君がいた歯車の中で   作:ユフたんマン

18 / 19
触れない剣の時系列からの分岐ifルート。

ハルトマンへの侵食が少しだけ早かったら。
スザンナの帰還が少しだけ早かったら。



Ifルート
君がいない歯車の中で


遅れていたわけではない。

 

間に合わなかったわけでもない。

 

ただ全てが、ほんの少しだけ噛み合わなかった。

 

星の夢の侵食は本来より早く進んでいた。

ハルトマンの理性は、既にほとんど残っていなかった。

 

それでもゼインは剣を振るった。

止めるために。

終わらせるために。

 

だが振り切れなかった。

 

その一瞬の躊躇。

その僅かな迷い。

それが致命的だった。

 

 

 

 

 

光が収束する。

星の夢の砲口がゼインを捉える。

回避は間に合わない。

 

理解したその瞬間。

 

「ゼインっ!!」

 

その軌道にひとつの影が、割り込んだ。

 

何が起きたのか脳が理解を拒む。

 

「……スザンナ……?」

 

それがスザンナだと理解するまでに、ほんの一瞬の空白があった。

 

目の前で、誰かが星の夢の砲撃を受けた。

ただそれだけの事実が、まず脳に入る。

そこから、遅れて形が追いつく。

 

桃色の髪。

細い肩。

見覚えのある姿。

聞き馴染みのある声。

 

違う。

 

そう思ったのに、否定は続かなかった。

 

違ってほしかっただけだと、すぐに分かった。

 

喉が鳴らない。

息がうまく吸えない。

視界だけが、やけにくっきりしている。

 

スザンナが、弾かれるように後ろへ倒れた。

重力に従って、何の抵抗もなく落ちていくその姿が、ひどく現実離れして見えた。

 

なのに、逃げ場のない現実だった。

 

足が動く。

命令した覚えはない。

それでも、勝手に前へ出る。

 

一歩進むたびに、「これは違う」と思う。

もう一歩進むたびに、「いや、間違いない」と理解してしまう。

 

気づけば、すぐ目の前にいた。

 

「……スザンナ……?」

 

自分の声とは思えないほど、かすれていた。

 

返事はない。

当然だった。

 

膝が崩れる。

そのまま彼女の身体を抱き上げる。

 

軽かった。

 

驚くほど、軽かった。

 

こんなに細かったか。

こんなに壊れやすそうだったか。

 

腕の中の温度が、少しずつ逃げていく。

ゆっくりと、確実に、取り返しのつかない速度で。

 

「……なんで……」

 

問いかける相手は、もうどこにもいない。

 

帰ってきていた。

生きていた。

ここまで来ていた。

 

自分に、会いに。

 

それなのにこの結末だ。

 

守れなかった。

止められなかった。

…間に合わなかった。

 

理解は、ゆっくりと胸の奥に沈んでいく。

逃げ場のない重さで。

 

「……なんで……今……」

 

違う。

 

違う。

 

違う。

 

帰ってくるのが遅かったんじゃない。

 

遅かったのは。

弱かったのは。

守れなかったのは。

 

全部…

 

「俺のせいだろうが……」

 

視界が滲む。

 

その言葉だけが、やけに静かに落ちた。

 

そして決壊した

止まらない。

止められない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」

 

喉が裂ける。

肺が潰れる。

それでも、叫びは止まらない。

 

折れそうな身体を抱きしめる。砕けそうなほど強く。

温度が消えていく。

 

腕の中から。

指の隙間から。

世界から。

 

 

弱いからだ。

 

守れなかったのは。

奪われたのは。

全部、自分が弱かったからだ。

 

弱さは罪である。

 

弱肉強食。

忘れていた、孤児の時代に知ったこの世の真理。

 

弱者は何も選べない。

 

力。圧倒的な力。強者となり得る力の渇望。

 

「俺に…ッ!!もっと…ッ!!力があれば…ッ!!」

 

歯を食いしばり拳を強く握りしめる。

爪がくい込み血が流れるが、痛みは感じない。

 

全ての感覚が体から抜け落ちるような喪失感がゼインを襲う。

 

 

 

星の夢は、星の夢に操られたハルトマンは至極冷静だった。

沈着に、星の夢へと命令する。

 

「トドメを…」

 

その指示を受け、星の夢の照準がゼインへと向く。

発射されるその瞬間。

 

ゼインの脳内に、誰かが呼び掛ける

 

「感じるぞ、貴様から漂う渇望を!力を求める渇望を!力が欲しいか!俺の手を取れば、お前は宇宙一だ!」

 

響くような低い思念。

力を渇望するゼインにとって、それはとても甘い誘惑だった。

 

頭に直接流れ込む闇。

ドス黒い邪悪。

真っ暗な世界でこちらを覗き込む赤い瞳。

 

ダークマター族。

宇宙を渡り、世界を闇に沈める侵略種。

 

ゼインはその誘惑に抵抗出来なかった。出来るはずもなかった。

 

力が必要だった。

我を押し通すために。

力が必要だった。

ハルトマンを止めるために。

力が必要だった。

スザンナを守るために。

力が必要だった。

星の夢を破壊するために。

 

「力を…寄越せッ!!!」

「ククク…いいだろう…!!契約成立だ!!」

 

闇が、ゼインから溢れ出す。

 

「馬鹿なやつだ、貴様は俺に自ら身体を差し出した。これ以上に乗っ取りやすい身体はない」

 

ダークマター族には狙いがあった。

ダークマター族には共通した能力を持っている。それは他者に憑依する事で宿主を支配し、潜在能力を引き出したり身体を変形させるもの。

 

最初からダークマター族の狙いは、鍛えられた肉体を持つゼインの身体だったのだ。

 

「いい身体が手に入った!まずはこのガラクタを破壊して…!!」

 

ダークマター族に異変が起きる。

 

「は…?何だ…これは…!!?力が抜け…!ちが、これ、取り込まれて…!ま、待て!わかった止めろ!貴様に手を貸してやる!望む力を授けてやる!だから!!

 

俺を取り込むのを辞めろぉっ!!!」

 

悲鳴。それすらも気に止めず、ゼインは歩き出す。

その先はプレジデンバーに乗るハルトマン。

 

「な、何が起きている…!?星の夢、早くこいつを…が…っ!?」

 

ゼインの一刀がプレジデンバーごと、ハルトマンを切断する。

 

崩れ落ちるプレジデンバーの残骸。そこから滴る赤。

 

ゼインの視線が移る。その先は星の夢。

 

「アナタが……新しい…ご主人様…デスネ……一つだけ…ネガイ…をテイジしてくだサイ…」

 

権限を持つ前任者を打倒した存在、ゼインを星の夢は新たな主として認め、ネガイを問う。

 

「力を…」

「……OK>」

 

機械が肉体を覆い、コードが神経に食い込んでいく。

焼ける匂いに飛び散る火花。

 

それでも、止まらない。

 

 

 

そして生まれたゼインボーグ。

 

星の夢が提示する「力」を体現したサイボーグへの改造。

 

ゼインボーグは振り向き、抜刀。

 

星の夢は真っ二つに切り裂かれた。

 

「ERROR…安全ロックシステム、凍結。

ERROR…がハッセイ…」

 

星の夢は確かに、ゼインが望むように改造した。

これまでの兵器の中でも最高の機動力に火力、殲滅力。

ありとあらゆる要素をこれでもかと詰め込んだ。

 

それは全てゼインの強くなりたいというネガイの為。

 

しかし一つだけ、星の夢はゼインボーグに仕込んでいた。自身が破壊されぬようにする安全ロックシステム。

星の夢に剣を向ける事すら出来ないはずだった。

 

しかし今は、無様にもゼインボーグに切り裂かれ、瓦礫の山となっていた。

 

ゼインから闇が吹き出す。

それが星の夢を飲み込み、喰らう。

 

ゼインボーグが手を翳せば、吸収した星の夢の機能、時空転移プログラムが起動。

 

アナザーディメンションが開かれる。

 

力を求め、ゼインボーグは異次元へと姿を消した。

力に渇望し、様々な世界で暴れるその姿はまさに修羅。

 

強くなる為に、異次元で戦い続ける。

もう、理由は残っていない。

名前も、意味も、ほとんど消えている。

 

残ったのは…

 

力への渇望。

 

それだけだった。

 

世界を渡る。

戦う。

壊す。

喰らう。

 

肉体が変質する。

機械と生物の境界が曖昧になる。

 

そして、かろうじて残った残骸。

力にのみ固執する存在。

 

 

 

ゼイン・アナザー。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。