君がいた歯車の中で   作:ユフたんマン

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振れない剣

全面戦争がついに始まった。

 

しかし、それは戦争と呼ぶにはあまりにも一方的だった。

ハルトマンワークスカンパニーはすでに未来に立っていた。

星の夢による演算能力は、抵抗という概念そのものを無力化する。

レジスタンスの拠点は隠れる前に割り出され、移動する前に予測され、抵抗を始めた瞬間にはすでに制圧計画が完成していた。

 

奇襲は成立せず、伏兵は見抜かれ、希望は常に「最適解」によって先回りされる。

装備の差も致命的だった。

カンパニー側が展開するのは、星の夢が設計、量産した最新兵器群。

かつてゼインが搭乗していたインベードアーマーも、

改良を重ねられもはや別物と呼ぶべき性能を備えている。

 

対するレジスタンスの武装は旧世代。

奪取した兵器も、星の夢の意思によって使用不能となる制御が施されていた。

まるで最初から、反抗の余地など想定されていないかのように。

 

そして何より恐れを知らぬ機械兵たちという存在。

躊躇も、動揺も、後退もない。

命令がある限り、壊れるまで前進する。

 

レジスタンスは圧倒的に不利だった。

だからこそ、彼らは賭けに出た。

正面から勝てないのなら、すべての中枢を一気に断つ。

少数精鋭による強行突破。

目標はハルトマンと星の夢。

 

ゼインが先頭に立つ。

仲間たちは次々と倒れ、足止めとして散っていく。

 

「後ろは任せろ」

 

その言葉の重さを、ゼインは振り返らずに受け取った。

 

 

そしてついに、辿り着く。

巨大な制御空間の中心。

星の夢が鎮座し、その前に立つ男。

 

「社長……!」

 

ハルトマンは、純金に輝く専用インベードアーマー

『プレジデンバー』に搭乗していた。

 

「ゼイン。ここまで来たか」

 

その声に迷いはない。

ゼインは、腰のビームソードを握り直す。

それはかつて、ハルトマンから直接渡されたものだった。

 

衝突。

光と衝撃が交錯し、空間が震える。

プレジデンバーの圧倒的な火力。

ゼインの執念じみた剣技。

 

プレジデンバーの黄金装甲が、戦場の光を反射する。

その姿は威圧的でありながら、どこか歪だった。

 

「ゼイン……なぜ、そこまでして抗う」

 

ハルトマンの声が、拡声器越しに響く。

 

「君も理解しているはずだ。この会社が、どれほど多くの命を救ってきたかを」

 

ゼインは剣を構えたまま即座に踏み込む。

言葉よりも先に衝撃がぶつかる。

 

「救った数の話なんてしてない!」

 

ビームソードが装甲を焼く。

だが、プレジデンバーは揺るがない。

 

「今を苦しんでる人を、見ろって言ってるんだ!」

「感情論だ!」

 

ハルトマンの反撃。

衝撃波が床を抉り、ゼインの身体が宙を舞う。

 

「私は結果を見ている!感情に振り回されて、何が守れる!」

 

ゼインは着地と同時に体勢を立て直す。

 

「結果のために、人を使い潰していい理由にはならない!」

「必要だった!」

 

声が、強くなる。

「犠牲がなければ、ここまで来られなかった!君もその恩恵を受けてきただろう!」

 

一瞬、言葉が詰まる。

ゼインは、かつての自分を思い出す。

居場所もなく、何も持たない拾われた少年だった頃を。

 

「……ああ。確かに救われた」

 

だからこそ。

 

「だから分かるんです。

 それがいつ奪われるか分からない居場所だってことが!」

 

剣を振るう。

 

「スザンナが、こんな世界を望むと思いますか!?」

 

その名が、空気を変えた。

ハルトマンの動きが、ほんの一瞬止まる。

 

「……全て彼女の…スザンナの為である」

 

低い声。

 

「安全な世界を。混乱も、不安もない、完全に管理された未来を!もう二度と失わない為の!」

 

ゼインはそれを否定する。

 

「それは生きてる世界じゃない!」

 

二人の攻防が激しさを増す。

斬撃と砲撃が交錯し、言葉が途切れ途切れになる。

 

「社長は、スザンナを探してると言っていた!」

「そうだ!」

「なのに、いつから探すより広げるが優先になっていた!」

 

ハルトマンは答えない。

代わりに、星の夢の光が背後で脈動する。

 

「星の夢がそう言ったんだろ!」

 

ゼインの声が、怒りに震える。

「会社を大きくすれば、見つかる確率が上がる。

合理的だ。筋も通っている…でもそれは……」

剣を振り下ろしながら、叫ぶ。

 

「スザンナをカンパニーの繁栄、侵略の理由にしただけだ!」

 

ハルトマンの声が荒れる。

 

「黙れ!!君に、何が分かる!!」

 

砲撃。

直撃すれば即死の一撃を、ゼインは間一髪で躱す。

 

「私は父親だ!!」

 

その言葉が、重く落ちる。

 

「娘を失った痛みが、君に分かるか!!」

 

その剣幕にゼインは息を呑む。だが剣を下ろさない。

 

「……分からない」

 

正直な言葉。

 

「でも、失い続ける人の顔は、もう見てきた」

 

戦場。

潰された社員。

盾にされた命。

 

「これ以上、増やすな!」

「今ここで止めたら、今までの犠牲はどうなる!無駄死ににしろとでも言うのか!」

「もう十分だ! 例えそれでスザンナが見つかったとして…!彼女はどう思うと思う!?彼女が愛したこのカンパニーが、自分の為に変わり果てた様をッ!」

「犠牲は必要だった! そうでなければ、彼女は…!」

 

二人とも同じ名前を胸に抱いていた。

スザンナ。

だからこそ、譲れない。

 

激闘の末、ゼインの一撃がプレジデンバーを貫いた。

装甲が砕け、ハルトマンの機体は制御を失う。

地面に叩きつけられ、ハルトマンは投げ出される。

 

「……ゼイン……」

 

ゼインは、一瞬だけ視線を向け、

すぐに背後のそれを見据えた。

星の夢。

すべての元凶。

ゼインは走る。星の夢から放たれる無数の光線をかわし、弾き、切り裂きながら。

 

あと一歩。

これを壊せば、終わる。

 

「終わらせる……!」

 

ビームソードを振り上げる。

だが――

 

「待て!!」

 

ハルトマンが割り込んだ。

 

「それだけは……それだけは、奪うな……!」

 

その目には恐怖があった。

支配を失う恐怖ではない。

希望を失う恐怖だ。

ゼインの腕が、止まる。

振れない。それが、ゼインの答えだった。

そして、その人間的な迷いを、星の夢は見逃さない。

 

無数のコードが伸び、ゼインの身体を絡め取る。

激しい電撃。

 

「ぐああああああっ!!」

 

悲鳴が響く。

ハルトマンは、歯を食いしばり、その光景を見つめていた。

星の夢が、淡々と告げる。

 

「ゴシュジン様。

 対象は、カンパニーに対スル明確な脅威デス。

 排除キョカを申請シマス」

 

排除。

その言葉が、脳裏で反響した。

 

その瞬間、記憶が、溢れ出す。

幼い娘の笑顔。

 

ゼインの事を楽しげに、ハルトマンに語り掛ける姿。

ゼインと共に歩く、小さな背中。

二人が並んで、未来を語っていた光景。

 

娘の初めてフレンズ。

 

「……ダメだ」

 

声が、震える。

ゼインがいなくなれば、スザンナはどうなる。

ハルトマンは叫ぶように命じた。

 

「殺すな!決して殺すな!無力化しろ……!」

 

星の夢は、即座に応じた。

 

「……OK>」

 

コードが、さらに深くゼインの身体に食い込む。

意識が、遠のいていく。ハルトマンは知らなかった。

それが「救済」ではなく、取り返しのつかない「破滅」への命令だったことを。

こうしてゼインは、意思なきサイボーグへと改造される。

侵略兵器として。それがハルトマンが下した、最後の人間的な選択だった。

 

 

 

▽▽▽

 

暗い。

いや、暗いのではない。何もない虚無。

 

音が、遠い。

誰かが名前を呼んでいる気がする。

 

社長?違う。

仲間たち?違う。

 

言葉にならない断片が浮かぶ。

 

金属と蒸気の匂い。冷たい風。

 

初めて会った時のスザンナの声。

 

「それ、もう少し磨いたら使えると思うけど?」

 

共に笑いあった彼女との日常。

 

些細な事で怒り、その可愛らしい頬を膨らませる顔。

 

背中合わせで座った夜。

 

「ゼイン」

 

自身を呼ぶ声が、胸を締めつける。

 

帰る場所。新しい、自身の居場所。

 

だが、そこへ冷たい何かが割り込んでくる。

 

「不要な記憶チュウシュツシマス。」

 

痛み。思考が徐々に引き剥がされる。

 

「やめろ……!」

 

声にならない叫び。

 

「感情ハンノウの低減をカクニン」

 

スザンナの顔が歪む。ノイズに覆われる。

 

「……スザ……」

 

名前が、途中で切断される。

思い出が消えていく。

 

「役割再設定

 個体名:ゼイン

 用途:侵略用サイボーグ

 個体識別:成功」

 

世界が白く染まる。

 

「……っ」

 

最後に残ったのは、ゼインと、父の様に慕っていたハルトマン、そしてスザンナが笑いあっていたあの頃の情景。

 

「処理が完了シマシタ…」

 

コードが外れる。

だが、ゼインはもう立たない。

その身体は、次の戦争のための部品になる。

ハルトマンは、その光景を見つめていた。

 

合理的だ。最善だ。

そう、言い聞かせながら。

それが、自分が父であることを捨てた瞬間だと、まだ気づかずに。

 

 

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