九話目ー。
今回の後書きは私の考察っぽいものを書くので、この場にて注意喚起。
あの事件から数日が経過し、金田一は明智に呼ばれる形で警視庁の近くにあるファミレスに来ていた。
明智を待っている間にドリンクバーだけ頼んで、チマチマ飲んでいるとふと思い出すのはあのバルト城でらしくもなく怒りを露にして叫ぶ小城の姿だった。
『三億円なんて大金に目が眩んで、犯罪計画に乗っかったあの三人も!
完全犯罪だとか、芸術だとかくだらないことを言って、その結果三人に殺されることになったその男も!
今なお犯罪を芸術だと口走り、これだけの人間を巻き込んで殺人起こしたあんたも! どいつもこいつもくだらない!!』
『あなたが憎んで殺した連中のように金を求めた人間が、仲のいい兄妹を誘拐した。
片親だった父親は金を用意し、なんとか二人とも助けようとしたが・・・ 生き残ったのは少年一人』
『父と妹を失った少年の人生は、そこで一度崩壊した。
金なんかを欲し、完全犯罪だとばかりに年端のいかない子どもを狙った犯罪者のせいで!』
彼と話していく中で、金田一も彼の家庭になんらかの事情があることは知っていた。
「でも、あんな感情むき出しにするあの人は初めて見たなぁ・・・」
「それはそうですよ、彼は常に冷静であることと理性的であることを心掛けているようですから」
金田一の独り言を拾って、そんなことを言う明智に溜息をつく。
「あのさぁ、遅れたことに謝罪の一つもねーの?」
「私は時間通りですよ、君が早すぎて勝手にドリンクバーを楽しんでいただけでしょう」
「これ以上遅かったら、料理も頼んじゃおうかと思ってましたー」
「構いませんよ、高校生一人を奢る程度で困ってしまうような財布事情ではないので」
明智が大人気ないのか、金田一がつっかかりすぎなのかは非常に迷うところだが、これはもはや彼らなりの挨拶なのかもしれない。
「小城くんの怪我の容体はどうですか?」
「マリアさんの言う通り、あばらにひびが入ってたみたいで今はコルセットで固定して安静にしながら仕事してますよ。顔の傷はちょっと派手ですけど、他は問題なかったって言ってました。今回は所長本人も、ちょっと無茶した自覚があったみたいだよ」
小城の怪我の容体を聞いて明智はどこか安心したように息を突けば、ちょうど彼が頼んだコーヒーが届く。一口飲みながら、彼からも情報を提供する。
「マリアさんからも詳しく聞きましたが、おそらくは彼女に危険が及ばないようにわざと挑発したんでしょう。
しかし、正規の手順を踏めば彼を罪に問えるというのに・・・」
「あー、それに関しては・・・ うん、わざわざ罪に問わなくても真木目さんはもうライター仕事出来そうにないっていうか・・・」
小城の怪我を聞いてすっ飛んできた人物の一人であるいつきのことを思い浮かべながら、金田一はいつもは陽気な彼が黙ってどこかに連絡を始めたことを思い出して冷や汗が噴き出る。
(いつきさんってばどこに連絡取って、なーにする気なんだろ・・・ いや、おっかないから聞かねーけどさー)
「そうですか、それならば私が動くことはありませんね」
「いや、警視が直々に動くとか怖すぎるやつじゃん。やめてあげて?
てかさ、明智さんは所長の過去のこと、知ってたのかよ?」
冗談みたいに笑っていた次の瞬間、金田一は真面目な表情になって聞けば明智は静かに頷いた。
「えぇ。彼から直接聞いたわけではありませんが、彼の名前をどこかで聞いた覚えがあると思って調べたら、ある誘拐事件に辿り着いたんです」
「それが・・・ 妹さんと父親を亡くすような事件だった?」
必死に言葉を選ぼうとする金田一に対し、明智は遠くを見つめる。
「言い方は悪いですが、彼を襲ったのはありきたりな誘拐事件でした。
八歳の兄と二歳の妹を誘拐した犯人が身代金を請求し、父親は子どものために求められた現金を集めて取引に応じる。けれど、彼の父親はけして愚かではありませんでした」
「それってどういう意味?」
「彼の父親は警察と連絡を取り、助けを求めたんです。
が、警察の存在に気づいた誘拐犯は父親に脅して車を運転させて逃走。しかし、運がよかったのか悪かったのか、車は近くで交通事故を起こし、事故によって生じた隙を使って父親は当時少年だった小城くんを逃がしたんです」
『ですからこれは、我々警察の失態であり、一因がある』と言いながら、その場で失態を犯した警察官に対して溜息を零す。
「ですが、その際に父親は首を絞められ死亡し、車に乗っていたとされる二歳の妹さんは犯人と共に行方知れずとなってしまった。
もし妹さんが生きていたら、君や七瀬くんと同じくらいの年齢の筈ですよ」
「っ!」
その事実に小城が自分達を子ども扱いして守ろうとする理由の一つがわかった気がして、おもわず目頭が熱くなった。
「なんだよ、それ・・・ どうして言ってくれねぇんだよ」
「彼は伝えるべきことかどうかをしっかり見極めて言葉を選んでいるんですよ、そしておそらくこの事実を彼は自分から口にすることはほぼないでしょうね。
試しに他の所員にも聞いてみるといいんじゃないですか?」
「誰も知らない可能性があるってことかよ」
金田一が俯いた顔を引っ張り上げて、明智を睨む。
「彼からは伝えない以上、個人で調べる以外で知る方法はありません。
ですが、調査のノウハウを彼から教わっている身ですから、全員が調べないとは限りません」
「もっとわかりやすい言葉を選んでくんない?」
「知ろうと思った者は既に知っていて、彼が話すのを待つ者もいる。
もっと言うと、知らないでいいと判断した者もいるということですよ」
まるで事務所の人間の行動すら見透かすような明智の物言いに、金田一が苦々しげな顔をしても、彼は涼しい顔でコーヒーを飲む。
「蝋人形城での彼は、終始彼らしくありませんでした」
「あっ、それは俺も思ってた。
なんかいつもより攻撃的っつうか、興味なさそうでしたよね。三億円事件以外に何か知ってたりしたんすかね?」
学生である自分達に向けている物とは違って言葉が総じて刺々しく、常に警戒している姿はまるで野生動物のように感じられたのだが、本人に言ったら叱られそうなので絶対言わないと心に誓う。
「それはわかりませんが、推理が得意ではないとはいえ無関心であることを装い、それでいて自分に疑いを向けられるように仕向けているような・・・
もっとも彼のことです、自分に注意が向くことで君達に危険が及ばないようにしていたかもしれません」
「だとしても、あばらにヒビは笑えねーんだよなぁ。
でも、マリアさんを人質にとられたとか言ってから、しゃーないのかなぁ」
金髪碧眼の美女のことを思い出していると、一部破壊して出ることになったバルト城のことも思い出す。
信州の山奥という立地には難があり、このままではまた放置されてしまうのかと思うと少し惜しい気がする。
「あの城、今後どーなるんすかね?」
「おや、知らないんですか? あの城なら、小城くんが土地も建物も丸ごと全部買い取りましたよ」
「はっ!? 俺、そんなことぜんっぜん聞いてねーんすけど!?」
驚愕の事実に席から立ち上がると他の客から注目を集めてしまい、金田一はバツが悪そうに座り直す。
「それ、どーいうことっすか」
「言葉通りですよ。
彼はあの後すぐに城を買い取って、狭山恭次の遺体をダウジングなどを使って探し当て、掘削工事を最小限に抑えて遺体と計画書を回収。狭山の遺体は荼毘にふされ、計画書についても同様です。
その事実を知った
「・・・所長って、結局優しいですよね。
あんだけ怒ってた相手にだって、そんなこと出来ちゃうんすから」
本人に言ったらまた否定されそうなことを言えば、明智は肯定も否定もせずに肩を竦めてしまう。
「優しいかどうかはわかりませんが、彼は彼なりの明確な考えを持って行動していることに間違いない。そして私は、彼の行動を好ましく思ってるんですよ」
そう言って明智はもう話は済んだとばかりに席から立ち上がり、金田一へと視線を向ける。
「今回は引き分けのようになってしまいましたが、君とはいずれ雌雄を決する時が来るでしょうね。金田一くん」
「はぁ~? どう考えても推理勝負なら俺の勝ちだったじゃん、今回。
蜘蛛の糸やら、所長に助けてもらいまくった癖に図々しくね?」
「度重なる偶然と運、そして七瀬くんに助けられた君が言いますか」
「運も実力の内って言葉、知ってる?」
「いつまでその運が持つのか、見物ですね?
それでは失礼」
来た時と同じようにじゃれ合いながら別れていくこの二人は、案外似た者同士なのかもしれない。
明智と別れてまっすぐ事務所に行くと下のカフェはほどほどに人が入り、いつも通りに階段を上って扉をノック。
「こんちゃーっす! 金田一、今日も元気に出勤しました!!」
「あ、金田一くん。お久し振りデス」
扉を開けてすぐそこに居たのは、昨日までは用意されてなかった『受付』と書かれたプレートが置かれた机と椅子。そして、そこに座っていたのはバルト城で共に四日間を過ごしたマリア・フリードリヒ、その人だった。
「なんでマリアさんいるの!? え、ドイツ警察の監察医じゃなかったっけ!?」
「フフッ・・・ 少し事情がありまして、その内お話しシマスネ」
秘密だとばかりに口元に人差し指をあててウィンクをする彼女はバルト城にいた時よりも年相応に映り、神秘的な彼女も間違いなく美しかったが、今の彼女もとても魅力的に見える。
その肩には慣れた様子でマガドリ様が乗り、|ω・`)ノ ヤァとばかり金田一に挨拶する。
「ミコトちゃん!? 新人さんに馴れ馴れしく乗っちゃ駄目じゃないの!?」
「金田一くん、入り口で騒いでないの。
話聞きたいなら、ちゃんと中に入ってから話しなさいよ」
「すんません! でも、これでパニックにならないって無理っすよ! 舘羽さん!」
ギャンギャン騒ぐ金田一に、来客用の椅子に座っていた小城が溜息をついてから彼女を指し示して告げる。
「というわけで、今日からウチの受付嬢として勤めることになったマリアさんだよ。
仲良くするんだよ、金田一くん」
「だから、いつもいつも突然すぎなんですって!? ちゃんと全部説明してくださいよ!
ミコトちゃんのこともなぁなぁで説明してくれてないし、一体誰がちゃんとミコトちゃんのこと見えてるんすか!」
金田一が小城に近づいてマシンガンのように質問をしまくっても、小城は肩を竦めて苦笑する。
「また今度ね」
「今度っていつ!?」
大人のまた今度はあてにならないと知っているまだ子どもな金田一の叫びが、元気に事務所に響き渡るのだった。
救えない、それが多岐川さんとこの事件の答え。
でも、恋人の遺体ぐらいは彼女の元に届くといい。それが精一杯。
↓ 《注意》 ここから作者の考察っぽいもの 《注意》 ↓
この事件は、救いたい人がいませんでした。
確かに多岐川さんにとって狭山の死は辛いことだったし、二十数年を捧げるほどのものだった。でも、それも犯罪者たちの仲間割れで、彼らの考えを計算に入れることの出来なかった狭山の落ち度だった。
被害者達もそう。時効になってしまった事件なんだから開き直ることも出来たし、単なる妄想だと笑い飛ばしてしまえばよかった筈。だって、それが真実だと語ることが出来る狭山は死んでいるし、土岐川はかつての自分を捨てているのだから。
それでももし多岐川さんに救いの道を探すとしたら、彼女は三億円事件について罰せられることを承知で、記憶を思い出して直ぐに全てを警察に打ち明け、真実を白日の下に晒すべきだった。そうすれば三人は殺人や殺人未遂の罪に問われ、それを証明するために狭山の遺体もすぐに葬ることが出来たことでしょう。
なんというか『初めから全てが間違っていた』印象。
それでももしこの事件で誰を救いたかったかと聞かれたら、マリアさんかもしれない。
正直に言ってしまえば、彼女の目的や意図はわかりませんでした。城に害なす者は~というには彼女は何もしておらず、吸血鬼とするには舌なめずりとか、死体に恐れなく近づくだけじゃ弱い。そう考えると『フリードリヒ一族の亡霊』が一番しっくりくるんですよね。そうだと仮定したら、媒介であった絵画や城が燃えたことによって消えたことに説明がつきますし。
でも、人に害をなさない・最後は守ろうとすらした彼女の全てが消えてなくなったことを、私は金田一が感じたような薄気味悪さより寂しさを感じました。
これまでの事件のような『救いたい』ではなく、『消えることないじゃん』ぐらいな気持ちでしたが。
長い考察のような、私自身の考えを書いてしまいました。
ですが、重ね重ね注意喚起しているのでお許しを。