小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

誰かはあえて触れず、読んでからのお楽しみ。




邂逅

 昨日の金田一のチアダンス騒動が所員から所員の身内に共有され、不動高校でも話題になった結果、事務所が非常に賑わっている中、小城は騒がしさとは無縁の墓地を訪れていた。

 仏花と墓石掃除一式を持って向かえば父の墓前に人影があり、小城はおもわず身構える。

 だが、その人影は遠目から見ても男性で、墓場にいても違和感のない黒スーツであることから静かに歩み寄れば男は小城の足音に気づいて立ち上がった。

 

「こうして実際に会うのは初めてですね、小城くん」

 

 そうして振り返った男は『地獄の傀儡師』こと高遠遙一であり、小城は一瞬驚くがすぐに笑顔を張り付けた。

 

「えぇ初めまして、高遠さん」

 

「フッ、やはり驚きませんか。

 あなたもわかっていたんでしょう? 魔術列車が起こった時から、私と出会うこの日が来ることを」

 

「いいえ、僕は叶うことならあなたに会いたくありませんでしたよ」

 

「そうでしょうね。鏡に映った自分自身など不快以外の何物でもない。

 けれど私は、鏡に映った君がとても興味深い」

 

 高遠を拒絶する小城に対し、彼はそんな小城も興味深いとばかりに近づき、じっと見つめてくる。

 

「鏡合わせの私と君。

 私は自分があげた左手に対となって、君が右手を挙げる意味を知りたい」

 

「鏡合わせというのなら、僕が目を逸らしたらあなたも目を逸らしてくださいよ。

 それに僕とあなたが対なんてありえないでしょう、僕はあなたのようにはなれない」

 

「フフッ、目を逸らしている自覚はあるんですね?」

 

 楽しくて仕方がないとばかりに笑う高遠を放置し、小城が視線だけ周囲を見渡せば平日の昼間とはいえ異様なほどに人けが無い。

 

「あぁ、心配することはありませんよ。私と君の二人っきりのファーストコンタクト、邪魔なんて入らないように人払いをしてあります。

 そうしなければ君も私も本心から語り合うことが出来ない、そうでしょう?」

 

「ポーカーフェイスが得意なマジシャンなあなたと本心で語り合う? 自分で無理難題を口にするのはどうかと思いますよ」

 

「トレジャーハンターであり、探偵としても優秀なあなたほどではありませんよ。小城くん」

 

 お互いに笑顔を張り付け、目を逸らすことなく見つめ合う。

 距離を測り合っているにも、相手が何をしても対応できるように見張っているようにも映るが、先に動いたのは小城だった。

 

「そう言えば高遠さん、ウチの所員におかしなものを送るのはやめていただけませんか」

 

「あぁ、聞いたんですか。

 亡くなった方は私が潜伏していた教会にたまたま訪れましてね。彼が語った情報から香港に足を運んだんですが・・・ 無駄足に終わってしまいましたよ」

 

 大袈裟に肩を竦めて残念がる高遠に、小城は溜息をついた。

 

「何を言っているのやら、僕のことを知っていたあなたが事務所の所員について調べない筈がない。

 あなたは狩谷が僕の部下となっていることをわかっていたから手紙を出し、彼がどう動いても僕と接触するつもりだったんでしょう?」

 

「本当に素晴らしい、あなたに隠し事は出来そうにありませんね。ですが、それは私も同じこと。

 君は私に『会いたくない』などと口にしていますが実際はその逆、私に聞きたくてしょうがないことがあるんじゃないですか?」

 

 彼の見透かすような言葉に小城は息がほんの一瞬、息が止まる。その様子に高遠は嬉しそうに微笑み、手を広げてみせる。

 

「なんでも答えてあげますよ?

 その代わり、私の質問にも答えていただくことになりますが」

 

「そ、んなことは・・・」

 

「何も心配することはありません、ここには私と君しかいない。君が大切に守る者は見てもいませんし、聞くこともありません」

 

 そして、突然小城の右肩を自分の右手を置き、彼の右耳にささやくように告げる。

 

「言ったでしょう? 私と君は鏡合わせの存在。君は私で私は君、あなたの本性は僕と全く同じもの。

 自分自身に何を偽ることがありますか? 私はこんなにも君に本心を晒しているというのに・・・ 寂しいじゃないですか」

 

「っ! 離れてください」

 

「ハハハ、この距離感は駄目でしたか?

 内緒話を希望されるならこの距離の方がいいと思ったんですが、残念です」

 

 手を振り払って距離を取りつつ、小城はわずかに乱れた呼吸を必死に取り繕っているのに対し、高遠はどこまでも楽しげだった。

(恐ろしい・・・ 本当に底知れない、この世界のバグみたいな人だ)

 

「君が質問しないのなら私からしましょうか。

 小城くん、君は何故復讐を遂げないのですか?」

 

「僕はあなたの質問に答えるなんて 「いいえ、それだけではありません。多くの者の復讐を止めた君ならば、私の復讐を止めることもの不可能ではなかったのでは?」 何を言ってるんです? 僕にそんなこと、出来るわけがありませんよ」

 

(本当に、こいつは、どこまで知っている?)

 言葉とは裏腹に小城はひどく動揺していた。

 止めようと思えば止めれた? そんなことが出来る筈がない。たとえ原作知識があったとしても脅迫状が警視庁に届いた時点で高遠は舞台の準備を終えており、幻想魔術団に彼が所属している時点で死のマジックショーへのカウントダウンは始まっていた。

 だが、高遠は小城の否定の言葉により笑みを深めていった。

 

「そうですね、君は初めから私の復讐を止める気なんてなかった」

 

 それはもはや問いかけではなく確信。だが、高遠の声に責めるものは含まれておらず、ただただわかってしまうのだとばかりに断言する。

 

「あなたは私に、復讐を遂げさせたかったんだ」

 

 言い切る姿はどこか金田一を思わせ、だというのに言葉の内容は全く逆のもの。

 犯人のため、被害者のため、そして巻き込まれた者のために真実を解き明かす金田一に対し、高遠が今ここで明らかにしようとしていることは小城がこれまで必死に隠し、誰にも明かさずにいると心に留め続けている深層に眠る感情そのもの。

 

「沈黙は肯定、ですよ? 小城さん」

 

 鏡を覗き込むようにじっと見つめ続ける高遠に、小城は一つ深く息を吸って吐き出す。

 

「高遠さん、僕はね・・・ 復讐を悪いことだとは思ってないんですよ」

 

「おや? 彼らの復讐を止めたも同然の君がそんなことを言うなんて、意外ですね」

 

 興味深そうに小城に言葉の先を促す高遠、当然小城もそんなことはわかっている。

 だが、高遠は小城の本心に気づいている。気づいている以上、もはや取り繕う必要などないのだ。

 

「ただ、法律で禁止されていることはある。

 殺人や脅迫、監禁や拷問がそれにあたるというだけ」

 

 思い出すのは所員やこれまでかかわった多く人々の過去と、あったかもしれない未来。

罪と罰。法律で定められていながら、必ずしも罪を犯した者に罰が与えられるわけではないという現実。

 

「あなたは間違っていますよ、高遠さん。

 あなたは殺人という罪を犯し、多くの人を巻き込みながら、復讐を遂げることが出来るという前例を作り上げた。

 その上で見事警察から逃げおおせて、あなたは新しい舞台を探して回っている。殺人教唆に殺人幇助とさらに罪を重ね続けている・・・ これは悪いことだし、してはいけないことだ」

 

「法律上ではそうですね、私は間違いなく大罪人だ。「「でも、それは法律上というだけ(だ)」」

 

 高遠と小城が重なり合い、目が合う。

 高遠の目は変わらず楽し気で、対する小城の目は真っ暗でまるで闇を映しているようだった。

 

「だから君は、法律を違反しない範囲で彼らを救っていると?」

 

「僕は救っているつもりはありませんよ。僕は僕の都合のいいように、使えるものを全て使って、場を整えているだけにすぎません。

 あなたが犯罪を舞台とし、芸術犯罪として完成させようとしたのと同じでね」

 

 小城は額に手を当てて、口元に手を持っていってから深く息をする。煙草を吸っていた時と同じ仕草、無意識に出てしまう癖。

 

「僕は僕の良いようにしか動いていない」

 

「それは嘘ですね。

 それならばどうして君は、妹さんのことを遠くから見守ることしかしていないのですか?」

 

「本当に、あなたはどこまで知ってるんです?」

 

 目を細めながら問えば高遠は目を閉じてから、足先で地面を叩いた。

 

「私がここにいる、それが答えになりませんか?」

 

 その答えで高遠が小城の家族に関する全ての情報を把握していることがわかり、舌打ちをしかけてやめる。

 

「今の君ならあの男()を罪に問うことは出来ずとも、様々な方法で痛手を負わせることも出来る。手段を選ばないでいいのなら、妹さんを引き離すことだってそう難しいことではない筈だ。

 でも、君はそれをしない。

 あくまで遠くから、迫る危険からやんわりと遠ざけるだけに徹している。まるで自分を知られることを恐れているかのように」

 

 高遠は目を細め、笑う。

 

「そんなに怖いのですか? 妹さんの今の幸せを壊すことが。

 その幸せは全て偽りの上で成り立っているものだと、あなたは知っているというのに」

 

 高遠はそう言いながら小城の横を通り過ぎていき、小城と背中合わせとなったところで立ち止まる。

 

「白い薔薇を堕とした彼らは、僕の心に赤い薔薇を咲かせた。

 だから私は赤い薔薇で彼らを彩り、死のマジックショーで素晴らしい芸術へと昇華させました。

 小城さん、あなたの心にはどんな花が咲いていますか?」

 

 高遠が立ち去っていく足音を消えるまで、小城はその場で黙って目を閉じ、足音が完全に消えたところで父の墓を見る。

 

「父さん、がっかりしたでしょう? こんな僕で」

 

 復讐を肯定したことも、どこまでも身勝手に行動してきたことも、妹の今の幸せを壊すような復讐を考えていないと断言しないことも。

 

「僕は・・・ いつまで迷っていられる?」

 

(高遠遙一が僕の元を訪れたように、自分自身が犯人となる日が突然来ないと何故言える?)

 高遠が歩いて行った方向に視線を向けてもそこには誰もおらず、そのさらに遠くには人影が見え始めていた。

 

「父さん、今日はこれで失礼します。

 お墓はまた後日改めて掃除に来ますから、許してください」

 

 墓を訪れた他の人間から逃げるように、小城はその場を立ち去った。

 

 




ついに高遠さんとの邂逅。
この人、いつも書きにくいな・・・ 本当に書きにくいな? 
そして、なんか原作以上に艶々してるな???
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