小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

後編ー。

次は息抜き回予定。
その次はあの事件かなーとか考えてるので、お楽しみに!


地獄の傀儡師より (後編)

 もう既に団長気取りの由良間が開演の挨拶を行い、そこから前もって決まっていたプログラム通り、夕海、桜庭、左近寺の順で前座が行われる。

 

「ふふっ、素晴らしいマジックですね。由良間さん」

 

 既にこと切れている由良間へと向けて微笑んでも返事はなく、『『生きたマリオネット』は自分がいないと上演出来ない』などと豪語した口からは血が溢れるのみ。そんな彼を傍らに置いて、母が最後に書き記していた『生きたマリオネット』を披露していく。マリオネットが自ら糸をつけ、マジックが終わろうというところで彼へと二つ目のマジックの始まりを告げる。

 

『さぁ、「死のマジックショー」第二幕です!』

 

 宣言と同時にブレーカーを落とし、慌てることなく由良間の死体と共に舞台へと降り立ち、マリオネットは上へとあがっていく。ざわめく観客を楽しむ余裕もなく再度ブレーカを操作し、由良間が降り立った舞台へと照明を当てる(をライトアップ)

 

「きゃああああ!」

 

 観客から上がる悲鳴は第二幕の成功を告げており、観客席から警察関係者が駆け付け、自身も他の幻想魔術団と共に由良間の死体へ駆け寄る。すぐに警視と呼ばれた彼によってシーソートリックが看破され、おもわず称賛しそうになってしまう。

(実に素晴らしい頭の回転と観察眼をお持ちなようで。

 しかし変ですね、あの坊やが舞台に来ていないなんて)

 地獄の傀儡師の電話相手であり、誰よりも早く現場に駆け付けているあの少年の姿がないことを不審に思っていれば、劇場の入り口に立った彼が。彼に導かれるように全員が外に出れば、降ろされている筈の跳ね橋が上がった状態であり、聞けば彼が橋を渡った際に昇降レバーを折ってしまったのだという。

 

「この劇場は池に囲まれ、外に出るにはあの橋を渡るしかない。

 つまりマジックショーをやってる間、この劇場は巨大な密室だったんだ!」

 

(僕が全く意図していない、君が作り上げた密室ですけどね)

 驚きや呆れを通り越し、笑いすら込み上げてくるのをどうにか押さえつけ、劇場内で犯人捜しを行われた挙句、魔術団の中に犯人がいると断言される。いずれの時も左近寺がしゃしゃり出ては論破される様は面白く、さらに警部によって間違った推理劇場が行われるのだから面白い。

(素晴らしい、実に素晴らしい。

 彼が来なかったのは残念ではありますが、こんなにも素晴らしい観客が特等席に座っている。その事実がとても、喜ばしい)

 喜ばしくもあり、同時にとても目障りでもある。その事実は変わらない。

 何故なら警察である彼らと少年は『地獄の傀儡師』のしようとしていることを止めるために、ここに来ている。

(いえ、まだ大丈夫。

 この程度ならばまだ彼らは観客の一人として、マジックの協力者として舞台にあがっている程度)

 その後は由良間の死体を片付け、観客も、幻想魔術団の面々も解放される。そうしていつも通り下っ端である残間と高遠がショーの後片付けを行っていれば、何故か少年とその友人である三名まで手伝ってくれることとなり、少女の誘いもあってお菓子を食べながら他愛のない会話をしていれば、なんと少年は長崎支配人の言動から五年前の出来事を気に掛けており、何故か近宮玲子のことまで知っていたのだ。

 だが、あくまでマネージャーの高遠遙一として『詳しいことはわからない』と告げれば、作業が終わってホテルで彼を見守っていると、すぐさまどこかへと連絡を取っていた。

 

「ってわけで、この事故について調べてもらってもいいっすか?」

 

 一切の迷いもなくどこかへ連絡を取り、五年前の事件について知ろうとしていた。

 

「非常識な時間だってのは重々承知で、本当に申し訳ないとは思ってんですけど、情報収集にかけてウチの事務所以上に頼りになれるところなんてないんすよぉ。どうかお願いします!」

 

 その言葉で彼がどこへ連絡を取ったかを察し、おもわず笑みが零れていた。

(なるほどなるほど、君は彼の事務所の者だったんですね)

 であるのならば、頭の回転の速さや警察との繋がりに納得がいく。確かに招待状は望んでいた場所に届いていたことを嬉しく思う。

 だが、同時に彼にはひどく悲しい結末を用意しなければならない。

(彼と接点を持てることは嬉しいですが、君は観客としては踏み込みすぎた)

 そうして彼は『地獄の傀儡師』として動き出し、彼を生贄にする算段を思いついて、行動へと移るのだった。

 少年を誘き出すためにわかりやすく姿を見せ、そして彼の傍をずっと離れない少女に似た服を着せたマリオネットを抱え、追いかけてきたことを確認してから走り出す。ホテルから離れ、どこが足場として成り立っているかもわからないような場所まで辿り着いてから木へと登ってまるで死んでいるかのように沼地にマリオネットを横たえる。そうしてしばらく待っていれば少年はマリオネットの元へ駆け寄り、狙い通り底なし沼へと沈んでいく・・・ 筈だった。

 沈みかけた少年の頭の上にいた烏のぬいぐるみの羽毛が広がり、烏の大きな声が響いたと同時にこちらに向かって多数の烏が襲い掛かってきた。

 

「おやおや、これは想定外」

 

 一瞬にして視界を奪われてしまうが、慌てることもなく逃走を選択する。しばらく逃げていれば追いかけてくる様子もなく、烏達もある距離で引き返すことを選んでいた。

(あの烏は一体なんでしょう?)

 人間ではない何かであることは確実だが、意味がわからな過ぎて思考が止まってしまう。それならば考えることは無駄であると判断し、事実だけを認識する。

(坊やを殺すことが出来なかったのは少々不安ではありますが、仕方ない。

 それならば次のことを考えましょうか)

 少年一人殺せなかった程度で死のマジックショーのプログラムに変更はなく、次なる生贄は捧げられる。

(次なる生贄はあなたですよ、夕海さん)

 仮面の下で微笑みながら、地獄の傀儡師も観客と同様に眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 翌日、足音も扉の開閉の音も立てずに夕海の部屋へと侵入すれば、彼女は何やら独り言を口にしており、どうやら彼女は左近寺を犯人だと思っているらしい。

(まぁそれはそうでしょうね、何せあなたは左近寺が何かをしていたことを知っているんですから)

 背後に辿り着いたところで何の躊躇いもなく彼女の首にロープを回し、一気に力をかけていく。

 

「だ、誰か~~~!!」

 

 予想外の彼女の叫びに少しだけ驚くが、予定を変えることはない。瞬時に状況を判断し、彼女を降ろしてから枝にロープをかけたところで体重が足りていないことに気づいて、どこの部屋にもあり、重量制限をクリアする翡翠をもって脱出。そして、これまでの現場と同じように怯えた様子を装いながら、そっと扉から覗き込めば他の幻想魔術団と共に死体の確認を求められた。

 警視と警部と少年らが現場検証を終え、幻想魔術団は全員ロビーへと集められる。そこでは由良間が『生きたマリオネット』が始まる前に殺されたこと、それにより犯人は『生きたマリオネット』のトリックを知っている人物だと断言される。

 

「で、でも『生きたマリオネット』のトリックを知ってる人なんて、もう一人しか・・・」

 

 信じられないような、それでいてあり得ないとは言えない状況に怯えるようにして言えば、左近寺はいつも通りのらりくらりと警部の言葉をかわし、笑いながらその場から去っていく。

 その後、幻想魔術団の残ったメンバーでもやりとりがあったが、これによって幻想魔術団外部からも内部からも真偽はどうあれ彼が怪しく映ることは間違いない。

(仮に犯人だと誤認逮捕されることがなくても、幻想魔術団の評判が落ちることはこれで確定しましたね)

 誤認逮捕には至らずとも、これによって幻想魔術団への世間の興味は良くも悪く高まる。そうなれば自然と近宮玲子の死へと関心を持つ誰かが必ず現れるのは間違いない。

 不安の種を幻想魔術団にばら撒き、刑事ら残っているロビーへと近づけば警視が近宮玲子の知り合いであることに加えてトリックノートの存在を知っていること、その上で殺された三名と左近寺が近宮玲子を殺害したことを疑い、事故として処理された一件を調べなおしていたことを知る。

(ほう? あのトリックノートのことを知られてしまいましたか。となると、私も少し急ぐ必要がありそうだ。

 でもそうやってどんなに調べても、『私』に到達することは出来ませんよ)

 近宮玲子から調べても高遠遙一(自分)に辿り着くことはなく、彼女と自分は公式の書類は一切関係がない他人。それこそ出生届まで調べない限りはわかる筈もない事実。そして、トリックノートが二冊あることを知っているのもこの世でただ一人、自分一人だけだ。

 ありもしない空想は推理になりえず、この状況から全てのトリックを解き明かすことは困難。それでもまだあの少年という一抹の不安要素が残っているのは事実だが、少年に加えてあの警視も不安要素の一人に加わった。

(さて、皆さんが頭を抱えている間にあと一人、最後の(生贄)を)

 彼の死をどんなマジックで彩るかを考えながらその場を離れたのだが、なんとその数時間後、再び全員がロビーに集められることとなった。

 

 

 

 

 全員がロビーに集まったところで少年から最初に語られたのは五年前の事故が単なる事故ではなく、四人によって仕組まれた殺人であったこと。そして、その目的は彼女のトリックノートを奪うことだと断言され、この一連の殺人事件を実行した『地獄の傀儡師』はその事実に気づいたからこそ復讐なのだと告げられる。

 

「そして、その殺人劇を演出して実行した人物『地獄の傀儡師』はこの中にいる!!」

 

 この場にいる全員を示すように手を広げる少年に驚きつつ、次に語られたのは今日殺されたばかりの夕海に使われた殺人トリック。

 

「高遠遙一!

 あんたが山神と由良間、そして夕海の三人を殺害した真犯人『地獄の傀儡師』だ!」

 

 そう、逃亡に使った翡翠一つで彼は犯人が高遠であることに辿り着いたのだ。

(ですが残念。

 その程度の推理では。僕を犯人だと断定することは出来ませんよ)

 体重の条件があっただけでは犯人だと断定するのは早計であること、それに加えてずっと行動を共にしていた事実がある以上、死体を消すことは不可能なのだ。

 だが、それすらも説明する準備が整っているとばかりに列車の到着した音が聞こえ、場所はホームへと移動される。

 そうして『天外消失』のトリックから始まりトレイン急便を使った死体の移動トリック、マジックでは基本である心理トリックを使った頭の持ち運び方。全てが完璧に解き明かされた。

(あぁ、素晴らしい)

 殺しておくべきだったと口にしながらも、高遠の心には小城を知った時のような高揚感が生まれ、まずは母の教え通りに速やかに幕を下ろすこととする。

 

「君の言う通り、山神達を殺した犯人『地獄の傀儡師』とは僕のことですよ」

 

 拍子抜けする警部に母の教えであることを伝え、少年は『何故、こんなやり方をしたのか?』という実につまらない質問をされる。

 だから、マジシャンとして堂々と全てを芸術として完成させ、観客を驚かせたかったのだと答えれば周囲の視線は理解出来ないと無言に語っており、本来なら気まずい空気の中で今度は左近寺から『何者であるか』を問われてしまう。

(質問ばかりですね、皆さん。

 まぁいいでしょう。幕が閉じた以上、終わりの挨拶を行うのもマジシャンの務めですから)

 自分がトリックノートの正当な後継者であること、近宮玲子の実の息子であること。そして、母との出会いと別れ、母の死とその弟子である四人が始めた幻想魔術団を知ることとなったきっかけ。そこからマネージャーとして幻想魔術団に入り、確信を持った後に彼らをどう始末するかを考えたこと。

 

「近宮玲子の作った素晴らしいマジックを、私利私欲で汚した卑しい奴らにふさわしい『死のマジックショー』のプログラムをね」

 

 少年は緊張感ある表情でこちらを見ているというのに、殺されてもおかしくない左近寺がやはり持っていたトリックノートを床に叩きつけ、この場にいる誰も信じることのない言葉の羅列を並び立てる。叩きつけられたノートを見て怒りを露にする人情溢れる年配警部を見ながら、ある確信をもって床に落とされたノートに軽く目を通す。

(これは・・・)

 トリックノートに残された最後のマジックに仕組まれたあることに気づき、己のマジックショーはここで退いておくべきだと理解して、二冊目のトリックノートを貰うことと警部へと自分を連れていくように促す。

 本来なら全てを白日の下にさらされた犯人が粛々と連れていかれるように見える筈なのだが、少年はどこまでも鋭い。全員が迎えの列車に乗って帰ろうというところで、僕の真意を聞こうと近づいて来た彼にヒントをあげることにした。

 

「左近寺には近宮玲子本人が裁きを下すでしょう、燃え盛る『炎の鉄槌』をもってね。

 グッドラック、名探偵くん。またいつか、どこかで会いましょう!」

 

 彼と会えずじまいなのは残念だが、面白い少年と縁づいた。

 これは終わりではなく始まりなのだ。

 僕と彼と始まる筈だった物語は面白い少年との出会いが加わったことで、今後の舞台にさらなる彩りが追加されることは間違いない。

(あぁそれなら、彼にも一言伝えておいた方がいいですね)

 一瞬だけ立ち止まり、彼へと振り返って告げる。

 

「あぁそうそう、小城くんによろしく伝えておいてください」

 

 

 

 

 あれから約三か月後、新刊マジックを読みながら看守に今日が何日かを確認し、おもわず笑みが零れる。

(小城くん、君は彼の舞台を見ているんでしょう?)

 手を回してあの場にいた全員へ招待券を手配し、今頃は揃って左近寺のソロデビューを華々しく飾るマジックショーを楽しんでいることだろう。

 そして、母が仕組んでいた炎の鉄槌も彼は書かれている通りに実行し、燃え盛る炎に包まれる。

(案外、ファイヤーマジックを得意としていた山神さんは気づいていたのかもしれませんね?)

 事件前から酷いスランプに陥っていた彼は、最後に記されていたあのマジックの欠陥に気づいてしまい、トリックノートに書かれていた全てのマジックに不安を覚えてしまったのかもしれない。

 もっとも、そんなことはもうどうでもいい。

(さて、もう行くとしましょうか)

 全てを覚えてしまったトリックノートを置いて、彼は留置場から姿を消していく。

(小城くん、今度こそ君に会いに行きますよ)

 

 





殺人鬼にホラーのような、恋する乙女のようなことを思われてる小城。かわいそっ(笑)
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