小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

四話目-。


魔術列車殺人事件 ④

 突然現れた由良間の死体に観客席は徐々に悲鳴を上げ、混乱が広がっていく。それと同時に剣持らと魔術団のメンバーが死体の元へ駆け寄り、由良間の死を確認する。マリオネットの糸が絡んだ死体を前にして、誰もが呆然とする。

 

「いったい、どうなってやがんだ・・・!?」

 

 場を代表するような剣持の疑問に、客席から駆け付けた明智が上を見上げなら答える。

 

「上を御覧なさい、剣持くん。

 死体に絡んだ紐の先に、さっきのマリオネットが引っ掛かっている」

 

「あ!」

 

「死体が天井から落とされた時、その重みで持ち上げられたんですよ。ちょうどシーソーのようにね」

 

 それは死体が天井にあったことが確実だということを示しており、剣持が犯人の推察をしようとしたところで金田一が劇場の扉から魔術団のメンバーも含めて剣持らを呼ぶ。

 扉を出てまず見えたのは何故か跳ね上がっている橋、そして金田一はさっき跳ね橋のレバーを壊してしまったことを白状する。

 

「つまりマジックショーをやってる間、この劇場は巨大な密室だったんだ!」

 

「そ、それじゃぁ・・・」

 

「そう。すなわち犯人はショーが始まる前からずっと・・・ そして今も、この劇場の中にいるってことになるんです」

 

「そいつぁー、どうかなぁ?」

 

「何!?」

 

 言い切った金田一に茶々を入れたのは、左近寺だった。

 

「だってさぁ、跳ね橋の昇降レバーはホテル側にもあるんでしょ? だったら、こう考えることも出来るんじゃない?」

 

 左近寺の言う考えはショーが始まってすぐにホテル側から跳ね橋を降ろし、由良間を殺して死体を舞台に投げ落としてから急いでホテルに戻り、ホテル側から跳ね橋をあげるというシンプルなものだった。

 

「残念ですがそれは無理ですよ、左近寺さん」

 

 だが、金田一はその考えを否定する。当然、疑問をあげる左近寺に金田一は長崎に頼んで跳ね橋を降ろしてもらう。

 

「劇場内が真っ暗になってから由良間の死体が見つかるまで、ほんの五秒か十秒だった。

 そして電気がついた直後、俺はすぐさま劇場の入口に駆けつけたんだ。その間はわずか三十秒、これは俺が自分の時計で確認したんだが。この時には確かに橋はあがりきった状態だった」

 

 金田一は自分の時計を持ちながら、長崎に頼んであげてもらう。

 

「このように劇場が真っ暗になってから俺が橋の状態を確認するまで、長く見てもわずか四十秒しかかかってないにも関わらず」

 

 説明しながら跳ね橋が完全にあがるのを待つ。

 

「この橋があがりきるまでにかかる時間は一分三十五秒、つまり左近寺さんの説は時間的に不可能ってことになる。

 犯人がまだ劇場内にいるのは間違いないんだ」

 

 左近寺の説を完全に論破し、『地獄の傀儡師』が劇場にいることを断言する。

 

「おっさん、今から劇場内にいる全員がショーの最中、どこにいたかを確認してくれ。

 それと人が隠れることが出来そうな所を全てチェックして、怪しい人物がいないかを調べるんだ」

 

「よ、よし! わかった!」

 

 金田一に頼まれて剣持が調査に動いたが、怪しい人物が見つかることも、照明が消えてから死体が現れるまでの間に席を外した人物もいなかった。

 

「ってことはやっぱり、由良間を殺した犯人は魔術団のメンバーの中にいるってこった」

 

「そ、そんな・・・」 「わ、私達の中に犯人が!?」

 

 剣持の言葉に多くの人物が震える中、口を挟んできたのはまたも左近寺だった。

 

「まーまー刑事さん、そういきなり決めつけないでくださいよ。

 僕ら全員にはちゃんとアリバイがあるんですから」

 

「なんだと!」

 

「だって舞台の上のマリオネットが由良間の死体に化けちまったマジックのタネは、天井の梁を使った『シーソーの原理』でしょ?」

 

 そう言ってシーソーの原理を使った死体とマリオネットの交換劇を語りだし、肩を竦める。

 

「まっ、こんなの僕らマジシャンがよく使う『早変わりマジック』の手口だ。別に特に珍しいってもんじゃない。

 でもね、そうなると由良間を殺した犯人は天井裏にいたはずでしょ? あそこから舞台袖に降りてくんのって急な階段とかあって、結構時間かかるんだよね~」

 

 だから、由良間の死体を確認してからすぐに駆け付けた魔術団のメンバーには無理だという左近寺とそれに同調する夕海を金田一は否定する。

 

「舞台に降りるだけなら、一瞬で済むぜ?

 劇場が暗転した瞬間に天井から舞台に飛び降りればいいのさ、由良間の死体にからまったロープにつかまってね」

 

 マリオネットと由良間の位置を交代する際、由良間の死体と共に舞台に降りるだけだと説明されたことで、剣持が突然推理劇場を始めてしまう。全員の体重を聞き、『人形より重い人物でなければ舞台に降りられない』と言って犯人を断定しようとしたところで、金田一のストップがかかった。

 マリオネットよりも重くなければ下に行くことが出来ないことはあっている。

 あっているが、剣持の考えの中には由良間の体重が加算されていない。人間二人分の体重が七十キロのマリオネットよりも軽くなることはなく、この犯行は誰でも可能なのだということを金田一がわかりやすく説明すると剣持が赤面してしまうのだった。

 

 

 

 

 その後、舞台の片付けを手伝いながら座っていると金田一の腹が鳴る。

 

「そーいや、飯もまだだったっけ」

 

 列車に乗ってからも、ホテルについてからも次々と何かが起こっているからか、すっかり食事を忘れてしまっていた。

 

「あ! あたし、お菓子持ってるけど食べる?」

 

 そう言って美雪はもっていた小さなポシェットを逆さにすれば、いくつかの大きめのお菓子が出てきたことにマガドリ様が‧˚₊*̥(∗*⁰͈꒨⁰͈)‧˚₊*̥オォ~と歓喜する。が、金田一はとてもじゃないがポシェットに収まりきるとは思えない量のお菓子に、ポシェットをもって仕掛けがないかを疑いだす。

 

「ど、どーなってんだ? このポシェット。どっかの青狸のポケットか、バッグだったりすんのか?」

 

「どこでもドアが欲しいなぁ、僕」

 

「それなら僕はタイムテレビですかね」

 

 どちらも金田一の傍にいるならば非常に役立つ便利な道具には違いないが、そうした便利な道具を持っていると犯人や首謀者に狙われるというのも王道展開の一つである。

 

「高遠さんとさとみさんも、お菓子一緒にどうですか?」

 

 マジックショーの片付けをしていた二人を誘って、段ボールをテーブル代わりにしてささやかな交流を交えた休憩が始まる。

 

「あっ、これもいい! こいつももらい! あとで食おーっと」

 

「少しは遠慮したらどう? はじめちゃん」

 

「仲いいね、君達。ひょっとして恋人同士?」

 

 次から次へと欲張って頬に入れていくリスのようにポケットに納めていく金田一に美雪が注意していると、仲睦まじい(?)二人に向けられた残間の問いにすぐに二人の顔が真っ赤に染まった。

 

「やだ、こんな奴! ただの幼馴染で」

 

 照れ隠しに美雪が金田一を叩けば、八重歯のように棒状のチョコレートを食べていたため歯茎に刺さって苦しみだし、美雪も慌てだした。

 

「という仲なんですよ」

 

「いつまでもこんななので見守っている側としては面白いのですが、素直にならないでいた場合の未来予想図が知り合いにいるので・・・ 後輩としては少々心配になってきました」

 

「複雑ね~」

 

 佐木兄弟による追加説明にクスクスと笑う彼女は美雪に負けず劣らずの美人であり、傍目には男性に困ることなどなさそうに見える。

 

「でもいいなぁ、そんな風に仲のいい男の子がいて。

 あたしなんか小っちゃい頃からマジックばっかりやってたから変わり者扱いで、男の子が寄り付かなかったもん」

 

「それはそれは、周囲の男に見る目がありませんね」

 

「え?」

 

 佐木一号から飛び出した言葉に残間が驚いていると、佐木一号はさらに続ける。

 

「幼い頃からずっとひたむきにマジックを続けていたあなたを『変わり者』なんて言う奴は、きっと自分にはそんなものがないから悔しかっただけですよ」

 

「そ、そんなこと言われたの初めてだから、なんて言えばいいかわからないんだけど・・・その、ありがとう」

 

「いいえ、僕は事実を言ったまでですから。

 実際、あなたは若くして有名なこの魔術団に所属している。一つのことをずっとしてきたあなたの努力は確実に結ばれている、これは本当に凄いことだと僕は思います」

 

 佐木一号の飾らない言葉に残間の頬が赤く染まり、傍で聞いてる美雪も『あらあら』と手を口に当て、弟の二号も兄が女性にそう言った言葉を向けていることに驚き、金田一は目の前にいるこいつが本当に佐木一号なのかを疑いだす。

 

「も、もう! あんまり年上をからかっちゃ駄目よ!」

 

「からかってなんかいません。

 僕は本当に思ってることしか言わない、正直者なので」

 

「あー・・・まぁ、それはそうだよな」

 

 言いたいことを日々ズバズバ言われまくっている金田一が頷くと説得力があり、マガドリ様は人間の恋バナなど興味ないとばかりに金田一の横でお菓子を貪っていた。

 

「あっ! そーだ、高遠さん。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいっすか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「これはホテルに着いた時、長崎さんが言ってたんですけど。

 昔、皆さんがホテルに来た時に何か良くないことでも起きたりしたんですか?」

 

「あ、いや・・・ それはですね」

 

 静かに若者たちの会話に耳を傾けていた高遠に金田一が質問すれば二人の表情が強張り、高遠は言葉を濁らせ、残間も眉を寄せる。

 

「五年前、近宮先生が亡くなったのよ。この劇場で」

 

「近宮って幻想魔術団の前身の、近宮マジック団の団長だったあのおばさん!?」

 

「えぇ」

 

「さとみちゃん、まずいよ! そのことを勝手に話しちゃ・・・!」

 

「いいじゃないですか、高遠さん。いずれ調べればわかることですよ」

 

 語りだす残間を高遠は慌てて止めるが、残間はもう知られることは仕方ないといった様子だった。

 

「もっと詳しく教えてください。どうしてその近宮さんって人は亡くなったんですか?」

 

「はぁ、なんでもリハーサル中の事故だそうで。僕らが入団する前の出来事なので詳しいことはわかりません。

 なにしろ他の皆さんは、『近宮』って名前を聞くだけで嫌な顔をされますから」

 

「リハーサル中の事故、か」

 

 詳しく聞きたかったのだがこの二人から事故について詳しく聞くことは出来ずに終わり、金田一達はホテルへと戻っていく。

 正直、この時点では五年前の事故が関与しているかは不明。だが、魔術団のメンバーがこの話題が出るたびに表情が固まり、このホテルにも因縁があることは確かなのだ。

 

「ってわけで、この事故について調べてもらってもいいっすか?」

 

『アハハ、面白いこと言うわね。

 もう事務所は営業時間過ぎてて所長と狩谷がそっちに向かってるからって、どうやって手に入れたのかもわからないウチの家電にかけてくるなんて、本当にいい度胸してるじゃない? 金田一くん』

 

 というわけで、すぐさま事務所に電話したんだがとうに営業時間は過ぎていたため、るりから教えてもらっていた須賀家の家電に連絡を取っていた。

 

「非常識な時間だってのは重々承知で、本当に申し訳ないとは思ってんですけど、情報収集にかけてウチの事務所以上に頼りになれるところなんてないんすよぉ。どうかお願いします!」

 

『はぁ~~~・・・ 今から兄さんにも声かけて、檜山にも連絡取って手伝わせるから、帰ってきたらしっかりお礼するのよ?』

 

「っ! 勿論です!」

 

『所長にも頼んで警察の伝手も使うから、明日の朝には結果を連絡できると思うわ。そのホテルに電話するからしっかり取るように!』

 

「了解です! ありがとうございます!」

 

 

(まったく、困った子ども達だ。

 しかし、まさかあの坊やがこれほど切れ者だったとは・・・)

 電話をしている金田一のことを静かに見る黒い影があり、その影は少しばかり悩むように考える。

(残る(生贄)はあと二匹だが・・・ どうやらここにもう一匹、死すべき(生贄)がいるようですね)

 その影がいる方向をマガドリ様だけがじっと見据え、影もまたマガドリ様と目が合っていることに気づき、微笑んでみせる。

(本当なら坊やではなく、彼に会いたかったのですが・・・ まぁ、いいでしょう。

 僕と彼の道は、いずれは交わる運命にある)

 次の準備のために金田一から離れていきながら、彼を想う。

(そうでしょう? 小城拓也くん)

 

 

 電話を終えた金田一は佐木兄弟と同室の部屋のベッドに寝そべりながら、この事件について考える。

(『地獄の傀儡師』がこのホテルの中にいる誰かだってのは、まず間違いない。そいつはいったい誰なんだ?

 それにあの列車の中で起きた死体消失事件・・・ 何か見落としている気がする)

 脳裏に思い浮かぶのは薔薇と風船に囲まれるように眠らされた山神団長の死体。そして、少し目を離した隙に消えたこと。その先のこと、自分の中の引っ掛かりをさらに追及しようとしたところで目の端に薔薇の花びらが映りこむ。

 

「ん? え!?」

 

 薔薇が落ちてきた方向に視線を向けると、窓に昨夜列車内で薔薇を配っていた謎のローブの男の姿があった。

 

「せ、先輩!」

 

「じ、地獄の傀儡師!?」

 

 実際に対面したことなどない筈だというのに、何故か奴がそうだと確信して金田一は叫ぶ。そして、奴の腕の中に抱えられた髪の長い誰かの服装に気づいて、慌てる。

(あ、あの服は・・・ 美雪!?)

 だが、金田一の内心の焦りなどどうでもいいとばかりに、奴は夜の闇の中に消えていく。

 

「佐木! お前はおっさんを呼んで来い! 俺は奴を追う!」

 

 二人の返事も聞かずに走り出す金田一に、おもわず佐木一号が溜息をつく。

 

「いや、佐木は二人いるんですよ」

 

「兄さん! そんなこと言ってる場合じゃないですよ!!」

 

「わかってる。竜二は先輩に言われた通り、剣持警部のところへ行くように」

 

「兄さんは・・・?」

 

「僕は当然、先輩を追いかける(の撮影に行く)

 

 この緊急事態にも関わらず、弟を安心させるように彼特有のにんまりとした笑顔とご自慢のカメラを見せるように持つ。

 

「どんな記録だってあると便利だ。だから竜二、そっちの撮影をしっかり任せた」

 

 言うだけ言って金田一を追って走り出す兄を見て呆然とするが、すぐに我に返って剣持の部屋へと向かった。

 が、剣持の元へ行って状況を説明していると風呂上がりらしい美雪が通りがかり、彼は犯人の真の目的に気づいて、すぐさま窓に現れた地獄の傀儡師の方向と金田一と兄が向かっていることを話すのだった。

 

 

 

 

 ホテルから飛び出し、地獄の傀儡師を追う金田一の頭の上のマガドリ様は何度も彼の頭を突いているのだが、追うことに夢中になっている金田一は気づかない。見失って周囲を見渡せば、草のない広い場所で横たわっている後姿を見つけてすぐに駆け寄る。

 だがそれは美雪ではなく美雪とよく似た服を着ただけのマリオネットであり、宙に浮いたマリオネットを視線で追いかければ、木の上にはマリオネットを操っていたであろう地獄の傀儡師が金田一を見下ろしていた。

 

「クックック、ようこそ。名探偵くん。

 暗く冷たい、『死の祭壇』へ」

 

「地獄の傀儡師!」

 

 だが、金田一が上を見上げたと同時に体が下へ下へと埋まっていく。

 

「な、なんだ? ここは!」

 

「あんまり動かない方がいいよ? ここは底なし沼だからね」

 

「なっ!?」

 

「動けば動くほど、早く沈んじゃうよ?」

 

 警告のようなことを言いながらもその声は楽しそうで、むしろ早くそうなればいいとばかりだった。

 

「お、お前!」

 

「君からはとても嫌な匂いがする。私の一世一代のマジックショーを台無しにしてしまうかもしれない、とても嫌な匂いが。

 だからね、君には死んでもらうことにしたんだ」

 

 表情の見えない仮面の奥にある目から、明確な殺意が見えたような気がする。

 そして、必死に枝へと手を伸ばす金田一を嘲笑い、静かに彼が底なし沼で永遠の眠りにつくのを望み、金田一の顔が完全に沼へと沈んだのを見届けてからせめてものと手向けとして薔薇を一輪放り投げていく。

 

 

 この場にいたのが金田一少年ただ一人であったのなら、そうなる筈だった。

 

 

 金田一の体が沈みかけていく最中、彼の頭の上にいたマガドリ様が羽毛をブワリッと広げ、大きな声で鳴く。

 すると、『お前、邪魔』とばかりに烏の群れが地獄の傀儡師を襲い、その姿を覆い隠す。

 

「ミコトちゃん!?」

 

「おやおや、これは想定外」

 

 余裕の声で逃げていく相手に腹は立つが自分が託されていることを優先することにし、烏達に新しい指示を出しつつ腰辺りまで沼に沈み込んだ金田一を確認してから、彼の頭から一度離れてから体のサイズ感をぬいぐるみサイズから人間サイズの大きなものへと変える。

 

「え? え? 何その変化? マジでどういうこと!?」

 

 自分の体のサイズ、足の形状が人の足ではなく鉤爪であることを確認してから、人間の腕よりもはるかに広く、大きな翼を羽ばたかせる。

 

「ちょっ!? えっ、怖いんだけど!」

 

 両肩を鉤爪に捕まれ、本来経験するはずもない猛禽類に捕らえられた獲物の気持ち(恐怖)をそのまま叫んでいると(ꐦ°᷄д°᷅)ッセェワとばかりにマガドリ様が金田一を睨みつける。どうやら自分の制止を完全に無視していた金田一にも怒っているらしい。

 

「あっ・・・ はい、ごめんなさい。

 とりあえずじっとしときます。助けてください、ミコト様」

 

 恐怖で身をすくませるとマガドリ様もやりやすくなったらしく、翼を羽ばたかせて一気に沼から金田一を引っこ抜く。

 

「ようやく追いつきましたよ、先輩。ってなんですか? その状況。

 その大きな烏は・・・ あぁ、ミコトちゃんですか」

 

 無事沼地からしっかりした地面に降ろした金田一にマガドリ様が怪我がないことを確認していれば、金田一の後を追っていた佐木一号が合流。他の人間が来たことで事態の収束はそちらに任せることにしたらしく、すぐに元のサイズへと戻った。

 

「さ、佐木~・・・」

 

 自分の味方の登場にほっとした金田一は力が抜け、緩んだ顔になる。

 

「何があったんですか?

 それに地獄の傀儡師と七瀬先輩はどうなったんです?」

 

 佐木一号が事情を聞こうとすれば背後から金田一と佐木一号を呼ぶ声がこちらへとまっすぐと進んできており、二人は『えっ?』と首を傾げる。

 

「はじめちゃん! よかった!」

 

「な、なんで皆、ここがすぐにわかったんだよ!? こんだけ広くて、真っ暗で、俺がいる場所へのヒントなんてどこにも・・・」

 

 一番に駆けてきた美雪に抱き着かれ、地面に座っていた金田一はどうにか倒れないように体を支えるが驚きを隠せなかった。

 

「佐木の弟のおかげで、地獄の傀儡師の狙いがお前だってことはすぐにわかったのはでかいが・・・ 捜索を始めてすぐに烏が俺らの前に現れたんだよ」

 

「そうしたら七瀬先輩が『ミコトちゃんのお友達なの?』って聞いて追いかけだしちゃって・・・ その七瀬先輩を追いかけたら、ここに辿り着いたんです」

 

 二人の説明に金田一が隣のマガドリ様を見れば泥まみれになった金田一のズボンのポケットからお菓子を引っ張り出しており、(´・ω・`)『あかない・・・』と落ち込む姿に噴き出してしまう。

 

「はじめちゃん?」

 

「地獄の傀儡師に誘い込まれて底なし沼に落とされて絶体絶命だったところを、ミコトちゃんがすげぇカッコいい姿になって助けてくれたんだよ。

 わりっ美雪、俺はこの通り泥だらけだからさ。ミコトちゃんにお菓子を開けてやってくんね?」

 

「あっ、うん。

 でも、はじめちゃんは大丈夫? どこも怪我してない?」

 

「ぜーんぜん! 沼に完全に沈んじまう前に助けてもらえたから、ズボンとか靴が泥だらけで気持ちわりぃぐらいだよ。美雪も無事でよかった」

 

「それならよかった・・・

 心配するんだから、危ないことに一人だけで駆け出すのは本当にやめてよ、もう!」

 

 マガドリ様にお菓子を開けてから手が汚れるのもかまわずに金田一の体のあちこちをペタペタと触って確認する彼女は、声こそ怒っているように取り繕っているがその目には涙がたまっており、誤魔化すように顔が金田一に見えないように金田一の周りをぐるりと回って確認している。

 

「ミコトちゃんが一緒に居たから一人じゃありませーん。佐木一号もすぐに追っかけてきてくれたしな」

 

「馬鹿! 一人で飛び出したことは変わらないし、どうせ夢中になってミコトちゃんの制止も聞かなかったんでしょ!! このことは小城さんに報告するからね!」

 

「マジで勘弁して! 冷静さを欠いて飛び出した挙句、ミコトちゃんの制止も聞かなかったとか、怒られる要素しかねぇ!?」

 

 剣持が金田一の叫びを聞いて、溜息をついた。

 

「そんだけ周りに心配させたってことだよ、この馬鹿もんが。

 まぁそのなんだ・・・ 無事だってわかったんだ、今日はもうさっさとホテルに戻るぞ。しっかり風呂に入って温まって、全員しっかり休め」

 

 その言葉に全員がホテルに戻り、長い一日を終えて、ベッドで眠りにつくことになった。

 

 

 

 

 なんともなかったとはいえ一応元医者であった支配人・長崎に見てもらい、無事健康であることのお墨付きをもらっていると、呼んでもいないのに明智がずけずけと部屋へと入ってきた。

 

「まったく君は・・・ 考えなしに飛び出して、周囲の人間にどれだけ心配を掛けるかがイマイチわかっていないようですね」

 

「んげ、明智さん。何しに来たんすか」

 

「朝の挨拶もなしにその言い草ですか。本当に君は礼儀作法というものが欠片も備わってない・・・ 小城くんの苦労が見えるようですよ」

 

「おはようございます。朝から嫌味を言いに来たんなら、お帰りは回れ右してすぐですよ」

 

 小城の名を出されて苛々し出す金田一に肩を竦めながら、明智は不敵に微笑んで告げる。

 

「『地獄の傀儡師』に近づくヒントを、いくつか君に教えてあげようと思いましてね」

 

「ヒント?」

 

 そうして明智から語られたのは由良間の死体の状況から彼は『生きたマリオネット』が演じられている時には既に殺されていたこと、そのことから考えるに犯人は『生きたマリオネット』のトリックを知っている人物だということだった。

 

「そして、第二のヒントはこれです」

 

 そう言って投げられたのは『近宮玲子に関する資料』と題された一冊の本。

 

「わっ、今まさに俺が事務所に頼んでる情報じゃん! まさか明智さん、俺の電話を盗み聞きしてた!?」

 

「していませんよ、人聞きの悪い。

 情報を欲していたということは、君もどこかで違和感を覚えたということでしょう?」

 

「うん、まぁ。明智さんは何か知ってんの?」

 

「えぇ、公には事故死とされていますが・・・ 近宮玲子は何者かによって殺されたんです」

 

 明智の言葉に金田一は息を飲み、ただ静かに彼の次の言葉を待った。

 

「事件が起こったのは今から五年前、当時人気絶頂だった近宮マジック団の主催者である近宮玲子 四十五歳が死体となってこのホテルの舞台の上で発見されました。

 死体の傍には天井裏で使われている渡し板が落ちていたそうです」

 

「渡し板?」

 

「天井に組んだ鉄筋に木の板が渡してあって、その上を行き来できるんですよ」

 

 金田一の疑問にわかりやすく答え、彼の知識の広さを感じるとともに、同時に彼がどれだけこの事故について調べたことがわかる。

 

「警察の調べでは彼女が何らかの目的で天井裏にあがった時、渡し板の一枚が外れ、そこから転落し事故死した。ということになっています」

 

「で、明智さんはそれがどうして殺人だと思うんだよ?」

 

「釘ですよ」

 

「釘?」

 

「外れた渡し板に使われていた釘が、まったく錆びてなかったんです」

 

 明智の解答に金田一が訳がわからずにいると、彼曰く天井裏などの危険場所に使う釘は酢などを使ってあえて錆びさせることで抜けにくくし、事故を防止するのだという。

 

「誰かがその渡し板だけ真新しい釘に替えた可能性があるんです。彼女がその板に乗ったら、すぐに釘が抜けるようにね」

 

「なるほどね。

 でも、その件とこの事件のどこに繋がりが?」

 

「君も調査を依頼するほど繋がりがあると踏んでいるならわかるでしょう?

 亡くなった今も彼女をパンフレットに掲載し、このホテルも彼女が生前からマジックをよく行っていたこと。でありながら、彼らはまるで腫物を扱うかのように彼女の名が話題にあがることを忌避している。あまりにも不自然じゃありませんか?

 そしてもう一つは、薔薇の花ですよ」

 

「薔薇?」

 

「天井から落ちた彼女は、舞台の上に飾られた白薔薇の花瓶に衝突しているんです。そしてその白薔薇は、彼女の血で赤く染められていた・・・」

 

 この事件の中で頻繁に使われる薔薇の花が五年前の事故との共通点となると同時に、金田一は最初の晩に地獄の傀儡師であろう男から薔薇を手渡されたことを思い出す。

 

『血ノヨウニ紅イ薔薇ヲドウゾ』

 

 それが比喩ではなく近宮玲子の事故を匂わせるものであったのなら、犯人は一体何者なのか。そして、一体何が目的なのか。

(わかんねぇなぁ・・・)

 

 

 

 金田一と明智が話している頃、夕海は部屋で一人煙草を吸いながら考えていた。

 

「どういうことなの? うちの人といい、由良間といい、あの時のメンバーばかり殺されるなんて。

 まさか・・・ まさかあいつが、口封じのために?」

 

 一人で何かの結論に行きついた彼女の顔は青ざめる。

 だから彼女は気づかない。部屋に誰かが入室していたことも、今まさに自分自身へと死が迫っていることも。

 次の瞬間、彼女の首にロープがかかり、首を強く締めていく。締めている相手が誰かもわからぬまま、彼女はどうにか助けを呼ぼうと叫ぶのだ。

 

「だ、誰か~~~!!」

 

 そしてそれが、彼女の最期の言葉となった。

 

 

 

 彼女の悲鳴を聞いてホテルスタッフと共に金田一と明智、剣持などが彼女の部屋へ駆けつけ、どこからか湧いてきた佐木兄弟までもが合流する。

 

「何か物音がしますよ!?」

 

 室内の物音を聞きつけた佐木二号。兄弟揃って観察力が優れているところは本来褒めるべき点なのだが、察しのいい人間は犯人から嫌われ、狙われるのが世の常だということを彼らはまるでわかっていない。

 まだ中に誰かがいることを理解して、鍵のかかっていた部屋を剣持が力技でぶち破る。

 だが、室内に争った様子もなければ、悲鳴を上げたはずの夕海すらもいなかった。

 

「ん? 窓が開けっ放しじゃ・・・・」

 

 そこで金田一は窓のカーテンが風に揺れていることに気づき、カーテンをめくるとそこに山神夕海はいた。

 窓のすぐ近くにあった大木に吊るされた彼女の手足は力なく下がり、その胸元には血のように紅い薔薇が飾られ、それはまるで操り手をなくしたマリオネットのようだった。

(地獄の傀儡師め・・・!)

 

 




ドラえもん道具なら『グルメテーブルかけ』が欲しいです。

あと、不本意なこと効果ありそうなのは『ツキのつき』・・・ マイナー道具だし、普段運がない人間が一番効果発揮するとかいう曰く付き同然の道具だけど・・・
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