小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

もう一日・二日置こうかと思ったけど、今日急遽休みになったんで朝から投稿ー。
この話で私が誰に救われてほしかったか、わかるかと思います。



あー、ストックがストックがあと二話ー!
書いてはいますが、ストックなくなったら更新止まるんでその辺はご理解を!


魔神村遺跡殺人事件 (中)

 そして迎えた当日、東京から出雲までの約十時間の道のりを駆け抜け、小城達はさつきの故郷・磨陣村へと降り立った。

 だが予定していた人員に追加で美雪と佐木兄弟の三名ほど増えた車内は思ったよりも騒が・・・ 賑やかな道中だったのか、金田一の頬には鮮やかな紅葉が舞っていた。

 

「さつきちゃん、荷物なんて持たなくていいわよ。ウチの力自慢の男どもに持たせちゃいなさい」

 

「それは悪いですよ、舘羽さん」

 

「いーからいーから。

 さつきちゃんには先導してもらわなきゃいけないんだし、女の子に荷物を持たせる男は紳士じゃないもの。美雪ちゃんもよ」

 

 美雪が何か言う前にその手を取って自分の横を歩かせ、その反対隣りには同じように固く手を握られたさつきが並んでいた。

 

「おやおや両手に花じゃないか、舘羽くん」

 

「羨ましいでしょ? 小城さん。

 でも私のお花だからあげないわよー?」

 

 打合せ通りにいつもの呼び方から小城呼びに変える舘羽の慣れっぷりに主に学生組が驚いているが、それを見て狩谷が笑う。

 

「舘羽さんがそれ言うと完全に女子高のボスだよね」

 

「喧嘩売ってるなら買うわよ? 狩谷」

 

「そうだぞ狩谷、舘羽には老若男女問わず引き寄せる魅力があるんだから女子高に限らずモテモテになるに決まってるだろう」

 

「徹さんが通常運転過ぎるし、舘羽さんってば俺らより男前すぎてずりーっす!」

 

「いいじゃないですか、先輩」

 

「僕らと一緒に荷物持ちしましょう」

 

 じゃれあいながらトンネルを抜ければ三つの建物を見下ろす場所に出て、烏達が激しく飛び交っていた。

 

「ここが磨陣村、か」

 

「はい、順に宝玉の館、矛の館、私の実家の七鏡の館。そして、十年前までは銅鐸の館があったんですけど、火事で燃えてしまいました。

 両親と発掘を手伝ってくださる他の方々は七鏡の館で待ってます」

 

 トンネルを抜けてから表情を硬くして、陰りを帯びた横顔に舘羽が気づいてわざとらしく笑う。

 

「さーて、さっさと行って休憩しましょ。

 温泉もあるんでしょ? 遺跡に行く前に裸の付き合いよ」

 

「えっ?」

 

「舘羽さん! 何言ってるんですか!」

 

「あー! 舘羽さんずりぃー!!」

 

「はじめちゃん!」

 

 舘羽の突飛な発言に真面目な美雪が怒って、それに便乗して金田一がお道化る。

 

「羨ましいでしょ? 羨ましかったら女の子になってみなさい、金田一くん」

 

「ぐぬぬぬ・・・!」

 

「舘羽さんもいい加減にしないと年上でも怒りますからね! 宗像先輩も嫌なら嫌って言わないと!」

 

「プッ」

 

 そんなやり取りを見てさつきが笑い、その笑顔を見て舘羽が男前な笑顔で頬をつつく。

 

「ほらやっぱり、さつきちゃんは笑った方が可愛いわ。

 可愛い花は満面の笑みで笑ってなきゃもったいない、こんな曇り空で陰っててもね」

 

 頬を赤らめるさつきとプンプン怒る美雪を離さないまま歩いていく舘羽達を先頭にして男達が続き、金田一が狩谷の背負ってる荷物へと目を向けた。

 

「しょ・・・ 小城さん、狩谷さんが背負ってるこの頑強そうなケースって何が入ってるんすか?」

 

「うん? ダイナマイトだよ?」

 

「なんでそんなもん持ってるんすか!? ていうか、使って大丈夫なんすか!?」

 

 当たり前のように答える小城に対して、前を行く女性陣には聞こえないぐらいの怒鳴り声という器用な声量を維持してツッコミを入れる。

 

「ダイナマイトは申請書類を出せば購入できるし、発破技士って資格を持っていれば扱うことも出来るんだよ」

 

「へー、そうなんすね・・・ ってそうじゃない! なんでそんなもんを持ち込んでるのかって話ですよ!」

 

「あの外界と村を繋ぐトンネルが万が一にでも埋まって、この村に閉じ込められたらどうするんだい?

 こういう閉鎖的な村は唯一の道と連絡手段さえ絶てば、呆気なく助けを求められなくなってしまう。つまり君と遠方に足を延ばす時は必須と言っても過言じゃないよ、ダイナマイトは」

 

 ダイナマイト使用に必要な豆知識を披露すれば金田一が一瞬流されかけるが、小城はダイナマイトの必要性を熱く語る。それを聞いていた狩谷も笑って話に参加する。

 

「そうそう、閉じ込められたら十年間も日の下を歩けないで、体の成長すらストレスで止まっちゃうかもしれないからね」

 

「閉じ込められたからってダイナマイトなんて使ったら、そのまま生き埋めになるわ!

 っていうか狩谷さんってば最近言ってることが怖いんすけど!? ホテルと地下にどんなトラウマ持ってんすか!」

 

「念のための用心だよ、用心」

 

「知らないのかい? 金田一くん。

 ホテルは燃えるし、地下は閉じ込められるんだよ」

 

「ダイナマイトが必要な用心ってなんすかね? いや絶対いらないでしょ!」

 

 その金田一達のやり取りを聞いていた佐木兄弟が呟く。

 

「兄さん、あの事務所の人達って時々とんでもない影纏いますよね」

 

「基本的に常識人で、いろいろな意味で凄い方ばかりの筈なのに・・・ まぁ先輩には負けますけど」

 

「おいコラ佐木兄弟、聞こえてんぞ! っていうか俺が一番影纏ってるとかどういう意味だ!?」

 

「そう金田一くん、君がナンバーワンだ」

 

 まるで何かのコマーシャルのようにサムズアップした小城に、金田一は溜息を零した。

 

「つーか小城さんってば、気を張りすぎなんじゃないっすか?」

 

「そうかもしれない、トレジャーハンター業は久しぶりだからね。

 でも何故だか入念に準備しないと危ないって、直感が囁くんだよ」

 

(うん、だから烏の群れの中にこっちに向かって手を振ってるマガドリ様なんかいないし、目の錯覚だ。

 ていうか調べれば調べるほどマガドリ様は自分の故郷に帰ってきたかっただけだし、それなのに人の世の栄枯盛衰は勝手に責任押し付けられるし、自分の神具をあるべき場所に戻してほしかっただけだろ!)

 もはや自分でも何を考えてるのか支離滅裂だが、嫌に目につく烏の群れを見て血の気が下がる。

 

「顔真っ青ですよ、小城さん。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ、徹くん。

 体調には正直ちょっと自信がないから、魔神具を見つけてさっさと帰って療養しようか」

 

「そうですね、すぐ帰りましょう、

 個人的にも研究者という人種が大嫌いなので、極力一緒に居たくありません」

 

「徹さんも笑顔で言うこっちゃないっすよ、それ!!」

 

 金田一のツッコミを聞き流して前を行く女性陣と程よく距離を保った場所に戻る徹に、小城は溜息をつく。

 誰にだって改善しようもない地雷はあって、どうしようもなく嫌悪を抱いてしまう者がいることも仕方がないことなのだ。

 

「それはそうと金田一くん」

 

「ん? なんすか、小城さん」

 

「この村で一生を過ごす覚悟は決めたかい?」

 

「ちょっとどういう意味かわかんないっすね???」

 

 話を変えた小城に対し、金田一の頭は疑問符だらけになり、小城はそのまま続けていく。

 

「君とさつきくんを結婚させて封じ込めちゃえば、二重の意味で事件がもう起こらないんじゃないかな? なんて思ってないよ?」

 

「滅茶苦茶思ってることが口から出てますけど!? ていうか、隠す気もありませんよね!?」

 

「前もってさつきくんがあれこれ教えてくれたんだから、宗像家の事情も、彼女のこれまでの行動の理由もわかってるだろう?

 学生の頃から結婚を前提に、しかも卒業もしないうちにそんな話をされたら普通の人は怖気づいてしまうし、その事情を当人達が言いふらさなくても異性をとっかえひっかえしている同性を面白く思わないのは男も女も同じだよ」

 

「えっ、俺も普通で健全な男子高校生なんですけど?」

 

「あははは、笑えない冗談だね」

 

「どういう意味ですかね!?」

 

 金田一のツッコミを一蹴し、小城は真剣な表情で言葉を続けていく。

 

「まぁ冗談だよ。彼女は確かに家族を呪いという災厄から守るために、望んでもいない運命を受け入れようとしていた。

 けれど、彼女にはアリアドネの糸の導きがあったからね」

 

(なぁ? るい子くん。君が彼女を導いてくるなんて誰が予想出来ただろう?

 君がこんなにも友達想いで、誰かのために頭を下げるなんて・・・ 原作からでは想像も出来なかったんだ)

 

「アリアドネ?」

 

 首をかしげる金田一に小城はこれまでにないほど嬉しそうに笑っていて、さらに金田一を困惑させた。

 

「僕らは精々、アリアドネ様から託された英雄を守るとしよう」

 

「えっ、そのアリアドネってまさか・・・!?」

 

 そう言って先頭を歩む英雄に置いて行かれまいと足を速めれば、アリアドネが誰かを察した金田一も走った。

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく辿り着いた七鏡の館では挨拶もそこそこに舘羽が長旅の疲れを理由に風呂に入ると言ってきかず、さつきと美雪も連れ去っていく。残された遺跡発掘のバイトである金田一と佐木兄弟、徹と狩谷と共に客室に通され、それぞれが機材の確認を始めるか、古めかしいが質のいいソファでくつろぎだす。

 

「てか舘羽さんってば本当に先輩と美雪連れてお風呂行っちゃいましたね、よかったんすか?」

 

「あぁそれは・・・」

 

 金田一の疑問に小城が答えようとすれば、壁際にいた金田一を追い詰めるように徹がそこそこな力で壁に拳を叩きつける。いわゆる壁ドンなのだが交際関係のある男女でもなければ、想いあう恋人同士でもない二人の間にはときめきの欠片もない上に、仮にそうした感情がある者であったとしても自分の顔五センチ以内に拳が飛べば顔面蒼白へと早変わりである。

 

「金田一くん一応言っておくけど覗きなんてしたら、『はじめちゃん』にしてあげるから覚悟しておくようにね?」

 

「あらやだこのシスコン、目がマジであらせられますわ」

 

「目だけに見えるかい? 僕はいつだって母と妹達にかかわることは本気だよ」

 

「存じておりますわ、シスコンマザコンお兄様。だからその拳をどうかお下げになって?」

 

「君を『はじめちゃん』にする時は拳じゃなくて足だろうから心配しなくていい」

 

「そういう問題じゃなくってよ!?」

 

 怯えるあまりお嬢様言葉になる金田一を佐木兄弟が笑いながら激写し、狩谷はそんな光景を荷物の準備をしつつ見守った。

 

「いいですよ先輩! その劇画調の表情! 怯え切った顔!」

 

「王道のヒーローにはない表情の数々! 流石金田一耕助の孫!!」

 

「本当に君達にとって金田一くんって何なんだろうね? 僕らも彼に対して扱いが粗雑だったりあれだったりと大概だけど、君達には負けるよ」

 

「徹、金田一くんがそんなアホなことしないように佐木くん達を乗せたんだから大丈夫だよ」

 

「うっそだろ、小城さん! 俺の監視を兼ねて二人を乗せたんすか!?」

 

「君に限ったことじゃないし、どんなことにも記録係はあって困らない。

 それに君、目を離すと誰かから一撃貰って気絶させられるだろう? 一人でも多い方がその危険性が下がるからね」

 

「そういえば前回の剣持さんとの旅行でもそうだったらしいですね」

 

 金田一をようやく壁ドンから解放した徹が小城へと向き直りつつ、何やら手を動かす。

 

『それで所長、本当の目的は?』

『舘羽くんが戻ってくればわかるよ、それまで時間でも潰しててくれ』

 

 そのハンドサインを傍で見てた狩谷も頷いて、確認していたスコップを徹に手渡した。

 

「若人達よ注目! ここでスコップの使用方法・その多様性について説明する!」

 

 折りたたまれていたスコップを手早く組み立て、金田一と佐木兄弟の前に出す。

 

「掘るだけじゃないですか?」

 

「そもそもスコップには剣型スコップと角型スコップの二種があり、日常的にスコップと言われてるのはこの剣型スコップになる。

 この剣型スコップは軍用にも使われるほどの多機能性があり、ご覧のように折りたたみ式となればこんなに小さく収納することが可能だ」

 

 そう言って突き出された剣型スコップに金田一が興味深そうに見る。

 

「剣ってことは凶器なんすか?」

 

「正解」

 

「正解!? 物騒すぎる!?」

 

「スコップは叩き! 突き刺し! 斬る!

 当然穴を掘ることも出来れば、スコップの大きさを自分でも理解してれば大きさを図る目安にもなる。しかも軍用の物となればファイヤースターターや小型のナイフも備え付けられてるからアウトドアでも十分に活用できる!」

 

 そう言って実際にスコップの持ち手を引っ張って、小型のナイフやファイヤースターターを取り出し見せてくる。それを見て金田一が小城に視線を向けてくるが、小城は資料を読んで放っておく。

 

「金属であることを有効活用して、万が一の時は肉を焼くことだって出来る!」

 

「いや最後おかしい」

 

 スコップの説明をしている間にノックが聞こえたので小城が扉を開ければそこには舘羽がおり、扉が開いたと同時にいくつかの機械を小城に渡してくる。

 

「小城さんの言った通りだったわ~!

 誰だか知らないけど欲求不満な人達がこんなもの(盗撮カメラ)を脱衣所に仕込んでるんだもの、怖~い。まぁあーんな綺麗な娘さんが帰ってきてるんだもの、無理もないけどね~」

 

「そうだね、さらに二人も魅力的な女性が増えたら驚かすだけじゃ飽き足らなかったのかもしれない」

 

 わざとらしく廊下に響くような声で話す舘羽に、スコップの説明をしていた徹の目に恐ろしい光を宿した。

 

「というわけで、実演を兼ねた完全犯罪をお見せしよう」

 

「ちょっ!?」

 

「狩谷くん、金田一くん、徹を押さえて」

 

「今度はバトル漫画のようですね!」

 

「狩谷さん、アクションスターにもなれるんじゃないですか?」

 

「お前らも徹さんを捕まえるの手伝えよ! 佐木一号二号!」

 

 背後から聞こえた会話に小城がすぐさま指示を出し、背後で指示にこたえるべくバタバタと何やら慌ただしくなる。

 

「褒めても出るのは怒りに触れた兄さんしかないわよ?」

 

「ハハハ、もう暴れだしてるから勘弁してほしいんだけどね」

 

 殺意溢れんばかりの徹の叫び声は、開かれた廊下から他の部屋へと聞こえていることだろう。

 

「誰がやったか特定はしないけど・・・ 誰かわかったら最悪は次の日に見るも無残な遺体が転がってるか、一番軽いのでタコ殴りにして全裸で門に吊るすぐらいしそうだよね」

 

「あらら、明日の朝には新しいオブジェが増えてるかしら?」

 

「うーん、歴史的遺物のレプリカに盗撮犯を並べたらそれだけで祟られそうだなぁ」

 

「それならどうにか兄さんを止めて頂戴、身内から犯罪者とか笑えないもの」

 

「わかった。

 とりあえず、何もしないようにふんじばって転がしておくとするよ」

 

「お願いね、私達はもう少し食堂でのんびりおしゃべりしてるわ」

 

「じゃぁ僕達もいろいろしてから合流するよ」

 

「それじゃぁまたあとで」

 

 そこで舘羽とのやり取りを終え、扉を閉める。

(これだけ脅しつけておけば大丈夫、かな?

 幸い生活している館は別だけど、食事を取る時は一緒だったみたいだしなぁ)

 

「小城さん! ちょっとこの二人アクション映画も真っ青な動きしてるんですけど!?」

 

 金田一がそういった瞬間に狩谷による渾身の掌底が徹の顎に直撃し、徹が崩れ落ちた。

 

「機械シカケタ奴、抹殺シテヤル・・・!」

 

「徹さん、落ち着いてくださいってば」

 

 いつもの口調で言いながらもぐるぐると縄で徹を縛っていく狩谷に容赦はなく、躊躇いもない。

 

「たとえ予定通りだとしても! 妹が盗撮にあっていたかもしれないのを怒らずにいられるか!!」

 

「だから舘羽さんがついて行って、記録される前に回収したんでしょう。

 正直僕も舘羽さんの自然なお膳立てにはびっくりしたんですけどね、探偵事務所より女優とかの方がいいんじゃないかなぁ?」

 

「舘羽が女優になんかなったら家族との時間が作れなくなるだろうが!」

 

 片や縄で縛られてる男とその上から押さえつけるように座った男のやり取りに金田一はもはや苦笑いしかできず、扉の近くから荷物の方に行った小城へと歩み寄った。

 

「狩谷さんと徹さんの攻防が激しすぎてツッコミ挟んでる余地もなかったんですけど、舘羽さんってばわざと最初にお風呂行ったんですか?」

 

「異性がわかりやすく肌を晒して、館の中だから・自分が入っているのを知っているからと何かと油断しがちなタイミング。挙句ここは露天があるとか言ってたから外からも侵入が容易で、僕らが来る日を事前に知っていたら下準備もしやすいっていうとんでもない好条件の場所だよ? 相手に対してやらしい気持ちを抱いてるんだったら、あるだろうなぁーとは思ったよ」

 

「いやいやいや! よく舘羽さんにやらせようなんて思いましたね!? 一歩間違えば小城さんごと徹さんに闇討ちっすよ!?」

 

「舘羽くんなら確実に見つけてくれると思ったし、徹を連れてきたのも意味があるんだよ? どうしようもないシスコンでマザコンだけど、徹は女性と行動する時はこれ以上ないほど心強いガーディアンになってくれるだろう?」

 

「一歩間違えばヒットマンになるガーディアンなんて怖すぎるし、リスク高すぎでしょ!?」

 

「いいかい? 金田一くん。

 犯罪はね、ばれなきゃ完全犯罪なんだよ」

 

「それ、探偵が言っていいセリフじゃないっす!!」

 

(まぁそもそも父親が生きてる時点で原作が狂ってるから、風呂場での驚かしがあるかはわからなかったけど。それでも父親生きてるのに身の危険を感じてるんだから人間って怖いし、ろくでもないよなぁ。ホント、舘羽くんに来てもらってよかった)

 ついでに盗撮の情報を軽く確認すれば、脱衣所に二人と共に入ってきた舘羽が何やら二人を待たせ、周囲をぐるりと見渡してそれらしい場所を指さしてから当たりをつける。そして一直線でこちらに歩み寄り、機械越しにもはっきりと音が入るほどの力で鷲掴みにし、機械越しに盗撮を仕込んだ犯人を射殺すように笑う。

 

『あーら、おかしなもの見つけちゃった』

 

 言葉が終わると同時にブラックアウトする画面に、小城は静かに機械を荷物の中にしまい込む。

(徹と舘羽くんって兄妹なんだなぁ・・・ というか犯人なんて断定させたら徹を止めてる間に舘羽くんが何かしでかすよな、これ)

 これ以上事態がややこしくなる前に解決してさっさと帰ることを改めて決意し、小城は何も見なかったとばかりに立ち上がった。

 

「さて、魔神具を取り出しに行こうか」

 

「ちょっと言葉おかしくないっすかね!?

 現地に着いたばっかりなんだから、遺跡とか、館にあるとかいう暗号とか今から調べるんじゃないんすか!? それこそ遺跡について二十年も研究してるっていう先輩のお父さんに話を聞きに行くとか、他にも詳しそうな人とかいたし、館の中を見て回るとか・・・」

 

「金田一くん、トレジャーハンターの基本は『資料を掘れ』だよ。

 さっ狩谷、もう徹はそこらに転がしておいて行こう」

 

「はい、小城さん」

 

 まだ徹と何やらやり取りをしていた狩谷が、小城に促されて一切の迷いもなくハンマーを掴んだ。

 

「もう調べつくしてんの!? マジで資料だけで答えにまで行きついちゃってんの、小城さん!?」

 

「だから何度も言ってるだろう? ここは本当にトレジャーハンター界隈で有名なんだって。

 四つの魔神具である矛・銅鏡・宝玉・銅鐸になぞられて命名された筈の館の中で唯一名称が異なる『七鏡の館』。そしてそこに『暗号が隠されている』と伝えられているにも関わらず、それ以外のヒントは何一つとして存在しない。

 館には一族が住み着き尚且つ『魔神具にまつわること』と伝え残せば、誰も館の中にある七枚の鏡にも庭に飾ったオブジェにだって違和感を抱くこともなく、移動させたりするようなこともない。けれど、その意味を知っている者ならば一目で、それこそ帰ってきてすぐに魔神具の有無を確認できるような方法が必要だった」

 

(原作通り、あの学生が鏡を買ってきてくれていて助かったよ)

 そう言いながら小城は鏡に程近い場所の扉を開けていき、最終的に玄関へと辿り着く。

 

「ほら、魔神具はあそこだよ」

 

 小城がまっすぐと指さした鏡が映したのは、庭にある閻魔地蔵のレプリカ。

 そして小城も指さした先にすぐさま向かい、狩谷と共に清々しい笑顔とハンマーを肩にかける。

 

「さぁ、ぶち壊そうか」

 

「あの、これで違ってたら器物破損になるんじゃ・・・」

 

「どうせレプリカだし、魔神具が出なかったら素直に弁償するよ。

 トレジャーハンターなら穴を掘ったり、岩を砕いたり、なんなら海の底にまで探り入れたりなんてよくあることだし、探偵業も人の家の裏側までひっくり返すようなことなんてザラだからね。

 それに今回は遺跡発掘っていう正式な依頼だから、どうとでも言い訳できるよ」

 

 恐る恐るいう佐木二号に小城は堂々と言い訳できると口走り、狩谷との位置を調節する。

 

「この人って黙ってればただのエリートにしか見えないのに、時々どっかぶっ壊れてんだよなー」

 

「金田一先輩と同じですね!

 普段は不真面目でただの不良かバカな学生にしか見えない先輩が、事件だととんでもなく頭をよくするみたいに」

 

「さ~き~?」

 

「金田一くん、聞こえてるからね? それに今からぶっ壊れるのはこれ、だよ!」

 

「は? いやちょっ・・・ 小城さん!?

 せめて家主か依頼人を呼んでからやりましょうよ!?」

 

 言葉と同時にハンマーが振るわれ、その音にあちこちから人が集まってくる。

 だが、他の人が何かを言う前に美雪とさつきと共に走ってきた舘羽が叫ぶ。

 

「兄さんが何かやらかした!?」

 

「舘羽さんって時々徹さんの扱いおかしいですよね、本当に実のお兄さんなんですよね?」

 

「実の兄だけど、何をしでかすかわからないほど度を越したシスコンでマザコンよ」

 

「家族想いなお兄さんなんですね」

 

「さつきちゃんいいのよ、そんな優しい言い方しなくても」

 

「大丈夫だよ、舘羽くん。徹は何もしてないから」

 

 庭に全員が集まるのを待つように、小城は崩れた瓦礫から見えたものを見る。

 

「非常識すぎる、人の家の物を何も言わずに壊すなんて」

 

「お嬢さんはどういうつもりであんな素性も知らないような男を雇って・・・」

 

 不満そうにぶつぶつ言う学生二人に目もくれずに、研究者である国守秋比古とその助手・鳥辺野章、長年発掘を手伝ってきた港屋寛一は静かに目を見開いていた。

 

「おいおいまさかもう見つけたっていうのか、トレジャーハンターの小城拓也さんよ」

 

 遅れてやってきた江戸川謙次が崩れている閻魔地蔵を見て、驚きを隠さない。

 

「皆さん、一体何の騒ぎですか?」

 

 最後に当主である宗像志郎と家政婦頭である九十九イヨ、お手伝いである村西弥生と港屋明日香がやってくる。

 ここにいないのは部屋に縛ってある徹と宗像今日子だけだろう。

(もういいかな?)

 全員が揃ったのを確認してから、壊した地蔵の腹から現れた木の箱を開封する。

 そこにあったのは間違いなく、ついさっき見たレプリカと瓜二つの本物の魔神具だった。

 

「これがお望みの魔神具ですよ、お嬢さん」

 

 多くの人の中から依頼人である彼女を名指しすれば、さつきは一瞬躊躇しながらもすぐに覚悟を決めたようにまっすぐと歩いてくる。

 

「これが宗像家の呪い・・・ マガドリ様の四つの魔神具・・・」

 

 箱を開いた状態のそれを見て、複雑な顔をするさつきの横に金田一がやってきて大して興味がなさそうな顔をする。

 

「へーこれがねぇ、ぼろっちい骨董品にしか見えませんけど・・・ こんなのがお宝なんすか?」

 

「なっ! 君にはこの宝がどれほど貴重で価値のある物かわからないのか!」

 

「よせよ、大和。バカにはわかんねーって」

 

「さっきも話した通り、これは我々が二十年かけて求めた物だ。だが、それがこんなにもあっさり・・・」

 

(あー、徹を縛り付けてきて正解だったなぁ)

 あれやこれやと言い出す研究者達を小城は冷めた目で見下ろしていると、慌てたように駆けてくる美雪と舘羽がやってきた。

 

「はじめちゃんってばまたそんな失礼なこと言って!」

 

「アハハ、でも私は金田一くんと同意見だわ。だって興味のないものなんてそう映っても仕方ないじゃない」

 

「そ、それはそうですね。ではこれがどれだけ貴重なのかを僕に説明させてもらっても?」

 

「おい蘇我! 抜け駆けすんなよ!!」

 

 舘羽の言葉にすぐさま対応を変える男どもに、舘羽は適当に笑ってあしらい始めた。

 

「始まりはどうであれこの魔神具は人の物じゃなく神様の所有物だ、人にとって意味を成す物である必要なんてないんだよ」

 

「あぁ、それもそっか」

 

「僕の仕事は遺跡発掘の協力、そして魔神具は見つかった。

 これをどうするかは依頼人である君が決めることだよ」

 

「私は・・・」

 

 自信なさげに頭を下げるが、何を思い出したのか彼女は顔を上げる。

 

「母に渡したいです。

 母に渡して、魔神具をしかるべき方法で奉って、私達はもうこの村に・・・ 宗像家に縛られなくていいんだって伝えます」

 

 彼女の言葉を誰も予想していなかったのか、あちこちから視線が突き刺さるが小城はそれを満足そうに頷いた。

 

「さつき、それは私が伝えてこよう」

 

 さつきの後ろからやってきた宗像志郎を、小城がそっと遮る。

 

「呪いのことで深く思い詰め、母の心を救いたい一心でトレジャーハンターにだって依頼を出した娘さんの勇気と優しさを汲んであげてください」

 

「それは・・・ しかし」

 

「ですが奥様にも準備が必要でしょう。それまでの間、私と少々話をしませんか?

 私も魔陣遺跡の権威と名高いあなたとは常々お話ししたいと思っていましたので」

 

「でも小城さん、私は母にすぐにでも・・・!」

 

 魔神具を手にしてはやる気持ちを抑えきれないとばかりに行動しようとするさつきを、小城は宥めるように優しく頭を撫でた。

 

「早く伝えたい気持ちはわかるけれど、何を伝えたいかを一度整理した方がいい。

 そうじゃないと、伝えたいことの半分も相手に伝わらないこともあるからね」

 

「小城さん・・・」

 

「大丈夫、君には迷った時相談できる友人も頼りになる後輩もいて、君のことを妹のように可愛がろうとしてる人もいるからね」

 

「はい・・・ ありがとうございます」

 

 そう言ったタイミングで学生二人を撃沈させたであろう舘羽が戻ってきて、さつきの横に並んで肩を組んだ。おそらく知識の量で相手を打ち負かし、その上で身近にいる男性らと比較して『異性として欠片も魅力もありません』と笑顔で突き付けてきたのであろう。

 

「さて! 他の皆さんも話をお聞きしたいでしょうが、魔神具を発見したのは我々ですのでさつきお嬢さんに詰め寄ることなどありませんように。

 そして、この件に関しては僕の弟子である金田一少年が全てを把握しているのでぜひ彼に話を伺ってください!」

 

「ちょっ!? 俺も全部いきなりな展開でついていけてないんですけど!?

 確かに小城さんってばわかりやすく説明もしてくれたし、いろいろと話してくれましたけど、アンタ今回マジで行動ぶっ飛びすぎておかしいから!!」

 

「では行きましょうか、宗像さん」

 

「し、しかしだね」

 

「あぁ、そうそう。

 奥様のご友人を名乗る方々から言伝を預かっているんですが、奥様のお部屋にお邪魔しても?」

 

「———―っ!? 私の書斎へ行こう」

 

「えぇ」

 

 向かう途中で狩谷と視線が合い、小城に向かってハンドサインを送ってくる。

 

『所長、どっちついてます?』

『金田一には佐木兄弟(記録媒体)がついてるし、女子優先に決まってるでしょ』

『ヤバいのはそっちじゃないですか』

『徹もいるから平気だよ、そっちは任せた』

『ハァ・・・ わかりました』

 

 狩谷とのハンドサインを終えれば、宗像が手伝いである村西弥生に書斎にお茶を持ってくるように頼んでいた。

(なるほど、あくまで書斎に奥さんを呼ぶ気はないのか)

 二階にあがって書斎へと入れば、そこには遺跡の資料であろう書籍がずらりと並び、シンプルな机と椅子が配置されていた。

 

「それで妻の友人達からの言伝とはどういうことかな?」

 

「いいえ、お話は奥様が来てからでいいでしょう」

 

「つ、妻は準備を・・・ 「今、来るじゃないですか」 何を言っているんだ、君は」

 

「もうじきお茶をもってくる村西さんが、ね」

 

 小城の言葉に宗像はあからさまにほっと息を吐き、首を振った。

 

「確かに彼女は二十年近くこの家で働いてくれてよく勤めてくれているが、妻ではありませんよ」

 

「失礼します」

 

 タイミングよく扉が叩かれ、紅茶とコーヒーを置いて彼女が去ろうとする前に小城は改めて名乗る。

 

「そういえば名乗っていませんでしたね、改めまして私立探偵の小城拓也と申します」

 

「えっ・・・?」

 

「どういう、ことかな? 娘からはトレジャーハンターと聞いていたんだが。

 それに君はトレジャーハンターとしても名高い、探偵なんて何かの冗談だろう?」

 

 小城の狙い通り、村西が立ち止まって振り返る。宗像も信じたくないとばかりに言葉を重ねてくるが、小城は首を振った。

 

「どちらも噓ではありません。私はトレジャーハンターであり私立探偵として東京に事務所を構えている・・・ いわゆる二足の草鞋というやつですよ。

 私はトレジャーハンターとしても、探偵としてもあなたのお嬢さんからいくつかの依頼を受け、調査の結果依頼の内一つは彼女の望み通りにならないとわかってしまった。

 こうして話し合いの場を設けていただいたのも、それに関するご相談があってのことです」

 

(灰皿なし、ゴルフクラブなし、用意された茶菓子は幸いクッキーで果物ナイフなし。魔神具はレプリカともども一階だし、出土品が飾られていない。念のため調べた銃器の密輸も見られないし、原作で狩りに使われてた首絞め棒もなさそうだし、あとの物は大きさ的にも振り下ろされるまでに反応できる。防刃チョッキも仕込んであるし、徹も準備できてる)

 冷静に言ってるふりをしながら、脳内では殺されそうになった時のシミュレーションが繰り返される。

 何せ彼は二十年前になかったことにされた事故とその日から始まった一つの嘘を彼らに突きつけようとしており、それらを暴いた小城がなかったことにされる可能性は十分ありうるのだ。

 

「私も困っているんですよ、宗像さん。

 彼女の望みは家族揃って村と呪いから解放されることだというのに、一人は既にいないかもしれないのですから」

 

「だから! 君はさっきから何を・・・!」

 

「でしたらぜひ奥様をお呼びしていただきたい、弥生さんと共にこの書斎にね」

 

(紅茶と茶菓子は何が仕込んであるかわからないから口にいれない、村西弥生も宗像の隣にいる。万が一、窓から何かあったとしても俺の後ろにあるのは扉だ)

 

「君はどこまで、何を知ってるというんだ!」

 

 もはや小城という存在に恐怖すら感じている宗像は声を荒げるが、向き合った小城は冷静であることを務める。

 

「ここはトレジャーハンター界隈で有名なんですよ、結婚さえすれば宝が手に入るとね。あぁ、あなたのお弟子さん達が企んだように娘さんを手籠めにしても手に入りますね」

 

「「なっ・・・」」

 

「驚くのは無理もありませんが事実ですよ、私がお嬢さんから受けた依頼のうちの一つは彼女の護衛ですから。

 それに加えて私は奥様のご友人達から、彼女の捜索・生存確認の依頼も受けています。彼女がある頃から連絡がピタリとなくなってしまった、直接会おうとしても手伝いの方に断られたり、宗像の呪いを盾にされて諦めざるをえなかったとね」

 

 村から出ていないで箱入りのまま育てられたという宗像今日子にも、友人がいた。

 当たり前だが小城はこのことに驚いたし、むしろ名家である彼女に交友関係が皆無という方が不自然だった。事実、銅鐸の館にいたという後継ぎにも駆け落ちできるほどには外と交流があったのだ。

 

「もし奥様がいらっしゃるのなら・・・ 居場所をお二人がご存知なら、ご友人達に一目会わせていただくことは出来ませんか?」

 

「・・・君の言い方ではまるで君達が見た妻は偽物で、本当の妻はいないようじゃないか。まさか君はそうだとでも言うのかね?」

 

「その通りですよ、宗像さん。

 だって私達が会った奥様は、村西さんだったじゃないですか」

 

「なっ、何を根拠に!!」

 

「根拠・・・ そうですね、根拠とは言えませんが疑惑になるほどのことは多く見つかっていますよ。

 まず掟があったとはいえあなたと結婚してほどなくして今日子さんが村の外に出ることがなくなり、謎の病気についても村の外の医者に頼らなかったのは違和感を覚えました。

 友人とやり取りしていた文通すらもなくなり、最後に送られてきた手紙は奥様の、今日子さんの文字ではなかったこと。いくら病気といえど電話ですら彼女の声一つ聞けなかったというのは、あまりにも不自然でした」

 

 続けられていく言葉に宗像は驚くばかりで、彼の反応に小城の心はどんどん冷めていく。

 

「それに探偵なんて仕事をしていると観察眼と聴覚が鍛えられましてね。あまりに村西さんの背丈と声がベール越しの奥様と同じだったので、つい何かあるのではないかと勘繰ってしまうんですよ」

 

 小城の冷めた目は二人を射抜き、あえて言葉にしていないことを示す。

 

「それは・・・」

 

「志郎さん、もうよしましょう。この方はきっと全てをわかった上で、さつきのために私達との相談の場を設けてくださったんですから」

 

「弥生・・・ だが」

 

「お話しします、小城さん。

 二十年前、この館で何があったかを」

 

 

 

 彼女の口から語られたのは、彼女がこの館に雇われてからのすぐの話。

 似合いの夫婦に見えていた宗像夫妻が最悪の組み合わせであり、今日子による束縛が士郎を苦しめ、その果てに彼女と士郎が支えあい、想いあうようになった。

 そして彼女の妊娠を発覚し、今日子ともみ合いになり彼女が亡くなってしまった。

 自首しようとしたが腹にいる子どものことを優先し、彼女の死を隠蔽。その後、二十年もの間村西弥生が宗像今日子となっていたこと。

 

 

 

 罪を告白している筈だというのに彼女の言葉の節々には今日子への嫌悪が現れ、小城同様に聞いている側であった宗像も今日子にされたことを思い出したのか、不快そうに顔をゆがめる。

(あぁ、宗像今日子はこの二人にとって悪役令嬢だったのか)

 話を聞いてなお小城の心は、二人に対して冷め切っていた。

 小城にとって『宗像今日子』という人物は、一族に縛られた可哀想な女性だった。

 村西は彼女を『気位の高さと独占欲が凄まじい』と言ったが、この村に縛られて生きるしかなかった彼女にとって、宗像の血を憎むのでなく誇りとすることでしか自己を保つことは難しかったのだろう。

 宗像家の一人娘であった彼女には結婚も自由にはならない以上、遺跡や魔神具を目当てだとわかっていても手にした伴侶は唯一彼女が自ら望み、どんな手段を使ってでも裏切ってほしくなく、誰にも奪われたくないものだった。

(方法は確かに褒められたものではなかっただろうけど)

 彼の資料を燃やしたのは遺跡ばかりを考えて己を見なかった志郎への当てつけで、一族にとって重要とされた鏡を割ったのも彼が自分から離れていくことを恐れたが故だった。

 裏を返せば彼女は一族の暗号を一人で解明するだけの頭脳を持ち、相手の視線の先を理解するだけの察しの良さがあったのだろう。弥生ともみ合いになったことも彼女は薄々士郎と彼女の関係に気づいており、その上で二人は子どもすら作ったのだ。

(ていうか夫が自分そっちのけで遺跡ばっかり調べてるかと思ったら、家政婦の女に手を出して子ども作ってんだぞ。そりゃ怒るわ)

 だが、いつまでもこの二人に冷めた視線を送っても状況は進展も改善もしない。

 

「二十年前のことは理解しました。問題はお嬢さんになんと伝えるか、ということですよ。

 彼女は母である今日子さんの病気と痣についても、十年前の火事のことも全て呪いによるものだと信じ、自分が三つ目の戒めを果たさなければならない。果たせないのなら己の命を絶ってでも家族を呪いから守ろうとしていました。

 友人の助けもあって彼女は自ら三つ目の答えを見つけ、先ほど言っていたように魔神具をマガドリ様に返還し、奉納することで一族を呪いから解放することを望んでいます」

 

 二人がまた驚いているが、それは無視した。

 家のことで苦しみ、迷っていることを、そんな一族に自分を産み落とした親に言えるわけがないのだ。

 

「さつきはそこまで思い詰めていたのか・・・」

 

 宗像の悲しそうな顔を見ながらも、小城はけして宗像のことなど思ってはいない。小城にとって大事なのはあくまで事務所の面々と金田一の友人である美雪や佐木兄弟と依頼人であるさつき、そして既に故人である宗像今日子なのである。

 この話はどこまでも宗像さつきにとって残酷で、無情なるものだった。

 原作において父である宗像志郎は死亡し、その弟子であった者達からは体を狙われ、呪いに怯えながらも運命を受け入れるしかなかった。その上、次々と身近な人間は死亡し、母である今日子も死んだと思わされ、挙句母同然だった村西は己を偽り続けていた。全てが明らかになった後も、実母と分かった村西は自殺未遂の果てにこれまであった都合の悪い部分全ての記憶を喪失し、余命半年という何とも苦い終わりだった。

 

 だが、現状もそこから多少は改善されても残酷だった。

 

 父が生きながらえていても呪いの恐怖は迫り、家族を救いたい一心で彼女は行動したというのに、彼女が救いたいと望んでいた母・宗像今日子は偽りの存在だった。それどころか彼女は宗像と村西の不倫で出来た子であり、宗像の血など入っていなかった。

(これじゃぁまるで、彼女が道化じゃないか)

 座ったまま小城は二人に見えないように固く拳を握り締め、二人に残酷な問いを投げつける。

 

「さぁ宗像さん、村西さん、どうしますか。

 魔神具の今後も、あなた方が偽り続けた宗像今日子という偶像も、全てあなた方の決断に委ねられている」

 

 二人はしばらく互いに視線を交わし、通じ合ったかのように頷いた。

 

「あの子に、これまでのことの全てを話そうと思います」

 

「弥生・・・ 本当にそれでいいのかい?」

 

「志郎さん、私はこのまま、一生ここであなたを支えていく覚悟があってこの村にいました。

 けれど、さつきにまで命を懸けさせるような村と、好きな人とも結婚できないような家に縛られてほしくありません」

 

「弥生・・・ そうだね、僕達がそうだったようにね」

 

 その生ぬるい空気に、小城は冷めた声で告げる。

 

「真実を話したところで、お嬢さんはあなたのことを母と呼ばないかもしれませんよ」

 

「それは・・・ わかっています。

 甘く考えていたんですよ、私は。ベール越しのほとんど接触のない宗像今日子を、あの子は母と思わない。もっと近くにいた私を母だと思ってくれると、都合よく願っていたんです」

 

 『本当にな!』と叫びたい衝動をぐっとこらえ、感情を出さないように努める。

 

「お嬢さんは私に、何も知らないで疑い続けるより残酷でもいいから真実を知ることを望みました。家に籠っているベール越しの母と遺跡にばかり向かう父に彼女は彼女なりに思うところがあって調査を依頼し、それでもあなた方夫婦から偽りのない愛を感じていたんです。

 そうでなければ、こんなにも家族を思って行動できるわけがない。

 ですがそれは、『宗像今日子』と『宗像志郎』の娘としてだ」

 

 そう言って小城は立ち上がり、扉の方へと向かった。

 

「彼女に告げると決めた今、これから起こる全てはあなた方が受けるべき報いだということを覚悟してください。

 一時間ほど置いてからさつきくんには来るように伝えておきますので、私はこれで失礼します」

 

 そう言って小城は書斎から出れば、扉から少し離れた場所に徹が立っていた。心配そうな視線を向けてくる徹に苦笑で返せば、しばらく躊躇しつつも一階へと降りて行った。

 小城もそれを追いかけるように一階へと降りて行けば、おそらく二階にいる宗像と村西以外が揃っているであろう食堂前の廊下で金田一が待ってましたとばかりに小城を捕まえた。

 

「やっと降りてきた、小城さん。もうホント質問攻めで大変だったんすからね! って、なんかさっきより顔色悪くないっすか?」

 

「ん? あぁ・・・ まぁね」

 

(・・・彼ならどうしてた?)

 さっきまでフル稼働していた頭が、未だ苦悩する心が、他の誰かの・・・ 否、主人公たる金田一の答えを欲していた。

 

「なぁ金田一くん、君に一つ質問してもいいかな?」

 

「えっ、いきなりなんすか? さっきまで俺、質問攻めだったし、小城さんに答えられるようなことなんてないっすけど」

 

「ハハッ、なーに頭を使うことなんて聞かないよ。いつも通り脊髄反射で答えてくれてかまわない」

 

 事務所を立ち上げてから吸っていない煙草を無意識に指が求め、つい胸ポケットを探るが何もなく、行き場をなくした手で口元を隠した。

 

「真実を伝えることは、本当に正しいのかな?

 優しい嘘で相手を包んで傷つけないようにすることは、真実を知らないまま傷つかせないのは・・・ 駄目なのかい?」

 

(俺は彼女が真実を知ることを望んでいると知っていても、揺らいでしまう。

 どうにかして彼女が傷つかない方法がないかと、知らないままでいいんじゃないかと思ってしまう。

 知らないでいていいのなら、忘れたままでいていいのなら、その方がきっといいじゃないか)

 

「相手が傷ついてない姿なんて、嘘ついてる奴の中にしかいないっすよ」

 

 小城が望んだとおり、金田一は即答し、まっすぐに小城を見ていた。

 

「嘘越しでしか相手を見てない奴に、その人が本当に笑ってるかどうかなんてわかるわけないじゃないっすか」

 

 そしてその言葉は、思ったよりも深く小城に突き刺さる。

 

「それにさ、そんなことしたら嘘ついてる側はずっと一人で抱えて傷ついたままで、その後もずっとつらいまんまじゃないっすか。そんなのは駄目なんですよ、小城さん」

 

(傷ついてない姿なんて・・・ 嘘ついてる奴の中にしかいない、か)

 不意に浮かんだ幼い妹の泣き顔と、小城の知らない速水怜香としての、画面の向こう側の笑顔だった。

 

「勝手なこと言ってすんません」

 

「いやいいんだよ、君の意見を求めたのは僕だからね」

 

 壁に体を預けて深呼吸する小城に金田一は、小城の纏う雰囲気に違和感を覚えてさらに何か言おうとしたが

 

「せーんぱい、ここにいたんですね! 皆さんまだまだお待ちかねですよ!」

 

「おいコラ佐木、肩掴むな! もう質問攻めは嫌だぁー!!」

 

 佐木一号がそれを阻んで、肩を掴んで再び連行していく。

 

「ハハッ、行ってらっしゃい」

 

「いやもう小城さん戻ってきたんだから、いい加減交代してほしいんですけどーーー!?」

 

 そう言って連れらされる金田一を見送って、さっきよりも軽くなった心と視界に小城は自然と笑っていた。

(あぁそうだ、そうだよな)

 謎を解き明かすことに楽しさを見出すのではなく、被害者だけじゃなく犯人すら救いたいと望む姿。

 道化のように転げまわって、時には擦り傷だらけになっても駆け抜けていく。

(それでこそ金田一 一()だよな)

 心の中の思いは言葉にせず、ただただ溜息だけが吐き出されて、廊下で疲れたように壁にもたれかかる小城の隣に徹が立った。

 万が一のことがあった時のために二階に控えていた徹は機械越しに書斎での話も聞いていたからか、何も聞こうとはしなかった。ただ小城と同じように何とも言えないような溜息を零し、頭をかく。

 

「徹、難しい顔になってるよ?」

 

「僕よりよっぽど酷い顔してる人が何を言ってるんですか」

 

「ハハッ、そうだね」

 

 小城はまた困ったように笑って、口を覆っていた手が首に降りていく。

 

「・・・それまで信じていたものが根底から崩れることはとても辛いんだ、それまで不安定な場所に立っていたのなら尚更ね」

 

「えぇ、そうですね・・・」

 

「徹、どうなると思う?」

 

 いろいろな言葉を含めた問いかけに、徹もまた難しい顔のままだった。

 

「伝えても変わりませんよ、彼らは。

 彼らはここの不便さに救われて、それを盾にしてきた。研究者が見つけた宝を手放すとも思えません」

 

 さつきに聞かれてもわからないように、わかりづらいように選ばれた言葉に小城はまた溜息を零した。

(どう足掻いてもさつきくんの願う家族との日々はかなわない、か)

 

「それでも彼女は話す場を持つことも、独りじゃないことも気づけた。そして、彼女自身はこの村からも呪いからも解放される道も示されてる。

 僕達が思っていたよりもずっと事態は良い方向に進んでいますよ、小城さん」

 

 今の小城に気休めの言葉も意味をなさず、その行いを正しいと肯定されたいとも思っていない。自分の行動が間違いとは思ってはいないが、それでももっと良い方法があったんじゃないかと考えてしまう。

 だから、徹はただ小城に現状だけを繰り返し、最悪ではなくなったことだけを伝える。

 

「あぁ、そうだ「あっ、小城さん。父との話は終わったんですか?」

 

 さっき金田一が戻っていった客室からさつきが出てきて、声をかけてきた。だが、徹が傍にいたのに気付いて察したのか、すぐに謝罪してくる。

 

「すみません、何かお話し中でしたか」

 

「いや問題ないよ、特に話すことがあったわけじゃないから。

 あと三十分くらいしたら一緒に書斎に行こう、君に大切な話があるそうだからね」

 

(あの二人がさつきくんに手を出すとは思わないけど、万が一のことを考えれば一緒に居た方がいい。退出を求められたらその時はその時だ)

 

「わかりました。

 私はもう少し舘羽さん達とおしゃべりしてますね」

 

 一瞬だけ暗くなった表情をパッと明るくして去っていく彼女を見送れば、開いた扉の向こう側の窓にマガドリ様が映った。

 

「っ!?」

 

 おもわずさつきの後を不自然にならない速さで追い、窓を開いて周囲を確認するが館の上を烏が飛んでいるだけで先程映ったマガドリ様の姿はない。

 

「あれ? 小城さん、どうかしたんですか?」

 

「いや、その・・・ 二号くん、今ここに何かいなかったかい? そうだな、烏とか」

 

「いえ何も。

 それに僕も兄さんも質問攻めでたじたじになってる金田一先輩の面白・・・ 雄姿に夢中で外の景色は撮っていなかったので」

 

「そ、そっか」

 

「それに仮に金田一先輩に頼まれても、この客室からじゃ露天風呂は撮れませんしね」

 

「だから俺はそんなことしないし、頼まないっつの!

 大体、舘羽さんがいて徹さんがいる時にそんなことするほど命知らずじゃねーから!」

 

「つまり、徹さんがいなかったらやってたと」

 

「いやー、それはね? 俺ってば年頃で健全な男の子だから」

 

「は・じ・め・ちゃ・ん?」

 

 狩谷の合いの手によって漏れた金田一の本音に美雪の目が光り、金田一を叱るために飛んでいく。

 だが、佐木二号に聞いた小城の内心は冷や汗ダラダラで、パニック状態に陥った。

(冷静になれ冷静になるんだ、俺。

 マガドリ様はどこに反応した? 俺にしか姿を見せなかった意図を読み取るんだ。

 さっきの目は俺に何を訴えかけていた? 今のタイミングにどうして姿を見せた? その前にマガドリ様が俺の前に姿を見せたのは村に着いたばかりの時・・・ こちらに向かって手を振っていたよな、まさか俺達を歓迎していた? 返還や奉納を目的にした俺達を?

 じゃぁ今は? この部屋に魔神具がある、俺を見ていたのではなく魔神具を見ていた? まさか魔神具の返還の催促をしてる、のか?)

 窓のところで下を向いて考え事をしていたので不意に頭を上げれば、そこにはマガドリの面と羽毛の衣装のそのままのマガドリ様と目が合った。

 おもわず驚きから口から出かかった悲鳴を手で押さえこんで、再び窓を開ければ幻のように消え失せた。

(落ち着け落ち着け落ち着くんだ。俺が今、返還の催促と思った瞬間に来たってことはそれが正解だということの筈。それなら無事返還と奉納が終われば何事もなくこの件は終わって、誰かを呪うことも纏わりついてくることもない筈。

 そうだ、奉納すれば大丈夫、大丈夫に決まってる。何より宗像の血筋はもうこの場にいる一人を除いて絶えているのだから。

 いや待て)

 脳内の混乱と思考は早送り状態になっていくが、それらは突然急停止する。

(返還と奉納の催促をするなら、マガドリ様は何故取り出す時に現れなかった?

 まさかマガドリ様はこちらが返還と奉納をしくじると思っている? 不安を抱いているのか?)

 

「まさか・・・」

 

 女系一族である宗像家、代々婿を取り、その婿を当主とする。次期当主はさつきの入り婿の予定だった・・・ つまり、現当主は宗像志郎であり、魔神具の所有権は彼にある。

(まさか奉納しないで・・・ 手元に残す気なのか?)

 嫌な汗が流れ、すぐさま父が研究者であった徹の手を引き、客室の隣の空き室へと向かう。

 

「徹、研究者という人種をよく知っている君に聞きたいんだが」

 

「認めたくないですけどそうですね」

 

「君の目から見て、宗像氏は魔神具を奉納すると思うかい?」

 

「するわけないでしょう。

 二十年の悲願で、遺跡発掘の最大の目的且つ自分の論文の肝ですよ? あぁいう研究者は手元に置いて愛でるに決まってますよ」

 

「呪われてるんだよ?」

 

「呪いの有無を気にしているのなら、わざわざ探し求めたりもしないと思いますよ?

 大体、専門家の彼らはそれを理解した上で探していたのだから呪われることも承知の上では?」

 

「嘘だろう・・・」

 

 これにはもう小城は頭を抱え、再び思考を巡らせていた。

(どうする? 本当は泊まりたくなかったが、さつきくんのことを考えれば一晩過ごしてから帰ることも考慮しようかとも思った。しかし、このままじゃ本当にどうなるかわからないぞ。

 原作では自ら雷を落として魔神具の強制返却を求めてきたけど、雷って最悪火災も巻き起こしかねないんだぞ? それにあいつらが都合よく記憶失ってさつきくんだけが酷いこと覚えてるとか、神が許しても俺が許すか!)

 

「徹、さつきくん達の話し合いが無事に終わり次第にすぐさまこの村を出て、東京に帰るよ。

 奉納しないのならこの村にいるのは危険すぎる、さつきくんも学校あるし、僕らと一緒に東京に連れて帰ろう」

 

「わかりました。予定通り、いつでも出発できるように準備しておきます。

 でも、そんなに危ないんですか?」

 

「信じてくれないと思うが、僕にはここについてからずっとマガドリ様の姿をあちこちに見えてるんだよ!」

 

 オカルトを信じていないと公言していた小城がもう隠さないほど焦っている姿に、徹は真顔で『あっ、コレ本当にヤバいんだ』と納得する。

 

「それじゃ僕はそろそろさつきくんを書斎に連れて行くから、狩谷と協力していろいろ任せたよ!」

 

 そう言いながらいつものように落ち着いた小城拓也へと戻りながらも、やや速足で行動に移す上司を見送った。

 

 





原作では宗像今日子をボロクソに書かれてましたが
原作を見るに結婚一年も満たないのに、なんで家政婦と不倫して、妊娠させてんでしょうね? 宗像志郎。
事件後なんで都合よく全部忘れて、余命半年だから罪もなかったことにされてんでしょうね? 村西弥生。
そして、どうしてそんな二人に振り回されてさつき先輩は寂しい子ども時代をおくらなくちゃいけなくて、辛い選択をするほどに追い詰められなきゃいけなかったんでしょうね?

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