全ての事件が救いたいと思えるような事件ではなく、理解も難しい事件がある
今回の話はそんな話
ストックはまだあるけど、事件一つがめっちゃ長くなったから実質一つだけみたいなもんかな
頑張って書かねばならぬ
今日も今日とて小城探偵事務所の仕事は平和に猫探し。
なんてことのない日々、物騒な事件も、事故もない日常こそが小城拓也の平穏である。
「所長ー、トラちゃんが無事に見つかってよかったすね」
しかし隣に並ぶのは死神に愛された男であり、地獄の傀儡師に狙いを定められた存在・金田一 一。
だがそんな彼の顔は今、猫の爪によるひっかき傷があちこち走り回っており、血こそ出ていないが赤い線が残っていた。
「そうだね、それで初の猫探しはどうだい? 金田一くん」
小城はそんな金田一を笑うわけでもなく問いかければ、金田一も降参するように両手を挙げた。
「正直、猫の身体能力と攻撃力舐めてました・・・」
「そればかりは図鑑だけじゃどうにもわかりづらいからね、実地で学ぶしかないことの一つだよ。
いっそ利緒ちゃんにでも頼んで、動物の身体能力や警戒心について講義してもらうのもいいかもしれないなぁ」
「また俺の座学が増える!?」
「いや、これに関してはやるなら全員に実施するよ」
聞きなれた金田一の悲鳴を聞き流しつつ時計を確認すれば時刻は昼を差し、ちょうどよく隣にいる金田一の腹に住む虫が空腹を知らせた。
「あー・・・ てへっ。
所長、あたしお腹すいちゃって~ とっても高カロリーなお肉かパフェ食べた~い」
笑って誤魔化すだけでなくくねくねと気持ち悪く腰を動かし、媚びた声を真似るようにいう金田一から距離を取りつつ、ため息をついた。
「言われなくてもお昼を食べるつもりだったけど、次からその気持ち悪い声を使ったら君の分のお昼は給与から差し引くね」
「すんませんでした! お腹すいちゃったんでお昼行きたいっす!!」
「じゃ、ファミレスで適当に食べるとしようか」
事務所までの道にあるいくつかのファミレスを思い出しながら、脳裏に浮かんだ一番近いところへと迷いなく歩き出した。
「いやー、食った食った」
食べ盛りの男子高校生が奢りの食事を遠慮するわけがなく、綺麗に完食されたいくつもの食器を店員が片付けていく。
「本当によく食べるね、君は」
「所長が食わなさすぎっすけどね、あんな女の子みたいなパスタランチでよく足りるっすね」
「ちゃんと体に必要なだけは食べているし、それに大人になると高校生の時ほど食べれなくなるものなんだよ。
それで金田一くん、『初めての依頼をやるのは所長とが良い』なんて我儘を言ってまで僕を連れだした理由はなんだい?」
「あー・・・ やっぱ所長にはばれちゃいます?」
「当然・・・ と言いたいところだけど、今回は当てずっぽうだよ。
初めての依頼だから不安もあって経験が一番豊富な僕に頼むのは変なことじゃない。けれど、それならもっと気心の知れた千家くんやそれなりに経験を積んでる檜山くんや狩谷でもよかったはず」
そこで小城は一度コーヒーを飲み、メニューのデザートを眺める。
「所員の中には僕と君が揃って行動するのを嫌がる者も多いから、反対されることは目に見えてた筈だ。けれど、今日の君はふざけながらも断固として僕と行動することを譲らなかった。
僕が感じた違和感は、その程度だよ」
「所長の観察眼が超怖いっす・・・」
「僕は自分の思考が柔軟じゃない自覚がある。
天才のような閃きがない以上、それ以外で補うのは当然だろう?」
自分の肩を抱きしめるように大袈裟におびえて見せる金田一は、すぐにその手を開放して小城をまっすぐ見た。
「まぁ所長の言う通り、聞いてほしい話があって。
所長・・・ 親って奴は子どものためなら獣にだってなれるもんなのかな」
どこから切り出せばいいかわからない様子の金田一の口から飛び出した言葉に小城は固まり、手に無意識に力が籠った。
「運命や呪い、貧富の差とか、そういうもんに振り回されて尚自分が育てた子どもより産んだ子どものために・・・
何をされても、何をしてでも幸せになってほしいって思えるもんなんすかね」
「それは・・・ どういう意味だい?」
小城がどうにかして疑問を絞り出し、コーヒーを口にする。そうすると金田一も迷うように視線を彷徨わせて、ぼんやりと遠くを見ていた。
「俺、この間おっさんに頼まれてある村に行ったんすよ。
古い風習に縛られて、昔からいる金持ちの家が牛耳っているようなド田舎で、先妻の子と後妻さんとその連れ子の息子がいて、何を思ったんだか亡くなったそこの旦那は後妻の子を跡取りにしちまったもんだからひと悶着起こっちまった。ただの言い合い、喧嘩だけで済めばよかったってのに・・・ 蓋を開ければ事態はもっと複雑だった」
そこで金田一もコーヒーを飲んで、手元に下したコーヒーを覗き込むように視線を下げた。
「でも蓋が開いて全部がわかった時にはもう殺人は起きていて、全てが手遅れでした」
そう言って金田一は小城へと視線を向け、小城もまた『どうすればよかった?』という疑問を顔に張り付けた金田一を見つめる。
「全部、話してごらん。
どうしてそこに行って、どんな事件が起きて、誰が亡くなって、そこにいた彼らが・・・ そして君が何を思ったか」
小城はコーヒーのお代わりを二人分頼みつつ、金田一を促す。
「全部話したら、きっと今よりはすっきりしている筈だよ」
促された金田一は目を丸くして驚きつつも、なんだか照れくさそうに笑ってから顔を上げなおす。
「うっす、ありがとうございます」
一言感謝を口にしてから、彼からある事件が語られる。
ある村でかつて起こった主君殺しから始まった古い風習、そしてそれを模した『飛騨からくり屋敷殺人事件』の『首狩り武者』。
巽家という古い家と先妻・巽綾子の子どもについてと、巽紫乃という獣へと変じてしまった女の生涯。
「って感じの事件でした。
まぁ先妻の子どもの一人、隼人の奴は高校卒業したら恋人と家を出ていくつもりみたいなんすけどね」
最後のかろうじてあった救いだけを金田一が軽く言えば、小城は『そうかい』と相槌を打つが内心は冷や汗ダラダラだった。
(どうしてこいつはそんな事件を高校生っていう多感な頃に経験して、ふざけたり出来るんだ本当になんなんだこいつは。というか改めて聞くと巽紫乃は怖すぎるし、やってることがやばすぎる)
いじめられて憎い気持ちから綾子のことを覚えることはわかるが、息子の幸せを願ってとはいえ憎い女の子どもを十八年間育て上げ、息子に一目会いたいがために憎んだ女の元へ現れていびり倒される毎日を過ごす。それどころかその女の夫の妻になり、実の息子から憎まれる立場になっても近くに居られると喜びを感じていた。
執念や執着どころの話ではなく、もはやサイコパスである。
加えてかつて自分を孕ませてどこぞへと消えていった末、遺産目当てにゆすろうと現れた男の殺害まではわかる。だが、育てた息子に遺産が渡るとわかり彼に憎んだ女の面影を垣間見ただけで殺人を決意する非情さは末恐ろしい。
夫としては先妻に似て乱暴で、刃物のように危なっかしい息子よりも、例え血がつながっていなくとも後妻に似た素直でおとなしい息子に遺産を譲りたかっただけだろうに。
「巽紫乃は、巽綾子にすがるしかなかったのかもしれないね」
「え? 綾子さんに?」
「綾子へ憎しみと嫉妬を向けながら、紫乃は綾子になりたかった。
彼女から実の子どもを取り上げ、自分の子どもを育てさせ、彼女の不幸を自分の幸福と勘違いしたんだろう。
子どもに一目会いたいのなら遺産の継承が確実になった成人後でも構わなかった筈だし、引っ越すだけでなく彼女はわざわざ女中になってまで綾子の傍にいようとしたのは、彼女と自分を常に比べられる場所にいたかったんじゃないかな」
綾子に不幸があれば喜び、幸せがあれば妬み、自分が不孝なのは全て綾子のせいにする。
そんな彼女が自分の息子を育てていることを嘲笑って、彼女の実子が自分の元で幸せにならないことに喜んだ。
「人のせいにして生きるのはとても楽だからね」
「なるほどなぁ」
小城がそういえば金田一が納得するように頷くが、小城の内心は嵐である。
(それっぽく言ったけど何一つ理解できねーよ! 本当にマジでサイコパス過ぎるんだが、あの女!!)
小城としても関わりたくない事件の一つにかかわらずに済んだことはほっとしているし、剣持警部としても幼馴染かつ初恋の彼女からのお願いに探偵を連れて行き辛かったことに加え、奥さんにすら出張と噓をついた挙句旅費を定期預金で賄ったため後ろめたかったのだろう。
もっとももし仮に事務所に来て依頼されていても金田一の同行は反対していたし、小城自身がついて行って何か出来たかは怪しいのだが。
(この事件は・・・ 巽紫乃が息子会いたさにあの村に行った時点で起こることが確定していたようなものだからなぁ)
例え紫乃が後妻におさまらなくとも龍之介が相続することが出来ないとわかったら彼女は今回のように事件を起こしていただろうし、龍之介自身が殺人を起こしていたことは想像に難くない。
仮に剣持警部や金田一が関わっていなくても、それが明らかになっていたか否かの違いでしかなかったのだ。
「僕には巽紫乃の気持ちは全然わからないけれど、毒を盛られて尚も子どもをかばおうとした彼女の親心だけは少しだけわかるよ。
親はね、子どものためなら何だって出来るんだ」
不意に小城の脳裏によぎるのは、彼のトラウマ。
『逃げろ! 拓也!!』
ネクタイをしていない首元を撫でながら、最期まで自分の命と引き換えになっても守ろうとした実父。
「ほとんど覚えていないけど僕の実父もそうだった・・・ そんな気がするんだよ」
「そう・・・ なのかもしれないっすね」
金田一もこれまでかかわってきたいくつかの事件を思い出したのか、神妙な顔で頷いた。
「それにしても、その話を聞いていると案外呪いはあるのかもしれないね」
小城は話をそらそうとわざと明るい口調でいうと、金田一もそれを察してわざとニヤリと笑ってみせる。
「おんやぁ~? 所長ってば遭遇したことないから信じないって言ってたじゃないっすか。まさか今の話を聞いて怖気づいちゃったりしました?」
「いや、事件だけを聞いていれば怯える要素は何もないんだけどね」
そう、事件だけを聞いていれば今回の一件に怯えることは何もない。
以前小城自身が言ったように目の前で起こった事実と、それに関わった人達の人生があった。ただそれだけのこと。
「亡くなった当主は、何故か後妻の連れ子に跡目を譲るよう遺言を残した。
つまり、巽家と直接血の繋がりのない赤の他人に家の遺産を譲り渡そうとしたってことだよね?」
「えぇまぁ、そうなりますよね」
何が不思議なんだとばかりに首をかしげる金田一に、小城は続ける。
「これは勿論長男の性格やら次男の状況、女に家を継がせられないとか諸々あったんだろうけど・・・ 先妻も当主も晩年は怨霊を恐れていた。つまり、彼らは呪いを信じていた。
とらえ方次第では遺産も呪いも後妻と連れ子に押し付けることで、自分達の子どもを守りたかったとも取れるんだよ」
「確かに・・・ で、実際に死んだのは知らなかったとはいえ実の息子だった」
「次男くんも毒を盛られたことがあるんだろう?
巽家の血が入っていない長男が巽家の次男を殺そうとし、本来の巽家の長男が今回の事件で殺された。そして、最後に残った巽家の彼は家を出るつもりだから、巽家は滅んだも同然だ」
「偶然とはいえ出来すぎっすね」
「怖いくらいにね。
必然としか思えない死の連続、人はそれを呪いというんじゃないかな?」
村の名家がなくなれば元々寂れていた村は衰退の一途をたどり、そう遠くない未来にあの村は廃村となる。
偶然といえば偶然だが確かに柊家の悲願は成就し、柊兼春の呪いが達成されたのもまた事実なのだ。
「涼しい感じで言ってますけど、所長の顔真っ青っすよ」
「いやー、アイスコーヒーで冷えちゃったかな?」
「これ、ホットっす。
俺もそう考えたらなんだか背筋が寒くなってきたんですけど!」
大の男が二人揃って肩をさすり、小城は気分を変えるように金田一にもう一度メニューを差し出した。
「もう一度あったかい飲み物を頼んで、デザートでも食べてから帰ろうか」
「やったー!
おっ、なんだこれ。ホットコーラに生クリーム乗っけるのとか面白そうじゃないっすか」
「っ!?」
(怪盗・蜃気郎!?)
金田一の言葉に小城がメニューを二度見し
「ホットコーラを」
「生クリームはお付けしますか?」
「お願いします」
背後からそんなやり取りが聞こえれば、より慌てる小城を尻目に金田一が安心したように頷いた。
「俺も注文しちゃおっかな」
「甘いものにコーラは合わないだろうから他の物にしたらどうだい?」
「あっ、それもそっすね」
デザートを選ぶことに集中している金田一は小城の棒読みに気づかず、小城の心の手帳の中に『鎌倉も危険』と明記されたのは言うまでもない。
救済しない事件に意味はあるのか? と思われることは百も承知
でも、これはこの作品の中の一つの答えだということを心に留めておいてほしい
全てを救えるわけでも、救いたいとも思ってない
私の独断と偏見と考察に塗れ、憑依転生の彼がどんな道を歩くのか。
ある意味死神に愛された金田一よりも、厄介な
最後らへんのネタ、わかる人いるんかな?
ジャンルが違うし、そもそも大分古い作品・・・