④でこの事件はラスト!
当初は後日談も検討してたけど、これは無しの方向で。まぁ書くとしても追々、日常回でかな。
さぁ、次はあの事件書かねば。
そろそろあの人も出さなきゃいけないし・・・ 避けられないんだけど、改めて考えるとあの人厄介なんだよなぁ(;^ω^)
女子側の話し合いが無事終わった連絡が入ったことで、まだ終わっていない男子側へと小城は視線を戻す。
こちらの話し合いは女子側と違い、涙と静かな話し合いとは無縁のものだった。
最初は金田一が旧交を温めることから話し合いが始まり、現在三人の状況などを話したところで、金田一と小城がここにいる理由について話が始まったあたりで事態は一変した。
葉多野 春菜の自殺未遂。そして、そのきっかけと彼女の妊娠。
これらを聞いた魚住 響四郎が、島津の頬へと思いっきり拳を叩きこんだのだ。
春菜の妊娠をそこで初めて知った島津は殴られて尚も呆然としており、さらに殴ろうとする魚住を小城が羽交い絞めにして確保する。
「魚住、落ち着けって!」
「落ち着けるわけねーべ!
おい、島津! お前、自分がとんでもねぇことしたってわかってんのか!」
倒れこんだ島津に立石が駆け寄るが、島津が発したのは魚住への反論でも、怒りでもなかった。
「春菜が妊娠って、俺達が兄妹って噂が流れてるって・・・ 本当なのか? 金田一」
「あぁ、本当だよ。
兄妹の噂は所長が真偽を確かめてくれて、お前らが兄妹なんて事実がないことははっきりとわかってる。村の大人も誰も相手にしてないくらい、二人の父親が同姓同名の別人だってことも周知の事実だから心配すんな」
「そっか・・・ 春菜は? 噂のことで傷ついてるんじゃないか?」
「あぁ、そっちは心配すんな。
今、都が綾花と冬美も呼んで春菜のことを慰めてっからさ」
金田一がへらっと笑ってなんて事のないように話しながら、前日に全員で取り決めた『噂を流した二人のことは、男子側には明かさない』ことを厳守していた。
(本当は隠し事をすべきではないんだろうけど、知らなくていいことだってある。
知ったところで彼が二人の想いに応えられるわけでもなければ、彼女を傷つけた怒りを抱かないとも言い切れないのだから)
何よりも当の春菜が友人同士の争いを望んでいない以上、噂を始めた二人のことを知る者は少ない方がいい。ましてや、島津本人に伝えていない二人の恋心が関与するのなら尚更だろう。
「頼むから離してくれよ! こいつ、春菜の彼氏の癖に春菜を守れねぇどころか、傷物にまでしやがって!!」
「魚住、言い過ぎだべ!」
「うるせぇ! なんで春菜を守ってやれねぇこいつが彼氏なんだよ!
俺だって、俺だって春菜が好きだったのによぉ!!」
そう言って泣きながら叫ぶ魚住に、三人が驚いて目を丸くする。
「魚住、お前・・・」
「そうだよ! ずっと片思いしてたんだよ!
で、一年前に告白もして振られて、振られた勢いのまま仙台まで行ってオーディション受けまくって夢まで玉砕してきたんだよ! なんか文句あっか!
なのに、なのに! この野郎は!」
惚れた女が恋した男、無事に付き合ってるなら文句なんてない。
だが、その男が惚れた女を守れないどころか、今後のことを考えてるとは思えない学生の身分での妊娠などさせるのだから、彼が怒りを抱くのは仕方のないことだ。
そして、魚住の怒りを目の当たりにした島津は魚住に向かって、その場で頭を下げた。
「お前の言う通りだ、魚住。俺は春菜のことを全く守れてなかった。
その上、妊娠だって今まで何も知らないで、自殺を考えるまで悩んでることだって気づいてやれなかった。春菜の気持ちにも寄り添って、支えなきゃいけないのは俺なのに・・・!」
悔しさから体を震わせて静かに涙を零す島津に長くバッテリーを組んでいた立石直也が慰めるように並び、立ち上がらせようとする。
「魚住、島津を怒りてぇ気持ちはわかるけど、俺らだって同じだ。何も知らねぇで、金田一の知り合いが助けてくれてなかったら俺らは仲間を失うところだった。
だったら、ここで俺らが怒鳴り合ったり、島津を責めても何にもならねぇだろ」
「っ・・・!
そう、だよな。俺もんな資格ねーんだよ。
俺だってなんも気づけてなかったし、振られてから春菜のことを気に掛けてたかって言われたら出来てなんかいなかったんだ」
立石の言葉に魚住も頭を掻きむしり、独り言のように呟いてから、自分に頭を下げてる島津に向かって同じように頭を下げた
「・・・わりぃ、島津。殴っちまって。
金田一からしたら、俺だってぶん殴られたってしかたねー奴の一人だ」
「いや、俺は殴んねーから!
つーか、俺だって所長達がこっちに来て春菜を止めてくれてなかったら何も知らなかったし。筆不精を言い訳にして年賀状も返さねーでさ、五年も経ってからこっち顔出してんだぜ?
俺だって皆にタコ殴りにされたってしかたねーよ」
「魚住は悪くねーよ、俺が同じ立場だったら同じことしてたと思う。
むしろまだ殴られたりねぇぐらいだ」
魚住、金田一、島津が次々とやたらと『自分には鉄拳制裁が必要だ』と言いあっているのを聞き、立石がそんな三人を見て笑いだす。
「おめーら、なんで野郎三人が集まって殴られてぇって言いあってんだ。
男三人が殴り合って反省してる暇あるんなら、もっとマシな反省のやり方があるべや」
彼の言葉に三人が目を丸くして、その笑顔につられるように少しずつ笑いだす。
「んだな。
つーか、俺らより話聞いた都あたりが島津ぶん殴りそうだよな」
「うっ! でも、俺はそれぐらいされて当たり前のことしちまったからな。
覚悟は出来てる」
「都の後は当然親と話さなきゃだしな。
ったく、あの真面目で野球バカだった島津がこんなことやらかしちまうんだもんなぁ。人生、何があるかわかんねーや」
改めて現実を突きつけられて俯く島津を励ますように金田一が背中を叩き、肩を組む。
「でもさ、島津。何があっても俺らがいる。
お前も春菜も一人じゃねーし、二人ぼっちでもねーからさ。もっと頼ってくれよ」
「金田一・・・」
「だな!
島津も春菜も真面目だからすぐ思い詰めちまうし、高校になってから俺らバラバラになってたのが今みてーなことが起こっちまった理由の一つかもしんねーし」
「しかたねーことでもあんだけど、俺達大事なもんを失うとこだったんだな」
四人が慰め合いながらもどこか悲しそうな、寂しそうな表情をしたところで、小城はゆっくり歩み寄った。
「まだ、手遅れじゃないよ」
「所長・・・」
四人の驚いたような視線を受けながら小城は笑いかけ、徹が待機している車を指さす。
「君達はまだ何も失ってなんかいない。
乗りかかった船だ、微力ながら僕も君達の未来への手助けをさせてほしい」
「所長が微力? なーに言ってんすか、所長がいれば百人力っすよ。
なっ、皆」
小城の心強い言葉に金田一が笑って応え、三人を見ればそこで小城に感謝を告げてないことに気づいた島津が深く頭を下げた。
「挨拶が出来てなくてすいません。
春菜を助けてくれて、俺達のためにいろいろとやってもらって本当に! 本当にありがとうございます!!」
『ありがとうございます!』
島津に続く形で魚住と立石、そして金田一も頭を下げ、その様子に小城は自然と優しい笑みが零れた。
「金田一くん、君は本当に素敵な友達を持ってるね」
「でしょ? こいつら、本当に最高なんすよ。俺にはもったいねーぐらい」
「いいや、僕は『君にはもったいない』なんて思わないよ。
友人関係はどちらか一方だけのものだと簡単に崩壊してしまう。こんな遠方でありながら今も縁が続いている、良好な関係を築けているのは君が君だからだ。
恥じることも、卑下することもなく、自分自身も含めて誇っていいことだよ」
照れる金田一を見てから、まだ頭を下げている三人にも言葉を向けた。
「君達もだ。
男女の友情は簡単な物じゃないし、同性同士であっても友情を続けることは容易なことじゃない。ましてや、相手が間違った行いをしていることを指摘し、怒ることなんて尚更だ。
でも、君達はそれが出来る。これは本当に凄いことだ」
三人が少しずつ顔をあげると、そこには自分達に向かって眩しそうに目を細める彼がいた。
「さぁ行こう、彼女達が待ってる」
「え? どこへっすか?」
島津と立石の疑問も代弁した魚住の間抜けな問いかけに、金田一が背中を勢い良く叩いた。
「どこって、決まってんだろ?
都達と合流して、五年前の約束果たしに行くんだよ!」
「あっ・・・ タイムカプセルか」
「金田一、お前よぉ。
突然来たかと思ったら、本当に何もかもいきなりだなぁ」
「いいじゃんいいじゃん! 俺、明後日までしかこっち居られねーんだもん!
明日とか明後日のお前らの予定は全部、俺のもんだから!」
『はぁ!?』
金田一の身勝手極まりない言動にまた四人でワチャワチャと始まったが、小城が全員を車に押し込み、アパートにて待つ女子達と合流。
小城運転の車を伴って、彼らの思い出の地 ―― 雪影中学校 ―― へと向かった。
古びた校舎、広い校庭、舞い散る桜に五年前の思い出を語りながら並ぶ八人の少年少女。
「この辺だっけか?」
「確かそう。写真をこの辺りで撮ったから、角度的に・・・」
「なんだ、冬美。綺麗になってもやっぱお前、変わってねーな」
「ちょっと金田一くん、それどういう意味よ」
容姿は変わっても真面目さが滲み出てくる冬美に金田一が笑えば、バカにされたと思って怒ったような声になる彼女に首を振る。
「ちげーよ、相変わらず良い奴だってこと。
なんだかんだでバカやってる俺らのこと注意してたけど、校庭にタイムカプセル埋めることは反対もなんもしなかった友達想いな奴のまんまだ」
「・・・はぁ~、金田一くんは本当に変わってないわよね。
さっきも五年前と同じで、立石と一緒になって綾花のスカートめくって覗いてたし」
照れたようにそっぽを向く冬美に、都が思い出すように頷く。
「そうそう、あの時ハジメってばあたしが起こしたっていうのに遅れてやってきてさぁ」
「皆、いろいろ持ってきて埋めたよね。
何かバレバレだったり、わかんなかったりで・・・ 私は何を入れたんだっけなぁ」
「まっ、それも掘りだしゃわかるだろ」
島津と立石のバッテリーコンビが埋めた辺りをスコップで慎重に掘っていると、カツンッと固い音が響いた。土の中から出てきた思い出の写真にあった白い円筒形の入れ物は土だらけで、しかし密閉の役目をしっかりと果たしたらしく蓋を開けてみると中に収めていた物は無事だった。
「さぁひとつずつ開けてみるぞ」
一番近くにいた立石が島津と並んで手に取ろうとすれば他の六人も近くによって覗きこみ、魚住と冬美が自分が何を入れたのかを思い出したらしく『あっ!』と同時に声をあげた。
「おやぁ、最初に発表されたいらしい二人が同時に声をあげたぞぉ?」
「そんじゃ発表してやんなきゃいけませんなぁ、都さん」
「ちょっ、お前ら!」
「都、あんた覚えときなさいよ!」
そんな二人の反応に都が悪い顔をすれば金田一が便乗し、当然二人は慌てふためくが開けるのを阻止しようとしない辺り、全員分が発表されることは諦めているらしい。
「確か魚住はこれだよな」
まずは魚住がいれたタイトルを隠すように包装されたカセットテープを手に取り、包装を外せばそこには
『―17才の俺にささぐ―
A面 セブンティーン.ドリーム
作詞 作曲 ギター 魚住響四郎』
と書かれており、それを見た都と立石が爆笑する。
「何このタイトル~! ちょ~恥ずかしいー!!」
「これでキメてるつもりかよ~」
「うっさい! うっさい!!」
バカ騒ぎする三人をよそに、島津は大真面目な顔をしてカセットテープを見ていることに気づいた金田一が島津の手元にあるカセットテープを覗き込めば、テープの端に『B面 春菜 MY LOVE』と書かれていた。
「魚住、お前・・・ こんな前から春菜のこと好きだったのか?」
島津の真剣な問いかけに場が一瞬静まり、問いかけられた魚住だけではなく、春菜も困った顔をして笑っていた。
「そーだよ! でも、一年前に振られたっつの!! 笑えよ、くそっ」
恥ずかしそうに顔を赤くする魚住がわざとらしく明るく言っているのに対し、春菜が申し訳なさそうに口を開いた。
「響四郎くん 「春菜、謝んなよ? 俺、別になんも後悔してねーから」 え?」
「春菜に告白したことも、あとになって『響四郎失踪事件』とか言われちまったけど・・・振られたやけくそで仙台まで行ってライブハウスのオーディション受けまくって玉砕したことも、それをきっかけに親父の後継ぐこと決めたことも・・・ 結果的には恋愛も夢もどっちも駄目だったかも知んねぇけど、俺はどっちもちゃんと全力でぶつかって出た結果から全然後悔してねぇ。
俺はこれ埋めた時にやりたかったことのどっちも、やりきったんだ。
どうだ、すげぇだろ?」
わざとらしくカッコつけるように、でも本心からの彼の言葉が、その場にいる他の皆に突き刺さる。
「笑わないわよ、魚住くん。
あんた、凄いわよ」
「んだよ、冬美。お前が褒めるなんて珍しいなー」
「あたしだって褒めるわよ。
あたしは出来なかったもん、好きな人に告白とか」
タイムカプセルの中から自分が入れたであろう封筒を手に取り、彼女は開けることなく、破り始めた。その中に何が入っていたのか、何が書いてあったかもわからなくなるように念入りに破られたそれは風に舞い、桜の花びらと共にどこかへと散っていく。
「あっ! お前、それは卑怯だろ!」
「フンッ、いいのよ。これで。
裏に書いてあった通り、あたしは好きな人のために自分を磨くことはしたんだから」
「いや、意味わかんねーんだけど」
「ったく、冬美はしかたねーなぁ」
彼女の言っている意味がわからず金田一が変な顔をし、立石が笑い、島津も苦笑している。
だが、彼女の言葉の意味がわかった女子達は複雑な顔をし、その中にあったであろう彼に類する何かについて言及することはない。これが彼女なりの恋の終わらせ方なのだということは、誰の目から見ても明らかだった。
「それで? 人のことをからかった都は何をいれたのかしら、ね!」
そう言ってタイムカプセルから引っ張り出したのは都の日記帳であり、中身をパラパラとめくっていけば、他の面々も覗き込む。
「金田一くんが言ってた通り、ご飯のことばっかりだね」
「だろ? こいつ、いつも飯のことばっかり日記に書いてたもんな~」
「ほっといてよ! ご飯は毎日のことだから、絶対書ける内容じゃない!」
綾花と金田一の感想に都がわざとらしく怒って言い返せば、春菜が同意するように頷いた。
「毎日の些細なこと、残しておきたくなるの。ちょっとわかるかも」
「流石、春菜! 優しい!」
そうして話す間に立石が入れた物を島津が取り出せば、元高校球児の彼は目を輝かせていた。
「これ、大リーグカードか」
「おっ、流石島津。おめーはわかってくれると思ったんだ」
「へー? 何、プレミアでもつくの狙ってんの?」
「そうだぁ。かなりのレアもんなんだぞ?」
冬美も覗き込んで立石の説明に感心していると、二つのボールが取り出された。
「一つは島津と、もう一つは綾花か」
持ち主である二人に渡されたボールは、島津のは小学校の大会で優勝した時のウイニングボール。
そして、綾花も自分の分のボールの包みを開け、突然泣き出した。
「綾花!? どうしたのよ!」
冬美が慌てて駆けよれば、手の中にあるボールを見せるように手を開く。そこには彼女がやっていたテニスボールに『ウィンブルドン優勝記念』と書いてあった。
「私、魚住くんと違って、まだ何もやりきってない・・・!
この頃の自分の方がずっと、ずっとテニスが好きで、夢に向かっていこうとしてたのに・・・ 私、恥ずかしい・・・」
ボールを持ってる両手で顔を隠し、泣きじゃくる綾花を金田一が下から覗き込んできた。
「あーやか、下なんか向いてないで、前向こうぜ?」
「き、金田一くん・・・ で、でも、私、私」
「んな恥ずかしがることねーって、都の日記見たろ? あれで推理小説家希望だぜ?
それにさ、夢を追いかけるのに手遅れなんてないと思うぜ?」
金田一のその言葉に綾花が顔をあげるとそこにはやっぱり皆がいて、彼女を心配したり、大丈夫だとばかりに笑いかけてくれたり、ハンカチを用意してくれたり、行動はバラバラだが彼女を想って行動してくれていることだけが一致していた。
「なぁ綾花、お前はまだテニスやりたいんだろ?」
優しい表情で彼女にそう問いかけたのは、島津だった。
「でも、部もないし、学校だって・・・」
「今いるとこで出来ないなら、出来るとこに行けばいい。もう学校もなくなっちまうし、それこそ金田一だっている東京に行ったっていいんだ」
そこで島津は、もうボールを投げることの出来ない自分の右肩に触れた。
「同じようにスポーツやってたからわかんだ。泣くほどやりたくてしょうがない気持ちも、自分がしなかったことで足踏みしちまってまたやっていいかわかんなくなる気持ちもさ。
まっ、俺はそれで自分の体のこと考えなさ過ぎて肩壊しちまったけどさ」
右手にあるタイムカプセルに入れたボールを見ながら、綾花へと笑いかける。
「金田一も言ったけどさ、今からでも全然遅くねぇよ。
俺はもう野球が出来ねーけど、お前はまだテニスやりてぇし、やれんだから。
もう一回全力で、今みたいな後悔全部なくすぐらい思いっきりさ。やりっきってこいよ」
「そーそー! そしたらそこに書いてあることだって、本当に出来ちまうかもしんねーぜ?」
島津の言葉に魚住が乗っかり、春菜が微笑みかけた。
「応援行くよ、どこだって。
だって私達、友達だもん」
「み、皆・・・! うん! 私、テニスやりたい!
もう一度、あの頃みたいにやってくる!!」
テニスボールを握り締めて、もう一度夢を追いかけることを決めた彼女の目は輝いていた。
「あとは誰の・・・ って、これ!?」
中を覗き込んだ都が取り出したのは可愛いピンク色で、中央にうさぎマークがついた可愛らしい。のだが、タイムカプセルに入れるのは正気が疑われる女性物の下着だった。
「あたしのパンツじゃない!!
体育の時、着替えでなくしたと思ってたヤツ! 誰よ! こんなモン入れたの!!」
魚住はカセットテープ、立石は大リーグカード、島津はウイニングボール。
冬美は不明、都は日記帳、綾花はテニスボール。
あと残っているのは金田一と春菜であることを考えれば、答えは実質一択である。
そして、金田一はどこまでもバ・・・ 否、正直者であった。
「え・・・? それ、お前のパンツだったの?
綾花のだと思って、匂い嗅いじゃった・・・」
剣持警部、こっちです。
「やはり、キサマか・・・!」
「わ、私のだとしても匂い嗅ぐのはちょっとやめてほしいかな」
「都、手伝うわよ」
ピシリッと音が聞こえてきそうなほどの都の怒りに触れ、まさか自分のだと思われていた綾花は金田一の発言に引き、冬美が腕まくりをして参戦を宣言する。
「都ちゃん、冬美ちゃん、ぼ、暴力は・・・」
「春菜、駄目だ。これは金田一が悪い」
止めに入ろうとした春菜を島津が止め、すぐさま金田一がボコボコにされていく。
「はうっ!!」
「バーカ」
「自業自得だべ!」
ボロボロになってふらつく金田一を支えつつも、魚住と立石は笑う。
「金田一くん、大丈夫?」
「うぅ、春菜だけだ。俺の癒しは」
鼻血を出している金田一に春菜がティッシュを差し出し、ありがたく受け取る金田一はわざとらしくヨヨヨと泣いている。
「春菜、あんまり金田一くんを甘やかしちゃ駄目よ」
「そーそー。立石と一緒になってすーぐスケベなことするしょーもねー奴なんだからな」
「うへぇ、俺、金田一のせいでとばっちりくらっちまった」
「でも立石も、記念写真の時に綾花のスカートめくってたよな」
「島津、オメェが俺を裏切んのかよぉ」
そう言ってからひとしきり全員で笑って、最後の一つを金田一が手に取った。
「最後は春菜か。
これ、スケッチブックか?」
「うん」
金田一がスケッチブックを開くと、そこには中学の時の彼らがいた。
野球をしている島津と立石、ギターを肩にかけて楽し気に鳴らす魚住、テニスラケットを手に夢中になってボールを追いかけている綾花と読書をしている冬美、誰かを見ながら駆けて行く都。そして、そこで当たり前のように笑っている金田一。
あの頃の自分達が、描いている春菜が彼らをどう思っていたかを示すような優しい線で、そこに居る。
「春菜が俺達のことをすげー好きなんだって伝わってきてさ、なんかスゲー嬉しいよ。
サンキュ、春菜」
「うん。私、大好きだったの。凄く。
皆と一緒に居る日々が今も好きで、大切」
金田一の笑顔に春菜も優しく微笑むことで応え、スケッチブックの絵を見た綾花がおずおずと切り出した。
「春菜ちゃん、この絵、貰ってもいいかな?」
「おっ? どうした、綾花。
ハッ! まさか春菜が有名な画家になる前に未発表且つ初期の作品であるこの絵を貰って置こうって魂胆か!?」
「ハジメじゃないんだから、綾花がそんなバカなこと考えるわけねーべ」
スパーンと見事な音をたてて都が金田一の頭を叩き、それを苦笑いしながら綾花が『違う違う』と首を振った。
「この絵を見てると中学の時の自分の気持ちを忘れないでいられると思うから、部屋に飾っておきたいなって。あっ、コピーでもいいんだけど」
「勿論いいよ」
スケッチブックから切り離して直ぐに渡された絵を、綾花は大事そうに抱きしめる。
「ありがとう、春菜ちゃん。
大切にするね」
綾花の行動をきっかけに他の皆も絵を欲しがり、春菜は快く渡していくのを見て、金田一がこっそりと話しかける。
「春菜、いいのかよ?
そんなにやっちまったら、なくなっちまわねぇ?」
「うん、いいの。
また描くし、それに・・・ これからの皆を描いていけることが嬉しいから」
そう語る春菜の目はあの頃と変わらぬ優しくも、幸せそうなもので、金田一も嬉しくなって笑いだす。
「だな!
そういやさ、俺が所長達にここ勧めたのってさ。春菜に話しかけた時のことを夢に見たからなんだよ」
「そうなの?」
「校舎の片隅で雪描いてた春菜に声かけたらさ、なんか次々と皆の思い出がわー!って出てくる夢でさ。
なんかめっちゃ懐かしくなって、皆に会いたくなっちまったんだ」
夢に出た懐かしい姿の皆と、少し成長したけど変わらず楽し気にしている皆の姿が重なり合い、金田一は笑う。
「きっとこれから皆大変だけどさ、こうした時間はなくしたくねぇーなって改めて思ったよ」
「うん、私も。
ありがとう、金田一くん。私を助けてくれて」
「なんだよ、急に。それに俺は大したことしてねーって」
「金田一くんにとっては大したことないことに、きっとたくさんの人が救われてるよ。
そんな金田一くんのこと、私はずっと大好きだから」
「おう! 俺も大好きだぜ! 春菜」
「ありがとう」
屈託のない金田一の笑顔を眩しそうに見つめて、春菜は金田一の手を引いて皆のところへと入っていく。
仲の良い八人の少年少女は、あの日と変わらない友情で確かに結ばれていた。
彼らのその光景を、小城と揚羽は少し離れたところから見守っていた。
「あぁ、綺麗な景色だなぁ」
彼らにはまだまだこれからしなければならないことも、向き合わなければならない現実もある。
だが、今このひと時だけは誰に邪魔されることなく、仲間と共に幸せに笑っていればいいのだ。
「えぇ、本当に」
「悪いね、揚羽くん。せっかくの休暇だったのに」
「いいえ、かまいません。
こんな素敵な景色を小城さんと見られたんですから、とても充実した休暇ですよ」
「そう言ってもらえると救われるよ」
揚羽の優しい言葉を聞きながら、また彼らへと視線を移す。
(あぁ、本当に綺麗な景色だ)
幸せそうに笑い合う八人の仲間達。
彼らを包み込むように舞う桜と雪は彼らが神様からも愛され、祝福されているようだった。
この景色が見たかった・・・
きっと原作の彼らも、そうだった(´;ω;`) そうだと信じたい。
魚住 響四郎
→ 七人の仲間の内の一人。中学時代はミュージシャンを目指し、その頃から春菜に片想いしていた。現在は父の手伝いをし、漁師見習いをしている。この事件を書いている際、作者の中で株が上がったのは断トツで彼。夢も、恋も誰よりもまっとうにぶつかって、その結果がどうあれ腐ることなく他の道を選んだ。やけくそであっても、これらの行動は尊敬に値する。
立石 直也
→ 七人の仲間の内の一人。島津とバッテリーを組み、共に野球をやっていた。金田一と共にスケベな行動が目立つが、廃校が決まった際はまじめに勉強に取り組み弁護士になることを夢見ていた。島津が野球で成功することを願っており、彼の夢がかなうところを誰よりも近くで見ていたかった。
島津 匠
→ 七人の仲間の内の一人。そして、原作における『雪影村殺人事件』の犯人。ずっと野球をしていた野球少年であり、モテ男。だが、高校一年で肩を壊し、肩より上にあがらないという後遺症が残る大怪我を負って、野球を引退。春菜の励ましもあって推理小説を書き出している。
死んでほしくなかったのは、春菜。救われてほしかったのは、都。
全員救われてほしい気持ちはあったけど、その中でも同性の友人全てを失って、仲間全員がバラバラになっていったあの子の気持ちを考えると辛すぎた・・・
いつでも会えると思っていた友人が、二度と会えない場所に三人も逝ってしまった。
そして、その犯人も友人だった。
この事件は本当に、辛すぎた(´;ω;`)