小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

七話目ー。



蠟人形城殺人事件 ⑦

「小城さん・・・! 小城さん!」

 

「うっ・・・ マリアさん、体は・・・?」

 

「っ・・・! ワタシよりもあなたの方がよほど・・・」

 

「ようやく目を覚ましたのかよ、小城さんよぉ」

 

 小城の言葉に泣きそうになる彼女に、意識が戻った小城の前に多岐川と真木目が立つ。

 

「意識を失ってたのはあなたのせいなんですけどね? 真木目さん」

 

「っ! チッ!! あんたのそういう口が回るところが俺は前から大っ嫌いなんだよ!

 あんたが目の前に立つとまるで俺がバカみてぇで、ライター仲間の中にいたってあんたの話ばっかりしやがるし、探偵にトレジャーハンターなんて欲と人間の汚さの象徴みたいな仕事をしてやがる癖にさらに慈善家だぁ? 気持ちわりぃんだよ!

 金回りがいいからって金のない奴を見下すのは気持ちいいかよ! なぁ!?」

 

 彼に対して抱いていた感情の全てを吐き出すように、両手を縛り付けてある小城の襟首を掴んで壁に押し付けながら立ち上がらせる。

 

「だから俺は前からあんたを信用ならないと思ってたし、今回だってずっと怪しいと思ってたんだよ! ずっとうすら笑いを浮かべて、なんでもわかってるみてぇな面しやがってよぉ!!」

 

「真木目くん、個人的な感情が漏れすぎよ。

 今はこの事件について、でしょう?」

 

 真木目を諫めながらも行動を止めるつもりはないらしく、多岐川は鋭い目を小城とマリアへと向けていた。

 

「小城さん、あなたはずっと冷静過ぎたのよ。

 この城から出られなくなった時も、最初の殺人が起こった時も・・・ そして、坂東さんの死を目の当たりにしてからもね」

 

「フッ、それが犯行を起こす根拠になるとでも?

 有名な推理作家から飛び出たとは思えないような随分とお粗末な発言だと、自覚はおありで?」

 

 襟首を掴まれたことによって脂汗が出そうになる、自然と呼吸が荒くなる。だが、そんなことを今ここでこの二人に知られるわけにはいかない。誤魔化すように口からは皮肉ばかりが出ていき、挑発するように真木目を見る。

 

「あなたもですよ、真木目さん。

 まさか犯罪ルポライターであるあなたが、一切の証拠も根拠もなく、現状では罪には問えない僕とマリアさんの意識を奪って部屋に運び込む・・・ これが何の罪になるか、ご存じありませんか? この事実が知られたら、あなたこそがお仲間であるライターさんの良いネタになってしまいますよ?」

 

「―――っ! うるせぇ!!

 うるさいうるさいうるさい! もう黙れよっ!!」

 

 壁に頭を叩きつけられるが、顎を引いたおかげでそこまでではない。だが、流石に振り上げられた拳は避けることが出来ず、小城は再び床に転がってしまった。

 

「ハハッ、なんですか。癇癪を起こす子どもみたいに。

 まさか何の証拠もないのに僕らを、あなた方の考えだけで犯人だと決めつけたのは図星ですか? これはお笑い種だ!」

 

「こ、小城さん・・・」

 

 わざとらしく笑う小城にマリアは止めようとするが、小城は彼女にだけ見えるように指先だけを入り口の方へと向ける。

 

「新進気鋭の犯罪ルポライターと著名な推理作家が二人揃って、妄想だけで罪のない人間を拷問部屋へ監禁・・・ ハハハハハハハハ、最高のネタじゃないですか!! 記事としても、作品の一場面としても最高に面白い! このネタは一体いくらで売れるでしょう?」

 

 狂ったように笑う小城に対し二人の顔は青ざめていき、どうにか体を起こした彼は二人へこれまでと変わらぬ声で問いかける。

 

「それで? 次はどうなさいますか? そうですね、そこにあるリチャードさん殺害に使われたアイアンメイデンでも使いますか? どうやらこの城にある凶器は皆、刃引きがされていないようですし、多分ここにある拷問道具は正しく使用できるんじゃないでしょうか?

 ですが、そうするのなら・・・ 私が仮に犯人だったとしても、そうでなかったとしても、あなた達も相応の罪に問われる覚悟を持ってするといい」

 

(体が痛い。さっき襟首を掴まれたせいか、まだ息が苦しい・・・ 頭が回らなくて、うまくマリアさんの脱出のタイミングが掴めない! くそっ、どうする!?

 それとも・・・ ここで『俺がレッドラムだ!』と叫んで、無理にでも隙を作るか? 駄目だ、それはあまりにもリスクが高い)

 思考を巡らせる小城にマリアが覚悟を決めたように入口へと走り、縄で縛られたままの体を勢いよくぶつけて扉の外に飛び出して叫ぶ。

 

「ダレカ・・・! 誰か助けてクダサイ!! 小城さんが、小城さんがケガをしています!!」

 

「あっ・・・! あの女!!」

 

 真木目が慌てたがもう遅い。彼女の言葉を聞いて近くで作業していた南山が駆け付け、マリアの悲鳴じみた声に小城が部屋にいなかったことで城内を探し回っていた金田一らもすぐに集まってきた。

 

「マリア様、いったい何が・・・ これは」

 

 マリアの傍に駆け寄った南山が、彼女が出てきた拷問部屋を見て言葉を失う。何事かと金田一ら三名も視線を向ければ、そこには縄で縛られ満身創痍な小城と小城を囲む真木目と多岐川の姿だった。

 

「小城さん!?」

 

「所長!? なんでそんな怪我してんすか!!

 何やってんだよ、あんた達!」

 

 小城の姿を見て驚き、二人の正気を疑うような金田一に対し、明智は事態を察したように突き刺さるような冷たい視線を二人に向ける。

 

「まずは暴行・・・ いや傷害罪と監禁罪、それ以外はなんでしょう。

 何かありますか? 小城くん」

 

「いえ、そんなところじゃないですかね」

 

「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃねーから!!」

 

「小城さん、すぐほどきますね!」

 

 二人の冷静過ぎるやり取りに金田一がキレ、美雪によってすぐに縄がほどかれる。

 

「ふぅ・・・ 助かったよ」

 

 さっき絞められた襟首を緩めて、小城はようやく呼吸を取り戻す。心配そうに見つめるいくつかの目を心配させぬように、ハンカチで顔だけを拭いて無傷だとばかりに立ち上がる。

 

「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫。

 お二人はちょっとばかりナーバスになってしまって、僕を犯人だと勘違いして自白させようとしたんですよ。まぁ少しばかり乱暴的ではありましたが」

 

 苦笑しつつ簡単に状況を説明すると、心配していた目が視線の先と目の色を変えて二人を睨みつける。

 

「これで気は済みましたか? お二人さん。恐怖と不安に駆られてしまったからと言って、何の証拠もない相手にこんなことしては駄目ですよ。

 僕は仕事柄多少荒事に慣れているから構いませんが、ただの監察医であるマリアさんまで巻き込むのはやめてあげてください」

 

「小城さん・・・! ソンナに急に立ち上がっては!」

 

 医師であり、怪我をする瞬間を見ていたこともあってマリアは慌てるが、小城は『大丈夫』とばかりに笑って部屋に向かってしまう。

 

「待ってクダサイ、手当を・・・! せめて怪我の状況だけでも確認すべきです! 小城さん、待っテ! 小城さん!!」

 

 監察医であるマリアが慌てて追いかける姿に金田一と明智、エドワードが視線を交わし、金田一が美雪の背中を押した。

 

「わり、美雪。俺も後から行くけど、所長とマリアさんとこ行っててもらっていいか?」

 

「う、うん・・・」

 

 金田一に促されて場を離れる瞬間、美雪はあることに気づいて立ち止まる。

 

「あら? あの人、今日はしてない」

 

 

 

 

 

「~~~っ!」

 

 部屋に入って、あばらを刺激しないようにそっとベッドに横たわり、痛みの発信源である部分に手を添えて声を出さずに呻く。

(流石に普通に痛いんだよなぁ・・・)

 拷問室に残った金田一らのやり取りも見届けたい気持ちはあったが、流石に一切痛みの表情を出さずにあの場にいるのは不可能だった。

 

「ここを出れたら、所員にばれずに病院か・・・ 難易度が高い」

 

 先のことを考えてげんなりとしつつ、スッと目を細めてしまう。

(もしこの事件に名前をつけるならそれこそ蝋人形城、殺人事件・・・?)

 

「あっ・・・」

 

 脳裏に浮かんだ名称が、原作におけるある事件と繋がった。

(蝋人形城殺人事件、蝋人形城殺人事件かぁ~。今更思い出してもさぁ・・・)

 ベッドに仰向けになってそのまま目を隠すように手の甲をあてていると、控えめなノックの音が響いた。

 

「小城さん、私です! 七瀬とマリアさんです」

 

「あ、あぁ、すぐ開けるよ」

 

 追いかけられていたことも気づいていなかったらしい小城は痛む体を起こして扉を開けると、そこには先程と同様に心配そうな表情の二人がいた。

 

「僕は大丈夫だから・・・ 「大丈夫ではアリマセン! 口元の消毒も、腹部の怪我もここでは大したことはデキマセンが固定を・・・! せめて、せめて冷やしてクダサイ」

 

「マリアさんから詳しく聞きました。

 はじめちゃんに注意するなら、小城さんも自分のお体を大事にしてください。お願いします」

 

「うっ・・・」

 

 女性二人の悲しそうな表情に弱ってしまい部屋に招き入れて、大人しく応急手当てを受けていると、金田一と明智も部屋に顔を出した。

 

「マリアさん、小城くんの怪我の程度は?」

 

「あばら骨にヒビが入っています。通常の治療同様にコルセットなどで固定して安静にし、痛みがひどい場合は鎮痛剤を処方するのですが・・・ それはここから出てから病院に受診してください」

 

「つーわけで、もう所長は俺らが呼ぶまでこの部屋出ないでください!」

 

 額に怒りマークを張り付けた金田一が腕を組んで言われ、小城は溜息をついて『ハイハイ』というと、金田一は室内をキョロキョロと見渡した。そして、こっそりと小城に耳打ちする。

 

「つーか、ミコトちゃんはどーしたんすか? 今日はまだ一回も見てないんですけど」

 

「朝早く、事務所に向かって飛んで行ってくれたんだよ」

 

「でもそれで所長が危ない目に遭ってたら、駄目じゃないっすか!」

 

 それを聞いて金田一は納得しかけたが、小城の耳元だというのに大声を張り上げてしまう。

 

「君さぁ・・・ 感情的になった時に周りが見えない癖、本当にどうにかしてくれないかい? あばらはヒビで鼓膜は破れるとか、どっちが重傷かわかったもんじゃないから」

 

 それは言うまでもなく、あばらの方である。

 鼓膜損傷は自然治癒で長くて十日、手術をすれば三十分。あばらのヒビは完全完治まで長くて二、三か月かかり、これは怪我の程度としては重傷に当たるものである。

 

「ともかく、君はしばらく安静にしてください。

 治療費はこのツアーに参加を打診した私が払うので、無事に戻れたら君には最高の医療を約束します」

 

「承知しました・・・」

 

 明智の雰囲気から断ることが出来ないと判断した小城は諦めて素直に頷き、金田一らは再び城内の調査を行うとのことで部屋を出ていった。

 が、何故かマリアが部屋に残っている。

 

「マリアさん、彼らと一緒に行かなくていいんですか?」

 

「小城さん、アナタがお二人を挑発していたのは・・・ ワタシに矛先を向けさせないため、ですよね?」

 

「一般的で常識的な思考を持っていたら、女性をかばうのは当然でしょう?」

 

「デスガ、あなたは私がヒトではないことを知っています。

 確かにワタシは傷つきますし、痛みも感じるように見えるコトデショウ。ですが、そんなものはただのフリでしかありません」

 

 彼女の言葉に小城は苦笑し、傍にいる彼女の手を握った。

(人じゃない何か、か・・・ マガドリ様も来たばかりの時、今も時々不思議そうな顔をするけど)

 

「今ここにいる、人間にしか見えないあなたを『人間じゃないからかばわない』なんて出来ませんよ」

 

 握っている彼女の手は白く、やわらかく、小さくて、人と変わらず温かい。

 

「傷つき、痛みもあって、恐怖も感じる。僕が傷ついたことでそんな表情をしながら涙を零して、言葉を紡ぐあなたが人間以外の何かなら・・・ 恐ろしい事件を起こしてしまえる人間の方がよっぽど化け物じみてる」

 

 これまでかかわった人間が起こす筈だった事件や、起こってしまった事件を思い出しながら、最後にさっき真木目に捕まれてしまった自分の首元に触れる。

 

「あなたはこの城とフリードリヒ家を大切に想い続けた家妖精(シルキー)で、十九歳でドイツ警察で監察医となった才女であるマリア・フリードリヒだ。それでいいじゃないですか」

 

「ワタシは・・・ マリア・フリードリヒ?」

 

 不思議そうな目をして瞬きを繰り返し、マリアは興味深そうに小城を見つめる。

(なんだろう、この視線の向けられ方に酷く既視感がある)

 誰に向けられたかをイマイチ思い出せないが、小城が握っていたマリアの手が今度はマリア側から優しく握られた。

 

「アタタカイ、ですね。ヒトの温もりは」

 

「マリアさんの手も同じですよ、人の温もりを持っている」

 

「同じ・・・ 同じ、ですか」

 

 嬉しそうな、泣きそうな顔をする彼女を見ていると、マリアは小城を優しい視線を向けた。

 

「小城さん、少し横になってクダサイ。

 先程もイイマシタガ、あばらの骨折は絶対安静が基本デス。鎮痛剤についてはこの後南山さんに聞いてみますので、睡眠という体を休める行為の方がよろしいかとオモイマス」

 

「えぇ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」

 

 体を横にしてベッドに潜れば、マリアが部屋を出ないので視線を向けるとそっと小城の目元を彼女の手が覆った。

 

「ワタシもあなたが眠ったら部屋に戻りマス。

 でも、それまでは・・・ 傍にいさせてください」

 

 まるで願うように呟かれた言葉を強く断ることも出来ず、人の温もりを感じながら小城はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 その間に金田一らは蝋人形が零した謎の涙について考えたり、金田一と明智、美雪三人で密室についてや坂東の人形がどうやって運ばれたかについて意見を交わし、何気なく座った空いていた人形の椅子についた塩によって彼は全ての合点がいった。

 

「謎は――― 全て解けた!!」

 

 




小城が同世代の男に嫌われるの例、二人目(;^ω^)
正直、こんだけ出来る同性ってかなり目障りだとは思う。


人外にも愛される男 ――― 小城拓也!


ロボットとか人外が出てくる作品でもたまに出る論点だけど、『人間に見える』ってだけで躊躇したり、庇ったりするのは自然というか、一般的な感性を持っていたらしてしまうものではないかと思う。
感情があって、感覚もあって、見た目も人と変わらない。
それはもう人なのよ。
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