小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

あの人を出す事件書くって言ったのに、出てない(;^ω^) ゴメンナサイ。出すフラグは今回で立ててたから勘弁(;^ω^)
書き上げてからすぐに投稿するか迷ったけど、この話は直接的には事件の話じゃないので投稿。

さぁー・・・ フラグたてたからには書かなきゃ。


事務所にて

 文字通り、山のような土産を抱えて帰ってくれば、何故か金田一が事務所で正座させられていた。

 

「えっと・・・ とりあえず皆、お疲れ?」

『っ!?』

 

 声をかけるのも躊躇われる状況だが、何も言わずにいられるわけがないので一声かけると全員が驚愕の表情で小城達に振り向いた。

 

「なんで二人は事務所に帰ってくるのよ!? 休暇使っての旅行帰りなんだから直帰するのが普通でしょ!」

 

「それはそうなんだけど、僕の家の冷蔵庫だとお土産が入りきらないから事務所の方が都合がよくてね。

 ついでにあちこちに旅行土産を渡したり、送ったりもしたからお礼の手紙や電話が来るかもしれない。いつも通り対応を頼むよ、舘羽くん」

 

「それはかまわないけど・・・ 荷物多いわね」

 

 両手いっぱいに持った紙袋を狩谷がすぐに『持ちますよ』と手伝い、応接机が紙袋で埋まったところで小城が肩を竦めた。

 

「君達が僕らを休ませるためにあちこちのお土産をリストにしてくれたからね、実はまだ車にあるんだよ。

 緑さんとるりちゃんへのお土産はカフェで渡してきたから、男性陣は少し荷物を事務所にあげるのを手伝ってもらっていいかい? 舘羽くんは揚羽くんに話を聞きながら冷蔵庫にしまったり、お土産の振り分けを頼むよ」

 

「はいはい、その後はお土産話・・・ というか、雪影村の話を聞かせてもらいますからね」

 

 舘羽のそんな言葉に『誰が所長で、副所長って誰だっけ?』と笑いながら思ってしまうが、流石に男六人で行くのは多かったがそのおかげもあって荷物回収は一度で済み、ざっと荷物の整理を済ませてから一息つく。

 

「で、最初の状況の説明をお願い出来るかな。

 なんで金田一くんを正座させてたんだい?」

 

「金田一くんが意味ありげな夢見てたくせに報告せずに、所長の休暇先に推薦したからですね」

 

 とても良い笑顔で告げてくる狩谷は、この中で一番の状況を楽しんでいるのだろう。

 

「たまたま依頼が来たのもあって安易に賛成した僕らにも非がありますが、まさか五年も会ってない友人にも事件が起こる可能性があるなんて・・・」

 

「いやぁ、それは考えてなかった徹が悪いね。

 高森さんも小学でのクラスメイトだったんだから、中学の時に知り合った友人なんて危険性は十分あるだろう。

 まぁ僕も僕で君達からの休めっていう圧力に屈してたから、気づかなかったわけだけど」

 

 思い詰めたような徹を小城はわざと明るく笑えば、檜山が睨む。

 

「いや笑い事じゃねーから、所長。

 結局、千家の言った通りだったじゃねーかよ」

 

「それはその・・・ なんというか、弁明のしようもありません!」

 

 正座の状態から頭を下げる金田一を、揚羽が慌てて止めに入った。

 

「金田一くんは何も悪くません。

 五年ぶりに会う友人が思い詰めてるなんてわかるわけがありませんし、むしろ手遅れになる前に私達があの場にいたのは本当に幸いでした。

 確かに小城さんのお休みに被ったことは不幸でしたし、いろいろありましたが・・・ 金田一くんを責めるのはやめてあげてください。金田一くんだって辛い思いをした被害者の一人なんですから」

 

 金田一の隣に行き、彼を慰めるように頭を優しく撫でれば金田一も涙ぐみながら『揚羽さぁ~ん』と抱き着いた。

 

「勿論僕も揚羽くんと同意見だよ。それに最上さんの仕事と同時進行で出来るような些細なことしかしていないし、友人間の話し合いで全部片付いたんだから気にしてないよ。

 後半はしっかりあちこち観光もしてきたし、のんびりもしたよ。証拠のお土産と、帰ってきてから皆で食べようと思って買ってきたお菓子もあるからお茶にしようじゃないか」

 

 これでこの話は終わりとばかりに金田一に立つように促すと、金田一と揚羽以外の全員が『この人はこれだからさぁ・・・』とばかりに呆れや苦笑、苦い顔などして溜息をついた。

 が、そんな態度を取りつつもお茶を断る気はないらしく、小皿や各自のカップを取り出してお茶の準備が始まり、小城はマガドリ様用に今回の旅行で買い揃えた桜の形の小皿とお茶用に買った白い中に黒い三日月が一つ浮かんだ湯呑にお茶を注いでいく。

 

「所長、マガドリ様にも食器揃えたんすか!?」

 

「いい機会だったからね、どうかしたかい?」

 

「え・・・ いやだって」

 

「君も僕もいろいろ助けられているし、縁あって一緒に居るなら快いものであってほしいじゃないか。それに事務所の一員なのにいつまでも客用の食器を使ってもらうのは寂しいだろう?」

 

 言いながらお菓子とお茶を神棚にあげると、+.゚.( °∀°)゚+.゚。とキラキラした目をして自分用の食器を眺めていて、お菓子やお茶が入っていなければ今にも食器に頬擦りしそうな様子だ。その幸せそうな様子を見て、金田一も嬉しそうに笑う。

 

「やっぱ所長って、良い人っすよ」

 

「神様のご機嫌取りをしてるだけさ」

 

「へいへいっと。っとに素直じゃないんだから、もー」

 

「所長、金田一くん、お茶が入りましたよ」

 

 揚羽の声に振り向けばお茶の準備が終わっており、全員が着席。皆がお茶や菓子に口をつけたところで、舘羽が小城を見た。

 

「それで所長、結局どんな問題だったの?」

 

「おや、全員知っていると思ったけど違うのか」

 

「二人が出掛けて数日と経たないうちに金田一くんが事務所に慌てて駆け込んできたと思ったら、兄さんに土下座して『所長達の旅行先に行きたいから休ませてください!』って頼んできたら厄介ごと確定でしょ・・・ 兄さんも何故か口を割らないし」

 

 舘羽は恨めしそうに徹を見るが、彼も大切な妹から珍しく視線を逸らす。

(そりゃ噂で済んだとはいえ、自分もそうなりかけた近親相姦関連で友人同士が揉めたなんて言いたくないよなぁ)

 

「雪影村で起こったのは友人同士の些細な行き違いだよ。

 よくあるだろう? 何かのきっかけで友人同士がちょっとした噂を流して、関係に亀裂が入るようなことが。今回はそこに妊娠や自殺未遂もあったから事態が深刻化したんだ」

 

「んで、所長が自殺をぎりぎりで助けてくれて、俺は俺でその自殺未遂を知ったダチに助けを求められたってわけです」

 

 小城の説明を引き継ぐ形で金田一が土下座して向かったところまでを語れば、千家がふと気になって聞いてくる。

 

「なぁ、はじめ。

 お前、そこの友達と知り合って一緒に居たのって何日だったっけ?」

 

「え? 五年前の二週間とこないだの数日だから・・・ 一か月ないくらい?」

 

「こいつもう、妖怪の一種じゃね?」

 

「コミュニケーション能力が高くて、親しくなった存在を事件に巻き込む妖怪?

 まぁ居ても不思議じゃないよね、カラスの神様とか今回の雪影村にも三柱の神様がいるって話だったんだから」

 

「俺、人間なんですけど!? ピッチピチの高校二年生で、健全な男子高生ですから!」

 

 いつもの金田一いじりが始まっていく中、徹が真剣な顔で小城に向き直った。

 

「所長、対応Kの対応範囲を広げましょう。

 彼の幼馴染、小中高の関係者全員、金田一家の親類縁者が関係したら、全て対応Kにすべきです」

 

「ハハハハ、採用」

 

「笑って流すのかと思ったのに、採用するんかい!」

 

 二人のやり取りに金田一のツッコミが入るが、徹同様真剣な表情をした舘羽が割り込んだ。

 

「いや、それじゃ足りないでしょ。

 もう金田一くんの知り合いってだけで対応Kにすべきじゃない?」

 

「姉様、それだと金田一くんが持ち込むことは全部そうなってしまうのでは・・・」

 

「ぐはぁっ!?」

 

(舘羽くんの陰に隠れてるけど、揚羽くんも結構言うよなぁ)

 わざとらしくダメージをくらったように膝をつく金田一を横目に、無意識に言葉での急所攻撃を得意としている揚羽に徹らとの血の繋がりを感じる。

 

「で、所長。

 島津とかのことで聞きたいことがあるんですけど」

 

「なんだい?」

 

「『こっちで仕事を紹介してもらうことになった』とか、『タレントしか考えてなかったけど視野が広がった』とかは聞いてんですけど、どんな話したんすか? てか、島津に何の仕事やらせんのかなって」

 

「別に強制労働させるわけじゃないけど・・・ 彼、推理小説家希望なんだろう? でも、物書きで食べていくのはそう簡単なことじゃないし、あまり言いたくはないけど野球しか知らない彼はいろいろな経験が足りなさすぎる」

 

 正直、彼に勧める仕事に関して小城は非常に悩んだ。

 中卒ですぐに金が要るなら肉体労働が一番手っ取り早いのだが、彼は怪我の後遺症によって右腕が肩から上にあがらない。それに加えて、彼自身が推理小説を書くことに意欲が向いていることを無駄にはしたくない。

 が、漫画家然り、小説家然り、それだけで食べていくのはどれだけ困難であるかは、結果的には有名となった文豪達の経歴を見ても明らかだ。

 

「だから、駄目元で和田さんのところで下働きから使ってもらえないかを打診するつもりだよ」

 

「和田さん・・・ って、誰でしたっけ?」

 

「オメーが恋路破壊者(ラブクラッシャー)になった時に、あのフリーライターと一緒に来てた眼鏡のおっさんだよ」

 

 檜山の言葉で金田一以外も誰かを理解したが、何人かが不思議そうに首を傾げる。

 

「所長のトレジャーハンター関係の知り合いで、それ関係の出版社の編集さんですよね」

 

「人選ミスじゃない? 所長の知り合いなら作家やってる人とかいるでしょ?」

 

「いなくはないけど、漫画家じゃない限りは小説家とかはアシスタントなんていらないと思うよ。ましてや男を雇うくらいなら、可愛い女の子のお手伝いを雇うだろうしね」

 

「やけに具体的ですね、所長。

 知り合いにそういう方がいるんですか?」

 

 千家の問いかけはあえて笑って答えずにいると、何故か千家の顔が固まり小さな声で『えっ、マジでそういう人いるんですか?』と呟いていた。

 

「で、なんで編集の下働きなんすか?」

 

「まず前提として僕自身これが正しいという確信はないし、働くかどうかは彼次第だということを言っておくよ」

 

「えっ、なんで予防線張るんすか」

 

(自信がないからだよ!)

 という内心の叫びは勿論声には出さず、少し考えつつ語りだす。

 

「理由としては編集という形に限らず、彼には様々な文章に触れる機会が必要だと思ったからだよ。それに加えて和田さんのところはトレジャーハンター関連の内容もあるからね、面白い体験や知識が集まりやすい。

 経験は何にも代えがたい宝だし、知識は知らないと得られない。文章は触れなければ書けないし、編集という視点から得られるものもきっと多いだろうと思ってね」

 

「ほへー、所長ってばいろいろ考えるんすねー」

 

「そりゃそうだよ。若者の将来も左右されるし、ましてや彼は今後家族を支えていかなきゃいけないんだ。

 でも、それで彼の夢を完全に諦めるなんて辛いだろう?」

 

 正直に言ってしまえば、島津を事務所で雇って、それなりの給与を払う方が簡単といえば簡単なのだ。

 だが、それではいけない。

 彼の双肩には既に一人の女性と子どもの人生がかかっており、生活を守らなければならない。

(けれどそれで・・・ 夢破れた彼を支えた新しい夢を潰すのは、あまりにも悲しいじゃないか)

 

「所長は甘いですよね~。

 未成年で相手を妊娠させたんだから自業自得なんだし、そこまで取り計らってやることないでしょうに」

 

「甘いのは自覚してるよ。冬美ちゃんもタレントのことしか頭になかったみたいだから、女優やモデルの仕事もあることも話したしね。

 それで檜山、一つ確認したいことがあるんだけど」

 

「んっす、なんすか?」

 

 舘羽と揚羽をちらっと見て、少し迷う仕草をしながらやはり前置くことを決めたらしく、申し訳なさそうな顔をする。

 

「女性の手前、非常に言いにくいんだけど・・・

 麗美ちゃんとそういう関係になってること前提で聞くよ、ちゃんと避妊はしてるかい?」

 

 そこで問われた檜山が茶を噴き、激しく咳き込み始めた。

 

「そ、それは・・・ その・・・」

 

 もう何も言わなくても、その反応で所員の大半が察した。

 『こいつ、ちゃんと避妊してねぇな』と。

 

「檜山?」

 

 笑顔で圧をかけると檜山の額に冷や汗がつたい、徐々に身を引いていく。

 

「いいかい? 君達が家族を求めてることはわかるし、恋人期間が長い。それに君達の年齢でそういうことに興味があることも、大切な人とそうなりたいこともわからなくもないよ。

 でもね、麗美ちゃんはまだ高校二年生で、君も彼女も親戚の家に身を置かせてもらってる身なんだ。これは島津くんにもがっつり言ったし説教したけど、避妊は双方の責任があれどどちらかといえば男性側のマナーだってことはわかってるかい? 大学生なこともあって時間に自由があって、融通が利くからって君が事務所にかなり入ってくれてるのは助かってるし、君が今後ここに就職することに反対するつもりはないけど、それでも麗美ちゃんを大切に想っているんだったらせめて高校卒業・・・ もっと言えば彼女自身の将来の展望を聞いて、二人でしっかり家族計画を立てなさい」

 

「すんませんでした!」

 

 小城の説教に檜山が深く頭を下げて謝罪するが、傍で聞いてた舘羽が溜息をついた。

 

「これ、檜山だけじゃなくて麗美ちゃんにも注意しておく必要があるわね」

 

「そう、ですね・・・ 所長もおっしゃってますが、避妊は男性だけの責任ではありませんから」

 

「犯罪じゃない限りはね。

 所長、麗美ちゃんには私達が話しとくわよ」

 

「お願いするよ、こういう話は異性だと話しづらいから」

 

 胸を撫で下ろす小城に舘羽が微笑み、そこでお茶とお菓子が切れたのでお茶の時間の終わりを告げた。

 

 

 

 

 それから数日、事務所には平和な日常が戻っていた。

(結局、どこか行くよりも事務所にいる方が休めるんだよなぁ)

 学生所員がいない必要最低限で回る程度の仕事しかない時間、これこそが道楽で始めた探偵事務所の正しくも理想的な在り方。

 旅行土産をあちこちに送ったためお礼の連絡やお返しなどが届いたり、雪影村関係であちこち連絡を取ったり多少したが、それもほとんど終わっている。最上の依頼も無事終わっているし、あとは何事もなく一日が終われば幸せな一日で終わるだろう。

 

「所長、いつきさんからお電話です」

 

 が、そんな期待は大抵裏切られるものである。

 小城の少し嫌そうな顔に気づいた舘羽がハンドサインで『切る?』と尋ねてくるが、首を振って電話を取った。

 

「よぉ拓也、儲かってるかぁ!」

 

「探偵が儲かってる世の中って多分碌なもんじゃないですよ、いつきさん。

 どうかしましたか? 先日のお支払いは済んだと思うんですが」

 

「おう、そっちはしっかり確認してる。葉月も満足そうだったぜ。

 しっかし、わざわざ俺達にまで土産送ってくることなかったんだぞ?」

 

「仕事の方は当然として、お二人には仕事の依頼も貰っているので心ばかりのお礼ですよ」

 

「おかげで俺も葉月の地味な仕事頼まれずに済んだしな。それに俺とお前は持ちつ持たれつ、ギブアンドテイクだろ。

 んで、だ。今回連絡したのはパーティのお誘いだ」

 

「は? パーティ?」

 

 三十の独り身男から最も無縁であろう言葉が飛び出たため、おもわず問い返すと電話口のいつきは楽しそうに笑っていた。

 

「あぁ、橘先生がようやくあの一件の原稿を書き上げたんだよ。

 で、あちこちの出版社から声をかけられまくって鬱陶しいんだが、どうせなら娯楽に変えたいんだと。で、出版権をかけて希望者達を競わせるちょっとしたゲームをしたいらしくてな」

 

「あー・・・ 橘先生ですか、相変わらず良い趣味してらっしゃる」

 

 当然皮肉だが、もう既に面倒なことを頼まれることを理解して溜息を隠さない。が、小城のそんな反応も想定内だったらしくいつきの声は楽しそうだ。

 

「だよなぁ。実力も、人気もある大物作家だから出来る馬鹿げたパーティだ」

 

「それで? まさか僕にその出版権を勝ち取れとでも?」

 

「おいおい、協力者で探偵なお前が出版権とってもしかたねーだろ。

 先生がお前に出席者の相談をしたいんだとさ。お前なら謎解きが得意で、適度にパーティを盛り上げてくれそうな知り合い居るだろ?」

 

「つまりいつきさんに声がかかったのは、僕を含めてあちこちに知り合いがいるからってことですか」

 

「その通り!

 まっ、多くはねーけど、この件の仲介料はあちこちから貰える予定だな」

 

「儲かってますねー」

 

 完全に棒読みで言いながら、ペン先でメモを叩く。

(あの一件、か。

 関係者として出席させられることも覚悟していたけど、まさか出席者の相談までされることになるとは・・・ 信頼されたものだなぁ)

 

「わかりました。

 相談についてはこちらが橘先生の別荘へ伺うのでよろしいですか?」

 

「別に先生がそっちの事務所に行ってもいいって言ってたぞ?」

 

「橘先生にご足労頂くのは申し訳ないので、こちらから伺いますよ。いつきさんも同席するんですよね?」

 

「あぁ勿論、俺もあちこちに顔が広いからな。それにあの橘先生の新作だ、食いついてくる奴なんて山程いるだろうよ。

 そうだ! 金田一を出席させてもおもしれぇかもな」

 

「それも含めて、後日話し合いましょう」

 

 別荘で会う日を決め、電話を切ったところで扉の向こうに影が映った。

(なんだろう・・・ 凄く嫌な予感がする。それも深刻というより、厄介事な感じの)

 一周回って悟りを開いたような優しい目つきになってしまい、扉の向こうから何が来ても受け入れる体制をとる。

 

「ちゃーっす! 今日も元気に出勤しました、金田一でーす!」

 

(なんだ、金田一くんか)

 

「おぅ、邪魔するぜ」

 

「え?」

 

 『所詮、勘は勘か』と思って視線を資料に戻して手をあげれば、さらに続いた声にすぐさま振り返った。

 

「剣持警部? 何かお約束してましたか?」

 

「いや、その・・・ すまん!」

 

 パンッと気持ちのいい音をたてて両手を合わせながら、剣持はそのまま頭を下げた。

 

「警視庁に『脅迫状在中』って彫られた妙な小包が届いたってんで、金田一に協力してもらおうと思って急遽邪魔する形になった。この詫びはまたするんで、とりあえず話を聞いてもらってもいいか?」

 

「かまいませんけど、警察が一高校生を頼りにするのは控えてあげてください」

 

「うっ! すまん、金田一!」

 

 一応釘をさしておくと剣持も自覚があるらしく、素直に金田一に頭を下げる。

 

「いや、頭上げてくれよ。おっさん。

 そんだけおっさんに頼りにされてるってことだし、俺も安請け負いしてんだからさ」

 

「『君がいいならいい』って言ってあげたいけど、明智さんがどうして君をウチのバイトに推薦したか考えてあげてくれ。

 君一人が直接事件に関わらないように、せめて僕というストッパー(大人)を一枚入れるためなんだよ」

 

「あの嫌味明智はそこまで考えてないっしょ」

 

「君ねぇ・・・」

 

 金田一の中でどんだけ明智の印象が悪く、評価が低いのかを思い知りながら、また溜息が零れる。

 

「そんでさ、所長。

 帰り道におっさんに会って、警視庁に届いた仕掛けのあった小包をちょちょいっと開けてきたんですけど、そしたら『地獄の傀儡師』っていう奴の予告が書いてあって・・・ 所長、俺、ちょっと行ってきていいですか?」

 

 金田一の言葉に小城は自分の体から血の気が引いていくのを感じつつ、表情に出さないようにと温かい紅茶を口に含んだ。

(ついに来たか、魔術列車殺人事件。いや、高遠遙一)

 小城が最も恐れ、金田一と関わる以上は避けることが出来ない存在だとわかっていた彼と、ついに運命が交わろうとしている。

(でも、俺は・・・ 僕は・・・)

 不意に脳裏によぎった考え、自分を飲み込もうとする思考の渦に流されかけていると、不意に肩を叩かれた。

 

「小城さん」

 

「・・・揚羽くん?」

 

「お顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 

 顔をあげるとそこには自分を気に掛け、心配そうな、不安そうな顔をした揚羽がおり、肩に置かれた手に自然と触れた。

 その手の温もりが少しだけ、そう少しだけありがたいと思った。

 

「いや、大丈夫だよ。ありがとう。

 悪いのだけど、紅茶のおかわりを貰ってもいいかな?」

 

「はい。具合が悪いようでしたら、無理はなさらないでくださいね」

 

「本当に大丈夫だよ。さっき大口の仕事が入ったばかりだったから、まさか警視庁からの仕事が来そうなことにちょっと慌ててるだけさ」

 

 心配してくれる揚羽に問題ないと肩を竦めてアピールすれば、剣持が不思議そうな顔をする。

 

「大口? 差し障りないなら聞いてもいいか?」

 

「知り合いの作家が新作を出版するとかで、それに関連するちょっとした集まりに参加するように頼まれてるんですよ。

 というか、警察なら知っているんじゃないですか? 臓器密輸を行っていた医師が、その協力者を得るために関係者の手術を失敗ということにしていた一件」

 

「お前、あの件にも関わってたのか!? ってことはその作家って、橘 五柳か!」

 

「えぇまぁ、僕が萬屋病院の一件にも関わっていたことをいつきさん経由に知った橘先生に協力を仰がれましてね。

 正直言ってしまうと、僕はもう橘先生にも、あの一件にも関わりたくないんですけどね・・・」

 

「なんの話っすか?」

 

「もう少しすればわかるよ。

 有名なノンフィクション作家が書き上げた、とんでもない新作でね」

 

 近々出版されるであろう暴露本と、事が事であるために警察とも連携せざるを得なかったこの一件は世間を賑わすであろうことが目に見えている。

(尤もこの世界、事件が多すぎて賑わってない時の方が少ないんだけど)

 

「で、関わりたくないってなんでだ?

 あんだけ有名な作家に関わってんだ、払いをケチられたりすることもないだろ?」

 

「あの先生、大の女性好きでして・・・ お会いするたびに理由をつけてキャバクラに連れていこうとするので」

 

「何が困るってんだ? 先生の奢りってんなら楽しめばいいだろ。

 なぁ? 金田一」

 

「いやぁ、まったく。俺ならめっちゃくちゃ楽しむと思います」

 

「奥さんと美雪ちゃんに伝えとくね」

 

「「やめ()!?」」

 

 二人が頷きあいながら『羨ましい』というので、とりあえず二人の最も身近な異性に報告する旨を告げれば顔色が面白いぐらい変わる。

 

「それで金田一くん、君がその予告の場所に向かうのは勿論構わない。

 が、今は間が悪くてね・・・ 僕も仕事が入ってしまったし、他の所員にもいろいろとやることが重なって、君に同行することが出来そうにない」

 

(金田一くんの安全を考えるなら同行したい。だが、仕事が重なっている以上、同行は厳しい。

 それに・・・ この事件で彼が行うことを俺は、僕は)

 

 どろりとした何かが心に溢れだすのを感じながら、ふと手元にある紅茶に気づく。紅茶の澄んだ赤色と優しい香り、確かにある温かさは先程触れた揚羽の温もりと同じように感じた。

 そして、小城は突然立ち上がり、神棚に腰かけてのんびりしていたマガドリ様に微笑みかける。

 (。 ´・ω・)?『どうしたの?』とばかりに不思議そうな顔をするマガドリ様をぬいぐるみのように抱きかかえ、金田一の元へ向かう。

 

「だから、マガドリ様に同行してもらおうね」

 

「え? あ、どうも?」

 

 手渡されたマガドリ様を受け取れば、マガドリ様も金田一の腕の中で(●・ω・)/ ヨッ!と手をあげた。

 

「なんだ? そのぬいぐるみ」

 

「ウチの事務所のマスコット兼神様兼所員のマガドリ様ですよ。

 縁あって事務所に来てくれて、所員を危ないことから守ってくれるお菓子とお酒が好きな所員ですので、一緒に居る間は現地の美味しいものをお供えしてあげてください」

 

「お、おぅ? わかった」

 

 小城が当たり前のように紹介するので剣持も訳も分からず頷くしかなく、金田一は金田一で腕の中にいるマガドリ様に戸惑いを隠せなかった。

 

「いや、俺がどっか出掛けるってだけでなんで所員の誰かがついていくこと前提なんすか!?

 つーか、皆の都合がつかないからってすぐに神様同行させるとかなんでだよ!」

 

「この間、言ったろう? 対応Kの範囲を拡張するって。その一環だよ。

 大丈夫、マガドリ様は必ず君を守ってくれるよ。お願いするよ、マガドリ様」

 

 ミα(゚Д゚ )マカセロ!! と心強いポーズをしてくれるマガドリ様を優しく撫で、金田一をまっすぐ見つめる。

 

「金田一くん、くれぐれも気をつけて。何か困ったことがあったら、すぐ連絡するように。

 剣持警部がついていくことを考えると心配しすぎかもしれないけど、今回は脅迫状が招待状を兼ねているくらい物騒だからね。とにかく用心するように」

 

「所長・・・」

 

 感動したように見つめ返してくる。

 が、次の瞬間、彼の口から飛び出てきたのは実に彼らしい言葉だった。

 

「ぶっちゃけおっさんがついてるから安全の保障って、全くないっす」

 

 その言葉で所内のあちこちから笑いが生まれ、それは彼の目の前にいた小城も例外ではなく、金田一の頭目掛けて剣持の拳骨が落ちた。

 

「お前が言うな!」

 

「いってぇ~! だってそーじゃん! 俺、間違ってねーし!」

 

 所内で追いかけっこを始める二人を見守りながら、小城は静かに考える。

(さぁ、どうなるかな・・・)

 

 




こんだけフラグ用意してるのに、事件に辿り着いてない。
でも、この話は厳密には事件じゃないからしゃーない。

↓ 雪影村の仲間たちの今後を軽く紹介 ↓

島津 匠
→ 高校閉校を機に就職するため、小城が仕事を紹介

葉多野 春菜
→ 高校中退し、妊娠出産に向けて準備。将来的には高校認定取得をしつつ、絵の才能を活かしたいと思っている

太刀川 都
→ 隣町の高校へ編入。推理作家になる夢をかなえるために何をすればいいか模索しつつ、勉強に励む

蓮沼 綾花
→ 東京のテニスが強い高校へ編入を希望し、検討中、編入までに体力を戻すため、自主トレを始めている。

社 冬美
→ とりあえず隣町の高校へ編入しつつ、小城を頼って女優やモデルなどの知り合いと話をする機会を得ており、将来をより具体的に模索中。

立石 直也
→ 東京の高校に編入を検討しており、今は弁護士になるためにはどうすればいいかなどを調べつつ、勉強に励む。

魚住 響四郎
→ 隣町への高校に編入予定。漁師として道を邁進中。


いやなげぇよ、七人もいるから仕方ないんだけども。
この世界ではそれぞれの道を歩んでも、皆で仲良くして幸せにおなり。
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