五話目ー。
金田一らから遅れる形で騒ぎを聞きつけた魔術団のメンバーによって死体の確認が無事終わり、金田一らは一度室内を見渡した。そして、現段階では犯人がおそらく由良間殺害時と同じシーソーの原理で逃亡し、死体についた泥もその時についたものだろうと推測される。剣持と明智がそんなやり取りをしている最中、金田一はキョロキョロと部屋を見渡して、落ち着かない様子だった。
「はじめちゃん、どうかしたの?」
「この部屋、なんか違和感があるんだよなぁ」
金田一の言葉に美雪や佐木兄弟、マガドリ様も周囲を見渡すが、何が違うのかがわからずに皆で首を傾げる。
「そういう時の僕らですよ」
「部屋の映像ならばっちりですよ、先輩」
「おう、頼りにしてるぜ。佐木兄弟」
心強い後輩兄弟に笑いかければ二人も喜んで応え、改めて周囲をぐるりと撮り直しながら、佐木一号は何か思いついたらしく提案する。
「他の部屋と比べるなら、ホテルスタッフに頼んでお客の居ない部屋や他の場所もぐるりと撮影してきましょうか?」
「おっ、そりゃ助かる。頼んでいいか? 佐木一号」
「お任せを。
金田一先輩の撮影は竜二に任せますので、ご心配なく」
「いや、別に俺の撮影係に張り付いとく必要ないけどな?」
二人のやり取りを聞いて、美雪が少し考えるように腕を組んで右手を口元に手を当てていた。
「必要なくはない、わよね。
一人で飛び出しちゃったり、無茶したりするし、昨日だってミコトちゃんが止めたのに行ったって聞いたんだから!」
「なんで美雪が知ってんだよ!? まさかお前、ミコトちゃんとしゃべれんの!?」
「あっそれね。ミコトちゃんはおしゃべり出来ないみたいだから、質問形式でなら簡単な意思疎通が出来るってるりちゃんに聞いたの。最近は揚羽さんもそれで好きな食べ物とか飲み物を聞いてるんですって」
「いつの間にミコトちゃんと交流会してんの!? ていうか、るりちゃんと揚羽さんはミコトちゃんの姿が見えてんの!?」
「えっ? 事務所でミコトちゃんが見えてない人なんているの?」
美雪の素朴な疑問に、金田一は黙り込んでしまう。
(そういえば俺、見えるのが当たり前すぎて、誰が見えてるのか、見えてないとか知らねぇ)
「所長が見えてるのは確実だけど・・・ それ以外は正直わかんねぇ」
「おや、そうなんですか。
小城くんならその子を見えている条件にも察しがついているでしょうね」
「前聞いた時は『わからない』って言ってたけど、所長なら誤魔化してるとかもありそうだよなぁ・・・」
明智の意見に悔しくも同意せざる得ない事実にモヤモヤしつつも、話題の中心であるに等しいマガドリ様をちらりと見れば、(・ω・?)と不思議そうな顔をして首を傾げられた。
「えぇ。彼は伝えるべきことと、伝えるべきではないことを選んでいる。
彼のそうした理性的で冷静な判断は、信頼に値しますよ」
「明智さん、俺の前で所長のことを知ったかぶるのやめてくんね? 俺に対しての当てつけか何かなの?」
「僕が君より彼を知っているのは事実ですから」
二十八歳が十七歳にマウントを取るという割と恥ずかしい光景なのだが、この場にいる者には見慣れた光景であるため、剣持が次の行動を促した。
「警視、金田一とじゃれ合ってる場合じゃないでしょう。この後は魔術団のメンバーに話を聞かないと」
「そうですね。早速ロビーに集まってもらい、話を聞くとしましょうか」
そう話した後、魔術団のメンバーを集め、剣持はまず彼らに『生きたマリオネット』が始まる前に由良間が死亡していたこと、『生きたマリオネット』を操っていたのは『地獄の傀儡師』であったことを説明する。
「そ、それじゃ、犯人は・・・」
「あのマジックのタネを知っている人物ってことになる」
「で、でも『生きたマリオネット』のトリックを知ってる人なんて、もう一人しか・・・」
桜庭が震えながら聞くのを剣持は頷きながら、しかししっかりと答えると高遠が青い顔をして左近寺へと視線を向けた。
「ほう、お前だけが知ってるってわけか。左近寺」
「まっ、そーゆーことになりますかね」
だというのに、左近寺は余裕の表情でニヤリと笑い、肩を竦めて見せる。
「だって『生きたマリオネット』はもともと、団長と夕海さんと由良間さんと僕の四人で考え出したマジックですからね」
左近寺から告げられた事実に金田一が驚く一方、明智は冷たい目で左近寺を見つめていた。
「でもあのマジックのタネを知ってるのが僕だけになったからといって、イコール犯人ってのはあんまりな話じゃない?
それに刑事さん、まだ解けてない大きな謎があるでしょう?」
どこまでも挑発的な左近寺はニヤつきながらも団長の『死体消失』の謎について言及し、自分を犯人だと断定したいなら『決定的な証拠』を掴んでからにするように言いながら、その場を去っていった。
そのまま魔術団のメンバーは一度解放され、残間と高遠、そして桜庭の三人は不安を誤魔化すように三人で集まり話をしているが、話題はやはり事件のことだった。
「本当なんでしょうか、さっきの刑事さんの話。犯人が左近寺さんなんて・・・」
「ありうる話だな・・・」
否定するかと思いきや桜庭が肯定したことにより、残間は青い顔になる。
「桜庭さんまでそんな・・・」
「だって俺、見ちまったんだよ!
あの夜、近宮先生が亡くなる数時間前、左近寺さんが天井裏で・・・」
「俺がなんだって?」
怯えた様子で何かを語ろうとした桜庭を牽制するように左近寺がやってきて、会話が中断された。
「左近寺さん!?」
「あんまりくだらないことを言って後輩をからかうなよ、桜庭。
それに俺が本当の犯人なら、そーゆーことを言いふらす奴は真っ先に殺すと思うがな?」
脅しとも取れるような物言いをしながらわざとらしく桜庭の近くを通り、桜庭のみならず残間と高遠をも牽制するように笑いながらぐるりと見渡した。
「さ、左近寺さん、あたし達は別にそんなこと・・・!」
「おいおい、マジでビビるなって。幻想魔術団も俺らしかいなくなっちまったんだぜ?
お互い仲良くしようぜ? 仲良く、な!」
結成メンバーが凄惨な殺され方をされているにもかかわらず、煙草をふかした彼は笑いながらその場を離れるのであった。
「くそっ! 左近寺の奴!!」
そして同じ頃、魔術団のメンバーが退出した部屋で、つい先程左近寺に挑発された剣持は怒り狂っていた。既に彼の頭の中では左近寺が犯人であることが断定され、『生きたマリオネット』のトリックを独り占めするために他のメンバーを殺したということになっているのを、明智が止める。
「ひょっとしたら、事件の真相はおもわぬところから出てくるかもしれません」
「しかしですな! 警視!」
「例えば左近寺達が四人で作ったという『生きたマリオネット』のマジックですが・・・ 実は彼らが作ったものではなく、五年前に死んだ彼らの師である近宮玲子が作ったものだとしたら?」
「な、なんだって!? あのマジックが死んだ近宮のもの!?」
「でも、どうしてそんなことを警視が?」
仮定だと言いながら、彼のほぼ確信したような言い方に皆が驚く中、彼は過去を振り返るように俯いた。
「私が本人の口から聞いたことですから、間違いはありません」
「本人って・・・ それってまさか」
「生前の近宮玲子、本人からですよ」
そうして語られたのは六年前、明智がまだ新任の警部補として配属された先で事件の検問に当たっていた際に、検問で問い詰められていた彼女に出会ったという。マジックの小道具を凶器だと誤認された彼女は、警察官の前で自分の喉をついて見せ、あたかも喉を貫いているように見せかけたことにより場が騒然となりかけたのを、明智が割って入ったのが出会いの始まりだった。
明智は当時は彼女のことを全く知らず、日本のマジック界で一、二を争う有名なマジシャンであることを知ったのは後のことであり、この件をきっかけに彼女のマジックショーに足を運ぶようになったことから、個人的に話すほどに友好を深めたという。
「彼女から『生きたマリオネット』の構想を聞いたのは私が研修でロス市警に赴く日、飛行場のロビーで偶然会った時のことです」
「そう、ロスに行かれるの。
私は今、イギリスから帰ってきたところ」
「仕事ですか?」
「えぇ半分はね! あとの半分は・・・ ちょっと私用でね」
そう言ってから彼女が少し俯いて目を伏せた意味がわからず明智は疑問に思うが、彼がそれをぶつける前に彼女は鞄の中からマリオネットを取り出した。
「そうそう、良いところで会ったわ! 明智さん、ちょっとこれ見てくれる?」
「マリオネット? また新しいマジックですか」
「えぇ。実はこれ、さっき飛行機の中で思いついたばかりのトリックなんだけど・・・」
そう言いながら自分の顔のところまでマリオネットをあげ、自分の中にあるトリックをさらにそのマリオネットから探すように、そして最初の観客に等しい明智に次のマジックを語りだす。
「こいつが突然、自分で糸を切って勝手に動き出したら、面白いと思わない?」
「それは面白いですね、そんなマジック見たことがない」
「でしょ~! 人形が縄跳びしたり、ボール遊びしたり・・・」
「自転車に乗ったりするのもいいんじゃないですか?」
「自転車!? それ、いい! いただきね!」
明智の何気ない言葉を彼女はすぐさま手帳にメモを取り、それこそが今の『生きたマリオネット』の始まりなのだと明智は語る。
「手帳?」
「えぇ。彼女はそれを、奇術のトリックが浮かんだ時すぐメモできるように持ち歩いている『トリックノート』だと言っていました」
「へー、なんかすご~い」
「じゃぁそのノートには、彼女が演じてきた名マジックのタネが全て書かれているんですね」
佐木二号の言葉に明智はゆっくりと首を振った。
「いえ。彼女はその時、こうも言っていました。
このノートに書いてあるマジックは自分が演じるものではなく、全てある人にプレゼントするものだと」
『いつかあの人が舞台に立つことになった時、これが役立てばと思ってね。それで少しずつ書き溜めてるの。
今の私があの人にしてやれることと言ったら、これぐらいしかないのよ』
『あの人』と呼ぶ誰かを知らない明智であってもその人物が彼女にとって特別な存在であることは明白であり、それ以上に深く追求することは出来なかったのだ。
「それから数週間後です。ロスで彼女の死の知らせを聞いたのは。
彼女の死に疑問を感じて、私は帰国後に彼女の転落死事故関する資料を調べました。そうしたら案の定、彼女が常に持ち歩いていた筈のあの『トリックノート』がなくなっていたんです」
「そ、それじゃぁまさか! 近宮の弟子だったあの四人が彼女を殺して、『トリックノート』を奪ったと!?」
「私はそう考えています」
「とすると、この犯行の動機は・・・ 五年前、近宮玲子を殺した奴らへの復讐かもしれないってことか?」
剣持の言葉に頷く明智に、彼が立てた仮説に金田一は嫌な汗が止まらなかった。
(ほう? あのトリックノートのことを知られてしまいましたか。となると、私も少し急ぐ必要がありそうだ。
でもそうやってどんなに調べても、『私』に到達することは出来ませんよ)
その様子を陰で見ていたある人物は彼らの推察に少々驚き、ニヤリと笑う。
(さて、皆さんが頭を抱えている間にあと一人、最後の
その人物の視線の先には、明智の姿があった。
だが、そんなことも露知らずに金田一らが話し合いを続けていると、近くを通りかかった子どもが突然泣き出してしまう。
「えっ!?」
「どうした、坊主?」
周囲をぐるりと見渡しても保護者はなく、よく見れば部屋の隅の天井に風船が浮いていた。
「なんだ、風船を飛ばしちまったのか。
よし、俺がとってやるよ!」
そう言って金田一が跳ぼうとした時、さっきまで頭の上で退屈そうに欠伸をしていたマガドリ様が一つ伸びをしてから軽く飛び上がり、嘴に紐を挟んで子どもの元まで降ろして持ってきた。
「ミコトちゃん!? 俺の見せ場を奪わないで!」
「鳥さん、ありがとー!」
子どもが素直にお礼を言って去っていくのを見て、金田一は『え? 子どもはミコトちゃんのこと見えてんの?』と思うと同時に風船を見てあることを思い出す。
「そーいや、列車の個室で山神の死体が見つかった時、現場に漂ってたたくさんの風船。あれはいったい何だったんだ?」
「そういえばありましたね、つい薔薇と死体にばっかり目がいってましたけど」
「あ? 風船?」
「どうゆうこと? はじめちゃん」
金田一の突然の疑問に佐木一号が頷き、剣持と美雪は意味がわからず問い返せば金田一は頷きながら答えた。
「部屋中に詰め込まれた紅い薔薇は事件の象徴みたいなもんだとして、浮かんでた風船はいったい何の意味があったのかってことさ」
説明を終え、すぐに佐木達の映像を確認するために部屋に戻って映像を見直す。
「考えすぎだぞ、金田一。
まともじゃない人間がやることなんざ、別に意味なんか・・・」
「そいつはどうかな? 確かに奴はまともじゃないが、頭は恐ろしくいい。
これほど綿密な計画を創り上げた犯人が、そういう意味もないことをするだろうか?」
そうして映像を見直していると金田一は山神の死体が薔薇の中で横たわっているところで、あることに気づく。
重なり合っているとばかり思っていた山神の手が、風船によって浮かんでいたのだ。
「まさか、この風船の意味は?」
何かに気づいた金田一がさらに列車の見取り図を求めれば、美雪がすぐに時刻表にあると教え、見取り図を確認する。死体が見つかった三号室、その隣に並ぶ四号室との間にはトイレがあるだけの普通の物。だが、金田一は何かを確信した様子だった。
「わかったぜ、死体消失のトリックが!」
「なんだって!」 「ホントなの!? はじめちゃん!」
「あぁ! あの風船は勿論、一見は事件の象徴にすぎないかと思われた紅い薔薇にも、ちゃんと重要な役割があった。
全てはこの死体消失トリックにはなくてはならない舞台装置だったんだ!」
そう言った金田一は剣持にもう一度北海道警に頼んで、死体が見つかった個室を調べ、残っていた物を調べなおすように言って欲しいと告げる。
「死体消失トリックの謎を解く鍵が、あの犯行現場には残ってる筈なんだ」
「よ、よし! わかった!」
北海道警と連絡を取るべくすぐさま飛び出していく剣持を見送りながら、金田一は部屋に残っていた美雪と佐木兄弟に振り返った。
「いよいよ大詰めだぜ! 美雪、佐木兄弟。あとは列車から消えた山神の死体が再びホテルの一室に現れた謎を解き明かす!
そして『地獄の傀儡師』! お前の正体を突き詰めるだけだ!」
「あの~すいません、金田一様に須賀様という方からお電話です」
そう言い切った金田一のところに申し訳なさそうにホテルスタッフが現れ、電話だと告げられ慌ててフロントに行けば、須賀というだけでは該当者が知り合いに五名もいるのだが電話から聞こえたのは舘羽のものだった。
『おはよう。お求めの情報を集めたんだけど聞く?』
「あ・・・」
昨夜頼んだばかりだというのに電話後に地獄の傀儡師に出くわして夜の沼に落ちたり、翌朝に健康診断の最中に明智から近宮玲子の話を聞いていたら、突然の悲鳴。そこから夕海の死体を発見して、今の今まで事件の考察をしていたのですっかり忘れていた。
『何よ、その反応。金田一くんが頼んできたんでしょ』
「いやその・・・ ひっじょーに言いにくいんですけど」
『何よ、内容次第では怒るわよ?』
舘羽の宣告に怒られることを確定した金田一の額には冷や汗が流れ、頭の上で全てを知っているマガドリ様はꉂ(*°ฅ°*)クスクスと笑い出す。
「その・・・ すんません!!
たまたまずっと居合わせてた明智さんが俺の欲しい情報全部知ってて、今朝教えてもらいました! なんなら個人的にまとめてたらしい資料本をそのまんま俺に貸してくれました!」
『はぁ!? 明智さんも一緒に居たとか初耳なんだけど!』
明智が一緒に居たことも初耳だった舘羽からすれば当然の反応貰い、そこから続くであろう怒りの声を覚悟した金田一は表情を硬くする。
『はぁ・・・ いろいろ言いたいことはあるけど、忘れるくらい何かがあったってことよね?
とりあえず皆、怪我してない?』
「えっ? 怒んないんすか?」
が、電話口に続いたのは溜息交じりのこちらを気に掛ける言葉で、金田一は驚いてしまった。
『そりゃ、正直言えば怒りたいわよ。
昨日電話来てから兄さんと檜山と事務所に逆戻りしていろいろ調べて、所長とも連絡取って他に詳しいいつきさんとかに繋いでもらって情報搔き集めてまとめたのよ? それが全部パァになったんだから。しかも現地にいた知り合いが全部知ってて情報共有すればいらない苦労だったとか・・・ 本来なら怒鳴り散らしたいけど』
そこで舘羽は溜息を吐き、眠いのか欠伸までしている。
『でも、所長との電話の時点でそっちではもういろいろと起こってるのは想像つくし、昨日した電話の内容が頭から飛ぶような何かがあったなら、怒るに怒れないわよ』
不覚にもそこで金田一の目から涙が出てしまい、鼻を啜ってしまう。
『ほらほら泣かないの。こっちのことは気にしなくていいから、今はとにかく自分と周りの人の安全優先!
怒ったり、文句言うのは帰ってからにしてあげるから、今はもうやりたいことを全力でやりなさい』
「舘羽さん・・・ 俺も時々、舘羽さんのことを『姉ちゃん』って呼んでもいいっすか?」
金田一がそんなことを言うと、舘羽は笑う。
『別にいいけど、あたしが姉になると兄さんと揚羽、それからるりもついてくるけど大丈夫?』
「徹さんは暴走してなきゃ良い兄ちゃんだし、揚羽さんとるりちゃんはむしろ嬉しいっす! 俺、一人っ子なんで」
『一人っ子とは思えないぐらい、小っちゃい子とかの面倒見がいいから忘れてたわ・・・』
「アハハ! ホント、ありがとうございます」
『ハイハイ、お礼も帰ってからでいいから。
もう切るわよ。兄さんと檜山に説明したら、あたしもさっさと寝ることにするわ』
「はい! おやすみ、姉ちゃん」
『頑張るのよー、弟くん』
電話を切るとフロントに何やら荷物を持ってきた左近寺がいて、左近寺に何かと挑発されまくっていた剣持が問えば左近寺は面倒そうに荷物を送ることを伝える。
「それとも僕達、荷物も送っちゃいけないんすか? 刑事さん」
「い、いや・・・」
剣持が止めた理由を理解しつつも、荷物も送っちゃいけないなどとは言えない状況の中で金田一は焦っていた。
もし、あの中に犯人を示す重要な証拠が存在したら? それをもう二度と見ることの出来ないようにされてしまったら? そんな考えが脳裏に浮かぶ。
だが、そんな風に考えている間にも左近寺は荷物を送る手配を終えてしまい、送る荷物の中には『生きたマリオネット』の人間サイズのマリオネットが入っていたトランクも含まれていた。
「先輩! 貨物列車が来ちゃいましたよ!」
「え!」
列車が来たことに慌て、どうにか荷物をこのホテルに足止めしようと動くが、荷物のすれ違う姿を見たことで金田一は何かに気づいて立ち止まる。
「先輩? どうかしたんですか?」
突然立ち止まった金田一に追いかけていた美雪と佐木兄弟、剣持も立ち止まるが、突然振り返った金田一は叫んだ。
「佐木二号! お前確か、列車が爆弾騒ぎで止まった時、カメラ回してたよな!?」
「え? そりゃ勿論」
そして、すぐさま映像を確認すると列車の隣には貨物列車が並んでおり、その映像を見ても何が何だかさっぱりわからない周りを置いてきぼりにして、金田一は何かを確信する。
「わかったぜ、おっさん。
列車から消えた山神の死体が、突如ホテルの一室に現れたマジックのからくりがね!」
「何!?」
「ほ、ホントなの? はじめちゃん」
「あぁ。
一見、こけおどしのように見えたあの爆弾騒ぎも、実は死体移動トリックのためのある重要な役割を担ってたんだ」
「ある重要な役割?」
驚く二人に説明していると佐木二号はそのまま映像を流し、佐木一号もその暇を使って自分が撮っていた映像を確認していると、『もう止めていい』と言おうとした金田一が振り返ったタイミングで映った画像によってあることに気づく。
「待て、一号! 今のところ、もう一度映せ!!」
映っていたのは殺された夕海の部屋であり、ベッドから化粧台へと映像が変わった時にその部屋になくなっている物に気づいた。
「そうか、わかったぞ! あの時の違和感が!
翡翠だ! どの客室にも飾ってある筈のあの翡翠が、夕海の部屋からなくなっていたんだ!」
「ほ、ほんとだわ・・・」
「だ、だがそれがいったい何の・・・?」
「とするとひょっとして・・・ おい、佐木一号! お前、あの後他の部屋の映像も撮りに行ったよな!? 翡翠が二つある部屋ってあったか!?」
「えぇ、ありましたよ。ちょうどこの部屋の下の・・・」
佐木一号が説明中にもかかわらず金田一は駆け出し、佐木一号が言った部屋へと飛び込んでいく。部屋の作りは他の部屋と何も変わらない。だが、佐木一号が言った通り、翡翠が二つある。
「やっぱり」
「はじめちゃん、やっぱりって何が?」
「わかったぜ、美雪。『地獄の傀儡師』の正体が」
金田一曰く、犯人は重大なミスをしたのだという。
「な・・・ なんだって!?」
「それじゃぁ・・・」
そして彼は振り返りながら、探偵らしい言葉を言い放つ。
「謎は全て、解けた!」
そう言った彼は早速、剣持に頼んで種明かしに必要な道具を揃えてもらい、さっき積まれたばかりであろう左近寺の荷物にあるマリオネットのトランクをこっそり降ろすように頼むのであった。