小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

息抜き回、後編。

この話の次は事件の予定です。
さぁ、あの事件だぁ。


ダウザー少女 (後編)

「ちょっと美浦さん、くっつきすぎよ」

 

「それは七瀬先輩じゃないですかぁ? そんなにくっついてたら、金田一先輩が転んじゃいますよ」

 

 金田一を間に挟んで右に美雪、左にえみりの組み合わせは両手に花であることは間違いないが、花同士が口喧嘩をしているとなれば棘を処理されていない持っているだけでダメージを与えられる呪われた装備に過ぎない。

 二人の刺々しい言葉を聞きながらもどうにか事務所まで辿り着いた自分を褒めたいし、誰かに褒めてもらいたいが、こんなことを言ったところで所員の多くは鼻で嗤うか、呆れるか、困った顔した揚羽が慰めてくれるぐらいだろう。

 狭い階段は危ないことを理由に二人に離れてもらい、事務所の扉を開けるとそこにはいつも通りの光景。事務所にほぼ常駐している須賀兄妹三名がおり、狩谷と檜山、千家の三名は不在。

 

「ちゃーっす」

 

「おー、金田一。今日もバイトお疲れさん」

 

 三人の代わりとばかりに、来客用テーブルをいつきが陣取っていた。しかも持ち込みのノートパソコンまで開いて、何かの作業までしているというしばらく退く気のないことがうかがえる状態である。

 

「いつきさん、なんでいるんすか?」

 

「それ、副所長にも舘羽ちゃんにも言われたわ。

 お前ら、俺のこと嫌いなの?」

 

「そらアポなしで来たり、床で這いつくばって泣いてる姿見てれば微妙な顔にもなるっしょ」

 

「後者はおめーのせいだよ!」

 

 金田一の言い様にいつきは言い返すべきところは言い返すと、金田一の背後からえみりが顔を覗かせた。

 

「あっ、いつきのおじさま。お久し振りでーす」

 

「あん? えみりちゃんじゃねーの。

 拓也からは聞いてねーけど、トレジャーハンター業でなんか予定でもあったのか?」

 

「今日は金田一先輩が師匠の事務所でバイトしてるって聞いたんで、探偵業してる師匠のところに顔出そうと思っただけでーす。

 大体、トレジャーハンター関係で直接事務所に来るなんて面倒なことしませんよぉ」

 

「つーかいつきさん、女の子とばっかり知り合いじゃん! やっぱりさゆりちゃんと関係がモガッ!?」

 

 親し気に話すいつきとえみりの様子に金田一のツッコミが入り、咄嗟に美雪が口を手で覆う。

 

「はじめちゃん、いくらバイト先でも声大きすぎ! 下はカフェなんだから、少しは声を控えなきゃ駄目よ」

 

「美雪ちゃんの言う通り。皆そんなとこ立ってないでそこに座っていいわよ、どうせ来客の予定なんてないから。

 そこのいつきさんみたいにアポなしのアホが突然湧いてこない限りは」

 

 最後にじろりといつきに視線を向けるが、いつきはどこ吹く風とばかりに気にしていない。

 

「皆さん、何をお飲みになりますか?

 コーヒーと紅茶、緑茶にハーブティー、甘いのがお好きならココアもありますよ」

 

「え? いつもはお茶菓子に合わせて出してるのに、今日は種類が多いですね」

 

「普段のお客様ならそうしますが、所長のお弟子さんのことは聞き及んでいますし、学生さんですから。コーヒーや緑茶よりもお好きな飲み物の方がいいかと思いまして」

 

 金田一の言葉に揚羽が優しい微笑みと共に答えると、美雪は揚羽の心遣いに目を輝かせ、えみりは光を避ける夜行性の生き物のように一歩引いてしまう。

 

「じゃ、俺はいつものコーヒーで」

 

「私は紅茶で」

 

「ココアでお願いしますぅ」

 

「はい、少々お待ちください。所長もお呼びしますね」

 

 揚羽が小城に声をかけてから飲み物の準備をしていれば、美雪がえみりへと不思議そうな視線を向けた。

 

「美浦さん、どうしたの? 揚羽さんに声をかけられてから妙におとなしいわね」

 

「いえ、なんでもないですよ。気のせいじゃないですか?」

 

「ハハッ! まっ、トレジャーハンター業にあんな風に気遣いが出来て、人当たりがいい奴なんていねぇからな。男も女もギラついたり、どっか夢見がちで身勝手な連中ばっかりさ。

 兼業してる職業こそしっかりした奴らばっかりだが、それもやっぱり金やら研究やら自分のやりたいことやってる奴ばっかりだ」

 

 どこかぎこちないえみりの気持ちがわかるとばかりに笑い飛ばすいつきに、他の面々は笑えない。

 

「それってつまり、トレジャーハンターってすげぇ我儘で好き勝手な奴らってことじゃないっすか」

 

「はじめちゃん! 失礼でしょ!!」

 

「アッハッハッハ! そう怒んなくていいぜ、七瀬くん。だって間違ってねーからな。

 ロマンと金、一見真逆みてぇなもんが合わさって生まれるのは欲望と夢。んで、それもまた相容れないように見えるが、うまくいけばどっちも手に入っちまうのがトレジャーハンター。

 その金の使い道はまちまちだが・・・ 拓也みてぇに慈善事業やら、他人のためにポンッと金出すような奴は異端中の異端さ。ましてや探偵業なんて人間の汚ねぇ部分も覗き込むような仕事を『道楽』とはいえやるような奴はいやしねぇ。しかもあいつ、現場にも立つしな。その辺りも含めて、拓也は変な奴なのさ」

 

「はぁ・・・ それを本人がいるってわかってる事務所で、しかも扉挟んですぐそこに居るのに言いますかね普通」

 

 いつきの発言を聞きながら呆れ切った顔で小城が歩いてくれば、えみりがすぐに立ち上がって頭を下げた。

 

「師匠、お久し振りです! 金田一先輩のバイト先って聞いて、どうせながらご挨拶をしていこうと思ってきました!」

 

「久しぶりだね、えみりちゃん」

 

 手で座るように促しつつ、説明が欲しいとばかりにそわそわしてる金田一に気づいた小城が苦笑していれば、小城の分の紅茶を追加した揚羽がそれぞれに飲み物を配っていく。

 

「で、金田一くんは僕がどうして彼女の師匠呼びされてるのかが気になると・・・」

 

「はいっ!

 トレジャーハンター業で知り合ったのは想像つきますけど、所長もダウジングが出来るんすか?」

 

「ダウジング自体は準備をして、本当に才能がある人と一緒に行動すれば誰にでも出来るよ。実際広い範囲を探す時は一人じゃ効率が悪いから、複数人でロッドをもって探したりもするからね。

 けれど、基本的には才能と確かな知識が必要な技術だ」

 

 やり方を知り、正しい方法をすれば誰にでも行うことは出来る。だが、ロッドが何を示しているかを理解するには確かな経験や才能が必要となるのだ。

 

「九星気学や専門知識は知らなければ学べないし、知識と技術は積み重ねによって得られるものだ。えみりちゃんは一族がそういう知識と技術を継承しててね、トレジャーハンターをしていると自然と知り合ったよ」

 

 えみりの家は一族でそう言ったことに携わっており、トレジャーハンター界隈でダウジングとなれば名が出る程度には知られている。小城もそうした縁からえみりと出会い、関わりを持つこととなった。

 

「え~・・・ ダウジングなんてそれこそオカルトな範囲じゃないですか、よく信じましたね」

 

「君にはトレジャーハンターの知り合いを会わせない方がいいね、不用意なことを言って後ろから刺されそうだ」

 

「怖いこと言わないでくださいよ!?」

 

 小城は溜息をつきながらさらりと怖いことを言えば、金田一は両肩を抱きしめて怯える。

 

「確かにダウジングはオカルトに足を突っ込んでいるけど、ダウジングほど古くから世界中で学問として認められているものはないよ。この辺りは僕よりもえみりちゃんの方がずっと詳しいから、興味があるなら話を聞くといい。

 というか、オカルトだっていうならそれこそミス研の得意分野じゃないか。るい子ちゃん辺りにでも詳しく聞いてみれば、わかりやすい本なんかと一緒に語ってくれると思うよ」

 

「それはその・・・ るい子先輩とか語りだしたら長いんで」

 

(お前の推理も大概長いけどな・・・?)

 原作での彼の推理をする姿を思い出しつつ、『呆れています』というように首を振ってみせる。

 

「あっ、そうだ! 師匠、聞いてくださいよ!

 さっきミス研の先輩が私のダウジングの実力を見たいとか言って、ありもしない探し物をするようにけしかけられたんです!!」

 

「あぁ・・・ トレジャーハンター界隈でもたまにあることが、学校でもあったのかい」

 

 もっともトレジャーハンターの方ではダウジングが疑われるというより、えみりの年齢から実力を疑われる方である。

 

「年齢とか性別とかで実力を疑われるのはしょうがないのはわかってますけど、ダウジング自体を疑って挙句自分の株をあげようとしたり、関心を向けようとする人は無理です。気分悪いです!」

 

「大変だったね。

 そうだ、帰りにお土産として下のカフェのケーキを持ち帰りでもすればいい、勿論お金は僕が出すよ」

 

「えっ、いいんですか。師匠」

 

「かまわないよ、ケーキが美味しかったらトレジャーハンターの知り合いたちにも是非教えてあげてほしい」

 

 ケーキの言葉にえみりは不機嫌な表情をサッとしまい、嬉しそうにするが、続いた小城の言葉にちょっと意地悪そうに笑った。

 

「師匠、もしかして下のカフェの経営も携わってます?」

 

「経営には携わってないけどこの建物の所有が僕だからね、大事な店子さ。

 あぁ、だからと言って味の評価に偽りはないよ? 軽食もデザートもとても美味しいし、店の雰囲気もいい。食べて気に入ったら今後も通うといいかもね」

 

 

 

 

「揚羽さん、このクッキー美味しいですね。どこで買ったんですか?」

 

 ダウジング等の話に参加できない美雪はお茶菓子として出されたクッキーのことを揚羽に尋ねると、聞かれた当人は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら答える。

 

「その・・・ 今日のお茶菓子は母に教わりながら私が作ったものなんです」

 

「えっ!? 形も綺麗で、凄く美味しいからてっきり買ったものだと思っちゃいました。今度、作り方を教えてもらってもいいですか?」

 

「私もまだ母に教わったばかりなので、人に教えられるほどはうまくないので。母に機会を作ってもらうように頼んでみますね」

 

「なーに謙遜してるのよ、揚羽。

 元々料理上手だったけど、所長にお弁当を作りだしてからはもうめきめきと実力をあげてるじゃない。このクッキーだって紅茶を飲む所長の好みに合うように作ったんでしょ?」

 

「ね、姉様!」

 

 舘羽の揶揄い混じりの言葉に慌てるが、真っ赤に染まった顔がそれを事実だと告げていた。

 

「いいなぁ・・・」

 

 そんな揚羽を見て無意識に呟いた言葉は、美雪本人すら気づいていなかった。

 

 

 

 

 そうしてしばらくえみりといつきが中心になってトレジャーハンターの時の話をしていれば、事務所に控え目なノックの音が響く。

 

「小城さん、失礼するわ」

 

「失礼します」

 

「小城探偵、お久し振りです」

 

 るい子に続いて入ってきた鷹島と真壁に小城のみならず金田一らも驚き、視線は自然と集まる。

 

「突然の訪問なんて本当に申し訳ないのだけど、美浦さん達がここに行くと言っていたから真壁くんに謝罪をさせようと思って」

 

(学校で起こったことなんだから、明日学校で謝ればいいのでは?)

 そんなことが小城の脳裏によぎったが既にるい子は真壁の頭を押さえつける形で、えみりへと謝罪させようとしている。

 

「真壁くん、美浦さんにしっかりと謝罪しなさい」

 

「さ、桜樹くん! 頭を押さえないでくれるかい?! 髪型が乱れる!」

 

「カツラでもない限りは別にずれることもないのだから、困らないでしょう。

 あなたのくだらないプライドと羞恥から恋人に素直にプレゼントを渡すことも出来ない事実もくだらない上に恥ずかしいのに、『後輩の実力を試す』などと言って全員を巻き込んだ挙句彼女を不愉快にさせたのは最低だわ。

 大体、後輩に対して距離感がわからないからって突っかかるようなことばかりしているから、あなたは他の生徒に疎まれるのよ」

 

 グサグサと突き刺さることばかりを口にするるい子に真壁が図星とばかりに胸を押さえ、誰にも顔を見られないように俯き、えみりへと深く頭を下げるほかない。

 そして、そんな真壁に続くように二人の背後にいた鷹島も頭を下げた。

 

「鷹島さん、あなたは頭を下げることないのよ?」

 

「いえ。彼が勝手にしたこととはいえ、私への贈り物だったので私も関係者ですから。

 本当にこの人がごめんなさい、美浦さん」

 

 深々と頭を下げる鷹島さんにえみりは目を丸くして見つめ、その表情は『えっ、この人謝るんだ?』と語っていた。だが、それはえみりだけでなく、その場にいるほぼ全員がそんな表情をしており、舘羽だけは感心するように鷹島をまじまじと見つめていた。

 が、続いた言葉で全員の表情は一変することとなる。

 

「最近、あまり変な行動をすることがなかったからって油断してました。

 この人を上手く操作できてなかったみたいで・・・ やっぱり、コントローラーで操った方がいいのかも」

 

「と、友代! 何を言ってるんだい!?」

 

 慌てる真壁に鷹島は小さく溜息を零し、少し考えるように彼を見つめる。

 

「だって誠くん、私が言ってあげないとすぐに変な行動するじゃない。

 最近は少しずつ良くなってきたのに・・・ また教えて(洗脳して)あげないと駄目ね」

 

 そう言って鷹島は真壁の顎に人差し指を添え、彼の方が身長が高いにもかかわらず何故か見下ろしているかのように目を細めていた。それはまるで自分の所有する者に、躾を施す女王のようだった。

 一見仲睦まじいように聞こえる筈のやり取りにもかかわらず、何故か変な汗が止まらない。小城が周りを見渡せば金田一と美雪、揚羽は戸惑いの表情を浮かべているが、るい子とえみり、舘羽は感心するような、興味深そうに鷹島を見ている。徹は一切興味を持たず、いつきはどこか羨ましそうに、しかし同時に顔を青くもしていた。

(いや、原作でも彼を操作してるみたいな描写はあったけど、恋人同士だとこうなるのか。

 というか! るい子ちゃんもえみりちゃんも、こんなのを興味深そうに見ちゃいけません!

 あといつきさん、その反応はなんだ!? 表情がもう教育に良くないんですけど!!)

 全員の視界を遮りたい衝動に駆られるがそんなことを出来るわけもなく、いつもよりも苦さ多めの苦笑するしか出来ない。

 

「二人が付き合ったことはるい子ちゃん達から聞いていたけど、仲睦まじいようでなによりじゃないか」

 

「所長、完全に棒読みっすよ。

 いつもの余裕っぷりはどっか出掛けてて、初舞台に緊張する大根役者そのものっす」

 

(金田一、だーまーれー?)

 どうにか口角だけをあげて笑い、静かに金田一の足を踏みつけて黙らせる。

 

「いでっ!?」

 

「自業自得よ、はじめちゃん。

 本当にその口の悪さとか軽さとか、なんとかしなきゃ駄目だからね」

 

「だって普通、思ったことは口に出るもんだろ」

 

 小城が踏んだ足をさすりながら言い訳すると、今度は自分の席に座ったままの徹が溜息をついた。

 

「本当にそのうち、口の軽さで刺されるんじゃないか?」

 

「フフッ」

 

 徹の発言にるい子が笑ったので、徹は視線を彼女に向ける。

 

「桜樹くん、何かおかしいかい?」

 

「いいえ、発言はまともで、おかしなところは一つもないわ。

 でも、徹さんは金田一くん達にシスコンやマザコンとも、他人には厳しいみたいなことを言われているけど、そうでもないのね。

 と、思っただけよ」

 

「どこも間違っていないよ。僕は何よりも母と三人の妹達が大事だし、他人に厳しい。

 もし付け加えるならば、この事務所の誰よりも深く所長に感謝し、忠誠を誓っていることぐらいだ」

 

「兄さん? 兄さんの考えを矯正するつもりも、考えるのをやめろとも強制はしないけど、なるべく人前でそういうことを言わないようにしてって言ったの忘れた?」

 

 普通の人ならドン引くようなことを当たり前のように堂々と口にする兄を舘羽が注意するが、当然聞く耳はもたない。

 

「フフッ、誰よりも深く~の辺りはここには居ない方には反論されそうだけど・・・

 でも徹さん、あなたは自分が思ってるよりもずっとお人好しよ。それこそ小城さんと同じでね」

 

 目を細めて徹と見つめるるい子は楽しそうに微笑んでおり、徹は意味がわからないとばかりにるい子を見つめ返す。

 

「あら、あなたも緑さんとるりちゃんと同じで左右で虹彩の色が違うのね?」

 

 一瞬、徹は何かを言われるのかと思い、不愉快そうに歪めるが彼女が口にしたのは徹が予想していなかった言葉だった。

 

「美しいわね、とても。

 生まれた時から体にミステリー(神秘)を宿すなんて、羨ましいわ」

 

「は・・・?」

 

 何を言われたかが意味がわからず間抜け面を晒す徹の顔を見て、さらに満足そうにるい子をは微笑む。

 

「あら、気難しい顔ばかりのあなたのそんな表情を見れるなんて、今日はついてるわ。

 さて皆、そろそろ金田一くんのアルバイトの邪魔になるでしょうから、お暇しましょう」

 

 その場でわざと音をたてるようにして手を叩けば、鷹島は否を言うこともなく頷き、ついでに真壁を視線で促していく。

 

「美雪さんと美浦さんはどうするの?」

 

「あっ、私は今日は帰ります」

 

「うーん・・・ 私はもう少し師匠と話すことがあるので」

 

「そう、お疲れ様。それじゃぁ小城さん、失礼するわね。

 今日は突然、しかもこんな大勢で来てしまって本当にごめんなさい」

 

 二人の返事を聞いてから小城に改めて向き直り、彼女は頭を下げる。

 

「別に構わないよ、基本的には暇だから。それに忙しかったら、扉で入らないように断るからね。

 むしろ最近は少しばかり気が滅入っていたから、君達が来て楽しくおしゃべりしてくれたから少し気持ちが楽になったよ。ありがとう」

 

「あら? 何があったか、聞いても?」

 

「大したことじゃないよ。

 たまにあるだろう? 『こんなことが起きてしまうかもしれない』という恐怖に捕らわれてしまうことが。そういう類いの心配さ」

 

 小城が肩を竦めて告げれば、るい子はクスリと笑う。

 

「変な話だけど、小城さんもそう考えると思うと安心するわね。

 あなたはとても冷静で、私達を守ってくれる立派な大人だけど、私達と同じ不安を抱く人間なんだと思えるもの」

 

「おやおや僕もちゃんと人間だよ、それも臆病で小心者のね。もし立派に見えるのなら、僕がそうやって周りが思ってくれるように取り繕ってるに過ぎないよ。

 そしてそれは僕に限ったことじゃない、君達の周りにいる大人だってそうだよ」

 

「そーそ! 大人だって怖いもんは怖いし、嫌なことは投げ出しちまいたいし、欲しいもんはたまらなく欲しくなっちまう。

 気持ち的にゃ高校生とあんまり大差はねーもんさ。やんなきゃいけねーこととかは増えるし、出来ることも増えるけどな」

 

 そう言って小城の背中に飛びつくようにいつきが肩を組み、べしべしと叩く。

 

「元気がねーから来てやった兄貴分につれない弟分よぉ、今日は俺と出掛けてくんなきゃ拗ねちまうかんな?」

 

「はぁ・・・ 最上さんに電話しますよ?」

 

 半分諦めつつも警告すれば、いつきは凹むことなく楽しげに笑う。

 

「へっ、問題ねーよ。

 なにせ俺が今夜連れてく先には、葉月を含めたトレジャーハンター仲間が集まってるかんな」

 

「初耳ですが? もしかしてえみりちゃんが今日来たのって、いつきさんの仕込みですか?」

 

「いやぁ、そいつは完全に偶然。

 えみりちゃんも今夜一緒にどうよ? 年齢が年齢だから酒は無しだけどよ、えみりちゃんも知ってる連中ばっかだと思うぜ?」

 

「是非! 情報網は広げておくに越したことはないので!」

 

「さっすが高校生とはいえ一端のトレジャーハンター、それでこそだよな」

 

 自分の恋人同様の宝を探す女の強かさを口笛を吹いて称賛し、金田一とえみりを残して帰っていく高校生を見送る。

 

「んじゃ、事務所閉めるまでは来客用のテーブルを占領させてもらうな」

 

「大迷惑なので三階のトレーニングルームか、仮眠室でやってもらってもいいですかね?」

 

 定時後の予定を強制的に決められてしまって半ば適当に返事していれば、いつきが不満そうに小城を睨む。

 

「拓也ぁ、お前、金田一が来てから俺の対応雑じゃね?」

 

「前からこんなもん()ですよ」

 

「前から雑なのもどうなんだよ!?」

 

 溜息交じりの返答にショックを受けるいつきを放っておきつつ、小城はここ数日悩まされていた顔のこわばりが解けていくのを感じ、誰にも聞こえないように想う。

(あぁ本当に・・・ こんな日常がずっと続けばいいのに)

 

 





私のための息抜き回が、小城の息抜き回になりました。
それに加えて、事件のメインには置けなくなっている他のキャラたちの些細な変化を書くことが出来て大変満足(⌒∇⌒)
原作ストーリーを大胆に変わっていくのもいいですが、こうした些細な変化も二次の醍醐味ですよねぇ♪
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