小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

③投稿ー。
さぁ、話し合え。向き合え。
それがどれだけしんどいことでも、生きているから出来ること。
死んだらもう二度と話すことも、わかり合うことも、あったかもしれない未来すらなくなる。

・・・なんて、死を望むほど思い詰められた人にはそれすら届ないこともわかってはいるのだけど。


雪影村殺人事件 ③

 春菜の自殺を止めて数日、桜雪祭の調査をする傍らで春菜と島津の父親である『今井龍矢』についても調べていく。そうするとどちらもあっさりと、むしろ雪影村に住んでいたということもあって父親達の情報の方が簡単に手に入れることが出来た。

 どちらも幼い頃に離婚し、村を離れたことは共通していたが島津の父は現在隣町に住み、春菜の父は遠方で過ごしていること。そして、二人の容姿は全く違い、また古くからこの村に住んでいる住民たちは二人のことをよく知っていた。話を聞いていく中で噂を耳にしていた者もいたが、別人だと知っている大人達は関心すら持っていなかったこともわかった。

(いや、大人も噂を聞いたなら訂正しろよ! 叱れよ、子どもを!)

 

『子どもが言うことだから』 『噂は所詮噂でしかない』 『そんなの気にしなければいい』

 

 そんな言葉があちこちから聞こえ、世界のどこでも実にありふれた大人が口にするそれらの言葉がいったい子どもの何を守れたのだろうか?

 子どもだろうと大人だろうと口にした言葉の善悪がわからないのなら叱るべきであり、ただの噂で傷つく者がおり、気にしないでいられる者ばかりでもない。

(一応春菜ちゃんの父親の方もどこにいるかをいつきさんに調べてもらってるから、そっちは結果待ちかな)

 

「所長、失礼します」

 

「事務所じゃないから小城でいいよ」

 

「あ、はい。すみません。資料や情報をまとめているとどうしても仕事の感覚が抜けなくて・・・」

 

「謝ることはないよ。

 でも、どっちもあんまり仕事とは言えないからなぁ」

 

 苦笑しながら告げれば揚羽も同様に苦笑いし、春菜へと渡すために用意した報告書を手渡され、軽く目を通す。

 

「うん、問題ないね。

 そろそろ都ちゃん達も来るだろうし、待っていようか」

 

「はい。わかりました」

 

 部屋を出ようとする揚羽にストップをかけ、部屋にある座布団に示して座らせた。

 

「小城さん、お聞きしてもいいですか?」

 

「なんだい?」

 

「小城さんが早くに実父を亡くされ養父母の元で育ったことはお聞きしましたが、その・・・ ご家族との関係はどうしているのかなと」

 

「珍しいね、揚羽くんがそんな踏み込んだことを聞いてくるなんて」

 

 おもわぬ問いかけに小城は目を丸くし、揚羽を見てしまう。

 

「す、すみません! その、ご不快でしたら無理に答えていただかなくても・・・」

 

「いや、かまわないよ。隠すことでもないからね。

 少し話したかもしれないけど、僕は父を亡くす前・・・ 八歳以前の記憶があやふやでね。気がついたら養父母の元に引き取られていて、まぁ僕のこれまでを見て察しているだろうけど、ろくな家ではなかったよ」

 

 成績しか見ない養父母、当たり前の幸せや家族の温もりというものとは程遠いあの場所を、小城は『家』とは呼びたくない。そんな養父母を『いつか見下すため』という目標を掲げ、勉強へと逃避した自分自身。

 小城拓也という存在は、初めから『自分が幸せになるため』という思考を持ち得てなどいなかったのだ。

 だが、それもあの日に全て一変した。

 

「僕が就職を失敗した時点で、養父母とは縁が切れたんだ。いいや、切られたのさ。

 『もう成人したお前を、養っていく義理はない』ってね」

 

「そんな、酷い・・・」

 

「いいんだ、別に。

 就職を失敗してしまったから多少予定が狂ったけど、僕も縁を切るつもりだったからね」

 

 エリートになって、わざとらしくそれまでかかった養育費の全てを・・・ 否、それ以上の金を叩きつけて、養父母(彼ら)を嘲り笑って縁を切る。

 そんな呆れてしまうような考えが、彼の中にはあったのだ。

 肩を竦めて、まるで気にしていないとアピールしても、揚羽の悲しい顔は消えてくれない。

 

「僕が探偵事務所を開いたり、トレジャーハンターで多少有名になってから接触しようとして来たみたいだけど、幸い養父母とは養子縁組がされていなかったことが後からわかってね。

 あれこれ手を回して、最終的に接触禁止命令の手続きまでしたよ」

 

 なんてことはないことだと笑って語る小城に、揚羽は辛そうな顔をしていた。

 

「だから大丈夫。君達に僕の養父母のことで迷惑をかけることはないよ」

 

「そんな心配はしていません!」

 

 珍しく声を荒げた揚羽に小城は苦笑いし、彼女を優しく見ている。

 

「私が、私達が心配しているのは・・・!」

 

 揚羽がさらに続けようとした瞬間、呼び鈴が鳴った。

 

「あぁ、二人が来たみたいだね」

 

「小城さん・・・」

 

「揚羽くん達が僕を心配してくれているのはわかるよ。

 でもね、いつも言ってるけど僕は君達が思ってるほど善人でもなければ、優しい人間でもない。君達を助けた時だって成り行きだし、今回だってそうさ」

 

 そう言っていつものように笑って小城は二人を出迎えるために立ち上がり、揚羽へと振り返る。

 

「僕はね、自分の本性がバレるのが怖いから優しいフリをしているだけだよ」

 

 内緒話をするようにシーッとしてから、小城は二人を出迎えるために玄関へと向かった。

 

 

 

 

 都と春菜が並んで座り、二人に向き合う形で小城と揚羽が座る。そして、小城は春菜へと報告書を渡す。

 

「春菜ちゃん、その報告書を読んでわかると思うけど、君の父と島津くんの父はただの同姓同名の別人であることがわかったよ。

 島津くんの父は隣町に住んでいるから望むなら直接会いに行って事実を確認できるし、それでも心配なら少し時間も手間もかかるけどDNA鑑定だってある。君の父の居場所は今、僕の知り合いに頼んで改めて調べてもらっているからもう少し経てばわかると思うよ」

 

 静かに報告書を読む春菜の表情が安堵のものに変わっていき、小さく『よかった』と呟いた。春菜の呟きを聞いた都が春菜の肩を優しく叩いた。

 

「ほらっ、確認してよかったべ?

 大体、島津も春菜も全然似てないじゃん」

 

「うん、本当に、本当に良かった」

 

 そこで春菜が身を後ろに引き、綺麗な姿勢で頭を下げた。それは土下座ではなく『座礼』と呼ばれる床から頭を数センチ離して行われるものであり、彼女がしているのはその中でも床から五センチほどしか離れていない最敬礼である。

 余談だが土下座は古代では畏敬の念を示すものであり、中世における武家社会では『そのまま斬首されても仕方がない』という意味合いを与えられ、近代では土下座廃止の建白書が廃止されようとしたり、現代でも謝罪の形として残ってはいるものの『なりふり構わぬ保身の手段』というネガティブな考えがもたれている。

 

「ありがとうございます。小城さん、揚羽さん」

 

「春菜ちゃん、頭をあげてほしい。

 真実がわかっても、問題はここからだ」

 

「ここから・・・? 私はもう真実がわかればそれでもういいです」

 

 不思議そうな顔をしている春菜に都が察したらしく、春菜の肩に手を置いて自分の方に振り向かせた。

 

「春菜、まさか綾花達に何も言わない気!?」

 

「うん。もういいの。

 私が違うってことがわかれば、噂だってそのうち消えると思うから」

 

「そんなの・・・!」

 

 都が叱ろうと声を荒げようとした瞬間、ノックも呼び鈴もなしで乱暴に開かれた扉と共に一人の男が駆け込んできた。

 

「そんなの駄目だ!!」

 

 駆け込んできた存在と声に驚き、全員がそちらを振り向けばそこに居たのは本来ここにいない筈の金田一少年が、息を切らして立っていた。

 二人の友人と目が合った彼は、いつものように笑って手をあげた。

 

「よっ! 春菜、久しぶり!

 都、電話、サンキュ! 文字通り、吹っ飛んで来たぜ」

 

「き、金田一くん」

 

「遅いべ、ハジメ」

 

「わりーわりー。

 学校とか親とかに話つけて、副所長に頭下げて車ぶっ飛ばしてもらったんだから勘弁してくれよ」

 

 謝罪しながら金田一は春菜の前まで行き、相手が安心するような笑顔をしながら、春菜の頭をポンポン触れた。

 

「春菜、遅くなって悪い」

 

「金田一くん・・・」

 

 金田一を前にして春菜の目には涙がたまり、彼へと抱き着いた。

 

「ごめん・・・! ごめんね、金田一くん」

 

「・・・話はさ、都から全部聞いた。

 辛かったよな、よく頑張ったな。春菜」

 

 彼女を安心させるように優しく声をかけて、背中をポンポン叩けば彼女はもう耐えきれなくなって泣き出す。

 

「でさ、さっきの話の続きなんだけど。

 春菜の胸の内にしまって綾花達と話さないのは、俺は駄目だと思う」

 

 彼の腕の中で『どうして?』と春菜が見上げれば、金田一は優しい表情のまま告げた。

 

「今、二人と向き合うことを避けたら、もう二度とあの頃みたいにはなれない。

 ちゃんと嫌だったことも、辛かったことも、不安になったことも言わなきゃ駄目だ。

 当然、話すのは春菜の気持ちだけじゃない。二人の気持ちも聞いて、全部スッキリしてまた一緒に笑いてーじゃん」

 

「二人の気持ち・・・ うん、私も聞きたい。

 ちゃんと綾花ちゃんと、冬美ちゃんと話したい」

 

「おっ、良い表情になったじゃん! そうそう、そういう気持ちで行こうぜ。春菜。

 いや、全然連絡取らなくて、この状況のこともまーったく知らないで、所長達と都のおかげで慌てて駆け付けた俺が言うとかっこわりーんだけどさ」

 

 気まずさから頭を掻いて、苦笑いする金田一に都が同意するように頷いている。

 

「だからさ、俺と都も付き合うから二人と話して、皆ともちゃんと話し合おうぜ?

 あの頃みたいに腹割ってさ、また楽しく笑い合って、ついでに五年前のタイムカプセルも開けてさ。

 あの頃の続きみたいに、今の皆と一緒に何度だって楽しいことしてさ。

 あっ! またタイムカプセル埋めんのもいいかもな! そしたらこの村でまた集まる理由も出来るし!」

 

「ハジメ、ストップ。あれこれ考えるのはいいけど、まずは話し合い終わってからだ。

 まったく、昔と変わらずそそっかしいんだから」

 

「フフッ、でも金田一くんらしい。

 ありがとう、元気づけようとしてくれて。凄く・・・ 凄く励まされてるよ」

 

 お返しとばかりに金田一の頭へと手を伸ばして撫でる春菜の顔は優しく、しかしどこか悲しそうだった。

 

「いいってことよ」

 

 春菜が落ち着いたところで金田一は小城の方を向き、深く頭を下げた。

 

「所長、マジで俺のダチを助けてもらってありがとうございます!

 ますみの件でお世話になったばっかりだっていうのに、またこうやって助けてもらって・・・ 俺もう所長に足向けて寝らんないっす!」

 

「そういうのは問題が完全に片付けてからにしてほしいかな。

 まだまだやることが残ってるだろう?」

 

「はいっ! 所長と揚羽さんは休暇の続きとか祭のことを調べてもらって、あとは俺に任せて 「いや、それはちょっと無理かな」 なんでっすか!?」

 

 金田一が『俺に任せてほしい!』と胸を叩いて得意げに告げようとしたところを、小城はやんわりと止める。

 

「春菜ちゃんはわかっているよね?」

 

「はい」

 

 おそらく妊娠がわかってからいろいろと覚悟はしていただろう彼女はしっかりと頷き、金田一も気づいたらしく『あっ・・・』と呟いた。

 

「友人関係のことは君達に一任出来る。でも、妊娠の件は君達(子ども)だけで片付く問題じゃない。

 本来なら当事者二人だけでそれぞれの親にきちんと説明すべきだと思うけど、関わった以上は僕も出来る限りの協力はさせてもらうよ」

 

「しょ、所長~!」

 

 感極まって抱き着こうとする金田一の頭を押さえて抱擁を回避し、春菜と都の方へと視線を移す。

 

「話を聞いて回っている時に、君達が通ってる高校が閉校する件も聞いたよ。

 もし東京に出てくるのなら仕事に就くなら僕は仕事柄あちこちに顔が利くし、どこかの高校に編入するなら住むところを探すのだって協力する。

 妊娠の件、上京の件、そのどちらも親御さんに話す時は僕が立ち会うし、事情説明を手伝わせてほしい」

 

「こ、小城さん、そこまでして貰うのは悪いべ。

 今回の情報を集めてもらったのだって何もお礼しないで、これ以上してもらうなんて・・・」

 

 慌てて手を振って断ろうとする都に、小城は一つ溜息をついてからしっかりと告げる。

 

「いいかい? 君達は確かに高校二年生で、同い年で就職をしている子達もいる。飲酒をしたり、タバコを吸ったりする者もいれば、免許だってとれる。

 でも、君達自身が思ってるほど君達は大人じゃない。勿論、僕ら大人が思ってるほど子どもではないこともわかってる。

 それでも君達は、まだまだ大人に守られるべき子どもだ」

 

 これまで何度だって繰り返してきた言葉を、小城は何度だって彼らに突きつける。

 

「君達だけで解決出来ることと出来ないことを見極めなさい。そして、大人を頼るところはしっかり頼りなさい。

 誰かに頼るのは子どもだけじゃない、大人にだって必要なことなんだ」

 

 金田一を含めて春菜と都が素直に頷くのを見ながら、そこで小城はわざと肩を竦めてわざと呆れていることを示す。

 

「頼ることを知らない君達を、僕は徹底的に甘やかす。これは決して褒められたことじゃないのはわかってる。

 けど、頼ることを知らない君達に僕は徹底的に協力するし、お金で解決できることはするし、僕が持っている人脈も存分に活かす」

 

 わざとらしく手を広げて、まるで安っぽい劇に出てくる魔王のように笑ってみせる。

 

「さぁ、覚悟するといい。君達は僕に甘やかされることが、僕と出会ってしまったことで確定してしまった。

 手始めに君達の困りごとを解決するとしようか」

 

「小城さん、ご指示を」

 

 ふざけたような小城の言葉に悪乗りするように、揚羽が優秀な秘書みたいに傍に寄り添った。

 そんな小城の言い回しに金田一が耐え切れなくなって、腹を抱えて笑いだす。

 

「アハハハハ! 二人ともどうするよ? 俺達、大変な人に目をつけられちまったみたいだぞぉ?

 こりゃもうお言葉に甘えちゃうしかない! っていうか、ウチの所長って探し物が得意な探偵で、宝探しのスペシャリストなトレジャーハンターまでやってるから逃げるなんて出来そうにねーや」

 

 都と春菜を抱き寄せて肩を組みだす金田一につられるように、二人も自然と笑顔になる。

 

「トレジャーハンター!? そんな物語みてぇなことまでやってるとか、ハジメをバイトにするだけはあるなぁ」

 

「おい都! それ、どー言う意味だよ!」

 

「言葉通りの意味以外、あるわけないべ」

 

「うん。本当に・・・ こんな奇跡が起きちゃうなんてなんだかもう、夢でも見てるみたい」

 

 泣きながら笑う春菜もどこかスッキリしているように見え、三人が笑い合うのを見て胸を撫で下ろす小城を揚羽は優しく見守っていた。

 

「小城さん」

 

「なんだい?」

 

「たとえあなたのそれがフリだったとしても、あなたが為さったことで救われた者がいる事実は変わりません」

 

 まっすぐ向けられた視線は真剣でありながら優しさに満ち、美しい瞳は小城だけを映していた。

 

「小城さんがいくら否定しても、積み重なった事実と恩を受けた多くの者が、あなたの優しさを、配慮を、行動を知っています」

 

 揚羽の言葉に小城は何も言えずに聞き入ることしか出来ず、彼女の瞳に映った自分が困ったように笑うのが見えた。

 

「今のあなたも、間違いなくあなたの一面なんです」

 

「そう、なのかな?」

 

「はい、そうですよ」

 

 戸惑う小城に対して揚羽にすぐさま力強く頷かれてしまい、自然と溜息が零れてしまう。

 なので、小城は今の状況から逃げるように仲良く話している三人へと声をかけた。

 

「さぁ、君達は友人達との話し合いの場を準備しないと。

 とりあえず女子は女子同士、男子は男子同士で話し合ってから合流する形でいいかな?」

 

「あ、はいっ! そうっすね。

 最初っから全員でってのは無理だと思うんで、それで行こうと思います」

 

「それじゃぁ僕と揚羽くんも、それぞれ同性の話し合いに立ち会うことにしよう。

 と言っても、本当に立ち会うだけでこっちは君達に任せるよ」

 

「それは勿論!」

 

 勢い良く頷く金田一に続いて二人も頷き、明日アパートの空き部屋を使って話し合うことを決め、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 翌日、朝食後に小城の部屋に集まり、それぞれの話し合いが終わる頃合いを小城らが連絡を取って確認後に合流の約束をしてから解散しようとしたところで、春菜の手がか細く震えていることを金田一が目敏く見つけた。

 

「はーるな、大丈夫だって、な?」

 

 震える手をとって握り、温めるように両手で包んでやる。そんな金田一の行動に続いて、都が春菜の肩に手を置いて勇気づける。

 

「ハジメとは別行動だけど、あたしがいるから心配しないの!

 それにさ、まだ電話越しで話しただけだけど・・・ 二人だってちゃんと話さなきゃとは思ってたみたいだから、きっと大丈夫だ」

 

「うん、うん。ありがとう、二人とも。

 ごめんね、なんかずっと元気づけてもらっちゃって・・・ 本当に、ごめんね」

 

「だーから、謝んなって。

 友達が困ってたら助けんのは当たり前なんだからさ」

 

「そうそう。さっ、行こ」

 

「うん」

 

 歩き出す三人に続くように小城と揚羽も歩き出し、小城と金田一は仲間の内の一人であるキャッチャーをやっていたという立石 直也の家に向かうため、アパートの下で別れる。

 

「揚羽くん、そっちは頼んだよ」

 

「お任せください、小城さん」

 

「先にも言った通り 「私達は見守るだけ、ですね」

 

 わかってくれている揚羽に頷いて、金田一と小城は村へ、揚羽ら三人は約束しているアパートの一室へと戻っていった。

 

 

 

 アパートの空き室でしばらく待っていると、約束していた時間通りに綾花と冬美が入ってきた。

 お互い挨拶もそこそこに都と春菜、綾花と冬美が机を挟んで並び、机から一歩離れた位置から揚羽が見守っている。

 

「で、話って何よ?

 それとその人は誰?」

 

 前日に突然呼び出されたことが不満なのだろう冬美は不機嫌さを隠しもせず、対する綾花はどうして呼び出されたのかがわからずキョロキョロと部屋を見渡していた。

 

「二人が流してる噂のこと、聞いた」

 

「は?」

 

「あっ・・・」

 

 都の唐突な話の切り出しに二人が戸惑うこともかまわず、いつになく真剣な表情を二人に向けていた。

 

「二人が流した噂のせいで数日前、春菜が自殺しようした」

 

「えっ・・・?」

 

「は? 自殺ってなんで・・・!」

 

「都ちゃん、待って。

 いろいろ突然言い過ぎだよ」

 

「春菜はちょっと待ってて。

 まずはあたしが、二人が何をしたかを伝えなきゃいけない」

 

 これは都なりの譲れないことであり、友達だからこそ伝えなければならないことだった。

 

「たまたま村に来てたハジメの知り合いの・・・ そこに居る揚羽さんと小城さんのおかげで自殺は止められたけど。もし二人がいなかったら、あの時間に海岸を歩いていなかったら、春菜はきっと今ここに居なかった!」

 

 本当はずっと、信じたくなかった。

 友達が友達を追い詰めて、言葉で殺してしまいかけたことなんて。

 辛くて、悲しくて、現実なんてこと認めたくなくて、それでもこれが現実で。

 そんなことを自分は、春菜が自殺しようとした日まで何も知らずに過ごしてた。

 

「なんで、なんでこんな春菜が傷つくような噂が流したのよ!」

 

「都には関係ないでしょ」

 

「関係ないって何よ! 友達が友達傷つけて、危うく死ぬとこだった! どっちとも友達のあたしが関係ないって何!?

 春菜が死んで全部わかった方がよかった? それとも死んだ後に後悔する方がよかった!? あたしはどっちもごめんだべ!」

 

 『死』という言葉の重みに冬美が一瞬怯むが、それでもさらに言い返す。

 

「そ、それでも自殺なんておかしいじゃない! なんでそんな・・・

 それにあんな噂、親や知り合いに聞けば一発で誤解だってわかることでしょ!」

 

「あんた達がどんな気持ちで言いふらしたかは知らないけど、名前だけの一致ならそう出来たかもしれない! でも、近所に住んでたから赤ちゃんの島津を抱っこした春菜のお父さんの写真があったんだ!

 それに・・・」

 

 怒りのままに叫ぶ都が案ずるように春菜を見ると、『大丈夫だよ』という表情を向けている二人のやり取りに気まずそうに黙っていた綾花が察した。

 

「春菜ちゃん、もしかして・・・ 妊娠、してるの?」

 

「知ってたんだ、綾花ちゃん」

 

 綾花からのおもわぬ発言に少し驚きつつも、春菜は悲しそうに笑った。

 

「ち、違うの。

 たまたま薬局で見かけただけで、噂とは・・・」

 

「うん、いいの。

 狭い村だもん、見られててもおかしくないよね」

 

「春菜。あんた、怒ってないの?」

 

 怒る様子のない春菜に、都と怒鳴り合っていた冬美も話の内容と彼女の様子に戸惑う。

 

「私が、悪いから」

 

「は?」

 

「な、何言ってるの?」

 

「そうだべ、春菜が悪いことなんて・・・」

 

 戸惑い、慌てる三人をよそに春菜はゆっくり首を振った。

 

「いつから、かな?

 なんだか少しずつ、私達の関係って変わっちゃったよね」

 

 悲しそうに、辛そうに、けれど空っぽな表情で彼女は口元だけが笑って三人を見た。

 

「仕方のないことなのに、七人で集まって笑い合うような些細なことも減っていっちゃった。

 響四郎くんが実家のお手伝いをするようになったり、冬美ちゃんはどんどん綺麗になっていったり、直也くんが勉強を頑張ったり、綾花ちゃんもテニスをしなくなって寂しそうだったり、都ちゃんは推理小説を読んでたり、皆それぞれがそれぞれのことをしてただけなのにね」

 

 フッと笑って、春菜は二人を見てた。

 

「噂を聞いた時、噂を流しているのが二人だってわかった時、私は『罰が当たったのかな?』って思ったの。

 皆と一緒に居るのが好きって思ってたのに、皆と居る時間をまた作ろうと行動もしなかったくせに、その関係を(匠くんと)壊すような(付き合う)ことを私がしちゃったんだって」

 

 そのままの表情で、春菜は涙を零す。

 

「ごめんね、綾花ちゃん、冬美ちゃん」

 

 誰も何も言えない。言えないだろう雰囲気がそこにあったが、その空気は机を壊さんばかりの大きな音と共に否定された。

 その場の視線は音の発信源であり、机を叩いた勢いで立ち上がった冬美に向けられ、彼女はそのまま叫んだ。

 

「違うでしょ! そうじゃない! そうじゃないのよ!!」

 

 叫びながら、彼女は泣いていた。

 中学の頃よりもずっと綺麗になって、前向きで、強気な彼女が首を振って泣き叫ぶ。

 

「春菜は! あんたは何も悪くない!!

 あたしが・・・ 島津くんに告白する度胸もない癖につまんない嫉妬をして、変な噂を流したあたしが悪いのよ!」

 

「冬美ちゃん・・・」

 

 冬美の言葉に隣で座っていた綾花も泣き出した。

 

「私だって同じ・・・ 島津くんを好きで、だから二人が別れたら、気まずくなったらいいって思って変な作り話を流して。春菜ちゃんが自殺まで考えるまで追い詰めるかもしれないなんて、少しも考えてなかった・・・

 ごめん、ごめんね、春菜ちゃん。許してもらえないかもしれないけど、本当にごめん」

 

 二人の謝罪を受けている春菜は『二人が謝ることなんて何もない』と泣きながら首を振るばかりで、都が机の真ん中から手を伸ばして三人まとめて無理やり抱きしめる。

 

「三人ともバカ! すっごいバカ!!

 もうどーしよーもない、ハジメくらいバカ!!」

 

 将来推理作家を希望しているとは思えないほど残念な語彙を発揮している上に、金田一にとんでもない流れ弾をくらわせている。

 

「お互い謝って終わりなんて単純にはいかないことはわかってるけど、それでもさ・・・ お互い謝るばっかはもうやめねぇ?

 あの頃みたいにまた皆で集まって、バカやって、一緒に笑い合いたいって皆思ってんだから」

 

 泣きながら、時々言葉に詰まったり、聞きづらかったりする都の言葉に抱きしめられてる三人も応えるように頷く。

 

「それは良いけど、金田一くんはどうすんのよ?

 流石に今呼んだって、今日来れないんじゃないの?」

 

「泣いて化粧崩れてるお化けがまず言うことがそれか、オメー」

 

「はぁ!? 化粧だってまともにしないような田舎くさい都にだけは言われたくないんだけど!」

 

 冬美のつっかかるような言い方に売り言葉に買い言葉とばかりに元気に喧嘩を始める二人に置いて行かれる春菜と綾花は目を丸くしてしまい、どちらともなくプッと噴き出した。

 

「冬美ちゃん、綾花ちゃん、金田一くんはもうこの村に来てるの」

 

「えっ! そうなの?」

 

「はぁ? なんで・・・ って、そっか。春菜の自殺を止めてくれた人が知り合いだから」

 

 そこでずっと見守っていた揚羽へと全員の視線が向けられ、丸くおさまった四人の様子にニッコリと微笑みかけた。

 

「金田一くんは今、小城さんの立会いの下で他の三人のご友人との話し合いをなさっていますよ。

 本当は来る予定がなかったので金田一くんは、私達に七人の友人一人一人にあてた手紙を託していました。こちらがお二人のです」

 

 分厚い手紙を受け取ると自然と二人が笑みを零すあたり、金田一は彼女達に悪く思われていないことがわかる。

 

「相変わらず字が汚いわねぇ」

 

「それ、あたしも思った。

 でも、ハジメは前となーんも変わってなかった。バカでスケベで大食いで、あの時の楽しいハジメのまんまだったよ」

 

「フーン・・・ まっ、この後会うならすぐわかるか」

 

「懐かしいね、凄く」

 

 すぐに会うとわかって手紙をそれぞれしまいながら、涙で赤くなった顔を冷やしたり、化粧を直して待つこととなった。

 

 




『私は単なる野蛮人です。ただ、常に紳士のフリをしているだけなのです』
(中略)
『私が野蛮人であることを、誰にも知られたくないからですよ』
              文・時雨沢恵一 【お茶が運ばれてくるまで】より

社 冬美
 → 雪影村の七人の仲間の内の一人。中学時代は眼鏡とおさげ、言動も真面目な委員長のような感じだったが、努力により化粧等を学び久しぶりに会った金田一が誰かわからなくなるぐらいに変貌した。だが、男子には君付けをしたり、仲間外れを嫌がったりするところを見るに根はあまり変わっていないように感じられる。原作では死亡する。

蓮沼 綾花
 → 雪影村の七人の仲間の内の一人。以前はテニスをしていたが、高校では部がなかったことを理由に現在はテニスをしていない。そのせいなのか、かつてあった元気があまりなかった。だが、言動の中にはいまだにテニスに対する心残りが見られ、春菜の死や冬美の死も何かに気づいていた。原作では冬美同様に死亡する。


この二人は確かに結果的に春菜を殺してしまったし、言い逃れは出来ない。
でも、金田一作品の中で珍しい『自分達の言葉で彼女を殺してしまったかもしれない』という罪悪感や後悔を抱いていました。悲しいなぁ・・・ 本当にただ悲しい。
だから、せめてこの世界でだけは向き合って欲しかった。
もう一度正面から、あの頃のように。
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