小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

この事件は書いてたらクッソ長くなったので『上・中・下』に加えて『後日談』の四本立てになります。
この四本あげきったら、ストックがもうないです。
ちまちま書いてるけど、これ以外の二次とかも書きたいし、あれやこれやと頭の中にあふれてるのに形になりきらねぇー!



魔神村遺跡殺人事件 (上)

「所長! お金貸してください!!」

 

 バイト出勤早々どころか、事務所到着そのままの状態で小城の机に突貫して金田一がその場で土下座した。

 

「え? 別にいいけどいくら?」

 

『貸すんかい!』

 

 その場に勢揃いしていた男性所員が声を揃えて叫ぶものだから事務所のガラスが揺れ、聞かされた側である小城、舘羽、揚羽の三名が咄嗟に耳を押さえた。

 

「檜山達はまだしも頼んだ君まで突っ込むのはどういうことかな? 金田一くん。

 それに知ってるだろうけど僕はお金には困ってないし、あんまりしょうもない理由なら断るけれど来て早々に頭下げるくらい切羽詰まってるんだろう?」

 

「いや、そーなんですけども!

 所長から借りられれば遺跡発掘なんて日給と待遇がいいけど胡散臭いバイトしなくて済むし、けど宗像先輩に誘われてるならぜひ行きたいというかモテる男はつらいなぁみたいなことを思ったりもしてるんですよ」

 

「実際、君モテるからね。事件に」

 

「『死神に』の間違いでしょう、所長」

 

「『警察に』でもいいんじゃないかな? よく剣持さんと旅行とか、デートとかしに行くし」

 

「事件と死神は自分でも悲しいぐらい否定できないっすけど、おっさんとデートとか誤解が過ぎる!!」

 

 小城、徹、狩谷による三連撃を喰らって金田一が悲鳴を上げれば、檜山が呆れたため息を吐き出した。

 

「つーか、遺跡発掘なんてやったらこっちのバイト休まなきゃいけないだろうが。お前、その辺ちゃんと考えてんのかよ?

 大体、泊まり込みのバイトなんつーもんはリゾート地みたいな場所で宿泊費吹っ飛ばすような詐欺めいたもんだってあることわかってんのか?」

 

「ブッブー! その辺はちゃんと先輩に確認してますー!!

 交通費もちゃんと出るし、日給二万で美人の先輩付きですー!!」

 

「それ、尚更胡散臭さが増してるだけじゃない?」

 

「舘羽さんの言う通りなんですけども!

 ぶっちゃけ宗像先輩にお近づきになる以外メリットないとか言っちゃダメっす!」

 

「ほぅ、るりとは遊びだったと・・・?」

 

「シスコン退散! シスコン退散! っていうかそれ、本気でも怒りますよね!? 普通に仲良くしてるだけなのに、理不尽が過ぎる!!」

 

「当たり前だ!」

 

「理不尽なのが!?」

 

 安定のシスコン相手にはたきを祓串のように振り回すが、その程度でシスコンは動じずじりじりと金田一へと距離を詰めていく。

 そんな兄を舘羽と揚羽二人掛かりで肩やら腕やらを掴んで大人しくさせていれば、面白がっていた千家が思い出したように告げた。

 

「宗像先輩って・・・ まさか三年の宗像さつき先輩か?

 スペックの高い奴をとっかえひっかえして、付き合いはするけど深い関係にならないとかいうあの?」

 

 千家の言葉に檜山が『ほら見ろ、ろくでもねーじゃねーか』という顔を向ければ、金田一があっかんべーで返した。

 

「バイト云々はとりあえず置いといて、『誰に』『何をして』お金が必要になったんだい?」

 

「明智警視の車を、事故で、大破させてしまいました」

 

「より詳しく言うと?」

 

「高校で行われたドラマの撮影に使われていた送風機をいじくっちまって、暴走した送風機が明智警視のベンツの左側をべっこり凹ませた結果、車の修理代を請求されました」

 

「・・・まぁ、修理代だけってことは誰も大きな怪我がなかったようで何よりだ。

 車の修理代でも一学生には高額だろうけど普通なら裁判沙汰になってもおかしくないし、これぐらいで済ませてくれているのは明智警視だからだよ。その辺りはよく肝に銘じておくように」

 

「うす・・・ ちゃんと謝ります」

 

「うん、そうしなね。

 具体的な額とかがわかったらまた報告するように、なんなら僕が明智警視と直接やり取りするようにしたっていい。それとアルバイトの件についても、もっと詳しく話を聞かないとバイト先の上司として許可を出せない」

 

「はいっす」

 

「あぁでも、君が別のところでバイトすることを反対してるわけではないよ。

 別にこの事務所では掛け持ちすることについて禁止はしてないし、探偵事務所でのアルバイトなんて特殊すぎる経験よりもっとありふれた接客の方が将来絶対に役に立つ。接客に限らずアルバイトはいろんな仕事を経験するチャンスでもあるから、どんどんやればいい」

 

 小城の言葉に場が一瞬静まるが、舘羽が真剣な顔をして言った。

 

「でも、金田一くんが他所でバイトしたら事件が起こるかもしれないからウチに来たことを考えるとしない方がいいと思うんだけど」

 

「舘羽さんってばさっきから辛辣過ぎません!? 俺、なんかしちゃいました!?」

 

「まぁ、それはそうなんだけどね。

 とにかくどっちも詳細がわかってから動くようにしてほしいし、その時は僕らにも相談してくれないかな」

 

「うっす、わかりました」

 

 そこで雑談は一度終わり、いつも通りの事務所に戻っていった。

 

 

 

 

 あれやこれやと定時になって、学生組である千家と金田一が帰るのを見送り残った揚羽を除いたメンバーがため息をつく。

 

「で、舘羽? 千家から出た名前から出た情報、なんかあったか?」

 

「ヒットしたわよ、魔神遺跡とその一族・宗像家の情報がね・・・」

 

「魔神って・・・ 名前だけで既に厄介なのがわかるね」

 

「舘羽の情報からその辺り一帯も調べてみましたが、その村に行くまでのバスは一日一本でそこから四十分は徒歩。その上、村に通じる道がトンネル一本で上空からもヘリを停められるような広い場所が見られない ――― まさに陸の孤島という状況です」

 

「所長・・・」

 

 揚羽が心配と不安を織り交ぜた視線を小城に向ければ、小城も溜息を零す。

 

「はぁ・・・ なんかもう、彼って事件ホイホイでもついてるのかな? 事件を集める甘い香りでもしてるんじゃない?」

 

「完全に対応Kですけど、どうします? 所長。

 前もって僕らが動けるのは情報収集(ここまで)が限界ですし、ヘリを停める場所がないとなると近くで準備も難しいですよね」

 

 狩谷の言葉に小城は額に手を当てて考え込んでしまう。

 

(あったなー、こんな事件も。

 どんな内容かいまいち思い出せないけど、陸の孤島且つ財宝系ってろくなことない上に個人所有の財宝は手が出せないから思い出さないようにしてたんだよなー。なんだっけ、鳥の神様系だっけ?)

 

 金田一が『行く』と言ったら同行するのが、陸の孤島状態で何が出来るかは自信がない。最悪、自分も死ぬかもしれない覚悟で挑むか、金田一を死ぬ気で止めるか、もしくは伝手のあるトレジャーハンター達を搔き集めて人海戦術で行動させるか。はたまた警察を最初から召喚するのも手段の一つとしてありかもしれない。

 だが、そうした不確定要素が増えることは次なる悲劇を招く危険性もあるため、すぐに決断できることではない。

 

「僕らの方針はいつも通り、金田一くんを始めとした安全の優先だ。

 それにまだ金田一くんが行くと決めたわけじゃないからね、今後事態がどう動くかを見守ろう」

 

 内心の不安や思考を感じさせない笑顔で皆を安心させるのは所長の仕事であり、彼らの安全を第一にするのは小城が何よりもしたいこと。

(あとはもう、既に手遅れじゃないことを祈るばかりだよ)

 

 

 

 

 

 という話があったのがつい先日であり、小城の目の前には話題に出ていた宗像さつきと共に何故か桜樹るい子も並んで座っていた。

(えー・・・? 宗像さつきとるい子くんとか死亡フラグしかない組み合わせじゃん。いや同じ学年なのはわかってたけど、ミステリアス美女と快活系遊び人美女ってどうやったら接点もてるの? 仲悪いとかじゃなくこの組み合わせは自分からうまく住み分けてると思ったんだけど・・・ あれか? 金田一貸し出しの直談判か? それが一番ありえそうだよな)

 内心冷や汗ダラダラだが、顔にはいつもの笑顔を張り付けてとりあえず応接机へと通す。

 

「所長、美少女に縁があって羨ましいっすね」

 

 最近金田一から良いのか悪いのかよくわからない影響を受けてる檜山が通り過ぎざまに軽口を叩いていくので、小城の目が光る。

 

「檜山くん、明後日辺り調査としてキャバクラに行ってきてくれない?」

 

「やめてください、麗美に殺される」

 

「大丈夫だよ、キャバクラっていうかオカマバーだからちょっとだけ君の趣味が疑われるだけさ」

 

「そっちはフツーに行きたくねーんすけど!? てかそれ、何の調査っすか!?」

 

「あんたも昨日事務所いたんだから聞いてたでしょ、普通に浮気調査よ」

 

 悲鳴のように叫ぶ檜山の手に、資料作成を主に担当している舘羽が資料を手渡す。

 

「は!? 浮気調査になんでオカマバーなんだよ!! ってマジだし!」

 

「調査場所がオカマバーなだけでいつもの浮気調査とやることは変わらない、代金は経費で落ちるから心配することはないよ」

 

「そういう心配は端からしてませんけど、俺が行くの確定なんすか!?」

 

 悲鳴を上げ続ける檜山を放っておいて、るい子たちへと向きなおった。

 

「待たせたね、るい子くん」

 

「いいえ、気になさらないで。

 それよりも檜山さんに起こっていること、その依頼内容にも興味があるのだけど」

 

「うーん、まだ解決していない依頼だし、依頼者のプライベートにも関わることだからちょっと言えないかな」

 

「いえ、どちらかというとこれから檜山さんがどんな目に遭うかが気になるわ」

 

「それは後日話してあげられるから、カフェでお茶でもしながら聞かせてあげるよ」

 

「えぇ、次の楽しみにさせていただくわ」

 

「所長、話さないでくださいよ!?」

 

「いいじゃないか、檜山くん。

 女性にささやかな楽しみを提供できる経験をするんだから、ぜひ頑張ってきてね」

 

「所長ー!!」

 

 今にも泣きだしそうな檜山を放っておき、まずは自己紹介から始めることとする。

 

「そっちの子は初めましてだね。

 僕は小城拓也、この事務所の所長で探偵をしている」

 

「不動高校 三年 宗像さつきです」

 

「この子の名前を聞けば、察しのいい小城さんならもうわかるんじゃないかしら?」

 

「るい子ちゃん、いくら探偵さんでも名前だけじゃ何もわからないでしょ」

 

「普通の探偵ならそうかもしれないわね。けれど、彼は違うわ。

 それに言ったでしょ? ここはあなたが誘った金田一くんのバイト先なのよ?」

 

「るい子くんは僕を買いかぶりすぎだね」

 

 小城なら何でも知っているとばかりな物言いのるい子に呆れるが、るい子はさらに続けた。

 

「それでどこまでお調べになっているのかしら?」

 

「るい子ちゃん、だから調べてるわけ・・・」

 

「彼女の家が凶鳥の命の四つの魔神具によって栄え、呪われ、その末に祀っていること。

 そしてそれらの研究の第一人者である宗像志郎氏が発掘し、調査していることぐらいかな」

 

「流石小城さんだわ」

 

 驚くさつきに対し、『ほらね』とばかりに笑うるい子が嬉しそうに頷いた。

 

「探偵をやる前はトレジャーハンターにも手を出していたから多少は知っていたけれど、所員が関わるかもしれないから軽く調べなおしたんだよ」

 

(でも、何故か落盤事故とかは出てこなかったんだよな・・・)

 調査した中に出てこなかった原作の始まる理由でもあった落盤事故が一切出てこなかったことには違和感を覚えたが、流石に話を聞いた昨日の今日で彼女の父の生死を調べるには至らなかった。

 

「凄い・・・」

 

「えぇ、小城さんは凄いの。

 だからさつき、安心して話して大丈夫よ」

 

「フフッ、そうね。異性に対して厳しいるい子ちゃんが得意げに話すわけだわ」

 

 楽しげに笑いあう二人に小城の顔も緩み、穏やかな顔のまま問うことにした。

 

「それでどうかしたのかな?」

 

「宗像家の事情を小城さんはよくご存じでしょう?

 四つの魔神具、宗像家が守らなければならない三つの戒め、そして祀っている遺跡の発掘をしようとしていること・・・ そして、三つ目の戒めをこの子は金田一くんで遂げようしたのよ」

 

「るい子ちゃん、オブラートって知ってる?」

 

「でも事実でしょう? あなたが高校で男好きなんて不名誉なことを噂されているのだって、自分と一緒になって家を継いでほしいって言ったら男の方が逃げ出しているからじゃない。

 それに本音を言ってしまえば、あなただってそんな戒めなんて遂げたくない、そうでしょう?」

 

「そんなこと・・・!」

 

「あるわ。

 相手を見つけるだけなら東京にまで出てくる必要なんてなかったし、呪い云々はともかくあなたの家のことを知れば婚約者なんてすぐ見つかる。現にあなたのお父様だって実際はどうあれ世間一般からすれば遺跡目当ての結婚にしか見えないもの」

 

 ズバズバと容赦のないるい子にさつきは一瞬怒ることも忘れて呆然とし、そして深いため息を零した。勿論、小城は蚊帳の外で友人同士であろう二人のやり取りをひやひやしながら見守ることしかできない。

 

「その通りだけど、るい子ちゃんのそういうところが人に遠巻きにされる理由だと思うなぁ」

 

「怖がって本当のことを言わずに明るくふるまうあなたとは真逆ね」

 

「でも・・・ 私はるい子ちゃんのそういうところに救われてる」

 

「変わってるわね、さつきは」

 

「るい子ちゃんだけには言われたくないかな」

 

 美しい友情を見守りながら、小城は腕を組む。

(『十八までに相手を決めて、その相手を当主にしなきゃいけない』なんて成人年齢が速かった昔は出来ても今は無理だからなぁ。それに原作でもそうだったけど彼女は別に金田一のことが好きってわけでもなくて、ちょうどいい相手を見繕ったって感じが凄かったんだよなぁ)

 

「それで僕に相談したいことは家のことかな? それとも遺跡発掘の人手かい?」

 

「はい、それも含めて小城さんにいくつか依頼したいことがあるんです」

 

 きっぱりと答えたさつきに今度は小城が驚けば、彼女はさらに続けていく。

 

「一つ目は父の遺跡発掘の協力。

 村のどこかに隠された本当の魔神具を見つけてほしいんです」

 

「なるほど・・・ 確かにそれは他の探偵には依頼がしにくい上に、金田一くんに協力を仰いだのも納得だ」

 

「これはあくまで私の意見で父にも話していませんが・・・ 宗像一族はもうほとんどいません。今後魔神具を保管していくことも、マガドリ様を祀っていくことも難しくなっていきます。そうなる前にマガドリ様をちゃんとした形でお祀りすることが宗像家の最後の務めとしたいんです」

 

 一つ目の依頼を言い終えた彼女は何故か言葉を続けるのを躊躇い、そんな彼女の様子にるい子が紅茶を口にしながらぽつりと言った。

 

「さつき、ここは東京であなたのお父様もいなければマガドリ様だって聞き耳なんて立ててないわ」

 

「るい子ちゃん・・・」

 

「それにトレジャーハンターをやっていたのにオカルトを信じてないなんて言いきる小城さんだもの、きっと神様だって怖くないわよ」

 

「るい子くん、君は僕をなんだと思ってるんだい?」

 

「とても素敵な男性と思っているわよ、小城さん」

 

 そのやり取りにさつきがクスリと笑って、口を開いた。

 

「二つ目は私の身を守ってください。

 遺跡と魔神具を求めてやってきた父の部下から、私を守ってほしいんです」

 

「それってどういうことかしら? その部下の人から何か身の危険を感じたことでもあるの?」

 

 室内にいた舘羽が問えば、さつきは顔をうつむかせた。

 

「考えすぎかもしれませんけど、父と共に魔神具について調べている以上三つ目の戒めを知っている可能性が高いんです。

 私と結婚すれば遺産も、魔神具も、遺跡の保有権だって好きに出来る・・・ そう考えても不思議はありません」

 

「この子がお風呂や私室にいるとき視線を感じたり、部下の男性二人がそういった話をしてるのを聞いたことがあったそうよ」

 

「なっ・・・!」

 

 るい子の補足説明に舘羽が眉を吊り上げ、揚羽がさつきの肩に手を置いた。檜山が嫌そうに顔をしかめ、小城もわずかに目をひそめた。

 だが、当のさつきは『大丈夫だ』とばかりに明るい笑顔を作った。

 

「遺跡発掘が無事に終われば、私にはもう守るべき務めなんてない『ただの宗像さつき』です。

 そうなればあの人達も私に興味なんてなくなるでしょうし、学生のうちに結婚なんて決めなくてよくなりますから」

 

「それなら僕と金田一くん以外にももう一人か二人、男性所員を連れて行こうか。

 男性だけじゃ常にとはいかないだろうから、舘羽くんも同行をお願いできるかな?」

 

「任せて、所長」

 

「ありがとうございます。

 そして三つ目は・・・ 私の両親である宗像今日子と宗像志郎について、調べられることを全て調べてほしいんです」

 

 そう言いながら彼女が取り出したのは若い女性の写真とそこに並んだ男性の姿、写真の古めかしさからそれが最近ではなくずいぶん昔に撮られたことがわかる。

 

「調査の理由を聞いても?」

 

「私の母は宗像の娘として村で育って、そのまま家に従う形で父と結婚。そして私が生まれる少し前に原因不明の病気にかかり顔にあざが出来たことで人目を避けるようになってしまい、私はほとんど母とかかわらずに育ちました。

 扉越しでのやり取りをする両親の間に愛があることを感じても、それと同じくらい父が父の部下と同じように遺跡や魔神具を目的に母と結婚したんじゃないかと思ってしまう私がいるんです」

 

「というか、少なくとも世間はそう思ってるわね」

 

「るい子くん、お口チャックしようね」

 

 友人のことであっても、あくまで他人事として傍観するるい子の物言いは容赦がない。

 

「いいんです、事実ですから。

 それにるい子ちゃんみたいにはっきり言ってくれた方がいっそ気が楽です」

 

 高校三年生がするには大人びている苦笑に、小城の眉間に皺が寄る。

 だが、依頼である以上は探偵として依頼主に前もって伝えておかなければいけないことがある。

 

「僕は調査を依頼された時に必ず依頼主に前もって伝えているんだけど・・・ 依頼人が知らない真実の多くは意図的に隠されていることが大半だ、そして隠されていた真実なんてろくなものがない。

 時には、真実を知ったことで起きてしまった事件だってある」

 

 そう言ってから、依頼主である宗像さつきを見る。

 高校から東京に出て一人暮らしをし、実家を離れているにもかかわらず彼女はずっと宗像家の戒めに縛られて、両親のことだって誰にも相談できずにいたというのに学校で明るく振舞っていた。

(なんでこの世界は、高校生に過ぎないこの子達をこんなにも早く大人にさせようとする?

 どうして、どうしてなんだよ・・・)

 その上で彼女の本当の母が原作通りであるとするなら、彼女が知ろうとしている現実はあまりにも残酷だ。

 

「それでも君は、ご両親が話そうとしないことを知ることを望むのかな?

 何を知っても、たとえこれまで信じていたことの全てが嘘になっても、後悔しないかい?」

 

 そして、こうして彼女に覚悟を問うこともなんと残酷なことだろうか。

 だが、それでも彼女は迷わなかった。

 

「はい、かまいません。

 私はもう両親のことを何も知らないで疑い続けるより、残酷でもいいから真実を知りたいんです。

 そして叶うなら、遺跡や魔神具に解放された後はどこにでもある家族みたいに三人で暮らしたい・・・ そう思ってるんです」

 

 小城は、その強さに目がくらむような錯覚を覚えた。

 

「そう、か・・・ 君は強い子だね」

 

 覚悟を抱く彼女に、もはや都合のいい嘘など報告することは出来ない。そんなことを彼女は望んでいないのだから。

 

「君の依頼は承ったよ。

 遺跡発掘の日取りに関しては今回のように事務所に来てもいいし、金田一くんを経由して伝えてくれてもかまわない」

 

 その後は正式な書類を後日手渡しすることや料金については全てが終わった後に親御さんに請求すること、連絡手段や連れて行くことになるだろう所員についての説明を終えたところでさつきは用事があるということで退出し、るい子は残った。

 さつきの気配が完全に消えたことを確認してから、るい子はクスクスと笑いだした。

 

「小城さん、私があの子を連れてきたことに驚いたでしょう?」

 

「あー・・・ まぁ、そうだね。

 昨日の時点で千家くんからもらっていた彼女の話だと、るい子くんと接点があるようには思えなかった」

 

「ふふっ、よく言われるわ。

 さつきの口から私の名前が出たから、昨日七瀬さんにも関係を聞かれたばかりだもの。でも、私があの子に興味を惹かれるのはむしろ必然だったわ」

 

 妖艶な雰囲気と笑みが彼女からあふれ、楽し気に言葉を紡いでいく。

 

「神具によって巨万の富を得たと同時に呪われ、その果てに神様に祀り従ってきた一族の末裔。

 そんなのとてもミステリーでしょう?」

 

「なるほどね」

 

 彼女の言葉に苦笑いしかできないが、この世界で好奇心の強さと探求心、そして聡明な頭脳は死因にしか繋がらない。

 

「それにあの子も私も良くも悪くも人を遠ざけ、引き寄せる。

 数の有無にかかわらず本当の味方を作りたいと思うのは、人の本能ではないかしら?」

 

「なるほど、それで僕も彼女の味方にしようとしたのか」

 

 少し意地悪く笑えば、るい子もまた同じように笑い返してくる。

 

「えぇ、小城さんは私達子どもを守ってくれる大人ですもの。

 味方に引き込んで、これほど心強い人はいないわ」

 

「怖い怖い。なんて厄介な子どもだろうね、君は」

 

 わざとらしく肩を抱いて笑って見せると、るい子も珍しく年相応の笑顔で笑う。

 

「あら? 常日頃から私達子どもに大人に甘えていいと言ってくださっているのは小城さんだもの。私はその言葉に従って甘えているだけだわ」

 

(それでいい、それでいいんだよ。君達はもっと子どもらしくいていいんだ)

 言葉にはしない心が彼女へと伝わるように優しく頭を撫でれば、出会ってからすっかり小城に頭を撫でられることに慣れたるい子はされるがまま。

 

「それなら今回も、ちゃんと君達子どもを守らないとね。

 さつきくんを守りつつ、さっさとお宝を発見するとしよう」

 

「えぇ。それに小城さんのことだから、もう既に魔神具の場所も目星がついてらっしゃるんでしょう?」

 

「いやいや、いくら所長が凄くったって昨日の今日でそんなことあるわけねー・・・ っすよね?」

 

 るい子の発言に檜山のみが驚き、確認すれば小城はただ笑うのみ。

 他の面々である須賀兄妹と狩谷に至っては、『所長、そういうところあるよなぁ』と思うだけで小城が目星をつけていることに驚きすらしない。ここに金田一や千家がいればもっと大袈裟な反応があったのだろうが、生憎同席しているのは高校生には不似合いなほど聡明な頭脳を持つるい子である。

 

「嘘だろ、所長。

 さっきの依頼人の父親が何年探しても見つけてねー上に、資料にしか目を通してないってのになんでわかんだよ」

 

「いや、トレジャーハンター界隈でもあの財宝は結構有名でね。

 個人所有だから手を出せないし、ジンクスやゲン担ぎを信じてる彼らは呪いを恐れているから遠巻きにしているけど、魔神具の在処については予想を立てる人が多かったんだよ」

 

 職業にしている以上、トレジャーハンターの大半は一攫千金狙いだし、財宝という莫大な利益を追い求めている。だが、それと同じくらい彼らは財宝を獲得するまでの過程を楽しむ趣味人であり、ロマンチストが大半だ。ましてや研究している人間がいるなら、わざわざ現地に行かなくても情報は垂れ流されるのだから界隈ではちょっとしたゲーム感覚で宝の在処を予想する者は絶えなかった。

 

「『遺跡のどこそこにあるんじゃないか』『一族が恐れるあまりに滝つぼの底にでも隠したんじゃないか』『ダウジングで辺り一帯を虱潰しでやればいい』『そもそも隠したこと自体が偽りであり、一族に秘密裏に受け継いでいるのではないか』とかいろいろな予想はあったけど、最後の説が本当なら宗像志郎氏は既に見つけたことを明らかにしている筈だからそれはない」

 

 話しながら小城が徹を呼んで資料を出させれば、磨陣村と書かれた地図を机に広げる。

 

「彼女の曾祖父が建てたとされる四つの館。一つは消失し、現存するのは三つだけど、このいずれかの建物の敷地内にあると僕は睨んでる」

 

「根拠はあるのよね? 小城さん」

 

「いや、根拠はないよ。純粋に何年も遺跡を探しても出てこないなら、言い伝えを変に勘繰るのでなくそのままの言葉で受け取ればいいと思っただけさ。

 それに自分の家族を片っ端から奪っていった恐ろしい魔神具をわざわざどこかに隠してふとした拍子に出てきて怯えるぐらいなら、自分の目に見える範囲でそこにあることを確かめられる場所に隠すだろうなぁって」

 

 流石に館の間取り図まではトレジャーハンター界隈でもわからなかったが、『遺跡を探してないのなら別の場所では?』というのは囁かれていたものだった。

 

「でもよ、所長。

 それなら焼けちまった館にある可能性もあるよな? そもそも魔神具って奴は複数で、全部同じ場所に保管されてるなんて断言されてないんだろ?」

 

「勿論、それもあり得る。実際、十年前の火事で魔神具はなくなったんじゃないかっていう意見もあった。

 でもその場合、魔神具を破壊してしまった宗像家は火事どころか一族郎党滅んでる筈だからそれはないよ」

 

「戒め一つを守ろうとしないだけで破った者を殺し、それに飽き足らず館の一つを丸ごと燃やしてしまう神様だものね。

 その事故と火事があの子に戒めを守らなきゃいけないという強迫観念を植え付け、次期当主なんて重い物を背負わせた」

 

 そう言いながらるい子は鞄を持って立ち上がって扉へと向かい、彼女は綺麗に振り返って事務所にいる面々へとぐるりと視線を向けた。

 

「ねぇ小城さん、私とあの子はまるで違うの。

 容姿も、性格も、趣味も、交友関係だって何一つとしてかぶらないし、友人同士であっても私とあの子は互いに一歩引いてある程度の不可侵を決めていた。

 けれど私は今回、さつきの不可侵領域に手を突っ込んでここまで引っ張ってきたわ」

 

 それは本当に自分らしくない行動だと、彼女は語る。

 

「友人としていくらあの子の愚痴を聞くことが出来ても、私はこれ以上踏み込めない。仮に踏み込んだとしても、何の力にもなれずにあの子の重しにしかならないのは目に見えている。

 唯一私に出来るのはあの子をここに導いて、解決の糸口を見つける程度」

 

 そう言い切る彼女の表情にいつものミステリアスな雰囲気も、どこか余裕のある笑みもない。

 

「だから小城さん、あの子のことを守ってあげてほしいの。

 どうか、よろしくお願いするわね」

 

 そこにいるのは純粋に友人を気に掛け心配する、どこにでもいる思春期の女の子だった。

 

 

 

 

 るい子が退出した後、千家と金田一が出勤してきたのを確認してから集合をかけ、さつきから受けた三つの内二つの依頼を説明していく。

 

「というわけで、この依頼には彼女から直接依頼された金田一くんの他に僕と狩谷、徹と舘羽くんが同行しようと思う。僕以外は遺跡発掘の人員として金田一くんに誘われた友人として同行、僕も探偵としてでなくトレジャーハンターとして依頼された体裁で行こう」

 

「なんでっすか? 宗像先輩からの正式な依頼なら普通に探偵として行けるでしょ」

 

「娘が知らない男を連れてくるだけでも父親って生き物の心境は複雑だし、探偵なんて何をしてるかわからないような成人男性を連れて行ったら怪しさ満点だから却下」

 

「自分でそこまで言うんですか!?」

 

「所長、トレジャーハンターでも怪しんでくれと言ってるようなものですよ。トレジャーハンターなんて火事場泥棒のようなものですし」

 

「むしろ墓荒らしじゃないか?」

 

「狩谷さんも副所長も辛辣過ぎません!? 一応所長の副業なんですけど!?」

 

 千家の驚きは狩谷と徹の意見にかぶせられ、その意見の辛辣さにおもわずツッコミが入る。

 

「その辺りは大丈夫、遺跡発掘には考古学の教授もいるようだから僕のことを知らないような考古学者はもぐりだから。

 公にはなってないけど、僕はトレジャーハンター業で彼らにかなり貢献したからね」

 

「所長の人脈こっえー・・・」

 

 金田一の恐怖を無視しつつ、他の連絡事項を続けていく。

 

「それと僕らが留守の間、事務所は閉めておくから檜山くん、千家くん、揚羽くんは休みを楽しむように。

 連れて行く人数が多いのもあるけど、魔神具の位置も目星がついてるからサッとやってパッと日帰りするつもりで行こう」

 

「いや、場所出雲だから日帰りは絶対無理でしょ! ていうか少しぐらい観光したり、先輩のお家にお泊りしてロマンスを感じたいんですけど俺!?」

 

「先輩のお家に泊まるだけでどんなロマンスを期待してるのかしら、金田一くん?

 事と次第によっては美雪ちゃんに言いつけるわよ?」

 

「ちょっ、舘羽さん怖いっす怖いっす!? すんませんでした!」

 

 言葉はきついが怒ることのめったにない舘羽の本気の怒りに金田一が怯え、謝罪を口にする。

 

「所長、観光はともかく日帰りは無理じゃないですか? それとも次の日に何か予定でもあったりします?」

 

「交通の便も悪いところだってわかってんだし、公共機関を使うとなると帰りは電車ないと思いますけど」

 

「事務所のことなら采配をしていただければ私達でも業務が出来ますから」

 

 留守番組からも意見が出るが、そうじゃないと首を振る。

 

「この依頼は確実に対応K且つ村は道一本爆破されてしまったら陸の孤島になってしまう僻地。その上、村にある建物はたった四つ且つ僕ら以外で村にいるのは室内の間取りも地理情報すら僕らより詳しい人ばかり。

 そんな状況下で金田一くんと一緒に宿泊なんてしたら ―――― 確実に何か事件が起きるだろう?」

 

『あー・・・』

 

「所長の言ってることはひっでぇし、全員して納得すんのやめてください!」

 

「だから僕は、極力宿泊しないでとんぼ返りしたいと思ってる」

 

「所長の言い分はわかったけど、それだと運転する人が辛いんじゃないかしら? 所長と兄さんと狩谷くんよね?」

 

「舘羽、兄さんなら大丈夫だ。お前の命を危険に晒すぐらいなら一晩ぐらい寝ないで運転なんてどうってことないし、母さんと揚羽達が待ってる家になら僕は飛んで帰るよ」

 

「うん、兄さんはちょっと黙ってて」

 

「僕も問題はありませんよ。

 途中ホテルとかに泊まって崩壊したり、燃やされたりするよりもさっさと戻ってきた方が眠れますし」

 

「おい狩谷、さらっと怖いことを言うんじゃねぇ

 てかそんなにホテルに泊まりたくねぇの? お前」

 

「揚羽くん、悪いんだけど次の買い物で眠気覚ましのドリンクやガムを買っておいてもらってもいいかい?」

 

「所長・・・ 疲労困憊の状態での運転はかえって事故に繋がります。運転の際は必ず意識が正常であることと、体力が限界を迎えてない状態でなさってください。

 私は事務仕事しか出来ませんし、今回の依頼も皆さんの帰りを待つことしかできませんが・・・ 誰も怪我をせずに帰ってきてほしいです」

 

 揚羽の正論に加えた切なる願いに場が鎮まるが、金田一が何か気づいて我に返った。

 

「って、揚羽さんも事件が起こることは否定してくれないんすね!?」

 

「あっ、その・・・ 金田一くん、ごめんな「謝ることないわよ、揚羽。事実だもの」

 

「まぁそうでなくとも依頼としては猫探しよりずっと危ない仕事だから、所員の安全は勿論関係者全員が怪我無く全てを終えることを目標にしよう。

 それじゃこの件については現段階では以上だから解散」

 

 それぞれが机へと戻る中、まっすぐ所長室に行こうとする小城の背中を揚羽が追い、一緒に所長室へと入っていく。

 

「所長、もう一つの依頼についてはどうなさるんですか?」

 

 あえて内容をぼかした言い方をする揚羽の配慮を喜ぶように小城は目を細め、机の上の書類を整理しながら答える。

 

「それは僕が担当するよ」

 

「情報収集なら私でもお力になれると思います。遺跡発掘と護衛のこともありますし、所長は少し休んでください」

 

「いや大丈夫。

 家庭の事情は仕事であっても複数人が知ることは避けてあげたいし、現地に行って報告するのも直接やりとりした僕がするよ」

 

「わかりました」

 

 小城の言い分に納得しながらも少しだけ悲しそうな顔をするのは、己の無力さに対してだということを小城はわかっていた。

(でも本当は、君達の誰一人として僕は事件にかかわらせたくなんてないんだよ)

 だが、小城一人でやれることなどたかが知れている。揚羽が主にこなしてくれているお茶出しや依頼の資料作成、電話応対だって本当に助かっているし、所内で彼女の代わりが務まる者がいるかと問われればいないのだ。無論、それは揚羽に限らず所員の誰もがそうであり、小城は日々彼らに助けられている。

 

「揚羽くん」

 

 でもそんなことを口にしてしまえば、謙虚な彼女は気を使わせてしまったと思ってしまう。

 

「紅茶を淹れてもらってもいいかい?」

 

 だからいつも通り、彼女に紅茶を入れてもらう。

 

「はい、お任せください」

 

 いつものように返してくれる彼女の返事に笑みをこぼして、きっと自分以外の皆にも紅茶やコーヒーを淹れる彼女を待つことにした。

 

 





この事件で私が救いたい人は誰か、どうしてそうしたのか、正直賛否が分かれることになるかと思います。
ただ現段階で確実に言えるのは一つだけ。

私は、原作におけるこの事件の結末が嫌いでした。
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