【クラスメイト男子視点】
クラスメイトの中に一人、注目を集めている人がいる。教室の後ろの方、端っこに座ってるあの子。九条琴音ちゃんは何かと話題にされている。別に派手って訳じゃない。前髪は長いし、声も小さいし、一見すると地味な感じだ。休み時間はよく分からない難しそうな本を読んでいるし、誰かと楽しそうに会話しているのを見たことがない気がする。
それまで俺は正直、クラスの女子にあんまり興味はなかった。友達と遊んだりしてる方が楽しいからだ。でも、あの子だけは、なんか目に入った。
黒板の字をノートに写してる横顔とか、座っている時の姿勢、ふとした瞬間に見せる仕草とか、そういうのがやたら綺麗に見えたんだ。それまで気にもしていなかったのに、一つ一つの動作を自然と目で追ってしまうようになっていた。
「……地味なのに、なんか目につくんだよな。」
友達に冗談混じりにそう言ってみた。ちょっとした雑談みたいに、それとなくだ。
「前髪邪魔そうだよな、でもなんか分かるわ。」
って返ってきた。どうやら俺だけじゃなかったらしい。ただ、自分だけが注目している訳じゃなかったことに、なんでかもやもやとした気持ちが少しあった。
◆ ◆ ◆
ある時、体育の授業で並んでいたらたまたま彼女と隣になった。
「……。」
何か話そうとしたけど、声が出ない。男友達に話すみたいにできなかった。
柄にもなく緊張してしまっていた。別になんでもない会話をしようと思っていただけなのに、壊れたおもちゃみたいに声が出なかった。そんな姿を友達に見られなくてよかった。絶対にからかわれるし。
そのときだった、風で彼女の前髪がふわっと揺れたのは。
前髪に隠れていた顔が一瞬だけだけど、はっきり見えた。
(あ……。)
すごく綺麗な瞳が見えた。整った顔立ちは精巧に作られた人形みたいに可愛かった。
「?おい、ぼーっとしてどうしたんだ。」
「え?……あ、いや何でもない。春なのにまだ寒いなって思っただけ。」
「そうだなー、体育やるのはいいけど確かに寒いよな。」
どうやら後ろにいたこいつには見えていなかったみたいだ。適当に誤魔化した。まさか、話しかけたくても話せなくて、素顔を見て固まってたなんて口にするのも恥ずかしかったからだ。
因みにこの日は一日中上の空だった。
◆ ◆ ◆
正直、不思議だった。女子の中で、彼女だけちょっと浮いている。クラスメイトとして一緒の教室で過ごしていたからか、それが何となく分かった。それに彼女のいない所でヒソヒソ悪口を言われてるのを何回か見たことがある。
(なんでだ……?)
俺から見ると、大人しくてたぶん優しそうな感じに見えるのに嫌われる理由が分からなかった。
ある日、友達にこう言われた。
「九条さんってさ、何もしてないのにモテるタイプじゃないか?だからズルいとか思われてんじゃね?」
それを聞いて、妙に納得した。本人は全然そんなつもりなさそうなのに、男子の視線が集まってる。だから、女子はイライラしてる。
(なんか、女子って大変なんだな。)
◆ ◆ ◆
【九条琴音視点】
とある日の家庭科の班決め。琴音は窮地に立たされていた。
「じゃあ、自由に組んでー。4、5人で一班ね。」
先生の一声でそれぞれ中のいい人たちで固まっていく。琴音の周りだけポッカリと空いた。自由に組んでは禁術だろう。止めてくれ先生、その技はわたしに効く……。男子にも女子にも友達のいない現状、琴音にとってこれは死刑宣告に等しかった。
(あっ……、人生2周目なのにより悪化してる?前世だったら男友達くらい普通にいたのにな。)
陰キャは知っている。こういう時に動くと余計に悪化するものだと。最後は先生が「じゃあ◯◯くんは先生一緒に組もうか。」と言ってくれることを信じて耐えるしかなかった。先生でいい、寧ろ先生の方がいいと心の中で念じていた。
沈黙してただその時を待った。しかし、結果は想像していたものとは違っていた。
「九条さん、まだ決まってないならこっち来なよ。」
一人の男子が言った。しかも驚くことにその一人で終わらなかった。
「僕たちの班も空いてるよ。」
「先に誘ったの俺たちなんだけど。」
「決めるのは九条さんなんだからいいだろ。」
(誘ってくれたのは有難いけど、なんだか大変なことになってないか?)
断る勇気はない、だって断ったら気まずい未来しか見えないのだ。だから琴音は小さくうなずいて、先に誘ってくれた男子の班に入れて貰った。同じ班になれた男子は勝ち誇ったような表情を見せたが、琴音にはそれどころではなかった。
女子たちの視線が痛い。これには流石の琴音でも気づいた。じっとこちらに冷ややかな視線を投げかける女子たちの姿が目に入ったからだ。
(あ、これ……たぶんダメなやつ。凄い悲劇のヒロインぶってる感じがする。)
ここに至って漸く琴音は女子から嫌われていることを自覚した。
◆ ◆ ◆
授業が終わってひと段落かと思いきや、そんな簡単にはいかなかった。
「……ねえ、九条さんってさ。」
休み時間、女子たちが小声で話しているのが琴音にも聞こえた。嫌な予感しかしなかった。
「あれ、わざとでしょ?」
「被害者ぶるのやめて欲しいよね。」
「それにさ、前髪うざくない?」
小学生生活が終わった瞬間だった。女子たちが直接的に手を出さずに言葉だけに留めているのはクラスの男子が琴音に好意的だからだろう。わざわざ薮をつついて蛇を出す気はなかった。
結果として生まれた溝が埋まることはなく、現状維持のボッチである。大して今までと変わってないな、ならいいか。
(女子と友達になんて夢のまた夢?会話すら無くなりそうなのは、いや、元から無いからいつも通りだけど……。)
琴音的には悪口に関してはそこまで気にしていなかった。殆ど事実を言われているだけだし、そうだよなとしかならない。
それに、人生一周目の社畜人生に比べたら小学生の悪口なんて些細なものに過ぎなかった。寧ろ前世を思い出してそっちからダメージを受けたくらいだ。
(それにしても前髪のヘイトが高いのはなんなんだ?)
容姿でマイナスな要素がそこにしかないからだぞ。