星の夢の脅威は去り、ポップスターに静かな平穏が戻った。
かつて星を覆い尽くしていた機械群は、まるで最初から存在しなかったかのように消え失せ、地表には再び風に揺れる草原と、柔らかな土の匂いが広がっていた。
ハルトマンワークスカンパニーは、正式に体制を再編した。
社長代理として立ったのは、スザンナ・ファミリア・ハルトマン。
そして、その補佐として隣に立つのはゼイン。
カンパニーは今回の件について、ポップスターの住民たちへ正式に謝罪を行った。
そのうえで、復興支援として、交通機関や生活インフラを無償提供。
さらに、改良型インベードアーマーも多数譲渡された。
もっとも、それらは防衛目的というより、別の用途で使われ始めていた。
「ガチロボバトル」という競技に使われているらしい。
インベードアーマーに乗り、正々堂々と戦う娯楽競技。
今やポップスターで爆発的に流行している。
「……侵略兵器を娯楽にするなんて」
モニターに映る試合映像を見ながら、スザンナは苦笑する。
「血の気が多いのか、前向きなのか……」
「どっちもだろ」
短く返すゼインに、スザンナは小さく肩をすくめた。
それでも、笑っていられる世界が戻ってきたのだ。
やがて、ゼインとスザンナは、宇宙船へと乗り込む。
ポップスターを離れるために。
発進前、外には多くの住民たちが集まっていた。
カービィ。
デデデ大王。
メタナイト。
そして多くの住民たち。
誰もが手を振っていた。
スザンナも手を振り返す。
ゼインは少し遅れて、軽く手を上げた。
宇宙船は静かに浮かび上がる。
ポップスターが、少しずつ遠ざかっていく。
船内では窓の向こうに、小さくなっていく星を見つめながら、二人は並んで立っていた。
「……お父様、まだ目を覚まさないみたい」
スザンナが、ぽつりと呟く。
「星の夢に……脳まで侵食されてたのが、原因みたい……」
その声は震えていない。
もう、崩れない声だった。
「……だが、生きている」
ゼインは間を置かずに答えた
「取り込まれたままなら、社長は助からなかった」
少しだけ視線を落とす。
「……スザンナの、助けたいって想いが。社長を救ったんだ」
スザンナは何も返さない。
ただほんの少しだけ肩の力が抜けた。
「……そう、よね」
「ああ」
さらに続ける。
「それに。二度と目が覚めない訳じゃない」
「……」
「いつかきっと、帰ってくる」
ゼインは、ポップスターを見つめたまま言った。
「その時には驚かせてやろうぜ」
スザンナが、少しだけ笑う。
「……どうやって?」
「決まってる」
ゼインはほんのわずかに口元を緩めた。
「あんたの会社は、ちゃんと未来に残ったってな」
沈黙。
けれどそれは、空白じゃない。
積み重なった時間の重さだった。
やがて、スザンナが呟く。
「……ゼイン、アタシね……怖かったのよ」
こんなふうに、弱さをそのまま口にしたのは初めてだった。
「全部……失うのが」
少しだけ、声が掠れる。
「お父様も、会社も……アナタも…」
ゼインの呼吸が、ほんのわずかに止まる。
だが何も言わない。
ただただ静かに隣にいる。
寄り添う。
「……アナザーディメンションでさ」
スザンナが続ける。
「もう二度と……大事なものを見失いたくないって……思ったの…だから……」
そこで、言葉が途切れる。
言いかけて、飲み込む。
少しだけ距離を詰めた。そしてスザンナが、ゆっくりと手を伸ばす。
迷いはほとんどない。
ゼインの手に触れる。指先が少しだけ震えていた。
だが、ゼインは何も言わずその手を、握り返した。
強くはない。
けれど、絶対に離さない力で。二度と離れないという意思表示でもあった。
スザンナが、小さく笑う。
「……逃げないわよ、もう」
「ああ」
「今度は……最後まで、やりきる」
「……ああ」
スザンナが、そっと額を寄せる。
ほんの一瞬だけ。すぐに離れる。
けれどそれだけで、言葉よりもずっと多くを伝えていた。
「……一人じゃないって、楽ね」
ゼインは、少しだけ間を置いてから答える。
「……ああ」
そして、ほんの少しだけ照れたように、視線を逸らす。
「……俺もだ」
静かな時間が流れる。
宇宙船の振動。
遠ざかっていくポップスター。
守り抜いた世界。
スザンナがもう一度だけ、手を握り直す。
今度は、迷いなく。
「……ねえ、ゼイン」
「ん?」
少しだけ、躊躇って。
それでもちゃんと、前を向いたまま。
「……ずっと、一緒にいてね」
ゼインは、一瞬だけ驚いたように目を瞬かせる。
だがすぐに、いつもの静かな表情に戻る。
そして指を、ほんの少しだけ強く絡めた。
「ああ……離れない」
二人は並んで、ポップスターを見る。
守った星。
取り戻した未来。
そしてこれから、二人で背負っていくもの。
ハルトマンワークスカンパニー。
かつての象徴とこれからの責任。
そして、二人で作る意味。
宇宙船は静かに進んでいく。
黄色く、優しい光を放つ星を背に。
過去を越えて。
喪失を越えて。
それでも、前へ。
二人で。
これにてこの物語は完結となります。見てくださった皆様方、誠にありがとうございました。
きっかけは擬人化スージーが癖にぶっ刺さったという不純な動機でしたが何とか完結に持って来れました。
今後の予定についてはIFの話をするかも…という感じです。
ではこれにて閉幕です。本当にありがとうございました!