五話目-!
『クックックッ・・・ ワハハハハ! おはよう、東の塔の名探偵諸君!
平和な夜はもう終わりだ、恐怖の第二ステージは既に始まっている! 今度の舞台は西の塔だ!!』
朝からおそらく城中に響き渡っているであろう放送を聞きながら、小城は寝起きの重たい頭を手で支えていた。
「平和な夜・・・? 寝たの三時過ぎだが? 遊戯室での殺人劇クイズの後に、ガチの殺人をお披露目にされたが?」
扉の向こうが騒がしくなるのを聞きながら、テーブルの上で眠っていた筈のマガドリ様を見れば既にいない。おそらくは事件現場に駆け出して行った金田一か、置いて行かれそうになっている美雪の元へ行ったのだろう。
「所長! 俺達は先に西の塔に行きますね!」
「あぁ・・・ 僕もすぐに向かうよ」
扉越しに聞こえた金田一の声に応えながら、ぼんやりとした頭を覚醒させるために常に持ち歩いているペットボトルの水を流し込んでから扉を開け、ゆっくりと西の塔へ歩き出す。
西の塔、個人部屋に行く前にある小暖炉の間の扉は開け放たれており、テーブルの上に横たわっているのは木の杭を自ら刺すような形で眠らされたアンダーソンの蝋人形。
「なるほどね、次はこの人ってわけだ」
個人部屋に続く扉が開けっ放しであることから金田一らはその先だと理解して、小城も少々先を急ぐ。小城が到着した時にはアンダーソンの扉の部屋も開けっぱなしとなっており、金田一らは別の部屋に走っていくところだった。
(・・・犯人を追いかけてる? いや、違うな。犯人がどこかに潜んでいる可能性があるから、か)
アンダーソンの部屋を覗いてみれば、そこには先程の蝋人形同様に心臓に杭を一突きにされた状態でベッドで眠らされている死体がある。だが、小暖炉の間にあった蝋人形と違い、彼の体のあちこちには点々と血がついており、それが何かわからず小城はゆっくりと近づいた。
「衣服にも穴がある、か。
こんな殺し方出来るものなんて、僕は漫画に出てくるような異能力か、拷問部屋にあるあれしか浮かばないんだよなぁ」
そうだとしたら拷問部屋にあるものが単なる装飾ではなく、全てが危険な凶器へと変わってしまうのだがその事実にも正直頭が痛い。
「小城さん、いったい何が・・・ リチャード、さん!?」
「うっ」
騒ぎに聞きつけて集まった他の面々が死体の傍にいた小城に気づいてエドワードが入ってくれば、アンダーソンの死体の状況を見てみるみる顔色を変えていく。
「み、皆殺しだ・・・! 俺達は皆、レッドラムに殺されるんだ!! うわあああ!!」
「坂東さん!?」
錯乱した坂東が部屋を出ていってしまい、誰もそれを止めることが出来ずに見送り、マリアによって死体見分が行われることとなった。
「死亡推定時刻は今からほぼ二時間前・・・ 死因は出血多量、全身数十か所に釘のようなもので刺された跡があります」
「では、あの胸に刺さっていた杭は?」
「おそらく別の場所で殺された後、ここに運ばれ杭を打たれた。
そう考えていいと思います」
「何故、犯人は死体に杭なんか・・・?」
マリアの断言に南山が不思議そうにする。
「だが、これで無差別殺人の線はますます強くなって来たぜ・・・
日本人の当麻、英国人のリチャード。どう見ても殺しの動機に共通点があるなんて思えんしな!」
「そいつはどうかな?」
「何?」
真木目の確信を持った言葉に対し、金田一が一冊のノートを持ちながらそれを否定する。
「このリチャードの手帳を見てくれ!」
そう言いながら開いた手帳の中にはびっしりと文字が書いてあり、それは彼の母国語である英語ではなく、漢字を交えた流暢な日本語の羅列。
「なるほど、興味深いね。
自分しか見ないことが多い手帳に使い慣れた母国語でなく、習得難易度が高いことで有名な日本語・・・ しかも漢字を交えて書けてしまえるなんて、彼は相当日本語に慣れている証拠だ」
「所長の言う通り。なのに、リチャードはカタコトの日本語をしゃべってた ――― こいつはあまりにも不自然だぜ。
もしかするとあの人は相当長いこと日本にいたことがあって、何らかの理由でそれを隠すために日本語を下手なフリをしてたんじゃないか? だとしたら、当麻と同じ動機で殺された可能性は十分あるぜ」
金田一の言葉に再び沈黙が訪れ、重たい空気のまま解散となってしまった。
日中はそれぞれが自由に過ごしたが、夕食を控えた午後六時は坂東を除いた者達は自然と小暖炉の間に集まっていた。
(暇だなぁ・・・ でも、これで別行動をとって変に勘繰られても面倒だし、どうしたものやら)
金田一が人形の前で頭を傾げ、エドワードが『Mr.レッドラムの候補は三人に絞れた』などと言っているのを聞き流していると彼はマリアと真木目、そして坂東がその候補者であることを告げた。
「でも、なんだかそれっておかしくない?」
が、それを多岐川が否定するように一歩前に出た。
「それじゃ、まるっきりの三文ミステリー小説よ。
犯人は中から鍵をかけ、自ら閉じこもった ――― これじゃ『私が犯人です』って言ってるようなものじゃない。
犯人は西の塔にいる三人に罪を着せるため、何らかのトリックで密室を作り上げた。本格ミステリーなら、そこまでいかなきゃね!」
実に推理作家らしい物語の展開として意見を口にすれば、エドワードはその密室トリックについて尋ねるが、そこまでは考えてなかった彼女は口ごもってしまう。
「秘密の通路・・・!!」
そこで金田一がヨーロッパの古い城には戦争に備えて秘密の通路があることを思い出し、エドワードが南山から受け取った間取り図に点線の道があることを確認して、遊戯室にあるらしい通路を求めて、全員で通路に移動する。
遊戯室の壁際、下の羽目板を外せば・・・ そこに通路はなく、土しかなかった。
「そんなことだろうと思った!
考えてみたまえ、確かにドイツにあった頃はそこに秘密の地下通路があったんだろう。でも、日本に移築された時、トンネルを掘ってまで再現すると思うかい?」
(明智さん・・・ あなたって人はそういうところが金田一くんに嫌われるんですよ・・・)
金田一の失敗を
「小城くん、君の考えを聞いても?」
「あっ、僕も小城さんの意見が聞きたいなって思ってました」
「僕ですか? 昨日も言いましたが、僕は皆さんとは違って推理は得意じゃないんですが・・・」
明智とエドワードがどこか期待するような視線をこちらに向けているが、肩を竦めてそれを避けようとする。
「推理じゃなくたっていいんですよ、小城さんの意見が純粋に聞いてみたいってだけですから」
だが、視線を逸らした先にも素早く回り込まれてしまい、逃亡は失敗する。
「そうですね・・・ リチャードさんの殺害に使用された道具に察しがついている、ぐらいでしょうか」
『!?』
「ちょ、小城さん、それってどういうことだよ!?」
真木目が代表して問いかけてくれば、小城はまた肩を竦める。
「まだ実物を確認してないから何とも言えませんが・・・ ですが、凶器がわかったところで殺害に至る過程も、その後の犯人の行方も、動機も何もわかってないんじゃ意味がない。
やはり僕に推理は向いてなさそうだ」
『凶器が何かを言うつもりはない』と態度で示していると、あちこちから疑いの目を向けられていることがわかる。
「小城くん、彼の推理についてはどう思いましたか?」
「そうですね・・・ そう言う考え方もある、とだけ。
密室が簡単に作れてしまうことはこの城に閉じ込められてしまった僕らは身をもって知っているわけですし、
そう語りながら恐怖を一切見せない小城は、その場にいる全員に視線を巡らせる。
「誰しも死にたくないものですし、知り合いにも、この場で顔を合わせてる人間が死ぬことも恐ろしいものです。
そうならないことを、怖がりな僕は祈るばかりですよ」
話し終えたところで小城が胸ポケットからキャンディを取り出したところで、南山が『あっ』と声をかけた。
「小城様、この後すぐに食事になりますので間食は控えていただけると・・・」
「あぁ、すいません。
それじゃ皆さん、小暖炉の間に戻りましょうか」
飴をしまいつつ、小城は颯爽と小暖炉の間に向かえば、背後から他の皆の気配もある。
(なーんか疑われてる気がするんだよなぁ・・・ 特に真木目さん辺りに。
疑いだけで殺されなきゃいいなぁ、俺)
未だにこの事件が何かを思い出せずに、その場しのぎの行動ばかりしてる自覚のある小城は二日目の夜をつつがなく過ごすのであった。
三日目の早朝、小城はマガドリ様に頭を突かれて起きることとなった。
「どうかしたのかい?」
声を押さえながら尋ねれば、マガドリ様は天井を見上げた後さらに格子の窓へと視線を向けた。
(外に行きたいのか・・・)
「外に行くなら、一つお願いしても?」
(。´・ω・)ん?と表情をされ、小城はメモに『事件発生 閉じ込められた 警察等に連絡願う』と城の住所を書き、マガドリ様へと手渡す。
「これを事務所に届けてもらいたい。いいかな?」
するとマガドリ様はσ(´-ε-`)ウーンと少し考えるようにしてから、渋々頷いた。この子の回答に迷う素振りは初めて見たので小城もどうしてかわからずに首を傾げるが、とりあえず空を広く見え、なおかつ人気のない城の屋上へと向かって歩き出す。個人部屋から広間へ出て屋上へ向かえば、空は暗く雨はやんでいても風は強い。
「マガドリ様、風が随分と強いけど飛べるかい?」
余裕だとばかりに( ´∀`)bグッ!とするのを確認してから、頭を撫でる。
「マガドリ様もくれぐれも無理はしないように。僕らも身の安全を優先するから」
そう伝えたところで突然マガドリ様が西側の屋上の出入り口を見つめたので、小城も視線を向ければそこには薄手の衣服をまとったマリアが立っていた。
「小城さん? それにその子も・・・」
「マリアさん、おはようございます。風が強いのでその恰好では風邪をひいてしまいますよ」
「えぇ・・・ 小城さん、お聞きしてもイイデスカ?」
「なんでしょう?」
「その子について。ソシテ、あなたは私がヒトではないことを気づいているんじゃありませんか?」
「・・・さぁ、どうでしょう?」
(いや、知らないよ!?)
マリアからの突然の告白に内心が驚愕で染まるのだが、表情に出すようなへまはしない。
「その子はこの国の数多にいるカミの一人・・・ それに比べるとワタシなどこの城と、あの絵に残ったタマシイの残りのようなモノデス」
「付喪神か、かつてバルト城にいた一族の者ということですか」
「ハイ、この姿はこの城の主だったフリードリヒ家の方の姿を借りていて、ワタシ自身はスコットランドやイギリスにいると聞く家妖精・・・ シルキーに近い存在ナノデス。
ですが、不思議なことに主を選べぬ身デハありましたがワタシはフリードリヒ家の方々のことを愛しく思い、一族もまた屋敷に住み着いたワタシをいつしか『マリア』と呼んで愛してくださいました」
懐かしい日々を思い出すように彼女は城を見下ろし、大切そうに手を広げる。
「ヒトではないワタシにとって、彼女達と過ごした日々はほんのひと時の間でしかありません。でもそれは・・・ これまで過ごした日々の中でもっとも幸せなものでした。
かの一族以後誰もいなくなり日本に移築しても、誰も来なくなってしまっても、ワタシはただこの城と共にある運命・・・ イイエ、あの日々を抱いて共にありたいのです」
これまで誰も知ることのなかったバルト城にいた一人の家妖精の言葉を聞きながら、小城は冷や汗が止まらない。
(こんなオカルトに全力投球してた事件ありましたっけ!? 三億円事件と城での密室殺人事件・・・ なんで思い出せないんだよ!)
それは財宝にも、速水怜香にも関与していないからである。
「では、何故そんなあなたがこのミステリーナイトに参加を?」
「それはこの城を移築された際に・・・」
「所長ー! マリアさーん! そんなところで何してんすかー!」
マリアが何かを言いかけたところで中庭にいた金田一が大声を出して、こちらへと手を振ってきたので話は中断されてしまう。
「行きまショウカ、お話はまた後で」
マガドリ様は飛び立とうかどうか迷ってる様子で、じっとマリアを見つめる。
「家妖精の身ですから守るとは言えマセン・・・ ですが、ワタシのことを知ってくださった彼の力になりたくは思っています」
(いや、そこでなんでそんなやり取りになるの!? 俺、ただ話を聞いただけですよね!?)
『ならよし( ´∀`)bグッ!』とばかりにマガドリ様が飛び立てば、金田一が聞こえていないのかとばかりにもう一度声を出して二人を呼ぶ。
「聞こえてるよ! 風が強いから話すなら城の中に戻ろう!!」
金田一と合流しようと城の中に戻ると、
『諸君、お待たせした! 第三の事件の幕開けだ!!
「大暖炉の間」に急ぎたまえ、さ~て次は何が起こるかな?』
「別に待ってないですし、何も起こらないんで欲しいんですけどね・・・!」
東側の階段を慌てて降りると大暖炉の間を通ってきた金田一と鉢合わせし、ひどく慌てた様子の彼の鬼気迫る様子を見て、走っていく彼を止めずにその背中に問う。
「何があったんだい!?」
「明智さんの蝋人形が倒れて、首が転がってました!!」
「!?」
その言葉で金田一がどこへ向かっているかを理解し、彼に続いて走り出す。
「明智さん、無事か!?」
金田一が大声で呼びかけ、扉を叩いても中から反応はなく、騒ぎと放送に気づいた面々が次々と何事かとやってくる。最初に来た美雪に南山のところにカギを受け取ってくるように金田一が叫び、シャワーを浴びていたような姿のコロンボ、西の塔から駆け付けたであろう真木目、そして美雪が連れてきた南山が冷や汗をかきながら『合鍵の束がどこを探してもない』と告げられたことによって、小城はあまり出したくなかった小道具を胸元から取り出した。
「あ、あれでドアを破ったら「金田一くん、そこを退いてくれ!」
「所長!? 何するんすか!?」
「いいから退きなさい。僕が解錠している間は明智さんへの声掛けでもしていてくれ」
小城は鍵穴を確認し、何やら細長い道具を使って器用にいじりだす。
「小城さん、それってピッキングツールですよね? どうしてお持ちなんですか?」
「ピッキングツールなんてだいそれたものじゃないですよ、単なるヘアピンです」
カチャカチャといじっていると解錠の感覚を指先が捕らえ、鍵穴を回せば扉が開いた瞬間に小城は転がり込むように室内を確認する。
「明智さん!」
ベッドで眠っている彼を見て、一瞬青ざめるが胸が規則的に上下に動いていることがわかって、緊張して張りつめていたものが緩んだ。
(よかった・・・)
だが、彼の無事をすぐに理解したのは小城だけであったことにより、金田一らが慌てて明智の傍に駆け寄り、彼が完全に目を覚まして体を起こしたところでようやく彼が深い眠りについてたことが判明する。
「ねぇ、ちょっと変じゃない?
レッドラムは第三の事件が起こるって言ったのに、今回は明智さんが寝てただけなんて」
「そういえば・・・」
多岐川の言葉に南山が納得したところで、真木目があることに気づく。
「そういえば・・・ 坂東さんだけいないぞ? いったいどこへ・・・」
「・・・はじめちゃん!」
「とにかく、皆で坂東さんの部屋へ行ってみよう」
金田一の言葉に全員が従って後を追うが、小城はまだだるそうな明智の傍へと寄り添う。
「大丈夫ですか? 明智さん」
「えぇ。少し頭が痛みますが、問題ありません」
「・・・薬物を混ぜられた可能性も視野に入れましょう、このままではあなたに疑いを向けられかねない」
「フッ、やはり君に同行してもらってよかった。
信頼のおける者が傍にいることが、ここまで心強いとは思っていませんでしたよ」
癖である髪をかきあげる仕草をしながら彼が嬉しそうに言うので、小城は溜息をつく。
「それなら明智さんは、もう少し人心掌握について学ぶべきですよ」
「おや? 殺されていたかもしれない私にお説教ですか?」
「説教なんて滅相もない、これは友人としての忠告ですよ。
あなたは僕と違って組織の中にいる人間だ。信頼のおける部下や同僚を傍に置き、頼ることを学ぶべきだ」
「それも全て、君が
「僕に警察は無理ですよ。
それに明智さん自身も、僕のこの立場だからこそ使いやすいのもあるでしょう?」
「やはり君は、評価に値しますよ」
小城の言葉に明智は否定も肯定もせず、金田一の後を追うことに集中することとなった。
「!?
見ろ! 坂東さんの人形がない!!」
「本当だ! 俺が通った時は、確かにここに坂東さんの人形があったのに!」
「まさか、それじゃぁ」
その事実に驚き、真木目が目撃証言を言った瞬間に美雪が事態を理解して慌て、金田一が再び走り出す。
「急ごう!」
西の塔の真ん中、坂東の部屋へと飛び込めば入り口に入ってすぐに蝋人形がぶら下がっており、最初に突入した金田一が驚く。
「に、人形!?」
上を見た金田一がさらに視線を巡らせれば、天井の梁からはもう一体・・・ 否、本物の坂東九三郎の死体が自分の死に驚いたかのような表情のまま、吊り下げられていた。
シルキー
→ スコットランドやイギリスに伝わる旧家や古城にいるとされる家妖精、もしくは亡霊の一種。白や灰色のシルクの服を纏っていることがシルキーの名の由来とされており、家事などの手伝いをしてくれる一方、怒らせてしまうと嫌がらせをして家から追い出そうとしてくる。
どうやらイギリスの各所に実在しているらしく、各屋敷によって性格の違いがみられてる模様。
小城が無意識に犯人に疑われるような発言や行動をしてるのがとても面白い。
彼の内心の声があるから作者や読者視点だとわかりずらいですが、それが聞こえないと考えると小城がすんごい怪しい(笑)