少し迷いましたが、蝋人形城での事務所居残り組視点ー!
今回は前編後編なので、明日の朝六時に後編は予約投稿します。
小城が金田一らを連れて、明智と共にミステリーナイトに参加して早三日。
所長である小城が不在であってもカフェの営業は変わらず、大した仕事がないというのもあるが事務所は副所長である徹を始めとした男性所員は程よく仕事をこなし、事務仕事は当然完璧。
(欲を言うなら、もう一人ぐらい事務方が欲しいわよねぇ?)
男性所員は足りているし、現状舘羽と揚羽が二人とも常に事務所にいなければならないようなことはないが、どちらかが休んだ時のことを考えるともう一人ぐらい余裕が欲しいのは事実である。
そんなことを考えていると事務所の神棚の掃除と日に三度しっかり用意されてるお供えの朝の分を置いたのを見て、姉妹で神棚に手を合わせる。これは事務所に常にいる小城を含めた三人の業務開始前に行うことであり、遅れてやってくる他の所員にはあまり知られていない習慣である。
妹である揚羽とるりは磨陣村から戻ってきてから何やら神様が増えたとか、『ミコトちゃん』と何かを感じる方向に向かって話しかけているので、この事務所にはあの日から何かが増えたというのはよくわかった。
(所長とか金田一くんとか、あと狩谷と檜山辺りも何かをじっと見たりしてるし、見えてるんでしょうね)
神棚のお供えを替える頻度が増えたのも、普段食べる物と変わらない物が供えられるようになったのもその日以降なので、どうやら食生活や好みも人間とさほど変わらないらしい。
磨陣村以後、いくつかの不思議なことが起こり、所長や金田一が助けられたこともあって、見えている様子のない
「揚羽、そろそろ窓閉めましょうか」
「そうですね・・・ あれ? ミコトちゃん?」
お供え前に終えていた朝の清掃のために開けていた窓を閉めようとすると、窓に真ん中を開けるようにして並ぶ二羽の烏が留まっていた。舘羽には何も見えないが気配があることと揚羽が名を呼んだを考えると、真ん中に例のミコトちゃんがいるようだ。
そこで揚羽が何かを受け取るような仕草をし、少しの間じっとしているので舘羽は心配になって彼女へと近づいた。
「揚羽、どうかしたの?」
「ね、姉様・・・」
顔を青くし、声が震えている妹が震える手で持っている紙に書かれているのは見慣れた字。
『事件発生 閉じ込められた 警察等に連絡願う』
文字の意味を理解してすぐに自身の顔からも血の気が下がるのを感じたが、既にパニックになっている妹の前で自分がパニックになるわけにはいかないと舘羽は体に力を入れる。
「なるほどね、だからこの三日間連絡が一切なかったってわけ」
「姉様、どうしましょう・・・」
「大丈夫、大丈夫よ」
顔を青くする妹を抱きしめ、自分自身も冷静になるように心がけて次の行動を考えていく。
場所は事前に伝えられていたのでわかる。城だということもわかる。
連絡が取れないのはなんらかの妨害を受けたか、地理的なことがあって圏外になってる可能性が高い。
警察等への連絡も剣持警部や茅警部、他にも小城の伝手を使えばいくらでも取りようがあるから問題はない。
(でも、これじゃどんな事件かもわからないわね・・・ 兄さんに伝えたらすぐに突撃しかねない。それなら私達である程度の準備をしてから動くのが妥当ね)
問題は忠犬を通り越して狂犬になりかねない
「揚羽。今からやることを整理するけど、いい?」
「はい・・・ 大丈夫です」
これまでの何度かの経験もあってか、青い顔をしながらも気丈に振る舞おうとする妹が少しでも安心するように手を握りつつ、努めていつもの声で告げる。
「出勤してくるのは?」
「不在の所長と金田一くんを除いた全員です。
九時までには兄様と狩谷さんが、十五時には檜山さんと千家くんが出勤する予定となっています」
「今日の業務は?」
「所員の皆さんに外に向かっていただくようなことはありません。なので、各々トレーニングや事務仕事をこなす予定でした」
「なるほどね・・・」
改めて状況確認を終えたところで全員揃うなら都合が良くもあり、悪くもある。
(男どもをどう使うかが私の腕の見せ所、ね)
「揚羽はとりあえず、兄さんが来るまでにミコトちゃんにわかるだけの状況を聞いてまとめて頂戴。私はそれまで軽くバルト城を調べて、必要になりそうな道具を考えてまとめておくわ」
「わかりました」
役割分担をしたところで二人はそれぞれマガドリ様とパソコンと向き合うべきものに向き合い、経路やわかる範囲での城の間取りなどの情報収集。
徹が事務所に入ったあたりで揚羽が静かに書類の一つとして情報を貰い、舘羽もまた密室を作り上げているのは跳ね橋であることを理解して必要な物をリストアップを終えたので事務所を揚羽に任せて、資料を取りに行く建前で資料室へ向かう。
資料室の片隅に置かれている大きめの工具箱を見つけてから、念のため部屋を施錠。揚羽がミコトちゃんから聞き出した情報に改めて目を通すと、舘羽は頭を抱えた。
『既に人は死んでいるか? → 〇
死者の数は? → 2
(参加人数は11と12で迷っているため、正確な人数は不明)
所長達は怪我はしているか? → ×
食事等に支障はあるか? → ×
車は壊れている? → ×
(質問の際、ミコトちゃんが扉に視線を向けたため、出入り口を壊された可能性あり)
連絡手段は? → ×
(直後、所長の携帯に連絡。圏外となっていることが判明)』
「これ、ほぼ対応Kになってるんだけど・・・」
殺人が起こったことは確定し、食事等に問題ないことと車が壊れてないことは幸いだが、それは密室空間で今も犯人が隣にいるかもしれないということ。そして、どういった基準で誰が襲われているかわからない以上は小城達が危険な状況にあるのは変わらない。
(明智さんと金田一くんと一緒に行動してる時点でもっと危機感を覚えるべきだったわ・・・ 北海道の時もあの二人って一緒に行動してたのよね)
金田一が剣持警部と行動していないことで油断していたことに加え、明智から小城に来た誘いでまさか事件が起こるとは思っていなかった。
というか、知り合いが少し遠出しただけで事件に巻き込まれるなんて、誰が想定できるだろうか。いや、出来ない。
道具の確認が終わり、いくつかを持ち出し用の箱に納めて出入り口の近くに移動させ、すぐに持っていけるように準備を終える。念のためリストアップした道具が入ってることを確認してから、明日明後日の予定が全くないことが確認済みなため臨時休業の掛札もついでに準備完了。
そこで一度、ダミーの資料を手にして事務所に戻り、揚羽にいくつかの資料を渡しつつ別の資料を受け取れば、そこには剣持警部との電話内容が記載されていた。明智警視が事前に四日間音信不通だった場合の対応が伝えられているとのことで、警察はそれを待って行動するとのことだった。
(いや、わかってたわよ・・・ こんな本当か嘘かどうかもわからない紙切れ一枚じゃ警察が動けないなんてことは。でも、それで手遅れになったら元も子もないじゃない)
こうしてメモを受け取った舘羽だって、他の人間が『カラスだか、よくわからない存在からもらった手紙に知り合いの筆跡で、事件が起こったと書いてあった』などと話していたら、ホラー小説の出だしか何かだと思うだろう。
(でも、金田一くんと明智さんがいる上に、所長も仕事とか私用でいろんなことに首突っ込んでるんだもの・・・ これはもう質の悪いジョークでもなければ空想でもない、現実なのよ)
メモが真実だとするなら既に殺人という最大の
金田一の不用意な発言も、美雪の変に勘が鋭いところも、明智の頭脳明晰さも、小城の全てを理解しているような視線と言動も犯人の危機感を煽り、怒りなどを刺激する可能性は非常に高く、殺されることがなくとも脅迫や人質、拷問などがある可能性は十分あるのだ。
(金田一くんも明智さんもだけど、所長って気がついたら敵を作ってそうなのよねぇ・・・)
本人も自覚はしているようなのだがその敵意が自分の周りにさえ向かなければ良しとしているようで、より強く自分にだけ敵意が向くように仕向けている節すらある。
(長野の一件もあったし、どんなに能力があっても危ないんだってわかってほしいんだけど・・・)
食生活や事務などはいくらでも助けられるし、自分達の人生を大きく
(義父母については薄々わかってたけど、所長も何かがあるんでしょうね・・・)
小城は自分のことを、何も語ろうとはしない。
首に何かを巻けないことだけは必要だからと説明されたが、それ以外は彼が何気なく語る言葉の端々を拾って繋げていくしか情報がないのが実情だった。
(って! 今はそんなことを考えてる場合じゃないわ!)
頭を振って我に帰れば、時間はもう昼に近づいており、午後には檜山と千家も来てしまう。これ以上は他の面々に黙って行動するのは難しくなってくる以上、それならばもう兄である徹に指示を仰ぐしかない。
「兄さん」
「どうかしたのかい? 舘羽」
「午後、檜山と千家くんが来てから話すことがあるわ。
お昼の時に話すけど、狩谷にも一度事務所に集まるように声をかけておいてくれない?」
「わかった。
何かあったのかい? 舘羽が困ってるなら兄さんはすぐに力になるから、何でも言うんだよ」
ニコニコしながら語る兄は非常に心強いのだが、家族と所長限定の笑顔はすぐさま切り替わるのだということを舘羽はよく知っている。
(兄さんも母さんも怒りを隠すタイプなのがまた不安なのよね・・・ 揚羽も我慢するし、るりも嫌なことがあっても隠したりするところがあるから私がなんとかしないと)
いろいろあった家族だ。姉妹三人の生まれは真っ当とは言えず、母の復讐の道具として生まれたという事実に思うところがないと言えばそれは嘘。
だが、母が与えてくれた愛情が偽りだったとは思わないし、父の無念と祖母の怒りを果たそうとした兄の気持ちもまたまごうことなく家族への愛だった。
(まぁ一歩間違えば家族同士で殺し合いになるところだったを止めてくれた所長に恩を感じるのはわかるし、私も感謝はしてるけど・・・ 兄さんが所長に向ける感情は重すぎるのよ)
元婚約者が兄だったという事実も彼女にはかなりの精神的なダメージを与えたのだが、それ以外の事実がそんなものを吹っ飛ばすようなことばかりだったので受け入れるしかなかったのも哀れである。
「はぁ・・・」
「本当にどうしたんだい? 舘羽」
「後で言うから気にしないで。
・・・話は変わるけど、父さんの方のお墓参りは今度いつ行く?」
「そうだなぁ、母さんとるりにも相談しないといけないから・・・」
話題を変えるために兄が管理している父方の墓の話をすれば、カレンダーを見ながらカフェの定休日を考えて揚羽も参加する形で予定を立てていくこととなった。
そして十五時。事務所に現在集まることが出来る全員が揃ったところで、舘羽は重い口を開いた。
「単刀直入に言うわ、三日前から明智さんに誘われて企画に参加している所長と金田一くんが事件に巻き込まれてる」
「なんだって!?」 「どういうことかな?」
「は?」 「舘羽さん、それって本当ですか!?」
四人がそれぞれの反応を示す中、揚羽が静かに頷いて神様が持ってきたメモを四人に見える位置に置く。そのメモに書かれた文字に所長狂いに等しい徹の目が見開かれ、狩谷と檜山の視線は何故かメモではなく揚羽の肩付近を凝視し、千家も顔を青ざめる。
「今朝、これがカラス・・・ いいえ、マガドリ様が届けてくれたのよ」
「どうして、すぐに報告してくれなかったんだ!」
「兄さんがそうやって感情的になって行動を起こすことが目に見えてたからに決まってるでしょ!」
「兄様! 姉様! 今はお二人が争っている場合ではありません!!」
努めて冷静に告げた舘羽にすぐさま徹が怒鳴り、そんな兄と姉を揚羽が珍しく声を大きくして止める。
「まぁまぁ副所長。とりあえず、僕らには説明しないで事務方二人で動いた内容を聞きましょうよ」
「そうですよ。まさか僕らが感情的になるから黙ってたわけじゃないでしょうし、お二人が何もしないで午前中を過ごすとか絶対ないんですから」
狩谷と千家の言葉に背を押されるように、揚羽は先程と変わらない様子で報告を始めた。
「私と姉様は午前中の内に警察に連絡と、所長達が向かったバルト城について調べました。
必要な道具も既に準備を終えていますし、明日・明後日の予定も依頼等がないことは確認済みです。
警察については剣持さんに連絡を取り、明智さんが事前に四日間連絡が取れなかった場合は現地に向かうように伝えていたようで今日連絡が来なかった場合は動くとのことです」
「それじゃ遅いだろ。
で、そんだけ準備してるってことは俺らはすぐにでも動き出すってことでいいのか?」
揚羽の報告に腕を組んで聞いていた檜山の問いに、揚羽は首を振る。
「公的な力が一切ない私達が犯人と接触しても危険なことを考えると、ミイラ取りがミイラになりかねません。
ですので、行方不明者届・・・ 捜索願を出すことで警察に動いてもらおうと思います」
「知り合いの警察関係者に直談判は心象が悪すぎるし、そういうことをして別の問題になったら厄介だもの。それなら一般市民として警察にお願いした方がいいでしょ?」
「なるほど・・・」
二人の言葉に徹が少し考えるように腕を組み、ややしかめ面で目を閉じる。
彼自身、自分が身内のこととなると直情的に動いてしまう自覚があるのだろう。そして、それは徹に限らず、狩谷と檜山もほとんど変わらない。それらを考えて状況を冷静に判断し、あちこちに連絡を取った上で可能な限り早く小城らの元に駆けつける方法を取った妹二人は実に聡明で、素晴らしいと称賛すれど叱るなどお門違いだ。
「わかった、舘羽と揚羽の指示通りに動こう。
ただ捜索願を出す前に剣持さんに話を通しておいた方がスムーズだし、警察の動きも変わってくるかもしれない。現地まで行くのは安全を考えて警察と共に行動しよう。
人員配置について、何か案は?」
感情的にならず、冷静に行動を始めた徹に二人も少し安心したらしく、舘羽は頷きながら告げる。
「学生である千家くん以外はこのまま行動してもいいように準備はしてあるわ。念のため、明日明後日は事務所を臨時休業にする準備もね。それ以上日数がかかるようなら、現場でチームを分けて交代で事務所待機に切り替えた方がいいと思う。
千家くんは・・・「お、俺も行きます! 所長もはじめも、七瀬も危ない目に遭ってるのかもしれないのに俺だけ何もしないで家にいるなんて出来ません!!」 そう言うと思った。でも、行くとしても親御さんにも説明して、許可を取ってからにしてほしいの」
「わかりました・・・」
本来ならばしっかり反対して、連れていくことを拒否した方がいいというのは彼女もわかっている。だが、恩人と友人の身に危機が迫っている状況で何もせずにはいられない気持ちもわかるのだ。
「もし許可が下りても、兄さん達と行動出来るとは思わないで。
基本、私と揚羽と一緒・・・ 前に出るようなことは許可できないし、安全が確認されるまで現場突入は絶対にさせない。これが約束できないなら連れていけないわ」
「はい、わかってます」
千家に言い含めていると、それを聞き終わった徹が舘羽に視線を向ける。
「状況確認と人員配置も確認できた。それじゃぁ行動に移ろう。
揚羽は剣持さんに連絡、狩谷と檜山は舘羽が準備した荷物を共有して車への積み込みを任せた。車は荷物のことも考えて二台で向かうから、リストアップされた荷物を詰め込んだ一台は僕が、二台目は舘羽が運転するからそのつもりで。
それらが終わったら事務所に集合。警察への連絡が終わり、おそらくは指揮を執ることになる剣持さんの連絡を待って僕らは現地に向かう」
「了解、二台目は応急処置とか連絡機器を詰め込めばいいってことだね。
車での配置は?」
「一台目は僕と狩谷、檜山の突入組が。二台目は後方支援として、舘羽と揚羽、千家で。
連絡はいつも通りトランシーバーを使うため、電池等の準備も怠らないように。
檜山、念のために正当防衛が出来るだけの準備もしておくように」
『
全員の返事を聞いて、小城探偵事務所は所長不在のまま動き出す。
所員が一丸となって動く中で確かな怒りを孕んだ烏の声が響き、空もまたかの神の怒りを示すように薄暗い嵐のままであった。
基本、所員は皆、愛が重い。
というか、金田一のキャラって愛情深い。
それが素敵なところなのに、その愛情深さで復讐に狂ってしまう事実が悲しい・・・