前後編で終わりにするつもりだったんですが、読み直したら『これじゃ説明足りてないな?』という判断から後日談を書くことにしました。
ただ後日談はまだ書きあがってないので、書き終わり次第投稿します。
で、その後日談の次の事件はあれかなぁっと目処が立ったのでどんどん書いていこうと思います。
警護対象だった高森ますみが男に襲われかけた日から一か月が経過し、キミサワブランドの社長 君沢ユリエからの感謝の印としての事務所全員での正式招待を受け、小城達は現在、長野にあるホテル『仏蘭西館』にいた。
本来なら所員のみの参加予定だったが、君沢からの『ブライダルコンペですから、是非パートナーがいらっしゃる方はご一緒に参加を』との申し出により、狩谷は麗晶と、檜山は麗美と、千家は利緒と共に参加。金田一は『べ、別に美雪とはそういう関係じゃねーし』とか言っていたが、ますみから直接渡されたチケットを渡す形で美雪も訪れている。
そして、パートナーはいないが『母とるりも連れていきます! 自費でも連れていきます!』と力強く言い放った徹には頭を抱えることになったが、そちらも恥と知りつつ詳細を君沢へと話せばホテルを丸ごと借りてのコンペなのが幸いし部屋を融通してもらうことが出来た。
今はコンペを前にして慌ただしい君沢らの傍に小城と徹、舘羽がつき、金田一や檜山は同伴している美雪と麗美と共に歳の近いますみの元で楽しく語り合っている。
「小城さん、お会いできて嬉しいわ。
本当なら私自ら事務所に足を運んでお礼をすべきだったのに・・・ 本当に申し訳ないわね」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます。
いえいえ君沢さん、大切なコンペの前でお忙しいことは鳥丸さんからお聞きしていたのでお気になさらずに」
「お礼はまた後日改めてさせていただくわ。
ナオコ! ハナエ! 鍵谷! ちょっと来なさい!」
互いに頭を下げあってから君沢は三人を呼び出し、呼ばれた三人も小城を見てパッと顔を明るくさせた。
「小城さん、お出迎え出来なくてごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらずに。
今回のコンペはレディス部門の大仕事ですからね、君沢さんの直弟子に等しい鳥丸さんが手を離せないことは素人の僕でもわかりますよ」
頭を下げようとする鳥丸を止めさせ、その隣に並ぶ花江に視線を向ければ嬉しそうに控え目に微笑んだ。
「小城さん、お久し振りです。お元気そうで・・・ いいえ、それよりもますみさんのこともありがとうございます」
「一生懸命やってるようだね、花江ちゃん。
僕は大したことはしてないよ、頑張ってね」
「はい、奈緒子さんと君沢先生の足を引っ張らないようにお手伝いさせてもらっています」
拳を握って張り切っている彼女を微笑ましく眺め、その隣にいる鍵谷が無遠慮に小城のスーツを上から下まで確認する。
「いやぁ、良い感じですね。そのスーツ。
ネクタイなしでもこうした場にも馴染むデザインとなるとなかなか難しかったけど、楽しい仕事をさせていただきましたよ」
「スーツの件、ありがとうございます。
おかげでこの場にいても違和感なくなじむことが出来て、助かっていますよ」
「いえいえ、こちらも楽しんでますので。
あなたの意見でまたメンズファッションの新しい道が開かれたんですから、むしろ広告塔としていろいろな場所に着ていってくれるとありがたい」
「えぇ、喜んで」
三人とのやり取りを終えたのを見計らって、君沢が告げる。
「小城さん、ここにいる間は何かあったらこの子達に言って頂戴」
「いや、鳥丸さん達はキミサワブランドの主戦力でしょう。
申し訳なくて出来ませんし、ホテルのスタッフの方に声をかけますよ」
「いいえ、リハーサルが行われてからはもう我々デザイナーの仕事なんてほとんどありませんもの。
それにキミサワブランドは、それだけの恩があなたにありますわ」
小城は肩を竦めることを答えとするが、デザイナー達も君沢に同意するように深く頷くので苦笑するしかない。
「こんな素晴らしいホテルに宿泊出来て豪華な食事つき、本来なら招待される機会などない二大ブランドのコンペに立ち会えて、事務所全員どころか同伴者まで無料なのにこれ以上求めるなんて罰が当たりますよ」
「あなたに罰を当てるような神なら、その神様は見る目がありませんわ」
「いいえ、僕ほど欲深くて、小狡くて、人に頼ってばかりな奴はそうはいません。
所員も、警察も、法律も・・・ それに今回の一件は、高森さんを守ろうとした鳥丸さんを始めとしたキミサワブランドの皆さんのお力あってのものです」
そうしていると突然背後から拍手が響き、小城が何事かと振り返ればそこには見事にスーツを着こなした金髪の好青年がパイプ煙草をもって親し気に小城に触れた。
が、小城はそこに居た人物に目をむき、驚愕する。
「メグレ伯爵、どうかなさいましたか?」
「ボンジュール! アンシャンテ、ムッシュ小城。
マダム君沢からあなたの活躍は聞いてマス。華々しい推理ではなく、多くの事件を事前に防ぎ、得た多くのものを
(本当にいるんだこんな
その胡散臭い仕事を生業としている上に、さらにトレジャーハンターみたいなバカみたいなことを兼業してる自分を棚上げしていると勝手に手をとられて固く握手される。
「いやぁ、今日はとてもスバラシイ!
あの金田一コースケのおマゴさんとも会うことが出来ましたし、これだけでも日本に来た甲斐があるというものデス!」
「そうですか、僕も爵位あるフランスの探偵さんとお会い出来るなんて光栄です」
棒読みになってる自覚ある挨拶を口にしていると、男爵の目はさらに嬉しそうに輝きが増した。
「ワタシを探偵と見抜く観察眼、実にスバラシイ!
あなたとは是非とも友好を深めたいものデス! イヤデナケレバ今夜、お時間をいただいても?」
(そんな格好されてたらバカでもわかるわ)
「いえ、所員達もおりますし、先日こちらのトップモデルが襲われそうになったばかりですので、まだまだ気は抜けない状態です。
そうしたお付き合いはまたの機会に」
「うーん、実にシンシ! あなたとは良い酒が飲めそうデス!」
まだ絡んできそうなメグレ伯爵に本気で対処に困っていると、さらにここに一人の男が図々しくも入り込んできた。
「その席、僕も同席してもかまわないかな?」
(もうやだ、こんなこと言う男なんてこのホテルに一人しかいないじゃん。事務所に帰りたい、振り返りたくない、マガドリ様タスケテー)
「あら、六条さん。敵情視察かしら?
それとも
そんな小城の思いとは裏腹に、君沢が顔を向けて声をかけてしまう。
が、その言葉は誰が聞いても歓迎してないことは明らかで、小城も渋々振り返る。
「怖いなぁ、君沢先生。
こんな場ではありますが、他の方々と友好を深めたいと思うことは自然なことじゃないですか」
「こちらはキミサワブランドの使用している部屋ですので、そう言ったことは会場でなさってください。
それから何度も言ってますけど、勧誘も迷惑です」
「おっと怖い怖い。
はぁ、残念だなぁ。ナオコに振られるなんて・・・ どうだろう、ハナエくん。君が僕の相手をしてくれるのは」
鳥丸の厳しい言葉にもあくまで笑顔を張り付けて接し、標的を替えようとしたところで小城が六条へと向き合うように振り返る。
「初めまして、六条さん。
僕は私立探偵をしている小城と申します」
「あぁ、噂はかねがね聞いてますよ。
なんでもキミサワブランド子飼いの探偵さんだとか」
「ハハハ、一ブランドの社長ともあろう方が噂だけを信じ、詳細もお調べにならないとは驚きですね。
それに女性を誘うマナーも知らないとは・・・ 六条というブランドへの見方が変わりそうです」
スッと目を細めながら、遠回しに『お前の行動でブランド名は簡単に傷つくぞ』と脅すと六条は笑顔のまま冷や汗を流し、身を翻した。
「おっともうこんな時間だ、僕はここで失礼するよ。
今夜の前夜祭と明日のコンペでの対決、楽しみにしてますよ。皆さん」
六条が完全に部屋から出たのを確認してから、小城は君沢達へと振り返り軽く頭を下げる。
「それでは僕も、所員達にも声をかけてから前夜祭の会場へ向かいます。
高森さんには引き続き警護がつきますのでご安心を」
そう言って退出する小城に称賛するような口笛が吹かれ、『流石デス、ムッシュ小城』とか言われていたが本人が振り返ることはなかった。
前夜祭は何事もなく過ぎ、パートナーを連れてきた所員達は正装での豪華な食事を楽しみ、家族全員で出席した徹は着飾った母と妹達の姿にご満悦。警護対象であったますみは金田一と美雪と旧交を深めて笑い合い、鳥丸は幼馴染との再会と彼の気遣いに心を温める。
誰もが美味しい食事に舌鼓を打ち、友好を深め合うという素晴らしい前夜祭を終え、ブライダルコンペの決戦当日を迎えた。
コンペ当日、ますみの元には金田一と舘羽、そして狩谷と恋人である麗晶に付き添わせ他の人員は会場を楽しみながらも全体の警戒という体制を取っていた。
(特に何も起こらない予定だけど、どうなることやら・・・
というかこの事件に関しては終わったもんだと思ってたから、俺も記憶が薄いんだよなぁ)
開始が一時間後に迫った頃、徹に現場を任せて念のためにキミサワブランドの楽屋に行くと布を刃物で切り裂く音が聞こえてくる。
「っ!? 誰かいるのか!」
わざと部屋の前で大声を出せば室内から慌てるような音と声がし、胸ポケットに入れていたトランシーバー無線を取り出して通話用のボタンを押して短く告げる。
「こちら、
繰り返す、会場担当のMは・・・」
通達事項を繰り返そうとした瞬間、背後に来た気配に振り返れば何故かそこにはキミサワブランドの副社長 犬飼要介が今まさに小城へとワインボトルを振り上げようとしていた。
「っ!?」
前方の扉へと注意が向いている状況での背後からの強襲に、一瞬どう回避するかに迷いが生じた。その一瞬の迷いによって行動が遅れた結果小城の左肩に振り下ろされ、勢いのままワインボトルが床に叩きつけられるのを見て冷や汗が流れる。
(完全に頭を狙ってきてた!? あと一瞬でも遅かったら危なかった・・・! いやでも、どういうことだ?! なんで楽屋に侵入者がいて、副社長であるこいつが人の頭を搗ち割ろうとしてる!?)
楽屋の扉へと背中を預けながら内心はかなり混乱しているが、幸いなことに冷静を装うことは慣れている小城はいつもと変わらぬ笑顔を張り付けてみせる。
「これはどういうことですか? 犬飼さん」
「お前さえ、お前さえいなければ・・・ お前がいるから俺は! お前が現れたから何もかもうまくいかないんだ!」
「意味がわからないんですが・・・」
思ったより痛む左肩のせいで脂汗が止まらない。痛みが冷静な思考を鈍らせ、いつもよりも状況把握がしづらい。
「わからない? そうだろうなぁ! あのババアも、デザイナーの多くもお前を信頼して、お前だけを見て、お前を頼りにする! 副社長である俺なんか存在しないかのように!! だから、だから俺は!」
訳の分からないことを叫ぶ犬飼に集中していれば突然背後の扉が乱暴に開き、咄嗟に足を踏ん張って倒れることを防ぐ。そして反射的に背後の何者かを確認しようと振り返ると、必死に逃亡を図ろうとする者が振り回している裁ちばさみが目前にまで迫り、額に鋭い痛みが走り、眼鏡がずれて弾き飛ばされ、肩にあてていた右手の甲から指付近も刃物が通過していく感覚があった。
「っ・・・!」
痛みと血によって狭まった視界によってとにかくどうにか相手から距離を取ろうとした結果、犬飼側へと体を寄せてしまう。その瞬間を逃すまいと犬飼が再びワインボトルを振り上げられ、わずかに視界が確保されていた右目でその光景を見えた小城は自分の死を覚悟した。
(これはまずいっ・・・)
「所長ー!!」
駆けつけたであろう声の主が誰かも確認する余裕はなく、せめて頭へと直撃を避けようと頭を下げ右腕を額に当てて、衝撃に耐えようとした。
が、衝撃が訪れることはなかった。
その代わり周囲を謎の光が覆い隠し、まるで雷が落ちた時のような明るさに目を閉じることしか出来ない。
「な、なんだ!? なんなんだ、この光はぁ!」
「何よ、何が起こってるのよぉ!?」
「スージー! 早く行け!! さっさとここから離れるんだ!」
光の中で混乱する三人の声が聞こえ、もはや意味がわからなかった。
(楽屋? まさか衣装を切り裂くのを六条も参加したのか? でもだとしたら犬飼はどうして・・・ いやまさか)
『わからない? そうだろうなぁ! あのババアも、デザイナーの多くもお前を信頼して、お前だけを見て、お前を頼りにする! 副社長である俺なんか存在しないかのように!! だから、だから俺は!』
(原作で犬飼は、君沢さんを脅すことであの立場を得ていた。それがなくなった今、君沢さんを強請る材料もなく、そして俺が花江ちゃんをデザイナーとしてキミサワブランドにいれたことで奴の息がかかった
つまりこの世界での彼は実力で副社長になってはいるものの社長に取り入る手段も、キミサワブランドを手にするだけの材料も得ていない。
(その結果が六条と共謀、なのか?)
トリの衣装を台無しにし、コンペで勝利を勝ち取った六条が三友の力を使ってキミサワを潰す。
その協力をした犬飼に、相応のポジションを与えられる。
たったそれだけの約束で動くなら、六条からすれば犬飼ほど都合のいい存在はいなかっただろう。
その結論に辿り着くと同時に光が収束し、小城が目を再び目を開いた時には彼を守るように徹、檜山に加え、ますみの元で警護に当たっていた筈の金田一までそこに居た。
「金田一くん、君は高森さんの警護だっただろう?」
「いや、まずそれかい!」
「それはそうだろう、僕は会場担当の
話していると肩の痛みやら額と手に出来た切り傷の痛みが襲ってくるが、そんなものはおくびにも出さずにいつものように苦笑する。
「お人好しのこのバカが誰かの危機に駆けつけないとかあるわけないだろ? 所長。
でもよぉ、駆け付けたらアンタがこんな怪我してるとか笑えねぇんだけど」
ブチギレ状態の檜山が何故かへたり込んで動かない三人を睨みつけている。
「まったくその通り。
僕らの所長に何してくれたんだ、この愚か者どもは」
「落ち着いて、二人とも。
大丈夫、頭の傷はちょっと派手に血が出るだけで大したことはないよ。幸い、強打されたのも肩だしね」
「いや二人がキレてんのはそこだけど、問題そこじゃないっすから!」
どこまでも冷静な小城に金田一がキレながら叫び、とにかく三人が逃げないように囲みだす。
そうして話している間も周囲をよく見れば君沢や鳥丸、鍵谷などの関係者。そして今まさに血相を変えて駆けてくる揚羽の姿があった。
「所長! あぁ・・・!」
小城の額から流れる血と右手に走った切り傷を見て瞳を潤ませながらも、手持ちの鞄の中から消毒液等の応急処置キットを取り出して手当を始める。
「所長、失礼します」
そう前おいてから額の血をハンカチで拭い、消毒液を染みこませたガーゼを当て、包帯を巻いていく。右手も同様に治療されている間に警察が到着し、長野県警の長島警部と研修で偶然長野に来ていた剣持警部が現れて、『どうも』と手をあげれば包帯姿の小城に剣持警部が二度見してきた。
「は? 金田一に小城? お前らどうしてここに」
「まぁ、いろいろありまして。
諸々あってキミサワブランドの警護をしていたら、六条さんがコンペに使う衣装を台無しにするところを目撃。そしたら何故かキミサワブランドの副社長に襲われてこのザマです」
ざっくりとした状況を他人事のように説明していると我がことながらもはや笑うしかなく笑っていると、剣持警部がわなわなと震え出した。
「笑い事じゃないわ! こんの馬鹿もんが!!」
怪我人じゃなかったら頭に落としていただろう拳を自分の掌にぶつけ、周囲に声をかける。
「とにかくお前は今から救急車で病院! おい、誰か付き添い出来る奴はいるか!」
「いや、僕はこの場に残りますよ。
まだしなきゃいけないことが残ってます」
「馬鹿なこと言うな!! お前は怪我人で、今回の被害者だ!
あとのことはお前のとこの優秀な人員と俺達警察に任せて、大人しく病院に連行されてろ!」
「ですが、僕は現場の状況の説明もしなきゃいけません」
「そんなもんは後から俺がお前に聞きに行く! 大体、その肩だってどうなってるかわからんだろうが!」
そう言って剣持が軽く肩に触れれば、痛みが走ったらしく小城は肩を下げた。
「ほれ見ろ、痛いんだろうが!」
剣持によって叱責をくらっている間も既に副所長である徹を中心に何やら話し合いが行われ、揚羽が小城の近くへときた。
「所長、病院の付き添いは私がします。
幸い警護の仕事もコンペが終わるまでですし、衣装の損害や所長への傷害については警察の領域です。この後は兄様を中心にキミサワブランドでの警護を続け、所長の怪我の診断を待ってから帰りましょう」
「そう、だね。それがいい。
君沢さん達には後日改めて僕から連絡を取るよ」
「そのことについても、君沢さん達から言伝があります。
『ご招待しておきながら副社長である犬飼が、恩人である小城さんに怪我をさせてしまうなんて申し訳ないことをした』と。後日、事務所に改めて謝罪に来るとのことです」
「君沢さんが悪いわけじゃないんだけどね・・・」
そう苦笑いしていると、話にあがった君沢が鳥丸を連れてこちらへとやってきた。
「いいえ、そう言うわけにはいきませんわ。
ブランド同士の争いに加え、副社長である犬飼があなたを害した罪は重い。本当になんとお詫びしたらいいか」
「あなたのせいじゃないですよ。
それに会話から察するに僕への私怨も多分に含まれていますから、この傷は僕の自業自得ですよ」
「私怨は犬飼が勝手に抱いたんだから、あなたの自業自得はおかしいでしょ」
どうやら結構怒っているらしい鳥丸が、三人が確保されているらしいパトカーへと侮蔑と軽蔑の視線を向ける。
「デザイナーでありながらデザインで勝負しなかった六条も、六条の誘いに乗った上で目撃者であるあなたを襲った犬飼もサイテーなゴミクズどもよ」
「えぇ、ナオコの言う通りだわ」
「君沢さん、鳥丸さん」
そう吐き捨てる二人に、小城はあくまで優しく声をかける。
「勝負を捨てた六条に、キミサワブランドのウェディングドレスを見せつけてください。
僕も楽しみにしてますよ」
「小城さん・・・」
「はぁ・・・ まったく、あなたって人は」
小城の言葉に毒気が抜かれたように二人は苦笑し、自信ありとばかりに笑って見せる。
「えぇ、お任せください。
不祥事ではなく、キミサワブランドの・・・ いいえ、この子の実力で勝ち取ってみせますわ」
「衣装がないならまた作るだけ。今からとびっきりのドレスを用意してみせるから、待ってなさい。
ハナエ! 行くわよ!」
「は、はい!
小城さん、あとでお見舞いに行きますのでどうか安静になさっててください」
「ありがとう、花江ちゃん」
そう言って小城は救急車にて搬送され、仏蘭西館を後にするのだった。
病院搬送後、幸い額と手の切り傷は深いものではなく、肩も痛みこそ激しいが打撲と診断されたため、そのまま仏蘭西館へと戻っていた。
戻ったら一時中止になっていたコンペが再開しており、そこには急遽用意されたとは思えない見事なウェディングドレスがあった。が、何故か会場のテーブルから何枚かのクロスが消えている状況に首を傾げてしまう。
「所長、お怪我の具合は?」
小城が戻ったことのいち早く気がつき、大好きな飼い主の帰還を喜ぶ犬のような速さで駆け寄ってきた徹に笑いかける。
「大したことないって言っただろう? 打撲と浅い切り傷だよ」
「よかった」
肩を撫で下ろし、すぐさまトランシーバーで全員に情報共有されていく。
「徹・・・ 仕事用なんだけどそれ」
「情報共有は大事です。ましてや、所長の帰還と怪我の状況は最重要事項ですから当然でしょう。
あの場で所長を傷つけた愚か者どもを血祭りにあげなかっただけ、僕らは我慢している方ですよ」
小さな声で確かに呟かれた物騒な内容を聞かなかったフリをしていると、コンペの対戦相手である六条がいなくなったこともあって、その場でキミサワブランドが契約を勝ち得たことが告げられる。
司会からコンペの勝者である君沢へとマイクを向けられ、君沢は自分の隣に立つ鳥丸を押し出した。
「今回のドレスのデザインは全て彼女、鳥丸奈緒子の手によるものです。
それならばこの契約は私ではなく彼女のもの」
「え・・・? 先生、いったい何を」
「これはもう私のキミサワブランドなどではなく、彼女から始まる新しいブランドです。
私は彼女の独立を祝福し、彼女のブランド『ロワゾ』を支援することを宣言いたします!」
多くの祝福の拍手が鳴り響き、その中央で突然の事態に困惑しながらも口元を押さえて嬉し涙を流す鳥丸。そんな彼女の肩を優しく手を置く君沢に鳥丸が涙を拭って、しっかりと前を向いた。その光景はまるで母と娘のようで、小城は眩しそうに目を細めてしまう。
「おめでとう! 奈緒ちゃん!」
そして、自分のことのように喜ぶ幼馴染に抱きかかえられ、鳥丸が顔を染めながらも嬉しそうに幸せそうに彼の首へと手を回して笑い合うのだった。
人の悪意、嫉妬、欲望・・・ そして、うまくいかないことへの苛立ち。
当たり前に持っていることとはいえ、人間らしく書こうとすると人は思わぬ方向に行くので書いてる私自身も驚くばかりです。
小城が変えてしまった結果の変化。
それは良い方向にも転べば、悪い方向にも転びかねない。
同時に、あくまで小城の判断での行動がすべての人間にとって良いことではない事実。
これは憑依転生や、オリ主を追加する二次ならではだと思うんですよね。
難しくも楽しい、悩ましくも面白い。二次の醍醐味ですねぇ。
この事件書き出した時は終始もっと穏やかな感じに治めるつもりだったんですけど、『ワンパターンだな』と考えた結果、思いついた方向性へ突き進んだら案外面白い展開に。