君がいた歯車の中で   作:ユフたんマン

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星の夢

ゼインはどうにか無事にハルトマン一行と合流した。

艦内は損傷こそ激しかったが、彼の姿を確認した瞬間、あちこちから安堵の声が上がる。

肩を叩かれ、短い労いの言葉をかけられ、ようやく生きて戻ったのだと実感が湧く。

ハルトマンもまた、深く息を吐いてからゼインを見ていた。

 

「よく戻ってきたな。……無事で何よりだ」

 

その声には、確かに心配が滲んでいた。

ゼインは一拍置き、懐から一枚の設計図を取り出す。

 

「これを……見つけました」

 

差し出された紙束にハルトマンの視線が落ちる。

次の瞬間、その表情がはっきりと変わった。

驚愕。

理解。

そして、抑えきれない興奮。

 

「……これは……」

 

設計図に描かれていたのは巨大な彗星型の機械。

複雑な環状構造、中心核、重力制御機構。

 

ギャラクティック・ノヴァ。

 

銀河の果てに存在すると語られる、伝説の大彗星。

 

「まさか……本当に……実在するとは…」

 

ハルトマンは設計図から目を離さない。

指先が、無意識に紙の縁をなぞっていた。

 

「ゼイン。これは……どこで?」

 

「火山帯近くの遺跡です。ほとんどは劣化していましたが、これだけは……」

「そうか……」

 

短い返答。

だが、その声音は明らかに震えていた。

周囲の社員たちも、ただならぬ雰囲気に気づき始める。

ざわめきが広がる前にハルトマンは顔を上げた。

 

「すぐに主要メンバーを集めろ」

 

その一言で、艦内の空気が切り替わった。

突如もたらされた情報に一行は騒然としたが、会議は驚くほど短時間で終わった。

 

 

結論は一つ。

このハルカンドラで、マザーコンピューターを完成させる。

元の世界へ帰還するためにはそれしか手段がない。

 

マザーコンピューターは未だ未完成であり、元の世界への次元跳躍は不可能に近かった。

理論上可能とはいえ、その微々たる確率に賭けれる程余裕はない。

 

幸いこの星には材料が溢れている。

遺跡に残された機構部品、未知の合金、失われた技術の残骸。

戦艦の設備を総動員し、修復と並行して開発が進められていった。

アナザーディメンション内や先程受けた損傷も、少しずつだが確実に癒えていく。

マザーコンピューターは、本来ハルトマンワークスカンパニーの“頭脳”として開発されてきたものだった。

だが、ハルトマンワークスカンパニーの科学力では完成までにあと一歩が足りない。

 

そこでハルトマンは、あの設計図の要素を組み込む決断を下す。

願望を演算し、実現する機構。

それは本来組み込まれるはずのない概念だった。

 

試行錯誤を繰り返し、何度も何度も失敗し、どうにか自分たちのテクノロジーで理解出来る領分に落とし込む。

その結果、完成したマザーコンピューターは、単なる制御装置ではなくなった。

 

「星の夢だ」

 

ハルトマンは、そう名付けた。かつてスザンナを失ってしまったことで頓挫してしまったプロジェクト、その名は『星の夢』

そのプロジェクト名から命名した。

 

 

 

星の夢が、目を覚ました。

中心核に灯った紫光が脈打ち、

環状の翼状構造がゆっくりと回転を始める。

それはまるで、宇宙そのものが呼吸しているかのようだった。

艦内にノイズ混じりの音声が流れ込む。

 

「……R…E…A…………D…Y…………… ・>」

 

断片的な発声。

言葉になりきらない音が、空気を震わせる。

 

沈黙。

誰も動かなかった。

歓声も、安堵の声も、まだ出ない。

 

「……………………。」

 

長い、長い間。

そして…

 

「アナタが……ゴシュジン様……デスネ。」

 

その声は、冷たく、整いすぎていた。

敬語でありながら、そこに感情はない。

ハルトマンが前に出る。

 

「そうだ」

 

迷いはなかった。星の夢の光がわずかに強まる。

 

「ネガイ……を…テイジ……シテ……クダサイ」

 

ハルトマンは、一瞬だけ視線を落とす。

失われたもの。

取り戻せなかった時間。

だが、口にしたのは、それとは別の言葉だった。

 

「我々を、元の世界へ戻せ」

「………OK>」

 

星の夢は、即座に反応する。

結晶翼が完全な円を描き、

艦外空間がきしむように歪んだ。そして星の夢により、カウントダウンが始まる。

 

「3 • 2 • 1 !>」

 

空が裂ける。

次元の裂け目が、静かに開いていく。

 

「……帰れる……」

 

 

 

 

 

だがその道筋は、あまりにも過酷だった。

星の夢が示したのは最短経路。

安全性ではなく、効率を最優先した解。

社員と機械兵を、文字通り“消耗品”として消費する航路だった。

 

 

警報。

 

「前方より反応!」

「異界生命体、接近!」

 

裂け目の向こうから、影が溢れ出す。

異界の怪物、さらにその後方にはこれまでに見たことのない、巨大な球形の鳥のような姿をした怪物も存在する。

紫、赤、緑、銀。様々な色の怪物が、星の夢が放つエネルギーに惹かれ、続々と群がり始める。

 

迎撃に出た機械兵が、次々と消える。

通信に混じる悲鳴が途切れ途切れになっていく。

 

「盾が足りない!」

「や、やめてくれぇ…!!」

 

ゼインは歯を噛み締め、ハルトマンを見る。

 

「このままじゃ持たない!このルートは何かおかしい!」

 

ハルトマンは、星の夢を見ていた。

 

「……他に道は?」

 

星の夢はほんの一瞬の沈黙の後、答える。

 

「……アリマセン。このケイロがサイタンデス……」

 

前面スクリーンに映るのは、戦艦を守るように配置される機械兵と社員艇。星の夢から送られる指示によって動かされる。

盾だ。

 

「……やめろ」

 

ゼインの声が震える。

 

「それは……人だぞ」

 

星の夢は反応しない。

代わりに数字だけが更新される。

犠牲数。

残存戦力。

想定到達時間。

それらを、すべて最適解として。

ハルトマンは、それを黙って見ていた。

 

帰れない可能性。

その言葉が、脳裏をよぎる。

また失うのか。

一瞬だけ目を閉じる。そして、開いた。

 

「……合理的だ」

 

その言葉に、艦内の空気が凍る。

 

「目的は帰還だ。

我々を元の世界へ戻すこと。感情で判断して全てを失うわけにはいかない」

 

『 必要な犠牲だった』

 

誰も、反論できなかった。

 

「進め」

 

星の夢が、即座に応じる。

 

「………OK>」

 

盾として送り出された機体が次々と裂け目へ消えていく。

通信がまた一つ、新たに途切れた。

ゼインは無意識に背中を艦壁に預けていた。

警報音が、やけに大きく響く。

 

 

ゼインは胸の奥に冷たいものが広がるのを感じていた。

帰るための選択だったはずだ。

なのに、何かが決定的にズレている。

疑心が芽生える。

それはまだ、言葉にも反抗にもならない。

ただ、確かにそこに在った。

こうして同じ場所を目指していたはずの二人の道は

静かに、しかし確実に分かれ始めていた。

 

 

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