後日談だからサクッと書けると思ったのに、書きたいこと全部詰め込んだら文字数がかなり増えた・・・!
でもその分、必要なことは書ききれた筈。
さぁさぁ、次の事件はあいつだ。
でもそろそろ出さなきゃいけない人もいるから、いい加減あの話を書かなきゃいけない。
頭の中に次々と事件が迫ってくる感じがヤバい、怖い、ホラー・・・(;^ω^)
あの事件から数日、未だに頭と手は包帯を、そして肩に湿布を貼った小城は事務所でのんびりと過ごしていた。
が、怪我をして帰ってきてから所員は勿論、マガドリ様による小城への過保護が始まった。
所員らは小城が一人で出かけようとすることを良しとせず、呆れて断る小城に対しても『怪我が治るまでは』と固辞して一切引こうとしなかった。小城自ら必要な外出以外は肩代わりし、小城の仕事は所内で済むものばかりとなり、依頼が来ても所内及び車内からの司令塔しかさせてもらえていなかった。
マガドリ様に至っては事務所に入ってきた小城が包帯をしているのを確認した瞬間、Σ(゚д゚lll)と顔をしてから傷を確認するように小城にへばりつき、『ごめんね? ごめんね、ごめん~』とばかりにしばらくの間小城の頭に抱き着いて子どもが親にするように頭をぐりぐりと押し付けてきた。今なお事務所にいる間は小城から一切離れようとせず、肩や膝、頭などに乗ってぴったりくっついて離れようとしない。
(いや僕が願ったことを考えると、マガドリ様はしっかり叶えてくれたから気にしなくていいんだけどなぁ)
小城が願ったように金田一は一発殴られただけで済み、金田一の友人であるますみも何の被害も受けることはなかった。加えて、金田一が現場に駆けつけてくれたおかげであの謎の光が発射されたことを考えると、マガドリ様の力は間違いなく小城の命も守ってくれたのだ。
(だから、仕返しとかはしちゃ駄目ですからね。マガドリ様)
時々恐ろしい目をしてどこかを睨むマガドリ様に念を押しておくと、( ゚д゚)ナンデ? という顔をしていることに冷や汗をかく。この様子だと既に何かをしているのかもしれないが、マガドリ様の頭があるあたりを優しく撫でるよう手を動かす。
(あなたは明るく暖かい場所で日向ぼっこをして、神棚のおやつやお神酒を楽しんで、ただ穏やかな日々を過ごせばいいんだ)
その思いが通じたのどうかはわからないが、マガドリ様は普通の烏のようなつぶらな瞳でまじまじと小城を見てから、頭を寄せて甘えるように摺り寄せてくる。そんなマガドリ様から所内に視線を映すと怪我以降小城の傍を一切離れようとしない徹と目が合い、『あの愚か者どもにまったく同じ傷をつけてやる』と行動しようとしたことを思い出して背筋が寒くなる。幸い緑さんと三姉妹のおかげで止めることは出来たが、檜山と狩谷まで行動しようとした時はパートナー出席であったことを心の底から感謝することになった。
(マガドリ様も、所員も・・・ いいや、僕の行動で変わってしまった彼らの人生全てが、そんな風に呑気に過ごせたらいい。
なんて、それこそ俺の・・・ 僕の身勝手な願いで、多くを狂わせてるに過ぎないのに)
「所長、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「あぁ、そうだね。
でも、そろそろ君沢さん達が来るからその時にお願いしてもいいかな?」
「はい。
・・・お怪我は痛みませんか?」
会話としても、物理的にも傷に触れることを躊躇うように手を伸ばしかけて降ろす揚羽に優しく微笑みかける。
「大丈夫、大の男の怪我一つに皆心配しすぎだよ。
金田一くんが言いふらしたせいでるい子ちゃんやさつきくんまでお見舞いに来るもんだから、晒し物も同然だ」
「言いふらしたんじゃなくて、新聞見て事件があったことを知ってたるい子先輩達に詰め寄られたんすよ!
スッゲー怖かったんですからね!?」
学校についた途端、美人の先輩二人が静かに距離を詰めてきた上に邪魔が入らないようにオカルト同好会の部室に連れ込まれ、詳細を尋ねられたのは事情を知らない生徒からすれば羨ましくすら思えたかもしれないが、代わってもらえるなら代わってもらいたいほど恐ろしい状況であった。
もっとも二人からすれば詳しい行先まで知らなかったとはいえ後輩らが行った県で事件が起きた上に、死者こそ出なかったが負傷者ありという情報しかなかったのだから心配でしょうがなかっただろう。
「そりゃ、世話になった人達と後輩達が行ってるとこで事件が起きればあーなるだろ・・・
はじめはあんま自覚ないかもしんないけど、俺、七瀬とかはじめが行ってるとこで事件あるたびにあんな気持ちだったんだからな」
「な、なんかすまん・・・」
「いーよ、もう。でも、今回でわかったろ?
知り合いが怪我したとか、事件に巻き込まれたって聞いた時の気持ちがさ」
「ん・・・ わりぃ」
二人のやり取りを聞きつつ、未だに心配そうにこちらを見ていた揚羽と目が合う。
(君にこんな顔をして心配されるような価値、僕にはないんだよ)
彼女から向けられる気持ちに気づかないほど、小城は鈍くない。
だが、彼らの人生を
自分の未来すらどうなるかもわからない
「揚羽くん、君沢さん達が来た時に必要な書類を用意してもらってもいいかな?」
「はい、わかりました。
事務所にいらっしゃるのは君沢様、鳥丸様、鍵谷様の三名でよろしかったでしょうか?」
「あぁ、そうだよ」
「揚羽、書類関係は私の方でもう用意してあるわ」
「ありがとうございます。姉様」
舘羽に声をかけられて揚羽はそちらへ向かい、準備へと動く彼女を見守りながら、君沢らの到着をのんびりと待つことにした。
約束の時間、十分前に事務所の扉が叩かれ、予定通り君沢、鳥丸、鍵谷の三名が流れるように応接机へと通される。そして、通されると同時に挨拶よりも早く三名はその場で深く頭を下げてきた。
「頭をあげてください。
あなた方から謝罪を受けるようなことはされていませんよ」
「いいえ、犬飼はキミサワブランドの副社長。その責任は私にありますわ」
「会社の責任である以上、ブランドの幹部である僕らが頭を下げるのは当たり前。
探偵としても仕事を受けてくれている上に、所員の皆さんの衣服等を任せてくださっている上得意である小城さんに怪我をさせるなんて・・・ 本当なら全社員を連れてきて頭を下げたいくらいですよ」
「しかも本来ならマスミ個人の警護の仕事だったのに、ブランド同士の小競り合いにまで巻き込んでしまうなんて・・・ 本当になんてお詫びしたらいいか」
「犬飼さんの凶行も、六条の妨害工作もあの場で事前に察知できた人間なんていませんよ。
たまたまあの場に居合わせて、それに鉢合わせしてしまったのが僕であったことはむしろ幸運でしょう。これが女性や未成年の誰かであったら、この程度の怪我では済まなかったかもしれなかったんですから」
とにかく三人に頭をあげてもらおうと小城が話せば、君沢は頭を下げながら首を振った。
「いいえ、どうやら犬飼は・・・ あの場にいたのがあなただったからこそ、あのような行動をとったようなんです」
「どういうことです?
僕の記憶が正しければ、彼と顔をあわせたのは鳥丸さんの一件が起こった前後だけだったと思うのですが・・・」
ようやく顔をあげた三人にお茶とお茶菓子が出され、三人が口にしやすいように小城がお茶と茶菓子を口にすれば鍵谷が肩を竦めて語りだす。
「それがですね・・・ ウチの社内では小城さんはチーフデザイナーにまでなった奈緒子くんの恩人であること、スーツやらを一切合切ウチに任せてくれる上得意様であること。
その上期待の新人である花江ちゃんを導いてくれたあなたはもう社内で大人気でして、お茶出しでもいいから一目会ってみたいなんて子も結構いるんですよ」
(いや、なんでだ・・・)
鍵谷から聞かされた驚愕の事実に少しの間固まっていると、鳥丸が深々と溜息を零した。
「小城さんがそんな反応するのも無理ないわ。でも、あなたはウチにとってそれだけの存在になってるのよ。そして犬飼にはそれが、面白くなかった。
副社長としての手腕も、彼を認めてる人間は確かにいたのに、そんな声すらも届かなくなるくらいにね」
「まぁ、彼が愛人をパタンナーとして入れたがっていたのもあるかもね。
将来的には奈緒子くんの後釜になるように育つことを期待してたみたいだけど、同時期に入った花江くんのせいで勝手に落ち込んで、さっさとやめてしまったことも面白くなかったんだろうさ」
鍵谷の語った内容が初耳だったのか、君沢が眉を吊り上げる。
「鍵谷、それはどういうこと?」
「あれ、社長はご存じなかったんですか?
花江くんと同時期に入った同い年の小夜子くんいたでしょう? あの子、犬飼さんの愛人だか恋人だったらしいですよ。いつだかメンズの方で独り言みたいに愚痴ってましたもん」
「さっさと辞めるような子を覚えておくより、才能もやる気もあるハナエに目が行くのは当たり前でしょう。
この世界で心折れてやめていく人間のことなんて、いちいち覚えていられないわ」
「ごもっとも」
バッサリと切って捨てる君沢を恐ろしく感じながらも同意見らしい鍵谷は頷き、鳥丸に至っては『そんな人いたかしら?』という表情になっていた。
「つまり元々不愉快な存在な僕がさらに社内で株が上がるような行動をとった上に、ブランドの存続すら関わるようなコンペ会場に来ててさらに怒りを増幅させた。ということですか」
苦笑いしか出来ない小城に対し、所内から感じる静かな怒りに冷や汗が流れる。
だが、その静かな怒りを知ってか知らずか鍵谷は『それだけじゃない』とばかりに首を振った。
(え、まだ何か怒りかうようなことあるの・・・? 俺、そんなになんかした?)
もう聞きたくないと思うがこの状況で話さないわけがなく、鍵谷は口を開く。
「今回のコンペに出席するにあたって小城さんがスーツを特注したじゃないですか、これもちょっといろいろと面白い派生と需要を生みそうなんですよね。まぁこのチャンスを生かすか殺すかは僕ら次第なんですけど、これがまた面白くなかったみたいでして」
アッハッハと笑いながら続けられているが、小城としてはもう笑えない。鍵谷の言葉を鳥丸が引き継ぎ深く溜息を零した。
「そこからどう思考が飛んだか知らないけど、犬飼は『ここまで奴が会社に利益や恩を与えてるのは、キミサワブランドを乗っ取るつもりだからだ!』って思ったらしいの」
(いや、本当にどう考えたらそうなる・・・)
「そしてその末に『余所者に乗っ取られるぐらいなら六条の企みに乗り、ブランドを潰そう』と考えたらしいわ」
君沢が頭痛をこらえるように頭を押さえている姿に、小城も正直同じようにしたかったが怪我をしている今、下手に頭に触ってそんな表情をしたら所員全員に病院に担ぎ込まれそうなため出来ないことが辛い。
「それはその、なんというか・・・」
「ただの思い込みの激しいヤベー奴じゃないっすか!」
小城が言葉を選んでいる真っ最中に金田一が素直かつ直球に言葉を投げてきたので、注意しようとそちらを見るがそこには金田一以外の所員らも『話は聞かせてもらった』とばかりに目にヤバい光を宿していた。
(ひぃっ!?
流石、ほとんどが犯人予定者だけのことはある。視線で人を殺せそうだなー)
一瞬、恐怖におびえかけるがすぐさま現実逃避し、表情には一切出さないまま全員を宥めるように手をあげた。
「君沢さん、すみません。
どうにもウチの所員はあの件から気が立ってるみたいで」
「所長であるあなたが怪我をしたんですもの、無理もありませんわ。
そして今日、私達がここに来たのは副社長である犬飼が取った行動を会社としてどう責任を取るかをお伝えするためです」
「いや待ってください、君沢さん。僕はそもそもキミサワブランドから謝罪も、責任を取ることも求めていません。
世間体として必要なのはわかっていますが、それだって犬飼さんと六条の取引が明らかになればどうとでも・・・」
慌てて立ち上がって止めようとする小城に対し、君沢は静かに首を振る。
「世間体ではありません。
これだけ我々のために行動してくださったあなたを、我が社の者が傷つけた。
その事実に、我々は責任を取らずにはいられないのです」
「小城さん、これは社長の一存ではなく社員の総意でもあるんですよ。
それに心配しないでください。キミサワブランドが解散しても、ここには将来有望な新ブランド『ロワゾ』があるんですから」
場を和ませるようにウィンクをしつつ鳥丸の肩を親し気に叩く鍵谷の脇腹に、当の鳥丸が肘を入れる。
「立ち上げたばかりの私のブランドにメンズ部門まで持つ余裕なんてありません!
かといって下手に先生からお金をいただくような行動をしたら、それこそ『名前を変えただけじゃないか』とか言われかねないでしょ。
鍵谷さんも独立して、個人でメンズブランドを立ち上げてくれたら話が早いのに!」
「いやぁほら、僕にも先立つものがないし。
だからさ、僕も協力するから何とか頑張ろうよ。ね?」
解散は確定したもののレディス部門の行先は目処が立ったがメンズ部門が不確定らしく、そんなやり取りを目の前にした小城が口を開いた。
「それなら鍵谷さん、僕から融資させてもらえませんか?」
「えっ・・・ いや、それは助かりますけど、正直僕には奈緒子くんほど才能なんてありませんから、ブランドを立ち上げてもうまくいく保証はありませんよ?」
「君沢さんからチーフデザイナーを任されている方がそれを口にするのは、同業者に聞かれたら嫌みに聞こえますが・・・
あなたはさっき、『ちょっといろいろと面白い派生と需要を生みそうなんですよね。まぁこのチャンスを生かすか殺すかは僕ら次第』と言った。あなたは僕が無理を言った注文をチャンスに変えようという意欲と、需要があるという見通し。そして、既にいくつかのデザイン案をお持ちなのではありませんか?」
「いやぁ流石小城さん、鋭いなぁ」
そこで小城はいつもの余裕の笑みを取り戻して問えば、鍵谷はニヤリと笑い返してきた。
「でも実際、僕だけじゃ心許ないのは事実ですよ。
キミサワブランドの後押しもない、社長だって引退してロワゾのバックにつく以上あてには出来ません。というか、メンズブランドならしない方が自然ですからね。
そこで小城さんに提案なんですが、僕の将来性に金銭的な融資と、あなたの人脈を貸していただけません?」
「おや、なかなか図々しいことをおっしゃいますね?
さっきは『うまくいく保証なんてない』と口にしたのに」
呆れたように笑えば、鍵谷はさらに畳みかけてくる。
「いろいろな業界に伝手をお持ちの小城さんの力を借りたら話は変わりますよ。
あなたの融資と人脈、そして普段使いに僕の作ったブランドを着てくださる。この三つが揃えば勝ちは確定だ」
「それらが揃ったとしても、製品は確かな質と相応の実力が必要ですよ。
勝算はおありで?」
「その辺りはお任せを。
何せこれでも僕、キミサワブランドのチーフデザイナーなので」
お道化ながらも自分のスーツをつまんで見せる鍵谷に小城は面白くて仕方がないとばかりに笑えば、隣の君沢も鳥丸も笑っていた。
「君沢さん、素晴らしい部下をお持ちですね。
まさか謝罪とは建前で、こちらが狙いでしたか?」
「まさか。鍵谷がこんな野望を抱いているなんてたった今知りましたもの。
まったく私は、男を見る目がないようで・・・ 完全に耄碌する前に隠居いたしますわ」
「そうですね、私もこんな野望を秘めている人と肩を並べて仕事をするなんてごめんだわ」
言葉だけならブランド決裂と崩壊だというのに、当人らは楽しそうに語り合っている不思議な光景が広がっていた。
「では、僕はあなた方の謝罪を受け入れ、キミサワブランドから新しく生まれる二つのブランドを祝福させていただきます。
鍵谷さん、ブランド名はお考えですか?」
「うーん、『クレ』とかどうでしょ?
フランス語の鍵なんて安直すぎますかね?」
「いいえ、良いと思いますよ。
融資や人脈関係については、今後話を詰めていきましょう。ご連絡をお待ちしています」
これで話は終わりだとばかりに小城が立ち上がれば、君沢達も立ち上がる。
「今回の報酬も、治療費も振り込んでおきますわ。
あなたは受け取れないなどとおっしゃっていましたが、お金でしか示せない誠意もあることをご理解ください」
「・・・わかりました、ありがたく頂戴します」
「引退する私が頼むのもおかしいとは思いますが、今後もこの子達のことをどうぞよろしくお願いします。
勿論、あなたが預けてくださったハナエもしっかりと守りますのでご安心を」
再び頭を下げる君沢に小城は首を振り、むしろ注意喚起する。
「いえいえ、引退してもこれだけ業界に名を響かせたあなたです。他からも引く手数多でしょう。
良いものも悪いものも引き寄せてしまうでしょうが、その時はどうぞ遠慮なさらずご連絡を」
「・・・そのことですが、私はナオコと養子縁組をしようと思っています」
「えっ・・・!? せ、先生、それって」
君沢からの思わぬ発言に、その場にいた鳥丸が自分のブランドを発表された時のように驚く姿に小城が内心で叫ぶ。
(君沢さん!? あんたのその『本音は心に秘めるもの』とかいう言葉足りなくさせてる信念のせいであらぬ誤解が生まれて、原作の事件が起こったと自覚しようか! っていうかこの世界の奴らはどいつもこいつも報連相が足りてなさすぎなんだよ!!)
「あなたに、私が残せる全てを残したいの。
あなたが嫌じゃなければこの話、受けてもらえないかしら? ナオコ」
「せ、先生・・・ はい、喜んで」
が、それとは関係なく目の前で新しい
「そちらは改めて正式に手続きを踏んでいただくとして・・・ おめでとうございます、鳥丸さん。前夜祭で仲睦まじくなさっていたソムリエの彼ともお幸せに」
小城のその言葉にボンッと音が聞こえそうなほどに鳥丸の顔が真っ赤に染めあがり、羞恥を隠すように彼女は怒り出した。
「ちょっとやめてよ! 小城さん!
弓削くんとはただの幼馴染ですから!」
それを聞いた狩谷が隣の金田一を突き、思わずつぶやく。
「幼馴染って、なんか定型文とかあったりするの? 金田一くん」
「なんで俺に聞くんすか? 狩谷さん」
「え? 自覚ないの?
じゃ、檜山くんに聞くけど、幼馴染って素直になれない持病でも持ってるの? 先日来てたいつきさん達もそうだったみたいだし」
微妙な顔をする金田一から今度は檜山に狙いを替えれば、檜山は応えず静かに中指を立ててきた。その姿を見て、『答えてもらえないかぁ、残念』と笑って終わらせる狩谷を金田一と檜山が静かに睨みつけていた。
「おや、僕の勘違いだったなら失礼しました。
彼に対する鳥丸さんはなんだか表情が優しくなられていたので、てっきりそういった関係かと思いまして」
「も、黙秘します!」
「それはもうほぼ答えじゃない? 奈緒子くん」
「鍵谷さんは黙っててください!」
鍵谷にも噛みつく鳥丸に君沢が向ける視線は優しく、その肩に触れた。
「さっ、もう戻りましょう。あなた達二人もこれから忙しくなるんだから。
それでは小城さん、失礼しますわね」
「えぇ、君沢さん。またお会いしましょう」
そう言って去っていく三人の姿を見送れば、金田一が定時になったとばかりに立ち上がった。
「よっしゃ! 定時になった!
行くぞ、千家! 今夜は祭りだぁ!!」
勢い良く扉から出ようとした金田一の首根っこを怪我をしていない手で捕まえれば、金田一の足が漫画のように暫く宙を浮く。
「えぐっ! なんすか、所長!? いつもならさっさとあがっていいって言ってくれんのに!!」
「お客様が出た直後に飛び出して、階段で横を通り抜けようとするアホがどこに・・・ いや、ここにいたね」
そのまま猫掴みのまま摘まみ上げて椅子に降ろせば、呆れた様子で帰り支度をした千家が金田一の隣に並んで頭を下げた。
「すいません、所長。
こいつ、高森を励ますために小学校の同窓会を企画して、今日がその日だから朝からずっとそわそわしてたんですよ」
隣に並んだ金田一の肩に手を置く。
「はじめ、気持ちはわかるけど、まだ時間まであるから落ち着けっての。
それに高森だって七瀬が迎えに行くんだろ?」
「そーだけど、どうせなら迎えにも行ってやりてーじゃん!
この気持ち、お前ならわかってくれんだろ」
「いや、クラスメイトってだけの奴を全員覚えて、こんだけ仲良くしてるはじめってすげぇなとしか思ってねーよ・・・
お前って昔から人と仲良くなるの速すぎだし、うますぎんだよなぁ」
呆れていることを隠そうとしない千家に、言ってることの意味がわからんとばかりに首を傾げる金田一。
コミュ力お化け、人誑しな金田一は、友人皆無の青春をおくった小城にはもはや理解出来ない異世界の生物にしか映らない。
「それならこれを同窓会の食事代の足しにしなさい」
財布から数枚出されたお札に金田一が目をむき、千家も驚きを隠さない。
「も、貰えません! あくまでこれは俺達の個人的な同窓会で・・・!」
「君達からしたらそうだとしても、警護対象のアフターケアは仕事の一部でもある。
だからこれは、今回の仕事の特別手当だと思ってくれればいい」
「しょ、所長ぉ~」
神様、仏様とばかりに手を合わせて崇める金田一に、千家が続いて頭を下げる。
「正直、結構予算ぎりぎりだったんで助かります!
皆が楽しんでくれるように使い切るんで、あとで報告書書きます!」
「あぁ、楽しんでおいで」
そう言ってちらりと窓を見てから二人を送り出し、成人した面々しか残っていないことを確認してから小城は全員に言った。
「それじゃぁ僕らも今日はどこかに飲みに行こうか。
予定がある者がいるなら後日に改めるけど、どうする?」
『お供します』
綺麗に揃った声に微笑み、何名かの参加者を追加しながら、楽しい飲み会が開かれるのであった。
場所が変わって、キミサワブランドのオフィスに戻った三人は後を任せていた花江に出迎えられ、新ブランドについては明日から動くとして一先ずは上層部である自分達に花江を加えたメンバーでの会議へと移った。
キミサワブランド解散の詳細に加え鳥丸のロワゾ、鍵谷のクレという新ブランド立ち上げによる現在の人員の今後などの流れをしばらく話し合ってまとまったとところで、君沢が会議の一時中断を告げ、休憩を挟んだ。
が、花江がお茶を入れる以外は誰も立ち上がらず、鳥丸が鍵谷の方を軽く睨んでいた。
「うん? どうかしたかい、奈緒子くん」
「大恩のある小城さんに図々しくも人脈まで借りるお願いをした鍵谷さんの神経はどんな太さなのかしら、って思ってます」
「な、奈緒子さん・・・」
何を言われるかわかってるとばかりに笑いながらあえて問いかけてくる鍵谷に、鳥丸は取り繕うことなく舌打ちし、そんな彼女の態度を花江は注意こそ出来ないが言い過ぎだと声をかける。
「アハハ! こんな世界で生きてるんだから、神経なんていっそないぐらいちょうどいいと思うけどなぁ。か細い神経や他からの意見に振り回されたりなんてしたら、不安定で曖昧な流行や正解なんてないに等しいデザインで勝負なんかできないだろう?
あぁでも、彼の力になりたいのは本当だよ?
ネクタイをつけられない彼のために特注のデザインを用意して、そしてそれらが一般に広まることが出来たら、彼に向けられる目は不審や礼儀知らずではなく、最先端のデザインを纏う洒落者だ」
しれっと答える鍵谷にまだ不満気な鳥丸を見て、君沢が溜息をつきつつも話に参加する。
「ナオコ、あまり鍵谷を悪く言うものじゃないわ。
小城さんにいろいろと力を借りることは心苦しいけれど、ブランド解散のせいでメンズ部門の今後に不安があったのは事実。
それに彼がネクタイをつけることの出来ない理由を知ってしまった私達が、ブランドやデザインなどから力になる方法としては鍵谷がとった手段は正攻法だわ」
「それはっ! そうですけどっ」
何か言い返そうと立ち上がりながらもすぐさま認め、大人しく座りなおした。
そう、ここにいる四人は小城がスーツを特注するにあたって話し合いの場を作り、小城自身から『自分は訳あって首に物が巻けないんですよ。ネクタイとか、ネックレスとか、首をぐるりと一周するものがどうしても駄目でして』と告げられた。あまり深く聞いてはいけないと思いつつ、小城から話せる範囲で語ってもらったのだ。
『幼い頃、妹と誘拐にあいましてね。
その時に僕を逃がそうとした父が目の前で・・・』
そう言ったところで小城の顔が青くなり、首を押さえたことで、それ以上語らずとも彼が何を見てしまったことを理解し、花江がすぐに傍に駆け寄った。
『小城さん、無理に話さなくていいんですよ。大丈夫、大丈夫です。
ゆっくり呼吸をなさってください』
『あぁごめん・・・ 大丈夫だよ、花江ちゃん』
『小城さん、申し訳ありません。
嫌な記憶を思い出させてしまったようで・・・』
『いえ、気になさらないでください。普通、こんな変な注文をしたら気になるのは仕方ありませんよ。
その上、僕から話そうとしたのにこんな状態になるなんて・・・ ハハッ、かえってすみません』
君沢らに心配をかけまいと笑う小城の姿はどこか痛々しく、これ以上彼自身からさらに話を聞くことなど出来るわけもなく、凍ってしまった空気を換えるように鍵谷が小城の背へと回って生地が置かれている倉庫の方へと押していく。
『いえいえ! ネクタイをつけないスーツを、しかもどんな場でも着ていけるようなデザインでなんて前代未聞の前人未到の地ですからね! 僕、正直凄いワクワクしてるんですよ。
さぁさぁ、小城さんはどんな生地のどんな色がお好きですか?』
その場は鍵谷の機転により乗り切ったが、どうしても気にかかった君沢は彼が誘拐された事件を調べればさしたる苦労もなく詳細が判明した。
子供二人が誘拐され、助けに入ろうとした父親は死亡。犯人は逃走した際に妹をそのまま連れ去り、捕まらずに終わった未解決の誘拐事件。彼はその事件で、父親の命と引き換えに助け出された少年だったのだ。
「小城さんに妹さんがいたことは知っていましたが・・・ まさかあんな過去があるなんて」
俯く花江に同意見だとばかりに頷く鳥丸。その様子を見ながら、君沢も重い口を開く。
「もしかしたら小城さんが探偵事務所を開いたのは、攫われてしまった妹さんを見つけるために・・・ 『まだ生きているかもしれない』という一縷の希望に縋っているのかもしれないわね」
それを聞いた鍵谷が少し考えてから、思いついたように指をピンと上げる。
「そうなると、妹さんも小城さんと同じで首に物が巻けないかもしれませんよね。
僕らのお客様とかにそういう人がいないかなぁ」
「生きていれば、の話だけどね。
もう十五年も前なのよ? 小城さんがまだ見つけられてないってことは妹さんはもう・・・」
「・・・やめましょう、私達がどれほど願っても妹さんの生死はわからない。
けれど、私達は私達に出来ることで彼に恩を返していくしかないわ」
君沢の言葉に三人が強く頷き、気を取り直すように手を叩く。
「さぁ、会議の続きよ」
『はい! 社長!!』
小城は上にも下にも性別問わずに好かれるそうだけど、同じか、近い視線や位置にある同性には激しく嫌われそうなイメージ。だから友達とかいなさそう。
全員に胸襟を開くのが金田一なら、腹のうちを見せずに友好関係を築くのが小城。みたいな。