小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

八話目ー。
事件としてはこの話で終了、九話は後日談となります。


蠟人形城殺人事件 ⑧ (終了)

「よし、誰もいないな」

 

 三日目の十一時過ぎ、その人影は一人で大暖炉の間に入り、扉を閉めてからしっかりと鍵をかける。

 

「これで誰も入ってはこれまい」

 

 並んだ蝋人形を眺めながらその人影はまっすぐ暖炉へと向かい、燃えかすと灰だらけの暖炉の中へと何かを探すように手を動かす。

 

「・・・!? な、ない! 確かにここにある筈なのに!」

 

「いくら探しても無駄だぜ?」

 

 慌てる人影に金田一は声をかけ、相手に見せるように探している何かを握る拳を見せつける。

 

「あんたが探してるモノは、ここにあるよ!」

 

「き・・・ 金田一!」

 

 人影は驚愕に染まるが金田一は構うことなく、その人影がコレを取りに来ることはわかっており、ずっと待っていたことを告げる。

 

「そんなバカな・・・ この部屋に人が隠れるスペースなどない! 誰もいないのを確かめて鍵をかけたのに・・・!?」

 

「まだわかんないかな?

 俺はあんたと同じトリックを使って、この部屋に潜んでたんだよ!」

 

「!!」

 

「無駄だ!! 部屋の外には全員集まってる! あんたはもう逃げられない!」

 

 咄嗟に金田一を対処しようと火掻き棒を掴むが、金田一がそれを言葉でのみ牽制する。

 

「さぁ、始めようじゃないか。Mr.レッドラム!

 蝋人形城ミステリーナイトの『解答編』をね!!」

 

 部屋の鍵が開けられたことによって次々と他の面々が入室し、Mr.レッドラムだと判明した人物に驚く者がいる中で、このミステリーナイトが当麻 恵とリチャード・アンダーソン、坂東 九三郎の三人を殺すためだけに長い時間をかけて作り上げた綿密な犯罪計画だったことを告げられる。

 

「人間の心理を巧みに利用し、完全犯罪をもくろんだこいつが仕組んだ第一の罠。

 それはある暗示をかけることだった」

 

「暗示?」

 

 それは『人形が殺された』ミステリークイズから始まり、その直後に人形そっくりに殺された当麻本人が自室で発見される。これによって現場に立ち会った誰もが『犠牲者は人形そっくりに殺害され、死体はその人の部屋で見つかる』という法則を無意識に認識し、第三の事件までこれが続いたことによって、完全にこの城で起こっていることはそういうことだと刷り込まれてしまったのだ。

 

「待てよ、おい! この人にゃ残る二つの事件で、完璧なアリバイがあるじゃないか!

 法則だの、刷り込みだのよりまずそれを――― 「いや、この刷り込みこそがその後の連続殺人において、犯人が鉄壁のアリバイを手にするための重要な種まきだったんだ」

 

 次に語られたのは第二の事件であるリチャード・アンダーソン殺害について、西の塔の入り口である小暖炉の間には鍵がかかり、扉を開いた先には胸元に杭が刺さっている蝋人形。法則によってすぐに彼の死を確信した金田一らは彼の部屋に走る。

 だが、それこそが犯人の思惑だったのだ。

 

「『犠牲者は人形そっくりに殺害され、死体はその人の部屋で見つかる』

 そう連想させ、俺達を犠牲者の部屋に向かわせることで、犯人は一秒でも早くあの小暖炉の間から俺達を追い出そうとしたのさ!」

 

「ど、どうしてそんな・・・?」

 

「理由は簡単さ、まさにあの時小暖炉の間に犯人がいたからだよ!」

 

「なっ!?」 「犯人があの部屋に!?」

 

 戸惑う真木目と他の誰かに、南山が控えめにどちらの暖炉の間にも隠れるスペースなどないと告げるが、金田一は『犯人は隠れずに堂々と目の前にいたんだ』と言った。金田一の言っていることがわからずに美雪が首を傾げていると、明智が気づいたらしく呟く。

 

「人形か!」

 

「その通り! あの時、胸に杭を当てリチャードの死を俺らに伝えた蝋人形こそ、人形に化けた犯人そのものだったんだよ!」

 

「「あの蝋人形が!?」」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。金田一さん!」

 

 真木目と美雪が驚く中、ストップをかけたのはエドワードだった。

 

「最初から順を追って、説明してくれませんか!?」

 

 彼の申し出に応えるように説明を始め、金田一は犯人が拷問室でリチャードを殺して運び死体に杭を打ち込み、小暖炉の間で中から鍵をかけてからマントを羽織り、蝋で作ったリチャード人形のマスクをかぶる。そして、東の塔にのみ放送を流せば、あとは金田一らが駆け付けるまで蝋人形のフリをする。そして、東の塔の全員が通過したのを見計らって変装を解き、衣装などは全て暖炉に投げ入れることで証拠隠滅は完了。あとは物置に隠しておいたリチャード人形に役目を任せて、本人は事件の場に合流をするだけ。

 

「この人があの時、東の塔のメンバーの中で一番最後に現れたことは覚えてるよな?」

 

「なるほど・・・ それでリチャード人形には杭が刺さっていなかったのか」

 

 それも全て自分が殺された人形に化けるためであり、拷問室で殺したリチャードをわざわざ部屋に運んだのも法則をより強固にするためだったのだ。

 それらの事実から明智が照明が外され、蝋燭やランプに取り換えられたことに納得し、揺らめく炎が止まっているものを動いているように見えてしまうものであり、それらは犯人が人形のフリをするための目くらましだったのだと語る。そして同時に、蝋のマスクを溶かす際の香りを誤魔化すための巧妙な舞台装置だったのである。

 

「なるほど・・・ そうなると僕達を出迎えた兵士達と違って、この蝋人形達が雑な作りだったのも頷ける。

 人形を死体と見間違えることのないように、そして簡単に持ち運ぶことが出来るようにされていたってわけか」

 

 マリアの隣で支えられるように立っていた小城が納得していると、金田一も力強く頷く。

 

「そう。このバルト城全てが、この殺人計画を成功させるために計算し尽くされたものだったんだ!」

 

 人を三人殺すためだけに、城を丸々一つ使った壮大な計画。

 入念な準備と万全な下調べ、選りすぐられた招待者達と彼らの頭脳があったがゆえに互いを疑い、混乱を極めた事実。

 

「確かにここまでこの計画は完璧だった。このまま終わってたら、完全犯罪としてあんたはまんまと罪を逃れてたかもしれない。しかし、あんたは最後の最後でミスを犯した。

 その小さなミスがこの犯罪計画に穴を開けたのさ!」

 

「小さなミス・・・?」

 

「この指輪だよ!」

 

 そう言って金田一が見せたのは、小さな宝石がついた細身の指輪だった。

 

「こいつをあんたは、誤って暖炉に放り込んじまったんだ! そうだろ? Mr.レッドラム!! いや ――― 多岐川 かほる!

 あんたこそこの呪われた城の主、Mr.レッドラムだ!」

 

 そうして返すように、指輪を彼女の左手の薬指へと通した。

 金田一が力強く指さしたところで、未だに信じられないとばかりにエドワードが『これは彼女のものなのか』と美雪に尋ねると彼女は間違いないと断言する。

 左手の薬指につけられるのは結婚指輪。これは男女ともに広く知られている事実なのだが、結婚指輪の前にこの指にはめられる指輪『婚約指輪』というものがある。

 この婚約指輪は今でこそ形式上のものだが、古くは夫に不幸があった時に生活できるだけのお金に変えられるだけの価値あるもの ――― 一般的には給与三か月分 ――― を贈ることが一般的だった。

 それらの意味をなくした今は婚約の際に贈る宝石のついた指輪という認識であり、美雪は相応の年齢の彼女の指にその指輪がされていたことに驚き、よく覚えていたのだ。

 

「面白い推理ね・・・ 確かに一応の論理性はあるわ、今まで聞いたところまではね!

 だけど、私が犯人なら坂東さんの人形はどうやって運んだのかしら? 私達は明智さんの部屋に駆けつけた後で、坂東さんの人形は運び込まれたのよ?」

 

 多岐川の反論にエドワードが同意し、自分には完璧なアリバイがあり、推理に穴が開いたことを指摘する。だが、そんな反論に対しても金田一はびくともしなかった。

 

「今から暴き出してやるぜ! あんたが俺達と一緒に居ながら坂東の人形を運び込んでみせた、マジックのからくりをね!!」

 

 その言葉と共に金田一は第三の事件が起きた時のことを一つずつ整理していき、レッドラムの放送によって皆が大暖炉の間に駆けつけ、首が切断した明智人形を発見して法則通りに皆が明智の部屋の前に集まった。そして、明智の無事を確認して大暖炉の間に戻った時、坂東の人形が消えたことに気づいたのだ。その結果、大急ぎで坂東の部屋へと向かえば、室内には吊られた人形と自殺に見せかけた坂東の死体がぶら下がっていた。

 普通に考えれば、あれだけの短時間で坂東の人形を移動させることは不可能。だが、トリックを使えば不可能は可能となる。

 彼女はリチャードの殺害の際と同様に、今度は坂東の人形に化けていたのだ。

 

「そ、それじゃぁ・・・!?」

 

「あぁ、坂東殺害のシナリオはリチャード殺害と同様、この『人形と入れ替わるトリック』を応用したものだったんだ!

 坂東殺害のシナリオはこうさ!」

 

 彼女は坂東を昨夜のうちに殺害して天井に吊るし、坂東人形も同様に彼の部屋でぶら下げる。次に明智が殺害されたと誤認させるために明智人形の首を切断して転がしてから、あらかじめ用意しておいた坂東人形のマスクとマントを被って人形のフリをする。あとはリチャード殺害の時と同様に全員が通り過ぎたのを確認してから衣装一式を脱ぎ捨てて暖炉で燃やし、あたかも自分も騒ぎに聞きつけたように姿を現せばいい。

 

「あらかじめ睡眠薬か何かで眠らせていた明智さんの前にね!」

 

 彼女は全く同じトリックを使うことでうまくアリバイを成立させ、二人の殺害を成功させたのだ。

 

「デモ、一体どうやって人形が前もって運ばれていたことに気づいたんデスカ?」

 

「人形の涙さ!」

 

「人形の涙?」

 

 換気扇が壊れたことによってサウナ化した大暖炉の間にあった人形達は涙を(白目の部分が)流していた(溶けていた)のに対し、坂東の部屋につられていた坂東人形は涙を流していなかったのだ。

 

「それを見た時にふと思ったんだよ。

 ひょっとしたらこの人形は、部屋がサウナ化する前に坂東の部屋に運ばれたんじゃないかってね!」

 

 もはや反論の余地もないとばかりに多岐川は悔しそうに俯き、金田一はさらに彼女が『人形と入れ替わるトリック』を成功させるためにいくつもの巧妙な準備をしたと語り、最初の晩に行われた仮装パーティもその一環だという。

 

「なるほど! 人形のマントですね?」

 

「その通り!」

 

 明智の言葉に金田一が頷き、小城も納得する。

 

「だから、あの二人だけマントを纏っていたというわけか・・・ 本人に着させるものがそうだったかはどうあれ一目見ただけなら同じ衣装だと誤魔化しやすい、ただ羽織るだけで済む簡単な作りの物。そして、全員に衣装着させてテーマを与え、催しの一環ということにしたことで違和感すら払拭させた。

 これが殺人でさえなければ、完璧な舞台づくりだ」

 

「あぁ、彼女はマントという違和感を木の葉を隠すために、仮装パーティという森を作り上げたんだ。

 けど彼女は、このトリックを実行する中で大きな失敗を犯した。

 それがあんたのその指輪だよ」

 

「!!」

 

 言いながら金田一は蝋人形達は全員に手袋をつけていることを示し、それは彼女が人形のフリをしている間に正体がバレないようにするためのもの。だが、彼女は坂東人形から変装を解く時に慌てていた多岐川は手袋と一緒に指輪も引き抜き、暖炉の中に放り込んでしまった。そして、指輪の存在を教えてくれたのは婚約指輪のことを知っていた美雪だったのだ。

 

「フッ」

 

 これほどまでにトリックを明かされ、アリバイを崩されて尚も彼女は『うっかり暖炉に落としただけ』と言い張り、『物的証拠を出せ』とまで口にする。

 

「こんな場面で『私が犯人でした』なんてホイホイ自白するのは、三流ミステリーだけよ」

 

 言いたいことは言ったとばかりに部屋から出ていこうとする彼女に、金田一は物的証拠があると言い、かつて坂東人形が座っていた椅子を指さした。

 

「その椅子に証拠が?」

 

「そりゃ一体? こ、これは! 椅子の上に白い粉みたいなものが・・・!!」

 

「そいつは塩だよ」

 

「しおぉ?」

 

 真木目が意味がわからんとばかりに驚いていると、金田一は彼女の計画のもう一つの誤算は壊れた換気扇であることを告げる。換気扇が壊れてしまったことにより、常に暖炉に火がついてた部屋の温度はあがってサウナ化。それでも彼女は人形のフリを続けたが、汗をかくことだけは防ぐことが出来なかった。その結果、椅子の上には塩が結晶となって残ったのだ。

 

「なぁ明智さん、この塩の結晶から犯人を特定することは可能だろ?」

 

「えぇ。推理作家のあなたならご存知かと思いますが・・・ 汗の成分からは血液型などいろいろと判別することが可能です。きっと犯人が誰なのかを証明する、重要な物的証拠になってくれる筈ですよ」

 

「もういくら言い逃れをしても無駄だぜ? この城を出れば、あんたは警察に身柄を拘束される。

 バルト城ミステリーナイトもこれで終わりだ! Mr.レッドラムの敗北をもってね!!」

 

「くっ・・・ くくくく、そうよ!」

 

 金田一の宣告に、多岐川は笑いだす。

 

「当麻も、リチャードも、坂東も、あの三人は私が殺してやったのよ!」

 

「あの三人は、あなたとどういう関係だったんですか?」

 

「――― 仲間よ」

 

 金田一の問いかけに、多岐川は一瞬だけ言葉に迷ったが結局吐き出した。

 

「え?」

 

「大学の頃、あの三人と同じ夢を追った仲間同士だった・・・

 でも・・・ あいつらは私達を裏切った!! 二十数年前のあの日に―――」

 

 語りながら彼女は体を、手を、声を震わせ、あの日を思い出しながら憎々しげに顔をあげていく。

 

「私とあの人は・・・ ここで奴らに殺されたのよ!」

 

 

 

 そこから語られたのは二十数年前、彼女が大学一年の頃のことだった。彼女は推理小説好きが高じて『犯罪研究会』というクラブに所属し、そこに彼ら三人も所属していたという。そしてもう一人 ――― 彼らのリーダーであり、彼女の恋人だった狭山 恭次がいた。

 彼は多くの殺人計画や爆破計画、トリックなどを考えており、それらは実現可能な完全犯罪の計画書だという。だが、それらはあくまで机上の空論であり、実行する気もない空想だと言いながら、『誰かが自身の計画を実行したら完全犯罪の実現が出来る』とまで口走っており、『完成された犯罪は芸術だ』というのが口癖だった。

 ある時、彼は研究会の皆にある計画を持ち掛けた。たった五人で三億円もの大金を強奪するという壮大なものであり、彼の綿密な計画と大金に目が眩んだ彼らは参加を表明。主犯格である彼女と狭山は自身の素晴らしい作品の完成に心を躍らせた。

 これこそが世にいう三億事件であり、彼らは狭山の計画に従って行動し見事三億円を手にすることに成功させたのだ。

 だが、最終目的地であり隠れ家としたこの場所で悲劇は起こった。

 狭山は民事の時効である二十年が過ぎるまで金は分けず、自らの完全犯罪(芸術)が壊されることを拒んだ。その結果、二十年も待てず、三億円の全てを独り占めするんだろうと思った三人によって狭山と多岐川は三人に襲われ、建設中だった現場の穴の中に埋められたのだ。

 

「でも、私は死ななかった・・・」

 

 狭山と共に穴に埋められたにもかかわらず、彼女は奇跡的に穴からはい出して通りかかった登山者によって助けられ、事件前後の記憶を失っていた。半年後に記憶が戻った時には全てが遅く、狭山が埋められた場所にはバルト城が建ち、その手には計画が成功した日に彼が贈った婚約指輪だけが輝いていた。

 そして、彼女は誓ったのだ。

 これまでの自分は彼と共に死に、あの三人に復讐することが全てとし、彼らを断罪するための処刑人になるのだと。

 顔と名前を変え、狭山が書き溜めたメモから推理作家としての地位を築いて、復讐する機会をうかがった。

 

「で、でも、何故すぐに復讐しなかったんだよ? どうして二十年以上も待ったんだ?」

 

「フッ、あいつらを幸せの絶頂から、どん底に叩き落としてやりたかったからよ。

 手に入れた金で社会的地位を築き殺人の時効が成立して、あの連中が安心しきってるその時をね!」

 

 そうして待っている間に彼女はこの城が売りに出されていることを耳にし、『チャンスだ』と思ったのだ。地面を掘り起こして出てくるのは狭山の死体だけではない、三人の名前も明記された計画書が出てくる。奴らがそれを恐れていることを、彼女は誰よりも理解していた。

 

「この城の所有権をエサにあいつらを一堂に集め、しかも恭次さんが作った奴らを血祭りにあげることが出来るのよ!」

 

 そう堂々と言い切った彼女を小城は心底軽蔑した目で見つめ、吐き捨てる。

 

「くだらない」

 

「なんですって・・・? あなた今、なんて言ったの?」

 

「くだらない・・・ あぁ! くだらない! 心底くだらない!!」

 

 多岐川に聞き返されたことによって、小城はさらに大きな声で一歩ずつ彼女に近寄りながら苛立ちや怒りを露にして吐き捨てる。

 

「しょ、所長?」

 

「三億円なんて大金に目が眩んで、犯罪計画に乗っかったあの三人も!

 完全犯罪だとか、芸術だとかくだらないことを言って、その結果三人に殺されることになったその男も!

 今なお犯罪を芸術だと口走り、これだけの人間を巻き込んで殺人起こしたアンタも! 

 どいつもこいつもくだらない!!」

 

「なんですって! あなたなんかにあの人の! 私達の芸術がわかる筈・・・ 「あぁ、わからないとも! わかりたいとも思わない!! お前らにとってお遊び同然の計画で多くの人間を狂わせて、挙句仲間割れして三人は金を得て人生順風満帆。かと思ったら、二十数年の時を経て惨殺されて惨めな終わりを迎えた! 片や芸術を語った男は誰にも知られず建物の下に埋まり、あんたは人生を全部捨てた? ハッ、どいつもこいつも随分と滑稽な終わりだ」

 

「小城くん、やめたまえ」

 

「いいえ、やめませんよ?」

 

「あんたに、あんたに何がわかるのよ!」

 

 そう言って彼女が銃を取り出したことで、小城は一切の容赦なく彼女の手首をつかんで強く握りしめる。

 

「何もわかりませんよ。僕は加害者ではなく、被害者の立場だったんですから」

 

「なん、ですって・・・?」

 

「あなたが憎んで殺した連中のように金を求めた人間が、仲のいい兄妹を誘拐した。

 片親だった父親は金を用意し、なんとか二人とも助けようとしたが・・・ 生き残ったのは少年一人」

 

 ぎりぎりと力を込めた結果、彼女の手から拳銃が落ち、小城は落ちた拳銃を遠くへ蹴り飛ばす。

 

「父と妹を失った少年の人生は、そこで一度崩壊した。

 金なんかを欲し、完全犯罪だとばかりに年端のいかない子どもを狙った犯罪者のせいで!」

 

 小城は金目当ての人間が、ふざけて犯罪を行う人間が、欲望のために誰かを貶める人間が憎くて憎くてしょうがないのだ。

 自分の芸術の完成を掲げて、多くの人々を嘲笑うように実行した狭山も。それに追随した多岐川も。

 金に目が眩んで仲間と呼び慕った二人を手にかけたあの三人も、小城からすればあの男と何も変わりはしないただの犯罪者に過ぎない。

 

「僕からすればあなたも殺された三人も何も変わりはしない。ただの犯罪者の、くだらない仲間割れだ!」

 

 小城からしたら全てが自業自得であり、悲劇に浸って復讐者を気取った愚か者なのだ。

 

「小城くん、そこまでです」

 

 そこまで言ったところで明智が二人の間に割って入り、いつの間にか多岐川の背後に回っていた真木目と南山が彼女の両腕を抱えるようにして取り押さえ、小城の両腕もまた明智とエドワードが掴んでいた。

 

「あんな奴らと一緒にしないで!

 私は・・・ 私は! あの人が作った素晴らしい芸術犯罪を最後までやり遂げるために・・・!」

 

「・・・違う!」

 

 いまだに犯罪を芸術だと口走る彼女へ向かって小城が何かを叫ぶ前に、金田一がそれを否定した。

 

「犯罪は『芸術』なんかじゃない!」

 

 金田一の言葉が癪に障ったのか、彼女は動きを止めて、彼から続く言葉を待つ。

 

「あんただってもう気づいてる筈だ! 紙の上に書かれた計画と、現実の犯罪がまるで違うものだってことに!

 確かに昔、あんたの彼氏が作った現金強奪計画は完璧だったかもしれない! だが、かつてそれを実行したあんたらにいったい何が残った!?」

 

 一つ、一つ、また一つ。彼の言葉が正しく、彼女へと向けられる。

 

「仲間の裏切りと、恋人の無残な死と、憎悪だけじゃないか!」

 

 先程、小城が彼女へと向けた暴力的な言葉じゃない。

 本心から誰かを思い、単なる否定ではなく、犯罪に手を染めた彼にすら届けと願う救いの手。

 

「今のあんたにしたってそうさ、二十年以上も人を憎み続けて幸せだったのか!? 復讐を遂げて満足したのか!?

 どんな綺麗事で飾ろうとしたって、犯罪は悲劇しか生まないんだ!」

 

「そんなこと・・・ そんなこと、わかってるわよ」

 

 そう言いながら、彼女は力を失ったように膝をつく。

 

「あの人を失った日からずっと・・・ ねぇ、恭次さん」

 

 声をあげることなく涙を零し、あの日に失った大切な人の名を呼ぶのだった。

 

 




珍しくあらぶった小城。でも、彼の過去を考えると芸術だとか、金に目が眩んだこの面々はどうしても受け付けないと判断。
金を欲した犯罪者のせいで大切な二人を奪われた小城にとって三人は軽蔑すべき存在だし、それを芸術だとか言って主犯になった二人も同じなのよ・・・

キャラ説明~

多岐川 かほる
→ ミステリー界の女王であり、『蠟人形城殺人事件』における『Mr.レッドラム』。だが、この名は偽名であり、かつての名は不明のままである。原作では最後のシーンで城に火をかけ、手にしていた銃で自殺。二十数年前に亡くなった恋人が眠る場所の上で死体が発見されることとなる。

当麻 恵 リチャード・アンダーソン 坂東 九三郎
→ 順に当麻探偵社の社長、犯罪心理学者、推理小説評論家。そして、今回の事件の被害者であり、二十数年前の三億円事件の実行犯の一人であり、狭山恭次とかつての多岐川かほるを殺した面々。
 弁解と救いの余地がない。

狭山 恭次
→ 上記四名が所属していた犯罪研究会のリーダーであった男であり、多岐川かほるの恋人。完全犯罪を芸術と称し、いくつものトリックを考える点は高遠に通ずるところがあるが、彼と比べると熱や狂気の足りなさを感じる。そしておそらく、この熱や狂気こそが犯罪者と一般人をわけるものだろうだが、三億円事件を実行した彼がもし生きていたら他の事件を行っていた可能性は高いと思われる。

真木目 仁
→ 犯罪ルポライターであり、年齢的にいつきの知り合いである可能性は非常に高い。だが、小城への嫉妬心や劣等感が強くあり、彼を犯人と疑って暴行を行う。が、それすらも小城には何事もなかったかのようにされてしまい、さらに小城嫌いが強まっている模様。

エドワード・コロンボ
→ コロンボの甥だが、話題にあげるのは叔母のことばかりの男。様々な推理を行ったがそのどれもが的外れとなってしまっており、頭はいいのだが明智と金田一は相手が悪かったようだ。

マリア・フリードリヒ
→ 『十九歳でドイツ警察の監察医となった才女』ということになっていたが、原作では血を見ると舌なめずりをしたり、金田一のうなじをキスをするなどの吸血鬼を疑われるような行動が多く、最後の最後で城が燃えた時に忽然と姿を消してしまったことで謎だらけの存在となった。
 今作では城の亡霊のような、家妖精のような存在であり、その姿はかつてこの城に住んでいた一族の姿を借りている。小城に恩と、一族に向けていた愛を抱いたようである。

こんな所ですかね。
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