転生してイージーモード!   作:ハニラビ

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ランキングを見ている時に自分と同じ題名のものを見つけてええやんと思ってクリックしたら、自分の作品でした。二度見しました。(沢山の反応ありがとうございます)

(星の王子さま、あのときの王子くんの原作とは違った描写もかなりあるのですが、演劇風に変更した、解釈を変えていると思ってください。)


星になりそうな琴音さん

 

 文化祭前日に琴音は綾瀬沙羅に王子くんの役を頼まれ、それに承諾した。たった1日で解決策が見つかる訳ないと琴音は考えていたが、この身体に任せてしまえばどんな役だって出来るじゃんと思い至ったのだ。それに気づいた沙羅に盲点だったと馬鹿な感想を抱いていたが、何でお前が一番最初に考えつかないんだよという話である。

 

 沙羅は断られることを承知での提案だったがすんなり了承されて呆気に取られていた。沙羅は勝手に琴音は目立ちたくないとかそんな理由があって実力を出していないと思っていたからだ。

 当然、そんな考えは琴音に無い。神様から与えられた身体に任せてモテてたとしても自分が好かれていることにはならないからと使わないようにしているだけだ。

 最近、よく使ってるって?頼られてるのに失敗して期待はずれに思われたら嫌じゃん。心はガラスだぞ。

 

 

 

 そんな背景があったとはいえだ、自分がその役を演じればいいと知った時に琴音は思った。

 

 

(それでこの演劇が上手くいくならいいか、……みんな凄い頑張ってたし。あの準備期間もかなり学校生活って感じで楽しかったから、このまま台無しにするのは勿体無いよなぁ。)

 

 

 

 どれだけチート的な身体を得ていても感性は普通の人と変わらない。ちょっと身体を演劇に適応させてしまえば、後はまるっと解決だ。琴音はそんな軽い考えであの日、承諾していた。

 それに女の子が凄い真剣な顔して頼み事してきたら断れる訳なかったのだ。男にはやらなければならない時があるんだ。身体は女だけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そんなこんなで琴音は王子くんを全力で遂行していた。中学三年生になって更に美少女を突き抜けた何かになった琴音フェイスで無自覚に広範囲攻撃を繰り出している。

 ところで前髪ガード無いんやけど、いいんか?

 

 

 

「……きみは、どこから来たんだい?」

 

 

 

 王子くんは顔を上げる。照明が、ほんの少しだけ王子くん側を強める。

 

 

 

「……ぼく?」

 

 

 

 自分を指差す仕草。その動きがあまりにも素直で、観客席の何人かが思わず微笑む。

 

 

 

「ぼくは……ずっと遠くから来た。」

 

 

 

 王子くんは体育館の後ろの天井を見て言う。観客席に座っている人たちは釣られて振り向く。

 そこには照明が一つだけ灯っており、そこから来たんだと思わせるものだった。一つの光の点が暗い宇宙に浮かんでいる王子くんの住んでいた星を表現していた。

 

 

 

「――王子くんは、小さな星からやって来た。」

 

 

 

 ナレーションが静かに入る。王子くんは星を見て少しだけ懐かしそうに目を細める。

 

 

 

「……一人で?」

 

 

 

 短い問いに、王子くんはぴたりと足を止める。

 

 

 

「……うん。」

 

 

 

 舞台の照明が、ほんの少し落ちる。あの王子くんの星だけが輝いている。ナレーションが続く。

 

 

 

「――王子くんの星には、一輪のバラがあった。」

 

 

 

 その言葉に合わせて舞台袖からバラの花の立て看板が運び込まれ、飛行士が舞台から離れて王子くんだけになる。舞台中央に置かれ、ライトが当たると不思議と目を引く。

 王子くんが地球へとやって来るまでの話をするのだろう。

 

 

 

 王子くんの視線が、花に吸い寄せられる。一歩、近づく。指先が、触れそうで触れない距離で止まる。花から視線を逸らし、背中を向ける。

 王子くんは言葉も無く、動きだけでバラがどんな存在だったのかを表現していた。その瞬間、照明が微かに揺れる。心の不安定さを示していた。

 

 

 

「――王子くんは、花を愛していた。だけど、その愛し方が分からなかった。だから逃げるように星を出てしまった。」

 

 

 

 王子くんは胸の前で手を握る。王子くんはバラを愛することから、それに向き合うことから逃げてしまった。

 

 

 

 体育館のパイプ椅子に座ったまま、綾瀬麗華は舞台を見つめていた。

 王子くん役の子供が花を見つめ、そして不安げに眉を寄せる。その小さな肩の動きや手の微妙な震えまで、すべてがまるで本当に王子くんがそこにいるかのようだった。

 

 

 

「……あの王子役の子、すごいなあ。もしかして役者だったりするのかな。」

「どうかしらね、沙羅からはそんな話聞いてないけど。……さりげなく立ち位置を調整して全体のバランスを整えているし、それに見せたいものや動作に視線誘導してるわ。経験者、それもかなりの技術ね。」

「おぉ、そんなに褒めるなんて珍しいな。……確かに自然と目があの子を追っているし、やっぱり凄いんだなあ。」

 

 

 

 隣で夫が呑気にそんな事を言っていたが、このレベルの役者が野良でいる訳がないのだ。中学生の時点でこれだけの演技が出来るならビジュアルも込みで引っ張りだこだろう。

 問題はこれだけ目を引くような子の話を今まで誰からも聞いたことがないことだ。

 

 

 

 それもその筈で、そいつ演技するの今日が初めてなんや……。

 

 

 

 舞台の照明が瞬間的に変わる。王子くんはステージの端に立っていた。そしてゆっくりと歩き出す。ここからは自分の住んでいた星を出て、他の星々を渡り歩いていく話になるのだろう。

 照明が当たる。そこには王さまの格好をした男子生徒がいる。ただし、顔にはお面のように校長先生の顔写真がプリントされたものが貼られており、明らかにやっている。後ろの方で見ていたリアル校長先生はお怒りだ。これはおかしい人を亡くした……。

 

 観客席からくすくす笑いが漏れる。王さまは椅子に腰掛け玉座気取りで手を組み、胸を張り威厳たっぷりに答える。

 

 

 

「わしは王様である!一番偉いのである。」

「でも、この星には王さましかいないんだね。」

 

 

 

 琴音が近づいて顔をまじまじと見つめると、王さま役の子が一瞬たじろいだ。普段地味そうにしているクラスの女子が、ありえないくらい美少女だった件。

 

 

 

 照明な切り替わって次の星に移る。そこにはみえっぱりな大人――派手な衣装を着た男子生徒がいた。

 

 

 

「俺の姿をみんなに褒めてもらうんだ!」

「それって……本当に大事なことなの?」

 

 

 

 困惑した顔も可愛いとは罪作りな顔だ。思わず王子くんのセリフに返答しそうになって口をつぐんだ。隣を通っていっただけなのにめっちゃいい香りするんだが?

 

 

 

 次の星にいるのは、のんだくれの大人だ。コップを手にして煽るように飲んでいる演技をしている。

 

 

 

「酒!飲まずにはいられないッ!」

「なんで、飲むの?」

「……ただ、恥ずかしいのを、忘れたいんだ……。」

 

 

 

 うわぁ、急に落ち着くなよ。どこからかそんな声が聞こえてきたような気がしたが、きっと幻聴だろう。

 

 

 

 飲んだくれの次は仕事人間がいた――椅子に座って勉強机に積まれた紙の山に向き合う男子生徒がライトに照らされた。

 

 

 

「大切な数字を数えているんだ。無駄口をたたいている暇なんてない!」

「大人の人って、へんてこりんだ。」

 

 

 

 五つめの星には点灯夫――ランプ形状でスイッチ式のライトを持って立っている。

 

 

 

「こんばんは。」

「どうして灯りをつけたり消したりするの?」

「これが仕事だからだよ。」

 

 

 

 巡った星の中で唯一自分以外の人のために何かをしていた人だった。王子くんが友達になれるかもしれないと思った人でもある。

 

 

 

「この人がへんだなんて思えないな。」

 

 

 

 照明は右手奥に移動し、そこには机と地球儀が置いてあった。地理の博士が登場する。眼鏡越しに王子くんを観察し、静かに声をかける。

 

 

 

「地理の本にはな、すぐに消える恐れがあるものは書かん。」

「たとえば?」

「花なんかがそうじゃ。儚いものは書きとめん。」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、王子くんの胸に微かな震えが走る。小さく息をつき目線を下に落とす。

 

 

 

「花は……はかない……。」

 

 

 

 王子くんの胸の内を表現するように指先の微妙な震えや、目の潤みから感情が伝わってくる。

 地理の博士役をしていた男子は至近距離で悲しみの感情を見せた琴音を見てしまいノックアウトされた。直ぐにでも抱きしめて大丈夫だって言いたかったが、観客席に大勢の人がいるのを見て踏みとどまった。人がいなかったら危なかったなどと供述しており……。

 

 

 

 演劇は進んでいく、地球へとやって来た王子くんは様々な景色や、動物に出会った。

 

 

 

「心じゃないとよく見えないものもあるんだよ。」

 

 

 

 友達になったキツネから学んだことだ。本当に大切なものは目に見えないのかもしれない。

 

 

 

 舞台には再び、飛行士役の沙羅と王子くん役の琴音が中央でお互いに背を向けて立っている。

 

 

 

 王子くんがヒツジを欲しがっていたのは、星を壊してしまいかねないバオバブの芽をどうにかしたかったからだ。

 何故出て行った星のことを考えているのか。それはあの星に戻るつもりだからだ。星を出た理由にヒツジは元々関係なかった。ヒツジを欲したのは星を出てからで、星々を渡り歩き地球へと辿り着きその道中での出会いに感化されてのことだ。

 

 

 

「王子くんは、ついに旅を終え地球を後にする時が来ました。」

 

 

 

 最後には別れがやって来る。

 

 

 

「もう、帰らなきゃ……。」

「行かなくちゃいけないの?」

 

 

 

 飛行士にとって王子くんとの出会いは大きな意味を持っていた。

 自分というものを理解してくれる存在であり、忘れそうになる子供心を思いださせてくれる存在でもある。沙羅は今にも消えてしまいそうなほど儚い王子くんへと手を伸ばすようにする。

 

 

 

 

ーーパチン

 

 

 

 

 舞台上の照明が切れるのと同時にヤベッという誰かの声が小さく聞こえた気がした。舞台が暗闇に包まれ、そして直ぐに照明をつけてしまう。

 

 

 

 これは予想していなかったアクシデントだ。

 

 

 

 沙羅は状況の不味さに思考を巡らせる。本来なら、王子くんが星へ帰る演出として照明を切って、その間に王子くんが舞台を離れるというものだった。しかし、切るタイミングも、点けるタイミングも台本と違う。

 照明係がタイミングを間違えたのはあまりにも琴音がお前……消えるのか、といった雰囲気を出したせいで脳がバグってしまったのだ。つまり琴音が悪い。

 

 

 

 なお琴音は身体のオートに任せて悠々自適に演劇鑑賞をしており、あれ演出違くね?と内心で焦っていたりする。お前がなんとかするんやぞ。

 

 

 

 今の状況から正規のルートに戻す方法を考える必要がある。

 

 

 

(違和感の無いように、即興のアドリブでなんとかするしかない…!?)

 

 

 

 沙羅は突然のことにフリーズしてしまった。幾ら経験者とはいえど、まだ中学生なのだ。本番で予想していなかった角度からのアクシデントに動揺してしまう。

 

 

 

 そんな焦る沙羅の耳元で「大丈夫だよ」という声が聞こえた気がした。

 

 

 

「ぼくは何処にもいったりしないよ。」

 

 

 

 堂々とした立ち姿で王子くんは話し始めた。琴音は照明の点灯を意識的な場面転換として使うつもりなのだ。

 

 

 

「ほら、振り返ってみて。ぼくはそこにいるよ。」

 

 

 

 王子くんがいた星のある場所を指さす。観客が振り返って見上げるが、当然そこに星はない。当然のアドリブに対応出来るほど習熟できていないからだ。琴音はそれすら織り込み済みである。

 

 

 

「大人ってへんてこりんだけど、ぼくが分かってない大変さがきっとあるんだよね。」

 

 

 

 子どもから見た大人たちは物事を難しくしていたり、単純なことさえ分からなかっていないように見えるのかもしれない。

 でもどんな人にだって子どもの時はあったのだ。

 

 

 

「ぼくは変わらずにあの場所にいるよ。ぼくは星(子供時代の思い出)として迷子になった君の道を照らしてみせるから。」

 

 

 

 王子くんの言葉がすっと染み込むように観客たちの耳へと入っていく。

 

 

 

「雲でかくれんぼしても、地球が回って見えなくなっても、ぼくは変わらずそこにいるから。」

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、雲が晴れるよ。」

 

 

 

 

 その琴音の言葉を聞いて照明係が一つの星に光りを灯した。

 

 

 

 

「だからーー。」

 

 

 

 

 ここで琴音の言葉が途切れる。いや、最後まで口にはしなかったのだ。物語には考える余白があった方がきっと美しいから。

 

 

 

 観客たちが舞台に目線を戻せば、そこに王子くんはもういなかった。

 

 

 

 沙羅は王子くんが退場したことで台本通りの展開に戻ったことを理解した。アクシデントを自分だけのアドリブでどうにかしてしまったのだ。

 

 

 沙羅は飛行士として最後の言葉を紡ぐ。

 

 

 

「空を見てみよう、心で考えよう。きっと、まったく別のものが見えてくるはずだ。それが凄く大事なことなんだ。」

 

 

 

 舞台の照明が消え、舞台に幕が下りる。盛大な拍手に包まれて終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

中学生の文化祭で本物の王子様が現れたと話題に【動画あり】

 

 

 

 

【あの時の】中学生の文化祭レベルじゃない件【王子くん】

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

これ文化祭ってマジ?

王子くん役やばくね?

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

王子くん役の子が出てきた瞬間空気変わったんだが

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

王子くん役の子、元々役が違ったっぽいのか?

動画のコメント欄に「急遽代役」って書いてあった

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

は?????

代役であのクオリティー???

じゃあ主演だった人はこれ以上のバケモンってこと???

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

顔面偏差値どうなってんの

あのレベルの子が普通にいるのかよ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

星の演出のとこ鳥肌立った

後ろ振り向かせるのずるいだろ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

最後の照明トラブルっぽいとこ

あそこから多分アドリブだよな?

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

あれ完全に事故ってる

よく聞くと一瞬ヤベッて声入ってる

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

事故を神演出に変える中学生って何者だよ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

飛行士役の子も上手くね?

最初ちょい固いけど後半めちゃくちゃ良くなる

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

「だから——。」で止める勇気よ、しかもアドリブでしょ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

飛行士の子は演劇経験者っぽい

王子くんはバケモン

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

お前ら冷静すぎだろ

まず顔面の話しろ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

正直あの顔で「ヒツジかいて」は反則

羊になるわ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

ほっぺ膨らませるとこ5回リピートしてる

合法か?違法かもしれん

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

近づかれた男子役の子の動揺リアルで草

初見だと王子くんに目がいって分からなかったけどさ

気持ちはすんげー分かる

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

これ絶対どっかに見つかるぞ

芸能事務所動くだろ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

逆に今まで埋もれてたのが怖い

ぐう無能

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

文化祭でこれやられたら一生忘れられんわ

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

なんであの子あんなに自然に立ち位置修正してんの

舞台慣れしてる動きなんだが

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

元舞台役者だけど、王子くん役の子の立ち位置修正が異常に上手い

 

飛行士が半歩ズレた瞬間に

自然に角度変えて絵作ってる

 

あれ無意識でやってたら天才

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

星見坂中って、どっかで聞き覚えが

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

二年くらい前に何かのスポーツで話題になってなかったか?

 

 

 

◯名無しの観客さん:ID:xxxx

これが“本物”ってやつか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無言でスタンディングオベーションする西園寺玲奈の姿。
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