小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

金田一不在の『金田一少年の殺人』事件(笑)
サブタイ詐欺だと承知だけど、事件名表記の方がわかりやすいという判断でこのまま行きます!
前話で立てたフラグをまずは小城から回収。

さぁー・・・ 次は金田一と高遠さんだぞぉ!


金田一少年の殺人

 軽井沢某所、橘 五柳の別荘を前にして、小城は溜息をついた。

(来たくなかったなぁ・・・ 本当に苦手なんだよなぁ、橘さん)

 

「拓也、ポーカーフェイスのお前らしくねぇくらい、顔に全部考えてることが書いてあるぜ?」

 

「ポーカーフェイスな僕の顔に書いてあるってことは隠す気がないか、隠す必要を感じないかのどちらかですよ。いつきさん」

 

「ちなみにどっちだ?」

 

「さぁ? どっちでしょうね」

 

 答えをはぐらかす小城に対して、いつきは追いかけていって首に腕を回す。

 

「どっちかはわかんねーけど、前者だったら俺に気を許してるってことだろ? だから、前者だと思うことにするぜ」

 

「はぁ・・・ お好きにどうぞ」

 

「てかよぉ、所員の誰かを連れてこなくてよかったのか?

 舘羽ちゃんとか、揚羽ちゃんとか、綺麗どころを連れてきたって良かっただろ?」

 

 わざとらしくニヤニヤしながらそんなことを言いだすいつきに、小城もいい笑顔で言葉を使って殴り返すことにした。

 

「それならどうしていつきさんは、最上さんを連れてきてらっしゃらないんですか?」

 

 その反撃にいつきの表情が石のように硬直し、自分が何を言ったかを理解したらしい。

 

「すまん・・・ うん、俺でも葉月は連れてこれねーわ」

 

「ご理解いただけたようでなによりです」

 

 そう話しながら別荘の入り口まで向かうと、そこには『待っていた』とばかりに館の主である橘 五柳が二人を出迎えた。

 

「やぁ、いつきくん、小城くん。待っていたよ」

 

 歯を見せつけるように笑う橘の傍にはそっくりな顔をした二人の少女と老婆が並び、頭を下げてきた。

 

「いやぁ! どーもご無沙汰してます。橘先生」

 

「橘先生、お久し振りです」

 

「あぁ、調査以来だ。

 あの後わしも執筆に入ってしまったから仕方ないが、もう少し頻繁にわしをかまってくれてもいいんだぞ?」

 

「ハッハッハ、俺みたいなしょぼいフリーライターは橘先生みたいに一つの仕事でがっつり稼ぐことが出来ないんすよ。

 でも、お誘いいただけたらどこにでもお供するんで、いつでも声かけてください」

 

「一介の探偵に過ぎない僕には、ノンフィクション界の超大物の橘先生に楽しんでいただけるようなお話は出来ませんよ」

 

「何を言ってるんだ、二人揃って。

 わしが目をかけていて、揃いも揃って面白いことばかりに関わっている君らの人生は非常に興味深いものだよ。特に小城くん、出雲や長野では大変だったらしいじゃないか」

 

 意味ありげに、まるでこちらに何が起こっていたかを知っているような物言いに小城は笑顔を貼り付けたまま内心げんなりする。

(これだよ・・・ こっちの全てを見透かしてそうな目と謎の情報網、なんでこれで一般人扱いなんだよ。お前みたいな一般人がいてたまるか)

 そんなことを思いながら橘の傍らに視線を向ければ、一卵性双生児の花村 葵と花村 棗と目が合い、小城は優しく笑いかけた。

 

「つまらないものですが手土産です。

 先生にはお酒と、こちらのお菓子は花村さん達に」

 

「君は本当にその辺りの気遣いが上手いな。

 わしはともかく使用人にまで普通は手土産など渡さんだろう」

 

「以前、こちらでお世話になったお礼でもありますが、僕は彼女達の先生仕込みの資料集めの能力を高く評価しているんですよ。

 いわば、賄賂です」

 

 お互い笑いながら言い合いつつも橘も小城の目が本気だと気づいているらしく、目が光り合う。

 

「フッフッフ、そうだろう? わし自慢の使用人だ、君の事務所にはやらんぞ?

 そうだな、君のところの優秀な所員と交換とあらば考えなくもない」

 

「ご冗談を。

 ウチの所員は確かに優秀ですが、情報を得るためなら国外にまで手を伸ばす先生のお役に立てるとはとても思えません」

 

「謙遜も過ぎると嫌味だぞ? 小城くん」

 

 不穏なやりとりに使用人三人はハラハラしているが、いつきが笑いながら割り込んだ。

 

「どっちの意見もすげぇわかりますよ。

 葵ちゃんも棗ちゃんも優秀だし、拓也の所員もすげぇ奴ばっかりだ。いやー、単独でやってる俺には羨ましい限りだ。

 さっ、先生。次のパーティの話をなさるんでしょう? 茶でも酒でもやりながら、楽しく話を進めましょうよ。こいつのところにまた面白いバイトが入ったのはご存知ですか?」

 

 いつきの言葉と二人の肩に親し気に回された腕に引っ張られながら、その場の全員が別荘内へと入っていった。

 

 

 

 

 

「君達以外にも呼んでいる者がいてね、しばらくここで待っていてくれ」

 

 そう言われて案内された部屋は前もって準備されていたらしく、部屋には数名が座れるようにテーブルと椅子があり、すぐに飲み物と軽食が並べられていく。

 

「小城さんは紅茶でよかったですよね?」

 

「あぁ、ありがとう。棗ちゃん」

 

「いいですよ、これも仕事ですから」

 

 どこかそっけない態度の棗に対しても、小城はニコニコしながら話しかける。

 

「二人も大変だね、僕らみたいなおじさんの相手までさせられて」

 

「おい拓也、二十三のお前がおじさんになったら三十の俺はどーなる」

 

「女性はいつまでもお姉さんですが、男は二十歳越えたらおじさんですよ。いつきさん」

 

「それは早すぎだろ!?」

 

 いつきとそんなやり取りをしていると葵は楽しそうに微笑み、棗も苦笑に近い形で笑っているのを見て、小城は満足そうに笑む。

 

「で、拓也? さっき先生に言ってたのは本気なのかよ?

 二人を先生のところから引き抜いて事務所に勧誘なんざ、これ以上事務方を綺麗どころ揃えてどうしようってんだぁ?」

 

(ほーぅ、まだその辺りのいじりをしますか。そうかそうか、いつきさんは金田一くんとリアルファイトを楽しむ一方で、僕とは言葉での殴り合いを希望しますか。

 よろしい、受けて立ちましょう)

 にやにやといやらしい笑みを浮かべるいつきに、小城も珍しく臨戦態勢に入った。

 

「葵ちゃんと棗ちゃんを人材として欲しいのは本当ですよ。

 情報の取捨選択やどんな情報を集めるかの指示は橘先生が出してるとはいえ、二人がこの年齢でノンフィクション作家の大御所を支えてるのは間違いない。十七歳でこれほどの才能を発揮しているなら、学費等を負担してより専門的に・・・ いいや、彼女達が望む方へと協力しても、僕に一切損はありません」

 

 そこで二人へと笑いかけると褒められたことを嬉しそうにしつつ、二人は複雑な表情をしていた。

 

「知り合いってだけの私達にそれだけお金を使おうとするなんて・・・ 正気ですか? 小城さん」

 

「ね、姉さん、失礼よ。

 でも小城さん、そこまでしていただくわけには・・・」

 

「フフ、正気かどうかはわからないけど、僕はいつでも本気だよ。

 軽井沢は確かに素敵なところだし、先生は確かに君達を優秀に育てているけど、僕としてはより大きく成長する姿が見てみたいからね。その末に僕の事務所に来るかどうかは、正直どちらでもいいんだ。

 僕は君達が自由に、本人が望むように大人になっていくのを見るのが好きなんだよ」

 

「お前、言葉と年齢があってねーし、傍で聞いてると結構ヤバい発言だってわかってるか?」

 

 小城のとても二十代前半には思えない発言に、いつきがどう見ても他にいろいろな意味を含めたいやらしい顔をした発言をすれば、当の本人は明るく笑い飛ばした。

 

「ハハハ! 葵ちゃん達と歳が変わらない子と添い寝した人が言うとは思えませんね。

 あぁそういえば、最上さんにもしれっと横抱き(お姫様抱っこ)もなさっていましたっけ?」

 

「おまっ!? さゆりちゃんの一件はともかく、なんで葉月の方も知ってやがんだ!?」

 

「あんな海岸でやっておいて誰も見てないと思う方が頭悪いんですよ、いつきさん。

 もっと言えばあれを見ていたのは僕だけじゃありません。上は矢木沢さんから下はえみりちゃんまで、仲睦まじい様子を微笑ましく見守らせていただきましたよ」

 

「それってあのツアーの参加者全員ってことじゃねぇか!

 お前だってえみりちゃんに懐かれて、今も『師匠』とか呼ばれてトレジャーハンター関係の仕事するたびにひっつかれてんじゃねぇかよ!!」

 

 まさか見られているとは思っていなかったいつきの顔が羞恥で真っ赤に染まり、負けじと小城の女性関係を暴露した。

 が、小城はそれも一笑する。

 

「アハハ、やっぱりバカでしょう。いつきさん。

 えみりちゃんは僕を師匠呼びこそしてますが、いつきさんと違って体に触れるようなことは一切していませんよ。それどころか将来有望なトレジャーハンターや探偵の卵の話まで聞いてくるぐらい、もっと近しい年齢の異性を狙ってるような強かな女の子です」

 

 肩を竦めつつ美浦えみりという女の子のことを語れば、小城の目はきらりと光る。

 

「あぁそういえば・・・ いつきさんは都築さんの娘さんとか、和田さんの娘さんにとても懐かれていて、事情を知らないライターのお知り合いにすっぱ抜かれそうになったとか。

 その後どうなったか、今ここでお聞きしても?」

 

「だから、なんでお前がそれ知ってんだよ!?」

 

「僕の知り合いのライターが、いつきさんだけとは限りません。

 そして、世間話で共通の知り合いの失敗話で盛り上がるのはよくあることでしょう?」

 

 ニコニコとしたままの小城と息を荒げて肩で息をするいつき、勝敗は誰が見ても明らかである。

 葵と棗は二人の言い合いの最中に静かに退室していたようで既に姿はなく、部屋には新しい来訪者のノックが響いた。

 

「お久し振りですわね、小城さん、いつきさん」

 

 そこに立っていたのは、腕に木箱を抱えた年齢不詳所美人警部 茅 杏子。

 日本人にしては淡い色をした髪色は彼女の祖父が英国人であることが関係しており、こちらを見透かすように細められた瞳はどこか妖艶。唇はもはやあえてその色を付けているとすら思うような真っ赤なルージュが彩り、その腕に抱えられた木箱を支える指先にはルージュと同色のマニキュアが塗られていた。

 茅の登場に小城が立ち上がって挨拶しようとすると茅がやんわりと手で制し、楽し気に微笑んだ。

 

「小城さん、今日はお互い招待客として呼ばれたんですから立ち上がって挨拶なんてなさらないで頂戴。

 それに私とあなたはどちらが上ということもない、いつだってお互い助け合い、補い合う・・・ パートナーでしょう?」

 

「表現が大袈裟ですよ、茅さん。

 僕は探偵として依頼を受け、望まれた情報を提供したにすぎません」

 

「依頼を忠実に、望まれた情報を手に入れる。

 たったそれだけがどんなに難しいか、わからないあなたではないでしょう?」

 

「どうにも皆さんは僕のことを過大評価しているようで・・・ そのうち僕の化けの皮が剥がれて失望されてしまうんではないか、これでも日々怯えているんですよ?」

 

 それこそ大袈裟に肩を抱いて震えて見せれば、いつきと茅が同時に笑いだす。

 

「お前の面の下に何か隠れてるってんなら、それはそれで是非拝んでみたいもんだよ。

 まっどんなであれそれがお前だってんなら、俺は大事な弟分として可愛がるけどな」

 

「普段見ることの出来ない小城さんの新しい一面なんて、とても魅力的ですわ。

 その一面が見れたのなら、小城さんには対価としてこの子をお見せしてもいいかもしれませんわね」

 

「見れたものではないから隠しているので、どうかご勘弁を」

 

 肩を竦めて苦笑すれば、その姿に二人がまた笑う。

 そうしていると再び扉が開く。自然と三人が視線を向ければ、そこには橘とテレビディレクターの都築 哲雄が入ってくる。

 

「ワハハ、わし抜きで随分と盛り上がってるようじゃないか。

 結構結構、是非その話題にわしも入れてくれ」

 

 楽し気に入ってくる橘とは違い、そこに居る面々を見た都築は深々と頭を下げた。

 

「皆さん、本当に今回の一件はどれほど感謝すればいいか・・・!」

 

「こらこら都築くん、せっかくの楽しい前夜祭なんだ。

 泣きながら感謝なんて興ざめなことはせず、今はただ作品の完成を・・・ 医学界の闇を共に暴いた仲間と楽しい時間を過ごすことにしようじゃないか」

 

 頭を下げる都築の頭をあげさせ、その肩を優しく叩いて笑う橘は原作におけるパワハラ、セクハラ、ハゲ親父という片鱗は見られず、ノンフィクション界の大物と呼ばれるにふさわしい度量の広い、フリーライターや身寄りがほとんどない老婆と孫を雇う面倒見のいい男がいた。

(酒が入らないで、女が関わらなきゃ良い人なのになぁ。

 それでも底が知れないから、出来るだけ関わりたくないが)

 二人が席に着いたところで橘が満足そうに頷き、そこに居る面々を改めて見渡した。

 

「こうしてまたこの面々で集まれたことを、わしは非常に嬉しく思うよ。

 何せ君達の誰が欠けても、今作の完成はなかったんだからね」

 

 橘が語り始めたところでタイミングを計っていたかのように次々と料理が運び込まれ、そこには当然のように酒も用意されていく。

 

「パーティの相談という建前で呼び出しておいてなんだが、実のところ君達を呼んだのはそんな堅苦しいものじゃない。

 さっき都築くんに言ったように、これは今回の執筆にあたっての功労者・・・ 言うなれば、君達はわしの大切な協力者達だ。説明していた出版権をかけたゲーム(パーティ)とは別に、君達とささやかな前夜祭をしたかったんだよ」

 

 そこでちらりと小城に視線を向けられ、笑う。

 

「騙し討ちになってしまったが、パーティの相談と(こう)でも言わないと参加してくれそうにない者がいたからなぁ。

 個人的にはキャバクラでもよかったんだが、女性もいる上に我々は責任ある立場で賄賂を疑われかねない。まったく、責任ある仕事や有名であることはなかなかに大変だ」

 

(何一つ間違ってないし、言葉は正しい筈なのに厭味ったらしく、わざとらしく聞こえるのはどうしてなんだろうか・・・? 見た目か? それとも僕が彼をハゲだと知ってたり、酒癖や女癖を知ってるせいなのか?)

 橘のありがたいお言葉を聞きながら大変失礼なことを考えていれば、棗と葵が全員にシャンパンを注いで回り、それを確認した橘がグラスを掲げる。

 

「さぁ、乾杯しようじゃないか」

 

『乾杯』

 

 全員が酒を口にすれば、茅が早速とばかりに全員へと視線を向けた。

 

「それにしても改めてみると・・・ 警察の私が霞んでしまうような凄い方々が揃っていますわね」

 

「まったくだぜ、木っ端のようなフリーライターの俺なんて場違いもいいところだ」

 

「それを言うなら僕でしょう?

 ありふれた探偵、しかもまだまだ経験の浅い若造が各業界で活躍する皆さんと並ぶなんて恐れ多いかぎりです」

 

 茅の言葉に同意するように声をあげるいつきと小城に、橘が大きく笑い、都築は溜息をついた。

 

「ハッハッハ! この場の縁を繋いだ、いわば立役者に等しいいつきくんがそんなことを口走るとはな!

 君にあれこれ教え、駆け出しの時はあれやこれやと世話を焼いたが、君の顔の広さはこのわしですら脱帽するよ」

 

「まっ、顔の広さと耳の速さはフリーライターの命綱みたいなもんですから。

 つーか俺、マジでそれぐらいしか役に立ってなくないっすか?」

 

「君がしてくれた『たったそれだけ』が全てを繋げてくれた。

 橘先生の仕事を小城くんに協力させ、そこから判明した病院から瑞穂と私の腎移植の件が判明し・・・ 私に話を持ってきてくれた。恥ずかしい話、私の元に来たのが橘先生と小城くんだったら、まともに話を聞くことは出来なかっただろう」

 

(そっすね、原作での出来事(事件)を考えると先生も俺も殺されてましたからね)

 自分の狭量を恥じるように肩を落とす都築を見ながら、内心で思ったことを噯気にも出さずに『仕方ない』と首を振った。

 

「まぁ、それも無理はありません。

 大切な娘を預けている病院が臓器の密輸に関与しているなんて、誰も信じたくありませんよ。ましてや、都築さんのテレビディレクターという仕事を利用するために、手術を失敗したことにしようとするなんて」

 

「密輸して得た臓器を高額で患者に売り払うだけでなく、それをより容易にする関係者を親族まで洗い出して、医者であることを最大限に活用して協力者を用意していく。

 本当に人間は、恐ろしいことを考えますわね?」

 

 感心しているような言葉でありながら、興味深そうに細められた彼女の目からは確かな軽蔑を覗かせていた。

 

「茅さんにご協力いただけたことは本当に幸いでしたよ。

 いくら橘先生の作品で世間にこれらを明かすことが出来ても、探偵の僕では医学界の闇を綺麗にすることは出来ませんから」

 

「フフッ、感謝するのはむしろこちらですわ。

 警察というものはどうしても『何かあってから』でなければ動けず、『確かな証拠』がないことには言及することが出来ませんもの。それが政界や医学界なら尚更、私達では手を伸ばすことも難しいのが現実・・・

 世間的には立派な仕事で、融通が利くように見えるかもしれませんけど、我々警察も所詮出来ることが限られている、無力なものですわ」

 

 自分自身を慰めるように木箱を撫で、艶っぽい溜息におもわず視線が集まるが、小城は否定する。

 

「調査しか力になれない探偵には出来ないことが出来る、素晴らしい仕事ですよ。

 まぁそれも、今回のことを調べ始めた橘先生の功績は大きいのですが」

 

「ハッハッハ! それは勿論そうだが、最初にも言ったろう? 君達の誰が欠けても作品は完成せず、成功はしなかった。

 もっとも茅警部が忙しいのは、これからであるのが心苦しいがね」

 

「それはお互い様ですわ、橘先生。

 出版後も、大ヒットしたら様々なところに引っ張りだこになってしまうでしょうから、お酒は控えてお体ご自愛下さいね」

 

 本の出版と同時に証拠と共に、原作では都築に臓器密輸を持ちかける前田という医者に警察が突撃する予定になっている。だが、それだけではない。

 

「そーそ、それに都築さんもこれを題材にドキュメンタリーを作るんでしょう?

 俺と拓也以外はみーんな暇なしになっちまうんだから、今日ぐらいはこの面々で穏やかに、楽しい時間を過ごしましょーよ」

 

「何を言ってるんだ、いつきくん。

 君と小城くんには出版権をかけたパーティを執り行うにあたって、いろいろと協力してもらわなきゃ困る」

 

「えっ、それもマジだったんすか!?」

 

「わしは建前とは言ったが、嘘だとは一度も言っていない。君の広い人脈を盛大に活かして、多くの者に声をかけてくれると嬉しいね。

 小城くん、君にやってもらいたいのは謎かけの準備だ。謎自体はわしが用意する、君はわしの優秀な黒子として力を貸してもらいたい」

 

 もはや確定事項としている橘の言動に断ることが出来ないことを悟り、小城はわざとらしく恭しく礼をしてみせる。

 

「橘先生の仰せのままに」

 

「ハッハッハ! 君がそれをやると確かに様になるが、何故だか裏があるように感じてしまって駄目だな! よそでは控えた方がいいぞ」

 

「自覚していますよ。先生もお酒で失敗しかねないのですから、どうかほどほどに。

 それからあまりにも女性に対して軽率な行動が多いと、棗ちゃんと葵ちゃんが愛想を尽かして僕の元に来ることを自ら選んでしまうかもしれないことをどうかお忘れなく」

 

「耳が痛いな。

 だが、他ならぬ君からの言葉だ。心に留めておくぐらいしておこうか」

 

 傍で聞いてるとどこか緊張感のあるやり取りをしながら、ここにいる者達は特に気にする様子もない。それはこの場にいる全員がそれなりの経験を積んだ、相応の大人だからだろう。

 

「さぁ、食事と酒も楽しむとしようじゃないか。

 夜はまだ長いからな」

 

 医学界の闇を暴き、これからその闇へと切り込もうとする者達を労わるように、夜は穏やかに過ぎていった。

 

 




橘 五柳
→ ノンフィクション界の大物作家であり、酒が入るセクハラパワハラをするヤバいジジイ。だが、駆け出しだったいつきの面倒を見たり、身寄りがほとんどない花村家三名を使用人として雇う面倒見の良い部分が見られる。
 原作において後述の犯人によって殺害されたが、いつきが橘の遺志を継ぐ形で遺稿を出版するのを鑑みると、いつき自身が橘を尊敬していたのは間違いない。

茅 杏子
→ 警視庁の警部。原作では今回の事件には本来登場しない。原作での初登場は『秘宝島殺人事件』、祖父がイギリス人であり、英語・ドイツ語を得意とし、舞踊や茶道をたしなむお嬢様。が、年齢や家族構成は一切あかされておらず、その腕には常に謎の木箱が抱かれている。

都築 哲雄
→ テレビディレクターであり、『金田一の殺人』における犯人『見えざる敵』
 娘が重度の腎障害であり、一度目は自身の腎臓を移植。が、病院側のミスにより手術は失敗。そのことをどこからか聞きつけた前田という医師によって臓器密輸を持ちかけられる。それらを調査していた橘が関係者を実名入りで出版することを知り、口論となり殺害。その罪を金田一に押し付け、橘が残したメッセージを追う形で四名の出版関係者も殺害。そして、金田一によって全てが明かされた時、彼は自ら死亡することで自分のもう一つの腎臓を娘へと移植し、娘さんは完治した。

美浦 えみり
→ 今回は未登場だが、原作では『天草財宝伝説殺人事件』にて登場。
 この作品においても天草財宝のツアーに参加しており、その際に小城を『師匠』と慕うようになった。

大村 紺  時任 亘  桂 横平  野中 ともみ
→ 順に飛躍社の社長、神田川出版の編集者、落語家、フリー編集者。
 原作にて出版権をかけたパーティの出席者であり、橘よりメッセージを残された結果殺害された被害者。


今回のキャラ説明はこんなもんですかねー。
なんかフラグ回収したのに、別の事件匂わせてしまった・・・
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