六話ー。
坂東の死を確認し、何か
「これは・・・ 何かのリモコンみたいんですね」
『名探偵諸君、今までご苦労だった・・・!』
エドワードが不用心にも一番上にあるボタンを押してみれば、突然音声が流れだした。
「っ!? レッドラムの声だ!」
『これがバルト城、ミステリーナイトの結末だ。
今回のことは全て、『Mr.レッドラム』こと私・坂東九三郎が当麻恵、リチャード・アンダーソンの両名を殺害するために計画したことだ』
そこから淡々とこの三名が大学の同期生であったこと、彼らへと個人的な恨みから始まって殺害に至った経緯。そして、自らの命を絶つことで事件の幕を下ろすまでの全てが語られて放送は終わりとなった。
「こ、これで事件が終わったんですね。もう誰も死ぬことは・・・」
そう言って安心しかけた南山に小城は、笑ってしまう。
「なんて・・・ これまで僕らを城に閉じ込めたりした人間の言葉を、そう簡単に信じられると思いますか?」
「え・・・ で、でも・・・」
「そう思うだろう? 金田一くん」
南山が戸惑う中、小城が金田一へと話を振れば彼は素直に頷いた。
「もし本当に坂東さんが犯人だっていうなら、どうして事件の真相を語った録音にボイスチェンジャーを使った『レッドラムの声』で流す必要があったんだ?」
「――― 確かにな! 自白テープなら、自分の声をそのまま流しゃいいんだよ」
「そ、それじゃぁ!」
金田一の発言に納得し、同意する真木目とそれらの事実が何を差すかを理解して、美雪は不安そうにつぶやく。
「えぇ、きっと犯人はまだこの中にいるわ。
そして、驚いてるふりをして心の中で笑ってる・・・ 本格ミステリーならさしずめそんな
場は坂東の死体を見た時より、それどころかMr.レッドラムによる独白を聞いた時よりも緊張した雰囲気に包まれてしまい、小城は自然と笑ってしまう。
「だとしたら、犠牲者が坂東さんで終わりとは限らない。
次に消されるのは、この場でMr.レッドラムが最も厄介だと判断した者になりますね?」
飴を口にしながら坂東の扉の部屋を開け一足先に自室へと戻っていく彼に、他の者が何思ったかも知ることもなかった。
嵐も過ぎ去り雨はやんだというのに、空は今なお雷が鳴り響き、強い風が吹き荒れる。
(マガドリ様は何事もなく事務所についているといいけど・・・)
そう思いつつさっきまで目を通していた資料をきちんと鞄にしまってから立ち上がり、隣にある明智の部屋へと向かってノックする。
「誰ですか?」
「僕ですよ、明智さん」
慎重に開かれた扉から覗いた顔は小城の来訪を待っていたかのように微笑み、『どうぞ』と招かれる。
「明智さん、体調は大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありません。
おそらくは睡眠薬か何かだったんでしょうね、何らかの目的を達成するために私を眠らせ、犯人は皆の注目が集まっている間に何かを行っていた筈・・・ ですが、君が私の元を訪れたのは別件ではないですか?」
「明智さんと居ると話がスムーズ過ぎて、少々恐ろしいぐらいですよ
あなたに教えていただいたヒントについて、調べさせていただきました」
肩を竦めつつ、ミステリーナイトに参加を打診された時に出されたヒントについて触れれば、彼は『続けてください』とばかりに笑顔で促される。
「その事件は、現金輸送車が白バイ・・・ いいえ、これも正確ではありませんね。一見は白バイに見えるように工夫されたバイクに乗った男が車を停車させ、『爆弾を仕掛けたという連絡を受けた』と告げてきた。そして、その警官が車の下に入った直後煙が立ち昇り、乗車していた四名が避難した隙をついて警察を装っていた犯人が車を強奪。
内容を語ればたったこれだけの事件にもかかわらず、この一件は十七万人もの警察を動員し、遺留品が多数あったにもかかわらず犯人は捕まらなかった。それどころか三億もの大金は影も形もなくなり、時効を迎えた結果迷宮入りしてしまった」
この事件は現実でも起こった事件であり、後になってあるサイトからフィクションだと前置きされた暴露本が出版。だが、それと同時にそんな暴露本は眉唾であり、警察の間では既に『迷宮入りした事件』ではなく『とうの昔に全てを明らかにされている事件』だという説も存在する。だが、いずれにせよ真偽は定かではなく、世間に公開されている情報は推測の域を超えることはなかった。
確かなのは『三億円もの大金を奪われたにもかかわらず、誰も捕まることはなかった』という事実である。
「一見するとこの事件はもう過去のものであり、現状どころかあなたとの関係すらないように感じられる。
ですが、今回亡くなった被害者達の年齢は当時犯人の最有力候補となった少年Aとも近く、まさに三億円事件が起こった際に大学生であったなら青春を過ごしていた頃だ。そして、捜査に関与していた警察の中にあった『明智』の名・・・ 明智さん、彼はあなたの親族、あるいはお父上だったのでは?」
明智が沈黙を保ったことを肯定と捉え、小城はさらに続ける。
「調査の結果、誰もが諦めた事件を調査を続けたにもかかわらず、結果に至らず周りは彼を冷遇。そして、あなたのお父上は三億円事件が時効となった頃にまるで全ての責任は自分にあるとばかりに職を辞された。
ここからは全て推測であり、警察ですらなんの確証も得られず調査すら出来なかったであろうことですが・・・ 殺された三名はあなたのお父上の捜査線上に浮かびあがっていた人物だったのではないですか?」
ここで明智はフッと笑い、小城へと静かに拍手を贈った。
「私が与えたたった一つのヒントからここまで至る・・・ 流石としか言いようがありません。
まったくもってその通りですよ、付け加えるのならばこのバルト城も父の残した大量の資料の中にあった、犯人達が最後に行き着いたであろう場所の候補の一つでした」
「やはりですか・・・」
「ですが、以前も言った通り、警察官である私にはかつての事件をどうすることもかないません。私自身、『何がしたかったか?』と問われればよくわからないのが実情ですよ。
何せ君が言った通り、時効はとうに過ぎていて、彼らに詰め寄ったところで何の意味もなく、認めるなどということはまずありえなかったのですから。
それとも・・・ 私が父の無念を晴らすために彼らを殺した、などとは言いませんよね?」
まるで試すように問いかける彼に、小城は首を振る。
「それならば僕と金田一くんを共に招く必要はありませんでしたし、僕にヒントを与える意味がわかりませんよ。
あなたが二人目の地獄の傀儡師となりたいならまた話は変わってきますが、それならば今の時点で今回の一件のトリック以外の全てを理解してしまった僕を手にかけない理由がない」
「君を勧誘する、というのはどうです?」
「あなたならもっとスマートな方法で僕を手元に置く方法がいくらでもあるのに?
そう口走る時点で、本心ではないことは明らかですよ」
明智の理由を一蹴すれば、扉越しに感じていた気配が控えめに扉を叩いた。
「ほら明智さん、僕のところの優秀なバイトがあなたに面白いことを言いに来てくれましたよ?」
「まったく君は・・・ これも計算の内ですか?」
「滅相もない、僕がそんなに頭が回るように見えますか? 僕はいつだってその場しのぎで、あなたや彼のような天才的な閃きも持ち得ないただの凡人ですよ」
「それこそ冗談でしょう。
私は君ほど頭が切れ、丁寧にもかかわらず素晴らしく口が回り、慎重でありながら時に大胆な行動に出る人物を知りませんよ」
「ハハハ! 買い被りすぎて、ただの石ころが希少な宝石になってますよソレ」
いつものように自分への過剰な評価を笑い飛ばせば、入ってきた金田一が神妙な顔をしていた。
「すんません、所長。立ち聞きするようなことしちゃって・・・」
「いや、それは僕に謝ることじゃなく、部屋の主であり個人情報の持ち主である明智さんでしょ・・・」
「すいませんでしたー」
「心にもない謝罪をどうもありがとう、それで君は何の用なのかな?」
「見つけたんだよ、例の抜け道を。
小暖炉の間を通らなくても西の塔へ行ける、秘密の通路をね!」
こちらから明智へと謝る対象が変わった途端に棒読みになる金田一にまた笑いそうになるが、続いた彼の言葉に小城は目を丸くする。
「それじゃ話が終わった僕は。これで退出させてもらいますよ」
「所長もここにいてください。俺だけじゃ、明智さんが真実を話してくれるとは限らないんで」
(それは明智さんの性格とかもあるけど、お前の普段の態度のせいでもあるんだよなぁ・・・)
口から出そうになった本心を飲み込んで苦笑していると明智からも頼まれてしまい、テーブルの椅子を二人に譲って、暖炉横の壁へと体を預けることにした。
そして、金田一から語られるのは西と東でもっと内側にある明智と当麻の部屋にある暖炉が内部で繋がり、行き来が出来るという事実。このことで第二の殺人での西の塔の密室はクリアされ、第三の事件の大暖炉の間にあった坂東の人形が忽然と消え死体とともに発見されたことも、坂東を殺して自分の人形の首を切った後、当麻の部屋に身を潜めてレッドラムの声を流す。これによって全員が自分の部屋に向かったのを確認し、大暖炉の間から坂東の人形を運び出して、死体の横に吊るした後は当麻の部屋から秘密の通路を使えば可能である、と。
「――― なるほど。確かに君の言う通り、この暖炉の煙突を使えばそれも可能だったかもしれません。しかし、それだけで私が犯人と言い切るのはまだ説得力に欠けますね。
大体、私がこの犯罪を行う動機はなんです? 私は被害者の三人と、ここで初めて会ったんですよ? 初対面の人間をこんな大掛かりな舞台を仕組んでまで殺害するなんて・・・」
「それはさっき、所長が語ってくれた事実が論破してくれただろ?」
「おや? 君の所長はそれを否定していましたが?」
「犯人であるあんたが所長の言葉をすんなり頷くわけがない、そうだろ?」
そこで言葉を区切り、金田一は神妙な顔で明智を見て問いかける。
「どうなんだよ? あんたなのか? 明智さん」
タイミングよく近くに落ちた雷が二人の顔を照らすのを小城は静かに見守り、暖炉から聞こえてくる物音に対応できるように壁から体を離した。
「やっぱり明智さんでしたか!」
声が聞こえたことでそこから誰かが出てくると確信し、いつでもどうとでも出来るように足を開いて臨戦態勢に入る。
「わぁ!?」
滑り落ちるような音ともに現れた人影に飛び掛かり、人影を床に押し付けるようにして背中を押さえながら両腕を確保したところで慌てたような金田一の制止の声がかかっった。
「ちょっ!? 所長!? たんま! たんま!」
「こ、小城さん、ストップ! やめてください! 痛いです!」
「なんだ、エディですか・・・ となると思いますか?
例えあなたが金田一くんと同じ推理をしていたとしても、こんなところに入り込んで盗み聞きとはずいぶんと良い趣味をお持ちで」
「それはそうですけど・・・ 所長、流石に離してあげてくださいよ」
未だに彼を押さえたまま、鋭い視線を彼に向けると彼は困ったように笑って頷く。
「小城さんが言うことはもっともですけど、本当にこの煙突が通り抜けられるかを確かめてみたかったんですよ」
「それで『はい、そうですか』と離すわけには・・・ 「小城くん、かまいませんよ。離してあげてください」 わかりました」
部屋の主であり、二人連続で疑いをかけられているにもかかわらず、エドワードを解放するように言われて渋々手を離す。
「いえね、ウチの叔母さんがグランドキャニオンにある別荘で暖炉の掃除をした時、うっかり隣の部屋の暖炉の蓋を閉め忘れて隣の部屋をうっかり煤だらけにしちゃったって話を思い出して、もしやと思いましてね」
(こいつ、有名なのは叔父さんなのに叔母さんの話ばっかりだな?)
この城に来てから何度目かもわからないほど彼の口からは叔母さんの話が語られ、現実逃避のようにそんなことを考えてしまう。
そうして語る彼は暖炉の後ろからリチャードの来ていたマントまで取り出し、全員で大広間に集まり、全てを明らかにしようと促す。
「あ~ぁ!」
が、そんな状況を壊したのはまさかの金田一だった。
「『明智警視犯人説』ってのも結構面白かったんだけど、残念ながら的ハズレか」
「何・・・?」
「鏡、見てみなよ。あんたの頭」
意味がわからず戸惑うエドワードに、金田一は彼の天パに引っ掛かったあるものを指さす。
「頭?」
「クモの巣が引っ掛かってんぜ?」
「!?」
「なるほど・・・ エディさん、どうやらあなたは明智さんの無実を証明してくださったようですね」
金田一が言ったことの意味を理解して小城は微笑めば、金田一は彼に『もし明智さんが狭い煙突を今日通っていたら、蜘蛛の巣が張ってるわけがない』と断言し、少なくとも坂東さん殺害には煙突が使用されなかった証明されたのだ。蜘蛛の糸を見て未だに呆然としている彼に追い打ちとばかりに蜘蛛がつたって落ちていき、煤だらけの彼は慌てて蜘蛛を振り払う。
「フッ。助かったよ、コロンボくん。
君のおかげで、私は犯人にされずに済みそうだ」
「ちっ! 失礼!」
苦々しそうに舌打ちし、彼はすぐに部屋を出ていってしまう。そして、推理が得意な二人による蜘蛛の巣の状態から通路が一度は確実に使用されていた可能性があることや蜘蛛の食事である蛾の状態からこのミステリーナイトで使用されたわけでもないことが推測された。だが、そうなると西の塔の密室が再び復活してしまうのだ。
結果として、ほぼ振出しに戻った状態に等しい中、ただ一つわかったことがある。それは・・・
「明智さん、Mr.レッドラムはあんたに罪を着せようとしたんだ!」
「つまり、Mr.レッドラムが私の父のことまで知っているということですか・・・ 小城くん、本当に君が犯人じゃないんですか?」
「ご冗談を。僕はこの企画だって知らなかったんですよ?
仮にそうだったとしたら、面倒極まりない明智さんと金田一くんをこんなところに連れてくるなんて面倒なことはしませんし、連れてくる最中に二人を殺した方が早いでしょう?」
「君なら不可能じゃないところが恐ろしいですね」
「すげぇ嫌だけど、明智さんに同意」
「なんて酷い言い草だ。
それじゃ僕はもう行きますよ、流石に疲れたので仮眠でも取ることにします」
「えぇ」 「じゃ所長、また後で」
小城はそこで二人と別れ、すぐ隣に部屋に入ろうとしたところで大暖炉の間から西の塔に来た多岐川と顔を合わせた。
「小城さん、ちょっといいかしら?」
「なんでしょう? 多岐川さん」
「あなたと少し話をしたいの」
そう言って大暖炉の間へと共に降りていけば、何故か部屋のテーブルに寄りかかるように眠るマリアの姿。
「マリアさん!? 多岐川さん、これはどういう・・・!」
慌ててマリアの元へ駆け寄れば、彼女の呼吸は正常であることに安堵する。
が、その瞬間、重く鈍い衝撃が小城の横腹を襲い、耐え切れずに呼吸が漏れる。
「が、はっ・・・」
壁に当たって痛みで蹲ると、わずかに見える相手の足元は先程の多岐川のものではない。誰かを確認するために上を見ようとするとことを防ぐようにその足から先程衝撃をあたられた横腹を蹴られ、その足が体の中央・・・ 自身をどうにか気絶させようとみぞうちを狙っているのだと理解する。
「チッ! 流石に護身術を治めてるこいつはなかなか気絶しねーな」
「それならキッチンにあったこれを使いなさい」
(多岐川さんと真木目さん、か? しかし何で殴られたかわからんが、あばらが
以前、肩を殴打された時よりも激しい痛みと嫌な脂汗が流れ、完全に不意を打たれたこともあって状況が上手く把握できていない。その上、今回はマガドリ様という救いの手もない。
(室内だからカラスも呼べない・・・! でもどうにか、マリアさんだけでも・・・)
彼女が人ではないと聞いたにもかかわらず脳裏に最初に浮かんだのはそんなことで、二人にばれないようにじりじりと体を動かしていると真木目がそれに気づいてしまう。
「っ!? こいつ、まだ動きやがんのか!
動くんじゃねぇよ! この殺人鬼どもが!!」
「意味が、わからないんですが・・・」
(殺人鬼『ども』? まさか、俺とマリアさんが疑われてるって言うのかよ・・・! くそっ、どうする? どうすれば・・・)
「しらばっくれてんじゃねーよ!」
頭を回してどうにかしようとするが、言葉と共に見舞われた蹴りが顎に当たったことで完全に思考能力を奪われる。
「? 突然動きが止まったな」
「顎にでもあたったんじゃない?
覚醒されたら面倒よ、多分明智さんを眠らせるのに使ったこの睡眠薬も飲ませておきましょう」
「そ、そうだな」
意識が朦朧とする中で頭を持ち上げられる感覚と何かを口に入れられ液体で濡れる感覚があり、小城はそこで完全に意識を手放すこととなった。
小城のピンチだっていうのに、書いた瞬間から『あっ、こいつら終わったな』と思う不思議。
小城のことが大好きな面々にいろんな力がありすぎるせいで、あらゆる方向で加害側をどうとでも料理できちゃう恐怖。