今回はエピローグ的な感じで短めです。
琴音は自室で一息ついていた。何をそんなに疲れているのかというと今日は卒業式があったのだ。
「はぁ……、中学生ももうお終いかぁ。」
寂しさは一切無かった。中学生として積み上げたものが薄すぎて感傷に浸るほどのものがないのだ。周りが泣いていたり、集まって写真を撮ったりしている中で一人だけ帰路につく悲しさ。それを再び思い出したせいで更に憂鬱になってしまった。
それに中学生としての生活の大半を占めていたのは勉強である。学生として模範的過ぎてなんだか泣けてきた。
学生の内に必要なのは青春だろとツッコミが入ることだろう。意外かも知れないが、琴音だって嫌というほど青春を浴びてきた。
主に告白される側としてだが。
(告白されるのはもう散々だし、高校生活が始まる前に対策を考えておかないとな。)
卒業が近づくにつれて明らかに男子から告白されることが増えていた。恐らく告白する人間が多くいたからこそ、琴音にアタックするハードルが下がっていたのだろう。あいつも告白したなら俺もと。口では本気じゃないけどと言いながら保険をかけてワンチャンを狙いにいくのだ。
ようやくそんな日々とはオサラバだ。中学校を卒業できたので、この悪夢から解放される。段々と呼び出されるのが軽いトラウマになっていたくらいだ。
連絡用のアプリ経由で告白される方がまだ断りやすかった。所でどこから連絡先が漏れたんだと思いもしたが、クラスで作られたグループにしか参加していないのでそこからしかないだろう。文化祭の際に参加したのが仇となっていた。
「まだ大丈夫、まだ……中学生だから。」
それに人生二周目の琴音にはこれがただの通過地点でしかないことをよく知っている。
前世では社会人になってから、中学の友達と連絡なんてとった記憶はなかった。あってもマルチの勧誘くらいである。同窓会で顔を合わせて終わりだ。
中学生でまともに友達がいなくとも何も問題はないのだと琴音は自分にいいきかせた。ただの負け惜しみである、友達同士で集まってわいわいしている姿を見てめちゃくちゃ羨ましく思っていた。
人生は読書をするみたいに自分のペースでページをめくって次に進める訳ではない。気安く話せる友達が全くもっていないのは日々を過ごす上で重くのしかかっていた。
勉強机にぐてーと伸びをする。学校では気を張っているせいでリラックスできる場所が限られているのだ。
苦楽を共にしたこの勉強机だけが唯一の理解者で相棒なのかもしれない。ただ、最近はこの勉強机からも悪い思い出が襲ってくるようになってきていた。勉強机の反逆である。
正確には机の上にあるパソコンなのだが。動画投稿サイト『 Connect』のk10sアカウントの増え続けるチャンネル登録者数に、何が正しいことなのかわからん……と項垂れることしかできない。画面の向こうの奴ら全員倒せばと思っていたら、どんどん増殖していったようなものである。
遂には登録していたアカウントを経由して仕事のメールがくるまでになっていた。かなり大手からのもので詐欺ではないのは確認したけど、本当にどこに向かっているのかが分からない。k10スタジオ様ってなんだよ?こっちはずっとボッチなんだが(泣)。
とはいえ、pvの内の十数秒を担当するだけでお金が貰えるのは悪くない。ただ、金銭的に困っていた訳ではないので必要性は高くなかった。友人はお金で買えないのだから。
(転生してイージーモード!とはいかないなあ……。)
これまでの人生を振り返ってみれば碌な思い出がないことに気づく。このままでは、人生空虚じゃありゃせんかと、敗北者にされてしまう。
今世こそはモテたいという当初の目標は何も達成できていない。バレー部では後輩たちに慕われていたり、クラスメイトの綾瀬沙羅からはハグを受けたりと好転しているように見えるが、琴音の求めているものとはズレていた。結局、適応によってもたらされたものでしかないと考えているからだ。
適応と自分の関係は、何でもできてしまう完璧な姉と、不出来な妹のような関係性かもしれない。
適応状態を別の人と考えてしまっている以上は、この溝が埋まることはないだろう。
(ま、まあ玲奈さんとは友達になれたし、この調子で頑張ればいけるはず!)
唯一、西園寺玲奈と友達になれたことだけは、琴音にとって大きな進展だった。
そのことを思い出し、友達というワードにすらにやけて座ったままうなうなしている姿は可愛らしい。この姿を録画して配信すれば視聴数爆稼ぎ間違いなしだろう。本人的には嬉しくないだろうが、容姿がいいというのはとてつもないアドバンテージだ。
「目指せ高校生デビュー……したいけど、どうするか。うーん、適応にお手本を見せてもらえばいいか?」
琴音は椅子から立ち上がると、まったく使っていない物置と化していた姿見の前に移動した。
(えーっと、青春を謳歌できるような高校生に適応!)
なかなかに虚しい願望だ。とはいえ、適応はそれに応えるように身体が動いていく。
髪を軽く整え、口角がわずかに上がり、目元が柔らかくなる。たったそれだけで印象が大きく変わる。清楚で上品、それでいて親しみやすい印象。学校の廊下を歩いているだけで、自然と人目を引くような女の子。
(可愛いっ……!って、あれ……?なんか、思ってたのと違うような?)
琴音が疑問を抱いている間にも、身体は止まらない。
次に、軽く首を傾けて微笑む。鏡の向こうの少女が、まるでドラマに出てくる学園のヒロインのような笑顔を浮かべた。
「おはようございます。今日もいい天気ですね。」
胸元に手を添えるようにおき、お淑やかな動作で挨拶の言葉を口にする。
鈴を転がすような、柔らかく透き通った声だった。普段の琴音も決して声が悪いわけではない。むしろ容姿に見合った綺麗な声をしている。しかし、今出した声とは明らかに違っている。相手に警戒心を抱かせず、それでいて耳に残る。少しだけ甘さがあり、聞いているだけで気持ちが和らぐような声だった。
「ふふっ、そうですね。私も楽しみです。」
続いて軽く口元に手をやり、控えめに笑う。その仕草がまた上品で可愛らしい。相手が思わず目で追ってしまうような、そんな自然さがあった。
そこには、どこからどう見ても学校のヒロインがいた。琴音が思い描いていた高校生活を送るには十分すぎる魅力を携えている。
適応によって可視化してお手本を見せてもらった琴音だったがある事実に気づく。
「いや、これ男子にモテるだけじゃん……!」
適応をやめた琴音の口から、思わず本音が漏れた。その通りで、適応が行ったのは女子に好かれるための振る舞いではなく、女子として好かれるための振る舞いだった。
青春を謳歌できるようなと、そんな曖昧な適応の仕方では求めた結果にはならない。そもそも、琴音は女性であるのだから、対象は男性に向けたものなのである。男子生徒としてのものに適応しなければ望んだものにはならないだろう。
「はぁ、……いいやもう。お手本があっても真似なんてできないだろうし、地道に頑張るしかないか……。」
よく考えなくてもその通りである。なんとも先行き不安な高校生生活が目前に迫っていた。
あとがき
中学生卒業ということで一旦区切りです。次話からは高校生編です。ただ暫くの間、更新は未定にさせてください。少し読み専に戻りたいのと、中学生編までを読み直して修正、高校生篇を少し書いてみてしっくりくるかを確認してからまた再開します。
ここだけの話ですが、元々はVTuberものを書こうと思っていました。取り敢えず導入から書くかと思っていたら、気づけば影も形もありません。作中の年代的に高校生編が終わった辺りからしかVTuberものには入れないので先は長いです。何がいいたいかと言うと、まだまだ続けていく予定です。
もし更新を待っているよという方は、お手数ですがお気に入り登録をしていただけると助かります。どれくらいの人が待っているのかの目安になりますし、割とモチベに繋がります。ただ、特になくてもいずれ次話の更新は必ずしますので気長にお待ち下さい。ここまで長々とお付き合い頂きありがとうございました。