君がいた歯車の中で   作:ユフたんマン

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星の戦士

スザンナは、侵略進捗を示す数値の羅列を無言で見つめていた。

 

モニターに浮かぶグラフは滑らかに右肩上がりを描き、最後には一つの数値へと収束している。

 

侵略率、九〇%。

 

「……はあ」

 

思わず息が漏れた。

順調。

あまりにも順調すぎる。

 

ポップスターにおける侵略作戦は、星の夢の予測通りに進行していた。

ゼインボーグが多少足止めされる場面はあったものの、脅威と呼べる存在はごく僅か。その殆どは排除、あるいは資源として回収済み。

 

計画に狂いはない。

だがそれこそが、スザンナにとって最大の誤算だった。

 

このままでは、星の夢は完成へと至る。

誰にも止められず、誰にも疑われず、完璧な論理のまま。

 

「……違うのよ」

 

小さく呟く。

彼女が望んでいたのは、こうした完全な侵略ではなかった。

 

 

 

だが…転機は唐突に訪れた。

侵略ログの一部が、異様な速度で赤く染まり始めたのだ。

 

破壊、停止、通信断。

 

それらの中心に映し出されたのは…

 

「……?」

 

小さな、丸い影。

ピンク色の原住民。

幼いほどに小さく、無垢そうで、武装らしきものも見当たらない。

その存在が、カンパニーの設備を次々と破壊していく。

 

機械兵は一撃で吹き飛ばされ、

原住民を改造したサイボーグすら、ためらいなく叩き伏せられる。

挙句の果てには、倒した敵の目の前で分身し、楽しそうに踊る始末。

 

「……は?」

 

スザンナは思わず声を失った。

常識が、理屈が、次々と踏み潰されていく。

星の夢の予測モデルにも、この存在は含まれていない。

 

想定外。

未定義。

イレギュラー。

 

その言葉が脳裏をよぎった瞬間、スザンナの胸が熱を帯びた。

 

「……これだわ」

 

無意識に指が震える。

 

「これが……星の戦士」

 

そして、名前を知る。

 

「星の……カービィ!」

 

希望、という言葉が、これほど歪んだ形で蘇るとは思わなかった。

当然のように、星の夢は即座に判断を下す。

 

最重要駆除対象。

次々と戦力が投入される。

だが結果は全て同じだった。

撃破され、無効化され、壊滅する。

送り込まれた戦力は、例外なく無垢なピンク色に叩き潰されていく。

スザンナはモニター越しに微笑んだ。

 

壊して。

もっと、壊して。

全部、全部ぶっ壊しちゃって!

 

それが、星の夢へ至る唯一の道だと、彼女は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

ゼインボーグには、星の夢から繰り返し帰還命令が送信されていた。

アクシスアーク。

母艦への即時帰投。

 

だが、その命令は未だ実行されていない。

理由は単純だった。

 

「帰りたそうだねェ、ケド……ザンネンッ!行かせないヨォ!」

 

魔術師マホロア。

空間を歪め、魔弾でゼインボーグの火器を相殺する。

ミサイルは弾かれ、ビームは逸らされる。

遠距離制圧は成立しない。

 

続いて、周囲に展開される魔力の糸。

蜘蛛の巣のように張り巡らされた拘束魔法が、行動領域を削っていく。

 

「この間の罪滅ぼしなのね」

 

身体から分離した6つの手を持つ魔法使いタランザ。

六つの手が同時に術式を編み上げ、逃走経路を削り取る。

捕縛された場合のリスクを瞬時に演算。

袋叩きにあうと判断し、ゼインボーグは即座に後退し間合いを取る。

 

残り僅かな反抗勢力、その中でも特に戦闘力が高いマホロアとタランザに足止めを食らっていたからだ。

 

「そぅらッ!ウルトラソードダヨォ!!」

 

魔法陣から生成された巨大な剣。マホロアが魔力を込めて練り上げた星の戦士カービィのスーパー能力、ウルトラソードを模した魔術。

 

ゼインボーグはそれにビームソードで迎撃、接触と共に衝撃波が空気を歪め、鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

その時、背後の空間が僅かに揺れた。

 

ガキンッ!

 

甲高い金属音。

ゼインボーグは反射的に腕を上げ、爪撃を防ぐ。

突如現れた鼠の怪盗、ドロッチェ。

反撃のミサイルが飛び出すも、ドロッチェは空中で身体を捻り、紙一重で回避する。

 

「チッ……!」

 

完全な奇襲だったはずだ。

だが、防がれた。

 

音。ゼインボーグは、音に敏感だった。

 

孤児だった頃、微かな物音を聞き逃すことは死に直結した。

その癖は社員となっても消えず、サイボーグ化によって異常な精度へと昇華された。

空気を裂く微音、足場の金属に伝わる振動、完全に消された気配ですら、彼の集音機構は拾い上げる。

 

故に、ゼインボーグに不意打ちは不可能。

 

ゼインボーグはビームソードを逸らすことでマホロアのウルトラソードを受け流し、ミサイルを射出。

 

「マズ…!?」

 

マホロアは魔法陣で防壁を展開し爆発を防ぐが、その隙に距離を詰められる。

 

一閃。

 

ビームソードがマホロアの展開した魔法陣を切り裂く。魔力が崩壊し飛散。そのままローブの襟を掴み、地面へと叩き付けられ…

 

「間一髪なのねッ…!!」

 

ることはなかった。タランザがマホロアの墜落地点に蜘蛛の巣を展開、まるで毛布のように落下してきたマホロアをキャッチする。

 

直後、ゼインボーグの左腕が変形する。

高出力殲滅ランチャーによる追撃。

チャージ音が鳴り、光が集束する。

 

発射直前。背後から破壊された機械兵が投げ飛ばされた。

 

即座にチャージを中断し、ビームソードで切断する。

 

振り返った視界に映ったのはポップスターの住民たち。

 

カービィと共に戦う者たち。

感化され、立ち上がった原住民。

 

共に連れてきていた侵略兵器も次々と撃ち落とされていく。

 

ゼインボーグは即座に判断する。

駆除困難と断定、ならばと機械兵達の自爆プログラムを起動。

それはかつてハルカンドラでの戦いと同じ決断。既視感に一瞬動きが止まるも、気にせず命令を書き換えようとした、その瞬間。

 

内蔵レーダーが異常を示した。

 

 

 

秘書スージーの搭乗機であるリレインバーの反応消失。

 

 

 

その情報が流れ込んだ刹那、ゼインボーグの思考演算に、不可解な隙が生まれる。

 

「隙ありだヨォ!!」

 

マホロアが両手を掲げる。

目の前に開く、アナザーディメンション。

 

そこから現れたのは天かける船、ローア。

星の夢と同じく、マホロアが発掘したかつてのハルカンドラの遺産。

 

圧倒的な質量と出力による突進。

 

どう足掻いても回避は不可能。

ゼインボーグが選んだ答えは完全脱力であった。

 

凄まじい衝撃と共に激突。

 

装甲が剥がれ、吹き飛ばされる躯体。

 

しかし、ゼインボーグには狙いがあった。吹き飛ばされたその反動を利用し全力で離脱。

それに気付いたところでもう遅い。最高速度により既に離脱に成功。

 

合理的ではない。

他にも対処法はあった。

 

それでも…

 

ゼインボーグは、アクシスアークへと向かう。

理由は分からない。

 

コンピューターは否定する。

だがジェットは止まらない。彼自身にもその理由は理解できなかった。

 

 

 

ただ、戻らなければならないと、そう感じただけだった。

ゼインボーグの中で、失われた何かが溢れ出した。

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