小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

三話目-!


魔術列車殺人事件 ③

 死骨ヶ原ステーションホテルのロビーでは幻想魔術団の創設メンバーである夕海と由良間、左近寺が集まって、何やら話し合いが行われていた。

 

「どういうこと? こんな辺鄙な場所に刑事が二人も来てるなんて!」

 

「脅迫状がどうのなんて言ってたけど、まさかねぇ?」

 

「考えすぎさ! それよりも夕海さん、あんたの旦那はどこ行っちゃったわけ?」

 

 それは『自分達が公演する場所でこんなことが起こるなんて』という驚きや恐怖の類いではなく、警察が来られたら困る『何か』があるような言い方だった。

 

「団長さぁ、最近人気落ち目で酷いスランプだったじゃん?

 ひょっとして自分に自信なくして、旅に出ちゃったとか「ちょっと由良間! あんた、何が言いたいの?」

 

 まるで『そうだったらいいのに』とばかりに適当なことを悪意もなく口にする由良間に、夕海が苛立ちを隠すことなく問えば、彼はしれっとした顔で立ち上がる。

 

「別に、そろそろウチも世代交代の時期かなーってさ」

 

「あっ! 由良間さん、ちょっとお話が・・・!」

 

 タイミングを見計らったように来た高遠が由良間を捕まえ、何やらいろいろと話をしているのを二人は冷たく見ながら鼻を鳴らす。

 

「何よ、あいつ! ちょっと人気があるからって」

 

「夕海さ~ん。ヤバいよぉ、由良間のやつ。すっかり二代目のつもりでいやがる。

 早くなんとかした方がいいんじゃない?」

 

「・・・そうね」

 

 左近寺による警告のような、不安を煽るような言葉に団長の妻であり、一人のマジシャンとして彼女のプライドに火がついたようだ。

 

「すいません! 夕海さん!」

 

 どこか緊張した雰囲気があった中に突然明るい声が向けられ、見ればそこには両手に大きなボストンバッグを三つも抱えた残間が立っており、荷物を舞台に持っていっていいかを尋ねてきた。

 

「えぇ・・・ あ! その緑色のバッグはあたしの部屋に持ってって!」

 

「はい!」

 

「わ!?」 「きゃっ!」

 

 夕海からの指示を聞いた残間はあまり前を確認せずに歩き出したことで、ちょうどホテルに入ってきた金田一とぶつかってしまう。

 

「ててっ!」 「いった~!」

 

 どちらもへたり込んでしまうが、残間はすぐさま謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい! 大丈夫? 君」

 

「あ・・・! い、いや」

 

 顔を合わせた金田一は美少女な残間との運命的なやりとりにおもわず照れてしまうが、そんな気持ちは彼女の失態を見た夕海の怒鳴り声によって打ち消される。

 

「ちょっと、さとみ! その荷物は大事に扱ってよ! ったく!」

 

「すっ、すみません! 夕海さん」

 

「はー・・・ どの世界も新人は大変だなぁ」

 

 怒鳴られた残間を見て、金田一がおもわずそんなことを零すが、美雪が首を傾げる。

 

「そんなこと言って、はじめちゃんは小城さんにあんなこと言われたことないでしょ」

 

「あー・・・ まぁな。

 所長達って無駄に怒鳴ったりしねーし、檜山さんは言い方とかやり方は厳しいけど、なんだかんだしっかりいろいろ教えてくれんだよ。特にサバイバル技術はマジで知識深いから、今度皆でキャンプ行ってもいいよな。狩谷さんも釣りとか得意みたいだし、広いとこなら千家達も動物連れてきやすいしさぁ」

 

 事務所全員での楽しいイベントの気配を察知したマガドリ様が((o(´∀`)o))ワクワクしだすので、佐木一号が駅の売店で買ったキャラメルを差し出せば素直に口に含んだ。

 が次の瞬間、:(´◦ω◦):と衝撃を受けた顔をする。

 

「ん!? どうした、ミコトちゃん。

 おい一号! お前、ミコトちゃんに何を喰わしたんだよ!?」

 

「いえ、これも北海道名物かと思いまして」

 

 そう言って一号が出したのは『ジンギスカンキャラメル』。ジンギスカンの甘辛さとキャラメルの甘さを融合したそれは食べる人を選び、キャラメルと思って食べたら激しい裏切りを感じる代物である。

 

「おっまえなぁ~!」

 

「ミコトちゃん、無理して食べなくていいから! 口から出してもいいから、ね!」

 

 美雪が幼い子に言うように優しく言っても食べ物を粗末にはしたくないらしく、:(´◦ω◦):のまま咀嚼を続けていた。

 

「あ! どーでした? 刑事さん。

 山神団長の死体、見つかりました?」

 

「いや、まだ何も・・・」

 

「ね~! だから言ったでしょ、山神団長は・・・」

 

 剣持から何も見つからなかったことを聞いた左近寺が『皆に新作のマジックでも披露したんですよ』とでも続けようとしたところで、一人の男性がこちらへと歩み寄ってきて声をかけた。

 

「ようこそ。いらっしゃいませ、お客様」

 

 丁寧な物腰と常に笑顔に見えるような面持ち、見事に着こなされた制服とよく聞こえるのに不快にならない声の老紳士は自己紹介を始める。

 

「私、このホテルの支配人をしております。長崎という者です」

 

「あ、どうも。剣持です」

 

「遠いところからお疲れになったでしょう。

 夕海様方もお変わりなく・・・」

 

「長崎さんもお元気そうね」

 

 剣持と挨拶を交わしてから、顔見知りらしい夕海達にも頭を下げる。

 

「あんなことがあった場所に、よくいらしてくださいました」

 

 が、彼から出た発言に、夕海と左近寺は顔を強張らせた。

(あんなこと?

 なんだ? あんなことって。 ここで昔、何があったんだ?)

 

 金田一の内心に留まらさせた疑問には当然誰も答えることはなく、長崎は金田一らの案内を始めた。

 古めかしくも美しいホテルを褒めながら歩いていると、金田一が剣持に声をかける。

 

「おっさん、なんかやっぱ変じゃん? 今日の明智さん」

 

「ん? 変って、何がだ」

 

「だってさー、いつもなら今回みたいな奇妙な事件が起きた場合、『金田一くん、私と推理合戦だ!』なんて言ってくるのにさ」

 

「そう言われると、確かに」

 

 明智がしがちな鼻で嗤うような言い方と、髪をかき上げるようなしぐさを真似してみせる。

 

「はじめちゃん、今の似てない・・・」

 

「先輩って、物真似の才能ないですね」

 

「でも兄さん、先輩の物真似だけを編集しておくのも面白いかもしれませんね」

 

「確かに。今度一緒に作ろう、竜二」

 

「はい! 兄さん!」

 

 美雪と佐木兄弟の話を聞きつつも、金田一は腑に落ちないとばかりの顔をして付け足す。

 

「なんつーか、いつになく無関心っていうかさー」

 

 と言いながら、通りかかった扉の前にボストンバッグが置かれていることに気づく。

 

「俺らの他にも誰かいるのかな?」

 

「えぇ、三日前の列車でいらした方が滞在されてまして。

 ここは作家の方など、長期滞在される方が結構多いんですよ」

 

「へー、そうなんすか」

 

 無遠慮に荷物に張られた伝票を見ながら、長崎の説明を聞いて納得する。

 

「お客様のお部屋はこちらでございます」

 

「わ~、広~い!」

 

 扉の隙間から意味深に微笑む人物に気づくこともなく、金田一達はホテルの部屋でゆっくりと休むことにした。

 

 

 一方、一足先に部屋で休んでいた明智は、今夜マジックショーが行われる劇場を窓から眺めていた。

 

「あれが例の事件の舞台、か」

 

 

 

 

 しばらくの間、部屋でのんびり過ごしていると『地獄の傀儡師』専用に等しい携帯が鳴り、金田一も慌てて体を起こして電話をとる。

 

『ようこそ、死骨ヶ原へ』

 

「『地獄の傀儡師』だな。お前いったい、山神団長をどこに・・・」

 

『クックックッ、慌てない慌てない』

 

 楽しそうに、あえてのんびりとした口調で『地獄の傀儡師』は言う。

 

『山神団長ならたった今、お返ししましたよ』

 

「なんだって?」

 

 

「わあぁぁぁ!」

 

 

 本日二度目の悲鳴が響き、扉向こうから聞こえてきた声を探すように飛び出せば、さっき鞄が置かれていた部屋の前で桜庭が腰を抜かしていた。

 

「だ、団長が・・・」

 

 震えた声と指先で室内を指さす彼に従う形で視線を室内に向ければ、そこには列車内よりもとんでもない光景が広がっていた。

 本来向いていない筈の方向に足首がねじ曲がり、天井に吊り下げられている姿は既にその関節が繋がっていないことを示しており、服によってかろうじて人間の形が保たれていることが理解できる。吊るされている山神の状態は警視庁に送られた『ねじれたマリオネット』と同じものであり、そこでようやくあのマリオネットが『地獄の傀儡師』による非情な殺人予告であることを知った。

 金田一を追いかけて室内を見ようとしてしまった美雪の視界をマガドリ様が翼を広げて塞ぎ、これまで見せたこともないような冷たい目で死体を見ていた。

 

「こ、これは・・・」

 

 不本意な形で死体を見慣れてしまっている金田一や仕事柄見てしまうことが多い剣持ですら言葉を失い、佐木一号も凄惨な死体を前にして言葉を失いながらも弟を守るように、いつでも目を逸らしても良いように前に立って、現場証拠にもなるようにと撮影を続けた。

 

 

 

 なんでも道が塞がっているとのことで警察を呼ぶことが出来ず、死体や部屋を出来る限り見えないように対処していれば、今日のマジックショーを見に来てホテルに泊まっている客達が野次馬となってざわめきだす。その中には死体で見つかった山神団長の妻 夕海の姿もあり、左近寺に支えられる形で現場から離れていく。その姿を明智が冷めた視線で見送る中、剣持は金田一と共に死体の状況について話し合う。

 

「監察医に見せたわけじゃないからはっきりとは言えんが、山神の死因はおそらく刺殺。死亡推定時刻は今朝の十時から十三時の間とみて、ほぼ間違いないだろう」

 

「その時間はまだ列車の中ね」

 

「じゃぁ、僕らがあのコンパートメントで見たのはやっぱり・・・」

 

「あぁ、山神団長の死体だったんだ」

 

 列車で起こったことが幻ではないことを死体が証明したが、この程度の情報では他の何かを解明するような取っ掛かりにはならない。

 

「おまけに死体は首・肩・肘・膝からバラバラにされた後で、ご丁寧に紐で繋がれとった。

 この『ねじれたマリオネット』、そっくりにな」

 

「その人形は?」

 

 死体の状況の説明と同時に剣持が出してきたのは、脅迫状と共に送られてきたあのマリオネットだった。どうやら警視庁に脅迫状を送られていたことも知らなかったらしい明智が人形のことを問えば、剣持が脅迫状と共に送られてきたことを説明し、金田一は黙ってマリオネットをじっと見ている。

 

「送られてきた時はまったく意味不明でしたが、まさかこいつそっくりの死体をお目にかかるとは思いもせんかったなぁ」

 

 部屋の片づけ等をホテルスタッフに託し、剣持は金田一らと共に支配人室へと向かい、部屋に誰が泊まっていたかを聞きに行った。

 そうしてわかったのは部屋に滞在していた人物が三日前から滞在し、ずっとこもりっきりだったこと。白いゴムマスクをつけていたため、顔もよくわからなかったこと。そして、ついさっき突然チェックアウトしたことだった。

 

「次の列車が来るのは三日後ですし、妙だとは思ったのですが・・・」

 

 長崎から話を聞いていれば、名簿を見ていた佐木二号が突然声をあげる。

 

「ん? 先輩、この都津根って人の名前!」

 

「名前?」

 

 何が不思議なのかわからず、佐木二号に促される形で部屋に滞在していた人物の名前を声に出して読んでみる。

 

「とつね まりお?」

 

 読んだことによって、佐木兄弟のみならず他の面々もその違和感に気づいた。

 

『マリオネット!?』

 

「くそっ! ふざけた真似しやがって!」

 

 『都津根 毬夫』が『マリオネット』を並び替えた偽名であることを理解し、剣持は激怒する。

 

「長崎さん、列車以外でここから出る方法があるんですか?」

 

「いいえ。ご覧の通り、ここは沼や湿地帯に囲まれています。

 隣町に通じる一本道も先月の大雨で崩れたままで」

 

 小城事務所をよく知る美雪や佐木兄弟は内心『対応Kのやつだ』と思うが口にはせず、現状が陸の孤島であること、とんでもない状況であることを実感する。

 

「いやまったく。昔はあぁした物も採れて、ここも結構栄えていたんですが」

 

「へー、漬物石の産地だったんですか?」

 

「違うわよ、も~」

 

 頭がいい筈なのに、関心がないことには本当に無学に等しい幼馴染に呆れてしまう。

 支配人室に置かれた大きなそれは翡翠の原石であり、あまり価値のないクズ翡翠だと説明される。既に採り尽くされてしまったが死骨ヶ原の数少ない特産品ということもあり、インテリアとして客室にも一つずつ飾っているのだという。

 

「ふーん、なるほどね」

 

 聞ける話をすべて聞いたと判断して、金田一達は支配人室を後にし、自分達の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 休憩を取りながら、金田一は剣持から携帯を借りて事務所に電話をかけていた。

 

『はい、こちら小城探偵事務所です』

 

「あ、揚羽さん。俺っす、バイトの金田一っす」

 

『金田一くん、どうかなさいましたか?』

 

 事務的な揚羽の声を聴いて『なんか新鮮だなー』と思いつつ、すぐに本題を切り出す。

 

「所長って、今いますか?

 いたら替わってほしいんですけど」

 

『いらっしゃいますよ、すぐに替わりますね。少々お待ちください』

 

 保留音を聞きながら待っていれば、揚羽同様にすぐに電話に出た小城の声が聞こえてくる。

 

『もしもし、金田一くん。やっぱり何かあったのかい?』

 

「そんな嫌そうな声出さないでくださいよ、所長~。

 もうめっちゃいろいろなことがあったんで、万が一の時はすっ飛んできてもらうことになるんですから」

 

『まさか、陸の孤島になってるのかい? 北海道のど真ん中で? 嘘だろう?』

 

「そのまさかなんだな~、俺ってばやっぱりもってますよね」

 

『そうだね。多分何かしらの呪いとか、変人に目をつけられる一般人には見えないような印でもついているんだろうね』

 

 深い溜息が電話口から聞こえ、金田一はそんないつもの事務所と変わらぬやり取りに心が穏やかになっていく。

 

『で、何があったんだい?』

 

「列車で爆弾騒ぎと、行方不明者が死体の状態で現れたり、消えたりするバカみてぇなことがあって、今さっき一度は消えた死体がホテルの一室で警視庁に送られてきたマリオネットと同じ状態で飾られていました」

 

『それはまた・・・ 凄いね。

 現状でわかってることは?』

 

「それがまーったく、なーんにもわかってねーってのが素直なとこっす。

 なんか変な違和感とかはあるけど、確かなのは『地獄の傀儡師』がとんでもねぇ知能犯でおぞましい奴で、まともじゃないってことぐらい」

 

『何もわかってない状況で、相手が危ないことがわかってるならそれは上々だよ。

 危険だとわかってるなら警戒できるし、慎重な行動も心掛けられる。本当に恐ろしいのは『自分は大丈夫だ』と過信して、危険な状況もわからずに突っ込んでいくことだ』

 

 そこで小城は少し間を置き、電話口からコツンッとペンの音が聞こえる。

 

『もう夜になってしまう。今からじゃこちらからヘリを飛ばすことも出来ないし、陸路からそちらに救援に行くのも時間がかかってしまう』

 

「しょ、所長!? 仕事があるからついてこれないって言ったのに、こっちにすっ飛んでくるつもりっすか!?」

 

『君がさっき言ったんだろう?

 明智さんもそっちにいるのは知っているけど君と同じ状況にある以上、彼も危険な状態に置かれている人間の一人でしかないよ』

 

『やっぱり行くのかよ、北海道』『そうなる気はしてましたけどね』『でも、明日も仕事だし、なんなら所長は三日後にはまた軽井沢だよね? スケジュールきつくない?』

 

 おそらく小城がハンドサインで指示を飛ばしているらしく、それらに対応していく事務所のメンバーの声が聞こえてきて、金田一の口元が自然と緩んできてなんだか目頭が熱くなってくる。

 

「所長、実は陸路も俺達が乗った列車でしか無理なんすよ。なんでも先月の大雨で一本道が通れなくなっちまってるらしくて」

 

『なっ!?』

 

「だから、『俺達は大丈夫!』とは言いませんけどそっちで俺らの帰りを待っててくださいよ。

 ぶっちゃけ、この電話だってなんの助けにもなんないし、謎解きのヒントがあるわけでもないけどさ。俺、スッゲー励まされたし、危ない状況だってわかってるのに駆け付けようとしてくれる人達がいるってだけで心強いっす。ホント、ありがとうございます」

 

『~~~~っ!

 所員が! 知り合いが! 危ない目に遭うかもしれないとわかってて! 何もしない馬鹿がいるか!!』

 

 電話口からこれまで聞いたこともないような小城の怒鳴り声に、金田一は思わず耳を遠ざける。

 

『いいかい!? たとえそのホテルに直接車で行けなくても、線路を歩いていくことになろうとも僕らはもう動き出す!

 君は軽率な行動を控えて、自分達の安全だけを考えなさい!』

 

「は、はいっ!」

 

 おもわず姿勢を正して返事をすれば、電話口の声が小城から舘羽に替わっていた。

 

『そういうことだから、今から所長がそっちに向かうわ。

 って言っても、どんなに車を飛ばしたところでフェリーの時間も考えると、そっちに到着するのは明日の昼過ぎから夕方だけどね。

 まったく、あんまり心配かけちゃ駄目よ』

 

「すんません」

 

『責めてるわけじゃないわよ。だって金田一くんが悪くないことぐらい私達はわかってるもの。

 だから、こういう時は謝るんじゃなくて?』

 

 二人の妹がいる姉らしい彼女の言い方に『姉ちゃんがいたら、こんななのかな?』とか思いながら、子どもみたいに照れくさくなって声が小さくなる。

 

「ありがとうございます」

 

『よろしい。それじゃぁとにかく怪我をしないように、無事でいてね。

 あと、お土産よろしく』

 

「うっす、了解です」

 

 そこで電話を切ると傍で聞いてた剣持がニヤニヤしていて、美雪も佐木兄弟も嬉しそうに笑っていた。

 

「なんだよ、皆してニヤニヤしやがって!」

 

「べっつに~。はじめちゃんは愛されてるなぁってわかって、嬉しくなっちゃっただけ」

 

 自分のことのように嬉しそうにする美雪が金田一の頭を撫で、そんな姿を佐木兄弟はバッチリ撮影する。

 

「本当に小城さんは僕ら子どもに優しいですし、所員想いですよね!」

 

「彼みたいな大人が傍に居てくれることは、本当に心強いです」

 

「だな。

 あいつが来るまで俺が責任をもってお前らを守るから、心配すんな」

 

 胸を叩きながら宣言する剣持を、金田一が仕返しとばかりに笑う。

 

「だーかーらー、おっさんがいたって安全なんて保障されてないって言ってんじゃん」

 

「お前、またそれ言うか!」

 

 怒り出した剣持と怒らせた金田一が室内で追いかけっこをしていると、控えめなノックが響く。

 

「失礼します、お客様。

 『幻想魔術団』のマジックショーは予定通り行いますので、劇場へお越しください」

 

「えーっ!? ショーは中止したんじゃなかったの?」

 

「だって、団長が亡くなって・・・」

 

「そ、それが、そうお伝えするよう言われまして・・・」

 

 一礼して入ってきた残間の言葉に思わず目を丸くして驚いていると、伝えている残間も戸惑っていることがわかった。

 

 

 

 

 

「ちょっと! どーゆーことよ!!」

 

 同じ頃、幻想魔術団控室で夕海が高遠へ向かって怒鳴っていた。

 

「今夜のショーは中止だって言ったでしょ!

 団長(あの人)が死んだのに、ショーだなんて・・・!」

 

「だからこそ、やるんですよ。夕海さん」

 

「!」

 

 怒鳴る夕海に、冷静になれとばかりに落ち着いた・・・ 否、団長が死んだにしては落ち着きすぎている由良間が声をかけ、堂々と歩いてくる。

 

「新しい『幻想魔術団』 団長のお披露目にはちょうどいい!」

 

「由良間!? あんた・・・!」

 

 人の死をチャンスと見なす由良間の言葉に夕海が怒りを露にするのは当然だが、彼女の怒りに一切怯むことはなく、逆に絶対の自信を持った目で睨み返す。

 

「当然でしょ? 団の人気№1はこの俺。『幻想魔術団』は俺で持ってるようなもんでしょうが!

 『生きたマリオネット』だって、俺がいなきゃ上演できないんだぜ?」

 

 その発言が彼女の逆鱗に触れていることは由良間もわかっているが、彼の絶対的自信がそんなもの(彼女の怒り)をないものとする。

 

「まっ、お局様は精々邪魔しないように、俺の前座を励んでください」

 

 身を翻して、余裕綽々な様子の由良間が控室から出ていくのを見て、夕海はわなわなと体を震わせていた。

 

「あ、あの~、夕海さん・・・」

 

 話しかけづらい状況だが、それでも話しかけるしかない高遠が夕海へと声をかけると、彼女は自分の隣にあった部屋のインテリアの壺を怒りに任せて叩き割る。

 

「覚えときな! 由良間! このままじゃ絶対済まさないからね!」

 

 そのまま控室を出ていく彼女を見送り、彼女の怒りを目の当たりにした高遠と桜庭は怯えているが、そんな中で左近寺だけが得意なカードマジックでスペード(最強)エース(カード)を出しながら、笑う余裕を持っていた。

 

「お~怖っ、女は怒ると怖いねぇ」

 

 

 

 

 

 開演時間がもう直に迫っている頃、何故か金田一と美雪はホテル内を走っていた。

 

「はじめちゃん、急いで! みんな、先に行っちゃったじゃない!」

 

「わりー、つい部屋のテレビに夢中に・・・」

 

 しょーもないテレビに夢中になっていた金田一と、慣れない列車で疲れたらしくウトウトしていたマガドリ様を美雪が引っ張る形で連れていく姿は、マイペースな子どもを二人も抱えた母親そのものである。

 この短時間でホテルの間取りを理解しているらしい美雪が先導する形で、池の真ん中にある劇場とホテルを繋げている跳ね橋を、二人は急いで駆け抜ける。

 

「ミコトちゃん、少しは自分で移動しよーぜー」

 

 息を切らしながらそんなことを言っても、マガドリ様は金田一の頭から動く気は全くないようで、なんなら金田一の額辺りに足を投げ出している始末である。不安定な跳ね橋は人が走っているだけでグラグラと揺れ、もうすぐ劇場側だというところでバランスを崩してしまった金田一が倒れまいと手を前に出すと、そこには跳ね橋の昇降レバーがあり、下げてしまう。

 

「げっ!?」

 

 だんだんとあがっていく跳ね橋に慌てた金田一がなんとかしようと昇降レバーに手を伸ばすと、高さがついたことに加えて橋と地面のぎりぎりの場所に立っていたこともあって顔面から前に倒れた。勿論、頭の上にいたマガドリ様も地面に叩きつけられ、(ノ#´Д`)イタイとしながら金田一の方を見れば彼の右手には折れたレバー、後ろを見れば跳ね上がった橋。マガドリ様は事態を理解して(ノ∀`)アチャーとしながらも、『まぁいっか』と気にする様子はない。

 

「やっちゃった・・・」

 

「はじめちゃん、早く早く!」

 

「まぁ、いっか。俺、知ーらないっと!」

 

 ショックを受けながらも後ろから聞こえた美雪の声に、とりあえずそれをマジックショーの終わりまで放っておくことを選んで、金田一はレバーをそこらへんに放り投げた。

 

 

 

 劇場内は既に舞台以外の照明が消されて真っ暗となっており、由良間による開始の挨拶によって開演する。

 舞台から遠く、人の少ない一番上の席にはホテルの支配人である長崎が何やら箱を抱えて座っており、マジックショーを眺めていた。

 

「さぁ始まりますよ、あなたの罪深い弟子たちのマジックショーが。

 一緒に見ましょう、玲子さん」

 

「ほぅ、美しいマリオネットですね? まるで誰かの、若い頃の生き写しだ」

 

「あ、あなたは・・・」

 

 背後から突然掛けられた声に長崎は驚いて肩を跳ね上げ、振り返ればそこには明智が立っていた。

 

「そう、彼女も有名なマジシャンでした。彼女の名前は近宮玲子、五年前にこの劇場で亡くなった・・・ そうでしたね?

 私もご一緒してもよろしいですか? 長崎支配人」

 

 生前の近宮玲子を知っている二人だけがひっそりと観客席で何やら話している中、マジックショーは進んでいく。

 マーメイド夕海によるウォーターマジックに始まり、チャネラー桜庭のサイコマジック。そして、ピエロ左近寺のカードマジックと続いていき、幻想魔術団が誇る『生きたマリオネット』が始まる。

 上から糸で吊られてだらりと座り、周りには小道具となる多くの物が置かれ、マリオネットが動き出すことでショーが始まっていく。操り糸で吊られたマリオネットが自由を望み、糸を切って自分が望むように動き出す。糸で操られていないことを示すように縄跳びをし、他の小道具で遊んで、自転車に乗ってこけてしまって体をバラバラにしてしまったりと観客の笑顔を誘う。そうして最後には自ら糸を繋いで、マリオネットに戻ることでショーは終わりとなる。

 そして今まさにショーが終わろうというところで、『地獄の傀儡師』の携帯が鳴り響く。

 

『いかがですか? 幻想魔術団のマジックショーは?』

 

「地獄の傀儡師か!」

 

『おや? 「生きたマリオネット」はもう終わりのようですね。

 でも、本当のお楽しみはこれからですよ?』

 

 今まさに劇を見ているような口ぶりの『地獄の傀儡師』に、金田一の額から冷や汗が落ちる。

 

『最後にこの私が、滅多に見られない大マジックを皆さんにお目にかけましょう!』

 

「なんだって!? お前、今度は何を・・・!」

 

 犯人からの予告に金田一が慌てるが、『地獄の傀儡師』が誰かの都合を考える筈もなかった。

 

『さぁ、「死のマジックショー」第二幕です!』

 

 その宣言とともに舞台の照明が消え、当然観客は騒ぎ出すがショーの一環かと思ったのか、列車の時のような激しい混乱は見られない。そして、舞台に再び照明が灯り、観客の視線は自然と舞台に向けられる。

 が、そこにあったのは先程のマリオネットではなく、心臓に薔薇ごとナイフを突き立てられた由良間の死体だった。

 

 

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