小城探偵事務所   作:無月

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独自解釈、原作改変、盛沢山。

今回は小城にとって、いろいろな意味で救いたいと思ってしまうこの事件。
さぁ、あの人の初登場だー!
誰かは読んだらすぐわかりますので、皆さんどうぞ楽しんでください。


錬金術殺人事件

 都心の雑踏から隠れるように立つ少し寂れた映画館、小城は迷うこともなくそこに入って行き、古めかしくもしっかりとした座り心地の良い座席へと腰かける。

 映画のタイトルは『ゴールドラッシュ』。

 主演は夕凪はるか、助演は速水怜香。

 今や共にトップアイドルとして君臨する二人を有名にしたこの作品は、二人が演じる少女を中心とした青春映画であり、多くの賞を総なめし、主演・助演の二人を名実ともにトップアイドルに押し上げた大ヒット作である。

(上映当時はバタついてて見損ねたんだよな・・・)

 芸能界の麻薬に関係した人物を一通り潰した昨年を遠い目をして思い出しながら、原作においてありもしない罪を着せられた少女は自分と同じ熱量を持って演じる親友と共にスクリーンの中で輝いていた。

 

「いい映画ね、小城さん」

 

「・・・失礼ですが、どちら様でしょう?」

 

 髪型は黒髪のショートカット、小さな顔と猫のような瞳と細身の体。そして、古い映画館に合わせたような大きめなコートを着た女性は楽しそうに小城へと声をかけてくる。

 

「あら、あなたのために映画まで選んであげたのに酷いじゃない。

 私は紳士、『怪盗紳士』よ」

 

(うわ、高遠さんとは別の意味で絶対に関わりたくなかった奴が来たよ・・・)

 

「紳士と名乗っているのに女性なんですね?」

 

 わざとズレたことを言えば彼女も気を悪くする様子もなく、肩を竦めた。

 

「残念、淑女とは言ってくれないのね」

 

「一度、『淑女』の意味を調べてみた方がいい。少なくとも僕にはあなたが、気品やら淑やかという言葉に沿っているとは思えませんよ。

 ましてやあなたが巷を賑わす怪盗紳士なら尚のことね」

 

 話しているにも関わらず小城は一切映画から目を逸らすことはなく、二人の少女の物語は続いていく。

 

「ねぇ、あなたが私達の界隈でも有名なことは知ってる?」

 

「いいえ。

 いろいろと情報網は持っていますが、流石に犯罪者の界隈に友人はいないので知りません」

 

「それもそうよね。

 だってあなた、私みたいな犯罪者は好きじゃないものね」

 

(犯罪者を好きになる奴がいるか!

 つーか、あんたはマジで金とか美術品が欲しいだけの泥棒だから純粋に嫌いなんだよ!!)

 内心の叫びは誰にも聞こえることもなくどこかに吸い込まれ、人を見透かすような物言いをする彼女を気にしていないかのように、『好きに続けてみたらいい』とばかりに沈黙を保った。

 

「あなたのこと、いろいろ調べたのよ。

 探偵事務所の中ではまだまだ駆け出しに等しいのに、あなたの人脈はそこらのベテランの事務所よりもはるかに広い」

 

 そう言って彼女はわざとらしく指を立てたり、曲げたりしながら数を数えていく。

 

「雑誌の編集者に記者、ノンフィクション界の大御所に警察関係、解散したキミサワブランドから分かれた今後を期待されているロワゾとクレ、それに敏腕弁護士とまだまだこれから楽しみな女優である北見花蓮。探偵関係ならこんなもの?」

 

 彼女の口から楽しそうに語られる内容に、小城は思わず目を細めて警戒を露にする。

 

「トレジャーハンター業なら同業の人とは手広く、大学教授や古美術商、カメラマン。あとは何かしら?」

 

「もうその辺りで結構です。

 まったくあなた方犯罪者は、その情報収集能力を何故犯罪に使うのか理解しがたいですよ」

 

(だからなんでこいつら犯罪者の情報収集能力ってこんなに高いんだよ、そんなに優秀なら犯罪せずに稼いだ方が簡単だろ。本当マジで理解できない、なんなのこいつら)

 

「理解しがたい?

 それをそっくりそのまま、あなたにお返しするわ。小城拓也さん」

 

 ニコニコと笑いながら、彼女は小城のことを興味深そうに眺め続ける。

 彼女にとっては映画は今この場に流すためのBGⅯも過ぎず、彼をここに誘うための舞台装置に過ぎなかった。

 

「東大まで問題なく進学したエリートさんがある日突然探偵になって、その傍らでトレジャーハンターをしている上に、株や投資にまで手を出して成功している。さらに親を亡くした子どもや難病で苦しむ人々の支援を行うための慈善団体を設立して、その活動は設立者であるあなたに感銘を受けた資産家や他の仕事や事件を通して知り合った人達からの後押しを受け、広がる一方だわ。

 この時点で世間から見たあなたは突然一念発起して起業した優秀な人材で、どんな仕事でもそつなくこなした上に稼いだお金で私腹を肥やすこともせずに慈善を行う素晴らしい人物 ―――― でも、だからこそ私にはあなたが凄くおかしな人間に見える」

 

 そこで彼女は微笑むのをやめて、今なお映画に視線を向けていた小城の顎にそっと指を添えて、自分の方へと向けさせる。

 

「ねぇ小城さん、あなたの行動からは人間らしい欲望が見えてこないのよ」

 

 お金や美術品を好み、警察や探偵を振り回しながら盗む行為自体を楽しんでいる怪盗紳士。そんな彼女からしてみれば小城の行動は正しすぎて、綺麗すぎる。そこに酷く違和感があるのだ。

 探偵ならばあらゆることを解明するという好奇心や知識欲、もしかしたら人の裏を知るという背徳感や支配欲もあるかもしれない。

 トレジャーハンターならば探偵同様に好奇心と知識欲。そして、金を欲し、世間に自分を認めさせたいという自己実現や承認欲求。

 だというのに、彼はそんなものは興味ないとばかりに得た金銭の多くを慈善活動や関わった人間に還元していた。

 自身の住まいは狭いワンルーム。派手な暮らしもしなければ女性関係などもなく、後ろ暗いところがあるどころか、むしろ芸能界の麻薬騒動や医学界の闇が暴かれる時は必ず彼が関わっていた。身に纏っている服こそ公の場では知り合いのブランドの物を纏うが、普段の服はどこにでも売ってるようなもので、都内ということもあって彼の移動は基本電車か徒歩。車は仕事用のものしかなく、何かを好んで集めたり、個人的な休みなどで趣味をこなしている様子もない。

 

「はっきり言って私から見ると気味が悪いのよ、あなたって。

 何を楽しいと思って生きてるの? それとも清く正しく生きている自分に酔ってたりする?」

 

(俺からしたら、他の誰に迷惑かけても好きなものを手に入れようとする泥棒の方が理解できないわ。なんで自分が楽しいことだけ優先して生きれんの? こわっ)

 不躾に、図々しくも問いかけてくる彼女に小城の表情はとても冷たかった。

 

「僕は自分の行動を善行だとも思っていませんし、清く正しい人生を送っているつもりもありませんよ」

 

 自分の行動も、これまでの人生も、正しいと思えたことはない。

 誰かに『全てが間違っている』と指摘されれば、『その通り』と言って頷きすらするだろう。

 

「僕はあなた達『怪盗紳士』と違って、芸術品に興味もなければ、お金に興味もない。この仕事を始めたきっかけもあなたが言ったような一念発起なんてものとは程遠いし、優秀なんて言ってても東大に入れる頭があるならこの程度は出来て当然。

 人物評に関しては、あんなものはあてにならないものの代表格だ。人は人を知らなくても悪く言うことは出来るし、時として自分が聞いた情報が本当かどうかすらもどうだっていい。話題の中心にいる人物が腹の底で何を考えてるかなんて、人物評で言い当てられる人間なんてまずいない」

 

 淡々と彼女の言葉に返していると、彼女は少々驚いたように笑う。

 

「それも含めて優等生の模範解答である自覚ある?」

 

「僕の返答が優等生の模範解答なら、あなたの言葉は斜に構えた問題児のしてやったりな質問ですか?」

 

(クソガキのまんま大きくなったら、こうなるのかと思うと恐ろしいわ)

 

「そうかもしれないわね。

 だって、私は欲しい物は欲しいし、どうせやるなら楽しく盗みたい」

 

 人によっては気を悪くするような返答にも彼女は否定することはなく、とても楽しそうに笑う。

 

「好きなものを欲しくて、手に入れるにはルールを破らなくちゃいけなくて、本来なら難題のようないろいろなことを解決して手に入れる。そうして欲しい物を見事に手に入れた私を、どうやって掻い潜ったかもわからずに頭を抱えながらも必死に追いかけてる人がいる。

 そんな人達をあと少しで指先が届くようなところでからかっても楽しいけど、私がどうやって手に入れたかを理解して、同じ目線でちゃんと向き合ってくれる人がいても私はとても楽しいわ」

 

「迷惑極まりない生き方、僕にはとても理解できない。

 それであなたは僕に何の御用ですか? まさか僕を『どうやって手に入れたかを理解して、同じ目線で向き合ってくれる人』に据えようとでも?」

 

「まさかっ。

 だってあなた、私が勝負を吹っ掛けても(遊びに誘っても)付き合ってくれないでしょう?」

 

「えぇ。僕は探偵ですが、推理なんて言うひらめきが必要な物は苦手なので」

 

 小城は既に映画に視線を戻し、淡々と返答すれば彼女はつまらないとばかりに肩を竦めて溜息まで零した。

 

「そこも変わってるわよね~。

 でも、アルバイトにいる金田一くんは推理してるじゃない? あれってあなたが教えたんじゃないのね?」

 

「あれは彼の天性のものですよ、僕は一切関与していません。

 それに事務所を経営している探偵の皆さんの仕事ぶりなんて僕とそう変わりませんよ。事件や推理をしたい探偵はそれこそ自分から危険な組織なんかと繋がりを持ったり、世界を一人で渡り歩くような方なんじゃないですか?」

 

 某名探偵では幼馴染の父親の怠惰さを悪く言われることもあったが、高校生探偵と持て囃された彼らのように関わっていないにもかかわらず自ら殺人事件に頭を突っ込んでいく人間の方がどうかしている。

 

「経営してるのに、あなたがお金に執着してないところが変なのだけどね」

 

「話が逸れていますが、結局用件はなんですか?」

 

 溜息交じりの彼女の言葉を聞こえないふりをし、用件を促せば彼女は溜息をつく。

 

「せっかちねぇ。こんな良い女とのおしゃべり出来ているんだから、もう少し楽しんだらどう?」

 

「楽しめるような会話なら、僕も言葉を選ぶんですがね・・・」

 

 小城からしたら映画を楽しんでいたら知らない女性に突然話しかけられ、これまでの行動から理解出来ないと言われる会話など楽しい筈もない。

 

「あなたにある島を買って欲しいのよ、絶海の孤島にある恋琴島って知ってる?」

 

「なんでですか、嫌ですよ」

 

「あ、即答なのね。

 まぁ流石に島は冗談だけど、その島にある邸宅を買って欲しいの」

 

「だから、なんでですか。というか、あなたが買えばいいじゃないですか」

 

(てか、こんだけ俺の行動の不自然さを指摘しながら、一切関係のない絶海の孤島やら島唯一の邸宅を買えって矛盾してんだよなー)

 断ってもほぼ変わらない内容を繰り返されて呆れていれば、彼女はまとめられた資料を手渡してくる。

 

「その邸宅の持ち主は絵崎蔵人。元々は天才物理学者だった彼はいつからか錬金術に固執し、錬金術師になろうと姿を消した・・・ ここは彼が錬金術の研究に没頭するための研究所であり、彼が物理学の研究で得た資産の多くをつぎ込んで創り上げた建物なのよ」

 

「それで?」

 

「はぁ・・・ ここまで話すと他のトレジャーハンターなら目の色を変えてくるんだけど、あなたは本当にロマンがわからなくて、欲もなくてつまらないわね」

 

「それなら他の方をあたってください。僕以外にもトレジャーハンターは山程いますし、副業をなさっている方なら家一軒ぐらいはポンッと買える方が大半ですよ」

 

 興味なさそうな小城にがっかりした様子に自然と他のトレジャーハンターに頼むように言いつつ、資料にも軽く目を通す。そこには恋琴島の場所と絵崎蔵人の生い立ちや功績、邸宅の間取りなど詳しく書かれており、彼女が目当てにしているのは三億円相当の金塊。

 

「それが出来たら、あなたのところになんて来ないわよ。

 個人所有ってだけでそもそも躊躇うことが多い人間が多いし、そこに本当に宝があるかもわからない。でも、島内を調べても金塊なんて見つからなくて、建物の中はこんな感じの意味わからない構造で入ってみても金塊らしいものはどこにもない。

 その上、家主が消息不明だから、普通の人間だと嫌がるのよねー」

 

「それならもういっそこの家を買い取って、全ての物を確認して回ればいいじゃないですか」

 

「そんなのつまらないじゃない」

 

(こ、こいつ・・・)

 即答する彼女に苛立ちを覚えて、そこで小城が貼り付けていた表情がほんのわずかに崩れ、その様子に彼女はニヤリと笑った。

 

「フフッ、ようやく私の前でも感情を見せてくれたわね。

 そうそう、あなたのそういう人間らしい表情が見てみたいのよ」

 

「はぁ~・・・

 で? 僕を困らせながら協力させたいと?」

 

「えぇ、あなたの頭脳を借りたいのよ。

 私と一緒に現地に行って、金塊を見つけてほしい」

 

「嫌ですが?」

 

「勿論、タダでとは言わないわ。

 報酬は支払うし、あなたの身の安全も保障する。それから、私が知ってる財宝の情報と引き換えはどう?」

 

 即お断りされても怯むことなく報酬を告げる彼女に、小城はあからさまに顔をしかめた。

 

「・・・少し考えさせてください」

 

「あら、考えてはくれるのね」

 

 わざとらしく驚く彼女に底知れなさとこれまで女性に感じたことのない少々の不快感を感じつつ、映画が終わったと同時に小城は立ち上がった。

 

「ここで粘られても面倒なだけなので、持ち帰るだけですよ。

 返事はどうすれば?」

 

「二週間後にまたこの場所でどう?」

 

「では、そういうことで」

 

 まだ座っている彼女にかまわず去ろうとすると、彼女は何かを思い出すように呟く。

 

「そういえばあなた、地獄の傀儡師さんにも気に入られてるようだけど何かしたの?」

 

「あなたと同じで、僕を一方的にご存知の犯罪者ですよ。

 揃いも揃って、僕のなにがそんなに興味深いのやら」

 

 立ち止まって深い溜息を零せば、彼女は笑う。

 

「私達に限らずあなたの経歴を見たら誰でも興味を惹かれると思うけど・・・ ねぇ、最後に一つ聞いてもいいかしら?」

 

「駄目ですって言っても聞くんでしょう? どうぞ」

 

 もはや一連のやり取りから彼女が他の意見を尋ねている割には聞いていないことがよく分かった小城は、諦めたように先を促す。

 

「あなたの行動って私から見ると支離滅裂の意味不明だけど、時々共通点が見え隠れするのよね。生まれが不幸だったり、家族がなくなってしまったり、何かしらの苦労をしていたりする人間に対してあなたは甘い。

 でも、それなら芸能関係にまであなたが首を突っ込んでる理由がよくわからない」

 

 彼女の言葉に小城は再び目を細め、不快感を露わにする。

 

「それもよくよく調べると、ある一人の女の子に辿り着く。

 ねぇ、あなたはどうしてあの子をそんなに守ろうとしているのかしら?」

 

 エンディングで二人の少女が映った瞬間を狙っていたように告げられた言葉に、小城はフッと笑った。

 

「馬鹿馬鹿しい。麻薬関係はたまたま出会った子を助けた結果、芋づる式で片付けたにすぎませんよ。

 他の仕事の時も同じです。知り合いのフリーライターの方にたまたま芸能関係の仕事を頼まれて、彼の広い人脈のおかげで他の仕事にも請け負っただけのことです」

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

 まるで『口に出していないだけで他の情報も知っている』とばかりの彼女の物言いにそれ以上やり取りする気はないと背を向けて、古びた映画館を出た。

 

 

 

 

 

 暗く閉塞感のある映画館から出れば空は異様に広く、太陽は酷く眩しく感じられた。

 彼女に突きつけられた言葉のいくつかは確かに胸に刺さりながらも、人によっては自分の行動がおかしく見え、嫌悪や忌避を抱かれることも理解している。

 正しい行動をしているとは思っていないのは本心で、速水怜香()を守るというにはあまりにも遠回しな行動ばかりをしていることもわかっている。目の前に起ころうとしている事件や悲劇を前にして必死に防ごうとするのも、かつての自分を重ねて親を亡くした子に援助しているのも、何かの代償行為といえばその通りだ。

 だが、小城は自分の行動に迷いはあっても、彼らを助けたことに後悔はしていない。

(それにこの事件だけは、どうしても止めたかった)

 

 

 速水怜香が関わってしまうことは勿論だが、この錬金術殺人事件は一切罪のなかった夕凪 はるかが周囲の人間にはめられ自殺に追いやられたことから始まった。はるかに替わって主演となった深森 蛍の後見人がヤクザの組長であったこと、そこから金と薬が与えられたディレクターとアシスタントがグルになり、彼女に罪をかぶせた。

 その事実を兄である神丘 風馬が知った時にはもう全てが手遅れで、亡き妹から届いた一通の手紙で真実を知った彼はこの恋琴島での復讐劇を決行するに至ったのだ。

 

 

(でも、そんなことさせたくなかった)

 妹を失う辛さ、唯一の家族を失う悲しみ、養い親から酷い扱いこそ受けなかったが実子が出来た結果居づらくなった事実。犯人である神丘には程度に差はあれど小城との共通点が多く、自分自身が重なって見えた。そして、スキャンダルで盛り上がった結果大ヒットした作品でトップアイドルとなった怜香すら恨み、彼女を犯人にしようとした気持ちもわかってしまうのだ。

 本来罪もない妹を殺され、妹が主演を務める筈だった映画はヒットし、主演ではなく助演を務めた彼女は今も輝く世界の中にいる ――――― そこに居たはずの妹を差し置いて。

 だが、その怒りを向けられた怜香が神丘に語ったのはスキャンダルの真相や、役を失いたくなかったなどという言葉ではない。夕凪はるかが映画に向けていた強い想いと演じたかった主役への気持ち、怜香と共に出演したかったという、芸能人として彼女が親友だった怜香に託した遺書だった。

 

 

『ずっと主役をはるかちゃんだと思いながら、あの子があの映画に込めていた熱い想いを感じながら演じたわ』

 

 怜香がそこに見えていたのは深森 蛍ではない。

 誰よりもそこに立ちたかった夕凪はるか(親友)の分まで ――― 否、彼女と共に演じていたのだ。

 

『あの映画はただの映画じゃないの。

 死んだはるかちゃんがあたしに託してくれた、最後の「情熱」だったのよ』

 

 

 二人分の想いを背負って演じた彼女が、金や策略で主演を奪った深森を押しのけてトップアイドルになったのは当然。金の亡者達が作り上げた偽物の金が、親友の想いを背負って立つ本物の黄金に勝てる筈がないのだ。

(夕凪はるかや花蓮ちゃんのおかげで、芸能界は原作よりもずっと華やかになってていいね。冬美ちゃんも入るかもしれないから、もしかしたら芸能界は戦国時代に突入かな)

 おもわず笑っていると、改めて怪盗紳士からの依頼を思い出して溜息が出る。

 

「はぁ~・・・」

 

(また変な人間に目をつけられちゃったなぁ・・・ 本当にどうしよう。

 でもなぁ、構造意味不明な死体付きの館はいらないんだよなー)

 深い溜息を零してから、煙草代わりにポケットに入ってる飴をくわえて帰ろうと歩き出せば、通りかかった二人の男女に目が行く。

 女性はつい先程スクリーンの中にいたアイドルの一人である夕凪はるか、男性は彼女とよく似た雰囲気を持つ眼鏡をかけた理知的な印象を持つ神丘風馬。

 兄妹仲睦まじく歩く二人が通り過ぎていくのをつい目で追ってしまい、小城はただ静かに呟いた。

 

「君はもう、その手を離すなよ」

 




金田一にしては珍しい、妹に対する感情が比較的マイルドなお兄ちゃん(でも、復讐はする)
他のお兄ちゃんたちが妹に対して激重で、なおかつこの犯人よりも話題にあがりすぎてるのはでかいけど。

では恒例のキャラ説明、行きます。

神丘 風馬
→ 『錬金術殺人事件』における『錬金術師』。幼い頃に両親を亡くし、別々の里親の元に行くことになった結果、生き別れとなった。里親の元に実子が出来、加えて里親が経営していた事業も傾き、自活せざる得なくなった頃に妹と再会を果たす。妹のことを考え直接会うのではなくファンレターを送ったりなど配慮が完璧で、マジで妹を大切にしている人。
 今作では小城の慈善事業のおかげで大学進学も問題なく、妹が嵌められることもなく、無事兄妹での幸せな再会を果たしている。


夕凪 はるか
→ 神丘風馬の実妹であり、速水怜香の親友。原作では後述の原作被害者達によって嵌められ、覚醒剤所持や使用の罪を着せられた末に自殺。兄には自分が罪を犯していないという真実を綴った手紙を、親友には芸能人として、一人の演者として映画に向けた熱い想いと叶わぬ夢を綴った手紙を残した。
 今作では小城が芸能界の麻薬関係者等を一掃したため、怜香ちゃん同様に綺麗な事務所配属となっており、二人でトップアイドルの道を駆け抜けている。


鬼沢 龍子  繭村 琢也  深森 蛍
→ 順にディレクター、アシスタントディレクター、タレント。金欲しさ、主演欲しさで夕凪はるかを嵌めたクズ。しかし彼女を嵌めて主演を掻っ攫ったにもかかわらず、助演の怜香に話題の全てを奪われるという時点で彼らの錬金術は失敗している。
 今作では死ぬことはなかったが、小城による麻薬関係者一掃の際に芸能界から消えている。


鬼沢に脅されて事実を語らなかったマネージャーと、トリックに気づきかけて殺されたカメラマンは省略。
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