心機一転これからは中学生だ。歳を重ねるということは、つまり成長しているという意味である。
まだ少女のカテゴリーにいるとはいえ、容姿はどんどん大人への階段を登っていっている。
一言で表すなら『えってぃ』である。
日々考えないようにしていたことだった。それでも女性らしい柔らかさが増していくのを実感していた。
小学生の時には男子に告白されることまであった。守護神である前髪によって顔を隠していてもだ。つまり顔以外の部分も魅力的に成長しているということである。
普通にベッドで寝ているだけなのに、いけないことをしているんじゃないかという気分にさせられる。お風呂なんてずっと目を瞑っているし、なんなら目を閉じた状態に適応して目を開けなくても生活出来るようになった。今なら目隠しした状態でも百発百中でスイカを割れることだろう。
話が脱線したが、何を言いたかったのかというと。
「なんか、女の子と同棲してるみたい気分になれるし、……もう女性にモテようとしなくても……。」
実質同棲しているようなものだと心が傾きかけていた。
琴音は基本に立ち返った。何故モテたかったのか。理由なんて単純だ、女の子とイチャイチャしたかったからだ!一緒に隣を歩いて何気ない会話をしたかったし、休日には街に出て一緒に遊んでみたい、時には喫茶店でまったりとした時間を過ごしたい。
それただの友達なのではと突っ込んではいけない。琴音は本気なのだ。
だからこそ超常的な存在である神様を前にしても最初に願ったのは容姿だった。己のオリジンを思い出した琴音は思い切り叫んだ。
「って、よくなーい!ぜんぜん、よくなーい!!」
小学生時代は甘えていた。いうて小学生にモテても仕方ないでしょと高を括っていた。本気出してないアピールだ、前世生涯独身童貞は嘘で己を守らないと生きていけないほどに弱い……!!
恋人以前に友達すら出来ていないので一ミリの進歩もなく、寧ろ退化である。
「絶対に中学校では彼女を作る!」
目をつけたのは部活動だ。否が応でも人との交流が生まれる状況であればチャンスも自ずと増える。
「部活動は、……バレー部にしよう。この前見た時は雰囲気良さそうだったし……。」
選んだのはバレー部である。屋内スポーツの方が楽そうなんてカケラも思っていないったらいない。
バレーボールは一人では決して出来ない球技だ。野球やバスケット、サッカーだってそうだろという野暮な突っ込みは無しである。
ボールを地面に落とさないようにして点数を競う球技。自コート内で二回連続してボールに触れられず、チームプレーが重要なスポーツだ。漫画で読んで予習もばっちりである。
未経験で舐めてないかと思われるがそんなことはない、琴音は本気だ。
このチートスペックの身体をフルに使ってバレーをすれば絶対に味方の足を引っ張ることなどないからだ。それと、あくまでバレーに対しての適応であってそれ以外は自前だ。いい感じにバレーで頼れる部員感を出して、そこからの交流で気の合いそうな人を見つける。
完璧な作戦であった。
◆ ◆ ◆
【星見坂中学校、体育館】
「それじゃあ、バレー未経験の子たちはそっちで集まってもらって、トス練習をやってみようか。」
バレーボール経験者とそれ以外で集まったあと、三年生の先輩の一人が未経験者のグループで指揮をとっていた。
琴音も当然バレーボールをやったことがなかったのでこちらのグループへと入っていた。
「両手を広げて、頭の前で両手の親指と人差し指を合わせて三角形を作る感じで……そうそう、いい感じ。あっ、貴方は手をもう少し上げて、うんいいよ。」
「ボールをこうやって前に押し出す感じ、最初はその体勢でボールを投げるからキャッチしてみようか。」
「そう!それじゃ前に向かって押し出してみて。いいね!今のを覚えておいて、実際には手でキャッチはしちゃダメで、こうやって直ぐに押し出すのがトスだから。」
先輩はお手本を見せるようにボールを真上にあげた後、落下してきたボールの真下に移動してネットの方へとトスをあげた。
「じゃあ実際にやってみようか。ちょうど4人いるから二つに別れて、そしたら始めてね。まずはボールに慣れないとだからね。」
普通だったのはそこまでだった。
◆ ◆ ◆
「あれ、あなた経験者?それならあっちのグループだよ。ほら早く早く。」
「ぇ……、あっ、……はぃ。」
バレーに適応した身体はその性能を遺憾なく発揮していた。
しかし、そのせいで経験者と間違えられてしまった。先輩に急かされて経験者グループへと移動した琴音であったが、途中参加ほど勇気のいるものはない。当然上手く話に入れずおろおろしていると救いの手が差し伸べられた。
顧問の先生だ。真面目そうな人だったが、物凄く面倒見がよかった。
「なんだ、一人余ったのか。ほらボールを投げるからトスしてみてくれ。」
「は、はい……。」
(は、恥ずい……。)
行き着く先は先生とペアだ。ただ、相手に気を使わせないように先生はなんでもないかのように進行してくれた。
そのことに内心感謝しながら言う通りに琴音はトスをあげた。
「ん、上手いな。フォームが綺麗だ、……この位置にトスを返せるか?……凄いな、投げる場所をずらすからまた、この位置にトスをあげてみてくれ。オーバーでもアンダーでも大丈夫だ。」
顧問の指示通りに琴音はトスを返していく。この身体であればどんな位置からでも同じ位置に返すことが出来る。
「これだけ出来るならセッターに向いているな。どこでバレーをやっていたんだ?」
「あっ、……その、バレーをやるのは今日が初めてです。」
「ん?これが初めて……、まあ無理に答える必要もないが。」
「……?」
どことなく噛み合わない会話に疑問を覚えたが琴音に聞き返す勇気はない、そういう所である。
「レシーブ凄く上手い、こんなに綺麗に上げれる人初めて見た。」
「あの子スパイクも出来るんだ、完全にネットの上から叩けてるよ。」
「サーブも全部コート端に狙っていれてた……。」
徐々にその異常性があらわになり、結果は……。
「あの十番を狙っちゃダメ!全部チャンスボールになるよ!」
「バックからも打てるの……。」
「トスが低くなっても正確にドライブで端を狙ってくる!」
「あの十番以外が崩れるか、スタミナ切れを待つか……。」
琴音が拾って琴音が決めるというチートに任せたゴリ押し戦法がまかり通ってしまった。
そもそもバレーを漫画の知識程度しか知らない琴音には分からないことであるが、この身体のスペックが異常であることを本当の意味で理解出来ていないのだ。
漫画であればチートと見間違えてしまう程の連携や強さが描かれたとしても、それを乗り越えてくる敵や味方もセットで描かれることが大半だ。漫画でしか知らない琴音には、強いとしてもそのうち攻略されてしまう程度のものだと勝手に思い違いしてしまっていたのだ。
現実というものが自分の思い通りにならないことをよく知っていたから、この身体のことも軽く見ていた。一定のラインまでの信用はあれど、誰にも追いつけないほどの隔絶した力であるとは夢にも思っていなかった。
そもそもこの身体をフルに活かしたのはこれが初めてであったのも悪かったのだろう。
つまり、認識の齟齬が大きすぎたのだ。
現実にコートの端にジャンプサーブを必ず決め、ジャンプフローターと使い分け出来て、レシーブも寸分の狂いなくセッターの位置へと返すことができて、スパイクも前衛でもバックでもどこからでも打ててワンチ狙いのコート外押し出しもフェイントも出来て、ブロックも出来る。
そんな化け物を攻略出来る人間がいるはずがないのだ。ましてやまだ中学生である、土台無理な話である。
勿論、バレーボールであるので琴音以外を狙って点数を稼ぐ作戦に切り替えたとしても、少しでもボールが浮いていれば琴音がセッターとしてトスをあげてしまう。
スタミナ切れになることもない、本物の怪物だ。
「その、……なんだ、アイツらも悪気があった訳じゃないんだ。そこをどうか分かってやって欲しい。」
「……その、大丈夫です。」
「そう、か。……県の指定強化選手に選ばれたんだが、どうだ。やって見る気はあるか……?」
「えっと……、や、辞めておきます……。」
「いや、気にしなくていい。私からどうにか断っておくから、……今は少し休むといい。」
なんでこんなに顧問の先生にお労しい感じで接せられているのかというと。
『もう付いていけないです。』
『このまま続くなら、退部します。』
そう、琴音というジョーカーを手に入れたことで練習がハードになり他の部員が先に根を上げてしまったのだ。
大会で勝利していく毎に周囲の期待の目が向けられるが、活躍しているのは琴音だけ。どこまでも彼女のワンマンチームでしかなかった。元々、一回戦を勝てるかどうかのチームであったのに、だ。
最初は和やかな雰囲気であったのに、だんだんとピリピリとした感じに変化し、やがて不満が爆発した感じであった。
顧問の先生は練習を厳しくしたりと負荷をかける側であったので、このことに責任を感じていた。県大会で勝ち残れるとあれば欲が出てしまうものだ。
「な、……なんでこんなことに……!!」
お前が始めた物語だろう。
◆ ◆ ◆
【県大会】あのバレー部員、何者だよ【一人で蹂躙】
4 :名無しさん
今会場いる
マジで一人だけ別競技やってる
7 :名無しさん
無名校だよな?
地区予選ノーマークだったはず
12 :名無しさん
暴れてるの九条琴音、一年生ってアナウンスあった
15 :名無しさん
一年!?
いや無理だろ県大会だぞ
18 :名無しさん
無理じゃない
今、相手エース完全に殺されてる
21 :名無しさん
ポジションどこ?
24 :名無しさん
ローテ関係なく存在してる
前衛でも後衛でも点が入る
ブロックで止めて、次のラリーでスパイク決めてる
29 :名無しさん
それただのエースだろ
33 :名無しさん
「来る」って分かってる動きしてる
相手が打つ前にもう移動してる
36 :名無しさん
読みが異常ってこと?
40 :名無しさん
読みとかいうレベルじゃない
レシーブ、トス、ブロック
全部「最適解」出してくる
44 :名無しさん
見た目どんな感じ?
47 :名無しさん
前髪長くて目ほぼ見えない
表情もあんま変わらん
でもスタイルが中学生のそれじゃない
51 :名無しさん
地味系かと思ったら最上級スペックってやつ?
55 :名無しさん
正直、顔見えないのに
「あ、こいつ美人だな」って分かる
雰囲気がズルい
60 :名無しさん
で、試合どうなった
63 :名無しさん
今2セット目
21-10
相手校、完全に心折れてる
67 :名無しさん
得点源他にいるん?
70 :名無しさん
8割くらい九条
2割相手のミス
他のメンバーは普通
でも九条がいるだけで全部噛み合ってる
74 :名無しさん
それ10割九条なんじゃ……
79 :名無しさん
人間やめてないか
83 :名無しさん
表情変わらんのが一番怖い
点取ってもガッツポーズなし
声も出さない
87 :名無しさん
男だったらモテ散らかすタイプだな
91 :名無しさん
星見坂のストレート勝ち
最後、九条のサービスエース3連続
ここまで息切れした様子もないのバケモンだろ
111 :名無しさん
無名校に怪物一人、ただし最強
130 :名無しさん
これは伝説始まってるだろ
◆ ◆ ◆
【他校生徒視点】
最初は、完全に油断していた。相手は無名校。気負う必要は何もなかった。
相手のサーブをレシーブしセッターにボールが届く。理想的なトス、一球目のスパイク。
打つ瞬間、目の前に九条琴音がいた。
嫌な予感がしたときには、もう遅かった。ブロックは、打点にぴったり重なっていた。
二本目はコースを変えた。三本目はフェイントにした。
全部、待たれていた。
こちらが「考えた先」に、もう立っている。反応しているんじゃない。心を読んでいるんじゃないかと思えるほど、最初から正解の位置にいる。
一番きつかったのは、目だった。前髪でほとんど見えないのに、たまに隙間から覗く視線が、私を見ていなかった。
私の感情でも、気迫でもない。肩の角度、助走の長さ、踏み切りの癖。ただのデータを見る目。
打つたびに「無駄」だと突きつけられる。このプレーには、意味がない。そう言われ続けている感覚。試合が終わったとき、負けた悔しさよりも、理解され尽くされた虚しさの方が残った。
その日、本物の怪物を知った。
中学生活は書いても二、三話くらいの予定です。