エーテル・スペアの処生術   作:くりぢゅん

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『独り残された仙人、あるいは継ぎ接ぎの英雄』

 

 

 

 

 

 

 (つめ)たい雨が、アスファルトを叩きつけている。  空は昼間だというのにどす黒い紫色に染まり、遠くで響く爆発音が、この都市の断末魔(だんまつま)のように木霊していた。

 

「――どけッ! 押すな!!」

「助けて! 子供が、子供がまだ中に……ッ!」

「ダメだ、バリケードを閉鎖しろ! 侵食(ホロウ)領域が広がるぞ!!」

 

 新都(ニューエリア)へと続く避難ルートは、まさに地獄絵図だった。我先にと逃げ惑う市民の波。怒号と悲鳴。そして、それを必死に押し留めようとする防衛軍の兵士たち。誰もが「生」を求めて、安全な方角へと走っている。そんな濁流のような人波の中を――たった一人、(さか)らって走る影があった。

 

「……はぁ、はぁ、……ッ」

 

 レンは、押し寄せる人々の方を()ねのけ、泥水を蹴り上げて走っていた。向かう先は、誰もが逃げ出してきた「死地」。今まさに世界を飲み込もうとしている零号(ゼロごう)ホロウの発生源、旧都深部(きゅうとしんぶ)だ。

 

「おい、そこの君! どこへ行く気だ!?」

 

 不意に、防衛軍の兵士に腕を掴まれた。  煤《すす》と血にまみれた兵士は、レンを(とが)めるというよりは、自殺志願者を止めるような必死な形相をしていた。

 

「あっちに行けば死ぬぞ! もう第五防衛線は決壊した! エーテリアスの群れが――」

「……離せ」

 

 レンは、兵士の手を冷徹に振り払った。その瞳に宿っているのは、子供の怯えでも、無謀な勇気でもない。ただ、事務的に「作業」をこなすような、凍りついた無機質な光だけ。

 

「死ぬのは分かってる。……俺は、忘れ物を取りに行くだけだ」 「は……? お前、何を言って……」

 

 兵士が呆気にとられている隙に、レンは再び走り出した。  忘れ物。ああ、そうだ。この先に、「取りこぼしてはいけない運命」がまだ残っている。

 

 (……馬鹿だ。俺は、本当に救いようのない馬鹿だ)

 

 肺が焼け付くように痛む。脇腹(わきばら)の古傷が――数時間前に負ったばかりの傷が、包帯の下で裂けて血を滲ませているのが分かった。

俺の脳裏にこびりついて離れない「知識」が、足を止めさせてくれなかった。

 

 ――『旧都陥落の日。雲嶽山(うんがくさん)の第十二代門下生は、零号ホロウの中で市民を守り……ほぼ全員が犠牲となった』

たった数行の、過ぎ去った過去の設定。だが、その数行の裏に、どれほどの地獄があったのか。今の俺には、痛いほど想像できてしまう。

 

 逃げる人波が途絶え、周囲の景色が一変した。建物は飴細工のように捻じ曲がり、空間そのものが黒いノイズを発している。エーテル濃度が致死量を超え始めたエリアだ。普通の人間なら、ここに立っているだけで精神が汚染され、侵食体(エーテリアス)へと変貌するだろう。

 

 だが、レンの体は動いた。死によって魂が変質したせいか、この濃厚なエーテルの中ですら、俺は呼吸ができている。

 

 (……あそこの防衛線が抜かれれば、逃がしたアキラたちの方にも被害が出るかもしれない)

 

 そんな、もっともらしい言い訳を心の中で繰り返す。だが、本音は違う。ただ、嫌だったのだ。あの飄々(ひょうひょう)として掴みどころのない――けれど誰よりも情に厚い仙人、儀玄(イーシェン)が。たった一人で、「姉の死」と「忘却」という呪いを背負い込んで生き残る未来が。

 

「……俺の(チップ)は、まだ余ってる」

 

 レンは唇を噛み締め、さらに加速した。  使い潰せ。予備部品(スペアパーツ)に、安息など必要ない。  俺がここで擦り切れることで、誰かの「最悪」が「次善」に変わるなら。それは十分に効率的な取引(トレード)だ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 一方、さらに奥の第五防衛線。そこは、この世の地獄だった。かつて繁華街だった大通りは、巨大な亀裂(きれつ)によって分断され、断崖(だんがい)の底からは濃密なエーテルガスが噴き上げている。

視界を覆うのは、無数に(うごめ)く黒い影――侵食体(エーテリアス)の大群だ。

 

「がはっ……!?」

師兄(しけい)!!」

 

 先頭で術法障壁を展開していた大柄な男が、巨大な爪に弾き飛ばされた。空中で血の花が咲く。

 

「ひるむな! ()を回せ! 結界を再構築しろ!」

 

 悲鳴をかき消すように、儀玄(イーシェン)が叫んだ。まだあどけなさの残る顔立ち。けれど、その瞳には燃えるような闘志と、隠しきれない不安が同居している。

雲嶽山(うんがくさん)の第十二代門下生たちは強かった。だが、相手が悪すぎた。再生能力、凶暴性、そして何より――「数」が、絶望的だった。一人、また一人と、敬愛する兄弟弟子たちが黒い波に飲まれていく。

 

「くそっ、キリがない……! 姉様、もう限界だ! 撤退を……!」

 

 儀玄が叫ぶ。その視線の先。戦列の最前線で、一際異彩を放つ女性が立っていた。

第十二代宗主――儀降(イーシャン)

 

「……ううん、だめ。私たちが退いたら、みんな死んじゃう」

 

 儀降の声は静かだったが、そこには決して退かないという鋼の意志があった。彼女の手が、腰に()いた豪奢な装飾の剣――禁忌とされる『青溟剣(せいめいけん)』の柄に伸びる。

 

「姉様! まさか、それを使う気か!?」

 

 儀玄の顔色が蒼白になる。その剣は、使い手に虚狩(うつろが)り並みの絶大な力を与える代償に――「記憶」と「五感」を喰らい尽くし、最後には命さえも奪い去る呪いの剣だ。

 

「……儀玄。あなたは、私やみんなとは違う。あなたの才は、みんなを守る武器になる」

 

儀降は、エーテリアスの爪を剣で受け流しながら、背後の妹へと優しく語りかけた。それは戦場に似つかわしくないほど穏やかな、妹を慈しむ姉の声だった。

「だから……生きなさい。いずれ私たちより遠くへ行くために」

「嫌だ! あの剣を使ってはだめだ! 師匠の二の舞になるぞ……!」

儀玄が泣き叫ぶ。だが、儀降はふわりと微笑んだ。そこには、死への恐怖を愛で塗りつぶしたような、痛々しいほどの強さがあった。

 

「……怖くないと言えば、嘘になるね」

 

 儀降の手が、柄を強く握りしめる。

 

「怖いよ」

 

 震える声。それが彼女の本心だった。記憶を失い、自分を失い、化け物になって死ぬことへの根源的な恐怖。だが、彼女はその恐怖を飲み込み、妹の方を見て強く頷いた。

 

「でも……儀玄がいる。賢い妹なら、青溟剣と皆の未来を、いずれ託せるから……それまでは、私が守る」

 

儀降が、青溟剣を抜こうと力を込める。刀身から溢れ出した青白い燐光が、儀降の腕を蔦のように這い上がり、彼女の「存在」そのものを食らおうと鎌首をもたげる。

 

(やめてくれ……姉様、やめてくれ!!)

 

儀玄は手を伸ばした。だが、遠い。エーテリアスの群れに阻まれ、姉の背中には届かない。

終わる。姉様がいなくなる。私が、姉様を殺すんだ。絶望が、儀玄の時間を引き伸ばした。スローモーションのように、姉が剣を抜こうとする動作が目に焼き付く。鞘から放たれる青い光が、世界を覆い尽くそうとした、その時だった。

 

 ――ヒュン

 

 泥を跳ね上げ、砲弾のように飛び込んだ影が、今まさに抜かれようとしていた『青溟剣(せいめいけん)』と儀降(イーシャン)の間に滑り込んだ。

 

「え……?」

 

 儀玄(イーシェン)が呆然と立ち尽くす。それは、全身包帯だらけで、死体置き場から抜け出してきたような少年だった。彼は儀降の着物の袖を乱暴に掴むと、まるで親の仇を見るような形相で、剣の「見えない刃」を素手で握りしめたのだ。

 

「――よせ!!」

 

少年の絶叫が、雨音を切り裂いた。儀降の指には既に力が込められている。鞘から(ほとばし)る青白い燐光が、彼女の腕を這い上がり、その「存在」そのものを食らおうと鎌首をもたげていた。

 

「なっ、お前、何者だ!?」

 

 儀玄が叫ぶ。だが、少年は儀玄を一瞥もしない。その左目だけが、異様な熱を帯びて(あか)く発光し、儀降の胸元――エーテル回路を凝視していた。

 

 (……間に合わない、彼女が呑まれるッ!)

 

 レンは歯を食いしばる。物理的に剣を止めることはできない。この剣は、抜かなければエーテリアスが絶えず襲ってくる。どうする? どうすればいい?俺に何ができる? 鉄パイプ一本で、この呪いを止められるわけがない。

 ――いや。止めなくていい。肩代わりすればいい。どうせ俺の命なんて、あと一回分残っているかどうかの予備部品(スペア)だ。

 

 『……接続可能領域(アクセス・ポート)、検知』

 

 不意に、脳髄の奥で知らない「声」が響いた。ズキンッ、と左目の奥が焼き付くように痛む。視界がノイズ混じりに歪み、世界が「線」に分解されていく。見えた。儀降の心臓から剣へと伸びる、太く禍々(まがまが)しい「青い奔流」。あれが何なのか、理屈は分からない。だが、本能が告げている。「あれに触れれば、俺は壊れる。……だが、彼女は助かる」と。

 

 (……上等だ。持って行けよ!)

 

 レンは躊躇なく、その「青い奔流」――物理的には存在しないはずのエーテルの流れへ向かって、自身の左手を突き刺した。能力があるからやるのではない。自分をゴミ屑のように使い捨てる覚悟だけが、その扉をこじ開けた。

 

 『……承認(アクセプト)虚数解(イマジナリー)強制起動(フォース・ブート)

 

 バチチチチッ!!

 

「ぐ、がぁぁぁッ!!?」

 

 レンの口から、絶叫が漏れた。指先から溶けた鉛を注ぎ込まれたような激痛が、左腕を駆け上がり、内臓を直撃する。肺が焼ける。胃が痙攣する。剣が吸い上げようとする「儀降の記憶」を、レンの脳が無理やり割り込んで上書きしていく感覚。

 

「えっ……!? き、君……!?」

 

 儀降が驚愕に目を見開く。彼女は剣を抜こうとしているが、レンという「異物」が呪いのパスに割り込んだせいで、剣が吸い上げるべき代償の供給源にノイズが走っていた。彼女の目には、少年が勝手に飛び込んできて、勝手に苦しんでいるようにしか見えないだろう。

 

「放して! 君まで巻き込まれるわ!」

「うる、さい……ッ! その剣は……アンタの『記憶』を食おうとしてる……!」

 

 レンは血を吐きながら、食いしばった歯の隙間から言葉を絞り出した。左目の視界がノイズで埋め尽くされる。脳内の「声」が、事務的に告げる。

 

『……対象のエーテル汚染、および精神負荷を転送。濾過(フィルトレーション)を開始します』

『警告。術者(ユーザー)の精神防壁が破損します』

 

 (……いいぞ。俺を見ろ。俺を食え)

 

 レンは意識的に、自分の精神を差し出した。俺には、この世界で積み上げた大切な記憶なんてない。あるのは、200回程度の死と、絶望と、後悔の記憶だけだ。そんなゴミ屑のような記憶でいいなら――いくらでもくれてやる。

 

「……持って行けぇぇぇッ!!」

 

 レンの咆哮と共に、青い奔流が赤黒く変色し、その矛先を儀降の「脳」からレンの「左目」へと強引にねじ曲げた。

 

「――ッ!?」

 

 儀降の瞳から、エーテル侵食の濁りが消える。彼女は一瞬戸惑ったが、すぐに状況を理解した。背中の少年が、身代わりになっている。  その体からバチバチと音を立てて煙が上がっているのを見て、彼女は唇を噛み締めた。

 

「……無茶な子。名前も知らない貴方に、こんな……」

「……いいから、行けよ。……全部、薙ぎ払ってくれ」

 

 レンは震える声で返した。その表情は、激痛に耐えているはずなのに、なぜか能面のように涼しい。痛すぎて表情筋が死んでいるのか、それとも能力の副作用なのか、レン自身にも分からなかった。ただ、儀降を安心させるために、引きつった笑みを浮かべることしかできない。

 儀降は深く頷き、そして――舞った。

 

 「――雲嶽(うんがく)青溟(せいめい)万象断(ばんしょうだん)!!」

 

 一閃。  世界が青に染まった。

 

 キィィィィィィィン!!

 

 音すら置き去りにするような、絶対的な破壊の光。

 高周波の音が、レンの脳を揺さぶる。儀降が放った一撃は、剣技というよりは巨大な災害だった。横薙ぎに放たれたエーテルの波紋が、迫りくるエーテリアスの群れを、瓦礫を、降り注ぐ雨粒さえも、分子レベルで分解し、消滅させていく。

 だが、その出力に比例して、レンへの反動も加速する。

 

 (あ、……あぁ……?)

 

 頭の中で、何かが弾け飛ぶ音がした。走馬灯のように、記憶が流出していく。

 

 『……警告。記憶領域への干渉を検知』  『重要データの破損を確認。……修復不可能』

 

 脳内で、誰かの声が遠ざかっていく。ボロボロと、砂上の楼閣が崩れるように、俺の中の「知識」が抜け落ちていくのが分かった。

 

――昨日の晩飯、何食べたっけ? 思い出せない。

――この世界に来る前、俺はどんな部屋に住んでた? 思い出せない。――『旧都陥落の黒幕は……だ』……誰だっけ?

――『零号ホロウの深部には……がある』……わからない。

 

 「ゼンレスゾーンゼロ」というゲームの知識。俺が唯一持っていた、この理不尽な世界で生き残るための「攻略本」。未来の出来事、隠されたアイテムの場所、敵の弱点、黒幕の正体。それらが、次々と『青溟剣』の燃料として燃やされ、青白い光へと変換されていく。

 

 (……ハハ。……なるほど、ハードモードってやつか)

 

 レンの意識が白濁する。だが、後悔はなかった。俺の持っていた「未来の知識」と引き換えに、目の前の「現在」が守られるなら。それは、効率的な取引《トレード》だ。

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 最後の大爆発と共に、数百体のエーテリアスが塵となって消滅した。  同時に、儀降の身体から青い光が霧散する。彼女はその場に崩れ落ちそうになり――剣を杖にして、なんとか踏みとどまった。

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

 儀降は肩で息をしながら、ゆっくりと振り返った。  そこには、糸が切れた人形のように地面に転がるレンの姿があった。

 

「……君! しっかりして!」

 

 儀降が剣を放り出し、レンの元へ駆け寄る。その足取りはふらついている。剣の反動で、彼女自身のエーテル回路も焼き切れかけているのだ。それでも彼女は、自分のことなど構わずにレンを抱き起こした。

 

「……あ、……」

 

 レンの目は虚ろに開かれていた。焦点が合わない。左目からは血の涙が流れ続け、頬を伝っている。

 

「姉様!!」

 

 瓦礫の陰から、儀玄が飛び出してきた。彼女は姉の無事を見て安堵の表情を浮かべた。

 

「儀玄…!」

「姉様……っ! 分かるのですか!? 私のことが、分かるのですか!?」

「ええ…!…はぁ…ッ。…忘れる、ものですか。私の可愛い妹を…ッ」

 

 儀降は息も絶え絶えで、必死に妹の頬に触れようとする。その光景を見て、儀玄は喉が張り裂けんばかりに泣き叫んだ。生きてる。覚えている。姉は、私を置いていかなかった。化け物になんてならなかった。

 

「よかった、よかったぁ……ッ!!」

 

 儀玄が姉に抱きつき、子供のように泣きじゃくる。それは、本来ならば有り得なかった「奇跡」の光景、そして特異点。

 だが、その奇跡には、相応の「代償」が支払われていた。

 

「……あ、……ぅ……」

 

 儀降のすぐ横で、泥のように倒れていた少年が、苦しげに呻いた。レンだ。儀玄はハッとして、涙を拭いながら彼の方を見た。

 

「おい、お前! 大丈夫か!? お前が何をしたのかは知らないが、姉様を……」

 

 儀玄がレンの肩を揺する。レンは、ゆっくりと目を開けた。その左目からは、どす黒い血が流れ落ち、頬を伝っている。焦点が合っていない。まるで、中身がごっそりとくり抜かれたかのような、空虚な瞳。

 

「……タスク……完了……。……対象……成功……」

 

 壊れたレコードのような、意味の分からない呟き。  そして、レンはゆっくりと首を巡らせ、目の前の儀玄を見た。

 

「……あんた、誰だ……?」

 

 その言葉に、儀玄の時が止まった。  まるで、本来なら姉が言うはずだった台詞を、彼が代わりに演じているかのように。

 

「……ここ、は……? ……俺は……何を、知ってたんだっけ……?」

 

 レンは震える手で自分の頭を押さえる。思い出せない。自分がなぜここにいるのか。何のために戦ったのか。そして、この先に「何が起こるはずだったのか」。知識がない。真っ白だ。未来への道標が、すべて消え失せている。

 

「お前……まさか……」

 

 儀玄は、戦慄した。彼女は「気」を見る才がある。だからこそ、分かってしまった。この少年の魂が、姉の代わりに『青溟剣』に食い荒らされ、穴だらけになっていることが。姉の記憶を守るために、彼が自分の「何か」を差し出したのだということが。

 

「……なんでだ。……なんで、そこまでするんだよ……!」

 

 儀玄の声が震える。名前も知らない、通りすがりの少年。それなのに、彼は自分の魂を削り、未来を削り、自分たち姉妹の絆を守り抜いた。

 レンは、儀玄の問いかけに、力なく笑った。その笑顔は、どこか憑き物が落ちたように穏やかで――そして、痛々しいほどに空っぽだった。

 

「……分から、ない……。……なんでか、身体が……勝手に……」

 

 そう言い残し、レンの意識は深い闇へと落ちていった。

 

 ◆

 

 雨が止んでいく。雲の切れ間から、薄日が差し込んでいる。瓦礫の山となった戦場で、儀玄は動かなくなった姉と、意識を失った少年を両腕に抱え、呆然と空を見上げていた。

 姉は助かった。だが、体はもう動かないだろう。そして、この少年は……多くのものを失ってしまった。

 

「……恩に着る」

 

 儀玄は、レンの泥だらけの額に、そっと自分の額を押し当てた。

 

「貸しイチだぞ、馬鹿野郎。……とりあえず、ウチに来い」

 

 それは、後に「雲嶽山の若き天才」と呼ばれ、やがて宗主となる少女が、初めて背負った「本当の重荷」だった。一人の少年の犠牲の上に成り立つ、彼女の新しい人生が、ここから始まる。

 

 




最初に書いていた下書きは儀降は青溟剣の犠牲になっていたんですが、ゼンゼロの設定資料を読み漁っていたら、故人にするなんて到底出来ないって感情が溢れ出てきました。儀降めっちゃ可愛い。
投稿が遅れているのはゼンゼロの設定や世界観を細かく読み漁っていたからのと、スタック分も書き直しているからです。申し訳ないm(_ _)m
自分の好きなゲームをゼロから隅々まで確認するのは意外に楽しいですよ。私はピクシブ百科事典で籠ってます
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