小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

サブタイ詐欺かも? まぁでも泣いてはいるから詐欺じゃない、か?
前話の事件の前・・・ 天草財宝伝説殺人事件のその後、とだけ。


次の事件はなんだろな? 書き出し出来てるから次の事件は決まってますが。
他にも書きたい事件がいっぱいで困る。


いつきの涙

 いつものように退屈な学校を終えて、金田一はアルバイト先である探偵事務所へと数回ノックをしてから飛び込んでいく。

 

「お疲れ様でーす! 金田一 一、今日も元気に出勤しました!」

 

 軽いノリと敬礼をしながら入れば、元気ではないものの優しさと親しみを込められたいつもの挨拶はかえってこず、事務所の床に滂沱の涙を流してピクリと動かぬ成人男性の姿があった。

 

「しょ、所長、これってどういう状況ですか・・・!」

 

 わざとらしいほどの戸惑いを見せながら金田一は床に蹲る男性へと駆けよれば、その男性はつい最近事務所を訪れたばかりのフリーライターのいつきだった。

 

「なんで、なんでいつきさんが床に這いつくばって泣いてるのに、放っておいてるんですか!

 答えてくださいよ! 所長!!」

 

 『お前、演劇部だっけ?』と思うほどの金田一の怒鳴り声に似た言葉にもいつきの一番傍にいる所長である小城が困った顔をするだけで、今日は非番である千家を除いた男性陣は呆れ切った表情を向け、舘羽に至っては軽蔑せんばかりの冷めた視線で睨み、事務所の良心である揚羽ですら困惑の表情で床に這いつくばるいつきを見下ろしていた。

 

「俺は、俺はこんないつきさんを放っておけない!

 この謎は俺が解いてみせる! ジッチャンの名にかけて!」

 

 

 

「いや、こんなことに名前かけられたらおじいさんが泣くからやめなさい」

 

「所長、突っ込んじゃ駄目ですよ。

 床に這いつくばってる愚か者も、役になりきってるアホにも、今は何を言っても無駄です」

 

「ハハハ、金田一くんは本当に見てて飽きないですね」

 

 そんな事務所の上層部の面々の言葉を聞こえないふりをして、金田一は続ける。

 

 

 

 そして、いつきの周囲をぐるりと一周し、IQ180越えの金田一の脳裏に先日の光景が次々と駆け抜けていく。

 いつきさんの涙の理由、何故彼が事務所の床に突っ伏しているのか、そして、誰がやったのか?

 その謎を前に、金田一は力強く宣言する。

 

「いつきさんと恋人である最上さんがよりを戻すのを失敗させ、ショック死させた人物。

 そう、『恋路粉砕者(ラブクラッシャー)』はこの中にいる!」

 

 

 

「ら、ラブクラッシャーとか・・・! く、くそっだっせぇ・・・!!」

 

「檜山、あんたの馬鹿力で机壊したら給料から差っ引くわよ。大体、中学生とか高校生のネーミングセンスなんて皆あんなもんでしょ。

 大方アンタも、突かれたら痛いような思い出が一つや二つあるんでしょ?」

 

 檜山が机に突っ伏しながら右手でバンバンと景気よく叩いているのを見て、舘羽の注意が飛び、ついでに遠回しに『あんたも金田一くんとそう変わんないでしょ?』と告げられる。

 

「いや、あること前提で話すんじゃねぇよ!

 俺はあんなクソだせぇネーミングしねぇよ!」

 

「そう? なら今度、麗美ちゃんに聞いてみよーっと」

 

「や・め・ろ!」

 

 檜山の態度に何かしらの黒歴史があることを確信し、ケラケラと舘羽は笑う。

 

 

 

 事務所の入り口に立つ金田一が、容疑者として事務所の面々を見渡していく。

 そこに居るのは

【不死蝶】 須賀徹。 【亡霊兵士】 檜山達之。

【巌窟王】 狩谷純。 【陰の脅迫者】 小城拓也。

【守り神でありながら荒神】 凶鳥の命(マガドリノミコト)

【不死蝶】の妹である須賀 舘羽、須賀 揚羽。

 何かが違えば犯人になっていた恐ろしくも、錚々たる人物の集団である。

(これ、漫画だったら顔写真みたいな一覧が出てるんだろうなぁ。

 しかしそれにしても・・・ 本当に何もしてないけど『何もしてない』とは言いにくい集団だよね)

 改めて犯人になっていたかもしれないこの面々の怪しさと能力の高さを感じながら、金田一のなんちゃって劇場を黙って聞くこととする。

 が、そんな金田一の背後で床に突っ伏していたいつきが唐突に立ち上がって、叫んだ。

 

「テメェだ、ボケェ!!」

 

 金田一の左足の上から自分の左足を引っ掛け固定し、右腕の脇をくぐるようにして頭を左腕で固定。手を組んでから金田一の体を後方へと反らすようにすれば、コブラツイストの完成である。

 

「ギブギブ! いつきさんコブラツイストはやめて、ギブギブギブ!!」

 

 かろうじて自由な右腕でいつきの体を叩くが、いつきが技を緩める様子はない。むしろより金田一の体を逸らして威力を強め、別名のアバラ折りの名の通りに痛めつけていく。

 

「お・ま・え・が! あの時余計なこと言わなきゃ、俺は今頃葉月とより戻して仲良くやれてたっつうのに!」

 

「いやいやいや! あれは完全にいつきさんの自業自得っしょ!

 あの事件の時にさゆりちゃんと一晩過ごしたって言ってたの、他らなぬいつきさんじゃないっすか!?」

 

「そいつはそうだが・・・! 何もあんなタイミングで言うことねーだろうが!」

 

 金田一の言葉に一瞬怯んだいつきが腕の力を緩ませた瞬間、かけられていた側の金田一もスルッと抜け、小城を壁にするようにサッと背中に隠れる。

 

「所長、俺を助けて!」

 

「そう言われてもね・・・ 前回同様、突然来たいつきさんが事情説明もそこそこに床に転がって泣き出したかと思ったら、君が出勤して推理劇場だよ?

 どうしたらいいのかわからないのは、むしろ僕の方さ」

 

「えっ? 事情知らないのに、なんで皆がいつきさんに向ける視線がこんなに冷たいんすか?

 いつもの皆なら、事務所で泣き出す人に寄り添ったり気遣ったりすんのに」

 

 両手をあげて困ったように肩を竦める小城に金田一が驚いてしまい、所内をキョロキョロと見渡した。

 

「再びのアポなし訪問、突然意味の分からないことを言って泣き叫ぶという行動、所長を困らせている現状。

 この三つのどれをとっても、他の依頼人のような対応をする必要性を感じさせない上に、プライベートで来てるならこの男はお客様ではない」

 

「ハハハ、徹さんは容赦がないなぁ」

 

「けど副所長の言ってることは間違っちゃいねぇだろ。

 舘羽は私怨かもしれねぇが」

 

「違うわよ。

 私は葉月さんからそこのアホがしたことを聞いてるから、普通に軽蔑してるだけよ」

 

「なっ!? だからちげーんだって、誤解なんだよ!」

 

 舘羽の言葉にいつきがぎょっとし、慌てて弁明するように情けない顔になる。

 

「ふぅん、そう。

 まぁ葉月さんも言ってたけど、付き合ってるわけでもない自分が幼馴染の男女関係に口出す権利もないし、仕方ないんでしょうけどね。でも、相手が女子高生で本当に手を出してたとしたら、仮に相手の同意があっても私なら引くわ~。

 他人の私でもそう思うんだから幼馴染なんて言うより近しい存在だった葉月さんがどう思うかなんて、人の言葉や行動に目を光らせてるライターさんならわかるんじゃない?」

 

 女性目線の容赦のない言葉にいつきの顔はどんどん情けない顔になり、しまいには涙目になっていく。

 

「金田一! お前はあの事件のこと知ってんだろ!

 ちゃんと説明してくれよ! ここでちゃんと説明出来たら、葉月に説明するのも手伝ってくれ!」

 

「いつきさん・・・ 金田一くんの一言で今の事態になってること忘れてませんか?

 とりあえず一旦落ち着いて、座ってお茶にしましょう」

 

 金田一に詰め寄ろうとしたいつきにストップをかけて応接机を指し示せば、小城の言葉と同時に揚羽がお茶とお菓子の準備に動いてくれる。

 

「拓也ぁ! やっぱり俺の味方はお前しかいねぇ!」

 

「いや、正直いつきさんは僕から見ても最上さんに相手をしてもらえないから女性関係に奔放に振る舞っているように見えるので、味方とは思われたくないんですが・・・」

 

「拓也あぁ! お前までそんなこと言うのかよおぉー!」

 

 再びおいおいと泣き出すいつきに、どうしたものやらと困った顔をするしかない小城の隣に金田一も座って、揚羽がすぐに出してくれた紅茶を一口飲む。

 

「それで金田一くん、君が言ってた女子高生のさゆりちゃんって一体誰なんだい?」

 

「あー・・・ えっと、俺が悲恋湖ってとこに行った時にある事件に出くわしちゃって、そん時に陸の孤島の状況に追い込まれちまいまして・・・」

 

 凄く言いづらそうに目を泳がせて、いつきの方をチラチラと見る。

(悲恋湖伝説殺人事件ーーーーー!? 徹達の一件があってから忙しくて、あのシスコンサイコキラーを調べるの完全に忘れてた! 待て、今あいつどうしてるんだ? 黒死蝶事件の時にどこからか斑目のところに行きついてたから・・・ いやでもそもそも遠野英治が深山日影って『その可能性が高い』ってだけで別に断定されてねーんだよなぁ!?)

 

 脳内で起こる混乱状態(パニック)が表に出ないように人を安心させるような笑顔を張り付けつつ、揚羽に入れてもらった紅茶で心の安寧を保つ。

 お茶請けにはフィナンシェが出され、紅茶の香りとフィナンシェの美味しさが癒しを運び、しれっといつきの隣で神棚にも供えられたフィナンシェをフォークでちまちま食べて美味しさに震えるマガドリ様の姿は見ないふりをする。

(うん、よかった。さっきの金田一のアホ劇場で犯人候補にあげられて怒ってなくて本当によかった・・・)

 マガドリ様がお供え物を食べて感動して震えてるのは日常風景になりつつあるためか、小城の感覚が麻痺しつつある。だが、そんな軽い現実逃避をしていても金田一の話は続いていく。

 

「んで、どいつもこいつも皆怪しいってことでアリバイを聞いた時、いつきさんがさゆりちゃんに腕を親し気に絡ませて『ベッドの中でずっと一緒にいた』って言ってたし、そのさゆりちゃんも他の人に揶揄われた時に否定しなかったんで、てっきりそういう関係になったのかと思ってたんすよ」

 

「・・・いつきさん、弁明をどうぞ」

 

「殺人が起こるような状況で怖くて心細いから傍に居てくれって頼まれただけなんだよ! 

 神に誓って手は出してねぇし、子どもに手を出したりなんかしてねぇよ! つうか手ぇ出したらそれこそ俺が仲間内で良いネタにされちまうっつうの!! その子だって歳の近い金田一やら狙ってたけど、あん時は七瀬くんが怪我してたからつきっきりになってやがったしよ!」

 

 いつきの弁明を受けても溜息をつくことしか出来ず、眉間に皺が寄りだす。

 

「つまり、その子と今は関係がないと?」

 

「ねーよ!」

 

「・・・一応聞きますが、それを証明する方法は?」

 

「あるわけねーだろうが!

 大体、事件で関わった人間となんか普通二度と会いたくなんかないだろ!」

 

 いつきが言うことは間違ってないだろうし、何とかしてやりたい気持ちもなくはないが、同じ男である小城や金田一がいつきの弁明に付き合っても信頼される可能性は高くないだろう。

 かといって女性である舘羽が今回の弁明をやってくれるかと言われれば、先ほどの態度を見るに厳しいものがある。

 

「というか最上さんにも言えますが、いつきさんももっと素直になったらいかがですか?

 何があったかは知りませんが、お二人は息があってる瞬間があるのにすぐに誤魔化すように口喧嘩みたいなことをするでしょう?

 それこそ金田一くんと美雪ちゃんみたいに子どもじゃないんですから、大人になってくださいよ・・・」

 

「でもよぉ、所長。

 横から口突っ込んで悪いが、好きな女がいるのに女に奔放なフリするとかアホじゃね?」

 

 小城が無難にまとめようとしたところで、黙って聞いていた檜山が口を挟んでくる。

(檜山!? せっかくうまくまとめようとしてるんだから余計なことを言うんじゃない!)

 怒鳴りたい衝動を押さえて威圧の笑顔を向ければ檜山は怯んだが、涼しい顔をした狩谷も同意するように頷く。

 

「で、よりを取り戻そうってことになって過去の行いに身を斬られるなんて、同じ男としても馬鹿としか言いようがないですよね」

 

「檜山、狩谷、そこに居るのは馬鹿だのアホなんて可愛いもんじゃない」

 

 檜山と狩谷の言葉を否定するのかと期待したが、聞こえてきた言葉がそんなもんじゃないと理解して、小城は天井を仰ぐ。

 

「そこに居るのは、ただの愚か者だ」

 

(檜山と狩谷はもう彼女絶対主義だからわかってたけど、マザコンシスコンなこいつ()がいつきさんを援護するようなことを言うわけがなかった・・・ 知ってた、うん知ってた・・・)

 が、言われっぱなしのいつきなわけがない。

 

「うるせぇ! お前らに何がわかるってんだ! 素直になれなかったことだってわかってるし、他の女に逃げてたってのもわかってるよ!

 だけどな! 俺は葉月以外の女なんか一度だって抱いたことなんかねぇよ!!」

 

 いつきの思わぬ発言に、場に沈黙が降りる。

 だが、その気まずい沈黙を壊すのはいつだって彼である。

 

「え? つまりいつきさんって、三十超えってるっつうのに童貞ってこと?」

 

 隣にいるのを最大限に利用して、小城は金田一の頭に手を伸ばして握力全開で握り締める。

 

「金田一くん、君の口がそんなだから今の事態を招いてる自覚はあるかい?」

 

「イダダダダダダ! 所長、ギブ! ギブギブ!

 つうか、所長ってかなり細身なのになんでそんな力持ちなんすか!?」

 

「トレジャーハンターは力が必要で、探偵も力があって困るもんじゃないんだよ。

 すいませんね、いつきさん。ウチのバイトの口がこんなに軽くて」

 

「い、いや、俺が自分で言っちまったし、葉月以外に手を出す気になれなかったのも事実だからよ・・・ 同じ男に笑われんのも、馬鹿にされんのも仕方ねぇんだよ。

 それに俺もこの歳だ、結婚してねーってだけで女をとっかえひっかえしてると思われてもしゃーねーし・・・ そりゃ葉月も愛想尽かすよな・・・」

 

(いや落ち込まれても困る・・・)

 本当になんと言っていいか困る小城に、所内で最大の舌打ちが響く。

 音の発信源である女性に全員が目を向ければ、そこには苛立ちを隠しもしない舘羽が何故か受話器をこちらに向けていた。

 

「た、舘羽くん・・・?」

 

「フリーライターのいつき陽介様にお電話です。

 お相手の名前は言わずと知れたあなたの大切な方ですので、どうぞお受け取りください」

 

 それは丁寧な言い方なのだが、誰にも否を言わさぬもので、応接椅子に座っていたいつきが慌てて受話器を受け取った。

 そこから始まるやり取りに見当がつき、小城は静かに全員にハンドサインを送る。

 

『男性所員はこの電話が終わるまで退室。

 僕は所長室に行くから、君達は資料室やトレーニングルームへ』

『了解』

『揚羽くん、手間をかけるけど電話を終えたら所長室にいる僕に声をかけてくれるかい?』

『承知しました』

 

 全員からの了承を確認してから小城は所長室に引っ込み、悲恋湖で起こった事件について、そしてその後の彼についての情報収集を開始した。

 

 






なんか流れでいつきにとんでもないこと言わせちゃったけど、ま、いっか☆彡
どうせ葉月さんへの態度見てる限り、あながち間違ってないし。

いつきと葉月さんが幼馴染だと認識すると、金田一と美雪を見守るくらいの気持ちになれるけど
二人とも三十歳という現実を理解すると、「高校生は微笑ましいけど、その年齢は笑えないぞ?」となる恐怖。
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