三本セットのラストー。
次はがっつり事件回じゃないかも、まぁ多少は語るかもですが。
「千家くんに告白されてから、私はいつもの定期検診に行ったの。
まぁ余命も宣告されてたし、実際はもうほとんど行く必要はなかったんだけど・・・ 両親や千家くんが、どうしてもって言うから何度か行ってたの」
本人はもう全てを受け入れている以上、医者どころか薬すらもお金がかかるだけというのが透けて見える言動に美雪が悲しそうな顔をする。
「それは、そうですよ」
「うん、わかってる。
それにそのおかげで小城さんに会えて、今こうして生きていられるんだもの。両親にも、千家くんにも、勿論小城さんにもいくら感謝しても足りないよ」
「・・・通っていた病院の名前を聞いてもかまわないかしら?」
るい子が神妙な顔で聞けば、利緒はパッと手を開いて笑った。
「聞かれても、その病院はもうなくなっちゃったよ」
「なくなった?
まさか不正や不祥事、挙句に患者を実験台にしてたとかいう噂まであった萬屋総合病院?」
「そう、私はそこに通ってた患者の一人なの」
あっけらかんと言われた事実に、場には再び沈黙が訪れた。
たとえ自分と幼馴染がしょっちゅう事件に巻き込まれたり、好奇心のままに探偵の捜査に同行した末に目の前で殺人事件が起きかけたり、一族の掟に従おうとしたらとんでもない事実を知ることとなった面々であっても、ニュースにもなった病院の不祥事に関わった上に完全かつ純粋な被害者を目の前にすると驚くらしい。
「アハハ、まぁ驚いちゃうよね。私も自分のことじゃなかったら絶対驚くもん」
「笑い事じゃないですよ! 大丈夫だったんですか!?」
「うーん・・・ 正直、全然大丈夫じゃなかったみたい」
心配そうに問う美雪に対しこれまたあっけらかんと笑いながら答える利緒に、全員が内心で『笑い事じゃないから!?』と思ったが彼女はさらに言葉を続けた。
「これは後から知ったんだけど、私だけじゃなくて結構な数の患者さんがそこに勤めてたお医者さんの実験台みたいに扱われてたんだって」
ニュースにもなった大きな病院においての不祥事、医療への不信は勿論医療従事者への信頼問題なども併発した結果、医療業界のあちこちに亀裂を入れまくった。
あらゆる意味で大迷惑な事件であり、大ニュースだったのだ。
「小城さんはある人に頼まれてあの病院で一時的に心理カウンセラー?っていう、患者さんの不安やご家族の悩み、いろいろな話を聞く仕事をしてたの」
「・・・私の事件の時も思っていたけど、小城さんは医療関係者の知り合いでもいるのかしら?
何か知ってる? 美雪さん」
「えぇ、どうして私に聞くんですか? るい子先輩」
「金田一くんがアルバイトをしているから、私達よりは内情に詳しいと思ったからよ」
至極当然だとばかりなるい子に美雪は手を振って否定する。
「私はここでアルバイトしてませんし、はじめちゃんほどこの事務所に入り浸ってるわけじゃないですよ。
確かに揚羽さん達や麗美ちゃん達とは仲良くしてますけど・・・ 小城さんが探偵でトレジャーハンターで、それとは別のことでお金を稼いでるってことぐらいしか知らないです」
「そう考えると、小城さんって謎が多いままよね。私達、かなり助けられてるのに・・・
あ、ごめんなさい。利緒さん、話を続けて?」
三人が小城について考えかけるが、利緒も同じように感じているのか同意するように頷いていた。
「気にしないで、私も小城さんが探偵さんだって知って驚いたもん。
と言ってもその時は小城さんも休憩中だったみたいで、自販機で紅茶を買ってたところだったの。私と千家くんが並んで歩いてたところ見て目を丸くしちゃって、どうしてかな?って話をしてみたら、金田一くんから千家くんの話を聞いてたから一方的に知ってたみたい」
千家のことを知っていた小城はまだ若い二人が病院に来ていることを気に掛け、おもわず声をかけてしまったこと。そして、気休めにしかならないかもしれないが少し話をしないかと誘われ、そのまま相談をさせてもらったこと。
「小城さんは黙って私と千家くんの話を聞いてくれて、少し考えた後にこう言ったの」
「・・・もしよければ、僕の知り合いの病院で一度検査を受けてみないかい?」
「えっ?」
「いいんですか!」
戸惑う利緒をよそに、彼女が助かる可能性が欠片でもあるかもしれないと思った千家は立ち上がった。
「僕自身は医療従事者ではないし、ましてや医師の資格など持っていないのではっきりと明言は出来ない。けれど、他の病院で別の医師から見解を貰ったり、そこから治療の幅が広がる可能性は大いにあるよ。
勿論、今日出会ったばかりの僕を信じろなんて言えないし無理にとは「お願いします! 欠片でも彼女が助かる可能性があるっていうならどうか! どうか利緒を! 利緒を助けてください!! そのためなら俺、なんだってしますから!」
立ち上がったかと思えば千家はその場で小城に向かって土下座をし、された側の小城も、結果的に自分のためにさせてしまっている利緒も慌てて止めに入る。
「せ、千家くん、そんなことしなくていいから頭をあげて!」
「そんなことなんかじゃない! 今の俺に、利緒より大事なことなんかあるはずない!」
「千家くん・・・」
どこまでも力強く叫ぶ千家の言葉に利緒が瞳を潤ませ、小城はその光景を酷く眩しそうに眺めて、優しい声で告げた。
「千家くん、どうか頭をあげてほしい」
「小城さん・・・」
「これは僕の、ただのお節介なんだ」
「お節介なんて・・・ これはその程度のことじゃないですよ。いくら頭を下げたって足りない、俺からお願いしたいくらい必死なことなんです」
「あぁ、わかっているとも。
是非、君達に僕の知り合いを紹介させてほしい。勿論、お金の心配なんてしないでいい。必要な手続きも可能な限り僕が済ませるし、利緒ちゃんのご両親にも僕が説明しよう」
全てを任せてほしいと伝えてくる小城に、利緒はかえって困惑してしまう。
「そんな・・・ 本当にどうして、今日初めて会ったばかりの私達によくしてくれるんですか?」
「うーん、この仕事をしているから『君達だけが特別』と言ってはいけないんだけど・・・
そうだね、もしそう見えるなら僕には生きていたら君達と同じくらいの妹がいたんだ。だからかな? 君達の年頃の子を見ると放っておけないんだよ」
どこか悲しそうに、しかし確かな優しさを向けてくる小城の目は、二人に『幸せになってほしい』と語っていた。
「利緒ちゃん、君がさっき言った通り今さっき出会ったばかりの僕の話す全てを『信じてほしい』なんて言えない。けれど、君がまだ未来を諦めていないというのなら僕に助けを求めてくれないかい?
そうしたら僕は僕が持てる人脈や情報を行使して、全力を以て君を助ける。
君の未来を、君が考えているよりもずっとずっと先に行けるように。
少しでも君が、君のことをこんなにも大切にする彼と笑っていられる時間を守らせてほしい」
その後、小城の紹介によって病院を替えた利緒は様々な検査をされ、手術や入院はあったものの先週ついに継続的な治療としての通院が終わったので、その報告をしたくて小城と会う約束をしたらしい。
「それならそうと早く言ってください! 利緒さん!」
「そうよ、そんなおめでたいことならケーキを注文する前に言ってくれなきゃ。
今から・・・ ううん、今度改めて快気祝いをさせて」
「二人とも、大袈裟だってば。それに今日会ったばかりの私に「でも、あなたはその日に会った小城さんを信じたんでしょう?」
『今日会ったばかり』を理由に断ろうとした利緒の言葉尻を捕まえて、るい子は楽しそうに笑った。
「それはそうだけど、お祝いなんて悪いわ」
「まずはあなたの今日の会計は私達が持つわね」
「いいえ、お店の奢りにさせて頂戴」
突然降ってきた言葉に四人全員が視線を向けると、そこにはカフェの主人である緑が優しい笑顔でお冷のおかわりを持ってきていた。
「勿論、友達を大切にする素敵なあなた達の分も、ね」
「緑さんまで、悪いですってば」
「嬉しいことは皆でお祝いしましょう。
それにあなたが元気になったことをお祝いしたいのは、ここにいる子達だけじゃないわ。舘羽達も、麗美ちゃんや麗晶ちゃんもきっとお祝いしたがるでしょうね」
指折り数えていく緑に利緒が照れくささで赤くさせ、顔を隠すように突っ伏した。
「うぅ・・・ 嬉しいけど、申し訳ないですよぉ。
小城さんにはたくさん助けてもらってるのに、そこからここでたくさんの人と知り合って良くして貰っちゃってるんだもん」
そこでカフェに人が入ってきて、自然と皆がそちらに視線を向けると話に出てきた小城の姿があった。
「やぁ利緒ちゃん、るりちゃんから連絡を貰ったからカフェに降りてきたよ」
「小城さん、お久し振りです。
ごめんなさい。お時間を頂いてるのに、わざわざカフェに降りてきてもらっちゃって」
慌てて立ち上がろうとする利緒に『気にしなくていいし、座ったままでいいよ』と声をかけつつ手で制しながら、席を共にする三人に気づいて微笑んだ。
「けど、女子会をしているようだからもう少し上で待っていた方が良いかな?
緑さん、四人の会計はあとで僕に渡してください」
「小城さんまで!?
いいですいいです! 私これでも社会人ですから!」
「若者は、社会人の先輩に甘えなさい」
そのまますぐにカフェから出ようとする小城を、るい子が止めた。
「小城さん、事務所にすぐに戻らないといけない用事がないなら私達のお茶会に付き合ってくださらない?」
「こんなおじさんが入ったら、女の子同士の話も出来なくなったりしないかい?」
「いいえ、むしろ利緒さんの話を聞いたら、小城さんからもお話を伺いたくなったの」
次に続いた言葉に小城がいろいろと納得し、少し困ったように笑う。
「というか、小城さんは全然おじさんじゃないですよ。
聞き上手で、いろいろと気遣いもしてくれて、面倒見もいい・・・ なんだか親戚のお兄さんみたい」
「あっ、それわかります。
はじめちゃんと話してる時とか、他の所員の皆さんとのやり取りも上司と部下っていうよりも『皆のお兄さん』みたいに見えますよね」
さつきの言葉に美雪が同意すれば小城はまた困ったように笑って、同席するかを迷っていれば、ふいに手を引かれた。
「お客様、お席にどうぞ」
引かれた手へと視線を向ければ、そこには笑顔で小城を四人の席へと連れて行こうとするるりの姿。
「るりちゃん」
「ご注文はいつもの紅茶と・・・ ケーキはどれになさいますか?」
「うーん、どれも美味しいから迷っちゃうな。
るりちゃんのお勧めはなんだい?」
目線を合わせて尋ねれば、るりも少し考える素振りをしてからショーケースをちらっと見てから答える。
「どのケーキも美味しいですけど、今日のお勧めはタルトタタン。
甘く煮たリンゴとサクサクのタルト生地が、小城さんのお好きな紅茶によく合うと思います」
「僕の好きな紅茶に合わせてお勧めしてくれるなんて、流石舘羽くんと揚羽くんの妹だね。
店員さんとしては、もう二人にだって負けないくらい一流だ」
「あ、ありがとうございます・・・」
るりに導かれて四人の席へと新しい椅子を足して腰かければ、るい子がずいっと前に出てきた。
「利緒さんに聞いたわ、小城さん。
萬屋総合病院の事件、あなたが裏で動いていたのね」
「人聞きが悪いなぁ。
それに僕は直接的には不祥事の摘発には動いてないよ、病院関係者に頼まれて少しの間心理カウンセラーもどきになってただけさ」
誤魔化すように言葉を濁せば、るい子は楽しそうに笑っていた。
「物は言いようね。人の不安や悩みを聞くカウンセラーなんて自然と情報が集まってきて、それは患者に限らず医療従事者の話も聞きやすい仕事。フフフ、まさに小城さんの仕事にはうってつけの隠れ蓑だわ。
本当に頭が良くて、魅力的な男性・・・ 女としての本能だけじゃなく、自分には存在しないと思っていた乙女心にまで火がついてしまいそう」
「? るい子さんって、もしかして小城さんを狙ってたりするの?」
この中でも特に純粋な利緒が不思議そうに首を傾げれば、美雪が手を振って否定する。
「違いますよ、利緒さん。
るい子先輩は頭が良ければ、誰にでも思わせぶりなことを言ってるだけです」
「そうそう。
それにるい子ちゃんが好きな『頭のいい男性』なんて制限をかけてるから、未だに彼氏が出来たことがないのよね」
さっきの仕返しとばかりにさつきが美雪の発言に乗っかれば、当のるい子は気にした様子もなく微笑んだ。
「そうね。
でも最近は、小城さんを筆頭にここの事務所の方がとても魅力的だと思っているわよ。勿論、金田一くんもね」
「えっ」 「うわぁ」
「せ、千家くんは駄目だよ!」
二人よりも早く慌てた様子で利緒が叫ぶ。
が、自分が思っていた以上の大きな声になってたらしく、当の本人は羞恥で顔を真っ赤に染めあげていく。
「あらあら、可愛らしい。
心配しないで、利緒さん。あなたの素敵な恋人さんに手を出したりはしないから。
さっきの惚気話を聞いたら、あなた達二人の間に入る隙間なんてあるとは思わないもの」
そこまで言ってるい子はチラリと美雪へと視線を向ける。
「どこかの素直になれない幼馴染さんと違ってね」
「だ、誰のことですか!?」
「返事をするくらいには自覚があるようで何よりだわ、美雪さん」
「金田一くん、かぁ。
千家くんもよく話してくれるけど、素敵な男の子だよね」
「利緒さんもそう思う?
明るくて、楽しくて、でも意外と気遣い屋さんで・・・ 金田一くんってとっても魅力的よね」
「さつき先輩まで!? だ、駄目ですからね!? はじめちゃんには恋愛なんてまだ早いです!」
慌てる美雪はもはや自分でも言ってることがわからなくなってきてるのか、目を回して混乱しているようにすら見える。
四人のそんな楽し気な会話を聞いて、小城がおもわず声をあげて笑いだす。
「こ、小城さん! 笑ってないで、助けてください!」
「ごめんごめん。フフッ。
そっか、そっか。金田一くんに恋愛はまだ早いのか、ハハハハ!」
珍しくツボに入ったのか、無邪気な顔をして笑う小城を見て、他の三人も驚くがすぐにつられるように笑いの輪が広がっていく。
「もうっ! そんなに笑わないで、皆!」
そこで小城の紅茶とケーキが到着し、紅茶とケーキを楽しむ間にどうにか笑いを治めてから、小城は優しい顔で利緒へと視線を向けた。
「利緒ちゃん、今こうして辿り着いてる未来は君が想像していたものより素敵なものになったかい?」
「えぇ、とっても!
私が想像していたよりもずっと楽しくて、賑やかで、幸せです!」
小城の問いかけに、利緒は満面の笑みと共に一切の迷いもなく強く頷いた。
「それは何よりだ。
それなら預かっていたこれを、君に返そうか」
そう言って小城が鞄から出したのは『Diary』と表紙に書かれた、丁寧な装丁が成された一冊の本。そしてその下にはもう一冊重ねられており、『10』という数字と何か文字が書かれた表紙の真新しい本を利緒へと手渡した。
「これは君の快気祝いに、僕からの贈り物だよ」
「知ってたんですね、小城さん」
「千家くんが物凄く嬉しそうな顔して、事務所に飛び込んできたからね。
そのうち舘羽くん達からもお祝いが届くと思うから、心の準備をしておくといい」
浮かれた千家の姿を思い出したのか、小城はクスクスと笑いながら、他の所員からのお祝い爆撃も宣告しておく。
「本当におめでとう。君は誰かが押し付けた運命にも、病気にも打ち勝った。
この十年日記は、これからの楽しい日々を残すのに使ってくれると嬉しいかな」
二冊の日記帳を受け取りながら、どちらの日記も大切そうに抱きしめた。
「小城さん、本当に・・・ 本当にありがとうございます。
大切に使わせてもらいますね」
利緒の言葉に満足そうに頷いてから小城は席から立ち上がり、しれっと伝票を回収しながら事務所へと戻っていった。
その姿を見届けて、空気を読んで静かになっていた三人がもう一冊の日記帳が気になるとばかりに視線を向けていた。そんな三人の姿に利緒はまたクスリと笑う。
「もー、そんな顔しなくてもこの日記についても話すってば。
でも、この日記について聞くんだったら、私の惚気もたーくさん聞くことになるから覚悟してね?」
幸せそうな笑顔で語る彼女は今、あのままだったら出会うこともなかった友達を得て、自分の想像をはるかに超えた未来の中にいるのだ。
マメ知識というか、雑学というか、補足に近いですが
心理カウンセラーは2026年現在『公認心理士』という国家資格も、民間資格もありますが、資格がなくとも仕事としては従事することが可能です。ただこれはごくごく近年・・・2017年に生まれた資格になります。
ただ心理カウンセラーの上位資格『臨床心理士』は1988年には存在しておりました。
『それなら資格って必要?』って思われる方もいるでしょうが、『資格がある』=『ある一定の知識があることを認められている』という保障・安心材料となるので持ってた方がより働きやすいです。
という説明はさておいて、利緒ちゃんが幸せになって余は満足じゃ・・・
さーて、ちょっとおふざけ回書こうかなー。