小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

確か文字数的にこれが一番長かったはずの、謎解きの六話。


魔術列車殺人事件 ⑥

 ロビーに関係者全員を集め、金田一を中心に右に剣持、左に明智。そして頭の上にはマガドリ様という並びでやってくれば、残間が立ち上がって聞いてくる。

 

「金田一くん、団長達を殺した犯人がわかったって本当なの?」

 

「あぁ」

 

「また昨日みたいに、根拠のないことを言わないだろうね?」

 

「ご心配なく、左近寺さん」

 

 煙草をくわえてせせら笑うように挑発する左近寺に、金田一はきっぱりと答えた。

 

「犯人のトリックは、全て見破りましたから」

 

 言い切ってみせた金田一に信じていないような、疑うような視線を送る左近寺を放っておき、金田一はその場で事件の説明を兼ねて整理していく。

 この事件にある大きな謎は三つある。

 まず一つ目は列車内で起こった『死体消失』。

『地獄の傀儡師』からの連絡で個室で発見された山神の死体が、目を離したわずか二~三分の間に忽然と消えた。唯一の出入り口に等しい窓は小さく、犯人どころか死体を外に出すことは本来ならば不可能である。

 二つ目は一つ目の『死体消失』によって消えたはずの死体が突然ホテルに現れた、『死体移動』の謎。

 列車から降ろされた荷物は全て点検されていたにもかかわらず、消えたはずの死体がホテルの一室で発見された。

 三つ目の謎はいたってシンプル。

 特急列車『銀流星』と死骨ヶ原ステーションホテルを舞台にした連続殺人事件の犯人『地獄の傀儡師』は誰なのか。

 

「で、その謎は全て解けたってわけだ」

 

「あぁ」

 

「面白い! 聞かせてもらいましょうか、名探偵くんの名推理とやらを」

 

「その前に一つ、言っとかなきゃいけないことがある」

 

 しゃべると挑発しかしていない左近寺に金田一はもはや苛立つこともなく、言葉を遮ることで会話を続行する。

 

「今回の事件は五年前、このホテルで起きた近宮玲子の転落死と深い関わりがあるってことです」

 

 その言葉でやはり幻想魔術団の表情は固まり、桜庭が怯えた様子で問う。

 

「そ、そんな・・・ 先生の事故と今回の事件にどういう繋がりが・・・!」

 

「あれは事故なんかじゃない、彼女は殺されたんだ!」

 

「近宮先生が・・・」 「殺された!?」

 

「近宮先生が殺されたって・・・ それ、本当なの!? 金田一くん!」

 

 幼い頃からマジックばかりをしていた彼女からすれば高宮玲子は憧れの存在であり、もしかしたらこの幻想魔術団に入った理由にすらなっているだろう彼女の不幸な死が、事故死ではなく殺人であったことに驚きを隠せなかったようだ。

 

「あぁ。彼女は弟子だった四人の人物。山神と夕海と由良間・・・ そして、左近寺。

 あんた達四人によって、近宮玲子は殺されたんだよ」

 

 金田一によって断言された内容に、左近寺は肩を竦めながら笑う。

 

「やれやれ、団長殺しの次は近宮先生殺しの犯人かよ。なんだか話が飛びすぎてない? 名探偵くん。

 大体、どーして僕らが近宮先生を殺す必要があるわけ?」

 

「彼女が持っていたトリックノートを奪うためさ」

 

「トリックノート?」

 

 なんのことかわからない残間が繰り返せば、桜庭は何を示しているのかを知っているような表情をし、高遠がトリックノートとは何かを聞き、金田一もわかりやすく説明する。

 

「その手帳には奇術界の女王と呼ばれた彼女の、奇想天外なマジックのアイデアがいくつも書きこまれていたんだ」

 

「たかがトリックのアイデアのために玲子さんの命を!」

 

 信じられないとばかりに長崎が叫ぶが、明智はゆっくりと首を振る。

 

「マジシャンにとってトリックはまさに命ですよ、素晴らしいマジックはマジシャンに名誉と富をもたらします。まして天才マジシャン 近宮玲子が大事に温めていた秘蔵のトリックであれば、それは莫大な資産を手に入れることと同じでしょう」

 

 そこから語られたのは五年前、四人がこのホテルの舞台で近宮玲子を天井裏に誘き出し、板に細工をした末に転落事故に見せかけて殺したという酷い話だった。そうして奪ったトリックノートを元に新たな魔術団である『幻想魔術団』を作り出し、彼女の作ったマジックの数々によって人気が増して一流のマジック団に上り詰めたのだ。

 だが、金田一の推理を左近寺は鼻で嗤う。

 

「ハッ、ご冗談を! そりゃ確かに近宮先生に教わったマジックも使っちゃいるけどね、『幻想魔術団』の人気マジックはほとんど俺ら四人が知恵を絞って考えたもんだぜ? そんな言い掛かりで近宮先生殺しの濡れ衣どころか、我々『幻想魔術団』の株まで下げようっていうの?

 近宮先生のトリックを奪ったのなんのって、証拠はあるのかよ? 証拠は!」

 

「その証拠は、僕が握っていますよ」

 

 苛立ち交じりに吐き捨てるように告げる左近寺の言葉を、次に否定したのは明智だった。

 

「あなた達が作ったという『生きたマリオネット』のアイデアを、私は生前の近宮玲子の口から聞いているんです。

 あなた達は知らないでしょうが、マリオネットが自転車に乗るというアイデアは僕と会話したことから生まれたものでしてね。彼女はそのアイデアを僕の目の前でトリックノートに書き込んでいたんですよ」

 

 その言葉に完全に左近寺の顔色が変わり、沈黙は肯定となって全員に周知されていく。

 

「近宮玲子の死は警察でも事故として片づけられた。あんたらはうまくコトが運んだつもりだったろうよ。

 だがこの卑劣な犯罪行為に、気づいた者がいた」

 

 その場にいる全員を観察しながらも、言葉を続けていく。

 

「その人物は近宮玲子を殺した連中に復讐するために、彼女が殺されたこの死骨ヶ原ステーションホテルを舞台とした血塗れの殺人劇を作りあげたんだ!

 そして、その殺人劇を演出して実行した人物『地獄の傀儡師』はこの中にいる!!」

 

「『地獄の傀儡師』が・・・」 「私達の中に・・・!?」

 

 残間と桜庭、長崎と高遠が驚く中であっても、左近寺はただ黙って彼の言葉の先を待っている。

 

「あぁ。思いもよらない物が、俺に犯人の正体を教えてくれたんだ。

 それがこの翡翠さ」

 

 そう言って金田一が示したのはこのホテルのどの部屋にも飾られている翡翠の原石であり、誰もが意味がわからず首を傾げる。だが、金田一が言うにはこの翡翠は元々殺害された夕海の部屋にあったものであり、彼女が殺された直後に翡翠は部屋から消え、何故かその真下の部屋で発見された。ホテルスタッフに確認しても事件が起こる直前には確かに翡翠は彼女の部屋にあり、時間的に考えればこの翡翠を真下の部屋に運んだのは殺害した犯人だということになる。

 

「犯人がこの翡翠を?」 「なんでそんなこと?」

 

「夕海の部屋から逃げ出すためさ」

 

「えっ!?」

 

 犯人は夕海の悲鳴が聞かれたこと、予想よりも早く現場に駆け付けたことにより、一刻も早く現場から逃げることになった。その結果、由良間の時と同様にシーソーの原理を活用して逃亡を図ろうとしたが、直前でその条件に満たしていないことに気づいたのだ。

 

「っ! 体重か!」

 

「そう。奴の体重は夕海よりも軽かったのさ」

 

 すぐさま気づいた明智の解答を金田一は肯定し、さらに説明を続けていく。

 当然だがシーソーの原理を活用するためには、殺した夕海よりも自身が重くなければ実行することは出来ない。そこで目をつけたのが部屋に置かれていた翡翠の原石であり、それを抱えることで条件をクリアして現場から逃亡を果たした。その結果、犯人は抱えていた翡翠の原石を咄嗟に真下の部屋に置いて逃げたのだ。

 その条件を聞いた面々が一斉に残間へと視線をやり、疑いだすが、金田一はそれを否定ではなく、ある映像を見せることで中断させた。その映像は由良間が殺され、シーソーの原理がわかった直後に剣持が誤った推理劇場を行った際のものであり、映像の中で魔術団の面々が順に体重を答えていく。

 

『八十一キロ・・・』 『七十二キロだったと思いますけどね』

『その、五十五キロですけど・・・』 『五十三キロよ! それがどうしたっていうの?』

 

「五十三キロ!? さとみさんは夕海さんより重いわ!」

 

「そ、それじゃ犯人は・・・」

 

「この中で夕海より軽い人物は一人しかいない。それは・・・」

 

『わ、私は、確か五十キロくらいで・・・』

 

 最後に映し出されたのは、マネージャーである高遠が怯えたように答える姿だった。

 

「高遠遙一!

 あんたが山神と由良間、そして夕海の三人を殺害した真犯人『地獄の傀儡師』だ!」

 

「た、高遠さんが・・・」 「『地獄の傀儡師』!?」

 

 誰も予想出来ていなかった人物が名指しされ、全員が驚いていく中であっても、金田一は彼に事実を突きつけていく。だが、高遠はシーソートリックの条件を満たしても自分が犯人だと断定されるのはおかしいと言い、話を変えるように『死体消失』のトリックの説明を求める。確かに彼は列車の中で死体が発見された時も一緒におり、あるトリックがなければその実行は不可能だった。

 そのタイミングで列車の音が響き、金田一は待っていたとばかりに全員を連れてホームへと移動する。

 

「解き明かしてやるぜ、高遠さん。あんたが演じた『死のマジック』をね」

 

 ホームの中に用意された列車の中に入れば、その一室には山神が発見された時と全く同じ状態でマリオネットが横たわっており、今から始まるマジックショーのために降ろしてもらって準備したのだという

 事件は奇妙な電話から始まり、薔薇に囲まれた死体を発見。見つけたはいいが棘だらけの薔薇によって入れずにいると、部屋の中から発煙筒の煙が発生したことにより駆け付けた者達は一度退却。すると、部屋の中から何かの破裂音が聞こえてくる。

 

「そうだわ! 確かあの時もこんな風に、風船が割れる音がしたっけ」

 

「時間にして一~二分後、音がやんだのを見計らって俺達が再びドアを開ける。ところが・・・」

 

「!? ない! 人形が消えてる!」

 

 扉を開ければ、あの時と同じようにマリオネット(死体)は消え失せ、そこには薔薇だけが残されていた。

 

「お、お前! 人形をどこに!」

 

「慌てない、慌てない。

 人形ならほら、あそこにちゃんといますって」

 

 掴みかかってくる左近寺に金田一はニコニコしながら答え、部屋の隣にあったトイレからマリオネットが顔を出していた。突然トイレから顔を出した人形を驚かれる中、マリオネットを持っていた佐木二号も顔を出す。そこで左近寺がマリオネットと二号が出てきたトイレに入れば、トイレの中は窓が開いた状態で手すりには紐がかけられていた。

 

「そうか! この紐を人形に繋げて、個室の窓から外を通してトイレの窓から手繰り寄せたってわけか!」

 

 全てを理解したように左近寺が言うがどちらの窓も開くのに限界があり、とても人形の全ては移動させることは出来ない。

 

「確かに列車の窓から人の体を全部出すことは出来ない。けれど、頭とマントだけならあの窓でも通るんだよ。こいつみたいにね」

 

「く、首だけ!?」

 

 金田一が持っているのはマリオネットだが、実際は死体で行われたであろう事実も相まって聞いている者達は青ざめていく。

 

「そんなバカな! さっき個室で見た人形はマントの下に体の形がはっきりと・・・」

 

「そ、そうですよ! 山神団長の時もちゃんと体がありました!」

 

 金田一の説明では納得できない二人が叫び、その上で山神の死体発見当時の映像が皆の前で流される。全員が『確かに体がある』と判断したところで明智が目を細めて画像をよく見るように促した結果、そこで残間があることに気づく。

 

「手が・・・! 団長の手が浮いてるわ!」

 

「そう、人間の手がこんな小さな風船で宙に浮くとは思えません。つまり、マントの下にあったのは人間の体じゃないってことになる」

 

「じゃ、じゃぁ、いったい何が・・・」

 

「これさ」

 

 言いながら出したのは通常の風船と細長い形状をした風船であり、金田一はバルーンアートの要領で風船を組み合わせ、人の体に見えるように風船を合わせていたのだと説明する。そうして組み合わせた風船は隣のトイレから紐を引っ張れば、周囲に置かれていた薔薇の棘によって割れていく。

 

「じゃぁ、ドアを閉めた後に聞こえた風船の割れる音は・・・」

 

「あぁ、山神の体に見えていたマントの下の風船が割れる音も混じってた筈さ。

 もしマントの中の風船だけを割ったら、音と残骸でトリックがバレちまう。しかし、他にたくさんの風船を浮かべておいて一緒に割ってやれば風船の割れる音をカムフラージュし、残骸も他の風船に紛らわしてしまうことが出来る。

 『木の葉を隠すなら森に隠せ、森がなければ作ればいい』 あんたはこの言葉通りのことをやったってわけさ。

 これがあんたがやった『死体消失』マジックのからくりさ。違うかい? 高遠さん」

 

 指摘された高遠は溜息をつきながら髪をかき上げ、首を振る。

 彼曰く、このロジックでは穴が多すぎる。誰かが部屋に入って団長の体に触れれば一発でわかることであり、そんなトリックでは危なっかしくて演じられたものではない。と。

 

「だからこそ、あの個室の入り口には薔薇の蔦が張ってあったんだよ」

 

「薔薇? ハハッ、そんなものが何になりますか? 引きちぎってしまえばそれまででしょう」

 

「だが、一瞬の足止めにはなる」

 

 金田一がすぐに言い返し、高遠はそれを論破することが出来ずに沈黙したことで彼の説明は続いた。

 

「あんたは俺達が『山神の死体を目撃する』、一瞬の間が欲しかっただけなんだ。

 何故ならそのすぐ後に、あんたはもっと効果のある心理的バリケードを用意してたんだからな」

 

「心理的バリケード?」

 

「あんたが用意した第二のバリケード、それが死体発見直後の爆弾騒ぎさ」

 

 山神の死体が発見される少し前、列車は一度犯人の爆破予告によって大騒ぎとなる。だが騒ぎは、花火があがっただけで何事もなく終わった。しかし、直後に本物の死体を見せられ煙が噴き出してきたことによって『今度こそ爆弾か!?』と構え、ある人物の『爆弾だ!』という言葉が人々の不安に火をつけ、『その場に踏み込む』などという考えを破壊した。

 

「俺の記憶じゃあの時叫んだのは高遠さん、あんただったぜ?」

 

 高遠は沈黙し、金田一は一連のトリックのアイデアに感心したという。最初に薔薇を乗客に配ったことに始まり、サラダや花火のパフォーマンスに使ったのも『死体消失』トリックに使うための下準備だった。

 

「そうじゃないのかい? 高遠さん。いや、『地獄の傀儡師』!」

 

「駄目ですよ、金田一さん。そんなことで僕を追い詰めたと思っているんですか?

 だってまだ一つ、大きな謎が残っているじゃないですか」

 

「な、なんだと?」

 

 これだけトリックを暴かれて尚、彼は平然と問いかける。

 

「山神団長の首から下ですよ。

 まぁ仮にあなたの説明通り、あの個室にあった団長の死体が頭だけだったとしましょう。でもそれじゃぁ、団長の体はどこに行っちゃったんでしょうね?」

 

 高遠の言う通り、ホテルで再び山神の死体が見つかった時には首から下が存在し、列車から降りる際も厳重な荷物検査があった。あの状況で死体を運び出すことなど不可能であり、それは他ならぬ荷物を調べた剣持や明智はわかっている筈だ。

 

「現に僕はあの時、肩掛け鞄しか持ってなかった。

 あんな小さな鞄一つで、どうやって人間の死体を運び出すって言うんですか?」

 

「高遠さん、言った筈だぜ? この事件の謎は全て解けている、って。

 当然、『死体移動』トリックも解決済みだよ」

 

 金田一の言葉に高遠は目を開いて驚き、金田一はそれにかまうことなく続けていく。

 

「列車で起きた爆弾騒ぎのもっとも重要な意味は、まさにそこにあるのさ。あんたはある方法を使ってまったく関係のない人間をトリックの協力者に仕立て上げ、自らの手を煩わすことなく、まんまと死体をホテルの部屋に運び込んだんだ」

 

「やだなぁ、金田一さん。僕はただのマネージャーですよ?

 厳重にチェックされたあの列車から団長の死体をホテルに運び込むなんて、そんなマジシャンみたいなことを僕にはとても出来やしませんよ」

 

 これまで見せた気弱な態度はもはやどこにもなく、余裕すらもって金田一に問いかける姿は誰の目から見ても別人にしか映らない。だが、金田一はそんな彼に怯むこともなく突きつける。

 

「マジシャン・・・ そう、あんたはまさにマジシャンだ!

 この奇想天外な『死体移動』にはマジックで使われる心理トリックがいくつも応用されてるんだ」

 

 そのトリックは金田一らが列車に乗った翌日の朝にあってマジックショーから始まっており、ショーの冒頭で挨拶を行った山神を個室に呼び出して殴打によって気絶させたのち彼の体をバラバラにした。それは山神が最初の挨拶と最後のトリを行うと知っていたからこそ出来たことであり、その間にトリックの準備も行われたのだという。他の面々が納得していく中、ストップをかけたのは高遠だった。

 

「死体をバラバラにしたからと言って、カサが減るわけじゃないんですよ?

 よく思い出してくださいよ。例の個室団長が消えた直後のこと、皆で列車内をくまなく探しましたよね? それこそ死体が入りそうな所も全部! でも、死体の一部どころか指一本だって出てきませんでした。

 いったい犯人の僕は、死体を列車のどこに隠したんでしょう?」

 

「列車の中に隠したりなんかしなかったのさ」

 

 言外に『無理でしょう?』と問いかける高遠に、金田一は即答だった。

 

「ど、どういうこと?」

 

 だが、そんなことを言われても他の面々は意味がわからず、困惑するしかない。

 

「あの時には既に山神の死体は、頭部を除いて列車から降ろされていたんだ。あんたの手によってね!」

 

「死体を降ろしただって!? 団長の死体を列車の外に捨てちまったってことか!?」

 

「ハハハッ! これは傑作だ!」

 

 左近寺の的外れの言葉と金田一の荒唐無稽としか思えない推理に、高遠は声をあげて笑いだす。

 

「僕は山神団長の死体を捨ててしまったんですか? じゃぁ、ホテルで見つかった団長の体はなんだったというのでしょう?」

 

「勿論、あれは紛れもなく列車内で殺された山神団長の死体さ。

 あんたは列車から降ろした死体をある方法で、自らは指一本触れずに遠く離れたこのホテルの一室に運び込んだんだ」

 

 このホテルに列車が来るのは三日に一度であり、一度降ろした荷物を何もせずにホテルに運び込むことなど不可能だと左近寺と長崎によって言われるが、金田一はどこからか宅配の伝票を取り出した。

 

「その大マジックのタネがこいつさ」

 

 それはトレイン急便の伝票であり、犯人は山神の頭部だけを手元に残して、残りの死体を荷物としてホテルに送ったのだ。

 だが、高遠はそれすらも呆れたように鼻で嗤う。

 

「宅配便なんて、列車の中からいつどうやって出しに行くんです?

 それに団長の死体が発見されたのは、僕らがホテルに着いたすぐ後でしょう? 出したその日のうちに届く宅配便なんて聞いたことないですよ」

 

「ところがあるんだよ。

 宅配便でその日のうちどころか、俺達の列車が着く前にステーションホテルの一室に死体を送っちまう方法がね」

 

 高遠の嗤いが止まり、表情が固まっていくことによって、金田一の謎解きが真実であったことが確信となり、金田一はさらに語る。

 

「その秘密はあの日、マジックショーの後に起こった爆弾騒ぎにある」

 

「何ぃ~!? あの爆弾騒ぎが!?」

 

「あぁ! 一見だと犯人のお遊びのように見えたあの爆弾騒ぎは実は『死体移動』トリックにおける重要な役割を担ってたんだ」

 

 そう言って再生されていくのは『地獄の傀儡師』によって爆破予告が始まった前後の映像であり、何故かサラダの爆発は起こらず列車は貨物駅に緊急停止することになる。

 

「さぁ、貨物駅に到着。ここからが問題だ、

 よく見てくれよ? この時、ホームの反対側に停まっているこの列車を!」

 

 全員に注目を促すと同時に、映像の中で銀流星に並ぶようにある列車が並んだ。

 

「これは!? トレイン急便だわ!」

 

「そう。そして、この宅配便の貨物専用の貨物列車は俺達の列車が死骨ヶ原駅に到着した時も映ってるんだ」

 

 映像の中でそれが確認されて皆が驚く中、金田一はこれらは犯人が狙った行動であり、トレイン急便が止まっている貨物駅に列車を緊急停止させるものだったと断言する。

 そうして爆弾騒ぎに混乱する避難客に混ざって山神のバラバラ死体が入ったバッグを持ち、避難を終えて無人となったホームで事前にトレイン急便の中に用意していた同じバッグを死体入りバッグと取り換えた。そうしてしまえばあとはもう何もすることもなく、トレイン急便によって死体入りのバッグはホテルへとただの荷物として届けられ、荷物検査によって発見されることもなく終わる。

 

「なるほど、ね。

 じゃぁ金田一さん? 僕が送ったというその死体入りの宅配便は、いったい誰に宛てたものだったんでしょう?」

 

 もはや疑問ではなく『君はどこまでわかっているのか?』という確認のような問いかけとなっている彼から続く言葉は、自分自身では荷物を送ってないこと、『幻想魔術団』の荷物は全て手荷物で持っていたことまでも丁寧に説明し、『この答えだったら間違いですよ』と言外に教えるようですらあった。

 

「確かに荷物の送り先は必要だろうよ。

 だが、そのためだけに作られた人物がいる。それが都津根毬夫さ」

 

「都津根毬夫って!」 「オーナーが言ってたあの白いゴムマスクの不気味な客ですか!?」

「なるほど」

 

 驚く美雪と佐木二号に対し、納得する佐木一号がいる中、高遠は彼らが来る三日前にホテルを都津根毬夫として訪れ、別人となって再び列車に乗って東京へと戻っていった。ホテルには事前に『誰も入れるな』と伝えておけば三日間誰に目撃されることも、不審に思われることもなく、荷物の送り先としての役目を果たすことが出来る。

 

「こうしてホテルに到着したあんたは急いで都津根の部屋に行き、届いた死体を繋ぎ合わせて天井から吊るした。このマリオネットそっくりにね!」

 

 言葉と同時に金田一が出したのは脅迫状と共に届けられたあのマリオネットであり、死体がバラバラにされたのもかさばる死体を持ち運ぶためだった。だが、死体をバラバラにしただけではトリックがバレる恐れがある。それを防ぐために、一連の殺人の全てをマリオネットに見立てることでカムフラージュしようとした。

 全てが舞台演出のように初めから仕組まれ、念入りに作りこまれた殺人劇の全てのトリックはここに明かされた。そう思われた。

 だが一つ、疑問が残り、左近寺が声をあげた。

 

「お、おい! それじゃ団長の頭はどこ行っちまったのよ? 体はいいとして頭は行方不明じゃねーの!」

 

「頭かい?

 それは高遠がいつもぶら下げていた、ショルダーバッグの中に入ってたんだよ」

 

「え!? あっ、あのバッグの中に・・・」 「団長の首が!?」

 

「頭だけならあのバッグでも、十分持ち出せるはずだぜ?」

 

「俺の目の前で何度も開け閉めしてた、あのバッグの中に首が!?」

 

 なんてことのないように金田一は答えるが、皆が傍にいて、当たり前に見ていた筈のバッグの中にバラバラ死体の一部があったことに誰も彼もが震えあがる。それが当然の反応であるのだが、どうにもこの少年は事件と関わりすぎて感覚が麻痺している節があちこちにみられる。

 

「それがまさに高遠の大胆不敵な心理トリックだったのさ。

 あれだけ人前で無造作に開け閉めしていたバッグだ。まさかその中に人間の首が入ってるなんて、誰も考えやしないだろ?」

 

 そこで明智が腕を組みながら納得したように頷く。

 

「マジシャンは客の目の前から隠したいものほど、客席からよく見える位置に置いておくという」

 

 人は隠そうとすればするほどそちらに注目し、逆に目の前に堂々と置かれている物ほど注意が向かず、意識されない。マジックではよく使われる初歩的な心理トリックに、全員が見事に騙されたのだ。

 

「まだ何か言うことはあるかい? 高遠さん」

 

「やれやれ、予感的中だ」

 

 そう言って高遠は溜息を零しながら天井を見上げ、金田一へと視線を戻す。

 

「せっかくあと一息で、僕の一世一代の大魔術が完成するはずだったのに・・・ やっぱり君のことはちゃんと殺してあげるべきだったね? 金田一くん」

 

「た、高遠さん・・・」

 

 高遠と仲良くしていた残間が悲しそうに、どうしてとばかりに名を呼ぶが、そんなことを気にするでもなく、彼は舞台でマジシャンが名乗るように己の体に手を当てて堂々と告げる。

 

「君の言う通り、山神達を殺した犯人『地獄の傀儡師』とは僕のことですよ」

 

「・・・? 随分あっけなく認めたな」

 

 剣持が拍子抜けだとばかりに言えば、彼は笑う。

 

「『マジシャンは自分のマジックを客に見破られたら、速やかに幕を下ろせ』、ある高名なマジシャンの教えでね」

 

「高遠さん、一つ聞いてもいいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「何故あんたは、こんなやり方を選んだんだ?」

 

 金田一からすればこれらの一連の事件はとても不可解だった。これほどまでに綿密に、複雑なトリックを考えられるほどの人物が何故自ら警察を呼び、死体をバラバラにするようなことをする必要があったのか。もっと簡単に、安全に、一切の証拠を残さずに彼らを殺害する手段などいくらでも思いついた筈ではないか、と。

 だが、高遠の答えは予想外のものだった。

 

「だって、つまらないでしょ? ただ殺すだけじゃ」

 

「な、なんだと!?」

 

 怒りと困惑に満ちた剣持の声を意に介することもなく、彼は演じてた『マネージャーの高遠遙一』の役を降りるように眼鏡を外して、踏み割る。

 

「完成された魔術(マジック)さながらの美しく、謎と怪奇に満ちた芸術犯罪を演じあげ、並み居る観客達を『あっ』と言わせてみたかったんです。

 そう、マジシャンとしてね!」

 

「ハッ! マジシャンだとぉ~?

 高遠! 貴様いったい、何者だ!?」

 

「僕?」

 

 馬鹿にするようにも、嘲るようにもとれる言い方で左近寺が問えば、冷たい視線を横目で送りながら、彼は口元だけで笑ってみせる。

 

「僕はあなた達が近宮玲子から奪ったトリックノートの、正当な継承者ですよ」

 

「なんだと!?」

 

「やはりそうか! 近宮さんは君の・・・」

 

「そう、彼女は僕の母ですよ」

 

 いつからか予想の中に入れていただろう明智が納得していると、高遠は認める。

 

「僕は左近寺達に殺された、天才マジシャン 近宮玲子のたった一人の息子なんです」

 

 誇らしげに胸を張り、どこか嬉しそうにすら映る名乗りにその場に今日何度目かの衝撃がはしる。

 

「あんたが近宮玲子の!?」

 

「高遠さんが近宮先生の・・・」 「玲子さんの、息子!?」

 

「えぇ、僕の体の中には稀代の天才マジシャン 近宮玲子の血が流れているんですよ」

 

 驚く面々に再度突きつけるように高遠が言えば、生前から彼女を知っている左近寺と桜庭がそんな話は一度も聞いたことがないと叫ぶが、高遠自身もその事実を知ったのはほんの五~六年前だという。

 幼い頃に母は死んだと聞かされて育った彼が、近宮玲子に会ったのはわずか二回。物心ついた時には父親と共にイギリスに住み、貿易関係の商社に勤めていた父は自分にも他人にも完璧を求めるような堅物であり、生活は息苦しいものだったという。

 だが、そんなある日、何故か突然ロンドン公演中の大人気のマジックショーへと連れていかれ、彼はそこで近宮玲子に出会ったのだ。

 その公演は彼にとってまさしく夢のようで、異世界の魔術そのものであり、憂鬱な世界にいた幼い彼を魅了し、マジックの虜にした。

 

「いつか自分もあんな風に舞台に立てたら、そう思っていつの間にか父の目を盗んで一人でマジックの練習をするようになりましたよ」

 

「血は争えないってわけか」

 

「フフフ、君と同じですよ。金田一くん。

 ただ僕は人を欺くことに快感を覚え、君はそれを見抜くことに使命感を感じているようですがね」

 

 かの有名な金田一耕助の孫である金田一と稀代の天才マジシャンの息子である自分を並べながら、それは全く違うものとなっていることを楽しげに語る。

 

「次に彼女に会ったのはそれから三年後、私の十歳の誕生日でした」

 

 いつものように公園で、一人でマジックの練習をしていた彼の元に彼女は現れた。彼女は練習している高遠の前でマジックを披露して微笑み、彼もまた三年前に舞台を見たことと彼女のように凄いマジックを出来るようになりたいと口にした。

 

「そう、そうなの」

 

 そう言われた彼女は驚き、嬉しそうに目を細め、そこからわずかな時間ではあったが高遠は高宮玲子から直接マジックを教わることとなった。

 

「他愛もない子どものお遊び程度のマジックでしたけどね」

 

 だがそれは彼の人生においてとても貴重な、最初で最後の母との時間だった。

 交流の中で彼女が教えようとしたマジックを知っていた彼はタネを言ってしまい、そこで先程彼が言っていた『マジシャンは自分のマジックを客に見破られたら、速やかに幕を下ろせ』を教わり、別れることになる。

 

「ねぇ、今度はいつ教えてくれるの?」

 

「そうね、いつになるかしら・・・ そうだ!」

 

 どこか寂しそうな雰囲気を出したが、彼女は何かを思いついたようにさっきとは一転して明るい笑顔を彼に向ける。

 

「もし坊やがマジックの練習をずっと続けていてくれたら、おばさんがとっておきの素敵なマジックのトリックを君にだけあげちゃおう!」

 

「え! ホント!?」

 

「えぇ、でもとっても難しいトリックだから今は駄目。ちゃんと一人前の技量(テクニック)が身についてからね。

 君が十八歳になったら、誕生日にプレゼントしてあげるわ。それまでちゃんとマジックの勉強を続けなきゃ駄目よ?」

 

「うん! 僕、絶対一所懸命やるよ!」

 

 そう言って別れたのが最後となり、彼女には二度と会うことはなかった。

 彼が十七の時に父が死に、遺品の整理をしている時に見つかった父の日記によって近宮玲子が自分の母だと知った。だが、彼からすれば衝撃を受けるようなことはなく、ただすんなりと納得したという。

 

「お前、そこでどうしてすぐに彼女に会いに行かなかったんだ!」

 

「どうして?」

 

 ごくごく一般的な感性を持つ剣持には会いに行かなかったことが理解できなかったらしいが、高遠は『生き別れの母子 感動の御対面』など望んでおらず、同じマジシャンとして一流になった自分を認めてもらいたかったのだ。

 

「だが、彼女は死んでしまった・・・」

 

 高遠が彼女の死を知ったのは一年後、イタリアの有名マジシャンのもとで修行していた時のことであり、かなりのショックを受けた。

 自身が望む形での再会は二度とかなわず終わってしまった。彼自身もそう思っていたし、あの約束は果たされることなどない。そうだと思っていた。

 

「その後イタリアでの修業を終えて、三年ぶりにイギリスの実家に帰った時のことです。

 家を空けてる間、たまりにたまった郵便物の山にそれは埋もれていました」

 

 それは消印が二年前、彼が十八歳の誕生日に送られており、稀代の天才マジシャン 近宮玲子による選りすぐりのマジックが記されたトリックノートだった。

 

「彼女のトリックノートは二冊あったのか!」

 

「えぇ。おそらくこれは彼女が死ぬ二~三日前に送られたんです。左近寺達が奪ったのは彼女が自分用に書き写したものでしょう」

 

 その数か月後に彼は日本へと足を運び、彼女の弟子達が作ったという『幻想魔術団』の評判を聞いて、鑑賞することにしたのだ。

 だがそこで見た物は全て、ただの偽物(フェイク)だった。

『幻想魔術団』によるオリジナルマジックだと名高いものは全て、近宮玲子のマジックノートに記載されていた物にだったのだ。

 そこで彼の中で激しい憎悪と怒り、そして事故死とされた彼女の死の不可解さによって確信する。

―― お母さん。まさかあなたは、あなたの弟子達に殺されたんですか? ――

 

「僕はその事実を確かめるために、マネージャーとして『幻想魔術団』に入りました」

 

 時間がかかると思っていたにもかかわらず、彼らは誰も聞いていないと思い込んで控室で彼女の事故について語り合っていたのだ。

『彼女を脅す目的で天井まで呼びつけ、偶然渡し板が外れた』と思っていたのは山神と由良間だけであり、夕海はこの時点で桜庭から左近寺が天井裏で何かをしていたことを知っていたのだ。ここから高遠はターゲットを山神と由良間、夕海と左近寺にターゲットを絞り、あとの時間を彼らをどう始末するかを考え続けた。

 

「近宮玲子の作った素晴らしいマジックを、私利私欲で汚した卑しい奴らにふさわしい『死のマジックショー』のプログラムをね」

 

 背筋がゾッとするような笑みを浮かべながら告げる高遠に金田一は冷や汗が止まらないが、そこに割り込んできたのは左近寺だった。

 

「おいおい! いつまでそんな殺人鬼に好き勝手にしゃべらせておくわけ?

 早くしょっぴいちゃってくださいよ! 刑事さん!」

 

「左近寺!」

 

 お前が言うのかとばかりに剣持が呼ぶが、やはり左近寺に気にする様子も、悪びれる様子もない。

 

「まったく、俺が近宮先生を殺したのどーだの・・・ わけわかんねーこと吐かしやがって。

 そらよ、あんたの言ってたトリックノートだ」

 

 そう言って懐から乱暴に床に叩きつけられたのは高遠が持っていたまったく同じのトリックノートであり、すぐさま剣持が左近寺に掴みかった。

 

「貴様! やはりこいつを・・・!」

 

「もらったんですよ、僕が先生から。

 大体僕が天井裏に行ったからって、それだけでどうして僕が近宮先生を殺したことになるんです? それだけじゃ証拠にならないでしょ~?」

 

「くっ!」

 

 未だに余裕綽々でそんなことを言ってのける左近寺を相手せずに、高遠は叩きつけられたトリックノートに軽く目を通す。

 

「もういいですよ、刑事さん」

 

「何!?」

 

「それより左近寺さん、このノートをいただけませんか? 母の形見ですし」

 

「あぁ、持ってくがいいさ。そいつはもう用済みだ! 中身は全部、頭に叩き込んであるんでね!」

 

「そうですか」

 

 高遠の申し出に左近寺は笑いながら答え、彼の不気味な微笑みに気づかない。だが、金田一と明智はそれに気づき、明智は冷たい視線を高遠に送り、金田一は彼を呼び止めようと動く。が、高遠はそれを遮るように剣持に両手を差し出して、手錠をかけられる。

 全てが終わったのだと誰もが確信しながらも笑っているのは左近寺のみであり、その場にいる多くがこの列車に起きた殺人鬼が捕まったにもかかわらず、近宮玲子を殺した可能性の高い左近寺が罰せられないことに複雑な思いを抱いていた。

 

「高遠、あんたいったい・・・ 「僕のやるべきことは全て終わったんですよ、金田一くん」

 

 さっき見た彼の不気味な微笑みの真意を聞こうとする金田一の言葉を遮って、高遠は同じように微笑んだ。

 

「左近寺には近宮玲子本人が裁きを下すでしょう、燃え盛る『炎の鉄槌』をもってね」

 

 意味深な彼の言葉に金田一は息を飲み、彼は警察に囲まれながら去っていく。

 

「グッドラック、名探偵くん。またいつか、どこかで会いましょう!」

 

 そう言った後、何かを思い出したように高遠は一度振り返る。

 

「あぁそうそう、小城くんによろしく伝えておいてください」

 

「っ!?

 おい! 待て!! お前なんで所長のことを知ってんだ!? それ、どういう・・・」

 

 慌てて追いかけようとするが間に合わず、彼が二度と振り返ることはなかった。

 

 

 

 

 

 高遠は連れていかれて少し経ってから見慣れた車がホテルを訪れ、車からは慌てた様子の飛び出し、ホームまで全力で走ってくる人物がいた。

 

「金田一くん! 美雪ちゃん! 佐木くん達! マガドリ様! 無事かい!?」

 

 息を切らし、髪を振り乱しながら彼らの姿を確認した小城は大きな怪我が見られないことに胸を撫で下ろし、その場にいた明智と剣持に一礼する。

 

「明智さん、剣持さん、お世話になっています。お二人もお怪我がないようで本当に良かった」

 

「えぇ、幸いにして怪我はありません。

 君もいろいろと用事があったにもかかわらず、こんなところまで大変ですね」

 

「おいおいお前、俺らのことまで心配してたのかぁ?」

 

 明智はにこやかに、剣持はまさか自分まで心配されると思っていなかったらしくどこか照れくさそうに笑って小城と挨拶を交わしていた。

 

「小城さん!? どうしてここに・・・」

 

「まさか、金田一先輩が電話で呼び出したんですか?」

 

「だとしたら、本当にお疲れ様です」

 

 小城がこちらに来た経緯を知らない美雪達が好き勝手なことを言う中、マガドリ様は小城の腕の中に飛び込んで( ・´-・`)『褒めろ』とばかりに頭を差し出した。

 

「マガドリ様、本当にありがとう。この子達を守ってくれたんだね」

 

 感謝と無事であることの安堵を込めて撫でれば、マガドリ様は目を細めてそれを享受する。

 

「金田一くんも・・・」

 

 そこで小城が金田一を見れば、どこか硬い表情と緊張した面持ちのままの彼の肩を叩く。

 

「お疲れ様」

 

「所長・・・」

 

「いろいろあったみたいだね」

 

「はい・・・ でも、まだ終わってない。そんな気がするんです。まだ何か、恐ろしい何かが起こるような」

 

「そうかい・・・」

 

 金田一の言葉を小城はただ受け止め、ほんの少しだけ彼の肩に置いた手に力を込める。

 力の込められた手はまるで『君は一人じゃない』と伝えているようで、肩に回されていた手が数度頭をポンポンと撫でた。

 

「さぁ行こう。

 僕は明後日には軽井沢で用事があるから飛行機を使って帰ってしまうけど、君達は狩谷と一緒に観光を楽しんでから帰ってくるといい」

 

「しょ、所長~・・・」

 

 そこで張っていた緊張の糸が切れた金田一がわざとらしく大粒の涙を流して、冗談交じりに抱き着いて、オイオイと泣き出した。

 

「もうスッゲー怖かったっす! 俺、海鮮丼の大盛りと豚丼の大盛りと、スープカレーとジンギスカンと北海道の三大ラーメン食うまで北海道から出ねー!!」

 

「いや、三大ラーメンって函館と札幌と旭川で結構距離あるんだけど・・・ 君、北海道縦断するまで帰ってこないつもりかい?」

 

 事務所でのいつも通りの彼に戻ったことを安堵しつつ、抱き着いて離れない金田一を引き摺る形で一行は死骨ヶ原ステーションホテルを後にするのだった。

 

 

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