小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

事件の最終、投稿。あとは後日談を残すのみ。



後日談以外にもう一本余裕が出来たけど、今回みたいながっつり事件のじゃないからまた次を書かねば。
次、何を書こう?


魔神村遺跡殺人事件 (下)

 小城の立会いの下で行われた家族の話し合いはさつきの寂しかった幼少や村西の母としての思い、宗像の後悔などが語られた。

 全てを話し終えた後、さつきは二人に怒鳴ることもなく、立ち上がった。

 

「少し、一人にして」

 

 それだけ言って、涙を流しながら部屋を駆け出して行った。

 

「さつき!」

 

「待ちなさい! さつき!」

 

 だが、親である二人も自分達が追いかける資格もないことを悟って、伸ばした手を力なく下げた。村西も食事の準備をしてくると言って部屋を去り、書斎には小城と宗像だけが残された。

 

「妻は・・・ 今日子という女は人を束縛し、私の研究すら妨害してくるような人だった。だから私は「あなたは何故、奥様が鏡を割ったか、ご存知ですか?」

 

 浮気を正当化するような宗像の言葉を遮って、小城は宗像に冷めた視線を向ける。

 

「九十九さんに聞きましたよ。

 奥様が鏡を割ったのはわざとで、あなたと結婚した一年後、お嬢さんが生まれる半年前。そして引き籠る数週間前のことだったとね」

 

「そんなもの、私への当てつけに決まってる。あれはいつもそうして、私の研究の邪魔ばかりしていましたから」

 

 宗像の吐き捨てるような言い方を、小城は嗤う。

 

「何がおかしい!」

 

「いつ割られたのかを聞いてもわかりませんか?

 おそらく今日子さんは村西さんに詰め寄る前から、あなたと村西さんの関係を気づいていらっしゃったんですよ」

 

「なっ、そんな馬鹿な」

 

「あなたや村西さんの言うように確かに今日子さんはあなたと結婚をするために手段を選ばず、束縛しようともしたんでしょう。

 けれど、あなたは結婚してから今日子さんを見ようとしていましたか?

 研究にばかり目を向けて、彼女と一緒に紅茶を飲んでリビングで過ごすような些細な日々を送ったことはありましたか?」

 

「それは・・・」

 

「たとえ魔神具によって得た伴侶だったとしても、浮気の事実を知ってなおあなたが自分に振り向いてくれることをずっと待っていた。

 魔神具さえ見つからなければあなたは自分の元に残ってくれると、彼女は信じていた」

 

 『これで すべてが丸くおさまるんだから』

 

 原作で彼女が言っていたこの台詞は他ならぬ自分自身に向けられていたもので、そうあることを願っていたのだ。

 だが、宗像は今日子を裏切った。否、彼女を見ることもせずに裏切り続けていた。

 

「あなたにとって村西さんがこの館の中で見つけた安らぎだったように、今日子さんにとってあなたは一族に縛られた中で得たどんな手段を使ってでも手放したくない宝だった」

 

 そう言って小城が机に置いた古い写真の中にはウェディングドレスを纏う今日子と新郎姿の宗像志郎は幸せそうに笑いあい、一年後に起こる悲劇の影などどこにもなかった。

 

「あなたにとってはただの手段だったかもしれない結婚は、今日子さんにとって唯一の自由だったんですよ」

 

 それだけ言って、小城も書斎を出ていった。

 

 

 

 

 書斎を出た小城は、一人で飛び出していったさつきを探して村の中を歩いていく。

 だが、小城は半ば確信しているかのように迷うことなく滝の方へと向かっていき、さつきは滝壺を見下ろす岩の上で静かに涙を流し続けていた。

 

「さつきくん」

 

 小城の声に振り向く彼女は、まるで彼が来ることをわかっていたように微笑んだ。

 

「ここに母がいるんですね」

 

「あぁ。お二人の証言が正しければ、今日子さんはこの滝の底に眠ってる筈だよ。けれどさつきくん、君の母は間違いなく村西さんだ。

 君を産んだのも、ベール越しにいた宗像今日子さんも、君が知る母は全て彼女だった」

 

「いいえ、ベールに包まれていた彼女は『宗像今日子』でした。

 私にとって村西さんはずっとお手伝いさんで、ベール越しや扉越しに声をかけてくれる『宗像今日子』こそが母だったんです」

 

 真実を知ってなお彼女は村西弥生を母とせず、滝壺で眠る宗像今日子こそが母であると宣言する。

 それは彼女の譲れないものであり、彼女が決めた道なのだろう。

 

「一族と村に縛られて、愛した夫からも愛されずに裏切られて、私が生まれる前に殺された可哀想な人。私の母になっていたかもしれなくて、私が母だと思っていた人。

 私が守りたくて、救いたかったお母様」

 

 もしかしたらさつきが今日子に抱いているのは同情に似た感情なのかもしれない。だがそうだとしても、二十年もの間死を隠され、誰にも悼まれることのなかった宗像今日子のために流された涙だった。

 

「小城さん、実は私、父と村西さんがそういう関係だったことを薄々わかってたんです。

 昔から父と母の結婚が魔神具や遺跡が目当てだったことは聞いてましたから、私はますます母に自由になってほしいって思っていたんです」

 

 だが蓋を開けば彼女が思っていたよりも事態は複雑で、彼女の信じていたものは全部嘘で塗り固められていた。

 

「三つ目の戒めを守るために男の子とたくさん付き合って関係を持とうとしたり、金田一くんを無理やり連れてこようとしてみたり、最悪自殺すら考えてたとか・・・

 なのに私には宗像の血なんて流れてないなんて、本当に馬鹿みたい」

 

 ずっと考えて、思い詰めて、決死の思いで行動し続けた彼女を嘲笑うような真実。

 だがそれは、小城によって暴かれてしまったもの。

 

「さつきくん」

 

「はい、小城さん」

 

 小城の声にすぐに答える彼女は、これから何を問われるのかわかってるようで。

 そんなところがどこか彼女の友人であるるい子の聡明さに通じていて、小城はひどく悲しく思う。

 

「君は今、ご両親の多くを知り、隠された真実を聞いた。

 真実を知って、これまで信じてきたことの全てが嘘になってしまったことを、後悔しているかい?」

 

「してますよ、知らなければよかったって。

 こんな気持ちになるくらいなら知るんじゃなかったって、話を聞いてる途中何度も思いました。けど・・・」

 

 けれど、彼女は涙を拭いながら、赤い目をして小城へと微笑んだ。

 

「けど、知らないままでいたら私は『宗像今日子』という女性のことを、母のことを何も知らないままでした」

 

 そう言ってさつきは自分と同じくらい辛い顔をした小城に駆け寄って、その手に感謝を込めるように握った。

 

「だから後悔だけじゃないんです。

 後悔だけじゃないから、私は知ってよかった。知って、よかったんです」

 

 まっすぐと小城を見て告げる彼女の目に陰りも、偽りも見られなかった。

 

「だから、小城さんもそんな顔しないでください。

 私は小城さんを紹介してくれたるい子ちゃんにも、依頼を全部遂行してくれた上にこんなにも気に掛けてくれる事務所の皆さんにとっても感謝してるんですから。

 私を守ってくれたことも、魔神具を見つけてくださったことも・・・ そして、本当の宗像今日子()を見つけてくださってありがとうございます」

 

 そう言って彼女は小城の手を取ったまま、深く頭を下げた。

 

「・・・さつきくん、君はこれからどうする?」

 

「そうですね、とりあえず東京に戻ろうと思います。

 高校を卒業して、行けるなら大学にも行って・・・ 先のことはわからないですけど、父が奉納しないで研究するのなら私は宗像の相続の一切を放棄するんじゃないかな。将来的にはどうであれ、今は父と村西さんの傍にいることは出来ません」

 

(うーん、娘からもこの程度の信頼度。

 まぁでもあんな話しがあった直後なら当然と言えば当然、か)

 

「金田一くんから聞いてますよ、小城さんは出来るだけ泊まらずに帰りたいんですよね? 

 私もご一緒してもいいですか?」

 

「勿論いいとも。

 これからも何か困ったら頼ってくれていいからね、舘羽くんはすっかり君を可愛い妹だと思っているようだから存分に甘えてあげてほしい」

 

「ありがとうございます。

 私、幼い頃は銅鐸の館にいた親戚のお姉さん達にもよく遊んでもらったからなんだか懐かしくて・・・ お姉ちゃんに甘えるのは本当に久しぶりで、とっても嬉しかったんです」

 

「舘羽くんがそれを聞いたら、嬉しくてこれまで以上に甘やかそうとするだろうね」

 

 小城が冗談めかしにそういえば、さつきがクスクスと笑う。

 

「帰ったら、るい子ちゃんにちゃんとお礼しなきゃなぁ。

 こんな素敵な人達に会わせてくれたんだもん」

 

「あぁ、そうだね」

 

 さつきの言葉に思い浮かんだことを小城は一瞬口にするのを躊躇ったが、目の前にいたさつきの『どうかしたんですか?』という視線に気づいて、穏やかな目で見つめ返した。

 

「実はねさつきくん、君の依頼を受けて今日子さんの友人や知人をあたっていく中で、彼女の安否を心配する友人が多くいたんだよ」

 

「えっ・・・」

 

「今日子さんは確かに伴侶には恵まれなかったかもしれないけれど、二十年近く音信不通となっても気に掛けてくれるような良き友人がいた。

 やっぱり君と今日子さんは・・・ よく似ているね」

 

「えぇ、親子ですから」

 

 そう口にする彼女は宗像今日子の娘であることを心底誇らしげに胸を張って、とても嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 さつきと共に七鏡の館へと戻れば、金田一と美雪、佐木兄弟が玄関の前で待っていた。

 

「所長、宗像先輩とどこ行ってたんすかぁ~?」

 

「少なくとも金田一くんが思ってるようなことは何もないかな」

 

「いや、年頃の女の人を前にしてそういうことを欠片も思わないのもどーなんすか?

 所長、男として機能してます?」

 

「は・じ・め・ちゃ・ん?

 小城さんははじめちゃんと違って優しくて誠実なんだから、女の人を見たからってそんな気持ちになったりしないだけでしょ!」

 

 いつも通り美雪によって金田一に教育的指導が入り、小城も笑って無視する。

 

「でも本当に心配したんですよ、宗像先輩が泣きながら飛び出しちゃったの。

 その・・・ どんなお話をしたのかはわかりませんけど、大丈夫ですか? 宗像先輩」

 

「うん、もう大丈夫。ありがとうね、美雪ちゃん。

 さっ、暗くなる前にさっさと帰りましょ。せっかくの長期休暇だもの、こんな田舎で過ごさないで東京に帰って皆でショッピングとかしましょうよ」

 

「えっ、もう帰っちゃうんですか?」

 

「いいんですか? 宗像先輩。久しぶりの帰省なのに」

 

 佐木兄弟が問えば、さつきはやんわりと首を振った。

 

「いいのよ。

 父さんの手伝いも終わったし、これ以上はどうせ他の探ってない遺跡の発掘や論文をまとめる作業に入るでしょうから、私達がいても邪魔だもの」

 

 そう言って館の中に入り、まっすぐ二階の自室へと進むさつきの後を美雪や佐木兄弟が追いかけていく。

 

「所長、今回俺にもなーんか隠してません?」

 

「そうだね、言ってなかった。

 ガチで呪われてる魔神具を当主である宗像氏は、娘であるさつきくんの意を汲まずに研究資料にしようとしているよ」

 

「えっ!? マジっすか! だって、小城さんが来てからずっと顔を青くしてる原因すよねソレ。

 つーか、だからさっきから徹さん達帰る準備してたんすね・・・」

 

「だから呪いの巻き添えを食う前に帰るよ、研究資料ともなればもはやそれは宗像の所有とも言い難いしね。

 僕は来てからずっとマガドリ様があちこちにちらついてて、即刻帰りたい」

 

「いや、それってどういう意味っすか!? マガドリ様、ガチで見ちゃってんすか!?」

 

(ヤバいよヤバいよ、マガドリ様ガチでご機嫌斜めだよ。私達は奉納するように言いましたし、危険だって言いましたからね!)

 

 二階の客間に戻って徹達と合流し、それぞれが荷物を持ったことを確認しながら小城は頷く。

 廊下の途中で会った九十九さんも暗い顔をしながらも、『お帰りですか?』と尋ねてきたので頷けば、『さつきお嬢様をお願いします』と返してきたので全てかはわからないが彼女もある程度は事情を説明されたのだろう。

 

「おや小城さん、おかえりですか?」

 

「えぇ国守教授、依頼は無事終わりましたし、東京に仕事を残していまして」

 

「さつきさんもですか。

 久しぶりの帰省ですし、もう少し居ればいいのに」

 

「いえ、これ以上父の傍にいても役に立ちませんし、もう東京に帰ると決めたので」

 

 その笑顔を向けられた鳥野辺は二の句を告げることも出来ず、呆気にとられたような顔をして固まってしまう。

 

「それじゃあさようなら、鳥野辺さん」

 

 さつき自身意図はしていないのだろうが、その見事な振りっぷりに舘羽はおもわず口笛を吹いて讃え、金田一と佐木兄弟はどことなく顔を青くする。

 七鏡の館を出た直後、さつきが一度だけ振り返り、二階の窓を見上げた。

 そこにはもうベールをかぶった宗像今日子はおらず、一度だけ目を閉じてからほんの小さな声で呟いた。

 

「さよなら、お母様」

 

「せんぱーい、どうかしましたかー?」

 

「ううん、なんでもないの。すぐ行くわ」

 

 そう言って駆け出した彼女は、もう館を振り返ることはなかった。

 

 

 

 

「おっ、もう帰るのかよ。トレジャーハンターの小城さんよ」

 

 館から村と下界を繋げるトンネルまで歩いている途中で、一度住居にしている矛の住居に戻っていたらしい江戸川と会い、小城は勢いよくその肩に両手を置いて詰め寄った。

 

「江戸川さん!」

 

「お、おい、なんだよ」

 

「あなたが一番無関係且つ魔神具に興味なさそうだからはっきりと言っておきます。

 このまま魔神具は研究対象になどはせず、大人しく奉納し、マガドリ様へと返還するようきつく言ってください。それでも無理ならあなた方だけでも村を出ることをお勧めします」

 

「お、おう。

 けど、あんなものは他の出土品と同じじゃ・・・」

 

「魔神具にまつわる話の数々はあなたもご存知でしょう?

 もはや偶然で片付けられないような出来事が魔神具の周りでは起き、多くの人間の人生を狂わせてきた。

 トレジャーハンターや探偵をやっていると認めたくなかった物すらそうしたことがあると認めざるを得なくなるんです。そこの事件ホイホイが実在してしまったように」

 

「ちょっ!? 余裕がないからって酷くないっすか!?」

 

 前から指さされた金田一が飛び上がって大袈裟な反応をするが、江戸川は小城の勢いに押されたように頷く。

 

「わ、わかった。

 俺としても見つかるまでの過程に興味があっただけで、これ以上遺跡にかかわるつもりはなかったからな」

 

「それは何よりです。

 あと、港屋夫妻とあの学生二人にもお伝えしてくださると助かります」

 

「おうわかった、港屋さんにも伝えておこう。

 まぁあの人は資料にするって聞いた時点で酷く怯えてたから、大丈夫だとは思うけどな」

 

「伝えましたからね!? それじゃぁさようならお元気で!

 さぁ皆、言うべきことは言ったし帰ろう! 狩谷と僕が先頭を切るよ」

 

 そう言って身を翻した小城に江戸川は完全に置いてきぼりにされ、女性陣は軽くお辞儀をして去っていく。

 

「所長、大丈夫ですよ。

 行きに見た感じじゃ、あのトンネルは意図的に壊さない限りは崩れたりしませんから」

 

「狩谷が言うなら間違いない! 幼少期の洞窟暮らしは伊達じゃない!」

 

「ちょっ、今とんでもない過去暴露されませんでした!?」

 

「気のせい気のせい!

 途中サービスエリアに寄って食事をするから、何を食べたいか言いあいながらトンネルを抜けようか」

 

「話の切り替えが不自然すぎる!」

 

 そんな風にワイワイ言いあいながら一行は無事トンネルを抜け、片道十時間滞在半日以下で磨陣村を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 無事東京についた時には深夜一時となっており、とりあえず翌朝に家に送り届けることにし、事務所の仮眠室にある二段ベッド四つに小城以外の全員を寝かせた。

 仮眠はソファを使うことにしたが、小城はその前に事務所に置いてある神棚に置かれていた前の物と交換でサービスエリアにて購入した清酒とおにぎりをお供えし、手を合わせる。

(皆、無事に戻ることが出来ました。

 つまらないものではありますが、どうかお納めください)

 祈りというよりも感謝だが、それだけを無事に終わらせて小城はあっけなく夢の世界に旅立った。

 

 

 

 次の日・・・ というか眠ってからおおよそ五時間後に小城を起こしたのは、出勤してきた揚羽の物音だった。

 

「申し訳ありません、所長。起こしてしまいましたよね」

 

「いや、いいんだ。

 留守の間、君に鍵のスペアを渡したのは僕なんだから」

 

「紅茶、淹れますね」

 

「ありがとう、いただくよ」

 

 揚羽と共に温かい紅茶を飲みながら、磨陣村を強行軍で帰ってきたことを話したり、昨日今日のカフェの様子を聞いていれば、仮眠室から他の皆も起きてきて、狩谷はそのまま一度帰っていった。

 揚羽が皆にお茶を淹れ、買っておいたパンやおにぎりで朝食を済ませて人心地つけば美雪とさつき、佐木兄弟を送るために徹が出ていき、舘羽はもうしばらく寝ると言って仮眠室へと消えてった。

 

「さーて、俺も今日は帰ろっかな」

 

 と言って金田一も立ち上がれば、何かに気づいたらしく滅多に近寄らない神棚を覗き込んだ。

 

「所長、神棚のお酒とお皿空っぽになってますけど、昨日お腹すきすぎて食べちゃったりしました?

 揚羽さんとか所長が、毎日何かしらのっけてますよね?」

 

「ハハッ、君じゃあるま、いし?!」

 

 金田一の口から飛び出た言葉に小城が固まり、静かに立ち上がって神棚の様子を確認する。

 

「ねぇ金田一くん、怖い話してもいいかな?」

 

「なんかもうそれだけでうっすらわかっちゃったっすけど、どうぞ」

 

「僕は昨日寝る直前この神棚に、サービスエリアで買った清酒とおにぎりを置いたんだよ」

 

 それだけで金田一が完全に意味を理解し、固まる。

 

「もー、所長ってば食いしん坊さん。神棚にお供えした物を夜食に食べちゃダメでしょ?」

 

「してないから」

 

「眠すぎて記憶ないとか、働きすぎだぞ☆」

 

「いや、してないから」

 

 現実逃避気味に保育士が子どもに言って聞かせるような言い方をする金田一に、小城は現実を見ろとばかりに盗み食い疑惑を否定する。

 その時、窓に一羽の烏が降り立ち、数度窓を叩いてから窓のところに何かを置いて去っていった。揚羽が羽根と共に置いて行かれたそれを拾い、小城へと持ってくる。

 

「所長、烏がこれを置いて行ったのですが」

 

「・・・金田一くん、トレジャーハンターをやってるとね。時として推理や物理法則では説明が出来ないような、不思議なことが起こったりするんだよ」

 

「なんでそれ、今のタイミングで言いました?」

 

 揚羽から受け取ったコインのような物に彫られているのは、魔神具とそれらを包むように羽を広げた一羽の烏。

 しかもそのコインはどう見ても魔神具のような銅ではなく金で、遺跡の中に埋もれていたというには不自然なほど磨き抜かれたような光沢があった。

 昨日の今日というタイミング且つどう見てもマガドリ関連であることを示すデザインのコインに二人は嫌な汗が止まらない。

 

「・・・向こうの魔神具がどうされてるかはわからないけど、せめてこれだけでも奉ろうか」

 

「所長、神社の伝手まであるんすか?」

 

「あるにはあるけど、そんなことしたらマガドリ様関連ってばれて宗像氏が来そうだからしないよ。

 今後、場所を見つけるなりにして、当面はウチの神棚で勘弁してもらおう」

 

「うす、手伝います」

 

 そうして二人は速やかに綺麗な布でコインを包んでから神棚へと納め、金田一にコンビニへと走ってもらってもう一度お供えをしたのだった。

 

 





(上)の後書きにて書いた私が救いたかった、賛否の分かれる人物。それは宗像今日子でした。
もう死んでいる彼女を救うことなど出来ないことを承知で、『彼女を悼む存在がいる』という形で救いたかった。そうすることでしか救えなかった。

勿論、さつき先輩も救いたかった。
『魔神村遺跡殺人事件』は、確かに起こらなかった。
でも、事件が起こらなくても、さつき先輩を救いきることが出来なかった。

救うって、本当に難しい。
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