紫と白の光が乱舞する宙域で、星の夢とカービィは激しく交錯していた。無数の弾幕が花火のように咲き、次の瞬間には命を奪う刃へと変わる。
その最中。
星の夢の中枢から放たれた紫の波動砲が、一直線に戦艦ハルバードを捉える。
直撃――そう誰もが思った、その刹那。
黒とピンクの機影が、流星のように割り込んだ。
レガシインベード。
ゼインとスザンナが搭乗する、二人の意志を象徴するインベードアーマーだ。
「プロテクトモード!」
号令と同時に、レガシインベードの腕部装甲が展開。黒曜石のような質感を持つ巨大な盾が形成され、波動砲を正面から受け止める。
轟音と衝撃。
盾の表面でエネルギーが弾かれ、紫の光が四散する。
「今よ!」
スザンナの叫びに応え、ハルバードの主砲が唸りを上げる。
放たれた砲撃は一直線に星の夢を貫き、爆炎と火花を撒き散らす。
星の夢の巨体が制御を失い、落下していく。
「……やったか?」
しかし星の夢は止まらない。
爆発を繰り返しながら落下した先――そこにあったのは、ハルトマンワークスカンパニーの誇る超巨大母艦、アクシスアーク。
その頂点へと、星の夢は突き刺さる。
マージ。
不気味な音と共に、星の夢とアクシスアークは融合を始めた。
「ア、ア、ア、ア、」
無機質な声が空間に滲む。
アクシスアークはポップスターに突き立てていた鉤爪を分離し、ゆっくりと浮上する。
それは、もはや単なる戦艦ではなかった。
機械仕掛けの星。
自我を持った機械仕掛けの星。
全体のシルエットは、どこか懐中時計のようでもあり、硬い殻に覆われた卵のようでもある。規則的でありながら、生命を模した歪さを孕んだ存在。
そこから放たれるのは、音とも振動ともつかない、空虚な脈動。
ゼインとスザンナは同時に悟った。
もう、猶予はない。ハルトマンの精神は限界まで摩耗している。
「急ぐぞ」
「ええ……間に合わなくなる前に……!」
視線が、カービィと交わる。
言葉はない。それでも目的は共有された。
カービィは力強く頷き、星の夢へと突撃する。
ゼインたちも進路を変え、別角度から接近を開始した。
目指すのは、星の夢の頭頂部。
ハルトマンが取り込まれている中枢区画。
外側からの突破は不可能。
星の夢に完全に組み込まれた今、正面突破は迎撃の嵐を意味する。
故に選ばれたのは、内部からの侵入である。
その為にも、全身を守るように覆われているアクシスアークの外殻にどうにか隙間を作り出さねばならなかった。
そして外殻に最初の隙間を開けたのはハルバードだった。
主砲の一撃が装甲を抉り、歪んだ隙間が生まれる。
「今だ、突っ込む!」
レガシインベードが姿勢制御を切り替え、裂け目へと滑り込む。
内部は迷宮だった。
無数の機械配管、螺旋状に絡み合うエネルギーライン、自己修復を始める装甲壁。
侵入者を排除するため、内部砲台とレーザーが即座に起動する。
「来るわよ!」
黒い盾が再展開され、レーザーを弾く。その隙を突き、ビームソードを振るい前方をこじ開ける。
装甲が軋む。
内部は機械でありながら、生体のように脈動していた。
壁面を走る回路が、侵入者を拒むかのように明滅する。
「内部抵抗、想定以上よ!」
「構わない、押し切る!」
星の夢の内部。それは構造体ではなく、演算そのものが空間化された迷宮だった。
そして、低周波のノイズが機体全体に響く。
警告でも攻撃でもない意識の残滓。
「……いるわね」
「……ああ」
二人は悟る。
この最深部にいるのは、
もはや経営者でも父でもない。限界まで摩耗し、削り取られ尽くしたハルトマンの精神だと。
最深部。
歪んだ重力と、脳裏へ直接流れ込む演算ノイズ。
レガシインベードのコクピット内で、二人は同じ光景を見ていた。
中央制御区画。
無数のケーブルに繋がれ、演算装置の一部と化したハルトマンの姿があった。
「……お父様……!」
スザンナの声が機体の中で響く。
その感情に反応するように、レガシインベードの内部フレームが微かに震えた。
既に精神の奥深くまで、星の夢はハルトマンに侵食してしまっている。無理に配線を断てば、残ったわずかな精神すらショートしてしまうだろう。
防御プログラムが起動。
星の夢の内部構造が、侵入者を排除するために形を変える。
「来るぞ」
ゼインは操縦桿を握りしめる。
視界の端で、警告表示が赤く明滅する。
助けられない。
普通なら。
だが。
インベードアーマーは、搭乗者の意志によって力を変える。
スザンナのお父様を助けたいという想い。
ゼインのスザンナを守りたいという守護の意志。
二つが重なった瞬間、
レガシインベードが、内部から眩い光を放つ。
「……なに、これ……!」
表示系が次々と書き換わっていく。
侵入、制圧、殲滅。
その文字列が、別の定義へと上書きされていく。
インベードアーマーはカービィが乗れば能力スキャンが使えるように、搭乗者の意志に応じてその役割を変える。
二人の想いは一つになり、侵略のための機体は救助のための機械へと姿を変えた。
「行ける……!」
レガシインベードの腕が伸びる。
破壊ではなく、解放のための精密動作。
ハルトマンを拘束していたケーブルが一本ずつ、安全な手順で切り離されていく。
「お父様……!」
スザンナの声は、もう秘書のものではなかった。
星の夢が、悲鳴のようなノイズを発する。
だが、レガシインベードはそれを意にも介さない。
ゼインは操縦席で、最後まで外部からの干渉に備えながら、機体を支え続ける。
助けたい。守りたい。
その想いに応えるように、レガシインベードは確かにハルトマンを抱え上げた。
「お父様っ!」
命に別状はない。
ただ意識を失っているだけだった。
助けられた。
その直後、破壊音と共にアクシスアーク全体が大きく揺れる。
「カービィが……やってくれた!」
「脱出するわよ!」
機体の中にハルトマンを詰め込み、そのまま迅速に外へと脱出するのであった。
▽▽▽
外殻を破壊され、巨大な顔を露出させた星の夢。
それは、ハルカンドラの設計図に記されていた願望機、ギャラクティック・ノヴァと酷似した姿だった。
「こいつが…星の夢の真の姿なのか…?」
「にゃぁぁぁぁああ……!」
星の産声にも似た咆哮が、宇宙を震わせる。
その直後、虚空に数字のホログラムが浮かび上がった。
デッド・エンド・コード。
無機質な文字列。
そして、冷酷なカウントダウン。
止まらない。
「GO!」
その一言と同時に、悪寒がゼインの背骨を駆け上がる。
「プロテクトモードッ!!」
咆哮に応じるように盾が展開された。
レガシインベードのみならず、最終決戦艦ハルバードすら包み込む巨大な防壁。
fatal error
致命的な範囲攻撃。これまでとは比にならない威力の攻撃。
この盾も気を抜けば一瞬で砕け、持っていかれる。
吹き飛ばされそうになりながらも耐える。
守りたい。
過去を。
そして、今を。
二人で繋ぐ未来を。
手が重なる。
「「おおおおおおっ!!」」
悲鳴のような金属音とともに、盾は砕け散る。
既にレガシインベードはオーバーヒート直前。それでも防ぎ切った。
「いけ、カービィ!」
「トドメよ!」
メタナイトがギャラクシアを看板の装置に突き刺し、ロボボアーマーと分離。
ロボボアーマーは砲弾のように射出される。
「ワタシが……作リ出シタ……戦トウ能力支援マシン……
インベードアーマーの性能ヲ……遥カニ……超エル……」
途切れ途切れの音声。
星の夢は、演算を限界まで引き上げる。
「エネルギーヲ……確認……コノ生命体ガ……持ツ……無限ノ……パワー…………脅威ニ……値ス……」
レーザーが乱射される。
決死の抵抗。
「……ワタシガ……コノ……脅威ヲ……排除……デ……キル……確率……ハ…………?」
星の夢は演算を限界まで稼働させるも、その結果が残酷にも事実を突きつける。
「させない!」
「キャハッ! トドメよ、カービィ!」
レガシインベードの援護が進路を切り開く。
ロボボアーマーはついに星の夢のコアを捉えた。
ドリルが唸る。
回転数は限界を超え、空間そのものを削り取る。
貫通。
「にゃぁぁぁぁああ!!」
断末魔とともに、星の夢は崩壊。
大爆発が宇宙を揺らす。
爆風に弾き飛ばされたカービィの体を、レガシインベードが即座に捉え、抱え込む。
こうして英雄たちは帰還する。
星の夢のオーバーテクノロジーによって生み出され、ポップスターや住民を侵食していた機械たちは、星の夢の消滅とともに消え去った。
まるで、悪い夢が終わったかのように。
ポップスターは再び、自然あふれる本来の姿を取り戻したのだった。