

 

 

 

 傾いた木造の家、軒先には蔦が這い上がっている。玄関の引き戸は半分外れ、風が吹くたびに、かすかに軋む音を立てている。

 家屋に足を踏み入れると、床板は沈み込み、乾いた埃が舞い上がる。壁には色褪せたカレンダーが掛かったままで、時は十年以上前で止まっている。誰かが何気なく書き込んだであろう予定の跡も、かすれて読み取れない。

 

 

 

「これは、……写真?」

 

 

 

 床に落ちている長方形の紙を拾った。日付けが刻印されており、カレンダーの年月よりも前のもののようだ。手で軽く汚れを払って裏面を見ると集合写真だと分かった。

 見つけたのはこの村で撮られただろう写真だった。色褪せてはいるが、顔の判別が出来るくらいには綺麗だ。

 

 

 

(みんな楽しそうに笑っているし、いい村だったのかな。)

 

 

 

 写真に写っている人たちはみんな笑顔だ。照れ臭そうに笑っている人や、緊張で固まりながらもぎこちない笑顔をしている人、揶揄うような笑みを浮かべている人。きっと温かな村だったのだろう。

 写真をそっと棚の上へと置いて、家から出た。

 

 

 家々の間を抜けると、小さな畑の跡があった。畝の形はかろうじて残っているが、今は背の高い雑草に覆われ、どこまでが畑だったのか判別しづらい。錆びついた農具がひとつ、土に半分埋もれている。

 ここにはただ朽ちていく家と、静かに侵食を続ける自然しかないのだろう。

 

 

 

「ここが土砂崩れのあった場所かな。」

 

 

 

 集落の外れの方には土砂崩れの痕と思われる場所があった。

 他に目についたのは封鎖された井戸か、村の中心あたりにある小さな祠だろうか。誰も掃除していないのだろう、風雨にさらされて少しずつ朽ちていっているようだ。

 

 風が止むと、音が消える。耳鳴りのような静寂の中で、この村だけが時間から切り離されたかのように、じっと佇んでいた。

 

 

 

「一通り見て回れたし、夜がくるまで休憩しようか。」

 

 

 

 目につく範囲は大凡見て回れた。ホラースポットとしてこの場所が特にヤバい的な話は特になかったので探さないといけない場所も無い。何処を撮影するかの下見も十分だ。

 テントへと戻って機材の最終確認をした後、先に食事を済ませておいた。

 

 

 

(眠くなって来たな……、流石に山登りはキツかったか。)

 

 

 

 まだ夜中になるまで時間はある。ちょっとだけなら休んでいても大丈夫だろう。そう考えて、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 次に目を開けた時、既に真夜中だった。時計の表示は、淡く光る『1:07』。やけに現実味のない数字に見えた。変な体勢で寝てしまったからか、身体の節々が凝り固まっている。

 

 

 

「……ん、あれ。やば、もう一時過ぎてる!」

 

 

 

 テントの外は真っ暗闇に包まれており、ライトが無ければ何も見えない。

 心霊スポットに行くための山登りで疲れて寝たら朝でしたでは、笑い話にもならない。いや、逆に動画のネタにはなるかと思いもしたけど本来の趣旨から離れてしまうのでそれは無しだ。

 

 右手にライト、左手にカメラを構えて急いでテントの外へと出た。寝ぼけた頭を振り、無理やり意識を現実へ引き戻す。

 

 

 

 朽ちていく家々や、荒れた果てた内装、雑草に覆われた道をライトで照らしながら順番に見ていく。

 昼間と違って雰囲気はがらりと変わる。夜闇で見えない場所が増えたことで、怖さが増している。休息が取れたからか調子も良く、段々と目が覚めてきた。直ぐにいつもの調子を取り戻す。

 

 

 

(この雰囲気がいいんだよね。)

 

 

 

 

 自分の足音、風の音、視界内で揺れ動く草花、普段であればまるで気にしない事柄に今は足を止めて気にしてしまう。

 一瞬一瞬の重みが変わるこの瞬間がたまらなく好きだった。

 

 

 

 

 

 

おーい

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 鼓動が一気に跳ね上がる。思わず驚いて足を止めてしまった。声、人の声だ。突然誰かに呼ばれた気がした。

 ここにいるのは自分だけの筈だ、少なくとも昼間には誰もいなかった。恐る恐るライトを声がした方向へと向けるが、誰もいない。風に揺れる草と、崩れた塀の影だけ。

 

 

 

(……さすがに、猫か?)

 

 

 

 それは自分に言い聞かせる為の言葉だった。ホラースポットで聞こえる声は大体が動物の発した鳴き声だ。山の中であれば特にその可能性が高い。そうでないのなら幻聴だろう。

 猫の発情した声なんて夜中に聞くと怖いなんてものじゃない。

 

 

 ドキドキと跳ねる心臓を落ち着かせるように深呼吸する。冷たい空気が肺に刺さる。冷や汗が気持ち悪い。動物と分かっていても怖く感じてしまうのはご愛嬌というやつだ。

 

 

 気持ちを切り替えて他の場所を見に行こうと歩き出そうとする。

 

 

 

 

おーい

 

 

 

 

 一歩踏み出そうとした足は、動かせなかった。まただ、また聞こえた。

 動物なんかじゃない、これは人の声だ。さっきとは別の方向からだ。ライトを向けても誰もいない、誰かがいた形跡を見当たらない。でも、さっきよりも声が近づいて来ていた。

 

 

 

 声が耳の奥に残る。反響するように、離れない。

 

 

 

「その……、誰かいますか!」

 

 

 

 周囲を見渡しながら声を張り上げる。冷静さを保とうと必死だった。誰かに助けを求める事は出来ない。ここには一人で来ているから、自分で何とかしないといけない。

 絶対に声がしている。それも動物では無い。

これが幽霊の仕業ではなく、人間によるものだった場合でも危険である事に変わりはない。

 

 

 

 それから、不意に声が止んだ。

 

 

 

 どれだけ待ってもあの声は聞こえて来ない。静寂だけが残った。

 

 

 

「……ふぅ。」

 

 

 

 ようやく息を吐く。気づけばずっと呼吸を止めていた。肩の力が抜ける。

 やっぱり動物だったのだろうか。そんな考えは直ぐに覆されることとなった。

 

 

 

「おい。」

「っっ!!?」

 

 

 

 心臓が喉を突き破って飛び出てしまいそうだった。

 声が聞こえて来たのはすぐ真横からだった。

もう少しで叫び出している所だった。ぐっと踏みとどまったのは、そこに人がいたからだ。

 

 

 

「何しとるんじゃ、こんな時間に。」

「えっ、と。」

「何じゃその幽霊にでも会ったみたいな顔は。」

 

 

 

 そこにいたのはお爺さんだった。見た目は普通のお爺さんだ。

 

 

 

「ふん、……こっちこい。」

 

 

 

 こちらを一瞥して思案した後、ついてくるように促した。ついていくべきか迷う。そもそもこんな事が初めてで正直パニックだった。

 幽霊ではなかった事を喜ぶべきなのか、これは迷いどころだった。

 

 

 

(悪い人では無さそうだけど、……どうするのがいいんだろ。)

 

 

 

 声音や、ぱっと見の人となりからは悪意は無いようにも感じられた。

 無視して何かされるのも困るので、一先ずついていく事にした。ただ、いつでも逃げれるようにはしておく。お爺さんはライトも持たずにすたすたと歩いていく。その後を追っていく。結局、あの声については分からず仕舞いだった。

 

 

 案内されたのは家だった。そこには明かりのついた家があった。

 位置的に村の外れの方で、この辺りに住めそうな家があった記憶は無い。ただ、暗くて方向感覚が正しいか分からないし、もしかしたら昼間には見落としていただけかもしれない。実際に目の前には家があるのだから。

 

 家の中へと招かれて、座るように促される。緊張しながら腰を下ろす。

 

 

 

「そんで何しにここへ?」

「あー、……仕事で。」

 

 

 

 まさか、住んでいる人に向かって廃村となったこの村に心霊スポット巡りをしに来たんですよとは言えない。

 咄嗟に思い浮かんだのは昼間に出会ったあの少女。取り敢えず仕事だと言葉を濁した。

 

 

 

「ほうか、……ふむ。まあ、見えんか。」

「えっと……?」

「仕事ならそれでええ。山に来るやつなんぞ限られとるからな。それも夜中になあ。」

 

 

 

(つまり、真夜中に山にいたから心配されたってこと?)

 

 

 

 直接的な言葉を使わなかったとはいえ、何となくこのお爺さんが言いたい事は理解出来た。

 一人で山に来ていたから自殺が目的なんじゃないかと思われたという事なんだろう。家の内装を見るに電波すら届いているか怪しい。あまりネットを見ない人からすれば心霊スポット巡りをしているという選択肢なんて浮かばない筈だ。

 

 このお爺さんは、万が一にも命を捨ててしまう事がないようにと引き止めるために声をかけたということだ。

 

 

 

 少し肩の力が抜けた。そんな勘違いをされても仕方のない事だった。勝手に村に入ってカメラを回しながら徘徊しているのもあって、頭が下がる。

 落ち着いてお爺さんのことを見てみれば、随分印象が変わってくる。

 

 

 

(幽霊だとか、危害を加えられかもとか考えてたのが申し訳なくなってくるな。でも、そうなるとあの声はなんだったんだろう。)

 

 

 

 気まずくなって話題を変える為にこちらから質問する事にした。

 

 

 

「ここで暮らしているんですか?」

「見ての通りじゃが。」

「そ、そうですよね……。えっと、他の村の方は見当たらないようですけど。」

「山、下りちまったからなあ。儂は、この歳で今更なぁ。それに、……この村に一人くらいおらなとな。」

 

 

 

 その言葉を口した時、寂しさは感じ取れなかった。

 

 

 

「だぁれもいないと寂しいじゃろうて。村は確かに無くなってしまったが、いつでも帰ってこられる場所でありたいじゃろ。」

 

 

 

 昼間に見た集合写真が脳裏を過ぎる。本当に良い村だったのだろう。

 

 

 

(人影を見たとか、火の玉とかの噂は多分誤解からくるものだったんだな。)

 

 

 

「とよ村は素敵な村だったんですね。」

 

 

 

 何気なく口にした言葉だった。だが、その一言で空気がわずかに変わった気がした。目の前の老人は、ほんの僅かに眉を動かしこちらを見返してくる。

 

 

 

「……ん?」

「どうかしましたか?」

「いや、聞き間違いかと思うたが、何村ゆうたか?」

 

 

 

 問い返す声音は穏やかなままだが、どこか確かめるような響きがあった。

 

 

 

「えっ、と。とよ村と。」

 

 

 

 言い直した瞬間、なぜか自分の声が場にそぐわないもののように感じられた。ほんの一瞬、沈黙が落ちる。

 

 

 

「ついに耳までわるうなったか思うたが大丈夫そうじゃな。それにしても、とよ村かぁ。……ま、その方がええか。」

 

 

 

 老人は肩をすくめるようにして笑った。だがその笑みは、どこか含みがあるようにも見える。

 

 

 

「ここはとよ村ではないんですか?」

「ん?ああ、此処はとこよ村じゃよ。こが抜けておるのう。」

「とこよって、……常世ですか!?」

 

 

 

 思わず声が上ずる。

 

 

 

 ――常世。

 

 

 

 それが指す意味を知らないほど無知ではない。

 もし漢字の当て方が間違っていなければ、それは「あの世」、死者の行き着く場所を意味する言葉だ。

 

 軽い冗談として受け流すには、その響きはあまりにも不吉だった。

 

 

 

 

「あんまり真に受けんでおくれよ。大層な名前がついてはいるが、言葉遊びみたいなものだったそうじゃ。」

 

 

 

 老人はくつくつと喉の奥で笑う。その様子は気さくな年寄りそのものなのに、なぜか胸の奥に小さな棘が引っかかったまま抜けない。

 こちらの動揺を面白がるでもなく、ただ淡々と昔話を語り始めた。

 

 

 

「村がまだ無かった頃、口減らしの為にここの山には老人やらが捨て置かれてな。当時は身捨山なんて言われてたそうじゃ。」

 

 

 

 聞いた事があるのは姥捨山だろうか。どこの地域にも似たような話はある。そう理解しているはずなのに、妙に現実味があった。

 

 

 

「その内、行く当てのない奴もこの山に流れ着くようになってな。まあ水も、食いもんも探せばあるで、気づけば集落になったそうだ。」

 

 

 

 静かな口調で語られるその話は、まるで昔話のようだった。同時に、やけに生々しかった。

 

 

 

「ほんで、身捨山言われとったから此処はあの世じゃなゆうて、ほな常世村かってな。」

「そういう理由だったんですね……。」

「まあ、聞いた話じゃから本当かどうかは分からんが。」

 

 

 

 そう言って老人は肩を竦めた。

 

 

 

「仕事なら仕方ないが、あんまり夜出歩くでないぞ。」

「はい、お話ありがとうございました!」

「気にせんでええ、お前さんもこの家にいつでも帰って来てええでな。」

「それじゃあ、失礼します。」

 

 

 

 お礼を言ってお爺さんの家から出た。何とも不思議な感じだった。

 

 

 

 お爺さんはいい人だったし、何だかんだであの家にも愛着が湧いてきた。機会があればまた来てもいいかもなんて思ってしまうほどだ。

 とはいえ、ここに来たのはホラースポットを撮影する為だ。人が住んでいるから、廃村なのか疑問が出てくるが、本来の目的を忘れた訳ではない。

 

 

 

 お爺さんの邪魔をしないように、家から離れて村の中央の方へと行く。辿り着いたのは小さな祠の近くだ。ビデオカメラを構えて録画を始める。

 

 

 

(あ、れ……。なん、だろ。)

 

 

 

 違和感は、ごく些細なものだった。けれど次の瞬間、ぞわりと背筋に冷たいものが走る。

 まるで、冷水を頭から浴びせられたように体温が引いていく。ついさっきまで感じていた安堵が、跡形もなく消えていた。

 

 

 

(違う、見間違いだ。そんな訳ない。)

 

 

 

 カメラの先には廃屋と草木だけで何もいない。

 

 

 

 視線はカメラに映された画面の中。何かが、いる。それに気づいた瞬間、反射的に視線を逸らしていた。心臓が跳ねる。呼吸が浅く、速くなる。

 金縛りにでもあったみたいに身体が動かない、いや怖くて動けなかった。

 

 

 

 ゆっくりと、震える手でカメラを持ち直す。見間違いであって欲しいと願いながら、画面を見てしまう。

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

 

 立っている。人だ。何人も、じっとこちらを見ている。

 

 

 

 みんな、笑顔のまま、ただ佇んでいる。

 

 

 

 

 

縺ォ縺偵※

 

 

 

 

 

「うわああああああ!?」

 

 

 

 必死に逃げた。あれが何だったかなんてどうでも良かった。ただあの場所から逃げ出したかった。振り返る余裕なんて、あるはずがなかった。

 お爺さんに助けを求める為に家の中に転がり込んで。扉を叩きつけるように閉めた。

 

 

 

「お、お爺さん!……お爺さん!?どこに……。」

 

 

 

 誰もいない。お爺さんの姿は何処にも見当たらなかった。返事もない。それどころか明かりも、さっきまで人がいた気配すら、残っていなかった。

 

 探す時間も、考えている時間も無かった。

 

 

 

ーートン。

 

 

ーートントン。

 

 

 

 直ぐに外から扉を叩くような音が聞こえた。ノックでもしているみたいだった。

 

 

 

 床に座り込んだまま、恐怖で動けない。膝を抱え、子供のように身体を丸める。あいつらに見つからないように祈るしか無い、そんな時だった。

 

 

ーーここには仕事で来ました、無関係です。

 

 

 

 頭の中で、昼間の少女の声が蘇る。

 

 

 

「こ、ここには、仕事で……来ました。無関係です。ここには仕事で来ました、無関係です。」

 

 

 

 縋り付くように震える声であの少女の言葉を繰り返し口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「お昼ですよ。」

「……えっ?」

 

 

 

 場違いな少女の声に顔を上げた。そこにいたのは村への案内をしてくれたあの少女だった。

 何事もなかったかのように、静かに立っている。

 

 突然のことで気の抜けた声が出てしまったが、直ぐにさっきまでの事を思い出す。あの存在がまだいるなら、一人から二人になったところで何も変わらない。

 

 

 

「あ、ここにいちゃダメだ!早く何処か逃げない、と……?」

 

 

 

 そこまで口にしてある事に気づく。お爺さんの家に隠れていたはずなのに明るいのだ。電気をつけたからという話でもない。上から降り注ぐ、はっきりとした陽の光。

 見渡してもそこに家は無かった。着ている服は土に汚れている。床も、壁も何も無い土の上にいた。

 

 さっきまで、確かに夜だった。真っ暗で、扉の前で震えていたはずだ。

 

 

 

「もう、お昼ですよ。」

「……そんな筈は、だってさっき……。」

 

 

 

 太陽が高く昇っている。言葉がうまく出てこない。頭が追いつかない。あれは夢だったのか。それとも今が夢なのか。

 

 

 

「貴方は何の為に此処へ来たのですか。」

 

 

 

 唐突に、少女が問いかける。視線が合う。その瞳には、何も映っていないように見えた。いや、違う。映しているのは、自分だけだ。

 

 

 

「え、……仕事、仕事のために、……来ました。」

 

 

 

 言葉が勝手に出る。考えるより先に、答えていた。

 

 

 

「仕事は終わりましたか?」

 

 

 

 重ねるように問われる。その言葉は確認の為のものでは無かった。暗に"そう答えろ"と、言われている気がした。

 

 

 

「仕事は、……終わり、ました。」

「では、帰りなさい。」

 

 

 

 少女はそれだけを告げる。頷くことも、表情を変えることもなく。ただ、役目を終えたかのように。

 言われるままに立ち上がり、足元を見て、息が詰まった。

 

 

 立ってみるとそこは土砂崩れのあった場所のすぐ上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 普段通りの生活に戻れるまで随分と時間がかかった。

 

 あれ以来、夜になると無意識に音に敏感になってしまう。少しの物音でも身体が強張るようになり、眠りも浅くなった。

 録画されていたデータも結局使わずお蔵入りになった。恐る恐る確認した録画に"あれ"は映ってはいなかった。映っていたのは、暗闇の中を照らすライトの光と、意味の分からない言葉を繰り返す自分の声だけだった。

 

 それ以上確認する気にも、動画を作る気にもなれなかった。

 

 

 

 あれから常世村について色々と調べた。地元の図書館や資料館を巡ってみたけど、分かったことはそれほど多くない。

 

 お爺さんについての記事があった。土砂崩れによる被害者として、名前と顔写真が掲載されていた。古びた写真だったけど、見間違えるはずもない。幽霊だったのか、それとも幻覚だったのかは分からない。

 それから常世村という名称も、資料の中に確かに記載されていた。あのお爺さんから聞いた話は本当に実際にあったことなのかもしれない。

 

 

 

(あの廃村で見た人たちは……。)

 

 

 

 思考が、そこで一度止まる。あの笑顔、あの視線。あれが何だったのか、考えようとするだけで胸の奥がざわついた。

 身捨山であった頃の犠牲者たちの姿なのかは分からない。

 

 

 

(お爺さんが……、守ってくれたのか……?)

 

 

 

 お爺さんがあの存在たちから守ってくれたのかもしれない。死んでしまってもなお、帰ってくるかもしれない村の人たちの為に家の明かりを灯してくれていた。

 そう考えると、あの言葉の意味も少しだけ変わって聞こえる気がした。

 

 

 

 ――いつでも帰って来てええでな。

 

 

 

 他の記事も見つけた。村が廃村となった時の記事だ。星見市側も転居を支援していたらしい。

 

 

 

「あれ、何か……変じゃないかな。」

 

 

 

 記事をもう一度よく見る。気になったのは日付だ。村人の転居が行われたのは土砂崩れより後だ。

 

 

 

 少なくともお爺さんが生きていた頃はまだ、村はあった筈なのだ。

 

 

 

(村がまだあったなら、帰って来られる場所でありたいなんて考えが出てくるのかな。)

 

 

 

ーー時系列が合わない。

 

 

 

(それに、……あの、お爺さんの声……。)

 

 

 

 そこまで考えて、思考を止めた。

 

 

 

「……仕事で行っただけです、無関係です。」

 

 

 

 小さく、呟いた。自分に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【以下蛇足】
 琴音は霊媒師を霊を祓う人だと思っていますが違います。霊媒師は口寄せやイタコしてる人です。健在だった頃の山神を琴音は降ろしています。つまりスーパー琴音さん。
 大雑把に中立・善の琴音(山神)と、混沌・善(お爺さんの姿をした山神)と、混沌・悪(過去の犠牲者の姿をした山神)の三巴状態で動画投稿者さんを奪い合っていました。
 お爺さん(山神)は人の味方ヅラしてますが、かなり悪どいです。結果的に助かっているように見えてるだけ。

 因みにお爺さん(山神)が現れたのは、麓の社で琴音が邪気を払ったからです。つまり琴音が悪い。
 ただ、邪気が減ったそのおかげである程度現世の法則に行動を縛られるようになったので、この山と無関係である事を強調すれば助かる可能性が生まれました。

 それと、こんな激ヤバ存在でも物理的に人に干渉することは殆ど出来ません。安心ですね。あと琴音が次の日に廃村にいたのは、案内した人が廃村で変なことしてないか不安になって見に来たからです。廃村に行くのは怖いので身体のオートに任せています。

 ところで琴音さん。志村、光月、うちは、星野、禪院、ポッター家の何処の家の子になりたいですか?(琴音の別世界転生ifとか見てみたいですけど、流石に手が出ませんね。)
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