「そんな……アタシは……違う……」
スザンナは、震える声を押し殺すように呟いた。
「お父様を……助けたかっただけなのに…………こんなはずじゃなかった……目を覚まさせたかっただけなのに……」
零れ落ちる声は、悔恨と後悔に満ちていた
両手で顔を覆う。
星の夢のコントローラーを奪ったその選択。
それが結果として、ハルトマンを完全に機械へと引き渡してしまったのだと、痛いほど理解してしまった。
自分のせいだ。
そう思わずにはいられなかった。
「……それは違うぞ、スザンナ」
低く、けれど確かな声。
「結果がどうなったかと、スザンナが何を願って動いたかは別だ」
スザンナの指先が、わずかに震える。
「……でも……」
「それに」
ゼインは言葉を重ねる。
「仮に、あのコントローラーを奪わなかったとしても……星の夢は、いずれ社長と完全に一体化していた。サイボーグに改造されていたからわかる…奴にとってそれが一番合理的だからだ…」
淡々とした口調だった。
だからこそ、現実として胸に落ちる。
「スザンナが助けたいと思った気持ちは、決して間違ったものじゃない…」
ゼインの言葉は、それ以上続かなかった。
けれど、それだけで十分だった。
スザンナは、しばらく俯いたまま動かなかった。
指先がぎゅっと握られる。
震えはまだ残っている。それでも…
ゆっくりと顔を上げた。
涙で滲んだ視界の向こうで、壊れた施設と、空へと消えていった星の夢の残光が映る。
現実は何も変わっていない。
取り返しがついたわけでもない。
それでも。
スザンナは深く息を吸い、吐いた。
そして、自分の足で立ち上がる。
膝はわずかに震えたが、倒れなかった。
「……ありがとう、ゼイン」
声は小さい。
けれど、さっきまでのように折れてはいない。
「……アタシにはまだ……やれることがある」
自分に言い聞かせるように。
それでいて、逃げない声だった。
視線が、前を向く。
星の夢が消えていった空を、まっすぐに。
助けられなかった。
でも、終わらせることはできる。
その覚悟が、静かに宿っていた。
そのときだった。
ぽん、と小さく胸を叩く音。
カービィが一歩前に出て、まるで「任せろ」と言うかのように、自分を指差す。
スザンナは一瞬目を見開き、深く息を吸った。
「……ピンクの原住民……いえ、星のカービィ」
静かに、けれどはっきりと告げる。
「まずは……謝らせて。
アナタを巻き込んでしまって、ごめんなさい」
カービィの目が、少しだけ大きく開かれる。
「この星を……侵略対象に選んだのは、アタシなの」
言葉は重く、逃げ場はない。
それでもスザンナは視線を逸らさなかった。
「勝手なのは、わかってた……
でも、アナタの噂を聞いて……星の戦士なら、ゼインとお父様を……星の夢の呪縛から解いてくれるって……期待して、頼ってしまったの」
そして深く頭を下げる。
「本当に……ごめんなさい」
沈黙。
カービィはしばらく首を傾げ、次の瞬間にはにこっと笑った。
そして、軽く頷く。
「……許して……くれるの?」
もう一度頷く。
その仕草だけで、スザンナの胸に溜まっていたものが、少しだけ溶けた。
「……ありがとう」
そう言って、彼女は懐から端末を取り出し操作する。
空を裂くような轟音とともに、カービィの目の前にインベードアーマーが降下してきた。
「このアーマーで、あのマシンをぶっ飛ばして!」
カービィが飛び乗った瞬間、装甲が淡い光を放つ。
色が変わり、輪郭が組み替わっていく。
そしてそれは、カービィだけのための姿へと変貌する。
ロボボアーマー。
その時、さらに空が揺れた。
戦艦ハルバード。艦首に立つ仮面の剣士が、静かにこちらを見下ろす。
「……フッ」
メタナイトの視線を受け、カービィは無言で応えた。
ロボボアーマーが動く。
ハルバードをスキャンし、巨大な機体と一体化する。
装甲はピンクに染まり、
禍々しかった翼は、天使のそれへと形を変える。
艦首は、メタナイトの仮面ではなくロボボアーマーのカービィを模した顔。
最終決戦艦ハルバードモード。
星の夢へ向け、機体は飛翔する。
その背を見上げながら、スザンナは祈るように呟いた。
「お願い……星のカービィ……
もう……お父様を……止めて……!」
その隣で、ゼインは小さく息を吐き、
短く、ひとことだけ告げた。
「……頼んだ」
光の尾を引き、カービィは宇宙へと消えていった。
すべてを終わらせるために。
そして失われかけた願いを、取り戻すために。
▽▽▽
上空では、光と衝撃が幾度もぶつかり合っていた。
星の夢とロボボアーマー・最終決戦艦ハルバード。
その熾烈な戦いを、ゼインは地上から見上げていた。
拳を、強く握り締める。
「……俺も行く」
その一言に、スザンナが振り返る。
「無茶よ!そんな体で!
装甲だって失って……ボロボロじゃない!」
制止の声をあげるも、ゼインは首を横に振った。
「後悔しているのは……スザンナだけじゃない」
その言葉は、彼女に向けたものではなかった。
自分自身に言い聞かせるように、ゼインは続ける。
「あの時、俺が負けていなければ。
社長を説得できていれば……
共に歩けていれば、今は違ったかもしれない」
言葉を選びながら、噛みしめるように続ける。
「何の因縁もないカービィが、命を懸けて戦ってる。
それなのに俺が、ただ指をくわえて待つだけなんて……できない」
本心だった。
逃げ場のない、後悔と覚悟。
スザンナは、何も言えなかった。
その時、手元の端末が短く鳴る。
画面に表示された通知を見て、彼女は小さく息を吐いた。
「……もう」
そう言って、ゼインに端末を向ける。
そこに表示されていたのは、インベードアーマー起動準備完了の文字。
「脱出用に用意してた予備よ。
アタシのは、さっきの戦いで完全にお釈迦だしね」
少し間を置いて、スザンナは肩をすくめ、真っ直ぐにゼインを見る。
「昔から……頑固なところ、変わってないんだから…
なら、アタシも我儘を言わせてもらうわ。
一緒に行く。もう、離れ離れはごめんだもの」
「……危ないぞ」
「何を今さら。危ない橋なんて、今まで何度も渡ってきたわよ」
アナザーディメンションでの経験。
あの地獄を越えたという事実が、確かな自信になっていた。
ゼインは一瞬、言葉を詰まらせる。
「だが……インベードアーマーは星の夢製だ。
それで行けるのか?」
「行けるわ」
即答だった。
「だってこれは、アタシたちが星の夢の目を盗んで仕上げた特注品。
本当は、あのカービィに渡す予定だったんだけど……」
苦笑する。
「なぜか、純正品でも平然と戦えてるのよね。
……ほんと、星の戦士って何でもありね」
そして二人は並んで、アーマーへと乗り込む。
視線の先には、まだ終わらない戦いの光。
「目標は、お父様の救出。
星の夢の撃破は…カービィに任せちゃいましょう」
「ああ」
短く、力強く。
「行こう、スザンナ」
「ええ」
二人の声が重なる。
「「発進!」」
起動と同時に、アーマーの装甲が変化する。
黒とピンクが混ざり合い、胸部には金色のHの紋章。
それは、かつてのカンパニーの象徴であり、今は二人の意志そのものだった。
機体名表示が、静かに切り替わる。
『LEGACY INVADE』
受け継がれたのは、支配でも命令でもない。
過去と後悔を抱えたまま、それでも前へ進むという選択。
インベードアーマー…いや、レガシインベードは宇宙へ向けて飛翔する。
まだ、終わらせないために。
そして、全てを取り戻すために。